そして知ってる方(多分いらっしゃらないと思いますがw)はこんにちは!
僕は普段、ピクシブの方で書き手をやらさせていただいてます。この度、ハーメルンの方でも活動を始めることにしました。これから、よろしくお願いします!
投稿する回数はあまり多くないとは思いますが、基本ピクシブにある僕の作品を投稿すると思います!(もし、あげて欲しい作品があるよーって方は言ってくだされば投稿します^_^)
長くなりましたが、前置きは以上です。
それで、この作品ですねw
「1日コイビト」
なんか怪しげなタイトルですが、これは8月8日、つまりヒッキーの誕生日に投稿したものになります。内容も、一応絡めてありますよ^_^
それでは、よろしければ是非どうぞですヽ(;▽;)ノ
夕日が窓辺から差し込んでいる。
それは眩しくて、なんだか優しい。
不思議な光だ。
でも、見えてる優しさは表面上なんだろう。
眩しさに本当の姿が隠れているんだ。
その優しさを享受することは悪いことじゃないだろう。
むしろ幸せですらある。
だから、怖いんだ。
本当の姿を見たときに、幸せが壊れることが。
「お兄ちゃーん」
下から小町が俺を呼ぶ声が聞こえる。
なんだろう。
俺も大声で返事を返す。
「なんだー!」
「ちょっと下来てー!」
小町の命令を無視すると、機嫌が悪くなるので俺はおとなしくその声に従うことにした。
…がっつり尻に敷かれてるな、俺。
俺はトントンと軽快なリズムを刻みながら階段を一段ずつ踏みしめる。
一段降るたびに、どんどんと自分の頭の高さが低くなっていくのがわかる。
と、ここで違和感。
廊下にいい匂いが漂っている。
いい匂いというと、料理を思い浮かべがちだが、これは違う。
上品な香水の香りが廊下を支配していた。
「え?」
情けない声を思わず出してしまう。
まぁでもそれも仕方がないだろう。
誰が来ているのだろうか。
とりあえず、階段を下りきった俺はリビングに通ずるドアをの前に立つ。
ドア越しなので声がくぐもって聞こえるが、女性が2人談笑しているのが分かる。
1人は小町の声なので、もう1人が廊下の香水の人だろう。
猛烈に、激烈に、苛烈に不安だが。
俺は思い切ってドアを開けた。
ガチャと音を立てて開くドア。
リビングを遮るものがなくなったので、リビングの様子がしっかりとこの目に飛び込んでくる。
…開けてから後悔した。
「あ、比企谷くん。ひゃっはろー」
「……」
俺は無言でリビングに入り、丁寧にドアを閉め、お茶の準備をしていた小町、続いて椅子に座って笑いかけてくる陽乃さんを順番に睨みつける。
「ちょっとー無視しないでよー」
とりあえず、不満げなお姉さんは無視して、小町を問いただすことにした。
「おい小町」
「なにさ。陽乃さんが呼んでるよ?無視するとかごみぃちゃんすぎるよ」
「なんでこの人がいるんだよ!」
「え、小町は知らないよー。それじゃあ陽乃さん」
「なぁに小町ちゃん?」
「お茶準備しておきましたから。あと1日は好きなようにどうぞー」
「あ、ありがとうー!」
「いえいえ。それじゃあ」
「はーい。じゃあーね」
小町はそう言うとドアの方に歩き続ける。
でも、ドアノブに手をかけた段階で再びこちらを振り返る。
「お兄ちゃん」
「…なんだよ」
「ファイトだよ!」
そう言って、ドアを思い切り開け、思い切り閉める。
小町がパタパタと階段を上る音が聞こえるぐらい俺たちは静か。
陽乃さんが静かなのはなんだかむず痒いので俺は言葉を声に出す。
「で、雪ノ下さん」
「んー?」
「何しに来たんですか?」
「誕生日祝いだよ」
「は?誰のですか?」
そう言うと、陽乃さんは大袈裟なジェスチャーでやれやれ。
そんなアメリカンナイズな仕草されても日本人の俺はどうしていいか分からないですよ。
「キミは自己評価が低すぎて誕生日すら忘れてしまったのかな?」
「や、誕生日は自己評価関係なくないっすか?」
そもそも今日は8月7日。
明日が俺の誕生日だということはちゃんと覚えている。
ぼっちは自分関連のイベントには強いのだ。
なぜなら、自分関連のイベントしか起こらないから。
「明日、キミの誕生日でしょ?」
「はい」
「だから来たよ」
「…え、や。本気で意味がわかりません」
陽乃さんは言葉を言い切るとニッコリ。
そんな屈託のない笑顔を見ると、なんだか納得しそうになる。
これだから美人はズルい。
「えぇ。なんで分からないかなぁ」
陽乃さんはそう言いながら、俺の前に小町が淹れてくれたお茶を出してくれる。
俺はそれをゴクリと一口。
イレギュラーな事態のせいで乾ききった喉を潤してくれる。
「明日ですよ」
「うん。知ってるわよ」
「今日は前日ですよ」
「いわゆるイブよね」
「禁断の果実を食べた?」
「それはイヴ」
「……」
「ふふん」
陽乃さんは言い切ってからドヤ顔。
確かに上手く返せてましたけど。
ていうか、イブって呼んだらスペシャル感が強い。
そんな大層なものでもないんだけどなぁ。
「とりあえず、私のマンションに行くわよ」
「は?」
「とりあえず、私のマンションに行くわよ」
「いやいや、聞こえなかったんじゃなくて」
「じゃあ、何よ」
否定されたのが嫌なのか、若干口を尖らせながら問われる。
そんな顔も似合うなぁと心の中で思いながら、表面上は平静を装う。
「なんで雪ノ下さんのマンションにいくのかなって」
「誕生日プレゼントだから」
「だからなんで、誕生日プレゼントで雪ノ下さんのマンションに行くんですか!」
「答え言ってるじゃん。誕生日プレゼントだからだよ」
話が平行線どころじゃない。
ねじれの位置だ。
話を聞いてくださいよ。
「……」
「ふふーん。実を言うとね」
「ん?」
「誕生日プレゼントは、私と1日一緒に過ごす権利だよ」
「は?」
多分、人生で一番の「は?」が出た。
何言ってんだこの人。
「なーにその反応。嬉しくないの?」
「…そう訊かれると困っちゃいますね」
実際、よく分からない。
嬉しいのか、嬉しくないのか。
自分の想いに自信がない。
「ふーん」
「な、なんすか」
すごいジト目で見られてしまう。
ジトーっと。
拗ねた感じの表情に、ドキドキとする。
「ま、いいか。お茶飲んだら行くよ」
「え、確定事項なんですか」
「うん」
「拒否権…」
「えー。お姉さんは比企谷くんがそんなことする人間だとは思わないなー。せっかくプレゼントを贈ってもらったのに、そのプレゼントを捨てるような人間だとは思わないなー」
う、うぜぇ…。
そもそもまだ、貰ってないし。
でも断ったら何されるか分からないし、小町も一枚噛んでるっぽいので、小町にも嫌われそう。
「わ….かりました」
「む。なんでそんな苦しげなのかなぁ…。ま、いいや」
「……」
俺は無言で陽乃さんを睨みつける。
すると、何百倍も怖い笑顔が返ってきたので、俺は慌ててお茶を飲む。
お茶を飲みきったら、出発なので、なんだか最後の晩餐のように思えてきた。
このままただ単に飲みきって出発するのはなんだか悔しいから。
俺は陽乃さんへの抵抗の意思を込めて、チビチビとお茶を啜った。
ーーーーーー
「え、ここ?」
「ここだよー」
いつの間にか口から出てた独り言を返されるのは、どこか気恥ずしかった。
ただ、思わず出たのは間違ってない。
だって、超高級マンションに住んでんだもん、この人。
あの後、速攻で車に乗せられ連れてこられたマンション。
それはめちゃくちゃデカかった。
意外だったのは陽乃さんが運転していたこと。
まず、免許持ってたんですか。
「めっちゃ高いマンションじゃないですか!」
「うん、そうだよー」
「軽っ…」
陽乃さんにとってはこれが普通なんだなと実感する。
ていうか、この人実家住みじゃなかったっけ。
俺はその疑問のままに聞いてみた。
「雪ノ下さん」
「ん?」
「雪ノ下さんって、1人暮らししてなかったですよね?」
「うん。実家に住んでるよー」
「じゃあ、ここは?」
「んー、なんていうんだろう。隠れ家?的な」
「隠れ家でコレですか…」
正直、絶句しました。
金持ちすぎませんかねぇ…。
陽乃さんでもちょっと恥ずかしいのか、テヘヘと照れながら頭を掻いている。
「ま、まぁいいじゃん。早く入ろうよ」
「そうですね。行きましょうか」
「……」
「ん?どうしたんですか?鳩が豆鉄砲を食ったような顔して」
見ると陽乃さんは腑抜けたような顔で佇んでいた。
意外とアホっぽい顔もできるんだなと、新しい発見。
「急に乗り気になったね」
「あぁ、いや。そんなつもりはなかったんですけどね」
「ふふふ。照れ屋なんだから」
「ま、ここまで来たら俺だって腹をくくりますよ」
「あら。大袈裟だぞ?」
そう言って陽乃さんは俺の頬をプニプニつつく。
…恥ずかしいのでやめていただきたい。
「ほ、ほら。行かないんですか?」
「あ。それじゃ行こっか」
陽乃さんが歩き出したので、俺はその後を黙って付いていく。
エントランスに入ると、さらに圧倒された。
豪華絢爛なシャンデリアに高級感溢れる革張りのソファ。
…あれ?ホテル?
って思うぐらいにはインパクトが強かった。
そして、これまた豪華なエレベーターに乗り込むと、ふっと息がもれた。
そんな俺を見て、陽乃さんがクスクスと笑っていた。
「…なんすか」
「ヤケにおじさんくさい仕草だなーって思って」
「疲れたんですよ。もう」
「早くない?」
「エントランス歩くだけで命を削り取られました」
「ホント大袈裟だなぁ…」
陽乃さんは呆れたような声音で言ってくる。
や、一般人にはキツイですよ。
人生の縮図を垣間見てるような気分になりました。
エレベーターのベルが驚くほど上質な音を奏でる。
どうやら目的の階に着いたようだ。
ガーッとドアが開く。
最上階では無いものの、かなり高層であることは間違いない。
「こっちだよ」
「はい」
「こら。そんなキョロキョロしない。お上りさんみたいだぞ」
「あ、すいません…」
物珍しくて、周りを見渡してたら陽乃さんに咎められた。
だってすごいんだぜ?
なんかもうすっごいキラキラしてる。
「ふふふ。可愛いなぁ。もう」
「何言ってんすか」
「あれ?嬉しくないの?」
「こちとら男子高校生ですよ。可愛いわけがないんですよ」
「えぇー私は可愛いと思うんだけどなぁ…」
言われてもあんま嬉しくないし。
どうせ言われるなら、カッコいいとか…。
と、突然頭に湧いてきた不埒な感情にびっくり。
俺はそんなことを思わないって自分で思ってたんだけどなぁ。
…陽乃さんになら言われたいかな。
「ぶー。あ、着いたよ」
「ここですか」
まだ若干納得いってなさそうな陽乃さんの声が到着を告げる。
目の前にある無骨な扉からはその先に部屋があることを一切予想させない。
陽乃さんは扉の前に立ち、ポケットからカードキーを取り出す。
なんだかそんな何気ない仕草に和む。
「…なにさ」
「え、いや、なんですか?」
「あれー?お姉さんの勘違いかなぁ…。めっちゃくちゃ視線感じたんだけどなぁ…」
陽乃さんは流し目でこっちを見てニヤニヤ。
なんて目ざといんだ、この人。
「…きっと勘違いですよ」
「そーかなー」
「はい」
「…ふふ。本当にキミは可愛いよ」
陽乃さんはこれ以上ないってくらい美しい微笑みを湛えてから、ドアを開けて部屋に入っていく。
俺としてはしばらく、その笑顔の余韻に浸ってたかったが、陽乃さんの「閉めるよ」の一言で急いでドアの中に入った。
ーーーーーー
部屋の入った最初の感想としては、「未知の世界」という言葉が一番しっくりきた。
なんかもう…すっごい。
なんかいい匂いするし。
なんか綺麗だし。
なんか広いし。
「ほら、入って入って」
「うわぁ、ちょ。俺まだ靴脱いでないんすよ」
「じゃあ、早く入って!時間は限られてるんだから!」
陽乃さんは俺の背中をグイグイ押して急かしてくる。
危ないですって。
「大丈夫ですよ。まだ1日あるんですから」
「たった1日じゃない…」
「へ?」
小さすぎた声は、俺の耳には届かなかった。
思わず聞き返してしまう。
「じゃあさ、逆に聞くよ」
「はい」
「キミはこのプレゼントが終わっても私といてくれる?」
「それは…」
「ほらね。だからだよ」
「え、いや。だから…ですか?」
「うん。あとは自分で考えなよ」
陽乃さんはそう言うと、スタスタ廊下を歩いて行ってしまう。
俺が固まっていると、何かが聞こえた。
「…こうでもしないと、キミの隣になんて…」
さっきと同じぐらいの声の大きさで呟かれた言葉は、さっきより距離が離れた俺の耳には届くはずがなくて。
ただただ、何かを呟いた気配と、悲しそうな空気の振動がこの耳に突き刺さった。
バタンと、陽乃さんが向かった先のドアが閉められる。
多分、あの先はリビングなんだろう。
俺は無言で動き出し、自分の靴に手をかける。
とりあえず、ドアの向こう側に行かなければ。
陽乃さんはきちんと俺の分のスリッパまで用意してくれていた。
細やかな陽乃さんの優しさ。
それが今なら気付ける。
俺は長い廊下を歩く。
途中途中に沢山の扉があり、無数の部屋があることを示唆していた。
まっすぐ俺は歩き、ドアの前に立つ。
1つ深呼吸して、ドアノブに手をかける。
かちゃ。
静かな音を携えてドアノブを下げる。
そして俺はゆっくりとドアを開ける。
すると、突然。
ぎゅっと、抱きしめられた。
あまりの突然の出来事に、景色が白黒する。
こんなことが出来るのは、今この場に陽乃さんしかいない。
とりあえず引っぺがそうと思い、声をかける。
「えっと…雪ノ下さん」
俺が呼びかけると、俺の胸に顔を埋めてイヤイヤ。
…え?
「雪ノ下…さん?」
更に自分の顔を深く俺の胸に埋める。
まるでそれは、動物が自分のモノだとマーキングするかのように。
「はるのってよんでくれなきゃヤダ」
「え、まじすか?」
陽乃さんは俺の胸に顔をつけながら喋るので声がいくらかくぐもって聞こえる。
そのせいか、だいぶ声が幼い。
「はやく」
「え、や、心の準備がですね…」
そう俺が言うと、ふっと陽乃さんは顔を上げる。
どうしたのかと思い、目を合わせるとジト目で睨んできた。
「ヘタレ」
「うっ」
「ばか」
「バカは関係ないですよ」
「ヘタレばか」
「…なんすかそれ」
陽乃さんはその造語が気に入ったのか、クスクスと笑っている。
なんか今日の陽乃さんはなんか変だ。
ぶっちゃけると、可愛すぎる。
「はやく」
「え、継続中なんですか」
「うん。はやくしないとこれからヘタレって呼ぶからね」
「マジか…」
それはやだ。
俺はフーッと息を吐ききる。
心の中ではいくらだってその名前を呼べるのに。
口に出すってなるだけで、胸が破裂しそうなぐらい緊張する。
「陽乃…さん」
「呼び捨て。もう一回」
「いや、言いましたって!」
「呼び捨て」
え、嘘ですよね?
本当に苦しいんだけど。
僅かな希望をかけて、陽乃さんの目を見ると、期待に満ちた顔をしていた。
俺は意を決して、文字を言葉にする。
「は、陽乃」
「…ぁ……」
「…………」
「…………」
どうすんのこれ。
お互いに顔真っ赤で黙り込んじゃったし。
まだ陽乃さんが俺に抱きついてるままだし。
「ほ、ほら。時間ないんじゃないんですか。なんかすることがあるんじゃないんですか」
「ぁ….そ、そうだね!まだやることいっぱいあるよ」
陽乃さんは上手く頭が回ってないのか、変な日本語になっている。
そこまで照れられると、俺が勘違いしそうになるのでやめてもらっていいですか?
「ほら何するんですか、陽乃さん」
「ちょっと。呼び方、戻ってるよ」
「や、ちゃんと変わってますから」
「むー。納得いかない…」
「そもそも、陽乃さん固まっちゃうじゃないですか」
「そうだけど!そうだけど……慣れるってこともあるよ…?」
知らないですよ。
そんな疑問系で尋ねられても。
あぁ、やめて!
そんな上目遣いしないで!
「慣れますかね…」
「うん、きっと!」
上目遣いの破壊力がやばすぎて、思わず微妙な返事をしてしまった。
そのせいで陽乃さんの瞳が期待で濡れているし。
「じゃあ……はるの」
「ゃ……ば」
「いやちょっと」
「ごめん…無理だった……」
陽乃さんは悔しそうな顔。
そんなにですか。
「ほら。無理ですよ」
「うー」
「そもそも、名前呼びがなんでいいんですか?」
「およ、そこ聞いちゃう?」
「はい。聞いちゃいます」
そんな深い理由なんてないはずだ。
陽乃さんのことよく分かってないけど。
「こ・い・び・と・だよ!」
「…はい?」
「だからー。恋人気分を味わってもらうためにだよ」
「…つまり」
「うん」
「俺なんかに彼女ができるわけないから、雪ノ下さんなんかがわざわざ俺のために恋人気分を味わわせてやろう。という感じですね?」
「だいぶ捻くれた見方をしてたけど、だいたい合ってる」
合ってるんだ。
だいぶ卑下して言ったつもりなのに。
すると陽乃さんは急に後手を組んでモジモジしだした。
今日のこの人、ホントになんなの?
「それでね」
「はい」
「今日から1日、比企谷くんと過ごすわけじゃん」
「俺が望んだわけじゃないですけどね」
「茶々入れない!」
「はあ…」
怒られてしまった。
俺はただ事実を述べただけなのに。
理不尽すぎる。
「だからね、私のことは1日恋人として扱っていいよ?」
「…はい?」
「ぇ……いや?かな……」
「いやいや、それはメチャクチャ嬉しいんですよ!嬉しいんですけど!」
「あ、嬉しいんだ……やった」
陽乃さんはこっそりガッツポーズ。
思いっきり見えてますからね。
あと俺、勢いに任せてとんでもないこと口走った気がする。
「唐突すぎませんか?」
「ほら、誕生日だから」
「またその謎理論ですか…」
「謎理論てなに?私だって一応理系なんだからね!」
「更に意味わからん…」
理系だから理論武装?
余計にわからん。
これはあれだ。
考えたらダメだってやつだ。
「ま、これが真の誕生日プレゼントってことだよ」
「まぁ…それならなんとなく分かりますけど…」
つまりアレだろ。
最初は1日過ごすだけだったけど、ホントのプレゼントは恋人として1日過ごすってことだろ。
…あれ?あんま変わんなくない?
結局、1日を一緒に過ごすってだけだな。
「じゃあ、それでいい?」
若干上目遣いで聞いてくる。
陽乃さんのそんなお願いを聞いて、断れる男が世界にどれだけいるだろうか。
いや、いない。
「あ…はい」
「お!いい返事!じゃあこれから、キミと私は恋人だ」
「違いますよ。コイビトですよ。恋人擬きなんですよ」
「…全然納得できないけど、まぁいいよ」
「いいんだ…」
「キミ相手にごねても面倒くさいだけでしょ」
「…分かってますね」
よく知ってる。
俺は面倒くさい。
そして、陽乃さんも多分面倒くさい。
あれ?意外と俺と陽乃さんって本質的には似てるのかも。
面倒くさいところもそうだし、捻くれてるとこも。
陽乃さんって絶対捻くれてる。
捻くれてなかったら、わざわざ妹を焚きつけたりしないし、言葉を単純に信じない訳がない。
あ、もう1つあった。
妹を溺愛してるとこ。
…共通項が多すぎる。
「ふふん。あ、それじゃ、スタートする?」
「なんかそうやって言って始めたら、やけに意識しちゃいそうですよね」
「ホント?」
「多分」
「なら、自然な感じで始めてみよっか?」
「…」
「ん、どうしたの?」
まさか、まさかだけど。
陽乃さんって。
「あの、デリカシーのない不躾な質問していいですか?」
「多分それ、二度手間だよ」
「どうでも良いじゃないですか。それで、いいですかね?」
「ま、いいけど」
「ありがとうございます」
先ほどまでの陽乃さんの言動を振り返る。
すると。
「陽乃さんって、殿方とお付き合いした事ってないのですか…?」
「なにその無駄に回りくどい言い回しは…。おとなしく『彼氏いたんですか?もし居たならその彼氏を殺してきていいですか?』ってちゃんと聞きなよ」
「違う違う違う。改善されてません。改悪されてます」
どんだけ陽乃さんの中で俺が独占欲の塊なんだよ。
まず、好意を抱いている前提になってるし。
「あはは。冗談だよ。それで、私は彼氏いたことないよ」
「やっぱり…」
「む。やっぱりって何さ!」
陽乃さんは俺の頬を強めにつねる。
…って結構痛いです、それ。
「これで処女厨の比企谷くんも安心だね!」
「っておい!何口走ってるんですか!女の子がそんなこと言っちゃダメですよ!それと違いますから!」
ホントに何言ってんのこの人。
頭良いんだか悪いんだか分からない。
バカと天才は紙一重ってやつか。
爆弾発言もいいところだぞ。
「あっははは!ホントにキミって面白いね!」
「…揶揄わないでくださいよ。後、背中痛いです」
大笑いしながら背中をバンバン叩いてくる。
そんな姿、俺以外に見せたらダメですからね。
独占欲とかじゃなくて、シンプルなアドバイスとして。
俺以外の男ならドン引きしますよ。
それか、勘違いします。
「あ、もうこんな時間。ご飯作ろ?」
「おー、確かに腹減りましたね」
陽乃さんが見た先には、アンティークな雰囲気を纏った時計があった。
その長針と短針を読み取ると、今は午後6時30分ぐらいか。
「何食べたい?」
「え。選ばせてくれるんですか?」
「うん」
「ちなみに選択肢は?」
「家庭料理か宮廷料理」
「それ選択肢としておかしくないですか?」
「おかしくないよ。宮廷料理だってれっきとした料理なんだから」
「落差がすごいですよ。その2つ」
普通、和食か洋食とか。
そもそも宮廷料理ってなに?
ムール貝とか出てくんの?知らないけど。
「家庭料理でお願いします」
「お。即決したね」
「当たり前です。よくわからん料理を食べたくないですから」
「あーっ。宮廷料理をよくわからんって言った。ギルティだよ、比企谷くん」
「絶対的に一般家庭には必要のない知識ですから、俺はよく分からなくていいんですよ」
宮廷料理とかこの先、一生お世話になることがないと思う。
なんなら懐石料理も食べたことないし。
「だいたい、普通の彼女は彼氏に宮廷料理を振舞わないと思います」
「確かに…」
いや、気付けよ。
初期段階で気付いてくれよ。
「…ま。俺は普通に陽乃さんの手料理が食べたいんですけどね…」
「お?聞こえてるからね」
「え!?まじすか…」
何この辱め。
絶対聞こえないと思って呟いたのに。
「ふふーん。そっかそっか。キミは私の手料理が食べたいんだ」
「……」
「沈黙は肯定ってよく言うもんね…。お姉さん、素直な子は結構好きだな」
恥ずかしさから思わず食べたくないって否定したくなったけど、陽乃さんの手料理を食べてみたいという好奇心が勝った。
「ふふふ。比企谷くんはそこに座っててね。すぐ作っちゃうから」
「あ、了解です」
やけに嬉しそうな陽乃さんが、忙しなく台所に向かう。
「あの、余計なお世話かもしれないんですけど」
「ん?」
「急ぎすぎてケガとかしないでくださいね。俺の胃袋はまだ待てるんで」
「…うん!うん、分かったよ!」
「ホントですね?多分陽乃さんなら大丈夫だとは思いますけど」
「大丈夫だよ!よーし、頑張るぞ」
陽乃さんはいよいよ調理を開始した。
この人の料理スキルが未知なので、とりあえず観察しておくことにする。
まず、包丁捌きは完璧。
材料を投入するタイミングも良い。
作業の手際は早いし、ダブルタスクも余裕でこなしてる。
なんなら鼻歌交じりだし。
なんて素人目から見ても完璧な料理スキルだ。
プロの目を通してみたら、もっとすごく映るんだろう。
後、この人やけに家庭的な姿が似合う。
いつも怖いというか、よく分からないから、安心できる姿が一番素敵だと思う。
…ちょっとだけ自分が怖い。
ドンドンと陽乃さんに惹かれてる自分が見えてるから。
前は苦手だったのに。
いつからか、軽口を叩き合う瞬間がとてつもなく心地よくなって。
…たまに肝の底から冷えるぐらいに怖い時はあるが。
でも、まだ俺は想いを決めつけない。
決め付けてしまって、自覚してしまったら、世界が狭まると思うから。
多分、陽乃さんしか見えなくなるから。
まだまだ判断できる。
我ながら酷いと思うが。
まだ、陽乃さんを嫌いになれるし、好きになれる。
だから俺は。
決め付けない。
「はい。出来たよー」
「え、早くないですか?」
「だって簡単な作業ばっかりだし」
「そうなんですか…」
料理は科学っていうぐらいだから、複雑な工程が必要なんだと思っていた。
小学6年生の家庭科スキルを極めた俺にはよく分からん世界だ。
「えっと、生姜焼き?ですか」
「うん!そうだよ」
「美味そう…」
「えへへ、ありがとう。ほらほら、食べて食べて!そして感想言って!」
「感想言うのは確定なのか…」
俺は箸を持って、生姜焼きを一枚つまむ。
そして、それをそのまま口に運ぶ。
「…ん!」
「ど、どうかな…?」
…これは美味い。
俺の語彙力じゃ語り尽くせないぐらいに美味しい。
焼き方上手だし、味付けも抜群だし、肉の質は高いし。
口の中が幸せだ。
この人の飯が毎日食えたら幸せだろうなって一瞬思う。
それぐらい、美味しい。
「美味しいです。コレ」
「おー、どんどん食べてね!……よっし!」
陽乃さんは振り返って小さくガッツポーズ。
そんな姿を見て、可愛いなぁって思う。
「陽乃さんも一緒に食べましょうよ」
「え?なんで?」
「一緒に食った方が美味しくなるんじゃないですか?」
「何その理論…」
「さぁ?」
俺は作ってもらってる人に見られながら食べるのが気まずいだけなのだが。
「ま、いっか。お言葉に甘えて私も食べるよ」
「はい」
陽乃さんは台所から自分の分を持ってくる。
その量はそれで足りるの?って言いたいぐらいに少なかった。
俺の視線に気付いたのか、陽乃さんは照れたように笑った。
「これで私は足りるんだよ」
「どんだけエネルギー変換効率が高いんですか」
「ほとんどロストしてないんだよ」
「ふーん」
陽乃さんと喋っている間も、箸を動かす手は止まらない。
ホントに美味しいなコレ。
「もしかしてダイエットとか?」
「え、ウソ。そんな私って太ってるように見える?」
「違いますよ。可能性の話です。俺から見たら全然陽乃さんは太ってないですから!むしろ痩せすぎな方ですから!」
「あ、ありがとう…」
ダメだ。
陽乃さんが可愛すぎて、余計な事までも言ってしまう。
「ふふふ。なんかお互いにヘンだね」
「そうですね」
「緊張してるのかなぁ…」
「俺はしてないです」
「あら、意外」
陽乃さんは目をパチクリ。
え、なんでそこで驚いてるの?
「何がですか」
「私が恋人だから緊張してるのかと思った」
「してないですよ。まず実感が湧いてないし」
「えー。ちなみに私は緊張してるよ」
「その情報いらないです」
だから陽乃さんはヘンなのか。
俺相手に緊張する方がバカらしいのに。
「ま、食べちゃおっか」
「はい」
そう言って2人で手を動かす。
何気ない2人の一幕。
それを大切にしていきたいと思えるぐらいに、今のこの時間が愛しく感じられた。
ーーーーーー
「先、シャワー入ってきていいよ」
俺がご飯を食べ終わったのを見て、陽乃さんは口を開いた。
「や、片付けあるじゃないですか」
「それぐらい私がやっとくよ」
「ダメです。俺にやらせてください」
「普通、こういうのは彼女がやるもんでしょ」
「俺たちに普通なんて言葉は通用しませんから」
ここまで常軌を逸した2人の組み合わせもなかなかないと思う。
だから、普通なんて言葉で片付けてはいけないんだ。
「ダメ!私がやるの!」
「なんでそんな頑ななんですか…」
「それ言うなら比企谷くんもだよ!」
「俺は飯を作ってもらったのでっていう理由がありますから」
「…それを言われると弱いけど…」
「でしょ?陽乃さんにはそんな理由ないでしょ」
「うーん、あ!彼女だからって理由があるよ」
「…それは違います」
「なんで!?」
「反則ですよ…」
「ぁ……」
陽乃さんは黙ってしまった。
俺はその隙に台所に滑り込み、陽乃さんを台所から追いやる。
「ほらほら」
「むー。分かったよ」
「シャワー入ってきてください」
「…ありがとね」
「いえいえ」
陽乃さんは残念そうで、それでいてちょっと嬉しそうなよく分からない表情を浮かべながら、風呂場に向かった。
と、陽乃さんが突然こちらを振り返った。
ニヤッと口の端を釣り上げて。
「覗いても……いいんだよ?」
「覗きませんからとっとと入ってきてください」
「ぶー。比企谷くんが冷たいよー」
ったく、何を言い出すんだあの人は。
別に興味がないわけではないが、むしろ興味しかないが。
それでも、一時の興味で陽乃さんに嫌われたくない。
なんでか分からないけど、あの人には嫌われたくない。
俺は水を出して、皿を洗い始める。
絡まってきた思考をホドクかのように、訳がわからない自分を洗い流すかのように、スポンジで皿をこする。
20分ぐらいだろうか。
ドアを閉める音が聞こえてきた。
その音を聞いて、俺は陽乃さんがシャワーを浴び終えたことを知る。
皿洗いはとっくのとうに終わっていたので、俺はソファーに座って待っていた。
と、足音がどんどん近づいてくる。
そして足音がドアの前で止まったかと思うと、ドアがゆっくりと開いた。
「比企谷くん」
「あ、終わりましたか?」
そう言いながら、俺は陽乃さんの方を向く。
そこには俺の知らない陽乃さんがいた。
まごう事なきの女神がそこに。
暑さのせいか頬が赤く、扇情的な雰囲気を醸し出している。
濡れた黒髪は、絹のように艶やかで美しかった。
「あら?どうしちゃったの?顔真っ赤にして」
「…….」
「ん?比企谷くん?どうしたー?」
見惚れたままボーッとしている俺を不思議に思ったのか、陽乃さんはおもむろに俺に近づいてきた。
いい匂いが脳髄を麻痺させる。
クラクラとするぐらいに、上品な香りだ。
と、陽乃さんは俺の横に腰掛けて、俺に向き合ってきた。
「比企谷くん」
「……」
「抱きしめちゃうぞ」
「……」
「ぎゅー」
「……え?いや、ちょ!陽乃さん!?」
陽乃さんは突然立ち上がったかと思うと、膝にまたがり抱きついてきた。
完全にボーッとしてたので、あまりの唐突さに心臓が跳ね上がる。
慌てて俺は陽乃さんを見る。
俺と目があった陽乃さんは、イタズラに笑ったあと、なんだか心配そうな顔を向けてきた。
「大丈夫?何かあった?」
「え?いや別に」
「むー。何も隠してないよねー?」
陽乃さんはジトーっとした目で見てくる。
別に何も隠してなんてないですよ。
だから、抱きつく力を上げないでください。
「隠してないですいたいいたいいたい」
「ホントだね?」
「本当ですって!」
「ま、信じるよ」
陽乃さんは抱きつく力をふっと弱める。
そのおかげで俺に幾らかの余裕ができた。
「で、なんで抱きついたんですか?」
「えー、なんか比企谷くんがよく分からない表情を浮かべてたから」
「誰かがよく分からない顔してたら、所構わず抱きつくんですか、あなたは…」
俺が呆れたような声を出すと、目の前の陽乃さんはとても不満げな表情。
ちなみにまだ膝にまたがっているので、陽乃さんが動く度に、いい匂いが鼻腔を刺激してかなり心臓に悪い状況だ。
「こんなことするのは比企谷くんだけだから。私が誰にでも抱きつくビッチみたいに言わないでくれる?」
「あーはい。ごめんなさい」
「む。なんでそんな適当なの」
「…それよか、早く離れてください。そろそろヤバイです」
「えー、何がヤバイのか、お姉さんにはよく分からないな」
主に、理性と心臓が。
そろそろ鼓動が早すぎて、心臓が痛くなってくるレベル。
「…ほら、離れてください。俺とか汗臭いでしょう」
「お姉さん的にはこの匂いが大好きだからずーっとこうしてるね」
大好き。
大好きとか言わないでください。
その綺麗な唇から、俺に向けて大好きなんて言うと、いよいよ好きになっちゃいます。
「しゃ、シャワー入ってきていいすか」
「んー。ま、いいけどさ」
「それじゃあ」
「あ、待って待って比企谷くん」
俺が陽乃さんを退かそうとすると、肩を掴まれて止められた。
なんすか。
「着替え、渡すからさ」
「は?」
え、なになに。
確かに着替えはないけども。
なんでこの人が持ってんの?
陽乃さんは自ら俺の膝から降り、なにやらゴソゴソと手を動かし始めた。
「はい、これ」
陽乃さんがナップザックを俺に手渡してくる。
それを俺が戸惑いながら受け取ると、陽乃さんが説明してくれた。
「これは小町ちゃんが用意してくれたんだよ」
「あ、なるほど。さすが小町」
本当によくできた妹だ。
気遣いの神。
「いい妹ちゃんだよね…。早く義妹にしたいよ…ね、比企谷くん」
「さ、シャワー入ってきますね」
「あー。酷ーい」
何か言ってたような気もしたが、意味がわからなかったので無視して、シャワーを浴びに行くことにした。
ーーーーーー
俺はささっとシャワーを浴び、リビングに戻った。
すると、陽乃さんが驚いた顔でこっちを見てきた。
「…?なんすか」
「男のコってホントにシャワーが早いんだね…」
「あぁ、まぁそうですね。洗うだけですから」
「すごいねぇ…」
陽乃さんは本気で驚いている様子。
そんな意外な姿を見て、思わず笑いが漏れてしまう。
この人でもこんな顔が出来るんだなと、若干の感動すら覚える。
「それで、もう寝ますか?」
「いやん比企谷くんたらぁ。そんなお姉さんと一緒に寝たいのぉ?」
「なんなんすかその喋り方…」
「やってみたかった」
正直ですね。
清々しいほど正直じゃないですか。
俺はその間に、陽乃さんと節度のある距離を保ってゆっくり座る。
陽乃さんがこっちをチラッと見て、不満そうな視線を送ってきたが、俺はそれを華麗に無視する。
「で、ホントに私と寝たいの?」
「いやないですけど」
「そんな食い気味に言わなくてもいいじゃん…」
そんな天国な地獄は嫌ですよ。
恥ずかしいし。
そもそも陽乃さんが嫌じゃないのか。
「じゃあ、何するんすか」
「んー、お喋り?」
「絶対会話弾まないじゃないですか…」
俺とお喋りはまさに水と油。
マトモに人と長く会話するとアレルギー反応が出てしまうからな。
「じゃあ、2人で飲むとか!」
「俺未成年です」
「むー。ダメか」
とか何とか言って、ペロッと綺麗な舌を出す。
絶対確信犯じゃないですか、あなた。
あと、そんな美しい舌を見せないでください。
心臓がおかしなリズムを刻んでます。
「じゃ、寝る?」
「現状それしかないんじゃないですかね…」
「んー、でも時間が勿体無いんだよ」
「それぐらい妥協しません?」
「何でそんな寝るのを押してくるの?」
「今日は疲れたんで早く寝たいんですよ」
マジで疲れた。
主に夕方から。
「ふーん。あ、比企谷くーん」
「なんすか」
妖しげに言葉尻を伸ばすのはやめていただきたい。
なんか嫌な予感がするから。
「お姉さんには分かっちゃったよ」
「だからなんすか」
やけに引き伸ばしてくる。
すっごい満足そうな顔してるし。
「早く、私と寝たいんだ!」
「さっき違うって言ったじゃないですか。なんなんすか、鳥なんすか」
「…ぷ!鳥って!あはははは!」
妙な笑いのツボを持っている陽乃さん。
俺の背中をバシバシ叩きながら大笑い。
やけに距離が近くなってるから、いい匂いシンドロームが起こる。
…いい匂いシンドローム?
「あははは!すごいね比企谷くん!」
「何がですか」
陽乃さんは興奮の面持ち。
どこか感心したような気持ちも声に混ざっている。
「正面きってそんな私をバカにしてきた人は初めてだよ」
「それだけですか…」
「うん。それだけ。でも、それがすごいんだよ」
「…別にホンネを言ったまでです」
「そのホンネを言えるのがすごいんだよ」
確かに陽乃さんを知らないで、バカにするのはできないだろう。
この人、外面だけは完璧だし。
中身はドロッドロに腐ってるけど。
「なんででしょうかね。陽乃さんには思い切って色々言えるんですよね」
「んー、自然体で居られるのかな?私も比企谷くんには何でも言えるよ」
「自然体って、俺はあなたと過ごしてる時全然リラックスできてないですけどね」
「あ、酷ーい」
とか何とか言って、陽乃さんはケラケラと上機嫌に笑う。
リラックスか。
どうだろう、リラックスできる時もある。
でも、それ以上に胸がチクチクする時の方が多い。
…その理由を俺は知らない。
と、陽乃さんは急に俺の肩に自分を預けてきた。
陽乃さんのサラサラの髪の毛が首に当たって、とてもくすぐったい。
「は、陽乃さん?」
「ほら、私はこーんなにリラックスできるんだよ」
「…それってただ単に俺を男として見てないだけじゃないですか」
それだったらとてもショック。
こんな綺麗なお姉さんに、男として見られてないのは男の矜持に関わる。
いくら、中身が恐ろしいお姉さんだとしてもだ。
「違うよー」
「じゃあ、何でですか?」
「ドキドキするから、心地いいんだよ」
今、俺の頭の中にクエスチョンマークが5個ぐらい出てきた。
どういうことですか?
「ん?」
「あー。分かってなさそうだね」
「はい。絶賛迷走中です」
「ふふふ。分かんなくていいよ。分かっちゃったら、きっと」
陽乃さんはどこか遠くを見つめるかのような声音で喋る。
俺はそれを、こんなに近くにいながら掴むことができなかった。
「私とキミは変わらざるを得ないんだろうな」
「変わらなきゃいけないんですか?」
「うん。だから、まだ知らなくていいよ」
「はあ…」
俺は未だによく分かってない。
この言葉の真意も。
陽乃さんの想いも。
俺と陽乃さんの距離も。
何もかも。
この半日で少しは陽乃さんのことを知れたと思っていたのに。
隣に居れば居るほど、新しい陽乃さんに出会う。
そんなことに、惹かれていく自分がいる。
あと、それを知らなかった自分に腹が立つ。
「いつか壊れちゃうから…その時まで隣に居ていいかな?」
「…壊れますかね?」
「うん、きっと」
「壊れないようにしますって言ったら?」
「それは、ないよ」
陽乃さんは凛とした声で強く言い切る。
俺たちの関係は壊れてしまうのか。
いや、多分自分たちから壊すんだろう。
その壊した結果が、良い方向に行くか悪い方向に行くかは誰も知らないが。
「ないんですか…」
「ないよ。だから、今はいい?」
上目遣いでゆっくりとこちらを見てくる。
あーもう。
だからそのお願いの仕方はズルいですって。
「あ、や。べ、別に悪くはないんじゃないですか」
「あはは。比企谷くん、顔真っ赤」
「…言わないでください」
「ふふふっ」
こんな日常。
幸せな日常だと感じれる時は、何故だか陽乃さんが隣に居たとき。
あぁ、あぁ。
どんどん陽乃さんが俺の中で大きくなっている。
陽乃さんを知れば知るほど、苦手だって思いが消えてって。
逆に、良いなって想いが増えてって。
あと、2時間ぐらいで1日が終わり、新たな1日が訪れるはずだ。
そして明日は俺の誕生日。
いつからだか、楽しみに感じなくなったその日。
1つ年を重ねるためだけのプロセスにしか思えなくなってきたその日。
でも、明日だけは。
俺の18回目の誕生日は。
人生で一番楽しみな、そんな1日で。
絶対に俺の気持ちを裏切らないなっていう、確信に似たナニカがある1日だ。
ーーーーーー
朝日が瞼をくすぐる。
俺はその朝日が邪魔で、目を開ける。
すると、見慣れないというか、初めて見た天井が広がっていた。
俺はゆっくりと体を起こそうとする。
すると、腕に引っかかりを覚えた。
そういえば、やけに腕が痺れている。
俺はその腕をさすろうとして、視線を腕の方に向ける。
その先に広がった光景にとても驚く。
「陽乃さん!?」
「んー、ん」
この人、さらに俺の腕に巻きついてきたんだけど…。
腕の痺れの原因はやはりと言うべきか、陽乃さんだった。
あろうことか、この人は俺の腕を枕にしながら、腕に抱きつくというよく分からない姿勢で幸せそうに眠っていた。
「起きてください!」
「やーだー」
「起きてんじゃないですか」
「あれ?ばれた?」
陽乃さんは目を閉じたまま、薄く笑ってる。
なんだろうこの朝は。
とても不思議な状況だ。
「ほら、起きて!」
「やだ!」
そう言って陽乃さんは、バサッと毛布の中に潜る。
まじかよ。
「往生際が悪いですよ!」
「ばーかーばーか。八幡のばーか」
陽乃さんは毛布の中でクスクス笑いながら、俺のことをバカにしてくる。
妙にムカついたので、俺は強引に陽乃さんの毛布を剥くことにする。
「起きろ!」
「あ、反則だぞ!」
「ほい」
「きゃっ」
俺は無理くりに毛布をめくる。
すると、陽乃さんの顔だけが露出してきた。
あともう少し。
そう思った矢先、陽乃さんが俺の手を突然掴んできて、俺の方にグイッと引っ張ってきた。
「うわ!」
「きゃー八幡ったら、だいたーん」
俺は陽乃さんの方向に倒れこむ。
激突するのはさすがにマズイので、俺は手をベットにつける。
いわゆる、床ドンのような体勢になって陽乃さんを見下ろす形になった。
「………」
「ふふふ」
「バカじゃないですか?」
「む。ヘタレな比企谷くんにだけは言われたくないなぁ」
「どこらへんがヘタレなんすか」
「えぇー。いっぱいあるけど、こーんなに綺麗なお姉さんと一夜を共にしても、何もしないこととか?」
陽乃さんは可愛らしく自分の指を頬に当てながらニヤリと笑う。
ちくしょう、かわいいな。
「そりゃしないでしょ…」
「なんで?」
「え、や。知り合いなんで」
「む。何か隠してるでしょ」
はい、その通りです。
と、心の中で回答する。
大切な人だから。
そんなホンネ、言えるわけがない。
言ってしまったら、俺と陽乃さんの歯車がズレる。
「…別に」
「そんな猛烈に目を逸らされながら言われても、なにも説得力ないよ」
「言いません」
「ダメ。言って」
まっすぐと目を合わせられて言われると、どうにも言わなければいけないような雰囲気になる。
えぇ…言うの?
「……」
「さーて、今の状態を写真に収めよ」
「バカバカバカ」
「ん?なぁに?」
「あんたは何しようとしてるんすか」
「え?写真撮ろうとしただけだよ?」
「それがバカです」
「えー。私の言葉を無視する比企谷くんにばかって言われたくないよ」
「うっ」
陽乃さんの言葉があまりに的を得ているので、俺は言葉に詰まってしまう。
「ほら。写真撮られる前に、さっきの言いなよ」
「わかりました…」
「お!」
期待が詰まった、キラキラとした目でこっちを見てくる。
そんな面白いことじゃないですよ。
俺は意を決して、その言葉を声にする。
「大切な人だからです」
「え、え!?大切な人!?」
「………」
「え、や、それって、そういうこと!?一世一代の告白!?」
「…違いますよ」
「いや!絶対そうだよ!」
告白とかではないんだ。
多分。
自分でもクッサイセリフだとは思うけども、なぜか心の底からスッと出てきた言葉なんだ。
「………」
「むー。また黙っちゃうの?」
だってこれ以上何かを言っても、変なように解釈されるだけじゃないですか。
見ると陽乃さんは口を尖らせて不満顔。
「さ、そろそろ起きましょうよ。眠気も覚めたでしょ?」
「…ま、いっか。嬉しかったし」
「ん?最後なんて言いました?」
「な、なんでもない!」
「ふーん」
「なんでそんな疑惑の目を向けてくるの?」
「気になるからです」
「大切な人だから?」
「や、もうそれ言わないでくださいよ…」
「ふふふ。弱味握っちゃった」
陽乃さんはこれ以上になく嬉しそう。
言うんじゃなかったと、今さら後悔。
「はぁ…」
「あら?朝から疲れてるね」
絶対分かってて言ってるだろこの人。
その証拠にどうしようもなくニヤついてるし。
「誰のせいだと思ってるんですか」
「私のせいでしょ」
「………」
「あ。怖ーい。そんな睨まないでよ」
やっぱり分かってた。
なんでこの人は朝からこんなにテンション高いんだよ。
めっちゃ疲れるんだけど。
「ま。お詫びに美味しい朝ごはん作ってあげるよ。さすがに私も揶揄いすぎたからね」
「あ、それは嬉しいです」
「ホント?お姉さん嬉しいな」
「陽乃さんの手料理が食べれるとか、男として嬉しいに決まってるじゃないですか」
「えっと…今、私褒められた?」
「はい。俺の中では超褒めました」
「なんて回りくどい褒め方なの…」
仕方ないじゃなないですか。
今まで人を褒めたことがあまりないんですから。
むしろ、褒めたことを褒めてくださいよ。
「さ、行こっか」
「はい」
「今日もキビキビ動いてね。時間は有限なんだから」
「善処します」
「…いっぱい比企谷くんで遊ばないといけないんだから」
「ちょっと?陽乃さん?ボソッと恐ろしい事言わないでくださいよ」
「あれ?聞こえてた?」
陽乃さんはクルッと振り返り、ニヤッと舌を出して笑う。
そして、そのまま忙しく部屋から出ていく。
部屋には取り残された俺1人。
その事実を客観的に見て、俺は思う。
ああ、今日も大変な1日になりそうだなって。
ーーーーーー
俺が遅れてリビングに入ると、陽乃さんはすでに台所に居た。
俺がどうしようかと、その場に突っ立っていると、「座ってていいよ」と言われたので、俺はそのお言葉に甘える事にした。
俺はゆっくりと、ダイニングチェアに座った。
すると、陽乃さんは手を動かしながら俺に話しかけてくる。
俺は特にする事もないので、陽乃さんの相手に専念する事にした。
「比企谷くん」
「はい」
「まず、誕生日おめでとうね」
「あ、ありがとうございます」
この祝福は素直に嬉しい。
こんな綺麗な人に祝われるとか、昔の俺ならパニックになってた自信がある。
「これで18歳か」
「そうですね」
「結婚できる歳になったね」
「そうですね。相手が見つかれば結婚できますね」
「まーたそういう夢のない事を言う…」
「でも事実じゃないですか」
俺が至極真っ当な事を言うと、陽乃さんは急に顔を真っ赤に染めた。
ホントにどうしたんですか?
「た、多分だけど、比企谷くんが望みさえすれば、結婚してくれる女のコは沢山いると思うよ…」
陽乃さんが一度ご飯を作る手を止めて、上目遣い気味に言ってくる。
「慰め、ありがとうございます」
「慰めなんかじゃ…ないよ」
陽乃さんは一転、悲しそうな顔。
え、なんか俺マズイ事言った?
「えっと…陽乃さん?」
「あ、ゴメンね…何でもないよ」
絶対、何でもなくないだろ。
と、言おうと思ったけど、陽乃さんの雰囲気から思わず口を噤んだ。
「そうですか…」
「そうだよ」
「………」
「ふふふ、優しいね。なにも聞いてこないんだね」
「陽乃さんが何も聞いてほしくなさそうだったんで」
「ありがとね…」
「いえいえ」
と、陽乃さんは止めていた手を再び動かし始めた。
雰囲気もさっきより和らいだので、俺としては一安心。
「さ、こんな湿っぽくなるのは誕生日には相応しくないね!」
「ま、陽乃さんは元気な方が似合いますよ」
「そう?ならテンション上げてくよー」「あ、そんなに上げなくてもいいですよ?」
俺は言葉尻に「もう上げなくてもいい」という思いを暗に込める。
だって、疲れちゃうじゃん。
「さぁ、どうなるだろうね。私のテンションは比企谷くん次第で変動するからなぁ」
「そうなんすか…」
それを聞き、俺は決意する。
今日は陽乃さんのテンションが下がるように行動しよう。
と、俺がマイナス方向にやる気をみなぎらせていると、陽乃さんが皿を持ってこっちに歩いてきた。
どうやら、会話をしている間に朝ごはんができたようだ。
あまりの手際のよさに驚く。
まだ、作り始めて10分ぐらいなのに。
「ほい、出来たよー」
「お、ホントですか」
「うん、どうかな?」
「まだ食べてもいないのに感想を求めるのはあまりに酷だと思うんですけど…」
「あ、ごめん。ついつい」
陽乃さんはペロッと舌を出してゴメンナサイ。
だから、その謝罪はあざとすぎて、思わず許しちゃうじゃないですか。
…俺って、チョロすぎ?
「ったく…」
「ほら、じゃあ食べてから感想言って!」
ドンとテーブルに料理が入った皿が置かれる。
その音が3回聞こえた後、パタリとテーブルの振動は収まった。
どうやら、朝食は3皿分あるようだ。
「いただきます」
「はーい」
俺は律儀に手を合わせてから、箸を持つ。
まず俺が狙いを定めたのは野菜炒めだ。
俺はその中のキャベツを箸で掴んで、口の中に放り込む。
「ど、どう?」
陽乃さんが不安の面持ちで聞いてくる。
俺は咀嚼を終えると、ゆっくりと口を開いた。
「うまいです」
「ほ。良かったー」
「そんなに緊張しなくても。昨日の夜も陽乃さんの料理を食べたわけですから」
「それでも緊張するもんだよ」
「そういうもんですかね…?」
「そういうものなんだよ」
陽乃さんはきっと、家事スキルを極めている。
料理は上手だし、掃除も上手なのだろう。
なぜなら、メチャクチャ部屋が綺麗だから。
「どれどれ、私も食べよっかな」
「あ、よそいますか?」
「お、気がきくねぇ。お願いしていいかな?」
「了解です」
俺は小皿を1つ取り、先ほどの野菜炒めを小皿に盛り付ける。
その動作をしている間に、もうすでに陽乃さんは椅子に座って俺を待っていた。
「どうぞ」
「ありがとー」
コトっと陽乃さんのちょうど目の前に皿を置く。
食べやすいようにと、俺なりの配慮だ。
しかし、そんな気遣いを無視するかのごとく、陽乃さんは自らの手をなかなか動かさない。
「あの、どうしたんですか?」
「え?あーん待ち」
「は?」
何言ってんだ、この人。
あーんてアレだろ。
片方が片方に何かを食べさせるとかいう都市伝説だろ。
「だって、比企谷くんは私の恋人でしょ?コレぐらいできなきゃ雪ノ下陽乃の恋人は務まらないよ」
完全に忘れてた。
俺は今、陽乃さんのコイビトなんだ。
誕生日プレゼントの中身を完璧に忘れていた。
…いやはや、全くもって謎な誕生日プレゼントである。
「っと、しなきゃダメなパターンですか?」
「うん、ダメだよ」
陽乃さんは冷酷な顔をしてニッコリ。
やっぱ怖いわこの人。
これはしないと、何も事態は変わらないので、俺は諦めてまだ使われていない箸を手に取る。
その俺の行動のせいで、陽乃さんからブーイングが上がった気がするが、それはこの際無視することにする。
俺は震える手で野菜炒め箸で掴み。
そのまま陽乃さんの口に持ってった。
「あ、あーん」
「ん…」
陽乃さんは差し出された箸をパクリと一口。
そして、しばらくそれをモグモグした後、ゆっくりと飲み込んだ。
「あ、上手にできてたね」
「陽乃さん的にもいい出来ですか」
「うん!これで比企谷くんがお世辞を言ってないのが分かったよ」
言い終わった後、口の端を嗜虐的に吊りあげる陽乃さん。
正直、怖すぎます。
「言うわけないじゃないですか」
「あはは、冗談だよ」
あなたは冗談と本気の境目が分かりずらすぎるんですよ。
演技派すぎませんか?
「さて、比企谷くんもあーんする?」
「イヤです」
「そっか…。じゃあ、はい。あーん」
陽乃さんはにこやかな笑顔で俺に自分の箸を突き出してくる。
ちょっと?俺の話聞いてた?
「イヤです」
「あーん」
「だから」
「あーん」
「………」
「お、食べた。美味しい?」
有無を言わせないような陽乃さんの雰囲気に屈して、俺は箸にかぶりついた。
顔が熱い。
というか、全身が熱を持っている。
熱でぼうっとした体では感覚神経なんて働かなくて。
味なんて、分かるわけがなかった。
「美味しい?」
「多分、変わらぬ味です」
「もー。そこは嘘でも美味しくなったって言わないと」
「お世辞はダメだったんじゃ…」
「それとこれは別なの」
鬼畜すぎる。
女心ほど複雑怪奇なモノも少ないだろう。
…女心を語れるほど女子に接した事がないいが。
「意味分かんねぇ…」
「あはは。でも分からなくてもいいんじゃない?」
「え?どうしてですか?」
「その方が楽しいじゃん?」
と言って、ウインク1つ。
その瞳に吸い込まれそうになるぐらいに、様になっている仕草だった。
楽しい。
確かにそうかもしれない。
俺は陽乃さんが分からない。
だから、一緒にいるとドキドキして、なんだか気分が高揚してくる。
1人でいる時が、胸を撫でられるかのように心地いいのなら。
陽乃さんがいる時は、心臓を見られているかのように刺激的だ。
楽しいし、刺激的。
俺をそんな気持ちにしてくれるのは、世界のどこを探しても陽乃さんしかいない。
じゃあ、なんでだろう。
と、理由を心に問いかけても、分からないと答えが返ってくる。
でもきっと、俺はどこかで知っている。
そのどこかが分からないから、この気持ちの理由を知らないのだ。
だから。
細胞の端から端まで、その答えが染み渡るまで。
いつまでも陽乃さんの隣に居よう。
それが、答えを知る鍵になるはずだから。
ーーーーーー
今日は8月8日。
世間的に見れば夏真っ盛りなこの日。
俺はそんな日に、外にへと連れ出されていた。
絶賛、陽乃さんが運転している車に乗っているのである。
「陽乃さん」
「ん?」
「俺はこれからどこに連れて行かれるんですか?」
この質問の返答によって、俺の未来が決まる。
大袈裟だが、陽乃さんに俺の未来が委ねられている。
「えっとね…昼頃までには比企谷くんを返却しなきゃいけないから…」
おい。
返却って言いやがったぞ、この人。
陽乃さんは自らの指で頬をトントン叩く仕草をしながら、何かを考えている。
「ノープランってやつかな」
陽乃さんは今まで考えていた自分を否定するかのような言葉を放る。
何も考えていないんですか。
「ダメじゃないですか…」
「えー。2人で考えられるから良いじゃない。私の独りよがりにならないよ?」
確かに2人で決められる。
…恋人らしいし良いかもな。
「じゃあ、今この車はどこに向かってるんですか?」
「とりあえず、街の方」
「適当な…」
ざっくりしすぎだろ。
確かに街の方に行ければ、色々と退屈はしないけど。
「もうすぐ着くけど、何したい?」
「俺にそんな引き出しはありません」
「だか聞いてるんだよ?」
「酷すぎる…」
なんでそんな笑顔なんですか。
自分が酷いこと言ってる自覚あります?
「映画とかどうですか?」
「その心は?」
「なんかデートで行きそうなところじゃないですか?」
「デートって自覚はあるんだ…」
「ん?」
「いやいや。確かに使われてそうだね」
この2人は、いわゆる男女交際を一度もしたことがないので、全て憶測で話すことしかできない。
いわば2人とも、恋人ニワカ勢なのだ。
「どうですか?」
「ちょうど今向かってる方向に映画館あるしね。行こっか」
「分かりました」
陽乃さんはハンドルを握りなおす。
目的地まで、多分あと5分ぐらいだ。
少しばかり、車に揺られていた。
すると、陽乃さんが声をかけてきた。
「もう着くよ」
「あ、分かりました」
窓から顔を出して外を覗いてみると、目の前にはパーキングエリアが広がっていた。
陽乃さんはその中で手頃な空いている場所を見つけると、そこに綺麗に駐車した。
「とうちゃーく」
「運転、ありがとです」
「今日は比企谷くんが主役なんだから、お礼なんて言わなくていいんだよ?」
「それでもですよ」
「律儀だねぇ…。さ、降りよ」
「はい」
その言葉を合図に俺たちは車から降りる。
そして隣に立って歩き始める。
この動作は、なんだか本物の恋人みたいだった。
「手、つなぐ?」
「…陽乃さんはつなぎたいですか?」
「その質問はいじわるだよ…」
そうですね。
自分でも意地の悪い質問だとは思います。
でも、そうやって聞かないと。
不安な自分が見えるから。
誤魔化さずにはいられないんだ。
「わ、私はつなぎたいよ」
「へ?」
陽乃さんは俯きながらも、俺に言ってくる。
髪の毛で顔が隠れてしまっていて、表情は確認出来ないが、赤くなった耳から表情を察することは簡単だった。
「…恋人なら、つなぐんじゃないですかね」
「…あ、そ、そうだね!」
俺はそっとその手に触れる。
真っ白で細いその指は、夏に雪が降ったのかと思えるぐらい美しい。
俺は思い切って、その手を握りしめる。
ギュッと、ギュッと。
「………」
「………」
手をつないだその瞬間から、お互いにお互いとは逆方向に視線を向けている。
顔を真っ赤にしながら。
ああくそ。
力加減がわからない。
どうすれば、その手を綺麗に握れるのだろうか。
「こ、こっちでしたっけ。映画館」
「う、うん。そっちで合ってるよ」
陽乃さんがそう答えると、また2人して黙り込んでしまう。
弾むかと思って始めた会話も一瞬で終わってしまって。
いやホント、こんなにもしおらしい陽乃さんは陽乃さんじゃないみたいだ。
「陽乃さん」
「比企谷くん」
「………」
「………」
奇跡的に発言のタイミングが被った。
そのおかげで、せっかく振り絞ったはずの勇気も潰えてしまう。
「ひ、比企谷くんからいいよ」
「や、俺は大したことじゃないんで。陽乃さん、どうぞ」
「それなら私だって大したことないよ」
と、お互いになかなか話を始めようとしない。
すると、俺は気づいてしまった。
「陽乃さん」
「な、なに?」
「着きました」
「え、ウソ」
そう言いながら、陽乃さんは目の前に視線を向ける。
「あ、ホントだ……」
「…ぷっ。あははははは」
「ふふふふ」
なんか2人して恥ずかしがっている間に目的地に着いたって考えると、やけに笑えてきた。
「めっちゃ面白くないです?」
「うん、面白い」
「やっぱり恥ずかしがるのは俺たちには似合いませんね」
「そうだねー。さ、行こ?」
「はい」
陽乃さんはつないでいる手を引っ張りながら催促してくる。
そのせいで、ちょっとだけ手がホドけかける。
だから、俺はまた握りしめる。
初めは分からなかった加減も、今なら少しは分かる。
少しだけ、自信をつけて。
俺たちは映画館の中に入って行く。
ーーーーーー
3時間ほど経った。
今は、2人で喫茶店に入っている。
あの後、俺たちが選択したのは恋愛映画だった。
そのせいで周りはカップルだらけ。
俺としてはちょっとだけ肩身の狭い思いでいた。
映画の内容は正直あんまり印象にない。
なぜなら、陽乃さんのアピールが異常に多かったから。
ずっとボディタッチしてくるし。
小声にすればいいものを、わざわざ耳元で囁いてきたり。
なんかヤケにいい匂いがしてるし。
こんなんで、集中できるはずがない。
「比企谷くん」
「ん?」
「あと、何しよっか」
陽乃さんは苦笑気味。
ほんとに、俺たちには引き出しが少なすぎる。
「もう、やる事なくないっすか?」
「確かにねぇ…」
「ここでちょっとご飯食べたら帰りましょ」
「えぇー。やだなぁ」
「何でですか?」
「次キミに会えるのがいつになるかわからないから…」
確かにそうだ。
俺たちの繋がりなんて所詮そんなもん。
偶然という奇跡を起こすか、自ら逢いたいと願わないと、会えない。
そんなポジション。
望まなくても会えるなんて。
そこまで近い位置に居ないのが現状だ。
「まぁ…そうですね」
「うん。だからね、怖いの。一瞬でもキミを視界から外したら、キミが変わっちゃうんじゃないかって」
「…俺はそんなに簡単に変わりませんよ」
「そうかなぁ」
陽乃さんは疑ったような声。
そんなに信用なりませんか、俺。
「口だけならなんでも言えるんだよ」
「…その通りですね」
「だから、約束!」
「へ?」
唐突に陽乃さんが言い出す。
どういう約束ですか。
「変わらないって誓って。私を少しでも安心させて」
「…誓わなきゃダメですか」
「ダメ。誓って」
「もし、破ったらどうなりますか?」
とりあえず、聞いてみる。
「んー、わかんない」
「わかんないってあなた…」
思わず俺はあきれ顔。
陽乃さんは照れたように頭を触ってた。
「でも、きっと何かを思いつくから、約束して」
「…ま、いいですよ。誓いますよ」
「ホント?ホントだね?」
「嘘はつきませんよ」
「分かった。信じる」
そう言って、陽乃さんはえへへと笑う。
そんな姿がたまらなく美しくて。
体がドキっと疼く。
変わらない事。
それを約束した。
じゃあもうこの想いを否定する事はできない。
今ある想いを育ていく事しかできない。
「さ、じゃあ最後の時間を楽しもうか」
「…はい」
俺は力強く頷く。
決められたタイムリミットは昼頃まで。
そこでコイビトは終わる。
陽乃さんとの誕生日が終わる。
終わらないモノがないのを知りながらも。
終わってほしくないなんて願い続ける自分がいた。
「比企谷くん」
「はい」
「1日、楽しかった?」
不安がちな声色で尋ねられる。
自分の中に明確な答えがあるので、俺は自信を持ってそれを言葉にした。
「楽しかったですよ」
「ホント…?」
「はい。ホントです」
「良かったぁ…」
陽乃さんの顔が一気に華やぐ。
それを見て、やっぱり陽乃さんには笑顔が似合うな。
と、心の中で小さく呟く。
「理由は?」
「色々な陽乃さんを見れたからです」
「ん?色々な私?どういうこと?」
俺は昨日の昼まで、陽乃さんを知らなかった。
今も知ってるとは言い難いが。
それでも、昨日の俺よりは、今の俺の方が陽乃さんを知っている。
それは自信がある。
だから、芽生えた想いに戸惑っている。
このままでいいのかという焦りが俺の中に巣食っている。
「近くにいることで、新しい陽乃さんを見れたんです」
「ほー。具体例を挙げよ」
「なんで設問風…」
「あはは、なんとなく」
こんなところも知らなかった。
ちょっとお茶目な一面があること。
意外と乙女なところ。
「例えば…料理が上手なとこ」
「そこ?」
と、陽乃さんは呆れ顔。
しょうがないじゃないですか。
ぱっと思いついたのがそれしか無かったんですよ。
「男的には結構ポイント高いっすよ」
「料理上手が?」
「はい」
「胃袋を掴むってやつなの?」
「まぁ、そうだと思います」
男なんてとことん勘違いしやすいバカな生き物。
ちょっと意識させられただけで、すぐそれが恋愛感情に結びつく。
「…比企谷くんも摑まれる?」
「はい」
「そっか…」
陽乃さんは急に嬉しそうな笑顔。
…俺の胃袋なんて。
もうすでに摑まれたも同然だ。
昨日と今日。
2回だけ食べた陽乃さんの手料理が。
未だに忘れられない。
「あ、来たよ」
「お。食べましょっか」
「うん」
2人で喋っていると、注文した料理が運ばれてきた。
コトっとそれがテーブルの中央に置かれると。
俺たちは静かに手を合わせ、ゆっくりと食べ始める。
これで最後になるのか。
そう思い、陽乃さんの方を見る。
すると、陽乃さんもこっちを見てきていて、バッチリ目が合う。
やっぱり改めて見ると、整った顔をしている。
この顔と張り合えるのは、この人の妹ぐらいだろう。
寂静感が俺の中を突き抜ける。
寂しい。
そう、思ってしまうのは仕方がないだろう。
惹かれている自分を認めた後ならなおさらだ。
でも、寂しいって思ったら、さらに寂しくなる。
3口目を食べてから、その事実に気づいたので。
4口目からは、陽乃さんとの会話に集中しよう。
そう、静かに誓った。
ーーーーーー
静かに車はその場に止まった。
陽乃さんが乗っている車はなかなかの高級車。
だから、ブレーキ性能も高いんだろう。
でも、今日だけは。
ブレーキが効かなければ良いのにな。
なんて。
もう、俺の家の前だ。
これで1日コイビトは終了。
なんて、心では分かっているのに、体は納得していない。
「着いたね…」
「そうですね…」
俺はゆっくりと玄関のドアの方に行き、ポケットから合鍵を取り出す。
この1日の間、何1つ具体的な想いを2人とも口にしなかった。
それでホントに良いのだろうか。
確かに安定のポジションには居れるだろう。
そこは変わらずに。
でも、それに満足しない自分もいる。
矛盾した気持ちばっか抱えて、今を過ごしている。
少しは答えをくれるかなって思って。
俺はそっとドアを開けた。
見慣れた玄関が視界に現れる。
それは、終わりが口を開けて待ってるかのようだった。
俺はドアを支えながら、内側に入る。
すると、陽乃さんも入ってきた。
「ちゃんとここまで送り届けるのが私の仕事だからね」
そう言って陽乃さんは寂しげに笑う。
…やっぱり、そんな顔のあなたはあなたらしくない。
「陽乃さん」
「ん?」
「ありがとうございました」
「そんな、感謝されるぐらいのこと、私してないよ」
「いや、沢山してくれました」
顔の前で手を振る陽乃さんを制するかのように、俺は言葉を続ける。
「そうかなぁ…」
「そうです。だって、もうこの誕生日は忘れられませんよ」
きっと、忘れられない。
他のことがどんどん風化してったとしても、今日のこの日だけは忘れられない。
どんなことがあっても、俺は忘れられない。
「忘れないか」
「はい。忘れないです」
きっとじゃないな。
ここまで行けば、絶対だ。
俺が1人思っていると、陽乃さんは突然クルッと振り返った。
「…あんまり長居するのも悪いし。それじゃあね、比企谷くん」
「え、あ!ま、待ってください」
陽乃さんは俺に別れを告げて、さっさと帰ろうとしている。
人の心を散々弄っておいて、別れるときはアッサリとか許せない。
もう、俺は後戻りできないから。
認めてしまった想いが溢れているから。
だから、俺だって伝えたい。
「ん?」
「その…一方的は嫌なんです」
「ほう」
「陽乃さん」
「なぁに?」
「改めて、まぁまぁの誕生日をくれてありがとうございました」
「むー。忘れられないのにまあまあなの?そこは普通、最高って言うんじゃないの?」
「俺と陽乃さんに普通は似合わないんで」
「…ふふっ。それもそうか」
陽乃さんは春の日差しのように柔らかく微笑む。
初めて見た、優しい笑顔。
心臓がドキッという音を奏でる。
「1日、楽しかったです」
「そうだね。1日…楽しかったね」
陽乃さんはどこか、懐かしむかのような声で言葉を発する。
そんな陽乃さんに寂しさを覚える自分がいる。
「…1週間」
「え?」
「1日の次って1週間とかじゃないんですか?」
俺はあえてとぼけたような声音で尋ねてみる。
陽乃さんはしばらく呆気にとられたような表情で固まっていたが、突然クスクス笑いだして俺に答えをくれた。
「なんなら、1年間でもいいかもね」
「…っ」
「どうしたの?顔、真っ赤だよ?」
「な、なんでもないです!」
お姉さんの魅惑的すぎる言の葉。
囁かれた文字は、腹の方にズンと来た。
それに動揺しない訳がなくて。
体が熱い。
動脈からたっぷりと新鮮な血液が回っているのが分かる。
「そっか…ふふっ。やっぱりキミしかないなぁ」
「…….…聞こえてますからね」
「聞かせてるんだよ」
陽乃さんのどこか揶揄うかのような口調。
それがたまらなく悔しくて。
弟のようにしか見られていないんじゃなかって思ってしまって。
ついムキになって、心の底から言葉を絞り出してしまう。
「いつまでも」
「え?」
「いつまでも陽乃さんの言葉を聞かせてくださいね」
「……え、えぇ!?ほ、本気で言ってる?」
陽乃さんは焦ったような照れたような、どっちつかずの顔。
それはいつまでも見ていたいぐらい、美しく心地がいい顔だった。
「……さぁ?」
「ちょ、ちょっと!比企谷くん!それはズルいよ…」
片頬を膨らませて拗ねる。
そんな幼い仕草で拗ねられちゃったら、俺の心臓が耐えきれる訳がない。
ズルいのはどっちだ。
「あっさり帰ろうとした罰です」
「え、いやまぁ…帰ろうとしたのは恥ずかしくなったからで……」
陽乃さんの声は、後半につれてどんどん小さくなっていて全然聞き取れなかった。
その声に比例して顔が赤くなっているし。
そんな赤くなった陽乃さんを見ていると、膨らんだ頬を突いてみたい。
という稚拙なイタズラ心が湧いてくる。
が、僅かばかりの理性とプライドで欲望を押さえつける。
…まぁ、意識すればするほどそれが目に入るし魅力的に映る。
手を伸ばしかけてしまったので、誤魔化すように俺は口を動かす。
「こ、今度は」
「な、なに」
「あっさり帰らせませんから。帰るのが惜しくなるくらい、楽しくしますから」
口に出してから後悔。
思わず出した言葉はこれ以上になくクサく、次を確信しているのが丸分かりだった。
「ぇ……」
「………」
「………」
「………」
「……な、なんか言ってよぉ…」
「…死にそうなんですよ……」
「ばか…」
お互いに顔を真っ赤にして押し黙る。
場所が玄関ということを考えると、なかなかにシュールな光景だ。
「……」
「ま、まぁね。キミも次を楽しみにしてるんでしょ?嬉しいな」
「『も』ですか?」
「うっ……」
陽乃さんにしては珍しく一本取られたようなカタチ。
喉に何かが詰まったかのような、苦しげな表情を浮かべている。
…ちょっと?俺に揚げ足を取られることってそんなに悔しいんですか?
「陽乃さん」
「な、なによ!」
「俺も、次楽しみですよ」
「〜〜〜〜!」
陽乃さんは声にならない悲鳴をあげながら手をバタつかせている。
いつも余裕たっぷりのお姉さんのレアな姿を見れたことに嬉しさを覚える。
「なによ…なによ、比企谷くんのくせに……ばか。ばかよ。ホントにばかなんだから…」
「そんなにバカですか。俺」
「もう、帰るからね!だから最後に言ってあげる!比企谷くんなんて、後から悶えればいいんだ!」
「なに言ってんすか…」
ちょっと怒って、意地を張ったような言葉を投げかけてくる陽乃さんに苦笑。
そして、幼い感じもかわいいなって思う。
ていうか、悶えるってなに?
どんなコトを言うつもりなんだ、この人。
「大好きなんだから!このばか!」
そう言い放った後、陽乃さんはわざとらしく大きな音を立てて、ドアを開けて出て行く。
ガチャ。
ドアは開けられた時とは対照的に静かに閉められる。
外への視界を遮るドアは、その向こうにいるはずの陽乃さんを隠して。
それが、助かるような悔しいような矛盾した気持ちを湧き上がらせる。
『大好きなんだから!このばか!』
その叫びがいつまでも耳に残っている。
うずまき管の中でその言葉がグルグルと回っている。
ホントだ。
陽乃さん。
恥ずかしくて、信じられなくて、悶えそう。
ダメだ、ダメだ。
好きっていうその一言だけで。
陽乃さんと過ごした1日が輝いて蘇ってくる。
あの時間がかけがえのないものに思えてくる。
「陽乃さん…」
1日か。
たった、1日か。
1日だけのコイビト。
それだけで、勘違いするのは間違いだろうか。
それが分からないんだ。
だから、分かりたい。
その為には、もっと陽乃さんを知らなきゃいけないな。
と、誰に聞かれる訳でもないのに自分に言い訳する。
…そんな自分にちょっぴりヘキエキ。
自分ぐらいには素直になれよ。
言葉にしたら、認めてしまうから。
だから、素直になろう。
そう、すっと思えた。
「大好き……ですよ」
1日コイビト。
それはたまらなく楽しくて、嬉しくて、どこかモノ足りない。
だから、次は。
一週間コイビトになる。
それでも満足しないだろう。
でも、千里の道も一歩からだ。
どんどん、どんどん長くしていけばいいんだ。
1週間の次は1ヶ月。
1か月の次は1年。
1年の次はきっと、1つの人生。
だから、とりあえず。
1週間のコイビトから始めていこう。
そう、心から思えた。