俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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キャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。

また特にイベント【リペイント・ザ・メモリー】のネタバレ、登場人物のキャラ崩壊等があるため、ご注意ください。


Dreamers 夢見た者達、夢見る者達

 ■

 

 一 今、過去を超え

 

 ■

 

 ──ザンクティンゼルの森。そこに居たのは、地面に横たわり血を流す瀕死の重傷を負ったジータだった。

 彼女を抱きかかえ、声をかける。だがもう手遅れなのは明らかだった。世のどんな医者や回復魔法でも今の彼女を助ける事は出来ないだろう。

 ──奇跡が起きない限り。

 

「──なんで……もっと早くキテく、れ……なか……」

 

 かすれる様なジータの言葉。これを聞いて自分に沸き上がったものは、強い後悔の念だった。

 

「兄貴……どうして、ジータと……一緒にイテくれなかったンダ……」

 

 俺を咎め攻めるビィの言葉。これを聞いて感じたのは、自分自身の不甲斐無さと無力感。

 

「……どうシテ、ドウシテ一緒にイテくれなかったの……」

 

 ジータから目を離さなければ。彼女のそばに居てあげていれば。例えあの時俺が無力だろうと、彼女の盾になら成れたかもしれない。

 だがその盾にさえなれず、彼女を守れず、あの日俺は何も出来なかった。なにも知らなかった。

 

「おニィちゃン……の、せいで……」

「アニキが……ジータを見失わナキャ……」

「ヒトリは……いや」

 

 死の恐怖と痛みに震える彼女のそばに居てやれなかった。

 

「一緒……ずっと……イッショに」

 

 淀んだ瞳が俺を見つめる。冷たい彼女の手が俺に伸びる。その手を俺は──

 

「──その手を、とるわけにはいかないんだよ」

 

 俺はジータの手をとらず、そのまま抱きかかえてた彼女をそっと地面に下した。

 

「お、おニいちゃ……?」

「……あの日起きた出来事は、こんな感じだったんだろうな。……だけどきっと、どこか違う」

 

 ザンクティンゼルの森、帝国の戦艦、血まみれのジータ。あの日に起きた出来事そのまま──だが違う、正確には違うのだ。

 

「悪夢としては、十分だろうさ……最悪な記憶だよ。この悪夢は、俺の記憶がもとになってる。だが実際のとこ俺は、ここに来れなかった。ここで起きた出来事を俺は、“何一つ見ちゃいない”んだ」

 

 ここに居るべきカタリナさんがいない、ルリアちゃんがいない、帝国軍人共がいない、帝国のポンメルンが居ない、ジータの命を奪った魔物がいない。

 

「ルリアちゃん達がここに居たのは知ってる。けど話に聞いただけだからな……いまいちどんな風だったかわからない。その致命傷は、誰がやった? ポンメルンが呼び出した魔物らしいけど俺は姿を知らない、だからここに居ないんだろ? そうだ、俺は間に合わなかった……ジータが大変な時になんにもしてやれなかった」

 

 忘れてはいけない、忘れるわけにはいかない運命の日。この光景は“あの日”であって“あの日”ではない。所詮俺の記憶を元に作られた偽りのザンクティンゼルでしかないのだ。

 帝国戦艦から落ちた蒼い光、それを追ったジータ。そしてそのジータを俺は、遅れて追いかけた。

 俺が必死に追いかけてる間にジータは、ルリアちゃんを助け守り……そして死んだ。帝国の呼び出した魔物によってその命を落としたのだ。

 だがジータは、ルリアちゃんの力により命を取り戻す。奇跡は起き、ジータは蘇り、そして帝国兵は追い返された。

 それでやっと追いついた俺はと言えば、もう既に全ては終わった後だった。

 あの時俺は、ジータに怖い思いをさせた。一人痛い思いをさせた。死んでしまう時、傍に居てやれなかった。居る事さえ出来なかった。

 

「……俺が後悔や負い目で悪夢を受け入れると思ったか?」

「アァ……ッ!? ゥあニ……ギェ……!!」

「とっさにジータの手をとると思ったか?」

「うォニ……チァ……!?」

「──てめー後悔してるに決まってるだろっ!? 負い目あるに決まってるだろーがよっ!? 手ぇとりてえに決まってんだろうが……っ!!」

 

 俺は叫んだ。はっきりと怒りを込めていると言っていいほど叫ぶ。そうすればするほど目の前のビィやジータの姿をしたモノが、徐々に形を崩していく。

 

「あの日俺が間に合ってれば……!! 追いついてれば……っ!! 何度思ったことか……!! 俺に何が出来るとかじゃない、ただあの場に居てやりたかったのに……っ!! 死んじまったんだぞ!? 痛かったに決まってる苦しかったに決まってる怖かったに決まってる……っ!! 助かったからって……じゃあ「生き返って良かった」なんて……済んじゃいないんだ俺はっ!!」

 

 あの時俺がザンクティンゼルで出来た事なんて、なんにもありはしなかった。全てが終わって、そしてジータの旅の始まりを見送っただけ。

 全て運が良かっただけ。何かが少しでも違えば奇跡は起きなかった。あれが永遠の別れになるかもしれなかった。

 

「夢で誤魔化せると思うなよっ!! 俺の後悔を弄ぶなっ!! 俺の後悔をつまらない悪夢で終わらせんじゃあないっ!!」

「あニ──」

 

 霧の様にビィの形だったモノが消えた。

 

「な、なンで……どうシて……!?」

「……正直お前が、お前がさっき俺に手を伸ばさなかったら。もしもただ助けを求めるだけだったなら……」

「アァ……!!」

「お前が手を伸ばさなかったら俺は、悪夢(ここ)に残ることを選んだかもしれない。些細な事なんだ。お前が手を伸ばしたから、俺は自分の後悔を……今のジータ(あいつ)を思い出せたんだ」

 

 目の前のジータの姿をしたモノの手を見た時俺は、以前アウギュステで再会したジータを思い出した。

 アウギュステでの騒動の後俺は、ザンクティンゼルで助けてやれなかった事、そばにいてやれなかった事を彼女に謝った。だがジータは、気にしなくていいと言った。俺を抱き寄せ生きている証だとその身の鼓動と声を聞かせてくれた。生きたその温もりを感じさせてくれた。

 この事を思い出した途端、目の前のモノが全て偽物だとわかった。

 

「けどな……ジータが許してくれたって俺は、この後悔を忘れないし捨てたりしない。俺が握ってやりたかったのは、あの時のジータの手だったんだっ!! 一緒に居てやらなきゃいけなかったのは、あの日のあいつなんだ……っ!! お前じゃァないんだっ!!」

「ウ、ウァ……ッ!? おニ……ォニィ……ッ!!」

「あの日あいつの傍に居てやれなかった俺が、一番辛い時に手も握ってやれなかった俺が……例え夢でも偽物(おまえ)の手をとるわけにいかないんだ……っ!!」

「ウァアアッ!? お、おニィ──」

 

 そして直ぐにジータの姿をしたモノも消えていった。

 気が付けば、俺は森の広場ではなく何もない空間にいた。夢の回廊に似たその空間は、俺の悪夢がその姿を保てなくなったと言うことだろう。

 悪夢の発生源であり主でもある俺自身が、この悪夢を否定して夢だと自覚してしまった。その時点でこの空間は、夢として機能しなくなったのだ。

 

「……ジータに助けられた」

 

 アウギュステであいつに会っていなかったら……果たして俺は、この悪夢を否定出来たろうか? 偽物に言った様にその自信は無い。後悔と罪悪感でこの悪夢に残り続けたかもしれない。

 だが今を生きるジータの濃い“生”の記憶と思い出が、悪夢の“死”の誘いを撥ね退けてくれた。

 アウギュステでの事と言い俺は、常々ジータやまわりに助けられてばかりだ。ありがたく、だが我ながら実に情けない。

 自身の不甲斐なさを痛感しているとこの空間にポツンと扉が残っているのに気が付いた。おそらく外の回廊に通じるものだろう。

 今までの例から考えればあの扉は、俺の家かジータの家なりのものだと思われる。

 俺がどの程度悪夢に居たかわからないが、そう時間は経っていないはずだ。外ではまだオネイロスがおりB・ビィ達が残っている。戦いになっているのか、あるいは逃げているかはわからないが、脱出を急がねばならなかった。

 扉へ駆け寄りノブに手を伸ばし引き寄せる。だが中々扉は開かなかった。明らかに外から鍵に加え何か鎖のような物で封じられている。

 

「くっそ……!! 外に誰か……おい、おーい!?」

 

 ガタガタと扉を揺らしながらダメもとで叫ぶ。もし外に声が届けば鍵を開けてくれるかもしれない。

 

「ちょっと……誰かいねえか!? なんかさ、コレ鍵かかってんだけどっ!?」

 

 さらに呼びかけるが返事はない。こうなるともう強引にでも扉を開ける必要がある。幸い扉は、力を籠めれば開けれそうだった。

 

「ちょっとコレって開けていいの!? 開けれるぞ!? 強引でいいならやるぞ!? 返事無くても出るぞ俺!?」

 

 何度も扉を引いてみれば鎖が砕ける手応えを感じた。あとは思い切り開けば鍵ごと扉を開けれるだろう。

 だがもう少しと言う所で中々扉が開かない。

 

「ん、待て何で……開かな……!! ……ん? あ、これ違う」

 

 ここで俺は、この扉の事を思い出した。この扉は、俺の家のものだったのだ。それも元々の家でなく、ティアマト達が住みだしユグドラシルによって改築されたユグドラシルハウスのもの。

 コロッサスなど星晶獣のガタイでも出入りしやすいよう内開きから外開きに変更された玄関の扉。

 

「これ外開きいぃ────っ!!」

 

 そりゃ開かないわけだと思い切り扉を外に向かい開く。すると残っていたらしい鎖や錠前が飛び散って見事扉は開いた。

 

「……あれ、みんな居んじゃん」

 

 そして外には、オネイロスと対峙するB・ビィ達の姿があったのだ。

 

 ■

 

 二 壊されてMercy

 

 ■

 

 自力で悪夢の世界から脱出した団長。その姿を見たオネイロスは、驚愕し信じられないものを見るように団長を見た。

 B・ビィ達もまた驚いてはいた。だが驚きよりも団長が悪夢から無事戻った事への喜びが大きい。

 

「よく戻った馬鹿野郎!! 今は手放しで喜んでやるっ!!」

「じゃあ馬鹿って言わないでくれない?」

 

 団長の姿を見て喜ぶカリオストロ。その言い方に団長は、眉を顰めるもそこまで不快そうではない。

 一方ただただ驚くのは、モルフェだった。

 

「し、信じられない……! 悪夢の世界から自力で脱出なんて……」

「やあモルフェ君、心配かけたね」

「い、いえ……無事でよかったです。けど、どうやって……」

「……まあ、運が良かったってとこかな。色々と」

「色々とって……それだけで……」

「それよりも!! まず状況は?」

 

 団長の話す事に納得いかない様子のモルフェだが、団長は話を遮りB・ビィ達とオネイロスを交互に見た。

 

「見た限り……みんな俺を助けようとしてくれて、結局オネイロスはヴェトルちゃんだった。OK?」

「ズバリその通り、今一戦始めるとこだったぜ」

 

 ざっと周りを見渡した団長の見解を肯定したB・ビィ。それを聞いた団長は、深くため息をつきオネイロスを見た。

 

「じゃあ誤魔化し無用。ヴェトルちゃん、いやオネイロス。一戦するにしろしないにしろ、俺を狙った理由は聞いておきたいね。“──俺君になんかしたかい? ”」

「……やっぱり言ったわ」

「案の定言ったわね」

「何か?」

「いえいえ」

「こっちの話」

 

 少し前にラムレッダが予想し代弁した団長がオネイロスに言いそうな言葉、それをそっくりそのまま言う団長。当然そんな事を知らぬ団長は、ラムレッダ達の反応を不思議そうに見ていた。

 一方で未だ驚愕の表情を浮かべていたオネイロスは、団長の言葉を聞くと眉間に皺を寄せ苛立ちを露わにした。

 

「……あなた、気に入らないのよ」

「ほう?」

「……」

「…………え、それだけ?」

 

 一言で済まされた答え。思わぬ答えに団長達は、拍子抜けしつつも気味の悪さを感じた。

 

「君ぃ……俺も“気に入らない”の一言で悪夢に閉じ込められちゃ敵わないんだけどね?」

「だって気に入らないもの……あなたみたいに星晶獣を仲間だなんて言う人間が……のうのう過ごしてるのが……っ!!」

 

 オネイロスが叫んだ。ビリビリとその怒気をその身で感じ、これはただの癇癪ではないと団長達はわかった。

 

「それは、どう言う意味で……」

「仲間なんて嘘よっ!! 星晶獣を仲間なんて言うやつがいるわけない……!! そんなの嘘、全部嘘よっ!! 聞こえは良い言葉で利用してる……!! あなたもそうなんでしょう……っ!?」

「ちょちょいっ!? ちょい待て、なにを言って」

 

 団長の制止も聞かずオネイロスは、強い憎しみのこもる言葉を呪詛のように続ける。

 

「都合の良い道具程度にしか見てないんだ……っ!! 使えなくなったら、用済みだったら……要らなくなったら捨てるくせにっ!!」

 

 オネイロスから向けられる憎悪とさえ言える感情。だが団長達は、彼女がそれがもっと別のものへと向けられていると思えた。

 ヒステリックとなったオネイロスは、その感情のまま力をふるう。彼女の周りには、突然何体もの“少年の姿をした人形”が現れた。

 

「これは……」

「ぼ、僕……? 僕の姿の、人形……」

 

 その人形は、不思議な力の糸で吊られた操り人形であり、体は人形そのものであるが衣装や素顔はモルフェと瓜二つであった。

 現れた自分にそっくりの人形群を見てモルフェは、ゾッとし強い恐怖を感じた。

 

「うふ、ふふ……っ!! 私のお人形の“モルペウス”……よく働くお人形。自分に似てて驚いた? 人形があなたの姿? それともあなたが人形の姿かしら?」

「や、やめて……姉さん……!!」

「ふ、ふふ……うふふっ!! わかるモルフェ、“それ”があなたよ!! あなたの仲間っ!! あたもこれと同じお人形……っ!!」

「ひぃ……っ!?」

「……やってモルペウス……っ!! そいつらの心を壊してっ!! モルフェだけじゃない、お前たちもまた悪夢に沈めてやる!! 人形のように壊してやる……っ!!」

 

 カタカタと不気味に動き団長達へ迫る人形達。これらがオネイロスの意思により動き団長達を襲おうとしてるのは明白だった。

 

「ちぃ!! ここで雑魚けしかけるかよ!!」

「それも随分やりずらい見た目のな……っ!!」

 

 迫る人形を見て舌打ちを鳴らすカリオストロ。襲い掛かる以上相手をしないわけにいかず団長も剣を抜いた。

 

「モルフェ君は下がって!! ルナールさん、彼を!!」

「わかったわ。ほら、モルフェ君こっちに……!!」

「う、うぅ……」

 

 オネイロスに告げられた事実と自分と瓜二つの人形の魔物、それらのせいでモルフェは今ひどく不安定だった。怯えた様子のままルナールに手を引かれ団長達の後ろに下がる。

 

「人形の見た目に惑わされないほうがいいわよね」

「当然そうだ。抜かるんじゃないぞ、酔っ払い」

「今は素面よっ!!」

 

 素面のラムレッダは、自身の悪夢で見せたような体内残留アルコール分0%を証明する動きで人形モルペウスへと肉薄した。

 

「せいっ!」

 

 素早くそして力強く放たれたラムレッダの拳。それがモルペウス当たるとモルペウスは、あっけなくその人形の体を崩した。

 その手応えの無さにラムレッダは「あれ?」と一瞬感じたが、モルペウスはその体を崩しながら──。

 

「──ウワァァ……ッ!?」

「うっ!?」

 

 モルフェと同じ声で悲痛な断末魔をあげた。それを見たラムレッダは、思わず顔をしかめる。

 

「団長君、これ……すっごいやりずらい!!」

「百も承知だよくそったれェェっ!!」

 

 モルペウスは、人形ゆえに無表情であった。それでも姿形は、モルフェと瓜二つ、さらにはその声まで同じとあり心理的な戦い辛さは、あまりにも大きい。

 だがそれでも団長達は、襲い掛かる“敵”を相手に戦う以外になかったのだ。

 

 ■

 

 三 操り人形の糸を切れ

 

 ■

 

 ──モルフェにとって目の前の光景は、目をそむけたくなるものだった。いや、実際に目を背け、そして強く瞳を閉ざしていた。

 

「このっ!? いい加減にしやがれ!!」

 

 カリオストロが錬金術でモルペウスを消し飛ばす。

 

「ていやっ!!」

「どらァッ!!」

 

 ラムレッダとB・ビィが、拳でモルペウスを破壊する。

 

「ふんっ!!」

 

 団長が剣でモルペウスを両断する。

 そしてその度に聞こえるのは、モルペウスの断末魔だった。

 

「ウワアァ……ッ!?」

 

 耳を塞いでも聞こえる声──自分と同じ声の断末魔。しかたないとは言え、団長達に壊されバラバラになるモルペウス。

 悪夢だった。オネイロスに告げられた事実だけでも辛い中、このような光景を見せられたモルフェは、今にも気がおかしくなりそうだった。

 だが何よりも辛いのは──。

 

「アァアァァ……ッ!!」

「コワレチャエ……ッ!!」

 

 自分と同じ姿の人形が、自分と同じ声をする人形が、オネイロスの命令に従い団長達に敵意を向け襲い掛かっている事だった。

 

「ううぅ……!? や、やめて……やめてよ姉さん……っ!!」

「落ち着いてモルフェ君……アレは、あなたじゃないのよ」

 

 怯えるモルフェをルナールが小さな両手で必死に抱きしめる。それでもモルフェの不安は、どんどん膨れ上がった。混乱は治まらずルナールの声さえ届いているかわからない。

 モルフェ自身は、団長達に敵意の欠片もない。だがオネイロスから生み出されたと言う事実を“思い出し”認めてしまい、更にモルペウスと言う瓜二つの存在が敵対するのを見てそれさえ揺らぐ。

 ──自分の気持ちさえ作られたのか? 本当は、今の自分もあのモルペウスと同じなのではないか? 怯える自分は、団長達を同情させるためオネイロスに命令された演技なのか? 

 そんなモルフェの気持ちを察してか、オネイロスが愉快そうに笑った。

 

「あはは……!! ほら、やっぱり。自分が襲われればそうやって壊しちゃうんだわ!!」

 

 団長達が躊躇いつつも、しかし容赦なくモルペウスを壊す様を見たオネイロスは、予想通りだと蔑みを込め笑う。

 

「友達面して、仲間面して……!! そうやって最後は、裏切るのよ!!」

 

 怒りを込め、だが嬉々として団長達を非難するオネイロス。まるで今まで貯めた鬱憤を晴らすかのようだった。

 

「言ってくれるじゃねえか……人形に襲わせて自分は高みの見物か? とことん趣味が悪いなお前は!!」

 

 カリオストロが叫びオネイロスを批難する。実際彼女は、オネイロスが正体を現しモルフェを利用していた事実を告げた時から強い不快感と怒りを覚えていたのだ。

 さらにモルペウスと言うモルフェその物の人形を争わせるこのやりかた。思惑はどうあれ仮にも弟として接していたであろうモルフェを自ら貶めるその方法が気に食わなかった。

 

「あら、お人形遊びは嫌いかしら? けどきっと楽しくなるわ……あなた達も壊れてしまえば、“それ(モルペウス)”と同じになる。悪夢に沈んで私のお人形になっちゃえばいい……うふ、うふふふふ……!!」

「コワレチャエ……ッ!!」

「誰が……冗談じゃねえんだよ!!」

 

 モルペウスは、カリオストロに向かい魔力の(ヤーン)を宙から生み出し放つ。モルペウス自体の力は、実に非力であったがこの糸を用いカリオストロや団長達を文字通りの“操り人形”にしようというのだ。

 無論おとなしくやられるカリオストロ達ではない。モルペウスは、戦闘が始まってから何度もこの攻撃をしているが、その糸がカリオストロ達に絡まるより先にモルペウスが倒される。

 しかし、モルペウスを倒せば倒すほどにカリオストロ達の士気は、上がるどころか下がってしまう。

 

「てめっ!!」

 

 一度B・ビィがモルペウスを殴り飛ばし、オネイロスに肉薄寸前までいった。だが迫るB・ビィを見て、オネイロスは薄ら笑いを浮かべる。

 

「邪魔、目障りよ……」

 

 彼女は手に持った玩具のガラガラを振り鳴らした。それはただの玩具でなく星晶獣である彼女の武器だ。

 響く音はガラガラの音を具現化したかのような青い波紋の攻撃へとかわる。

 

「うおっとぉ……!?」

 

 波紋攻撃に気付き避けたB・ビィ。だがすぐさま周りからモルペウス数体が襲い掛かりB・ビィを羽交い締めにしていく。

 

「んだオラァーッ!? うっとおしいぜぇ──ッ!!」

 

 B・ビィが腕を振り上げると粉々になり吹き飛ぶモルペウス。モルペウスの腕力では、B・ビィを完全に押さえ込む事は出来ない。だがまるでゾンビのように増えては襲い掛かるモルペウスに僅かでも動きを制限されているのも確かだった。

 

「うふふふ……あなた達は、お人形遊びがお似合いよ……」

「ああもう、止めてほしいもんだね……!!」

 

 オネイロスに近づくのも難しく、何度も星晶獣と戦った団長でも、この様な戦いは慣れていない。モルフェの似姿と何体も戦わされるより、いっそモルフェを人質にされた方が「助ければ済むのに……」とまだ戦いやすいぐらいに思っていた。

 

「俺への逆恨みも納得できんが、モルフェ君への仕打ちも納得できんっ!! こんな気分の悪い真似お止めなさいってのっ!!」

「気分が悪い? あはは……っ!! どうして気分が悪いのかしら?」

 

 団長の言葉にオネイロスは、何が悪いのか本気でわからない様子だった。

 

「私はただ“お人形遊び”をしてるだけ……。私が生み出した人形を、私が好きにして何が悪いの……っ!! 作った側は、作ったモノを好きにするくせに……!! 人間だってそうでしょう? 要らなくなれば捨てられるっ!! だから私もそうするのっ!!」

(要らない……捨てられる……)

 

 オネイロスの叫びは、両手で耳を塞ぐモルフェにも妙に響いた。

 

(捨てられる……。そうか、僕は……僕はもう捨てられたんだ。姉さん、オネイロスに……。要らない人形は、捨てられるんだ……)

 

 暗闇に溶けて沈むような感覚を覚えるモルフェ。それは、これまで散々カリオストロ達が味わった悪夢に飲まれる感覚だった。

 ついに意識さえ手放しそうになる。いっそこの暗闇に溶け絶望を忘れられればと思った。

 だが──。

 

「……いい加減にしないかっ!!」

 

 一人の声がその意識を引き上げる。

 

「人形人形とさっきから……モルフェ君は、人形じゃないだろうっ!!」

 

 団長だった。彼は憤りオネイロスに向かい大きく叫ぶ。

 

こいつら(モルペウス)は、確かに人形だ。言う事を聞くだけの、心の無い操り人形……だがモルフェ君は違うっ!!」

「……違わないっ!! 同じ人形よっ!!」

「違うッ!!」

 

 苛立ち団長の言葉を否定するオネイロス。だが団長は、さらに強くそれを否定した。

 

「人形は……泣かない……っ!!」

「……っ!?」

(……涙?)

 

 団長に言われオネイロスは気づいた。そして、モルフェ自身も。

 

(……これは、僕が流した?)

 

 頬を伝う冷たい雫。いつの間にか、彼は涙を流していた。辛さ、苦しさ、悲しみから感情の表れである涙を。

 

そいつら(モルペウス)のように、同情を誘うみせかけの悲鳴を上げる人形じゃない!! 生きてるからこそ、誰だって流す涙を彼は……!! 彼には感情がある、心がある!! わからないかオネイロス、君がいたからこそなんだぞっ!?」

 

 オネイロスは、団長の言葉に驚き言葉に詰まった。いくらでも言えるはずだった否定の声が出なかったのだ。

 

「ふ、ふざ……ふざけないで……!! 何を根拠に……っ!!」

「……いや、団長の言う通りだな。オネイロスッ!!」

 

 団長の言葉にカリオストロが続いた。彼女は、団長の言おうとしてる事がすぐにわかったのだ。そしてそれは、ラムレッダ達もまた同じだった。

 

「確かにモルフェは、お前が生み出したんだろうさ。その時は、まだこの人形共と大して違いなんざなかったろうな!」

「けど、あなたの“弟”として過ごす内変わったはずよ! それまでの記憶は偽りだとしても、弟である時間が短くても……変わったのよっ!!」

「う、うるさい……っ!!」

「モルフェのハーブティーは美味かったぜっ!! それこそ心を込めて作ったんだろうさっ!!」

「今までの団長とのやり取りだってそばで見てたでしょ! あんな感情豊かなリアクション、人形じゃ無理よっ!」

「うるさい……うるさいうるさああぁぁああい……っ!!」

 

 オネイロスは一転して焦りを見せた。団長達の言葉が不愉快だったのだろうが、それでも親に叱られバツの悪い子供のように喚く。

 

「オネイロス、お前にとって偽りだろうとモルフェ君を“弟”として生み出したならわかるはずだ!! 彼は人を思いやり、寄り添える子だ。喜び笑い、辛ければ悲しむ。だからこそ傷付き“心”を痛めるっ!! 君が彼にそれを教えた……生きる喜びも裏切られる悲しみも!! 君自身が彼に心を与えたんだっ!! 彼は、もう人形じゃないっ!!」

 

 団長達の言葉は、オネイロスを大きく動揺させた。更に──。

 

(団長さん……皆さん……)

 

 彼等の言葉が絶望で悪夢に飲まれそうだったモルフェに対し強く響き勇気を与えたのは、間違いなかった。

 

(涙が止まらない……けど、今度は……辛いからじゃない……。言葉が、皆さんの言葉が……嬉しくて……っ!!)

 

 頬を伝う涙が熱く感じた。悲しみだけを包む雫は、いつの間にか喜びを持った。

 

(そうだ……この辛いのも、苦しいのも……喜びもっ!! どれも僕だけのものだ。僕の、心が感じたものだ……。僕の感情なんだ。忘れたいほど辛くても、だからこそ……)

 

 モルフェは、周りにいるモルペウスを見た。さっきまで不気味で恐ろしく思えたその姿が不思議と怖くはない。

 モルフェがモルペウスに怯えていたのは、ただ恐ろしいからじゃなかった。自分がモルペウスと同じである──その事実が恐ろしかったのだ。だが今は、もう違った。自分と人形(モルペウス)がはっきりと違って見える。

 

(──もう僕は“人形”じゃない……っ!!)

「……モルフェ君?」

 

 ルナールは、自分が抱きしめていたモルフェの身体の震えが止んでいるのに気が付いた。そしてモルフェを見ると彼は、目を閉じ伏せていた顔を上げた。その表情は、絶望に打ちのめされたものではなくなっていた。

 

「……もう止めて姉さんッ!!」

 

 体の震えも恐怖も消えたモルフェは、涙をぬぐい立ち上がるとオネイロスへと向かい叫んだ。

 オネイロスだけでなく、団長達も驚きモルフェへと振りむく。

 

「モルフェ? ……あなた、なんで」

「なんとなく、わかってきたよ……。僕が姉さんに生み出されたからだろうけど、姉さんがなんでこんなことをしたか」

「……じゃあ何故止めるの? わかるでしょう? 生み出した側の都合、それだけの理由で捨てられる気持ちがっ!?」

 

 オネイロスの言葉は悲痛だった。確かにこの時モルフェは、彼女の言う気持ちや理由を漠然ではあるが理解していた。しかしだからこそ彼は、オネイロスを止めようと思ったのだ。

 

「わかるよ。だからこそ僕は……止めるんだっ!! だって団長さん達にこんな事したってなんの意味もないじゃないか!?」

「この……モルペウスッ!!」

 

 苛立ったオネイロスは、一体のモルペウスを生み出しモルフェへと向かわせた。

 

「いかんいかんっ!? 下がれモルフェ君ッ!!」

 

 後ろに下がるよう指示する団長。ルナールも彼を護ろうと動く。だがこの時モルフェは、迫るモルペウスを見て動かなかった。しかし恐怖で足が竦んだのではない、彼は覚悟を決めたのだ。

 

(大丈夫……怖くない)

「アアァァ……!!」

「……お前は、僕じゃないっ!!」

「ゥア……ア゛ァッ!?」

 

 モルフェは、ずっと手に持っていた杖のようなガラガラの玩具を振るった。するとガラガラのはじける音色がオネイロスと同じように波紋となり弾け、モルペウスを破壊したのだ。

 

「モルフェ、あなた……それは……っ!」

「姉さんが、星晶獣なら……僕にだって力がある!!」

 

 確かな決意と勇気が漲るモルフェの表情を見たオネイロスは、彼がこの僅かな間で立ち直った事を悟る。そしてそれはオネイロスを更に苛立たせた。

 

「そう……あなた……あなたはまだっ!! まだ私に逆らう気なのっ!?」

「逆らうんじゃない、止めるんだっ!!」

「黙りなさいっ!! 同じよっ!! 人形のくせに、私に逆らう……っ!!」

「違うっ!! 僕は僕の意思で戦うんだッ!! 僕は、人形じゃない……姉さんの弟だっ!!」

「もう、黙ってええェェ──ッ!!」

 

 オネイロスが悲鳴のような叫びをあげたかと思えば、再びあのガラガラを振り鳴らした。だが今度は、(くう)をぶつように振り回す乱暴なもので波紋の攻撃も破裂というより爆裂と言うようなものだった。

 

「横からファランクスッ!!」

「わぁっ!?」

 

 波紋が広がりきる前に団長がモルフェの前に立ち広域防御の技“ファランクス”を使用した。生み出された障壁は、波紋からモルフェと団長達を護った。

 

「いいぞモルフェ、よく言ったよく立ち向かった。立ち直って直ぐにしちゃ良い啖呵だ褒めてやる。だがもう言葉の説得はダメだ。完全に頭に血が昇ってやがる……!!」

「ええ、わかってはいましたが……」

 

 モルフェの啖呵を誉めつつカリオストロは、聞く耳を持たないオネイロスの説得は始めから不可能と判断しており、モルフェもまたそうであった。

 

「皆さん……お願いがあります……」

 

 言葉での説得はできない。さりとてオネイロスに力で立ち向かう事は、モルフェ一人では到底できない。彼には仲間が必要だった。

 

「オネイロスの一部でしかない僕の事を信じられないかもしれないけど、どうか……お願いします……力を貸してください。オネイロスを、姉さんを一緒に止めてください……」

「……モルフェ君」

「僕達のせいでこんな事になって、図々しいお願いなのはわかってます……だけどっ」

「モルフェ君」

 

 団長がモルフェの肩を掴み背を屈め視線を合わせた。地味だなんだと言われる団長だが、この時モルフェが見た彼の視線は、実に力強く頼りがいのあるものだった。

 

「倒すんでなく、止める……だね?」

「だ、団長さん……はいっ!!」

「そう言ってくれて安心した。こっちは元よりそのつもり……“オネイロス”を止めて、“ヴェトルちゃん”には帰ってきてもらう。……モルフェ君、もう人形が来ても遠慮無しだ。いいね?」

「はい……全力で、全部ぶち壊しちゃってくださいっ!!」

「よしっ!!」

 

 迷いがなくなったモルフェの意思を確認した団長は、スッと立ち上がった。団長もどこか吹っ切れた様子で闘志を漲らせている。

 

「ルナールさんもこっち参加!! 俺達全員で決着付けますっ!!」

「了解、わたしだって暴れちゃうわよ!」

 

 モルフェを護る為後衛に回ったルナールも前に出る。もう誰一人後ろにはいかず、全員がオネイロスとの決戦に臨もうとする。

 

「オネイロスにモルペウス、ヴェトルちゃんとモルフェ君……戦いのどっかに遠慮があった。だがもう無い、モルフェ君がやると言って俺らが応えんわけにいかんよなぁ!!」

 

 剣を構え、拳を握り、錬金術を展開し、筆を持つ。歪に思える組み合わせの彼らが、モルフェは本当に頼もしく見えた。

 

(ごめんなさい団長さん、僕達が原因でこんなことになったけど……だけど思わずにいられない。僕が“生まれて”出会えた人達が……皆さんで良かったと……)

 

 悪夢を巡り夢を正す戦い、その決着は近かった──。

 




久々に投稿出来ました。
いつも感想、誤字報告ありがとうございます。大変励みになっております。
あと一~二話で夢の話は終われればなあと思っております。

投稿できない間に色々イベントありましたね。8周年凄かったね。エイプリルフールも……。来年もあのハジケリスト達出るのか?

メデューサ水着ぁっ!? (石を)持っていかれた……!!!!

らぁめん三騎士、元ネタ三銃士よりも仕事してない?

星空おとしいとし……って略すと漫才コンビみたい。めっちゃ良かったよ。
星晶獣に関して色々あるとあったので、モルフェ達の事まさか出るかと思い様子見てました。出なくて残念なようなホッとしたような。
特にゾーイの事が深く語られましたね。「そ、そういう感じやったんか……」と思う事も多くありましたが、楽しめました……コスモオォーースッ!! 優しさから始まるpowerを感じたよ。また出番あると良いな。

ババンババンバンバンッ!!
温泉回に詰め込み過ぎや!! 情報多すぎぃ!!
ミイムのスパルタコース団長君どうなんだろ……。

「あぁ~、それ効きますねぇ……もうちょい背中とか強めでお願いします……」
「えぇ……これスパルタコースでも強めなんだけどなぁ……団長さん、どうなってるの?」
「相棒疲れてんなぁ……」

最近星晶獣キャラが増える度、マジでガルーダ来るんじゃないかと思ってます。登場したとしてリッチの件もあり予想外なキャラってのは十分あり得そう。
万が一全くキャラが違った場合は、その時キャラや展開の修正するか決めようと思ってます。退場はさせません。書きたいから。

最後に……去年小ネタで書いたけど、8周年での発表で「だって本当にコラボすると思わないじゃん!!」と思ったやつ。シリーズならコラボ実績が多い「Ⅶ」が一番あり得そうだったし、「XIV」飛ばすと思わなかったし……。まあ流石に謙虚なナイトは、出ないと思う……いや、けど雑誌の表紙を飾った実績が……称号ではあり得そう……。
……と言う小ネタ。



グランブルーファンタジー 蒼穹黄金鉄塊Ⅱ



 異世界より現れた騎士(ナイト)ブロントさん。今日も今日とて騎空団のヌードメーカーとして、ジータとその仲間達と共に空の果て、星の島イスタルシアを目指す――。

「いやぁ、ヴィーラさんは強敵だったね」
「けど流石はブロントさんだぜ! あんな状態のヴィーラの攻撃よく耐え続けたよな!!」
「ナイトが強いのは当然に決まっている。黄金の鉄の塊で出来ているナイトがヤンデレのヒステリックに遅れをとるはずはにい。ヴぃーらのやつは、ヤンデレの暴走で危うく危なかったが最後は「私は正気に戻った」と無事終了」
「相変わらず分かりにくいんだか分かりやすいだかわからん口調だなブロント」
「さんをつけろよでこすけ野郎!!」
「だぁ! 悪かったって!?」

 アルビオンでは暴走したヴィーラを倒し正気に戻したブロントさんとジータ。そしてジータにでこすけ呼ばわりされるラカム。
 彼等はその後も多くの島々をめぐり、今回ジータ達が訪れたのは……。

「ごくり……こ、ここが噂の島か……」

 古戦場と呼ばれる戦いの地。魔物と星晶獣との決戦が行われる激闘の島。
 この地で定期的に表れる星晶獣達、活発化する魔物、それらを相手に自分達の実力を試そうとジータ達はここを訪れたのだ。
 魔物のいない上陸地点、そこからもわかる戦いの空気にビィとルリアは、武者震いで震えた。

「来たばかりだけど、ピリピリした雰囲気がよくわかるぜ……」
「は、はい……私も緊張します……」
「確かに緊張する……けど大丈夫!! あたしも頑張るし、メイン盾のブロントさんだっているんだからね!!」
「あとでジュースを奢ってやろう」
「9杯でいいよ」
「多い多い多い」

 ワザとなのか天然なのかわからにいブロントさんとジータの会話にビィがツッコミを入れたりしていると……。

「あっれぇ~! やあやあ、久しぶり団長ちゃん達~!」
「あ! ドランクさんとスツルムさんっ!?」
「まただよ(笑)」

 そこに現れたのは、黒騎士の雇われ傭兵であるコンビ、スツルムとドランクと遭遇。これまでも何度か戦ったこともある二人。驚くジータ達、思わずブロントさんもあきれ顔。だがこの時は……?

「帝国の奴らがなんでここにいんだよっ!!」
「こっちも色々と事情がある……。安心しろ、今日はそっちの邪魔はしない」
「ほ、本当かよ?」
「嘘を言ってどうする。第一この島でその(ブロントさん)相手に行き成り戦い挑むほど馬鹿じゃない」
「ほう、経験が生きたな。お前の見込みは、なかなかある。俺を強いと感じてしまってるやつは本能的に長寿タイプ」
「どう言う意味だ……。それに、こっちも面倒な人間を拾って――」

 スツルムが疲れた様子を見せた時、物影よりジータ達には聞きなれぬ男の声がする。

「まさかここで会うとはなあ、ブロントォ……!」
「何いきなり話かけて来てるわけ?」

 物影から現れた一人の忍。黒の目線で顔の隠れた如何にも怪しく、物影から現れたはいいが白昼堂々忍んでない男。

「顔も見ずにその返事とは、相変わらずだなブロントよぉ!」
「さんをつけろよでこすけ野郎!!」
「って、ここでもそれ言われんのかよっ!?」

 ブロントさんと浅からぬ因縁を感じさせ、ジータにでこすけ呼ばわりされる男の名は、通称“汚い忍者”。ブロントさんと同じ世界から現れた男で、ブロントさんに勝るとも劣らない実力があるようでないような男。

「僕らもちょっと腕試しってところでさ。こちらの汚にーさんの実力も知りたくてね」
「ドランク今イントネーションおかしかったなぁおいっ!?」
「少し前に拾ってな。腕も悪くないようだから色々こき使ってやってるんだ」
「人を犬猫みてぇに言うなスツルムッ!?」

 空の世界で奇妙な再開をした騎士(ナイト)(にんじゃ)。なんの因果か彼らは、この古戦場でまたも因縁ある相手と戦う事となる。

「異世界でもベヒーモスとはな……はんっ!! だが今更負けるわけネェ!!」
「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」
「そっちこそうるせえっての!!」

 古戦場に現れる強大な魔物ベヒーモス。それを倒していくジータ達であったが……。

「な、なんだぁこのベヒーモスッ!? 明らかに他とちげぇぞ!?」
「まるで、星晶獣……けど、なにか違います!!」
「つーか、こいつぁ!?」
「キングベヒんもス・・・!!」

 戦い方も信念も違い、相性も悪い二人。だがただ一つ仲間を守ると言う共通の使命を持つ。その思いさえあれば、水と油さえ混ざる。

「異世界でもキングベヒーモスとはな……はんっ!! だが今更負けるわけネェ!!」
「うるさい、気が散る。一瞬の油断が命取り」
「だからそっちこそうるせえっての!! 忍者が一人、忍者が二人・・・ファイナル分身!」

 古戦場にて盾の座と仲間を護るため、騎士が駆け忍が舞う――。

「・・汚いなさすが忍者きたない」
「汚いは・・・褒め言葉だ」

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