悪平等のおもちゃ箱   作:聪明猴子

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その後の√に関しては活動報告でアンケートがあります。





立ち上がる元負完全

アースラから降ろしてもらって数日。

一緒に海鳴に帰ってきたなのはとユーノは逃げるように球磨川から離れ、その後も会話することはなかった。

球磨川は普通に学校に行き、普通にマイナスを振り撒き、普通に人から嫌われていた。

学校では、アリサは最早球磨川を視界に入れることさえ嫌がり車で通学するようになり、すずかは言いたいことはあるが親友二人が球磨川を致命的なレベルに嫌悪している為会話はおろか挨拶すらなく、なのははほぼ完全に無視するようになっていた。

つまり晴れて私立聖祥大学付属小学校で球磨川に話し掛ける人間はいなくなっていた。

先生からも話し掛けられない。

球磨川にとっては久方ぶりの完全な独りボッチだった。

 

『あ~あ。これって完全にいじめだよねぇ~週刊少年ジャンプだったら規制されかねない描写だよ』

 

まぁそれが彼の心にダメージを与える事はなかったが。

 

『暇だな~安心院さんともここ何日も会ってないし』

 

ボヤきつつも帰路を歩む。

今日は何を食べようかと思考を巡らせていたが、その思考はプツリと途切れる。

目の前で犬が寝てる。

大きめのオレンジ色の犬。

がっしりした体躯と恐ろしげな牙が存在する犬。

そして特徴的なのは額に輝く宝石のようなもの。

地球上にこのような生物は存在しないが球磨川には正しく覚えのある犬。

 

『アールーフーさーん』『こんな所で寝たら風邪引きますよー』

 

そんな気の抜ける様な台詞を聞いても返事も顔を上げることもしない。

聞くことはおろか球磨川がいることにも気付いていないようだ。

 

「…うぅ……ふぇ、いと…」

 

アルフは弱々しく意味を掴めない言葉を呟くだけだ。

それは本人も認識していない呻き声であることも感じられ酷く痛々しい。

 

『ん?』

 

そこで漸く球磨川は彼女が傷だらけであることに気付く。

裂傷やそれに類する種類の傷が数多く付けられている。

まるで傷の無い場所が無いかような重症。

 

『なーんだ』

 

そんな重症を見つけ、球磨川は納得した風に笑顔を見せる。

 

『はい、これで動ける筈ですよ』

 

球磨川がおざなりに発動させた大嘘憑きはそんな傷を一切合財影も形も残さず虚構にする。

 

「こ、ここは………」

 

『おはよー』『よく眠れた?』『駄目だぜ。あんな所で寝ていたら』『偶々僕が通りかかったから良かったものの、それがなかったら保健所に連れてかれていてもおかしくなかったんだから』

 

「あ、アンタは……」

 

『いつもヘラヘラ、混沌より這い寄る過負荷、球磨川禊、ですっ!』

 

大袈裟なポージングと共に名乗りを上げる。

それを見て悔しそうな顔で拳を握るアルフ。

そんなアルフを見て全てを察した球磨川はアルフの隣に座り言葉を掛ける。

追い詰める様に、追撃する様に、責める様に。

 

『………アルフさん。僕をプレシアさん、フェイトちゃんのお母さんの所に連れて行ってくれませんか?』

 

「なっ、何を言ってるんだ‼ぷ、プレシアの所に行ったりしたらアンタだって本当に死ぬよ‼」

 

確かにアルフは球磨川を嫌ってはいたが、それでも明らかに死地へと分かる場所に送り出せる程ではなかった。

そんな気遣いを球磨川禊は真っ向から螺子伏せる。

 

『アルフさん、このままだとフェイトちゃんは死んじゃうぜ』

 

アルフが考えないようにしていた最悪の可能性を提示する。

文字どおり最悪の可能性。

自分の命よりも大切な主人の死。

アルフが最も避けなければいけない可能性。

それこそどんな手を使っても。

 

「なっ」

 

『あんな虐待をする様な親の下で犯罪なんてしてるんだ。別におかしいことじゃないと思うんですよ。プレシアさんはとてもじゃないけどフェイトちゃんを愛しているようには見えないし、使い捨てが当たり前だと思うです』

 

「………」

 

『アルフさんが僕の心配をしてくれるのは嬉しいですけど、このままだと間に合わなくなりますよ』

 

球磨川がゆっくりと唆す。

水が布を浸すようにゆっくりと、しかし確実に心に這い寄る。

衝撃を与え、 心配を煽り、疑惑を煽り、思考を削る。

あり得るかもしれない可能性を提示して冷静な思考を削ぎ落としていく。

アルフにとって決して看過できない、それだけは許せない可能性。

 

『大丈夫ですよ』『僕には大嘘憑きがありますし、死ぬ事はありません。アルフさんに使ったように僕は傷を治せる。いや、なかったことにできる』『だからただ連れて行ってくれるだけで良いんです』

 

そして更に心配を無くしていく。

唯一の懸念を自分の過負荷を示して。

心身共に疲弊し切ったアルフの心に入り込む。

 

『アルフさん』『僕にフェイトちゃんを助けさせて欲しい』

 

自分の力を遥かに凌駕する強者に立ち向かう術を持たない弱者の為に立ち上がる。

自らが最底辺でありながら、それでも上を目指して喰らい付ける。

これこそが彼が箱庭学園で本来人の言う事を聞かない過負荷を従え、マイナス十三組のリーダーであれた理由。

大嘘憑きでも、却本作りでもない彼の強さ。

黒神めだかが認め、尊敬した球磨川禊のパーソナリティー。

それがこの事件で最も弱く、報われない弱者の為に遺憾なく発揮される。

 

『プレシアさんの所に連れて行って欲しい』

 

球磨川の言葉を拒否するにはアルフはあまりにも余裕がなく、弱すぎた。

 

「……………頼む、フェイトを頼むよ……フェイトを助けられるのなら何をしたっていいんだ………だから……」

 

『安心してよ』『僕は弱い子の味方だ。僕は本気でフェイトちゃんを助けるさ』

 

 

 

 

 

球磨川は歩く。

いつものようにゆっくりと。

ゆっくりと確実にお城の廊下を進む。

武装など両手に持つ螺子だけだと言うのにまるで気負わず進む。

この先に待つのが自らのことなど片手間に殺せる様な実力者だと知りながら。

それは大嘘憑きという異能があるからではない。

死んでもなかったことにできるからではない。

彼は例え大嘘憑きがなかったとしても行くだろう。

何時ものへらへら笑いを浮かべて愚かで弱い奴の味方をするのだろう。

 

「この先だ。この先にプレシアがいる」

 

『ふぅん、道案内ありがとアルフさん』

 

そう言って勢いよく扉を押し開ける。

 

『こんにちはー』『時空管理局、児童福祉課の者です。プレシア・テスタロッサさんに娘さんの件で話があって来ました』

 

「死になさい」

 

入って早々プレシアの地雷を踏み抜いた球磨川を稲妻が濁流のように呑み込み蹂躙する。

肉を焼き過ぎた焦げ臭い匂いが充満し、黒い炭の塊と化した球磨川が床に倒れる妙に軽い音が広い室内に響く。

溜めも躊躇もない一撃は確実に球磨川を死体へと変貌させる。

 

『痛いなぁ』『プレシアさん僕にだって痛みとかはあるんだぜ』

 

「ふぅん。それがあの子の言ってた大嘘憑きって奴かしら?」

 

『Exactly』『これが僕の過負荷だ。現実を虚構にする、この世で最も取り返しのつかないスキルだよ』『なあんてこれも何度繰り返したかわからない』『テンプレ染みていて新鮮味のなくなった自己紹介だよね。幾ら僕が何度も転校を経験してる自己紹介のスペシャリストであろうとこれは飽きるよねぇ』

 

「そう」

 

プレシアは全く彼の言葉を信用していなかった。

今現在狂気に蝕まれ正気を無くしていようがプレシア・テスタロッサは世紀の科学者。

道理の合わないそんな滅茶苦茶なスキルを信じられる程思考も常識も消していなかった。

少なくとも今の所は。

 

『え~』『信じてないよねぇ』『目の前で「僕がプレシアさんに焼き殺される」って現実をなかったことにしたのにさぁ』

 

「確かに私にも貴方が何かしら力を持っているのは分かるけどそんなものはありえないわ。いえ――

 

有り得てはいけないわ。

そう締め括る。

そこにはどうしようもない理不尽さとそれに対する怒りが見てとれる。

球磨川はそれを受けても何時もの態度を変えない。

へらへら笑いさえ止めない。

 

『ありえないねぇ』『僕みたいな人間と呼ぶのさえ烏滸がましいとまで言われてたマイナスにとっちゃそんな理不尽何時ものことなんだけど』

 

「貴方に!!貴方に何が分かるというの!?理不尽に奪われた痛みが!!悲しみが!!怒りが!!」

 

その言葉で球磨川は露骨に肩を落とす。

その態度は球磨川には珍しいことにポーズではなく本気で落胆しているようだ。

 

『……………はぁ』『僕ら過負荷にそれを問うのか』『プレシアさん、僕ら過負荷は』『不条理を』『理不尽を』『嘘泣きを』『言い訳を』『いかがわしさを』『インチキを』『堕落を』『混雑を』『偽善を』『偽悪を』『不幸せを』『不都合を』『冤罪を』『流れ弾を』『見苦しさを』『みっともなさを』『風評を』『密告を』『嫉妬を』『格差を』『裏切りを』『虐待を』『巻き添えを』『二次被害を』『受け入れて此処にいるんだ』『それを少し大規模な不慮の事故があったからってプラスの君達が言うに事欠いてマイナスを分かるかって?』『僕らはプラスがあったからってそれでマイナスがなくなるとは思わないし、マイナスがあったからって自分が最悪だと勘違いしてるプラスを許せない』『プレシアさん貴方こそマイナスの何が分かるというんだい?』

 

手に持った螺子を細く変形させ両手で確りと握る。

 

「私が私がプラスだと言うの!?娘を、アリシアを殺してしまった私を!?」

 

『ああ、僕らからしたらマイナスを取り戻せる可能性がある時点でプラスなんだろうね』

 

激昂したプレシアをまるで意に介さずさらりと言ってのける。

 

「死になさい」

 

『僕は悪くない』

 

そう言って螺子と雷が交差した。

 

 

 

 

 

その行為は戦闘と呼ぶべきものではなかった。

力の有る者が無い者を蹂躙する。

強者が弱者を苛める。

ただただ一方的な暴力。

雷が稲妻が肉を焼き、骨を炭化させる。

球磨川の投げつけた螺子もプレシアに届くことなく眼前で弾かれる。

プレシアが片手間に放つ魔法全てが球磨川に対して必殺。

もう球磨川が死んだ回数も十回や二十回ではない。

アルフの目から見ても余りにも勝ち目のない虐殺。

圧倒的暴力が支配するこの空間に於いてもう球磨川には攻撃を放つことさえできなくなっていた。

しかしそれでも球磨川は螺子を片手に立ち上がる。

まるで勝ち目なんてなくとも、魔導師とそれ以外の武力の差を思い知らされても何の苦もなさそうに立ち上がる。

変わらない笑みを顔に貼り付けて。

そして死に続ける球磨川が何時もの禍々しい笑顔なのに対し、球磨川を圧倒的に蹂躙する立場にあるプレシアが苦悶の表情を浮かべている。

プレシアが球磨川を初めに殺してから三十分以上。

その間あらゆる方法で球磨川を殺していた。

いや殺し続けていた。

雷に焼かれて死んだ。

鞭で打たれて死んだ。

魔法の余波で倒壊した瓦礫に潰されて死んだ。

死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。死んだ。

何度も無様に床を転がり死んだ。

それでも何度でも立ち上がる。

 

『あ~』『なーんかクソゲーみたいだよこれ。無限残機のコンティニュー前提の死にゲー。まあ攻略法なんて何も思い付いてないんだけどね』

 

いつもの括弧つけた声で球磨川は立ち上がる。

軽く。

何でもないかのように。

だがそれはおかしい。

彼はただ座して死に続けていたのではない。

起き上がる度に全力で螺子を構え攻撃してきていた。

それで何も思うところがない筈がない。

それこそ大嘘憑きでは身体や衣服の損傷はなくせてもこの精神はおかしい。

 

『んっと、プレシアさんは雷で僕を殺すことが多いけどそれは好みの問題かな?』

 

だからこんな風に自分を殺し続けていた相手に普通に接することができるのがおかしい。

死因を聞くことがおかしい。

 

「……ミソギ、だ、大丈夫なのか…?」

 

『あれっ?忘れちゃったのかい?』『ほら』『僕って大嘘憑きがあるからさぁ何度死んでも大丈夫なんだ』

 

大丈夫な筈がない。

大嘘憑きは死すらなかったことにできる凶悪な過負荷だがそれでも死ぬのだ。

死んだという現実は消えても死ぬまでの痛みや苦しみはあったのだ。

球磨川の記憶には確りと残っているのだ。

だから今まで死んだ全ての苦痛を球磨川は覚えている。

それを大丈夫だと言えるという過負荷具合が全く持って大丈夫ではない。

 

『さあ、続けようかプレシアさん』

 

そこで明確にプレシアは怯える。

この少年を。

九歳にしか見えない化け物を。

少年の形をした過負荷を。

死んでもそれを笑って立ち上がれる異常でそれ以下のナニかを。

諦めが悪いとか粘り強いとか言う次元ではない。

明らかにそれは狂人のメンタルだった。

殺しても殺してもなおこちらを襲う過負荷にプレシアは心底恐怖した。

 

「何故、何故そこまでするの!?何が目的!?」

 

『おいおいおい。それはもっと早く言って欲しかったぜ。いきなり稲妻を放つ前にね。いったい僕が何度死んだと思ってるんだ』『そこまでやっといて今さら話を振るなんて虫のいい話があるもんか』

 

「ツッ」

 

そう括弧つけながら一歩を踏み出す。

手の内の螺子を弄び、トントンと靴の先で地面を叩く。

その仕草が妙に気持ち悪い。

理由を問われたら答えられない生理的嫌悪。

 

「バインド」

 

『おっ!?』『ふぅん……………初めての魔法だ……』

 

プレシアのバインドがあっさりと球磨川を拘束し、無力化する。

幾ら球磨川が常人離れした精神を持とうとも身体能力は九歳のものだ。

だからじたばたともがくことはできても螺子を投げたり刺したりなんてできないし、近付くことさえできない。

そう思い、プレシアが一息吐いた瞬間を狙い澄まし球磨川がバインドを解いて走り出す。

理由は、プレシアが「大嘘憑き」を過小評価していたことや、純粋な戦闘者では無いことも挙げられるが一番の要因は異なる。

プレシアは単に球磨川を殺し続けることに耐えられなかったのだ。

気持ち悪く、おぞましい少年を無限とも思える回数を経て殺し続けられなかったのだ。

球磨川が死んでも立ち上がることを直視するのを躊躇った。

だから拘束した。

殺さずに捕縛した。

今まで一度も選ばなかった拘束を選んだ。

単純に殺し続けることから逃げて留めておこうと思ってしまった。

大嘘憑きがあればバインドなど何の障害にもならないというのに。

 

『思いしれぇフェイトちゃんの苦しみとか愛とかそんな感じの奴だぁああぁぁあ』

 

そうやって完璧にプレシアの隙を突いて降り下ろされた螺子は皮膚に傷をつけることなく明後日の方向に飛んでいく。

そしてそれをなした少女は怒気を交えて睨み付ける。

 

「アルフ、ミソギ。母さんに何やってるの」

 

『あらら』『フェイトちゃんお久~』




オマケ
魔法少女チェックリスト

□「またあの夢か…」 
□「なんだろう……初めてきたはずなのに懐かしい感じ……」 
□「みんなの応援で不思議な力が漲ってくる!」 
□「なんだかいやな予感がする……」 
□「世界を救うよりも友達を助けるために戦いたい!」
□ 「クラスのみんなには、内緒だよ!」
□ 「あんな風に誰かの役に立てるとしたら、それは、とっても嬉しいなって」
□ 「独りぼっちは…さびしいもんな」
□ 「なんとかなるよ!絶対にだいじょうぶだよ!」
□ 「やっぱり何事も前向きにいかなきゃね!」
□ 「考えるな!空想しろ!」
□ 「どんな経緯だったとしても、自分が関わったことを、関わった人を、なかったことになんかできない」
□ 「人は飛べる。飛びたいと願って、飛ぼうとする意思があれば、きっと誰だって……」
□ 「友達になりたいんだ」
□「だって、もう知り合っちゃったし、話も聞いちゃったもの。ほっとけないよ」
□「きっかけはきっと偶然でした。だけどいろんな偶然をいくつも重ねて、その中から自分の道を間違わないよう選んでいって……みんな、そうやって過ごしていくものだと思うから偶然で始まったこの日々も……だから私は、間違えずに進んで行きたいと思う。自分の意志で、自分の想いで」
□「伝えたい気持ちがあります。世界にたった一人だけの……あなたの心に」
□ 「名前を呼んで!始めはそれだけでいいの」
□ 「悲しい過去があっても、未来が暗く霞んでも、だけど、立ち向かっていかなきゃいけない。きっと誰もが同じ時を戦ってるから」
□×「思う」○「想う」 


いくつ該当してもソウルジェムかクロウカード、カレイドステッキかリンカーコアが無ければ魔法少女ではありません。ただの思春期です。少し…頭冷やそうか……
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