裁定者達の聖杯大戦   作:クルスク

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遅くなりました。そんでもって、今回後半で独自組織が出てきます。これまた腰が定まらない、中途半端な連中ですが、まぁ笑ってお見逃しのほどを。


第二章 新派閥と判じ物について

 『世界なんて簡単に救えるよ』なんてほえた関根敬一郎は、世界を救わんとした聖女を舞台から追っ払い、地味に世界を窮地に追いやりつつあった。

 で、当の本人はどうしたのかというと、まだフランスのパリにいた。

 いやぁ、だって動く理由ないし。

 あの後、ジャンヌというかレティシアを見送った後、関根がやった事と言えば、もう一度部屋に戻って二度寝する事だった。

 『全日本もう帰りたい協会』会員である関根には、機会をとらえてお布団に帰還する義務があった。まぁ、現状は布団というよりベッドだったが。

 朝食は軽くパンを啄み、関根は再度ベッドに身を投げ出した。

 お昼まで惰眠をむさぼり、ゆっくりと起きあがる。

 服のよれよれはもはや弁解不可能なレベルにまで達しつつあったが、しった事ではない。

 二度寝する事で、何とか気力を回復させ、さてどないしょと関根は頭を振った。

 ルーヴルその他の美術館を巡るのは確定だとしても、二度寝したぼんやりした脳味噌と眼で名画をみるというのは、いささか失礼ではないだろうか。

 やはりこういうのは万全の体調で挑むのが礼節と言うものではないだろうか。

 次はいつこれるか分からない訳だし、よし、そうしよう。

 関根は決断を下した。さて、そうなると今日はどうするか、そういう問題になる。

 一応念のために新聞を部屋にもってきて貰って、一通り眺めてみた。

 見た感じ、色々起こっているようだが、ルーマニア関係は平穏無事っぽい。

 あ、日本で何か連続殺人事件、現代に蘇ったジャック・ザ・リッパーとかいうのが起きてるらしいが、これはあんまり関係なさそう。

 

(結論、昨日も世界は平和でございました、と)

 

 実は現在進行形でまずい事態になっていたのだが、関根に分かる訳がなかった。

 いや、九割九分九厘こいつが悪いのだが。

 自覚症状のない馬鹿というのは手に負えないという見本と言うべきか。

 テレビをつけるのも何だし、外に繰り出すか、それともと関根が悩んでいると、ボーイが部屋にやってきていうには、清掃の為にもう少ししたら部屋を空けてほしいとの事。

 関根は近くの、ボーイが旨いと感じるカフェの場所を聞き、その際ちょっと尋ねてみた。

 昨日のジャンヌの会話に出来てた魔術儀式、『聖杯大戦』とかいうものについて。

 無論、まともな答えが返ってくるなんて期待していなかった。ところが、である。 

 『ああ、しってますよ』、真顔で返されたのである。

 正直、この時ほど関根は自分がどういう顔をすべきか迷った日はなかったと言って良い。

 あれ? こういうのって一般人お断りじゃなかったっけ? 

 それともあれだろうか、この世界では魔法がデフォなのだろうか? 

 その割には、箒にまたがって空をとぶ少女や、求人欄に魔法使いを求める広告が載っていなかったのは何故だろう?

 やっぱあれか、それ専門の雑誌か新聞が発行されているのだろうか。そこにしか求人欄はないのかもしれない。

 なんだろう、そうだったら凄く面白そうなのだが。

 アホな感想を抱いた中年の思いはあっさりと打ちくだかれた。

 ボーイはあっさりといったのだ。

 

「エターナルの事でしょう? 日本では何ですか、その名称で呼ばれているのですか?」

 

「?????」

 

 疑問を覚えつつも、話を合わせていくと、何の事はない、オンラインゲームの事だった。

 元はアメリカから発信されたらしいのだが、日本、フランス、ドイツ、イギリス、中国、韓国、東南アジアに幅広く展開しているとの事。

 設定を聞くと昨日ジャンヌからきいた『聖杯大戦』とうり二つだった。

 

(いや、あの時の説明は『大戦』と『戦争』が入り交じってたっけ? まぁ、真剣に聞いてなかったこっちも悪かったけど)

 しかし、その点を除けばほぼ一緒だった。

 『エターナル・ソルダーズ』、直訳すると永遠の戦士達か。

 プレイヤーは史実上の英雄達を『セイバー』、『ランサー』、『アーチャー』、『ライダー』、『キャスター』、『アサシン』、『バーサーカー』、のどれかのクラスに振り分けて召還する。

 有名な剣を所有していた英雄を『セイバー』クラスにすれば、最適。

 英雄ごとにクラスの適性値が決められており、無課金なら素直にそれにしたがった方が得。

 無論、課金でパロメーターをいじったり、スキルを付け加える事も可能。

 また、掲示板ではキャラクターの武器、防具を募集しており、月一回行われる投票で、高い支持を得た武具は実装されるとの事。

 面白いのは能力の高い英雄を召喚できても、それが即勝利に結びつかない点だろう。

 プレイヤーと英雄は独立した存在であり、英雄を遠くにやれば、プレイヤーが狙われておしまい。

 さりとてくっついたままでは、展開次第では他陣営と連続戦闘、集中攻撃を食らいかねない。

 アイテムや地形も勝利の鍵となる、他のプレイヤーとの緊密なやりとり、戦略性、洞察力、言うなれば一瞬たりとも油断できない仕組み。

 なるほどと関根は頷いた。ぱっと聞くだけでかなりやりこみ要素が高い作品である。

 手が掛かる反面、自分の絵図通りにゲームを制したり、他プレイヤーをくだすことが出来れば、快感もひとしおであろう。

 

(うーん、となるとこれはどうなのかなぁ)

 

 関根は思った。ひょっとすると、あの子、レティシア(ジャンヌ)って子はこの『エターナル』主催のイベントに誘われていたのではないか?

 その疑念がまたぶり返してきたのだ。

 しかし、それならそれで昨日、あるいはさっきロビーで会った際に、言ってくれれば、関根とて引き留めるつもりはなかった。

 にもかかわらず、何であの子は大人しくひきさがったのか?

 関根はボーイから『エターナル』のサイト情報を聞き出し、ホテル近くの喫茶店でコーヒー片手に調べてみた。

 だが、サイトのどこを調べてもイベント情報はあるにはあるが、そこにはルーマニアの名は記されていない。

 イベント情報にルーマニアの名があれば、飛び入りで参加して顔を売ろうとしたとか、何か訴えかけるつもりだったとかの推理も成り立つが、現状それもできそうにない。

 そもそもどう考えても遠すぎる。

 また、サイトを巡っていて気がついたのだが、『ルーラー(裁定者)』なるクラスは存在しない。

 『アヴェンジャー(復讐者)』や『セイヴァー(救世主)』、最近になって『ビースト』なるクラスが加わえられたのだが、『ルーラー』はなかった。

 ある種当然と言えば、当然の話であろう。

 オンライン・ゲームである事を差し引いても、本来『裁定者』として振る舞うのは運営がすべき事柄であって、それをクラスに加えてしまっては本末転倒。

 これではほとんど『運営』が機能停止しています、そう告白しているのに等しい。

 この時点で関根は偶然とはいえ、正しく『大戦』の問題点を把握する事となるのだが、あくまで現時点では少女の妄想話とオンライン・ゲームとの繋がりの上としかみていない。ゆえに、

 

(まぁ、いいか)

 

 こういう結論になった。

 ただ、改めてパリの空を見ているとどうにも気になる。

 このまま放っておくと、せっかくの美術館巡りや美味しい料理に舌包み打つのに差し支えそうだった。

 仕方ない、心中で舌打ちすると関根は立ち上がり、ホテルに戻った。 多分日本のカプセルホテルにもあったから、あの程度のホテルにもあるだろうと思ったら、案の定あった。

 こっちは金を払ったら三時間ほどノートパソコンを貸してくれるシステム。

 

『ああ、また余計な散財を』

 

 心中で呻きつつ、関根はノートパソコンを抱えつつ、部屋に戻ると、手っ取り早くパソコンを起動させ、インターネットに接続する。

 さて、次にどうするかと思いつつ、『エターナル』のサイトに接続して……。

 関根は驚いた。ログイン出来るのだ。どうも過去誰かがこのパソコンを使って登録し、そのままになっていたらしい。

 関根にすればありがたい話しだった。これで書き込みも出来れば、情報も探れる。

 無論、細心の注意を払って、個人情報を書き込まないようにしつつ、関根は『エターナル』の公式掲示板に書き込んでいった。

 そこに、何が潜んでいるかなど知る由もなく。

 当初から一種の冗談のような口調で書いた。ひょっとして、あのジャンヌ(レティシア)ってこの知り合いがいて、何かしってるのかもしれない、などと思いつつ、『ルーラー』についてふれてみる。

 ……奇妙な事に反応はすぐにあった。

 どうも没クラスとして一時取りざたされたクラスだったらしい。

 あまりにも付与されるスキルが反則すぎて、結局お蔵入りになった、との事。

 あるいは特殊シナリオだけに登場するレアクラスとして扱おうという動きもあったが、それではプレイヤーサイドにいらざる期待や不満(実装はいつかや何だ手に入らないのか等の)を抱かせかねないので、これまた沙汰やみに終わったという。

 ここまでは納得のいく話であった、そうここまでは。

 話が妙な方向にいきはじめたのは、ここから先。

 無論、細心の注意を払って、個人情報を書き込まないようにしつつ。

 そこに、何が潜んでいるかなど知る由もなく。

 当初から一種の冗談のような口調で書いた。ひょっとして、あのジャンヌ(レティシア)ってこの知り合いがいて、何かしってるのかもしれない、などと思いつつ、『ルーラー』についてふれてみる。

 ……奇妙な事に反応はすぐにあった。

 どうも没クラスとして一時取りざたされたクラスだったらしい。

 あまりにも付与されるスキルが反則すぎて、結局お蔵入りになった、との事。

 あるいは特殊シナリオだけに登場するレアクラスとして扱おうという動きもあったが、それではプレイヤーサイドにいらざる期待や不満(実装はいつかや何だ手に入らないのか等の)を抱かせかねないので、これまた沙汰やみに終わったという。

 ここまでは納得のいく話であった、そうここまでは。

 話が妙な方向にいきはじめたのは、ここから先。

 

 いきなり関根は問いつめられたのだ。曰く。

 

『貴方はどこでルーラーの情報を得たのか?』

 

 と。

 ん? 聞かれて、関根は少し困った。

 正直に答えたものかどうか、少し悩んだが、まぁ良いかと正直に答えてみる事にした。

 

『どこって、とある人物から聞いた』

 

 間髪入れずに次の問。

 

『誰から?』

 

 何やら漂う不穏な気配。

 関根はあたりを伺った。オープンカフェで、今も近くに道行く人々の雑多な声や足音がしている。

 そんな日常の風景や音を見て、関根はようやく落ち着いた。

 さて、ではどうする?

 何だか反応がおかしい、それは傍目にも明らかだった。

 ただのゲーム・只の没クラスに対して言及しただけでこれ。

 別に実装される云々のデマをとばした訳でもないのに。

 

(あんまり相手にすべきじゃないのかもしれないなぁ)

 

 そう思う反面、気になるのも事実。

 どうしようかと思っていると、相手は関根の反応にかまわず続けた。

 

『貴方はここがどこで、何に書き込んでいるのか理解しているのか?』

 と。

 

 ……あ、ヤヴァイと関根は思った。何かあかん奴に噛みつかれたっぽい、とも。

 あるいは一時期日本でも話題になった元運営のスタッフが、軽率にもゲームや運営元の内部情報を暴露しまくって問題になった事件を想起したのかもしれない。 

 何にせよ、あまり相手にすべきではない。

 だが、沈黙したまま退散というのも尻尾を巻いて逃げ出したようで、気分が良くないのも事実。ならば。

 関根は相手の言葉に応じず、一方的に書き殴った。

 

『舞台はルーマニア。規格外の戦い。世界の危機』

 

 普通にみる限り、頭がおかしい記述にしか見えない。これで引き下がるかと思ったのだが。

 反応は早かった。

 

『貴方はどこの誰で、どこでそれをしった?』

 

 ……ひょっとして、この人物、あの子(レティシア)の知り合いか何かなのだろうか?

 しかし、それならもう少し尋ね方と言うものがあるはずだった。

 事情を語るか? いや、只単に物好きが面白がって食いついているだけの可能性もある。

 それに下手な事をいってあの子(レティシア)に迷惑がかかってもいけない。

 

『聖女様からの情報です』

 

 どこからどう見ても立派な電波さんの物言いである。これで退くかと思ったら、甘かった。

 

『では貴方は、聖女様そのもの乃至聖女様の声を聞いた、と?』

 

 勘弁してよ。関根はつくづくそう思った。

 周り見てみなよ、明らかに皆ひいてる……あれ? おかしいな、普通だったら揶揄するなり、馬鹿にする書き込みが乱舞しても良いはずなのに、全くその傾向がない。

 

(外国のサイトって随分大人しいのね。日本だったらこうはいかない)

 

 ズレた事を考えつつ、関根は答えた。

 

『はい、その通りです。私は聖女様の声を直にききました』

 

 嘘はついていない。まぁ、問答の末追い返した訳だが。

 さぁ、もうこれで話は終了と思いきや、関根は次の書き込みで目が点になった。だって。

 

『是非ともお会いしたいのだが』

 

 はい? え? これ出会い系のサイトだったっけ? いやいや、ちょっと待ってほしい。

 この手の書き込みって原則禁止されているはずでは?

 関根がそう思うのも当然だった。もし何かの事件にでも発展したら、どう考えても当局ににらまれるか、良くない噂が立てられる。

 運営側にとってそれは致命傷になりかねなかった。普通だったら、きちんと取り締まるはずであるし、周りもそれとなく止めるはず。

 しかしどう言う訳か、止める気配が全く見えない。

 どうしよう? さっさと逃げ出すか。そう思いつつも、関根はつい馬鹿な思いに駆られて最後の書き込みを行った。いわく。

 

『ならば、ルーブルにおいて、奪うものではなく、与える者になりたかった御仁の絵の前にて、お待ちしております。期限は二日。時刻は午後二時から四時の間にて』

 

 この謎かけわかるかねぇ、まぁ、無理だろ。

 分かる奴なら、話し程度は聞いても良い。

 それが関根の判断だった。馬鹿な事やっているという気持ちはあるが、この程度のお遊びは許されて良いはずだと自分に言い聞かす。

 それが、世界と自身の運命を変える事になろうとは露知らず。

 

 さて、ここでちょっと視点を変える。というか、説明する必要が出てきた。

 関根が覗いた『エターナル・ソルダーズ』について、また、その背後の組織についてである。

 聖杯戦争そのものといってよいゲームが世をにぎわせているこの状況、言うまでもなくこれは偶然ではなく意図的に作り上げられたものである。

 何故こうなったのか、その理由の一つとして例の『亜種聖杯戦争』があげられる。

 本家本元とは違い、手軽で簡単な(?)儀式と化した亜種聖杯戦争は、それこそ世界中で猛威を振るい、ある面では魔術師達の術式展開や理論構築、実践経験等に多大に貢献した。ここまではプラス面。

 しかし、当然の話だが猛威を振るえばふるうほど人目につきやすくなるのもまた事実。これはマイナス面。

 しかもかつて冬木で行われていた程度であれば、聖堂教会の一手で処理も可能だったが、事が世界中に拡散されるとそうも言っていられなくなってきた。

 予算もかかるし、人員も派遣しなければならなくなる。

 しかも、それだけやって聖堂教会になにか実入りがあるのかといえば、何もない。

 最初の内こそ『おつき合い』や『組織間の相互理解と協力態勢構築の為』とお題目もたてて何とかやってこれたが、徐々に聖堂教会内部で不満の声があがるのも無理ない話であった。

 

『冬木の大聖杯ならいざしらず、偽物の馬鹿騒ぎにどうして聖堂教会がつきあわねばならないのか?』

 

『我々聖堂教会は魔術協会の下部組織ではない。後始末や隠蔽等の問題はそれこそ魔術師達本人が率先してやるべき事柄ではないのか?』

 

 大都会で行われるのならば、利権やら土地の有力者に顔を売れる等のイベントもあるのだが、『神秘の隠匿』というお題目を守らんと欲するなら、龍脈等考慮しなければならない問題を加味したとしても、田舎でやるのが相応しいという話になる。

 日本で例えるなら、京都市と大阪府の間、住民すら自分たちは京都に属してるのか大阪に属しているのかよくわからない中途半端な所が一番という話になる。

 風光明媚……だろう。空気も美味しい……はずだ。

 でも観光名所と呼ばれるものは何一つなく、それが目的でいくわけではないのだが、行って何するかと言えば、他人がやらかした後始末。

 しかも大抵の場合やった奴は後始末を手伝わずにそのまんまどっか行ってしまう。

 これで聖堂教会側に不満がたまらなければ、それこそどうかしているといえた。

 かくて『聖杯大戦』が行われる前に、聖堂教会側は魔術師達に強硬な申し入れを行う事となる。曰く。

 

『あのさ、お願いですから、あの馬鹿騒ぎ(亜種聖杯戦争)、もうちょっときちんと制御してくれません? ねぇ?』

 

 平たく言えば『お前等、魔術師側も金と人員出せや、こらぁ!』である。

 流石にこの剣幕に魔術師側も何らかのアクションを行う必要性は感じられ、かくて一時的な情報拡散と統制処置が執られる事となった。

 それが『エターナル』である。

 『聖杯戦争』に似たゲームを世に送り出し、そこを基盤として『亜種聖杯戦争』をとり行う場合は、必ずここに登録を行わなければならない、もしその規約を破った者は、立場、貴賤関係なしに処罰の対象となる。

 かくて発展著しいソーシャル・ネットワークを通じて、魔術師達は『亜種聖杯戦争』の掌握にかかった、と言うわけだ。

 が、これら一連の発起人とも言うべき時計塔は、どことなく本件に及び腰だった、否、こう表現すべきかもしれない。

 

『今一つ己のやっている行動をよく理解していなかった』

 と。

 

 言うなれば、本音の上では魔術師達は聖堂教会を、こと『亜種聖杯戦争』に関する限り、下部組織とはいかないまでも便利な掃除屋と見なしていたのである。

 このような事情から立ち上げられた『エターナル』及びその運営元にろくな人材、資材、資金が与えられなかったのも、ある面ではやむを得なかったとさえいえる。

 どうも当時の記録をみる限り、時計塔もアトラス院も、三年か長くても四年ほどで『エターナル』から手を引こうかと思っていた節がある。

 

『聖堂教会から文句を言われたので、一応やっていますという格好を付ける必要がある。三年か四年後、龍脈把握と願望機起動方法の徹底解明を押し進め、完全に亜種聖杯戦争は時計塔の管理下に置かれる』

 

 これが残された資料から伺える時計塔の『亜種聖杯戦争』解決策だった。

 ところが、事はそう簡単に行かなかった。

 まずもって『エターナル』が想像以上の成功を収め、勝手にスポンサーを募り出したのである。 不思議な事に当初時計塔側はこれを黙認していた。

 元々ソーシャル・ネットワークの意味をよく理解していなかったので、独自に資金繰りを行う事で、組織面で独立して貰った方がありがたいという空気が支配的だったのだ。

 配置されている人間は腐っても魔術師、それも時計塔、アトラス院、彷徨海の雑多な寄せ集めだった。

 これは時計塔出身者のみで構成しては、時計塔のみ優遇する方向にいかせぬ措置だったが、終わってみれば無駄な予防策だった。

 集められた人間達は自分たちが厄介払いされたと理解しており、同時にここで何をしたところで評価もされないとわかっていた。

 

『所詮、窓際、聖堂教会相手の言い訳としてでっちあげられた組織』

 

 本命がどこにあるのか、彼、彼女らは百も承知だった。

 だが、『エターナル』の成功が流れを変えた。

 独自で資金繰りを可能になった彼らは、密かに『亜種聖杯戦争』に手を突っ込んでいった。

 言うまでもなく『亜種聖杯戦争』は、術式や確保出来る聖遺物の関係から、地味な催しへといった。

 クランの猛犬、騎士王、征服王、英雄王といった煌びやかな英雄達を呼び出す事は実質不可能。

 だが、そうならそうとやりようはあった。

 ここで打ち捨てられた彼らが注目したのはネットの世界で生み出された一つの伝承。

 

『スレンダーマン』

 である。

 もとは掲示板にアップされたひょろ長い顔のスーツを着た怪人物。

 何をしたわけでもない、ただ悪戯で作り上げられたこの怪物はネットを中心に広がりを見せ、あろう事か現実に見たと証言する人が多数でたのである。

 曰く、見たら呪われる。子供を誘拐する等々。

 そんな能力は創造者すら想定していなかった。にも関わらず、『スレンダーマン』は勝手に能力が付け加えられて行ったのだ。

 彼らはこれに目を付けた。

 アメリカで行われたとある『亜種聖杯戦争』において、彼らは密かにこの『スレンダーマン』を召喚し、見事最終勝者にのし上がる事に成功したのである。

 他の参加者の英霊が二、三流であった事、組織的バックアップがあった事も事実だが、近代のそれもネットを通じて作り上げられた幻影が、本物の英霊に伍する事ばかりか、勝利すらして見せたのである。

 この勝利をもって、彼らは高々とその名を名乗るようになった。

 アメリカを拠点とした『新大陸派』の結成である。

 この動きに時計塔、アトラス院、彷徨院が激怒したのは言うまでもない。

 本来聖堂教会相手の言い訳組織、対『亜種聖杯戦争』用の掃除屋が、何をトチ狂ったのか独自組織を名乗り出したのである。

 本来ならばユグドミレニアよりも先に潰されても文句言えないはずだった。

 が、ここでものをいったのが『新大陸派』が抱える特殊な武器。

 彼らの拠点たるアメリカ大陸のもつマンパワーである。

 元来これは大した武器になり得ないはずだった。

 知っての通り、元来これは大した武器になり得ないはずだった。

 そしてこれまた、魔術師の要は魔術回路にある。

 代を得て、血を混ぜ合わせる事によって発展していくそのあり方は、通常なら数多く人がいればそこから特異の天才を生み出る事があり得るという常の法則を覆すものだった。

 だが、ここに『亜種聖杯戦争』という一要素が絡んだ瞬間、話は劇的に変化した。

 なるほど、本家本元に比べるならば、最大でも英霊五騎しか呼べず、万能の願望機なんぞと呼ぶのも烏滸がましい代物かもしれない。

 しかし、だ。それでも勝ち上がり最後の一人になりさえすれば、魔術回路の本数追加や魔力の質的向上、身体強化程度ならば通常の魔術師が一生かかっても得られるかどうかわからない成果も、簡単に引き出す事が可能だったのだ。

 下手をすれば現行の魔術師達の制度や体制を崩しかねない異形の研究。

 『新大陸派』はこれを武器にして、魔術協会側にとある申し入れを行った。

 それは他でもない現行体制の刷新、もっと言ってしまえば『新大陸派』の権利確保と参入であった。

 というのも、『新大陸派』はその母胎となったのは言うまでもなく時計塔、アトラス院、彷徨海の各陣営からの寄せ集めだったが、発展過程でのし上がってきたのはアメリカ出身の魔術師達が多かったのだ。

 数は多けれども正当な評価を受けられない、理論面では常に時計塔、アトラス院、彷徨海の後塵を拝している。

 彼らはそれが我慢ならなかった。

 たまに人材が先の三つに呼ばれる事はあれども、それらは全て吸収されてしまい、古巣のアメリカには帰ってこない。

 そりゃ、正当な評価も理論も遅れがちな古巣にいるより、本場で力を発揮した方がよほど良い、そう判断するのも当然だろうが、中には実力を認められながらも、地元愛に駆られて残っている連中も確かにいたのだ。

 彼らの全員がこう思うのも無理なかった。

 

『面白くない』

 と。

 あるいは、

『これじゃあ、大企業の下請けか、何時までもこき使われているパート・アルバイトと立場が変わらないじゃないか!』

 と。

 

 『新大陸派』にとって幸運だったのは、ちょうど折りよくユグドミレニアが魔術協会から離反してくれた事だった。

 おかげで、魔術協会、具体的には交渉窓口となった時計塔は、かなりの面で『新大陸派』に譲歩せざる得なくなったのである。

 もしここで強硬策にでて『新大陸派』まで離反しては、各地で起きている『亜種聖杯戦争』の始末ばかりか、『新大陸派』にまで戦力を向けねばならなくなる。

 これでは仮に無事に全ての方がついたとしても、時計塔、アトラス院、彷徨海の三陣営で政変が起きるのは確実であり、まず持って時計塔の現責任者三人の首は飛ぶ事となるだろう。

 かくて、『新大陸派』は暫定的とはいえ魔術協会内部における第四の地位、独自の権力基盤と時計塔、アトラス院、彷徨海からの有力講師招聘の権利を獲得する事に成功したのであった。

 ただし、今のところ出来てここまでである。

 先に挙げた『亜種聖杯戦争』を通じての身体強化云々は、下手をすれば魔術師達の秩序そのものを突き崩すばかりか無茶苦茶にしかねない面がかなりあるので、おおっぴらには振り回せないし、どんな副作用があるのかどうかもわからない以上、慎重に取り扱う必要があった。

 また、『新大陸派』も心得ていた。

 現状ここまでもちこめたのは、あくまでユグドミレニア離反に伴う一時的な優位状態にすぎず、タイミングがズレていれば、自分たちこそ真っ先に粛正対象になっていたと言う事を。

 そしてこういった形で魔術協会と妥協が成立した以上、少なくとも表立っては今時のユグドミレニア離反には、関われないという事も。

 ただし、では何もしないのが正解と言えるのかと言えばそうでもなかった。

 どのような状況であれ、手札、すなわち選択肢は多いにこしたことはないのである。

 それでなくとも形の上では『新大陸派』は『亜種聖杯戦争』を通じてここまで大きくなった組織なのだ。

 本家本元の、まごうことなき大聖杯と本物の大英雄達の激突。

 

『見たい! 何としても!』

 

 そう思うのも無理はなかった。

 だが、先に述べたとおり人をやるのははばかられる。

 さりとて事が終わっての後、時計塔の広報が述べ立てるゴテゴテに飾りたてられた自己宣伝まみれの戦闘詳報なんぞ読みたくもない。

 これは仮にユグドミレニア側が勝っても同じ事だろう。

 読んでみたいのは虚飾を廃した、ひたすら事実に即した文章乃至映像なのだ。

 自陣営の人はやれない、買収は可能だが、どうせその程度の小物では得られるものはたかがしれている。

 中立でなおかつ両陣営を行き来でき、参加者の誰にでもインタビュー可能で、虚飾を述べない人物。

 どう考えてもそんな都合の良い人材なんぞいるわけがない。

 普通ならそう考える所、『新大陸派』は『亜種聖杯戦争』を通じて、一つの噂話を蒐集していた、曰く、

 

『ルーラーなる特殊クラスが存在する。出現する条件は不明だが、世に言う聖人が顕現し、サーヴァントを御する能力を持つ』

 と。

 

 とある『亜種聖杯戦争』時に出現したとあるが、詳しい事はわかっていない。

 だが、もはや『新大陸派』がすがれるのはこれしかなかった。

 そんな彼らに確かに天は微笑んでくれたのである。

 これも偏に亜流とはいえ『聖杯戦争』に関わり続けたご褒美だったのかもしれない。

 こうして彼らは運良く関根の何の気なしにかき立てた情報に飛びつく事となる。

 どこから発信されたものか即座に解析、フランス、それもパリ。

 だが、そこで彼ら『新大陸派』は頭を抱える事となる。

 ここから先はどうするのか。問題はそこだった。

 実の所、関根の所在は結構簡単に把握できていたのである。

 ログインしてきた時間とIPアドレス、ついでにそこここに張り巡らされた監視カメラを付け加えれば、今日日大抵の人物の行方は追える。

 『新大陸派』の強みは『亜種聖杯戦争』を通じて各地の行政や政府と太いパイプがあり、ここでそれがものをいったといって良い。

 じゃあ、さっさと会いにいけば良いではないか、そういう話になるのだが、ここで『新大陸派』はやらかしてしまう。

 関根が言い立てた例の判じ物、『奪う者でなく、与える者になりたかった御仁の絵の前にてお会いしましょう』とかいう、これに反応してしまったのだ。

 

『やっぱりさぁ、こういうのって解いた上で会うのが正統なんじゃないの?』

 

『言えてる。IPアドレスと監視カメラ使って居場所特定って、その』

 

 風情もヘったくれもないじゃない。

 後になってみれば、頭おかしいのではないかと言われても文句が言えない発想なのだが、この時『新大陸派』は真剣にそう思い、挙げ句この判じ物を幹部クラスのみならず、下の者にも公開し、意見を求めたのであった。曰く、

 

『解けた人物に会いに行かせる』

 と。

 

 後日、『新大陸派』の幹部は頭抱えつつこう呻く事となる。

 

『あれ? 何で俺達あんな馬鹿な事やっちゃったんだろう?』

 

 その場のノリと勢いで話し進めるとろくな事にならないと言う良い証明。

 で、それだけでなく解けた奴がでたのはいいが、そいつの説明を詳しく聞かずに送り出したのである。

 聞いてさえいれば、あるいは後の事態は避けられたのかもしれないのに。

 

『いや、だって自信満々だったし』

 

 一応断っておくと、この人物、『新大陸派』幹部の一人、マンフレッド・オマーンは確かに関根の判じ物を解いて見せたのである。

 そして見事に接触する事に成功はした。

 で、どうなったのか。

 次に語るはその話し。

 『新大陸派悪夢の夜(実際の会談時刻は昼頃)』、『新大陸派黒歴史ナンバー1』の顛末について語るとしよう。

 

 




書き溜めてて、遅くなりました。関根の出した判じ物は、某漫画のネタです。次の話は、近日中にのせたく思います。一応、次は戦闘シーンを予定してますので。それでは、また!
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