将来の夢:魔界の覇者。



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鈴木の妹

 私は鈴木の妹である。

 名前は兄の気分で時々変わる。

 

 

 

 いや、鈴木ってどこの鈴木だよ。そう思う人も居るだろう。なんといったって、日本の中でも二番目に多い苗字なのだから当然だ。

 だがしかし。もしこの私と"前世"の世界を同じくする者が居たならば、鈴木の前に「美しい魔闘家」とつければわかりやすいのではなかろうか。

 

 

 美しい魔闘家鈴木。

 

 

 この単純だが奥深い二つ名にぱっと思い至る人が居たら、それは「幽遊白書」という漫画の愛読者だろう。かく言う私も、その愛読者の一人である。

 鈴木は漫画、幽遊白書に出てくる登場人物の一人だ。しかし何故私がその鈴木を兄などとほざいているかと言えば、妄言などではなくそれがただただ真実であるからにほかならない。

 

「花子! いよいよ暗黒武術会だ。この大会で優勝すれば、兄は伝説への第一歩を踏み出すことになる!」

「はいはい」

「なんだその気のない返事は! お前も選手の一人なんだ、もっと気合いをいれろ気合いを! 俺の美しき歴史の一ページには、妹であるお前も確実に名を残すことになるのだからな!」

「あーいあい」

「なぜもっと適当になる!? いいか、今回俺が結成するチームの名前は裏御伽! その中でお前の役目は裏乙姫だ。いいか、姫だぞ、姫。名前負けしないよう美しく振る舞えよ。俺に恥をかかせないように気を付けるんだ」

「分かった、分かった」

 

 乙姫か。ってことは、私が居ることでナチュラルに裏浦島がリストラされた、と。

 乙。激しく乙。乙姫だけに。あ、あいつは浦島太郎か。

 

 たしか裏御伽チームの連中って、裏浦島が作中で話していた事を思い出すに、大半がお伽話の悪役とか登場人物の邪念で出来た思念体みたいな妖怪だったはず。裏浦島の正体が豚の幻魔獣だったところを見るに、本当かどうかは怪しいが。

 とにかく、お兄ちゃんに与えられるアイテムも、もととなったおとぎ話由来となるはずだけど……この分だと、私に与えられるアイテムも"アレ"だろう。設定にこだわる兄の事だから、きっとお伽話系で統一するために私に乙姫役を割り振ったんだろうけど今はそれに感謝するか。

 

 何故ならそれは私にとって、かなり都合がいい事だからだ。

 っていうか、アレが無いと困る。たしか裏浦島の対戦相手は……。

 

 

「フハハハハハハ!! 俺、否、私の……この私の美しき野望への第一歩! 他の雑魚共など蹴散らして燦然と輝く栄光の道を突き進んでくれる!」

 

 

 適当に流してたけど、いい加減うるさくなって広辞苑の角で殴ってやった。なにか文句を言っていたけど、煩い方が悪いのだ。唾だって飛んでくるし、汚い。

 

 あと、私にとやかく言う前にあんたはそのピエロみたいな姿どうにかならんのか。試合には怨爺というていで老人に扮装して出ることになるようだが、その姿を捨てた時の真の姿がそれって、完全にネタ枠じゃねーか。いや、正しく美しき魔闘家鈴木はイロモノ枠のネタ枠だけど、それだと今度は私が恥ずかしい。これを兄だと思われたくない。

 ……そう思ったので、わめく兄に言ってやった。

 

「それより、私に恥をかかせるなという前にお兄ちゃんの方が気を付けてよ! なにその恰好超ダサイんだけど」

「なんだと!? お前にはこの美しさが分からないというのか、嘆かわしい! それと兄を殴っておいて流そうとするな! あと「お兄ちゃん」ではなく「お兄様」か「兄上」と呼べ。こう、もっと敬った言い方をだな……」

「じゃあ今日からお前鈴木な」

「何故呼び捨てになるんだ! ええい、好きに呼べ好きに!」

 

 偉そうだけど、なんだかんだ言って兄は私に甘い。

 ……これぞ、私の妖力ならぬ妹力(いもうとりき)よ!

 

 と、冗談は置いておいて。

 今現在鈴木の妹として生きている私であるが、いわゆる転生者というやつらしい。らしい、というのはこの記憶が私の頭の中だけにある曖昧なものだからだ。

 

 

 

 人間の精神を宿したまま妖怪として生まれた私は、訳も分からぬまま妖怪世界で兄と二人で生きてきた。

 

 私と兄は生まれた時から強い妖気を擁する妖怪と違って、いわゆる"雑魚"に分類される種族だった。そのくせ見た目が人間っぽいもんだから、強い妖怪にはいいようになぶられたものである。

 しかし理不尽な暴力に怯える私と違って、兄はそれに全力で抗った。そして、才能はあったのだろう。兄は様々な妖怪から生きる術を、戦う術を、そして強くなるための術を学び、時に奪い取り、強くなった。

 特に妖気を自在に操る能力が凄まじく、それを活かした魔道具作りなど芸術の域にまで達する事となる。……まあ、こういった生い立ちの過程である程度性格は歪んだけど。

 

 そんな私の兄、鈴木は現在美しくあり、美しく散ることにこだわっている。なんでも老人は醜いから、老人になる前に死にたいけどその前に超美しい伝説をこの世に刻みつけたいらしい。自分が主役の恐怖神話を作りたいんだと。まあ、以前田中って名前だった時に逃げ出してしまった戸愚呂弟を相手にリベンジしたいって気持ちもあるんだろうけど。プライド高いんだよなお兄ちゃん。それにどれが建前でどれが本命かも時々分からない。キャラづくりも含めて。いや、全部本気なんだろうけどさ。

 そして、もうすぐ開催される暗黒武術会はその神話の第一歩だとか。あの大会は優勝すればどんな望みでも叶えてくれるらしいが、兄にとってそれはゴールではなくスタート地点に過ぎないようだ。その心意気には感心する。

 

 

 しかぁし!!

 

 

 伝説づくりならチラシの裏にでも書きなぐってろ!! 私の目的はそんなチンケなものではない!!

 

 幼い頃は世界に怯え、兄の背中に隠れていた私だが、私とて理不尽に怒りを感じなかったわけではない。それに、私の前世である人間はとてもつまらない人間だったのだ。何も世界や歴史に爪痕を残す事も無く、誰に頼られる事も愛される事も無く、地味に、惨めに死んだちっぽけな人間。

 

 せっかく妖怪になったのだ。あんなつまらない人生、もうたくさんだ。

 

 だから私には胸に抱く大きな野望がある。

 

 

 

 

 

 

 

 それすなわち、いずれ来たる魔界統一トーナメントで優勝し、魔界の覇者となることDA!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふっふっふ。なにそれ超かっこいい、私かっこいい! 

 当然今のままでは到底無理な夢であるが、私には虎の子の幽遊白書知識がある。それによれば、この兄の鈴木ですらS級妖怪レベルの力を手にいれることができるというではないか! 素晴らしい!

 

 しかし、そのためには師が必要だ。兄を成長させた、素晴らしい師が!

 

 彼の下で鍛えることが出来た暁には、妖力が増えた分寿命だって延びているはずだ。私はその長い寿命の中で、魔界の王者となって君臨するのだ! 特に王様になってやりたいこととかないけど! 

 だって魔界統一トーナメントに優勝したいだけで、別に命令したい事とかないし。政治とかもぜーんぶ人任せにするつもり。私はとにかく、私はこの世界で生きた証たる最高のトロフィーが欲しいだけなのだ。王になった後の事なんて、その時考えればいいのよ。

 

 

 とまあ、それが私が掲げる野望である。ふっふっふ。我ながら野心家よのぉ。悪いわねお兄ちゃん、妹は兄を越えていくわ! だからそのためにもせいぜい利用させてもらうから!

 

 

 

 そして、私の野望の第一歩もまた、兄と同じで暗黒武術会がスタート地点となる。

 

 何故なら!

 

 

 

『浦飯チームVS裏御伽チームも、あっという間に第三戦目! さて、続いての選手は……』

 

 司会の色っぽい竜人っぽいおねーちゃんの美しい声が響く。たしかあの人は将来兄にフラグを立てる人! 機会があれば仲良くしておきたいものだ。

 そして彼女が読み上げた対戦カードであるが、死々若丸がサイコロで決めようとか言い始めたせいで完全に運で決まる。

 

 すでに我がチームは先の戦いでパン一の魔金太郎とDQNの黒桃太郎が、主人公を差し置いて人気投票第一位をかっさらう邪眼の先駆者飛影様に負けている。そのため残っているのは私、裏乙姫こと花子と、死々若丸、怨爺こと兄の鈴木の3名だ。……といっても、先の二人は兄と死々若丸にとっては捨て石らしいけど。戦果として、飛影は深手を負っている。

 私はドキドキした内心を隠しつつ、死々若丸が賽を振るのを見ていた。……ここまでの試合を見る限り、物語は私が知る漫画と同じように進んでいる。ならば、次の対戦カードはあのお方とこの私!

 

『第三戦、選手は蔵馬選手VS裏乙姫選手!!』

「っしゃあ!」

 

 思わずガッツポーズをとったら、死々若丸に後ろからどつかれた。

 

「ちょっと、何すんのよクソガキ!」

「クソガキにクソガキとは言われたくないな。それよりチームの品位を落とすような真似はやめろ。ただでさえお前みたいな雌のクソガキが紛れ込んでるせいで周りから妙な目で見られているんだ」

「品位を落とすと言ったらパンイチとDQNのが落としてんじゃん! 見るからに粗野で! 私なんて上品なもんでしょ。それにクソガキ言うの腹立つからやめなさいよ。私あんたより年上なんだから!」

「見えんな」

「きぃぃ!! ちょっと人より成長が遅いだけよ!」

「とにかく、雌のガキというだけでも我がチームを託児所と勘違いされるというのに、服までそんなみすぼらしいものを着てくるざまで文句を言うとは実に図々しい。あと、やかましい。何故お前のような奴がチームに居るのか不思議だよ」

 

 くっ、この死々若野郎……! 私が兄との関係を隠して(兄が正体を隠しているためだ)チームに入ってからというもの、飽きもせず悪態をついてきやがって。

 

 ムカつく! こいつ嫌いよ!

 

 しかし私が文句を言おうと口を開くと、そこにじいさんに扮した我が兄からもツッコミが入る。

 

「だが、裏乙姫よ。死々若丸の言う事ももっともじゃぞ。衣装はどうした?」

「え、寝坊して着るのめんどくさかったから着てこなかった。あれ動きづらいし、パーツやたら多いし。髪の毛のセットも時間かかるし……」

「おぬしが悪い」

「なんで!?」

 

 お兄ちゃんの裏切り者! 正体を隠してるからって、なんであんな奴の肩をもつんだ! くっそぉ死々若丸の勝ち誇った顔がムカツク。あの触覚みてーな前髪引っこ抜いてやろうか。

 ……まあ、よく考えてみれば兄がああ言うのも当然っちゃ当然だけど。そりゃ美しさにこだわる兄が用意した悪の乙姫っぽい衣装をガン無視してジャージで来てれば怒るわ。でもあれひらひらしてて動きづらいんだよ! パン一魔金太郎の回しとまではいかなくても、もうちょっと動きやすい服にしてくれたらいいのに。可愛かったけど。

 

 

 

 

「……そろそろ試合を始めたいのだが、構わないか?」

「あ、すみません」

 

 あ、やべぇ。死々若丸につっかかってたら対戦対手を置いてけぼりにしていた。しかも相手は私が一番ないがしろにしてはいけない人物ではないか!! なんといったって彼は……。

 

『え、え~。では裏御伽チームの微笑ましい喧嘩も落ち着きましたところで、試合を開始します』

 

 どこが微笑ましいって!? って、それは今はいい。早く武舞台にあがらないと。

 私は最後に死々若丸を睨みつけてから、慌てて戦いの舞台へと昇った。そして相対するのは、私がコネクションを作りたくてたまらなかったお方。

 

 

 私の師匠となっていただく、蔵馬様だ!!

 

 

 いずれ兄と他数名を魔界で通用するレベルまで鍛えてくださる人だ。実質的な指導は確か幻海様も携わっていたはずだが、彼女にコネを作るのは現状ちょっと厳しい。確かあの人、大会中に戸愚呂弟に殺されちゃうからな。それに性格的にも簡単に弟子はとらないだろう。兄たちは蔵馬氏の紹介あってこそ、その指導を賜れたのだと思う。

 本当は弟子選びの時に乱童みたいに紛れ込もうかとも思ったけど、それでうっかり弟子になったら主人公の浦飯が強くなれないから却下。

 魔界統一トーナメント開催に至るまで彼の存在は必須。出来るだけその道は邪魔してはならないのだ。

 

 

 

 

『では、試合開始です! 始め!』

 

 試合がスタートされるなり、相対する人物は植物の蔦を武器に洗練された動作で構える。ぱっと見ただの人間の子供みたいな私相手にも油断した様子は見受けられない。……いや、子供っつっても中一くらいには見えるだろうから、外見だけなら浦飯チームも似たような年齢層か。あの人ら確か中学生だし、飛影は私よりチビだし。

 赤みを帯びた髪の毛に、女性とも見まがう美しい顔立ち。その彼がこちらの出方をつぶさに観察している。……多分、ぱっと見普通過ぎるから逆に警戒しているんだろう。

 

 そして、その警戒は正しい。

 

 私も彼に倣い、武器を取り出す。

 私が用いるのは先にリング状の刃がくくり付けられた、糸のように細い鋼鉄のワイヤーだ。これは兄ほどではないが妖力の扱いが得意な私が妖力をそそいだ特別な一品で、わりと自由自在に操れる。まずこれを用いて、兄のよこしたアイテムを使うための結界を構築しなければならない。

 

 そう。私は兄からもらった、相手を若返らせるアイテム逆玉手箱を用いて、対戦相手の妖狐蔵馬を胎児を通り越して彼の前世の姿まで逆行させなければならない!

 

 そして、蔵馬はこの試合で逆玉手箱に興味津々となるのだ! 私はそこをどうにかコネクションに繋げて、弟子入りしてみせる!

 

 いずれ兄が弟子入り(?)する事になるとはいえ、それにくっついていくのを待つのでは遅いのだ。出来れば早々に弟子入りを果たし、主人公たる浦飯幽助が体験する幽遊白書の物語をこの目で実際に見て追っていきたい。魔族の先祖返りである彼の戦いは、きっと私の成長の糧となるはずだ。そうなれば魔界の王への近道ってもんよ! っていうかこれまでの浦飯チームの戦いもすっごい見てたけど!

 

 

 …………。いや、それにしてもでも改めて考えると今回のゲストチーム強すぎだよな。元A級妖怪が二人と魔族の子孫が一人、人間だけど超有名で実力者な霊光波動の継承者が一人。その中に居る正真正銘普通の人間である桑原ってすげぇわ……。

 

「考え事とは、余裕だな」

「!」

 

 顔のすぐ横を、蔵馬氏の蔦が鋭く過ぎ去る。避けられたけど、いつの間にか動かない私にじれて彼から攻撃を仕掛けてきたようだ。それに対し、私もやっと行動を開始する。蔵馬と私の武器が高速でぶつかり合い、両者の間で火花が散った。

 

『こ、これは凄い応酬です! 両者の間に火花の壁が見えるほど!』

 

 的確に戦況を実況するのは、観客席がわに居る狐耳が可愛い司会者だ。戦いは彼女の言う通りで、私は蔵馬と攻防を続けながらもひそかに会場にワイヤーをはりめぐらせる。

 

 

 漫画では、私の代わりにこの場に居るはずの裏浦島は会話によって蔵馬の気を引き結界を張る。だが、私にそれは必要ない。

 私は強さを得るために、兄とは別アプローチで自身を鍛えてきた。参考にした妖気の運用方法は、幽遊白書と同作者が描くHUNTER×HUNTERという漫画を参考にしている。その中には自分が操る気を隠蔽する技もあり、現在私はそれを用いて結界を用意していた。

 幸いなことに蔵馬が気が付く様子はなく、兄ですら全ては知らない私の技はこの知将の風格半端ないお方にも通用することが分かった。これはいい発見だ。

 ……まあ無傷の私に対して彼は先の戦いによる怪我や疲労もあるから、一概には言えないのだけど。

 

 

 

 そして、結界が完成する。

 

 

 

「さて、そろそろ仕掛けさせてもらうわよ!」

「! これは……」

 

 私が妖気の隠ぺいを解除すると、やっと蔵馬が結界に気づいたようだ。しかし、もう遅い。

 

 ……だけど、私の気分は正直言って罠にかけてやったぜ! なハイテンションなものではない。むしろ絞首台に向かう囚人の気分だ。

 だってこれ使ったら、あのお方が姿を現す……! いや、そのためにやるんだけど!! でもS級妖怪を目指すと言っても今の私はあの方から比べれば紛れもない雑魚であるからして!!

 

 

 が、もたもたしていては相手に隙をつかれ、使う前に負けるかもしれない。そんな失態一番あってはならぬ!

 

「裏御伽闇アイテム! 逆玉手箱をくらって胎児まで若返るがいい!!」

 

 

 

 

 そして、逆玉手箱を使用してアイテム効果の煙が結界内を満たしてしばらく。

 

 

 

 

 おぞけだつような強力な妖気に、私は腰を抜かした。

 

 

 

 

「ふうぅ……。まさかまた、この姿に戻る日が来るとは」

 

「あ……」

 

「……妖狐の、姿にな」

 

 

 

 そこにおわしたのは、冷たい瞳をした、神々しさすら感じる銀髪の妖狐だった。

 これがかつてその悪名を馳せた、伝説の極悪妖怪、妖狐蔵馬の正体だ。

 

「さあ、お仕置きの時間だ」

 

 

 

 

 

 わー、勝てる気しねー。

 

 

 

 

 

 

 私は乾いた笑いをうかべたが、彼が魔界の植物を呼び出しながら私に逆玉手箱の秘密を聞いてきたところではたと我に返った。

 どぎつい蔵馬の妖気にあてられつつも、私はなんとか平静を装う。そして言った。

 

 

「弟子入りさせてくれたら教えてあげてもいいわ!」

「………………ん?」

 

 蔵馬が首を傾げた。めっちゃこわいのに狐耳があるからか、なんか可愛い。

 しかし流されてしまっては困る!

 

 私は再度言った。

 

「あなた様に弟子入りさせていただけたら喜んで教えさせていただきます!」

 

 言った瞬間、結界を突き破って刀が飛んできた。私はそれを叩き落とすと、ぎっと目じりを釣り上げて刀が飛んできた方向を見る。

 

「死々若丸この野郎! なにすんのよ!」

「役立たずの裏切り者に死を与えようとしただけだが? 妖気にあてられたからといって、簡単に寝返るとは見苦しい」

「はーん! 死をあたえるぅ~? 出来るもんならやってみな! バーカバーカはーげ!」

「罵倒まで低俗だな貴様は」

「うっさい! 私は今、人生の師を見つけたところなの! 邪魔すんじゃないわよ!」

「何を言っとるんじゃ裏乙姫!?」

『おーっとこれは急展開! 煙で見えなかった舞台が見えてきましたが、なんと裏乙姫選手、蔵馬……選手? に、弟子入りを表明……。って、あれ? 蔵馬選手は? あの銀髪の妖怪は……』

 

 私を殺そうとした死々若丸と、お兄ちゃんのつっこみが入る中……。結界が壊れたため、逆玉手箱の効果が消えて蔵馬は、銀髪の妖狐からもとの姿に戻ってしまった。視界のおねーちゃんもそれに気づき、さっきの妖怪が蔵馬だと認識する。

 そして当の彼はと言えば、どうやら困惑しているようだ。多分、攻撃していいのか迷ってるんだろう。

 

 そこでまず、私はいったん区切りをつけることにした。

 

「あ、試合は私の負けで! まいった!」

「お前何言っとるんじゃ!」

『まさかの裏乙姫選手、敗北宣言です! いったい煙の中で何があったのでしょう!』

 

 熱い手のひら返しに会場がざわつく中、私は蔵馬師匠に駆け寄った。試合終わったしいいよね!

 

「あの、是非ご検討を! 知りたいですよねさっきの煙の事!」

 

 まあ私が教えなくても、あとでどうせお兄ちゃんがネタバレする上にアイテムまであげちゃうんだけど! でも言質さえとってしまえばこっちのもんよ!

 

「いや、しかし」

「是非!」

「それは」

「お願いします!」

 

 蔵馬氏が何か言う前にぐいぐい行く。頷くまで引かないもんね!

 

 しかし、そんな私の後頭部を強烈な打撃が襲った。…………死々若丸である。あんにゃろ、また私の頭を殴りやがったな!

 

「それ以上醜態を晒したら殺すぞ貴様。次の試合が詰まってるんだ。敗者はさっさと降りろ」

「いいじゃんちょっとくらい!」

「ええい、下りてこんか! 仕置きは後にするとして、今は邪魔じゃ!」

「ええ~!!」

 

 お兄ちゃんにまで言われ私がぶー垂れていると、浦飯チームから何やら生ぬるい視線を感じた。

 

 

「…………。何処にでも馬鹿はいるもんだな」

「おいテメェ! 何で俺を見ながら言いやがった!」

 

 飛影と桑原か。何だと、馬鹿とは私の事か? 失礼な!

 

 そんな風に私が頬を膨らませ憤慨していた時だ。

 

 

「わかった。弟子入りの件引き受けよう」

 

 蔵馬氏!

 

「だから早く煙の秘密を教えてくれないか?」

「やったー! 喜んで!」

 

 言質とった! という喜びと共に、私は蔵馬に駆け寄ろうとした。が、今度はお兄ちゃんに拳骨をくらった上でずるずると裏御伽チームサイドに引きずられていく。

 

「ああ、師匠~~!」

「馬鹿者! これ以上恥をかかせるでないわ!」

 

 名残惜しく蔵馬に手を伸ばす私を、お兄ちゃんが爺姿のまま叱咤する。くっそ、でも言質はとったもんね! これで私がわざわざ武術会に参加した意義もあるってもんよ! あとはじっくり浦飯チームの戦いを見るだけだ。そして大会が終わったら、この言質を手に蔵馬師匠に弟子入りに赴くんだ!

 

「ふふふ……。ちゃ~んと録音しといたもんねー」

「おま、どこにテープレコーダーなんか……」

 

 私がごそごそ服の中から取り出したそれを見て、お兄ちゃんが一瞬素に戻って言う。いやぁ、この時代小さいサイズの録音機器っていうとなかなか手に入らないから隠すの苦労したわ! でっかいサイズのラジカセタイプしか手に入らなかったから!

 

 ホクホク顔の私を見て心底忌々しそうな顔の死々若丸が鬱陶しいが、まあいい。あとはこいつがフルボッコ(ちょっと違う)にされるところを眺めて悦に入ろう。そしてお兄ちゃんがフルボッコ(的確な表現)にされたら後で慰めてやろうじゃないか。なんたって可愛い妹だからな!

 

 

 

 

 

 しかし、私は知らない。

 

 決勝戦を観戦している時、戸愚呂100%でうっかり死にかける事を。

 

 

 

 

 …………耐えるくらい出来るわーと自分の実力を高く見積もりすぎてた自分が恥ずかしくなりました、まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




連載にしようと思って書きつつ、原作本編を読み直したら満足してしまったので短編仕様です。お粗末さまでした。

幽遊白書全19巻(完結)発売中!面白いよ!(ダイマ

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