俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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IF世界『少し違う空編 スープが冷めない距離ぐらいズレた空』の三つ目となります
原作・アニメ版を足したような世界観。キャラ崩壊にご注意ください。


スープが冷めない距離ぐらいズレた空 Ⅲ

 

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 一 もしかしての空III 年中行事チョコっとサマーセット編

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 おお、青い空白い雲。果てに見えるは大雲海。雲さえきりわけ進む我らが艇グランサイファー。

 たとえ島々をまたにかける騎空士となっても、小さなザンクティンゼルで育った俺には、この浪漫……いつまでたってもたまらないね。

 閉じた窓からも聞こえる風を切って進む音に耳をすませば、まるで自分まで空を自在に飛んでいるようだ。

 嗚呼素晴らしきかな空の旅、大冒険。そんな浪漫を感じながら自分が何をしているかと言えば──。

 

「ルリアちゃん、このファイルそこの棚にお願い」

「はーい!」

 

 事務仕事であった。

 そう、たとえ騎空艇で島々をまたにかけようと、騎空団として数多の依頼をこなそうと、浪漫溢れる冒険に繰り出そうと、事務仕事はあるのだ。

 別の島に渡れば寄港手続きも必要になる。依頼を受ければ書類も増える。冒険に繰り出せば、必要物資を買い付ける事にもなる。

 戦いは戦場ではなく、書斎へ移る。日々の浪漫の裏では、これもまた日々じみぃ~~な仕事の方が圧倒的に多くなるのである。そしてそれは主に俺の仕事であるわけだ。

 

「お兄さん、このファイルはどうしましょう?」

「これは……うん、もう要らない奴だ。中身全部破棄でお願い」

「わかりました!」

「兄貴~領収書そろえたぜ」

「あんがと」

 

 とは言え、書類仕事はいつもルリアちゃんやビィが手伝ってくれるので大変ながらも辛くはない。ありがたや。

 

「なあ兄貴、この時の出費妙に火薬類多いけどなんでだっけ?」

「たしかジータの攻撃に巻き込まれたラカムさんが爆発して、火薬が全滅した奴だな」

「お、おう……じゃあこっちの時の火薬類は……」

「ジータの攻撃に巻き込まれて俺が爆発した時だな」

「……これは」

「ラカムさんと俺が爆発した時だな」

「……そっか」

 

 ふっと顔を背けるビィ。領収書から垣間見えるラカムさんと俺の災難、と言うか人災。なんだ「ラカムさんや俺が爆発した時」って説明、自分でもわけわからんわ。

 俺やラカムさんが吹き飛ぶ時、何時だって原因はあのザンクティンゼルのリーサルウェポン最強腕白団長ジータである。

 意図せず俺達を吹き飛ばしてしまうジータと、それに慣れたくないのに慣れてきた俺とラカムさん。きっと俺達二人は、全空一何度も爆破で吹き飛んで無事(?)な人間コンビに違いない。まあ「だからなんだ」と独り言つ。

 

「ルリアちゃん、このファイルはその箱に詰めちゃって。シェロさんに渡すから」

「わかりました!」

 

 ルリアちゃんがいそいそとファイルをしまい込む箱は、シェロさんに頼んで貸金庫へ入れてもらう書類だ。

 必要ないと判断した書類は破棄しているが依頼の契約などの書類は可能な限り保管したい。そのためグランサイファーに置ききれない重要書類は、シェロさんに紹介してもらった信頼できる貸金庫に預けている。

 とはいえ、貸金庫の方もぼちぼち埋まる気がする。あちらも適当に整理しに行った方が良いだろう。

 二人に手伝ってもらうと、良いペースで書類の整理は進む。二人とも長いことこの仕事に付き合ってもらって手際がかなり良くなってる。

 だが一方、不思議な事に書類を片づける程逆に山積みになっていく書類がある。棚や箱に仕舞われていく書類とは別に、仕舞われることなくそのまま机に残るその書類……中身は殆ど処理してあるが、まだ不十分な箇所がある書類。団の長たる団長が確認した事を示す“団長印”待ちの書類である。

 

「ジータはどこ消えたあの野郎」

 

 今朝ジータが俺に「お兄ちゃん、木人だと壊れるから“レスラー”の相手して!!」と地味に恐ろしい事を言いながら現れた時、どうせ(にげ)れないから渋々了承しつつも「お前、団長印必要な書類あるからまずそれ片づけろよ」と言ったら、煙幕炊いて幻影を残し何処(いずこ)へと消えた。鍛え抜かれ洗礼された数多のジョブの妙技が、書類仕事からの逃亡に使われている事実に頭を抱え、残った書類の山を見て更に頭を抱えた。

 

「どこに隠れやがったアイツは……!!」

 

 航行中のグランサイファーから外に逃げる方法はない。ジータは間違いなくグランサイファーの中に居るが、どこを探しても見つからない。

 

「次の島に着くまでに書類片づけにゃならんのに……あいつめ」

「ジータの奴関節外せばどこでも入り込めるからなあ……」

「前はタンスの棚に入り込んでましたね……猫ちゃんみたいに」

 

 ジータ液体説まで出てきたが、今回は部屋のタンスの中も探したがいなかった。なんで幼馴染探すのにタンスまで探さねばならんのか……。そもそも気配遮断の技術も極まってるせいで本気で隠れられるとグランサイファー内でさえ見つけ出すのに困難だ。

 どうせ飯の時間になったら出てくるくせに。見つけたらどうしてくれよう、ハンコ押しのついでに他の書類整理もやらせるぞあの野郎め。

 

「と、ところでさ兄貴!! こうやってどこの島で何買ったか見てると日記みたいで案外おもしれえな!!」

「は、はい! そうですよね!! ポート・ブリーズにアウギュステ……それに、他にも!!」

 

 若干無理やり話題を変えたビィとルリアちゃんが、書類を眺めながらその時の記憶を思い起こし思い出を語る。

 収支の記録はある意味、空の旅で最も正確な旅の記録の一つである。その時、どんな島で、何を必要として何を買い、何に使ったかと言う記録はその後の旅の中で必要な記録であり経験となる。確かに日記のようだと言えばその通りだろう。

 領収書やらの整理の手伝いでこんな楽しんでくれるならこちらもありがたい。

 

「例えば……これなんか!!」

 

 ビィが一枚の書類を差し出した。これは確か……。

 

「“バレンタイン”か……」

 

 チョコレート菓子を作るために色々購入した記録の書類。それを見た俺の脳裏には甘い甘い記憶が蘇る──。

 

 ■

 

 二 無貌のバレンタイン

 

 ■

 

 まだ寒い時期、春の足音はまだ少し遠い頃の事。春を感じるより先に、空中の住民達が浮足立つイベントがやってきた。

 その名も“バレンタイン”──親しい人へ想いを込めたチョコレートやお菓子を送るイベント。恋の季節なんて言われてなんともむず痒い時期でもある。

 そしてそれは、【私とお兄ちゃんと愉快な仲間たち団】にも例外なく訪れるイベントだ。

 バレンタインまであと数日となった頃グランサイファーは、ジータやイオちゃん達の要望により一路チョコの名産地チョコレイ島へと向かっていた。

 チョコレイ島──チョコの名産地にしてバレンタインの聖地のように語られる島。著名なショコラティエによって管理され、また彼女の作る最上級のチョコレート、そして良質なカカオが手に入るこの島は、バレンタインが近づいた時乙女達の戦場となるのだ。

 

「──首を洗って待ってて、お兄ちゃん」

「決闘でもする気か」

 

 チョコレイ島について直ぐ、ジータからこんな事を言われた。「チョコ楽しみにしててね」の意味だが、妙に気合が入ったせいか間違ってもバレンタインでチョコを渡す相手に言うセリフじゃなくなっていた。よしんば洗うにしても食品なら“手を洗って”と言ってくれ。

 

「首をやる気はないが、まあ楽しみにしとくわ」

「ジータだけじゃないわよ!! あたしだって作るんだから!!」

 

 ジータと俺の間にスッと割って入ったのはイオちゃん。騎空団の女性陣は、全員バレンタイン参加を決めていた。

 自信ありげなイオちゃんの様子を見て、ラカムさんが少し意地悪な笑みを浮かべる。

 

「気合は十分みてえだが、さて大丈夫かねえ」

「むっ!! なによ去年あたしのチョコ食べたくせに!!」

副団長(こいつ)が手伝ったチョコだろ?」

「うぐ……っ!!」

「今年は手伝い無しって事だが平気かぁ?」

「へ、平気に決まってるでしょ!?」

 

 去年や初めてのバレンタインの時、その時も貰う側ではあった俺だがチョコ作りを手伝っている。

 

「見てなさいよ、お兄さんが手伝わなくても絶対美味しいチョコ作ってやるんだからっ!! お兄さん、手出し無用だから!! わかったっ!?」

「もちろん。期待してるよ」

 

 宥める様にチョコを楽しみにしてる意思を伝えると、イオちゃんは満足げに胸を張りつつ、ラカムさんを見た。

 

「どう、ラカム? お兄さんみたいにこう返事してればいいの!!」

「はいはい、俺も期待しとくよ」

「ん、よろしい!」

 

 怒りも収まり「ふふん!」ともう一度胸を張った。ある意味毎度お馴染みのやりとりだ。

 

「あら、私達のも期待してくれないのかしら?」

「私も!! 私も作りますよ!!」

 

 ワザとらしい拗ねた声のロゼッタさん、そして元気な声のルリアちゃんもチョコ作りをアピール。期待しないわけがない。

 

「もちろん期待してますよ。当日楽しみにしてますから」

「うふふ、ありがと。楽しみにしててちょうだい」

「がんばります!」

 

 ロゼッタさんは、安定して良いチョコを作る事が出来る。妙な心配もいらない。ルリアちゃんも張り切りムード、彼女もまた今年は俺に「手出し無用」と言っている。普段の生活で調理の腕も上がっているため不安はないが、火傷とかにだけは気を付けてほしい。

 

「へへ……こういうのを見てるとアポロ(あいつ)が小さかった頃思い出すぜ……まあ、俺がろくに家に帰らねえもんだからチョコ貰えたのは、片手で数える程度だがよ……」

「急に重い話ぶっこんできたな」

 

 しんみりしだしたオイゲンさんに、ビィが若干引いていた。

 

「わりいな、暗くする気はなかったんだが、懐かしくなっちまった」

「しっかし、子供の時だろうけどあの黒騎士がチョコ作るの想像できねぇな」

 

 ビィの中ではあのいかつい鎧姿でチョコを湯煎したりする黒騎士さんの姿が浮かんでるのだろうか、えらく微妙な表情だった。

 

「……まあ、多分またもらえますよ」

「無理さ、顔もあわせちゃくれねぇ」

「大丈夫大丈夫……どうせジータが強引に丸く収めると思うんで」

「……うははっ!! 嬢ちゃんの名前出された途端そう思えてきたよ、まったく!!」

 

 オイゲンさん家族の問題は、もうちょっと時間がかかりそうだ。まあ大丈夫だろう、今言った通りジータいるし。

 ともあれみんな楽しみバレンタイン、どこかビターでしっかり甘い香りが厨房から漂い出すのもすぐだろう。それを心待ちにしながら、俺達は他愛無い会話で「あはは」と笑って解散し──。

 

「……なぜ、誰も私に話題をふらないんだ」

 

 ようとしたが、不満げなカタリナさんの声でみな動きを止めた。

 誰一人カタリナさんと目を合わせない。ジータでさえ「えぇと……」みたいな顔になってる。そう、“騎空団の女性陣は、全員バレンタイン参加を決めていた”のである。“全員”である。

 皆そうしたくもなかったろうが、自然と俺を見た。しかたなく俺が肩を落としつつ視線をカタリナさんに向けると、彼女はちょっと嬉しそうな笑みを浮かべた。素敵な笑みだ──だが残酷だ。「さあ私にも話題をふってくれ」と期待の眼差しで俺を見る。

 

「…………ルリアちゃんのチョコ、楽しみですねカタリナさん」

「ああそうだな。あと私もチョコを──」

「チョコレイ島は寒いから、しっかり防寒しないとですね」

「ああそうだな。それより私もチョ──」

「ところで今年の夏は」

「私もチョコを作るんだが!? 露骨に季節の話題をとばさないでくれ!!」

 

 うまいこと誤魔化せないかと思ったが、ダメだったようだ。

 

「……チョコを作るのデスカ?」

「なぜ片言になる!? つ、作るぞ!? バレンタインなんだ、もちろん私も作るさ!!」

「さようでございますか……」

 

 この時俺の、俺達の脳裏に蘇ったのは、騎空団最初のバレンタインである。

 カタリナさんは、その時(いつもそうだが)自信満々に厨房へ向かい「美味しいチョコを待っていたまえ」と決め顔で言っていた。この時点で彼女の料理の腕前を把握していた俺は、生でカカオを食ったような顔をしていただろう。なお本人の一人で頑張ると言う強い希望があったのと俺も「まあせっかくのバレンタインだし……」と考え、そしてカタリナさんの「チョコを作ったのは、一度や二度ではない!!」と言う言葉をこの時は一応信じた……のだが「チョコを作ったのは、一度や二度ではない」は、あくまで本人の認識での話であり、その結果「チョコレートが出来た」わけではないと言う事実に気づいたのは、カタリナさんが作ったチョコレートが自我を持ち出して、たまたま厨房を通りかかったラカムさんの口に“飛び込んだ(食べられた)時だった。

 食品としての本能が、奴等暗黒チョコレートを動かしそして食われようとする。ラカムさんが倒れ、次にオイゲンさんが、そして次にビィが……バレンタインデーでチョコを受け取る男性陣が主に狙われ、最後はまとめて俺に襲い掛かってきた。被害を広げるわけにいかないので、気絶しそうになる味(渋みとも辛味とも取れない明確に無属性ダメージを伴う“痛味(いたみ)”)を牛乳等で緩和しつつ俺は奴らを食った。まあ食わなくても勝手に俺の口に入ってくるので、俺は必死に牛乳とか飲んでただけだが。

 最後はルリアちゃんの助力もあってなんとか討伐(完食)できたが、この出来事が忘れられない記憶になったのは言うまでもない。

 ──で、またバレンタインデーがやってきたわけだ。

 なんか涙目にさえなりそうなカタリナさんだが、ここで流石にもう大丈夫だろうからと無責任に「頑張ってください」と呑気な答えをしては、またあの悲劇が繰り返される。しかし「厨房立ち入り禁止」なんて言うのは、あまりにも可哀そうなので……。

 

「……カ、カタリナさん、今回は……その」

「うぅ……」

「……お、俺立ち合いの下で調理をお願い致します……」

 

 と言う事になった。

 正直、俺が立ち会ったところで如何にかなるものではない。そもそも日頃から俺立ち合いの下料理に励んでいるカタリナさんは、それでもトンデモ飯を生み出しているのだから。だが少なくとも俺が居ればカタリナさんが暴走して我流調理をしまくる事は無いだろう。

 材料も殆ど俺が用意した。カカオだけはカタリナさん自身がチョコレートの精をしばきあげて手に入れたので、実質カタリナさんのチョコである。そういう事にした。これで材料面でも暴走の危険はない。ここまですればよしんばチョコレート菓子と言えないものが出来たとしても、それ自体が自我を持つことは無いハズだ──ハズだった。

 

「──できたぞ!! 見てくれ!!」

 

 カタリナさんが皿に盛りつけたトリュフチョコを自信満々に皆に見せた瞬間、声にならない悲鳴が各々から漏れた。

 皿の上には、ジッと俺達を見つめるトリュフチョコがあった。チョコに見つめられるなんて滅多にない経験だちくしょう。ピクピクと震え、時に生まれる直前の卵のように揺れるそれを見て、誰もが声を失った。

 

「あ、兄貴が付いていながら何故っ!?」

 

 ビィが俺の肩を揺らしながら叫んだ。

 

「わ、わからない……用意した材料しか使って無いハズなのに。普段以上に気を付けていたが……け、けど湯煎の最中ほんの一瞬目を離したら、溶かしていたチョコが何時の間にか泡立ち玉虫色になっていた……最初からやり直したりしても、何度繰り返しても、視線を外した瞬間……気が付いたらああなって……!! ああ!! 窓に!? 窓にチョッ!?」

「調理中になにがあったのよっ!?」

 

 思い出そうとすると脳が記憶の再生を拒んでしまう。本気でわけがわからなかった。本当に一秒に満たない時間で、瞬間的にナニかが起きてチョコの調理が変化したとしか思えない。

 

「もはやアレは“現象”だ……調理の(ことわり)から外れている」

「なによ調理の理って……」

 

 頭を抱える俺の呟きに呆れるイオちゃんだが、俺ももう何を言ってるのか自分でもわからん。だが最早そうとしか言いようがないのだ。

 

「どうだろうか、前より少し地味だが良い出来だろう?」

(──どこがっ!?)

 

 相変わらず自分の料理の見た目と味の出来に対してのセンスが独特なカタリナさん。示し合せなくとも、俺達の心のツッコミは同じ言葉だったろう。

 

「さあて、チョコは出来上がった……そしてついに今日はバレンタインデー。まあ、その……どうだろう、一緒に作ったとはいえ私からのチョコだが、今回の事含め日頃君には世話になっているからな……先に食べてほしい」

 

 カタリナさんは照れた表情で俺を見ていた。

 裏切れない……震える手を差し出し俺はなんとか盛りつけられた皿のチョコを受け取ろうとしたその時──。

 

「あ、違うんだ。“そっち”ではない」

「なんですと?」

 

 カタリナさんは何を思ってかチョコの乗った皿をどかすと、綺麗にリボンで梱包された拳ほどの大きさの箱を取り出した。

 

「こ、これは……なんでせうか?」

「すまない、実はどうしても君にはちゃんと礼を言いたくて……余った材料で“もう一つ”作っていたんだ」

「……っ!?」

 

 俺達一同に衝撃走る。作ったのか……俺抜きでチョコを……? 

 俺立ち合いの下で正しい手順で調理してこの結果でありながら、俺がいない時に……? 

 

「安心してくれていい……ちゃんと君の用意した材料しか使っていないよ……」

(その俺の用意した食材で作ったチョコで“コレ”なんですが……?)

 

 梱包された箱は、たまにガサゴソ音が鳴っている。この中に、ナニが入っているのだろうか。差し出された箱を受け取ると、ズッシリと重たい。コレが食品である事を祈る事しかできない。

 

「中を……改めさせてください」

「みょ、妙に仰々しいな……」

 

 リボンを解き、蓋をあける。するとかつて“霧に閉ざされた島”で見たような瘴気が箱の中からあふれる。そして、箱の中には──。

 

「KuaAaa……」

「Oh……」

 

 音なのか鳴き声なのか……喉奥から絞り出される呻き声のような音を発する巨大トリュフチョコがあった。

 

「食材を使っている内にその大きさになってしまってな……食べ辛いかもしれないが、味は保証しよう」

(保証……)

 

 カタリナさんの保証付きとは即ち……唾をゴクリと飲み込んだ。当然食欲のせいではない。そして笑顔をなんとか浮かべ「ありがとうございます」と言った。カタリナさんは嬉しそうだった。そしてチョコをつかみとると“シュワァ~……”と掌に若干炭酸に似た刺激を感じた。実に奇妙な感覚で、無属性スリップダメージを受けているような感覚があったが、即回復するようなわけのわからん感覚だ。

 

「あ、兄貴……」

「お兄さん……」

 

 ビィ達が不安げに俺を見ている。ラカムさん達も「お前が食わなくても俺達は責めねえ」と視線で語りかけていた。

 しかし、だがしかし、俺はカタリナさんの料理を食わなかったことはない。料理として出された以上、カタリナさんにとっては“料理”なのだ。一口も食べないなんて事が出来るわけがない。それに幸い食った直後はともかくその後ずっと体調不良になった事は不思議と無い。そう、コレは食える──食わねばならんのだ。

 

「……い、いただきます」

 

 そして意を決してそう言った瞬間の事であった──。

 

「──KUAWAAAAA!!」

「ぬおおぉぉ──っ!?」

 

 まるで俺のその言葉を待っていたかのようにチョコレートが覚醒。弾ける様に跳びはねると俺の口へと侵入してきた。

 

(こ、この動き!? 明確に俺の口を狙って……!?)

 

 このチョコ、やはり自我を得ていた。再来だ、「名状しがたき僅かにカカオ香る暗黒生物(チョコレート)(?)」がまた爆誕したのだ。

 そして……奴らはあくまで食品、チョコレート。バレンタインデー当日と言う女性達の思いが溢れる祈りの日の影響も受けた結果、自ら食されに襲い掛かるバレンタインデーの化身。俺の「いただきます」と言う食事の言葉がトリガーになっていたのだ。

 さらにこの時、カタリナさんがあの更に盛りつけていたチョコレートがチョコレート(大)の声で呼ばれたかのようにこちらも覚醒、弾丸の如く次々と俺の口へと飛び込んで来た。

 

「KAAAAaaaa────!!!!」

「モガアァァ──っ!?」

「兄貴いぃ────っ!?」

「な、なんて食べっぷり……!? そんなに私のチョコを楽しみにして……!!」

「アレがそう見えるのっ!? ぜんぜんちが……照れてる場合じゃないでしょーが!? なんで料理関わるとポンコツになるのカタリナッ!?」

「無属性ダメージがあぁぁ!?」

「コラアァッ!! お兄ちゃんの胃に私のチョコのスペース無くなっちゃうでしょ!!」

「言ってる場合かジータ!! お前ら、急いでこいつら引きはがせっ!!」

「ウィ……We are chocolate……」

「お兄ちゃんがチョコになりかけているっ!?」

「こ、これは……!! 彼を吸収……いえ、彼と一体化しようとしてる!?」

「チョコレートなのにっ!?」

「人肌で蕩けてるならすくいとって……っ()つぇ!?」

「こいつ硬度変化させやがった!? か、輝いてる……ダイヤモンドかっ!?」

「チョコレートなのにっ!?」

「はわわぁ!? チョコ(小)さん達が光線を!?」

「チョコレートなのにいぃ──!?」

 

 俺に群がる暗黒チョコレート。それを引き剥がそうと奮戦するジータ達。右往左往するルリアちゃん、ツッコミつづけるビィ。そしてなんか嬉しそうなカタリナさん。

 チョコに拘束されなにも出来ない俺は、この後ジータ達のチョコ食べる余裕あるかなあ……と、最早朦朧とした意識でそんな事を考えていた。

 そんな、今年のバレンタインデー……──。

 

 ■

 

 三 バレンタインデーは強敵でしたね

 

 ■

 

「甘い記憶が、ない……?」

「兄貴しっかりしろ!?」

 

 バレンタインデーの事を思い出していたら、何故か胃痛がしてきた。珍しくジータ関係ではなく。

 えらい表情をしてたらしくビィが俺の肩を揺らして意識を呼び戻していた。

 

「す、すまねえ兄貴。バレンタインの事を思い出させちまって……」

「いや謝るなビィ。なんか余計空しいから」

 

 あの後小型チョコレートビット(仮称)は、ジータ達によって倒されたが暗黒チョコレート(大)は、結局俺の腹へと収まった。瞬間俺はあらゆる肉体強化(バフ)と状態異常(デバフ)を同時にその身にかけられたような感覚となり、それらが体内で反発しあった結果肉体強化(バフ)と状態異常(デバフ)のオーバーフローが発生。俺の意識はそこで途絶えたため自分の身に何が起きたかわからなくなったが、ラカムさんが言うには「なんか七色に光ってた」らしい。

 数時間後に目を覚ました俺は、怖いぐらい“なんともなかった”。なんなら身体の調子がすこぶる良いように思える程だった。

 

「……ま、まあカタリナさんのチョコは良いんだ。ちゃんとルリアちゃん達のチョコも食べれたからね」

「は、はい!! 頑張って作りました!!」

「うんうん」

 

 目を覚まし胃の調子が落ち着いた俺は、カタリナさん以外の面々からもチョコを貰えた。それらを口にした時の幸せと言ったらなかった。チョコを食べてチョコの味がする……こんな当たり前の事が幸せだなんて思わなかった。

 

「兄貴、涙を……!?」

「甘いだけじゃない、苦い思い出さ……」

 

 と、ふとここで疑問が浮かぶ。

 

「そういや、カタリナさんのチョコ……チョコ? まあいいや。アレってなんで俺にしか来なかったんだろ」

「はうっ!!」

 

 今更ながらも浮かんだ疑問をなんとなく口にすると、ルリアちゃんが少し困った表情を浮かべた。

 

「そもそも前の時も、ラカムさん達も被害にあったがカタリナさんのチョコのほとんどは俺に襲い掛かってきた……今回に至っては、ラカムさん達を無視して皿のやつまで全部俺に来た。チョコ生命体の本能なのかな……? それとも作り手のチョコに込めた意思とかも関係して──」

「そ、その事は良いんじゃないですか!! ね?」

 

 次回の対策になるかもと思い考えていたが、珍しくルリアちゃんが大きな声で遮ってきた。

 

「ル、ルリアちゃん……?」

「きっと単純にお兄さんに食べてほしかっただけですよ!!」

「そ、そうかな……そうかも?」

「そうです!! カタリナもあの時、喜んでましたからそうに決まってます!!」

 

 まるで何か誤魔化すように熱弁するルリアちゃん。だがその時書斎をノックする音がした。

 

「あ、はいどうぞ~」

「失礼するよ」

「おや?」

 

 俺が返事をすると入ってきたのはカタリナさんだった。

 

「こりゃカタリナさん、なにか御用でしょうか?」

「いや、今朝仕事をすると言ってそれきり見かけなかったので様子をみに……まだ仕事中だったかな?」

「いえ、キリついて思い出話中です」

「思い出話? ああ、外からもなにかチョコが云々聞こえたが……もしやバレンタインデーの時の?」

「まあ、そうですね……うん」

 

 三人そろって視線を逸らすが、カタリナさんは気にしていない様子。

 

「あはは……あの時はまさか全部食べてもらえるとは思わなかったよ」

「全部食べる羽目になるとは思いませんでしたよ」

「まあ味は改善の余地があったかもしれないが……」

「改善すべき点しかなかったですが」

「う……け、けど食べれただろう?」

「胃に侵入してきたんです」

 

 あの後チョコレートの出来に自信を持っているカタリナさんに対し、チョコレートの改善点を説明するのに苦労したものだ。なんせ食った俺もどう改善させればいいのか原因がわからんのだから。

 

「現実を見るのですカタリナさん。あの時のチョコは、チョコにあらず。俺を気絶させた劇物です」

「食べ物ですらないのか!?」

「来年は頑張りましょう。また手伝いますから。せめて自律型チョコレート・ビットにしないようにしましょうね」

 

 そう言えばあのチョコビットは、どことなくシュヴァリエのビットに似ていたな。一応関係者であるカタリナさんの影響だろうか。

 

「うぐぐ……その申し出に喜べばいいのか悲しめばいいのか」

「はっはっは……まあせっかく来たんだしカタリナさんもどうです。思い出話に交ざっては」

「……そうだな。せっかくだ、苦い思い出以外も思い出させてもらおうか」

 

 苦い思い出なのはこっちのセリフである。来年のバレンタインデーにも不安を覚えながら、俺達はカタリナさんを交えてまた何枚かの書類をめくった。

 

「あ、これ!!」

 

 ペラペラと数枚ルリアちゃんが一枚の書類をとって声をあげた。

 

「浮き輪、バスタオル、それに……水着。なるほど、アウギュステでの書類か」

 

 一発でどこで何を買ったかわかる書類の内容。すぐに俺達の脳裏に青空を反転させたような青い海の光景が蘇った。

 

「夏のバカンスか、今年は随分と暑い夏だったな」

「確かに。その分海を満喫させてもらいましたね……」

 

 青い海、白い雲……そう、それは暑くもさわやかな夏の思い出──。

 

 ■

 

 四 君に、胸キュン

 

 ■

 

 全体的に豊かで穏やかな土地の多いファータ・グランデ空域では、激しい気候の変化は起きない。瘴流域に近かったり、島と契約した星晶獣の影響、極端に東西南北に寄っていればノース・ヴァストのような極寒の地もある。

 そんなファータ・グランデの中で一年を通して温暖であり、“海水浴”を楽しめる島──アウギュステ列島。

 これまでも依頼で何度も立ち寄った事もある場所だ。仲間であるオイゲンさんとの出会いもこの島での事件がきっかけである。

 そんなアウギュステには、勿論依頼以外でも来ている。騎空士にも休みは必要、のんびりバカンスを楽しむのにアウギュステはうってつけである。だからこそ俺達は、今年の夏もアウギュステへと赴き休暇を楽しもうとしたわけであったが──。

 

「──落ち着かねえ」

 

 砂浜(ビーチ)でパラソルで日差しを遮ってビーチチェアに座った俺は、ソワソワとどうも落ち着かないでいた。

 

「なに一人ソワソワしてるのよお兄さん」

 

 そんな俺の様子を見てやってきたのは、片手にトロピカルなジュースを持ったイオちゃんだった。

 

「いや、なんか……本当に今休暇だよね?」

「ほんとに何言ってるのよ」

「実感がなくて……ジータが問題起こしてたりしない?」

「安心しなさいお兄さん、ジータはあそこでビーチバレーに夢中よ」

 

 イオちゃんが指さす先には、砂塵を巻き上げる強烈なレシーブを放ち、ラカムさんを吹き飛ばすジータの姿があった。

 

「ううむ、不安だ。今までろくにアウギュステで休めてない記憶が俺を不安にさせる」

「そこまで休めてなかったっけ……?」

「なんか毎回巨大海鮮ナマモノに襲われてる気がして」

「それは、まあ……そうなんだけど」

 

 思い起こされるのは、アウギュステでのトンチキ海鮮共の襲来の記憶。

 俺がアルバコアやカツウォヌスを何故か釣りあげてしまい、慌ててる内にそのまま咥えられて海中へ連れ去られ、それを追ってきたジータの攻撃で巻き込まれる俺。

 たまたま浅瀬を移動していた凶暴な巨大ンニの棘に服がひっかかり、またもそのまま海中に連れ去られ、それを追って現れたジータの攻撃で巻き込まれる俺。

 デンキンナギの時は、やつが俺に巻き付きビリビリしながら海中に(以下略)。

 改めて思い返すと、ド級災害トンチキ海鮮生物の襲来に毎度居合わせる俺と、そしてトンチキ生物に負けない暴れっぷりを見せるザンクティンゼルのトンチキ幼馴染の光景しか浮かばん。

 

「今回もそうなると思うとおちおち休めん……あのビーチバレーさえ不安だ」

「どこに不安な要素があるのよ」

「あのボールが実はヴィーチ・ヴァ・レイみたいな名前の大型(エイ)の卵で、卵を取り返しに現れた親の鱏が襲来するとか……」

「ことアウギュステだと否定しきれない不安を言わないでっ!?」

「うぅ……きっとレイって言うくらいだから光線(ray)を撃つんだ……光属性かもしれない……」

「落ち着いてお兄さん。存在しない魔物の詳細を想像しないで」

「いっそ俺もメグちゃんに着いてってパトロールでもすればよかったか……」

 

 アウギュステで起きた過去の騒動の中で知り合ったサメに好かれた少女の事を思い浮かべる。確か魔物出没地域に近いビーチへ自主的にパトロールに行っているはず。

 

「メグはメグで楽しんでるからほっといてあげなさい。あと一緒に居るとまりっぺに睨まれるわよ」

「あ~まりっぺちゃんね。俺がメグちゃんといると妙に睨みつけるけどなんなんだろうあれ。別にメグちゃんいなきゃ普通なんだけど……なんかヴィーラさんと同じ気配を感じる視線なんだよな」

「……その内お兄さんにも解るかもね」

「なんですかね、その呆れた表情と物言いは」

「さあて、なんでしょーね。それで? そんな事考えてお兄さんはせっかくのバカンスに馴染めず遊ぶわけでも身体休めるでもなく、ただ不安げにウジウジしちゃってたわけ?」

「そうなるね」

「お馬鹿ね」

 

 とてもストレートな感想を言われてしまった。

 

「お馬鹿ですか……」

「うん、お馬鹿ね。久しぶりのアウギュステでお休みなのよ? そんな事してたらダメじゃないの」

「そうは言うけどもねイオちゃんや」

「言い訳無用!! くらえっ!!」

「冷てぇい!?」

 

 イオちゃんは不意に持っていたジュースを俺の頬へと押し付けるようにして渡してきた。氷で冷えたジュースに悲鳴を上げ、危うく中身が零れそうになるがなんとかバランスをとって受け取る。

 

「それ飲んで少しは気分切り替えたほうが良いわよ」

「いや、これイオちゃんのじゃ」

「ううん、お兄さんにあげようと思って」

「へ?」

「だってここに来てからずっと落ち着かないでソワソワ不安そうにしてるんだもん」

「そ、そんな最初からわかりやすかった……?」

「うん、すっごく」

 

 どうも俺の分かりやすさは相変わらずのようだ。

 

「そりゃ今までカツウォヌスやら出たりもあったけど、初日からそんなんじゃあずっと楽しめないわよ」

「ま、まあ確かに」

「なにか出てもその時はその時!! ジータもあたし達もいるし、直ぐ解決できるわよ」

「う、うむ」

「わかったらまず楽しむ時は楽しむ!! ようはメリハリをつけないとね。バカンスってそういうものでしょ?」

「……っ!!」

 

 空の太陽にも負けない眩しい笑顔を向けるイオちゃんを見て、俺は目が覚める思いだった。そして同時に自分を恥じた。同じ騎空団の仲間とは言えまだ幼い少女に気を使わせてしまったのだ。

 

「……美味い」

 

 一口含んだジュースの味は、俺を叱咤するかのような強炭酸であった。

 

「俺が……間違っていた……」

「え、いやそんな深刻にならなくても」

「イオちゃん!!」

「はいっ!? え、なにっ!?」

「付き合ってくれっ!!」

「~~っ!?」

「ぐえっ!?」

 

 勢いで頼み事をしようとしたら、イオちゃんの中々鋭い右ストレートが身長差もあって俺の腹部にめり込んだ。

 ──あと何故か勢いを更に増したジータの放つスマッシュボールに吹き飛ばされるラカムさんの悲鳴も聞こえた。

 

「おげ……な、なにを……?」

「ここここっちのセリフよ!? 突然何言いだすのよ!?」

「なにって……よければ今日一日付き合ってほしいなと……俺未だにあんま海の遊びわかんないし」

「あ、そう言う……言い方アァ!!」

「ぐふぅ!?」

 

 何故かもう一発拳を腹に叩き込まれた。

 

「あんまり迂闊な事言わないでよ……!! お兄さんただでさえアレなんだから……多分ジータ聞こえてたわよねあの感じ……」

「た、ただでさえアレってなに……うぐぐっ!?」

「それは……あ~もう!! わかんなきゃそれでいいから!! と言うかバカンス付き合って欲しいんでしょ!! だったらまず……言う事があるんじゃないかしら?」

「い、言う事?」

「そっ!! ……海辺のバカンスでレディが水着に着替えてるのよ?」

 

 僅かに頬を赤くしたイオちゃんが、期待した視線を俺に向ける。はて、何か言うべき事があったかな? と思ったが、直ぐに答えが見えた。そう言えば俺は水着に着替えた彼女を今日初めて見たはずだ。

 

「うん……とても似合ってます」

「ん、ありがと」

 

 誰かの水着を褒める事を意識した事などないので少しわざとらしくなってしまったが、本心で褒めたのが伝わってくれたのか、イオちゃんはとても満足気で、そして誇らしげだった。

 

「ほんとならお兄さんから言うんだからね」

「め、面目ない」

「あとちゃんとジータやルリア達も褒めておくこと!! きっと期待してるわよ」

「……確かに、今日ビーチに来てからろくに話してない気がする」

 

 いや、なんかは話してはいるんだと思う。どうもイオちゃんの言う通り、俺はずっと上の空だったようだ。

 

「わかった、ちゃんと褒めとくよ」

「わかればよろしい。それじゃ行くわよ!!」

「へ?」

 

 話が落ち着いたと思ったら、今度はイオちゃんがどこかへと行こうとする。

 

「ど、どこへ?」

「どこへもなにも、遊びによ!! バカンスの時間は待ってくれないわよ!!」

「ちょ、イオちゃんっ!? まだこれ(ジュース)飲み終わってな……ちょ、ちょっと待ってくれえい!!」

「ふふ……!! レディのバカンスに付き合うんだから覚悟してよね!!」

 

 走り出したイオちゃんを慌ててジュースを飲み干し追いかける。太陽に照らされた彼女の足取りは、上機嫌で軽やか視線の先を駆けて残す砂浜の足跡は、まるで俺を誘うかのようだった。

 

 ■

 

 五 青い夏のエピローグ

 

 ■

 

「……イオちゃん出ると思い出まで爽やかだな」

「私のバレンタインが爽やかじゃなかったと!?」

「ええ、はい」

「そんな憐れんだ目で見ないでくれ!!」

 

 カタリナさんがチョコハザードを爽やかと言えるなら爽やかなんだろう。俺はそう思わないけども。

 しかし思い返してみれば、本当にイオちゃんとのバカンスは、実に有意義で充実したものだった。

 ビーチで遊び、海を楽しみ、食事を堪能し、アウギュステを満喫したと言っていい。蒼い空と青い海は、いつでも俺達を歓迎していた……のであるが。

 

「……まあ、トラブルが無かったと言えばウソになる」

「うむ、まあ確かに」

 

 結局はアウギュステ、魔物のみならず驚異的進化を遂げた海鮮ナマモノ共の巣窟。やっぱり出た。

 

今まで(カツウォヌス)やつの(カキフライ)生き残り(サメ)だったりしたのは、果たして運が良いのか悪いのか……」

「新種が出るよりは良いんじゃねえかなあ……たぶん」

「違いない」

 

 ビィの言う通り新種でないだけ良いのだろう。今まで見覚えのある海鮮共だったのは不幸中の幸いだと思う事にする。どっちみちメグちゃんが張り切っていたのは変わらない事だ。

 

「──おにいーさんいる~?」

「おや?」

 

 海とチョコの記憶のギャップに頭を抱えそうになったが、廊下から俺を呼ぶ声がした。声の主は丁度思い出に登場していたあの子のようだ。

 

「入ってどうぞー」

「はーい……って結構人がいる」

 

 入室してきたのは、やはりイオちゃんであった。

 

「書斎からワイワイ声がすると思えば……なにしてたの?」

「ちょっと思い出話をね」

「へえ、例えば?」

「バレンタイン」

「うわ」

「“うわ”とは何だ“うわ”とはっ!?」

「ああ、ごめんカタリナ」

 

 思わず出ただろうイオちゃんの言葉にプリプリしているカタリナさん。別にイオちゃんはカタリナさんのチョコを思い出したとも言っていないのだが、チラッと向けられた視線から全てを察したのだろう。そろそろチョコいじりは止めてあげよう。

 

「あとはまあ……夏のバカンス、イオちゃんとの思い出をね」

「あ、あらら」

 

 そのまま何を話していたか言ったところ、イオちゃんは少し恥ずかしそうに頬を抑えた。

 

「な、なによーお兄さんったら、そんなにあたしとのバカンス楽しかったの?」

「ハチャメチャに楽しかったです」

「もー……もぉ~~!!」

「痛いいたいイタイ……!?」

 

 どうも恥ずかしかったらしく顔を赤くしたイオちゃんは、「やだもー!」と言いつつ俺の腰辺りをビシバシ叩いてきた。地味に痛い。

 

「……お兄さん!!」

「はい?」

「わ、私とのバカンスも楽しかったですよね!!」

「へえ? あ、うん。そりゃもちろん」

 

 何故か急にルリアちゃんが割り込んでくる。しかしルリアちゃんとのバカンスが楽しいかなどと聞かれても答えは一つ。

 

「ルリアちゃん達とのバカンスなんだから楽しいに決まってるのだ」

「……そこで“達”ってつけるのが実に兄貴だなぁってオイラ思うぜ」

 

 ビィの何故か呆れた物言いに、女性陣達は「うんうん」と頷いていた。

 

「おっと~? なんか急に風向きが変わった気がするぞ~?」

「いや、ある意味安心なんだけどね?」

「まあ、君は君のままいてくれ」

「うぅ~なんだか複雑ですけど……私もそう思います……」

 

 なんだこのチクチクとした微妙な針の筵は。ちょっと痛いけど痛くない、けどやっぱり痛いような針の筵に座らされたような居心地……。

 

「……けど楽しかったのはほんと!! 次は初めからちゃんとアウギュステ楽しむわよ!!」

「あ、ああ……もちろん」

「きっとまた良い思い出になる。今から楽しみにしておこう」

「そ、そうですね……!」

「アウギュステだってまだまだ知らない場所もありますよ!!」

「なんだかんだあの島広いもんな。次は色々みんなで色々回ろうぜ兄貴!!」

「お、おう……うむ、確かになんか楽しみになってきた!!」

 

 イオちゃん達との会話より、次の夏での楽しみが溢れてくる。

 そうさ、どんな海鮮共が現れたところで俺達ならば大丈夫。それらを乗り越え海を楽しんでみせる。

 ……と、じゃあなんか切りも良いので軽く食事でもとろうかと皆で「あはは」と笑いながら部屋を出ようとしたところ──。

 

「──私だって海楽しかったもんっ!!」

「なにっ!? この声は!?」

「ジータです!?」

「どこだ!?」

 

 突如聞こえるジータの声。だが扉は締まっており誰も入ってきてはいない。声はすれども姿は見えず……我らが団長は何処かと俺達はキョロキョロ部屋を見渡す。

 

「ま、まさか!?」

 

 突然の事で声がした場所を見失った俺達だが、そんな馬鹿なと思いながら一斉に顔を天井へと向けるとそこには──。

 

「ここだよおっ!!」

「おわああぁぁ────っ!?!?」

 

 天井には身体を広げたまま、俺達を見降ろすように張り付くジータの姿が!! 

 

 ■

 

 六 上から来るぞ! 気をつけろ! 

 

 ■

 

「ジータが天井に張り付いてますぅ!?」

「お前いつの間にいたのっ!?」

「ずっと居たよう!!」

「ずっと!?」

「お兄ちゃんがここで仕事始めた時から!!」

「俺達ずっと天井にお前張り付いてるのに仕事してたのっ!?」

「なんで気付いてくれないの!!」

「なんで気付かれないんだよ!?」

 

 今までルリアちゃん達と仕事してる時、頭上に張り付いたジータがいたと思うと恐ろしくなる。

 

「さては気配消したなお前!!」

「……ちょっとだけだよう」

「お前の“ちょっと”は幻影レベルの気配遮断だろうが!! そもそもそんなとこでなにしとるんじゃお前は!?」

「……仕事終われば特訓付き合ってくれないかなぁ~と思って……ここで待ってようと」

「天井張り付いて待つ奴あるか!! 間者かお前はっ!?」

 

 どうも天井のわずかな窪みや溝に手や足を引っ掛けて張り付いているようだ。なんなのこのビックリドッキリ幼馴染は……。

 

「それで……なんで急に声かけたんだ?」

「……一人で天井に居るのさみしくなって」

「いや、そもそも天井に居なきゃいいじゃんか……」

 

 ビィが至極当然な事を言って皆頷いた。

 

「だって見つかったら書類仕事させられるし」

「だってもくそもお前の仕事なんだよ。はよ団長印押さんかい」

「すごい量じゃんだって!!」

「おめえがため込むからだよ!!」

「じゃあもっと書類仕事しても良いかな~って時に声かけてよぉ!!」

「子供かおのれは!?」

15歳(こども)だよ!!」

「そうだけどそうじゃねえ!!」

「じゃあどう言う……あ」

「ゲッ」

 

 空しい口論が続きそうだったが、口論の勢いでジータの天井を掴む力が緩んだらしく、ふわりと天井からジータが剥がれ落ちてきた。このままでは腹ばいで床に落ちる。

 

「はわぁ!? ジータ危ない!!」

「うおおおお!?」

 

 咄嗟に腕を伸ばしジータを受け止めようとした。するとジータも反射的に俺の手をとろうと腕を伸ばす。

 そしてそのまま──。

 

「受け止め゛ぐえぇ──ッ!?」

「あ、しまった……!!」

「兄貴いぃ──!?」

 

 俺の両手は空振りし、ジータの伸ばした両手は手刀の形となり俺の鎖骨を直撃、そのまま衝撃で膝をつく。そしてジータは普通に着地した。

 

「兄貴しっかりしろぉ!?」

「お、お兄ちゃんゴメン!! レスラーの特訓の癖でつい手がチョップに……!!」

「なるか~!? 普通ぅ……!? あぐぅ~!?」

「わー!? カタリナ、ヒールヒール!! 私右肩やるから!!」

「よし、なら左肩を!!」

「お、お兄さんしっかりしてください!!」

 

 イオちゃんとカタリナさんが全力で俺の両肩をヒールで癒してくれている。

 こうして、ジータの書類仕事やらは有耶無耶となり、ついでにジータはその時「ふと閃いた」らしくレスラー新技“ザンクティンゼリアンチョップ”を取得。俺の鎖骨を両断しかけたその刃の如き手刀は、防御事粉砕両断するため防ぎえぬチョップとして魔物やら帝国兵やらを再起不能にしている。

 

「俺という犠牲に感謝せい」

「ありがとうございます」

 

 技を使う度感謝しているという──。

 

 ■

 

 七 こっちじゃ団長 どっとはらい

 

 ■

 

「という夢をみたんだ……」

「そ、そうなんだ……」

 

 ある日の朝、食堂で朝食の準備をしている時。この日の朝食係の一人であるヴェトルちゃんが来てくれたので、なんとなく今朝見た夢──ジータの騎空団で副団長として激務に追われつつ、なんやかんやでジータのフライングチョップを食らい鎖骨を粉砕しかける話をしたが、すごく複雑な顔をされた。そりゃそうか、ごめんね。

 

「……ところで、その……団長さん?」

「ん?」

「……首、どうしたの?」

「ああ……」

 

 ヴェトルちゃんが恐る恐る俺の首について聞いてきた。この朝食の準備をしながらも、ちょい傾いているおれの首の事を。

 

「鎖骨ぶっ叩かれた時に目を覚ましたらね……首寝違えてた……」

「い、痛いの?」

「軽く斜めにしてれば平気」

 

 まったくもって酷い目ざめである。夢の中でもあの最終兵器幼馴染はパワフル全開だった。

 

「ちなみにさ、この場合夢占いの結果ってどうなるのかな」

「え、えっと……うぅ~ん……」

 

 夢占い師でもあるヴェトルちゃんに夢占い的な考察を聞いてみる。彼女は困った表情をしていたが、ふともう一度視線を俺の首に向ける。

 

「……首を寝違えただけだと思う」

 

 どうやら今の俺に必要なのは、占いではなく整体のようだった。

 

 




約一年と五ヵ月ぶり、遅ればせながら「スーパーザンクティンゼル人だぜ?」投稿
エルデの王になったり、ルビコン焼いたりしてました……。

前回の投稿のあとがきで「もうすぐ9周年」とか言ってますよ私、ガハハ!
もう十周年も過ぎとるわい!!

前から書きたいなぁ~ってネタを今回書きました。チョコとか。
季節ネタやIFネタはまだまだやりたい。
まあそれより本編先にですけども。

いや十周年イベ良かったですね。すごく……すごい……
なんか、あれ……るっの感じだとフェニックスわりと普通に来ちゃう感じですか? 急にハウヘトになってプレイアブルとかする気じゃないだろうな……いや、して良いっ!!

まあ衝撃としては……メイガスでね。
投稿初期の頃ちょっとパンデモニウムの事書いて、その内団長くん行かせる話書こーとか思ってたら公式の情報が濁流となって押し寄せて来てうやむや……いや、けどその内書きたい。
けど卜者もじゅうぶん衝撃でね。
早い早い早い!! プレイアブル早いよぉ!? ホルスが面白いキャラしてるからちくしょう!!

クロエSSRやったー!!
思いつきのパーティーメンバーのSR~SSR昇格が進んで嬉しい限りですよ。

バ、バステト……!? 褐色キャラ増えすぎじゃないか!?


次回からは「スーパーザンクティンゼル人だぜ?」本編に戻ろうかと思います。
一部は以前に活動報告にも書きましたが、(完成したら)投稿予定は

「”ヤツら”が噂の騎空団……?」
「ガルーダ虫歯になる」

みたいな話を考えてます。思いつけば他にも色々。

感想、誤字報告等すべて励みとなっております。
あいかわらずゆっくり投稿となりますが、今後もよろしくお願いいたします。
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