ああ、後前章でこの回で戦闘シーンやるって言いましたけど、ありゃ本当です。ええ、これを戦闘シーンだとすれば、の話ですが。
お気に入りと評価ありがとうございます。詐欺と言われようが、やるだけやってやってみます。それでは、判じ物の答え合わせとまいりましょう。
(やっぱりいないか)
関根はその絵の前にして、ほろ苦い笑みを浮かべた。
まぁ、予想通りといえた。
『奪う者ではなく、与える者になりたかった御仁の絵』
ルーヴル美術館、そこのある絵の前に関根はたっていた。
大きな絵であり、今も人通りが絶えない。
有名な絵である事は間違いない。
で、一日目は誰にも声をかけられなかった。
二日目も今も同様。まぁ、関根とて期待していたのかと問われれば、かなり微妙だったのだが。
(まぁ、しょうがないよね。そんなものだし)
にっこり笑って、関根は深々と頭を下げた。申し訳ございませんでした。
どうも通じなかったご様子……ん?
その瞬間、関根は異常に気がついた。
その絵の前は通路になっており、人通りが絶えないはずなのに、その瞬間、まるで申し合わせたかのように人通りが絶えたのだ。
あり得ない、最初関根は
『何かの催し物かお偉いさんの視察でも予定されてたっけ?』
と思ったが、それだったら事前通告されてしかるべき、あるいは係りの者が関根に注意をしてくるはずだった。
にもかかわらずここに至るもそれがない。ということは、まさか。
関根がそう思ったまさにその瞬間、カツーンと聞こえよがしの靴音がした。
ルーブルほどの格調高い美術館では不作法に値する気がしないでもないが、演出としてはなかなかのもの。
関根はそう思いつつ、足音がした方向に目を向けた。
やってくるのは紺のスーツをきた男性。
褐色の肌に銀色の髪、顔立ちは嫌みなほど整っている、のだが、何だろう、胸につけている天道虫のブローチ(かなり大きい)で、かなり大損こいているような印象があった。
いや、もっと言ってしまえば、関根は妙な親近感すら覚えたと言って良い。
そしてその印象は間違っていなかった事がすぐに判明する。
男は気障ったらしい笑みを浮かべ、次いで優雅に一礼して見せた。
「お初にお目にかかる。自分はマンフレッド・オマーン。『新大陸派』の幹部をつとめている者」
(『新大陸派』何それ?)
またぞろ、何だか嫌な予感がした。
(いや、ひょっとして例の『エターナル』の運営かイベント委員がそう名乗っている可能性が……)
だったら、サイトのどっかにそれが載ってなきゃおかしいよな、うん。
思いつつ、そういえばと関根はそれを口にした。
「その様子から察するに、俺が出した問題の答えはしっかりと解いていただいたようで。
しかし、当てずっぽうの可能性もある。何と言ってもこの絵は有名だからね。
さぁ、答えをどうぞ。貴殿は何を持って俺が出した謎を解いた?」
謎もくそもない。こんなもの、あれを読んでいれば答えはズバリ書いてあるのだから。
『ああ、俺はこれになりたかったのだ。
奪うものではなく、与えるもの』
マンフレッド・オマーンは気障ったらしく右手を己の髪にやり、見事なまでのドヤ顔で言った。
「ふっ、愚問なり。
長谷川哲也著、『ナポレオン 覇道進撃』第四巻にしっかりと書かれている! この絵の事が」
そう、それこそがかの有名な
『ナポレオンの戴冠図』
パチパチパチ、関根は拍手で持ってその男、マンフレッド・オマーンを迎えた。
まさかこんな所で同好の士に出会えようとは思わなかった。
半ば以上それを期待しての謎かけだったが、こうも鮮やかにつれるとはちょっと思っていなかったのも事実。
さて、問題は一体どんな話が聞けるのか、そしてこの周りで起きている異常事態は何なのか。
関根は笑顔を絶やさぬようにしつつも、注意と警戒を怠らなかった。
で、ちょっとここで視点を移す。
いやぁ、関根視点だとちょっと面白くないので。
この会見、しっかりとライヴ中継されていたのである。
やっていたのは言うまでもなく『新大陸派』。
人払いの結界を張ったのも、言うまでもなく彼ら。
で、現在進行形のこの会談は、彼らにとって歴史的会談になるはずだった。しかし……。
のっけからけつまずいた。そう評するのが妥当であろう。
ここら辺、ニコニコ動画でコメントが流れている光景を思い起こしつつ読んでいただくと良いと思う。
『え? 何? 長谷川哲也? 誰?』
『ナポレオン 覇道進撃! 日本の漫画じゃねえか!』
あ、何か嫌な予感がした、とはとある『新大陸派』幹部の後日の台詞である。
だってそうであろう。
ルーヴルである。おまけに何かしら意味ありげな謎かけである。
それだったら、普通ルネッサンス期の巨匠、ミケランジェロやダンテ、ダ・ヴィンチの諸作品にまつわるものと想像したくなる。
いや、そこまでいかずとも聖書関係の作品でもまぁ許せた。
ナポレオン・ボナパルトの戴冠図。
うん、まぁ、悪くはない、悪くはないのだが、長谷川哲也とはなんぞや? おまけに日本の漫画?
『おい、こいつ本当にルーラーなのか?』
何か違う気が。
いや、まて、これは何かの壮大なメッセージの可能性も。
まぁまぁ、ここは一つマンフレッドに任せて。
様々な思いを乗せつつ、話は進んでいく。
そこから先の話は『聖杯大戦』の話であり、参加者のプロフィールやら、出来れば詳細な戦闘報告やユグドミレニアや魔術協会から派遣された連中の動きを仔細に調べ、記録してほしいという依頼について。
相手の人物、『関根敬一郎』なる人物は、右手を口元に手をやりつつ、要所要所で頷くばかり。
落ち着いた態度といってよく、見ている人々も、
『至って普通だな』
『ある程度事情は承知しているみたい』
と割と好感触。
で、一通り説明が終わり、関根は言った。
『依頼を受けた場合、資金提供等はあるのか?』
と。
これはかなり微妙な問題だった。知っての通り、本来ルーラーは局外中立を旨とする。
特定陣営から金銭授与を受ければ、どうあっても疑惑の目で見られかねない。
しかしこの点、『新大陸派』に関する限り、クリア可能である。
マンフレッドもその点を説明し、関根もあっさりと了承の意を示し、ここに平和裡に話し合いは終了するかと思われたまさにその時、マンフレッドが仕掛けた。
『一つ、関根さんといったか。俺は貴方に疑惑の念をもっている!』
おおっ! やっぱり!
良いぞ、その通りだ!
賛意の声があがる一方、了承をしてもらえたのだから、下手につつくのはまずい、勇み足だと危惧の念をこぼす者も。
だが、矢は放たれたのも事実。
どうなる! 固唾をのんで見守る中、マンフレッドは言った。
『こう言っては何だが、貴方の気配はいかにもそこいらにいる一般人と変わらない。これで裁定者などと名乗られても、困惑を感じるのも事実』
よく言った、うん、その通り!
若干賛同の声が大きくなる。
マンフレッドは続けて言う。
『だから普通に考えるならば、何かしら能力なりスキルなどを見せてほしい、ここはそういう場面なのだろう』
うんうん、いいよいいよ、まさしくその通り!
ここまではよかったのである、だが次の瞬間、マンフレッドは何をいったかと言えば。
『だが、俺は同時にこうも思うのだよ。果たして能力やスキルなどというものは重要なのだろうか、と』
ん? ちょっと待て、こいつ何を言い出す、能力やスキル重視しなくて何を重視せいと?
この瞬間、背中に悪寒が走ったと、後日幾人もの人間が証言している。
『俺はそんなものには興味がない。いかなる優れた能力、スキルを持とうとも、気高い精神性を持たなければ、そんなものに意味はない! そう考えるがゆえに!』
おい! 誰かこいつを止めろ!
もはや絶叫ではすまない悲鳴がそこかしこで叫ばれる中、マンフレッドの対面の関根は言った。
『その口調から、察するに君はあれか、ジョジョの奇妙な冒険(荒木飛呂彦)の』
『そうだ。俺はかの作品の信奉者と言っていい!』
誰だ、こいつの派遣決めやがった馬鹿は!
お前だって賛同しただろうが、今更他人事みたいな面すんな、この野郎!
外野のわめきはもはや止めようがないほど拡大していく中、マンフレッドは言う。
『言うまでもなく、あの作品を貫くテーマは「人間賛歌」に他ならない。貴方がそれを正しく理解しているのならば、何でもいい! それを示して見せろ! だが、言うまでもなく「ジョジョ」を使用する事は禁止する!』
ねぇ、誰かこいつに今手前の言動と行動全て中継されてるって言う、肝心要の事伝えてくれない?
もはや『新大陸派』は別の意味で壊滅しそうな勢いであった。
誰がどう考えても、この瞬間、関根敬一郎という人物の底をみるより、自分たちの評判の方が地に落ちるのが早い、誰がみてもそう思ったまさにその時!
カツンっと甲高い音を立てて、関根は前にでた。
え? もういい加減自分達の目と耳を疑うのも飽きてきた外野の人々をあざ笑うように、関根敬一郎はマンフレッドに向けて歩を進める。
マンフレッドは口角をつり上げ、不敵な笑みを浮かべて言う。
『ほう、向かってくるか。てっきり距離をとって、終了間際の受験生みたく必死こいて粘ると思ってのだが』
関根、いつの間にか口元にやっていた右手をおろしポケットの中に。
そうして言う。
『近づかなきゃテメーはぶっ飛ばせねえからなぁ』
『ふっ、なら存分に近づいてくるが良い!』
なぁ、これ一体何が始まってんの、ねぇ。
もはや完全に先生、お願い、見物人の人達が息していないの、状態。
そんなもん完全無視して関根とマンフレッドの戦闘(?)は開始される。
当然、最初のかけ声は、あれだ。
『無駄無駄無駄無駄無駄!』(マンフレッド)
『オラオラオラオラオラ!』(関根)
言うまでもない話だが、双方スタンドを展開
している訳ではない。
怒鳴ってるだけ。傍からみる限り、頭のおかしな二人が大声でわめきあっているようにしか見えない。
しかし、ああ、ある意味当然と言うべきかやってる当事者達は真剣そのもの!
『人間賛歌。いくぜ、題は「ドラえもん」!』
関根の言葉に、マンフレッドは大げさに肩をすくめていう。
『ほうっ、「ドラえもん」! なるほど、知名度においては、ジョジョに勝るとも劣らぬ作品だな。感銘を受ける長編も数多い。それで、「ドラえもん」の何を語る』
『俺が語るのは「ドラえもん」ではないぜ。それに命を吹き込んでいる声優さんについてだ』
『ほう、これは興味深い。そういえば、貴方は日本人だったな。俺は常々聞いてみたいと思っていたのだよ。あの交代劇をどうおもっているのか、と』
「ドラえもん」と聞いて最初に鼓膜に蘇ってくるのはあの御仁の声であろう。
暖かくて、そのくせ独特の癖があって、あの声になれきった者にとっては、「ドラえもん」とあの御仁はもはや一体といっても過言ではなかった。しかし。
『人は年をとる。かつては出せていた声や演出も、体力的な問題や病気から出来なくなる事もある。それを無視して第一線にたたせ続けるのは、当の本人にも周りにも良くないことじゃねーのか』
『しかり、しかりと答えよう。しかしだ。あの選択はどうなのだ? 日本にはカンイチ・クリタという素晴らしい例があったというのに』
『無駄ぁ』という台詞と共に、何故か関根がのけぞり、後退する。
久しぶりに見物人からコメントがきた。
『おい、いつまで続くのこの茶番劇』
外野ではもはやルーヴルを爆破したいと言い出す始末。
『ぐぅ、まさか栗田氏の事をしっているとはな』
関根は呻く。補足しておくと栗田貫一氏は、現ルパン三世の声を担当している声優さんだが、元は物まねとしてやっていた。
あまりに上手かったため、前任者が『もし自分がなくなったら、後任には彼を』と冗談混じりに語り、後にそれが実現した希有な例。
また、栗田氏も後に「自分は後釜と言うより前任者のまねをあくまで続けている、そういう気持ちで演じている」と語っている。
まさしく日本の声優業界が生み出した傑物の一人と呼んで過言ではあるまい。うん。
『クリタ氏の例がある以上、備えておくことは出来たはずだ。よりにもよって』(マンフレッド)
『あれはない、か。一理あると言えなくもない。だが、俺はそうであるがゆえに、あの人を支持すると答えるぜ』(関根)
『ほう、それはまた何故?』
『何故って、一体あの人の後任に一体誰を持ってくればいい? 誰なら納得がいく?』
『むっ、それは』
『ああ、そうだ。誰であろうと納得がいかない。「ドラえもん」の声はあの人しかいない。そう考える奴が大半だろう。俺だってそういう気分だ』
マンフレッドは沈黙。畳みかけるように関根は続ける。
『言うなれば誰であろうと批判された事だろう。あれはもう「ドラえもん」ではない、そういわれてな』
『オラッ』関根のかけ声と共に、今度はマンフレッドがのけぞる。
関根、更に追撃。
『そんな事は、少し想像力を働かせればわかる話だった。誰だって、批判されるよりは受け入れられたい。作家や漫画家が代表作と言われる作品を書き上げる事に喜びを感じるように』
声優にとってみれば、『あの作品の、あのキャラクターの声はあの人しか考えられない』、そういわれるのは最大の賛辞だろう。
『批判される事を覚悟の上で、それでもあえてあの人物は「ドラえもん」の声を引き受けた。マンフレッド・オマーン。こいつはどうだ、荒野を切り開く精神の気高さじゃないか!』
なんだそれは、見物人の悲鳴と同時に、マンフレッドが崩れ落ちた。
あたかも全力で殴り合った、そう言いたげな顔つきをしつつ、マンフレッド・オマーンは言った。
「最後に一つだけ、聞かせてくれないか。お前にとってあの人は……」
関根は少し目を伏せていった。
「……先に言ったことは、まぎれもなく俺の本音だ。だが、それとは別に思うところはあるぜ。できるなら、そう許されるならば」
死ぬまで、あの人の声で『ドラえもん』を見てみたかった。
それを聞いた瞬間、マンフレッドは心から納得したといわんばかりに、笑った。決着、完全に決着!
いや、ちょっと待て何かおかしい! 金渡すの待った!
『新大陸派』の幹部達は狂ったようにマンフレッド・オマーンの携帯に電話をかけたが、マンフレッドはそれをことごとく無視。
『素晴らしい精神性だ! 彼になら全幅の信頼が置けるし任せられる!』
何をどうとればそういう発想と結論を抱けるのかわからないが、マンフレッドはあっさりとクレジットカードと白紙の小切手のはいったアタッシュケースを関根に渡し、晴れ晴れとした顔でルーヴルを後にした。
……うん、この日を境に『新大陸派』は胡散臭い、怪しげ、関わりあいにならない方が良い集団という評価を受ける事となる。
さて、関根敬一郎はというと。
(何だったんだろう、あれは)
RPG風に例えるなら『関根はアタッシュケースを手に入れた』訳である。
何であんな事をしたのかと言えば、『金銭援助』という単語に心引かれたからに他ならない。
そう、それ以外の他意はない。喜んでやっていたように見えるとか、ノリノリにしか見えなかったというのは、全て演技である。
いいね、と関根は誰言うともなしに胸の内でつぶやきつつ、戴冠図に一礼しそそくさとその場を後にした。
これ以上、ここにとどまってるとナポレオンとルイ・ダヴィッド(戴冠図の画家)にどつかれるような気がしたので。
で、ホテルに引き返した関根は、改めてアタッシュケースをあけてみた。
入っていたのは限度額なしのクレジットカード、白紙の小切手、でもって参加者のプロフィールとかかれた紙の束(サイズA4)。
……いやな予感はしていたのである。
ここ何日か立て続けに聞いた妄想話。
随所で展開される奇妙な光景、明らかに会話内容が他者には違って聞こえ、ルーヴルではあんな馬鹿な光景を繰り広げても誰も何も言わなかった!
いや、それでもと、関根は淡い期待を抱いていた。
プロフィールには『八枚舌』とか『疾風車輪』とか『銀蜥蜴』とか、間違っても名刺に書きたくないあだ名が続々と載ってるのである。
『うん! ゲームだね、これは全部あれだ。ハンドルネームの類に違いない!』
である以上、このクレジットだって、あれだ、きっと使えないに違いない、そうさ、そうに違いない!
冷静に考えるなら、妄想少女がルーマニアにいって世界に危機に直結しかねない魔術儀式に参加しなければならないとほえても、多分大抵の人は笑って肩を叩いて帰るよう諭す所だが、大の大人が出所不明のクレジット使ったら、どっからどう考えてもアウトである。
先に少女が口にした説明をした所で、頭がおかしいと思われて、即座に警察にご厄介だろう。
そういった意味では、ある種関根も覚悟を決めていたといって良いのかもしれない。
そうして予想通り、あっさりとクレジットは使用出来た。
関根が泣きそうになったのは言うまでもない。
まさしく、進退窮まったと言うべき状態。
さて、どうしたものだろうか?
関根はロビーにコーヒーを頼み、顎をなでた。
第一案、まずもって先に別れた少女、レティシアの前にでて、土下座する。
無難な案ではある。別に関根は悪意があってあのような事をした訳ではないのだから、根気と誠意を持って真摯に謝れば、許してもらえる可能性は高い。
ローリスク・ローリターンとよんでよい。
何の制約もなかったら、関根は躊躇なくこの案を選んだ事だろう。
だが、現状はまずい。有り体に言ってこれはチャンスであった。
上手くいけば大金を手に入れられるかもしれないのだ。
それを考えると、あの少女に土下座してしまえば、それを自ら棒に振る事となる。
第二案、クレジットと小切手もって逃走。
論外、一時的には良いかもしれないが、早晩ばれる。クレジットの使用場所と時間を調べられれば、たやすく居場所は突き止められるし、小切手も手を回されたらそこでおしまい。
天国の後には八つ裂きの地獄が待ってます、では楽しめるものも楽しめない。
第三案、一時的にあの少女の代役を務める。
ハイリスクだがリターンも大きい。
また、有利な点もある。渡された資料によれば、この『聖杯大戦』とかいう催し物は、根っこをたどればユグド何とかとかいう組織の独立騒ぎが原因との事。
どうみてもこの連中が何かしら反則行為を起こしそうな気配が濃厚だった。
大方叩けば埃が出るはずである。それを針小棒大に言い立てれば格好は付く。
必要とあらば挑発的行為と言動もありと言えばありだった。
軽く襲いかかってくれるようならば、なおありがたい。
あの少女に対しても『危険な匂いがしていたから、自分が先に立った』云々の言い訳になる。
そうして程々の所であの少女とバトンタッチすればいいのだ。
こうして名目上でも実績面でも『補佐役』として認知されれば、怖いものなどない。
後は大人しく後ろに引っ込んでいればいいのだから。
方針は決まった。関根としては、これで美術館巡りを打ち切らねばならないのは残念の極みだったが、大金が手に入る当てができたのだ、どっちを優先させるべきかは、考えるまでもなかった。
関根はスマフォを操り、さっさとルーマニア行きの飛行機の予約を行う。
この時点で、関根は楽観論に支配されていたといって良い。
渡された資料や、例のジャンヌ・ダルクの主張を聞く限り、関根が(勝手に)代役を務める『ルーラー』なる役は、審判役との事。
どこの世界に、審判役に喧嘩を売るアホがいるものか。
それっぽい顔つきをしつつ、要所要所でメモをとり、金をくれた『新大陸派』に渡す。
楽なものだよ、関根がそう思うのも無理なかった。
もしこの先待ちかまえている苦難と、自分に押しつけられる称号を知っていれば、間違いなく関根はこの時点でジャンヌ・ダルクに土下座する道を選んだ事だろう。
最初の洗礼はルーマニア行きの空の便。
そこで関根は早くも自分の決断を後悔する事となる。
これにて、ようやくルーマニアへ。ですが、この時点で魔術協会、聖堂教会、その他諸々関根のせいで盛大に火種を抱え込む事となります。
私見ですが、ルーラー・ジャンヌ・ダルクの参戦により、聖堂教会は聖杯大戦に深くかかわる気になっていたのではないかと思っています。
審判役が自分所所属の聖人さまですから、形の上では魔術師達やそれが召喚した英霊達より立場は上、ええ、ジャンヌ本人はこういうとらえ方は嫌がるでしょうが。
そしてこの小説では今現在ジャンヌは楽屋裏に引っ込んでしまっています。これを魔術協会、聖堂教会がどう見るか。
では、次話で。……原作キャラ登場すんのいつになるだろう。