聖杯戦争をぶっ壊せ!!   作:レイサキ

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聖杯戦争書こう共同企画!

ナイカナと連載を目的とした共同、と言いつつそれぞれの聖杯戦争物語を投稿していきます。表紙企画画はナイカナより。

【ナイカナ側】
https://novel.syosetu.org/135495/


プロローグ

「なぁ、あの噂知ってるか?」

 高校3年生の夏。高千穂界(たかちほ かい)は自分たちの教室で友人たちと取り留めのない会話を続けていた。

 高3の夏と言えば受験勉強に掛かりきっりな時期であろうが、一緒に居る宮内守に関してもそれを気にする素振りはないようだ。

「お前本当噂話好きだよな。今度はなに」

「ふっふっふ、ズバリ言おう! この町は狙われている!!」

 守が芝居めいた溜めからバッっと両腕を広げ、高らかに言う。

「な、なんだってー」

 界は頬杖を突きながら友人の適当に合わせる。

「気のない合いの手ありがとう友よ! だが! 今回は結構マジだ! なんせ目撃証言が複数あるんだからな!」

 ぐわっと机につかんで顔を寄せてくる。

「目撃証言って、なんの?」

 言って、界はしまったと顔をしかめる。

「はっはっは! よくぞ聞いてくれた! 界! あなたは幽霊を信じますか!?」

 唾を飛ばし、さらに食い寄ってくる。

「はぁ? 幽霊? またなんだそんな荒唐無稽な」

「そう!! 荒唐無稽な! 幽霊騒ぎ! それが今回の噂なのさ!!」

 食い気味に、あまつさえ狭い机と机の間で器用にくるくると回る。

(あ、椅子にぶつかるな)

 回っていた守がたっと音を立てて肘を椅子にぶつける。肘がしびれたのかそのまま少しうずくまる。そしてガバリと起き上がる。

「それが! 今回の! 噂なのさ!!」

 椅子にぶつかったのが恥ずかしいのか、やたら大仰に界の顔に指を向けてくる。界は鬱陶しそうなしかめっ面を隠しもしなかった

「うざい。いつになくテンション高いな。幽霊騒ぎって、前もなんか言ってたよな? 確か稲荷神社に供えてあった油揚げが消えるんだったか? あんとき確か交代で見張りして、結局野犬が食ってたって落ちだったよな?」

「ぐっ、そんな取るに足らない些事は忘れた!! 今回はマジだぜ界! 駅前の公園、立ち入り禁止になっただろ? あれな、ポルターガイストが起こって辺り一面がぐっちゃぐちゃに壊されちまったからってことらしいんだよ!」

 さも興奮しきった様子で詰め寄る守。守の話に聞き覚えがあるのか界も思案顔になる。

「そう言えば朝方、確かに駅前の大きな市立公園が立ち入り禁止になっていたな。それの原因がなんでポルターガイストだよ?」

 言葉を受けてちっちっちと指を振る。

「わかってないな界。この際、別にポルターガイストでなくてもいいのだよ。なんならこの件、異星人の侵略とかでもいい」

「また適当な。幽霊だの異星人だのいるわけないだろ。さっきから色々と脈絡なさすぎだぞ。この町は狙われているってのはどーしたよ」

「よくぞ覚えていてくれたな初めの話! さすがは我が親友! そう! 重要なのは事実だ! 公園で説明不明なほどの大破壊が唐突に、何の脈絡もなく行われた! この事実こそが一番寛容なのだよワトソン君!」

「だれがワトソン君だ」

「このちょっと寂れた何の変哲もない田舎の街で! なんの脈絡もなく行われた正体不明の大破壊! さっきネットで調べたらそれに対してのメディアの反応は絶無! つまりはこれはこの街を狙う何者かが我々の知り得ない方法でこの街を狙っていると言う事にほかならないのだよ!」

 やたらとこの街を狙うを連呼しすぎな友人に若干引きながら界は冷静に返す。

「いや、何かあったのはそうだろうけど、こんな田舎の街の事なんてそうそうニュースにならないだろ。まぁ記事ができたとしてももう少し後なんじゃないか?」

 友人の熱弁に冷ややかに水を差す。

「ロマンとは!! 生きるためのミネラルですっ!!」

 あきれ顔で守を見ていたが、ニヤッと笑い、尋ねる。

「で? じゃあどうするよ」

 その一言に破顔し、両の手で肩を叩く。

「今日夜10時! 早速調べに行こうじゃないか!」

「おーけー待ち合わせは駅だな? 俺はこの間Amaz〇nで買った若気の至り感100%のナイトゴーグルを持っていこう」

「流石だ相棒。俺は夜間撮影用の望遠カメラを持っていくぜ」

 高校3年生の夏。とにかく刺激に餓えるお年頃である。

 

 

 その夜。界は待ち合わせの時間に駅で守を待っていた。都会とは程遠い寂れた、しかしそれなりに開発はされた東北の田舎の街。夏とは言え、東北の暗がりでは少し肌寒さを感じた。

 街には家路を急ぐサラリーマンか客引きくらいしかいない。高校生が歩いていたら補導員につかまりかねないし、今は捕まると誤解されかねないものを持っているだけによけい挙動不審になる。

 夜も更けていく中それでもまばらに行きかう人の中、きょろきょろとあたりを見回し、時計を確認する。

「くそ、もう10時過ぎてるじゃねーか何やってんだ……」

 ぼやき、今度はなにか連絡が来ていないか携帯電話を確認しようとポケットに手を突っ込み取り出す。

 それと同時にメールの着信がくる。

「うぉおっ」

 動揺し、取り落としそうになるが何とか受け止める。

 画面を確認すると差出人は守。メールには

『すごいの見つけた。あとで公園の正門前に集合』

 と書いてあり、ピンボケのスナップショットが一枚添付されていた。

「なんだこりゃ……」

 その写真はスマホの画面に表示され、マジマジと見てみるが焦点が合っていないせいで何が映っているのかいまいち分からないがどうやら子供が一人映っているようだ。

「……、座ってるのに高いところにいる……?」

 その写真の子供は人一人分、高いところに浮いて座っているようだった。

「??」

 スマホをぐるぐると回し見ているとどうやらこの写真が撮られたのは件の公園の近くのようだと分かった。

「取り敢えず向かってみるか……」

 スマホをポケットに入れなおし、その場から歩き出した。

 

 

 市立公園の中心にある広い草原。まるで絵本の中から抜け出したような銀髪の少年と、タキシード姿の初老と見える男はそこに立っていた。

「バーサーカー」

 少年が不意にそう言うと、タキシードの男とは反対側にもう一人、男が唐突に姿を現した。

「初戦から正々堂々とは恐れ入る」

 現れた男は長身で少年と同じく銀髪を長く伸ばし、整えられた白い髭が得も言われぬ色気を男に与えていた。そしてその正面10メートルほど先にいつの間にか山伏の格好をした長身の男が立っていた。

「へっ、これしか知らねーってだけだ」

 山伏の男は肩をすくめすくめながら二人に鋭い視線を送る。

「ところでその坊主がマスターなのか? 良いのかよそんなに前に出して」

「我がマスターはなかなかに好奇心旺盛でな。いう事を聞かなくて困る」

 バーサーカーと呼ばれた男も少年の方に一瞥し肩をすくめる。

「僕は邪魔かなバーサーカー?」

 少年はあどけなさを残した顔立ちで、落ち着いた物腰で尋ねる。

「少し下がっておればよい」

 少年の目線まで腰を落とし、丁寧に応対する。

「うん。わかったよ。やっちゃえ、バーサーカー。ボードワン、僕らは下がるよ」

 少年はタキシードの男に振り向いて言う。どうやら主従の関係のようだ。

「御意。ではバーサーカー殿。あとは頼みます」

 言うや否や、ボードワンは少年を抱き抱え、スタスタとその場を後にする。

「おいおい、あんたホントにバーサーカーなのか? どこぞの騎士様のようだぜ。ま、お互い初めての手合わせだ。どうも俺は戦いってーのを楽しみたい質でね。坊主が隠れる位の時間なら待ってやるよ」

 そう言って懐から煙管を取り出し、火打石をじゃっと打ち鳴らし火をつけ燻らせる。

「そちらのマスターは良いのかね? 近くにはいない様だが」

「ああ! 黙ってきた! なにせ口うるさくてな。かなわん。今ごろは気づいてこっちに向かってるかもしれんが。何にしろ、あいつが来る前に一合やろうぜ」

 口に加えた煙管をもてあそびながら野獣のような目つきでバーサーカーをねめつける。

「度し難い……。良かろう。特別に余と戯れを許そう」

「はっ! 話が早いってな美徳だねぇ!」

 煙管をバシッと膝にたたきつけ、残った刻み煙草を捨てる。その代わり、いつ握ったのか山伏の手には仗があった。

「杖、いや、仗か。その気質でキャスターではあるまい。ランサーか」

「俺か? そうそう。ランサーってやつだとよ。実感はあんまりないがね」

 仗で自分の肩をポンポンと叩きながら、まるで昔馴染みと話すような気軽さでランサーと呼ばれた男はバーサーカーに相対する。

「それじゃあやりますか!」

 言うが早いか、ランサーは仗を上段に振りかぶり、両足を前後に大きく開き体重を前に寄せる。

 対するバーサーカーはこちらもどこからか取り出したのか槍の切っ先をランサーに向け、悠然と立つ。

「いやぁワクワクするねぇ。昨日はアーチャー相手にドッカンドッカンやられたせいで欲求不満でよう」

 じりり、とすり足でさらに体重を前に預ける。今にも突撃するぞと言わんばかりの体制である。

「口数の多い。あまり冗長では興ざめと言うものだ」

 ため息を吐き、それでも隙なく、構えに揺らぎはない。

「へっ! そいつぁ悪かった、な!!!」

 ごうっと音が立つほどの速度でランサーが間合いを詰める。10メートルあった間合いが一気に縮み、振り上げられた仗が槍と激突する。

 がきぃん! 

 金属同士のぶつかり合う高い音が誰もいない公園に木霊する。圧倒的な速度から繰り出された一撃をバーサーカーは涼しげな顔で受け止めた。

「はっ! やるじゃねえの!」

 武器を打ち合わせたまま、ランサーが獰猛に犬歯をむき出しにして笑う。

 じゃりぃん、とお互いの武器同士を滑らせ、双方同時に後方に飛びすさぶ。

「んじゃぁまぁ、もう一合。お相手願おうか!」

「せいぜい余を楽しませよ!」

 二人は同時に距離を詰め、獲物を交差させる。鉄と鉄が打ち鳴らす高い音があたりに響き渡る。

「ぜぇっ!!」

 ランサーが仗を横なぎに払うがバーサーカーはそれを身をかがめやり過ごす。体を起こす反動でランサー目掛け槍を突き出す。ランサーはそれを仗の腹で受け、左へ体を捌く。

 バーサーカーは自分が右へと流される勢いに逆らわず、槍を持つ左手を握りこぶしに変え、ランサーに向かって打ち放つ。

「おおっと!!」

 顔面に向かってくる拳を頭を傾げ躱し、近づき過ぎたバーサーカーを捉え右足を蹴り上げる。

「ふんっ」

 その蹴りを放った右手を高速で引き戻し、腕で受け止める。ばかぁぁん! と足と腕が衝突したとは思えないような音が響き渡る。

 ランサーはぱっとその場から後ろに飛び、再度間合いを開ける。

「いやー、やっぱりバーサーカーの戦い方じゃないわあんた。ちと冷静過ぎないかい?」

 肩を竦め、バーサーカーに声をかける。バーサーカーはそれを気にせず、構えなおす。

「ふぅっ!!」

 気合と共に先ほどの突進の何倍もの速度でランサーに向かう。そのままの勢いで槍を突き出す。

「ははっ!!!」

 ランサーは獰猛に口を歪め、突き出された槍を仗で弾く。バーサーカーは弾かれた槍を後ろ手に一回転させ、弾かれたそのままの勢いで横なぎに胴を狙う。

 刹那左腕を胴と槍の間に滑り込ませ、それを防ぐ。ぎいぃん! と今度は金属と金属のぶつかる音が響く。打ち込んだ姿勢のまま、バーサーカーが空いた右手の掌底をランサーの心臓めがけ突き出す。

 その腕はランサーの器用に操る仗に絡め捕られ、二人は額がつくほどの距離まで肉薄し、動きを止めた。

「はっは。すげえすげぇ。聞いてた話と全然違うやね。バーサーカーってな理性が消え去ってるから御しやすいんじゃなかったのかねぇ」

「その腕。何か仕込んでいるな?」

 二人はその姿勢のまま、ジリジリと隙をうかがう。

「まあ、なっ!」

 バチン!と同時に後方に飛び、距離を開ける。ランサーはそこで構えず、袖をめくって腕を見せる。そこには2つの鉄の円環がはまっていた。

「これな、本来は仗に付けるもんなんだがな。今回は様子見ってことで」

 ランサーが腕を振ると円環同士がぶつかりしゃりんと音を立てる。

「余裕なことだが、それが負けた時の言い訳か?」

「いいや? 今日はここまでってことだ。どうやらウチのマスターが怒髪天を突きぬけながらこっちに来ているようでな。このまま続けてたらおれっちが殺されっちまう」

 やれやれと肩をすくめたかと思えば、ランサーの姿がふっと煙のように掻き消えた。

「……。ずいぶんと勝手な男だ」

 残されたバーサーカーはランサーの気配がなくなったことを確認し構えを解くと、自らもその場から消え失せた。

 

 

宮内守はその一部始終を少し離れた休憩所からカメラの望遠レンズ越しに見ていた。時間にしてみれば一瞬の出来事だったが、山伏の男が現れたあたりから不思議に思い、カメラにそのやり取りを記録していた。

「やべぇやべえよ! なんだあれ!」

 震える手でカメラを操作し、震える手で撮った写真を確認していく。夢中になって写真を見ていくとふっと正面に気配がわき、顔を上げる。

「おやおや。なかなかどうして運の悪いデバガメか」

 そこには先ほどの草原にいたタキシードの男が立っていた。

「うわああああ!!」

 守は驚いてしりもちをつく。その拍子にカメラを取り落し、それをタキシードの男が拾う。

「ボードワン! 人払いはしたって言ってたのに!」

 その横には銀髪の少年がボードワンの足をポカポカとたたいている。

「申し訳ございませんミヒャエル様。どうやら結界外で私どもを撮影したようですね。それで綻びてしまったようです。いやはや、やはり魔術と言うのは確実性に欠けますな」

 ボードワンは主への謝罪に頭を下げると、ぐしゃり! とカメラを握りつぶし、守に頬り投げる。

「ああ! 俺のカメラ!!」

 壊れたカメラを抱える。と同時にすさまじい衝撃が守の顔面を襲い、大きく吹き飛ばされる。ずざあ!と地面をすべり、ぐわんぐわんと揺れる視界に吐き気を催す。

「だめだボードワン!」

 ミヒャエルは少年らしからぬ鋭い声で叫び、ボードワンを制止する。先ほどの衝撃はボードワンが守も殴ったものらしい。

「カメラはつぶれているし、もう十分だよ!」

 ミヒャエルは少年らしからぬ鋭い声で叫ぶ。主の不興をかったと侍従は平身低頭し謝罪する。

「出過ぎた真似をいたしました」

 頭を下げるボードワンの横に唐突に黒い霧のようなものが沸き立つ。そこから消えた時と同じようにバーサーカーが現れた。

「我が王は寛容であるな」

「バーサーカー。ランサーはどうだった?」

 ミヒャエルは戻ってきたバーサーカーを労うでもなく尋ねる。

「さて。狸に化かされたと言ったところか」

「うん。なんだか何で出てきたんだか分からない人だったね」

 二人は先ほどのランサーの動向が掴みかねているという感じで頭をひねる。

 ぱしゃっと機械的なシャッター音が響く。バッとそちらを見やると守が手に持った携帯電話で写真を撮ったようである。

「度し難い……」

 ボードワンは額に手をやり頭を振る。

「ひ! ひいいい!!」

 守は全身に絡みつくような殺気を感じ、立ち上がり転び出るように公園の出口に向かって走り出す。

「殺しちゃだめだよ。でも、少しはお仕置きしなくちゃね」

 ミヒャエルはその背中を冷ややかな眼差しで見やって言った。バーサーカーは再び霧となって姿を消した。

 

 

「ヤバいヤバいヤバいって!! そ、そうだ! 界! で、電話!!!」

 守は走りながら携帯電話を操作する。運よく、着信履歴の一番上にあった界の電話番号をリダイヤルする。

『あ、おうい守か? 今正門近くだと思うんだけどさぁ』

「ヤバいって!!! 逃げろ早く!!」

 息も切れ切れに携帯電話に怒鳴る。

「おい界! あ、見えてる! おい!!!」

 全力で走りながら前方に友人の姿を認め、さらに大きく足を動かし界の体にぶつかるようにして体を止める。

「守!? なんでそんなに急いで」

「いいから逃げるぞ! ここにいちゃ殺される!!」

「ころ、って何が?」

 友人の慌てぶりに動揺する界。そんな疑問顔の襟首をつかまれ揺さぶられる。

「なんでもいいから逃げるんだよ!!」

「おおおいおちつけって」

 ぐわぐわ揺れる視界でどうにか冷静に状況を判断しようとするが、守の剣幕が強すぎて何も考えられない。

「ばか! 良いから走れ!」

 守は呆然とする界の手を引いて走り出す。

「うわっ!」

 急な動作に足が動かず、界は転倒する。

「いてて……」

「界!! あ、あああああああ!!!」

 守は倒れた友人を振り返ったが、その顔が恐怖に歪む。

「うわあああああああ!!!」

「え?」

 瞬間の後、守は黒い霧に飲まれた。

「うおああ!!」

 守は霧の中で悲鳴を上げ、もがくがすぐに動きが止まる。界は状況が理解できずただ茫然とその光景を見つめる。

 一呼吸以上置いた後、黒い霧は霧散し、中から長身の男が守を抱える形で出てきた。

「……は?」

 その男は守の首に食いついていた。守はまるで魂が抜けたかのように虚脱していた。

「お、おい、守?」

 男が守の首から口を話す。さながら、物語に出てくる吸血鬼のようなその光景に目を見張る。

 男が、守の体を離すと守は力なく、その場に崩れ落ちた。

「お!! おい!!!!」

 倒れた守に駆け寄りその身を起こそうとするが、完全に虚脱しているせいか、うまく引き起こす手がかりがつかめない。

「おい守! おいったら!」

 ぐたりした守に必死に声をかける。

「友人か。いずれにせよ運がない」

 頭上から、低く、しかし透き通るような声がする。恐る恐る見上げると口からは血が滴り、豪奢な衣装はその血痕に汚れていた。その姿はまるで物語に出てくる、そうさながら

「……吸血鬼?」

 男がピシリ、と動きを止める。

「……本当に運のない。さすがに同情を禁じ得ぬが、余を吸血鬼と呼んだものには罰を与えねばならん」

 ゆっくりと、男の手が界に迫る。

「え、え、ええ?」

 男の手は界の頭をわしづかみにし、万力のような握力で持ち上げる。

「が、、、がああああ!!」

 頭蓋が割れんばかりの激痛に喉の奥から悲鳴が出る。

「貴様の不運は、今日、この場に居合わせてしまった事。それ以上でもそれ以下でもないが、なに、運命とは実に不条理なものだ」

 掴まれた頭をさらに高く持ち上げ界の首筋に己の犬歯を突き立てようとする。あまりの恐怖に言葉も出ず、ただ、心の中で「助けて!!」と叫ぶ。

 瞬間、ばかあああん!!と大きな音を立てて二人の近くに雷鳴が鳴り響く。地面に雷が落ちたその衝撃で舗装されたアスファルトがめくりあがり、破片が飛び散る。

 男は向かってくる破片に当たるのを嫌い、界を離し、距離を取る。

「がは! ぎぃぎぎ…!」

 界は締め付けられた頭蓋を抱え、地面でのたうつ。

「貴様……。何者だ」

 男が誰何する。が、それは自分に対してではないと、界は顔を上げ、落雷のあった方を見やった。

 そこには全裸の少女が、仁王立ちしていた。

 

 

 

 

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