緩やかな風に吹かれて   作:晴貴

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4話

 

 

 清霜の歓迎会の翌日、鎮守府内の至るところに屍が転がっていた。

 もちろんのこと屍というのは比喩表現であり、調子に乗って飲みまくった龍驤達が二日酔いで苦しんでいるだけだが。ちょっとしんみりした雰囲気にならなかったら俺もそっち側になっていたのは言うまでもない。

 まあそれはさておき。

 

「頭が……頭が痛い……」

 

「なんでお前はわざわざ俺の部屋まできて苦しんでるんだ?」

 

 提督室に備え付けてあるアンティーク調のソファーの上でぐったりしている凪にそう問いかける。

 デカいソファーだから凪くらいの身長ならゆったり横になれはするが、視界に入る位置でごろごろされてるのは気になるんだが。

 

「だってここにいれば天津風が看てくれるじゃない」

 

「私は介護士じゃないんだから頼りにされても困るわよ」

 

 そんなこと言いながらため息を吐く天津風。だがしかし、すでに手厚い看病を済ませている奴のセリフではないと思うね。

 龍驤や鈴谷の方は恐らく霞が看ていてくれてるだろう。

 

「そういえば二日酔い用の薬はどうした?」

 

「在庫がなくなっていたわ。前の買い出しの時に買い忘れてたみたい」

 

「渉マジ使えない……」

 

「服と化粧品しか買わなかったお前には言われたくないぞ」

 

 前回の買い出しじゃ東京に着くや否や鈴谷と連れ立って俺達から離れ、合流した時には財布(中身は俺があげてる小遣い)をすっからかんにした引き換えに大量の荷物を持って現れたからな。せめて自分に必要そうな日用品くらいは買っとけよ。

 だいたい島の外に出ることなんてほとんどないのに余所行きの支度だけ整えてどうすんだっつーの。

 

「まあすぐ回復するわよ。朝食は食べたんでしょ?」

 

「うん……」

 

 そういや今日の朝食は梅干しのおかゆとシジミの味噌汁、大根おろしたっぷりの冷奴などなど二日酔いに効く食材がズラリと並んでたな。

 薬がなくてもあと1~2時間後にはケロッとしてるだろう。弱いとはいえ深海棲艦、体の作りが人間とは違う。まあ深海棲艦のくせに二日酔いにかかるのもどうなのかって話だが。

 

 こいつが酔っぱらう度に大本営時代、深海棲艦を鹵獲(ろかく)しては毒物や薬物が効かないか実験していた頃を思い出す。あの時もアルコールは試したはずだが、ここまで顕著に変調をきたす深海棲艦はいなかったな。

 つくづく人間に優しい(ポンコツな)深海棲艦である。

 

 そんな凪に呆れながら仕事に精を出す。仕事、といっても日々行っている巡視の結果をまとめたものと深海棲艦の生態についての研究報告、そしてたまに鎮守府の運営における近況について報せる程度のことだ。どっちも慣れたものなので大抵の場合は午前中に片が付く。

 まあ深海棲艦の報告については大本営も必要になんてしてないだろう。むしろそれを嫌がられた結果、この辺境の鎮守府まで追いやられたわけで。言ってしまえば単なる“あてつけ”である。

 

 凪を迎え入れて彼女の話を聞いた当初は俺が考えていた深海棲艦との共生……とまでは言わないが、ある程度の棲み分けが可能になるんじゃないかと期待した。結論から言うと夢の見過ぎだったわけだが。

 大本営時代から俺は深海棲艦には勝てないと考えていた。なにせ物量の差がありすぎる。

 人類は地下に埋まっている資源を手当たり次第に掘り起こし、国は税金を上げて国民から資金を徴収した。さらに国中から金属を集めるために建物を解体して資材に変え、そのせいで一部からは人工の建造物が消え去った地域もある。

 また、艦娘を遠征させて深海棲艦と会敵する危険を冒しながら資材を回収してはそれを艦娘の建造や武器の開発につぎ込んだ。

 

 今でこそ多少は落ち着いているが、特定の物価はアホほど上昇したと聞く。それでも埋まるどころか、どんどん開いていく戦力の差。それも当然だった。

 既存の兵器が一切通用せず、人類は0から戦力の構築を始めたに等しい。そんなんで海の底からポコポコと湧いて出てくるような深海棲艦と渡り合えるわけもない。むしろ深海棲艦が出現してからの8年間、よく一進一退の攻防をしていたもんだと思う。

 

 当時は物も人も溢れていたからこそ戦力的な不利をカバーできていたのだろうが、人も物も減少の一途を辿る今となってはいくら歯を食いしばって耐えたところでじり貧にしかならない。迎える結末は人類の滅亡、ただその一点だけである。

 俺が提督として招集された時には、すでにそんな時代だった。

 

 とはいえ無抵抗で死にたくはないし、提督として艦娘を預けられた立場上戦わないわけにはいかない。

 戦ったところで人類の滅亡が10年後から10年と1日後になるかもしれない、というだけの意味なんてほとんどない戦い。というかそんなことをしているせいで常に今日死ぬかもしれない危険と隣り合わせの日々。

 

 そんな戦いの最中で、俺は深海棲艦にも自我と呼べるものを持つ個体がいることを知った。そいつらは自我や知性を得たからなのか姿形は人間に近付き、それに比例してその戦闘能力と人間に対する憎しみも増幅していた。

 だが、自我を得た存在の思考が全て統一されるなんてことはあり得ない。俺がそう考えたのは論理的だったか、はたまたそう思い込むことで一縷の希望を見出そうとしたのか。

 当時の俺はまだ17歳になったばかりで、今よりなお未熟だった精神面はかなりボロボロだった。そうでも思わないとやってられなかったのかもな。

 

 今にして思えばなんの根拠も根回しもなく「友好的な深海棲艦がいるかもしれない!」なんて叫んだところで賛同なんて得られるわけもなかった。

 つーかそんな主張をしといてよくぶっ殺されなかったよな。心理療法を施されたし、たぶん精神的におかしくなったって判断されたんだろうけど。

 平時ならそのまま退役ということになったかもしれないが、提督という存在はかなり貴重だった。妖精が見えるというある意味頭お花畑な提督に足る資格ではあるが、それがなければ艦娘を指揮して彼女達の能力を十全に発揮させることができないのだ。

 

 そんでもって自慢になるが俺は提督としてそれなりに優秀だった。提督になったばかりの頃に起こった深海棲艦の大規模侵攻。艦娘の練度は低く大した戦力もない中で、俺は自分の艦隊の半数を失いながらも防衛線の突破だけは許さなかった。

 その後も一定以上の戦果は出し続けたのだから、しっかりと指揮が取れる以上、多少頭がイカレようとも大本営が俺を戦線から下げるなんて考えはしなかったようである。

 

 それから1年が経ち、2年が経ち、その間も戦果を出しながら「歩み寄れる深海棲艦もいるはずだ」と声高に主張する俺は明らかに異質で、海軍の中で浮いていた。別に心的外傷後ストレス障害(PTSD)などになったわけでもなく、精神的に正常なまま深海棲艦と和解できると本気で考えているんだと周囲が理解したのだ。

 その在り方自体、あいつらにとっては気味の悪いものだったんだろう。

 提督を退役させるにはもったいない程度の能力はあるが、大本営という国の防衛の最重要拠点にそんな奴を置いておくのは新たな危険を招き入れかねない。

 そこで出された結論が日本の最東端、深海棲艦が出現するとされているポイントに最も近い神南島鎮守府への派遣だった。要するに近海にうようよしているだろう深海棲艦を沈めまくってから死ね、ということである。

 

 そんなこんなで2年ちょい、まあよくやってる方だろう。

 天津風と霞がいなけりゃどうなってたか。さすがに見放されると思ったからな~。

 

「うーっし、終わった」

 

「お疲れ様。お茶でも飲む?」

 

「おお、サンキュー」

 

 仕事が一段落したのを見計らって天津風が緑茶を淹れてくれる。神南島だとこの時期はもう半袖で過ごせるくらいの気候なので熱いお茶ではなく水出しの煎茶だ。

 それでのどを潤しつつ、さて午後はどうするかなと予定を練っていると開けたままにしている提督室の扉がコンコンコンと3回叩かれた。音の主は清霜を引き連れた霞である。

 

「ちょっといい?」

 

「どうした?」

 

「今、清霜を案内してたのよ。この鎮守府のこと何も知らないから」

 

「そりゃ助かる」

 

 俺の役目……ってわけじゃないが、俺が気を配っておくべきことだったな。

 

「って、凪はいないと思ったらここにいたのね」

 

「天津風の看病をご所望だそうだ」

 

 ソファーに寝転がっていた凪はいつの間にか寝息を立てていた。

 本当に自由だなこいつ。

 

「はあ……まあいいわ。それで他の場所は一通り案内したから最後にここに連れてきたのよ。仕事ももう終わった頃合いでしょ?」

 

「ついさっき終わったところだ」

 

「司令官、仕事早い!有能ってやつだね」

 

 清霜が何やら感心している。

 が、仕事が早いのは慣れてるのと、そもそも大きな鎮守府や戦いの多い戦線の鎮守府と違って仕事自体が少ないからだ。艦隊の指揮ならいざ知らず、デスクワークに関しては凡である。

 

「それほどでもない。で、案内は提督室の場所だけか?」

 

「なわけないでしょ。この鎮守府の特殊性を直接あんたに説明してもらおうと思ったのよ」

 

「了解。霞も清霜も腰かけてくれ」

 

 生憎と2つあるソファーの片方は凪に占拠されちまってるが。

 まあ天津風の淹れたお茶でも飲みながら聞いてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神南島鎮守府で迎える初めての朝。

 昨日の歓迎会ではしゃぎすぎちゃったせいかまだ体に疲労が残ってるような感覚。でもそれは今まで味わったことのない、心地よい疲労感だった。

 どこかボーっとしたままで昨日は歓迎会の会場だった居間まで足を運ぶ。

 

 鎮守府にある食堂とは全然違う。鎮守府内の一室なのに、テレビで見たことのある、本当に一般の家みたいな居間。当然一般家庭のものよりは広いけど、食器棚や冷蔵庫、テレビなんかが機能的に配置されてる。

 心理的に“手を伸ばせば全部届く”みたいな部屋だ。素直に居心地がいい、と思えた。

 問題はその居間のテーブルに龍驤さんが突っ伏してることだけど……。

 

「龍驤さん、どうしたんですか?」

 

「二日酔いや……そっとしといて……」

 

「う、うん」

 

 そういえば昨日、一升瓶を一気飲みして大笑いしてたもんね。

 笑い上戸ってやつなのかな?

 

「あら、おはよう清霜。ゆうべはよく眠れた?」

 

「おはよう霞ちゃん。ちょっと寝すぎちゃったかも……」

 

 苦笑いしながら頬をかく。起きたのは午前9時を回ってからだった。

 夜間巡視明けでもないのにそんな時間まで眠れるなんて、前の鎮守府じゃあり得なかったけど。

 

「まだ疲れが抜けてないのにあんな乱痴気騒ぎに参加させられちゃそうもなるわよ」

 

「あはは……でも、すっごい楽しかったよ」

 

 ほんとに、ほんとに楽しかった。あんなに心の底から笑えたのはいつ振りだろう?

 司令官も、霞ちゃんも、深海棲艦のはずの凪さんやほっぽちゃんも、みんなに笑顔があった。あんなに温かい空間がこの世界にもあるなんて、なんか信じられないくらい。

 

「そう?ならいいけど。はいこれ、朝食よ」

 

 霞ちゃんが出してくれたのは豪勢というわけじゃないけど、居間の雰囲気に合う日本の朝食って感じだった。

 でも前の鎮守府と比べればこれでもちゃんとした食事だ。

 清霜たちは人間みたいな食事は必要ない。燃料さえ補給できれば体は動くし、入渠すれば数時間から数十時間で怪我も治る。

 

 けど味覚はあるし、おいしいものを食べれば気分も高揚するんだよね。食べたことないけど間宮アイスは艦娘にとって1度は食べてみたいスイーツだもん。

 っていうか昨日の歓迎会で食べた食事の豪華さたるや、清霜にとっては衝撃だよ!思わず値段を気にしちゃったけど、ほとんど鎮守府内で育ててる農作物から作ったって聞いてまた驚いた。

 

「ねえ清霜、今日は何か予定あるの?」

 

「うーん、ひれいひゃんには……」

 

「しゃべるのは口の中のものを飲み込んでからでいいから」

 

 もぐもぐ……ごくん。

 

「司令官にはなにも言われてないからひま……かなぁ」

 

「ならちょうどいいわね。それ食べ終わったら鎮守府の中を案内してあげるわ」

 

「ありがとう!」

 

 そんなわけで霞ちゃんに鎮守府を案内してもらうことになった。

 で、最初に案内されたのは居間の隣。

 

「ここがこの鎮守府の中心。リビングね」

 

 鎮守府の中心が提督室でも作戦室でもなく、リビング。そもそも他の鎮守府にリビングなんて呼べる場所があるなんて聞いたことがない。

 でもここにならそんなものがあってもいいのかな、って気がしてくる。

 

 リビングの第一印象は暖かい、だった。壁の一面を埋め尽くすような大きな窓があって、そこから朝の柔らかな日差しとそよ風が入り込んで、純白のレースカーテンを静かにはためかせる。

 その向こうにはバルコニーと緑の絨毯が広がっていた。青々と輝く、きれいな芝生だ。

 部屋の内側はフローリングだけど、部屋の中心部は一段下がっていて、その段差を埋めるようにソファーが埋め込まれている。

 

「なんか……すごくおしゃれだね」

 

「そう?まあ司令官と明石が素人なりにリフォームしたってことを考えれば立派なものだとは思うけど」

 

「この部屋自分で作ったの!?」

 

「そうよ。あの2人は基本的に何でも自分で作ってみようとするから」

 

 す、すごいなぁ。農業だけじゃなくて大工さんみたいなことまでやるなんて。

 

「でもそれって司令官の仕事じゃないような……」

 

「清霜の言う通りだけど、ここは日本の本土から遠く離れた島なのよ。深海棲艦に制海権を奪われた今の状況じゃ物資もろくに届かないし、生活環境くらい自分達で何とかしないとやっていけないの」

 

「あ……そうだよね」

 

 みんなが楽しそうにしてるから浮かれちゃってたけど、ここの環境を考えたら本土の鎮守府より大変なんだ。元は古くて小さい鎮守府だから衣食住を確保しなきゃそもそも運営していけない。そのためになんでも自作するって方法を選ばざるを得なかったってことだよね。

 まず生きていけなきゃ司令官うんぬんなんて言うことすらできないんだもん。

 

「まあ明石なんかは物作りが趣味だから9割楽しんでやってたみたいだけど。次はその明石の所に行くわよ」

 

 そう言われて連れられてきたのはリビングのある建物から一度外に出て右手側。湾港に隣接してある工廠(こうしょう)だった。

 工廠も知ってるものより2回りくらい小さいけど、それでも見慣れた建物ではある。ただ一点を除いては。

 

「ここが工廠よ。大抵は明石が常駐してるわ」

 

「あの、霞ちゃん」

 

「なに?」

 

「明石さんが……」

 

 工廠の入り口前に明石さんが寝ていた。それもビーチチェアに寝転んで。

 その傍らにはパラソルが立てられていて明石さんのいるスペースがしっかり日陰になっている。中心にパラソルが刺せるようになっている木製のテーブルにはフルーツの入ったいかにもトロピカルなジュースと、時代遅れのでっかいラジカセが置かれて、そこから英語の歌詞の曲が流れていた。

 なにより驚きなのが明石さんの格好が水着ってところ。その上サングラスまでしてる。

 どこからどう見てもバカンス中だった。

 

「仕事してない時の明石はあんなものよ」

 

「でも今は仕事中じゃ……」

 

「正直、明石の仕事って平時じゃほとんどないのよね」

 

「聞こえていますよ、霞」

 

 明石さんが体を起こして、かけていたサングラスを頭の上に乗せる。

 うわー、すごい大人っぽい。明石さんって意外と胸あるんだ。

 

「気に障ったかしら?でも事実でしょ?」

 

「まあ反論はできませんけど、今はこれでも仕事中です」

 

「そ、そうなの?」

 

「ええ。今は球磨と姫ちゃんが巡視に出ていますからね。何かあればすぐ動けるように備えているんです」

 

「それにしたってもう少し備え方ってもんがあるでしょうに……」

 

 霞ちゃんがやれやれ、とため息を吐いた。

 ちなみに“姫ちゃん”というのはほっぽちゃん、北方棲姫のこと。明石さんはその1文字を取って姫ちゃんって呼んでるらしい。

 私としては艦娘と深海棲艦が一緒になって巡視してるって事実に驚きだけどね……。

 

「まああの2人なら多少のトラブルは自分達で対処してくれるでしょうから」

 

「半分サボり気分じゃない」

 

「あはは……」

 

 驚きの連続で私はもう笑うことしかできなかった。

 なんていうか、ここの鎮守府とそこに住むみんなは自由だ。種族の違いとか、世間の常識とか、そういうのにあんまり縛られてない。それがいいことなのか悪いことなのか清霜にはいまいち理解できないけど、こういう雰囲気は好きだな。

 自分がすべきことはしっかりやってるからこういうゆったりとした空気でもうまく回ってるんだと思う。そしてその“すべきこと”っていうのは、たぶん艦娘として私が今まで求められてきた“すべきこと”とは違う……そんな気がする。

 

 その後も鎮守府の至るところを見て回った。提督や天津風が精を出して管理してる畑は果樹園やビニールハウスまである本格的なものだったり、大きな木の上には秘密基地って呼ばれてるログハウスみたいなものがあったり、小さな鎮守府とは思えないくらいたくさんの驚きに溢れてた。

 そして最後にたどり着いたのは司令官の部屋……提督室。

 私が知る提督室の扉は常に閉じられていたけど、ここでは両開きの扉が盛大に開け放たれていた。霞ちゃんはそれを無造作にノックしながら入室する。

 

「ちょっといい?」

 

「どうした?」

 

「今、清霜を案内してたのよ。この鎮守府のこと何も知らないから」

 

「そりゃ助かる」

 

「って、凪はいないと思ったらここにいたのね」

 

「天津風の看病をご所望だそうだ」

 

 司令官と霞ちゃんが、なぜか提督室のソファーで寝ている凪さんを挟んでそんな会話をする。

 

「はあ……まあいいわ。それで他の場所は一通り案内したから最後にここに連れてきたのよ。仕事ももう終わった頃合いでしょ?」

 

「ついさっき終わったところだ」

 

 ええ、もう!?まだ午前の11時前なのに!

 

「司令官、仕事早い!有能ってやつだね」

 

「それほどでもない。で、案内は提督室の場所だけか?」

 

「なわけないでしょ。この鎮守府の特殊性を直接あんたに説明してもらおうと思ったのよ」

 

 特殊性、って霞ちゃんははっきりと言った。

 それは司令官が農家や大工の真似事をしていることもそうだし、明石さんが仕事中にバカンス気分でくつろいでいることもそうだと思う。

 でもその言葉が意味する最大の原因は間違いなく凪さんやほっぽちゃん……深海棲艦のこと、だよね?

 

「了解。霞も清霜も腰かけてくれ」

 

 言われたままにソファーに座る。天津風が冷たいお茶を出してくれた。

 それで少し乾いたのどを潤して、司令官からの説明を待つ。そしてくり出された司令官の最初の一言はこんな言葉だった。

 

「まず神南島鎮守府の基本理念(モットー)なんだけどな。それは“深海棲艦とは可能な限り戦うな”だ」

 

 

 

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