もう読んでいない方も大勢いらっしゃると思いますが、お待たせして申し訳ありませんでした……。
出来は良くないかもしれませんが、それでも大丈夫だという方のみ、ご覧ください。
それでは、どうぞ。
「……あなたの言っていた通り、ノイズが現れたらしいわ。
聖遺物を密かに保管していた博物館にて、シンフォギアと対峙したらしい」
『おや、まさか本当に出てくるとは……』
「とぼけるな。一体いつオリジナルの開発に成功した」
『……はい?』
「あくまで白を切るつもりか。オリジナルのノイズを作り出すなど、お前以外の誰かができるものか。
アルカ・ノイズで十分なものを、なぜ今更あのようなものを出す必要がある。人を殺すことのみに特化したものを! 一体何が目的だ! 返答次第によっては――」
『いえ全く心当たりがありません』
「ではなぜ『ノイズが現れた』などと的確に……!」
『いや、適当に言っただけのものがたまたま当たっただけですよ? まさか本当にノイズだったとは……』
「…………」
『…………』
「……その件で、一つ頼みたいことができた」
『謝ってください。濡れ衣を着せられて傷ついた私に謝ってください』
「ノイズの存在はシンフォギアとの戦闘が記録された映像で確認したのだが、同時に信じられないものを私は目にした」
『無視ですか。無視なんですか。人類の相互理解を目指しているとか言っちゃってるのに、人の話を聞かないとか笑えないんですが』
「……ノイズは、一人の人間から生み出されていた」
『…………』
「触れた途端、人間を炭素分解するはずのノイズが、一人の少女から排出されるように作り出されていたのだ。しかも、無尽蔵にだ」
『…………はあ』
「ノイズもまた、人類を恐怖で支配する先史文明の負の遺産であり、我々が打倒すべき敵。人類の天敵であるノイズを操る彼女も、革命の礎としなければならない。
だが、私とカリオストロ、プレラーティは、ティキが指し示すままに儀式の用意をしなければならない。後に局長もこちらに合流するが、正直、あの男の動きは読めない。
それに、奴は忽然と姿を消し、その行方を掴ませていない。空間転移が可能らしく、次はこの国の外に姿を現わすかもしれない。私が対処したいところではあるが、ここから離れるのはあまり望ましくない」
『というか、ファウストローブにはシンフォギアのような対ノイズ用バリアコーティング機能はないですからね? 錬金術ならある程度防げますが、一発でも直にノイズに当たろうものなら消し炭確定ですよ。あーあ、もしノイズがまだ存在していることが分かっていたなら、喜んで開発に取り組んでいたのに……』
「……開発者としての世界に閉じこもる前に、私の要望くらいは聞いてもらえないかしら。
……ノイズを生み出す人類の天敵たる彼女の対処、お前に頼みたい。この計画には不参加の意思表明をし、暇を持て余しているお前なら、例え世界のどこに奴が現れたとしてもすぐに向かうことができるはず」
『……私の畑は開発なんですけど……』
「だとしても、あなたほどの錬金術師なら申し分ない」
『……まあ、別にいいんですけどね。それじゃ、そちらもご武運を』
「たっだいま~♪ ……あれ? サンジェルマンどうしたの?」
「あのノイズを吐き出していた生意気そうな小娘の件なワケだ」
「ええ、たった今話をつけたところだ」
「もしかして、『叡智の怪物』だったり?」
「そうだとすると、あの少女も少し哀れなワケだ」
「彼女ならば、例えノイズ相手だろうとも遅れをとることはないでしょう。
パヴァリア光明結社の開発局長、リリス・ウイッツシュナイダーならば」
□
大泉博物館での戦闘から一夜明けた翌朝、装者たちに招集の声がかかり、今はS.O.N.G.
本部である潜水艦のブリーフィングルームに集まっていた。先日、突如として再来したノイズ、そしてノイズを生み出していた少女に装者たちは辛くも勝利したにも関わらず、そこにいる面々の表情は暗い。
二度と現れることはないだろうと思っていたノイズの再来、そしてノイズを生み出すことができる新たな脅威の出現は、彼女たちの心に確かに影を落としていた。
「……昨日の疲れもまだ取れていないだろうに、朝早くに呼び出して済まない」
そんな空気を払拭するかのように、司令たる弦十郎が口火を切る。とはいえ、そう言う彼の表情も険しい。彼もまた、完全に打ち倒したと思っていた仇敵の再来に何も思わないわけではない。
しかし、現在差し迫っている脅威は、なにもノイズを作り出す彼女だけではない。フロンティア事変、そして魔法少女事変の背後にいたパヴァリア光明結社もまた、自分たちが今迎え撃たねばならない敵であるのだ。
「まず、ノイズを生み出していた少女についてだが、響くんたちとの戦闘後に、その姿が確認されている」
だが、最初に彼が装者たちに伝えなければならないことは、まさにその少女に関わることだった。
弦十郎の言葉に反応して装者たちの目が見開かれる。特に、ソロモンの杖を起動させたために、ノイズに対して一際敵対心を持つクリスが弦十郎に食って掛かる。
「確認されているって……なに悠長に言ってやがる!
だったらなんでアタシたちを呼ばなかったんだよ!?」
「クリスちゃん落ち着いて!」
「離せこのバカ!」
今にも殴りかかるような勢いで詰め寄るクリスを見かねて、響が後ろから羽交い締めで抑え込む。うがーっ!と暴れるクリスだが、弦十郎はそんな彼女に対し、静かな様子で質問に答えた。
「呼んだところで対処できなかったからだ。なにせ、
「遠すぎる……? それは、一体どういう……?」
弦十郎の言葉に、マリアが疑問を覚える。マリアの言葉が言い切られる前に、スクリーンが映し出される。スクリーンには地図が表示されており、ところどころに赤い点がつけられている。
それを見た装者たちは、赤い点が少女の姿が確認された場所だろうと理解したが、その直後に異常さに気づき、思わず息をのむ。
表示された地図は、世界地図だった。つまり、ノイズを発生させることのできる少女は、昨日の夕方ごろから今朝のあいだに、世界中のいたるところに現れたということになる。
「まさか、たった一晩で、このすべての場所に現れたというの!?」
「厳密にはノイズしか確認されていない所もあるが、彼女がそこに現れたと見て間違いないだろう。
幸か不幸か、響くんたちとの戦闘後は、日本でノイズの反応パターンは検知されていない。だが、
「でも、いくらなんでも神出鬼没に過ぎるデスよ!?」
「それについてだが、既にある程度の見当がついている」
弦十郎はそう言い、エルフナインの方に目配せする。彼女はそれに頷きで返し、端末を操作してスクリーンに新たな画像を映し出させる。
画像は中央を境界線として左右に分割されており、それぞれに一つずつ波模様が描かれている。しかし、それらの波模様は
装者たちの目がその画像に映ったところで、エルフナインが説明を始める。
「これは、とある聖遺物のアウフヴァッヘン波形と、ノイズを作り出していた少女が姿を消す際に捉えられたエネルギーの波形パターンを比較した結果です。
見てお分かりになるように、二つの波形パターンは非常に酷似しています。このことから、彼女が響さんたちの前から一瞬にして姿を消すことができたのは、この聖遺物の力によるものだと考えられます。おそらく、短い間に長距離の移動ができたのも、この力を用いているからでしょう」
「……おい……。まさかとは思うが、その聖遺物っていうのは……」
エルフナインの説明に、その聖遺物とは何なのか思い至ってしまったクリスが口を開く。ネフィリム・ノヴァによって焼き尽くされたはずの
だが、エルフナインから伝えられたのは、彼女が最も聞きたくなかった残酷な真実だった。
「……ご想像の通り、かつてノイズを呼び出し、制御することを可能とした聖遺物、『ソロモンの杖』です」
『――ッ!』
エルフナインの言葉に、装者たちの体は強張った。かつてソロモンの杖によってノイズが操られ、多くの無関係の人々が炭へと変えられ、命を散らしていったことを知っている彼女たちは、まだ杖が存在しているかもしれないという事実に心を揺さぶられた。
特に、ソロモンの杖を起動させてしまったことを激しく悔いているクリスにとって、ソロモンの杖の存在は許せるものではなかった。
「なんでだ!? あの時、ソロモンの杖はネフィリムの爆発で蒸発したはずだろ!? なんで今更になって、そんな……」
「クリスちゃん……」
最初こそ信じたくない気持ちで強い口調だったクリスの声は、つらい現実に尻すぼみになっていく。バルベルデにて掘り起こされた過去、そして『正義の選択』で大きな負担がかかりっぱなしだった彼女の心は、終わらせたはずの因縁であるノイズ、そしてソロモンの杖の再来により急激に弱っていた。
そんなクリスを心配そうに響は見つめ、他の装者たちも沈痛な面持ちになる。弦十郎の顔も苦々しいものに変わるが、それでも今後彼女たちの障害となる可能性が大いにある以上、少しでも分かった情報を伝えないわけにはいかなかった。
「確かに、いくら完全聖遺物とはいえ、1兆度という熱量に耐えうる代物だとは考えられない。
だが、あの少女が何らかの形で『ソロモンの杖』の力を使用していることは、このデータから推測するうえではほぼ間違いないだろう。
『ノイズの操作』に目を向けてしまいがちだが、杖には『空間干渉』という機能も確かに存在し、それを前提にするならば彼女の異常な移動能力は説明することができる」
「それともう一つ、一致した物があります」
エルフナインの言葉とともに、また新たな画像がスクリーンに映し出される。先ほどの画像と同じく、その画像も中央で分割され、左右に一つずつ花のような波模様が描かれていた。さっきと違うことと言えば、二つの模様の大体の形は似ているが、細かく線が描かれている右の波模様に対して左は大雑把な形をしており、完全な一致とは言えなかった。
「左は、ノイズから感知されるエネルギーパターンを示したものであり、それに対して右は、ノイズを生み出す際にあの少女から感知されたアウフヴァッヘン波形です。
二つのエネルギー波形は鮮明さこそ少し異なりますが、90%以上シンクロしていることが判明しました。
このことから、少女は右のアウフヴァッヘンを発する聖遺物を所持し、その力を用いてノイズを発生させたものと考えられます」
「だが、あの少女には、そのような聖遺物を持っている様子はなかった。あのような粗末な衣服の下に隠していたとも思えないし、それ以前にノイズはまるで……」
「まるで、あの少女の体から生まれてきたみたいだった、か?」
エルフナインが導いた結論に疑問を呈する翼に対して、言葉の先をとる形で弦十郎は答える。
それを聞いて、実際にそれを為した少女の姿を思い出し、顔を俯かせる装者たち。
「まだ推測の域を出ないが、あのような形で人体からノイズを発生させることを可能とする要因は、我々が知る限り一つしかない」
「それは一体……?」
――『融合者』だ。
弦十郎の言葉に、装者たちの体は硬直する。
かつて立花響がガングニールのシンフォギアの破片をその身に宿したことによって誕生した存在。人体と聖遺物の融合体である新霊長。いまや現存していないと思われたそれは、同じく消えたと思われていたノイズやソロモンの杖と共に再び現れたというのか。
装者たちの誰もが言葉を発することができない中、弦十郎はそのまま言葉を続ける。
「早急な結論かもしれないが、
彼女の体には大量の
「フォニックゲイン……!?」
弦十郎の言葉を聞き、マリアが目を見開く。言葉なき歌――ヴォカリーズを使って装者たちの歌をほぼ無効化することは知っていたが、まさかそれによって発生したフォニックゲインでノイズを生み出していたとでも言うのか。
マリアのみならず、今まで歌の力で争いをなくそうと戦い続けてきた装者たちにとって、それはあまりにも受け入れられないことであった。
あまりの事実に思考が停止してしまう装者たちだが、今度はオペレーターの二人がデータに基づいて説明を再開させる。
「最後にノイズを展開した瞬間に観測されたフォニックゲインの数値は、魔法少女事変の折のキャロルの絶唱をも上回っていたわ……」
「これだけの熱量を保存しておけるなんて、正直、純粋な人間だとは考えられない。単純なエネルギー量なら、この前の怪物にすら匹敵するかもしれない」
「この前の怪物」。藤尭のその言葉に、バルベルデにて実際に戦ったマリアたちの体が一瞬こわばる。
圧倒的な攻撃力と絶対的な防御性。その二つを兼ねそろえた化け物に匹敵する脅威たりえる少女が、今なお人類に牙をむいていることが背筋を冷たくさせた。
「一見するとでたらめに過ぎるが、彼女が融合者であると仮定した場合、筋が通る部分がある。
ノイズを発生させる聖遺物が存在し、その聖遺物と同化しているのなら、己の力としてノイズを生み出すことも可能なはずだ。ソロモンの杖と同じ力を使えるのも、そこに所以があるかもしれん。
そして融合者ならば、かつての響くんのように、普通の装者をはるかに上回るフォニックゲインを行使することができるだろう」
その言葉に、響は彼女の瞳を思い出す。虚無の闇の中で、暗くも激しく燃え盛る焔を連想させる少女の目を。
融合者だったものと融合者であるもの。「融合者」という共通点こそあるが、響と少女は、生まれた時代も、生きてきた場所も、育ててもらった親もなにもかも違う。なにより、響は「ヒトを助ける」ために力を使い、少女は「人間を殺す」ために力をふるう。彼女たちの意思は、まさに対極にあると言っていい。
だが、自分とは相反しているはずの少女のことを、なぜか響は他人事とは到底思えなかった。
理由は分からない。言葉で説明できるものではないが、彼女の中にあるナニカが、自分の中にもあるような気がしてたまらなかった。
「彼女がいったい何者なのか、どのような目的で動いているのかは依然として不明であり、消滅したはずの聖遺物の力を行使できる理由や装者の歌を無効化するメカニズムも解明できていない。
だが、異端技術を行使し、一般人を巻き込むことも意に介さない彼女は、間違いなく我々S.O.N.G.の敵だと言っていいだろう。
世界各地を転々と転移しているため接敵する可能性は限りなく低いと思うが、万が一彼女と遭遇した場合は、全力で被害を食い止めてほしい。困難だとは思うが、無力化と確保が最上だな」
そんな思考に没頭していた響は、弦十郎の言葉で現実に引き戻された。
確かに、どんな事情があるにせよ、彼女が大勢の人を苦しめているのなら、自分は拳を握りしめてでも止めたい。響はそう強く思うことで、じわりと心に染み始めてきたものを振り払った。
「いつ出現するか不明な脅威に備えるのも俺達の仕事だが、まずは目の前のことから対処することが優先だ。
現在は、マリアくんたちが持ち帰ってきたバルベルデドキュメントの解析と、錬金術師たちの動きを抑えることを目的に行動する」
「その方針には賛成だけど……正直、やりきれないわね……」
一応の納得を示したマリアだけでなく、その場にいた装者全員が弦十郎の言葉に、やりきれない気持ちを抱えた。
復活し、さらなる脅威を見せつけてきた因縁に、何の手も打つことができない現状が歯がゆくて仕方ないのだ。
「なに、結果的に取り逃してしまったとはいえ、逆に言えば仕掛けてきた相手を撤退にまで追い込んだんだ。
今は接触することが困難とはいえ、次に相まみえたときは、きっとうまくいくさ」
そう言って、司令である弦十郎は、現場に立つことになる装者たちを宥め、励まそうとする。
実際、彼の言葉に嘘偽りはない。無限のようにノイズを生み出す能力と装者の歌を無効化してくるヴォカリーズは確かに脅威ではあるが、現状の戦力だけでなんとか対処できる範囲内だと判断されるからだ。
それに、少女の身体能力は、お世辞にも高いとは言えないようだった。その弱点を突いていけば、勝率をさらに上げていくことだってできると弦十郎は思っている。
――だが、彼は隠し事をしていた。
少女がヴォカリーズを使っていた際、ノイズの生産によって消費されていくフォニックゲインの蓄積量、その減少率が少しだけ減っていた、いやむしろ
ヴォカリーズによって減少する装者のフォニックゲイン、増加する少女のフォニックゲイン。つまりエネルギーの移動があったことになる。
そしてこのエネルギーの遷移、過去に一度だけ似たような例がある。あまりにも突然の事態であり、近くに観測器具もなかったので、当事者たちから聞いて作成した報告書しか残っていないが、確かにあった。
しかし弦十郎は、それを言うことができない。ただでさえ情緒不安定になりつつある彼女たちにそのことを伝えたら、これからの戦いにもおおいに影響が出るような事態になりかねない。
「それでは、これよりバルベルデドキュメントの解析のため、長野県の松代に向かう」
自分たちの『希望』と相反するような『絶望』を自分の心の中に押しとどめ、少女たちが前を向けるようにする。
それが、風鳴源十郎が大人としてできる、この場での精いっぱいだった。
◇
探して、
見つけて、
移動して、
殺して、
取り戻す。
彼女がとっている行動は、いたってシンプルだった。
奪われたものを、育った環境で培った感覚――いわば第六感で探し出し、場所を割り出し次第、本来のソロモンの杖の能力で空間をいじくり移動する。
そして奪われたものがある場所に乗り込み、邪魔者をしもべで殺し、杖の能力としもべの性質を使いながら、目的のものを取り戻す。
取り戻したものは亜空間にいったんしまっておき、後でまとめて還すまで保管しておく。
食事などに使っている時間を除けば、こんな感じで行動していた。
戦闘後の廃人状態から回復した少女は、まず奪われたものの回収をすることに決めた。人間たちを駆逐するのは、それからでも遅くないし、なにより、
彼女が転移した場所は、所属する国家も団体もバラバラだが、ほとんどが聖遺物を保管・研究している施設だった。
どの国も国防において重要な場所を襲われたわけだが、正直に言っては他の国に介入される可能性も高いため、ノイズが出たことだけは素直に国連に報告して、そこがどんな場所なのか、正確な場所なども含めて隠しているのが現状だった。もっとも、自分も干渉されたくないだけで、互いに事情は分かっているのだが。
そんな人間たちの政治の話に全く関係がない彼女は、たった今も某国の聖遺物研究所を襲撃し、探し物の一つを取り戻してきたところだった。
まだ半日ぐらいしか経っていないとはいえ世界中を転移しただけのことはあり、彼女の探しものも大分進んでいた。第六感で捉えられる反応もかなり減ってきたこともあり、今は晴れ渡った空のもと、丘の上で採ってきた木の実などを食べながら休憩していた。
木の実をかじり、ほおばる彼女の表情は、実に穏やかなものだった。装者たちと戦った際とは、まるで別人かのように。
その瞳も、少なくとも今は人間への憎悪の炎は宿っておらず、優しさと使命感がこもった色をしている。さっきまで人間の敵であった少女は、それこそ装者たちと変わらないような心優しい少女のように見えた。
陽だまりの中ゆったりとした時間を過ごしながら、少女は考えた。
奪還するべき数も片手の指で数えられるまでになり、今まで取り戻してきたものも、今のところは自分以外入ってこれない場所にしまってある。
今までは奪われたものをこの手で取り返すのに無我夢中になって行動していたが、流石に疲労もたまってきた。また、能力を封じられ、長いあいだ閉じ込められることになるのを避けるためには、ここで一度しっかり休んだ方がいいかもしれない。
十分に休んで、万全の状態になったら、残りの『みんな』を取り戻して、元の場所に帰して、そして――
――
そう考える彼女の瞳は、また元のように憎しみ燃え盛る色に戻っていた。
少女はもう、自分は人間ではないと思っている。彼女のなかでは、『人間』としての彼女はもう死んでいる、つまり死人だ。
ゆえに、少女の目に映る人間は、もはや彼女にとっての同族ではない。この星の霊長は自分たちであると驕り高ぶり、他の種族はおろか、同族の命でさえ無機質に奪い、それ以上に許されざる行為を平然と働き、母なる大地すらも己の都合で汚す、この世で最も害悪たる存在ルル・アメル、それが彼女にとっての人間だった。
この世界から殺しつくさないとならない存在に、同情も良心の呵責も罪悪感も抱くはずがない。
もし抱くとするならば、それは既に死んだ『人間』の自分だ。
だが、死人に口なし。例え死人がどれだけ罪悪感に苦しもうと、もう人間なんて辞めた自分が苦しむことは決してない。
だから彼女は――かつてメリュデと呼ばれたルル・アメルは、人間の敵としてあり続ける。あり続けることができ、人間を滅ぼそうと実際に動いている。
しかし、今の彼女にとっての最優先事項は、彼女の
人間への殺意に逸れそうだった思考を、自分の仲間の奪還に対する使命感に切り替えた少女は、そろそろ異空間に戻ろうと考え、空間を歪めようとし――
「ようやく出会えましたね。ずいぶん探しましたよ」
人間の声が聞こえてきた方へ、発射するような勢いでノイズを生み出して向かわせた。いちど理性が戻った瞳の色は、先ほどと同じように憎しみの色へと染まっていく。
弾丸のように飛び出したノイズは、しかし声の主を殺すことはできなかった。
そのことを感じ取った少女は、この前のような奴かと警戒する。そんな少女の心を知ってか知らずか、ノイズを防いだ女性は、落ち着き払った様子で話しかけてくる。
「『私の名前はリリス・ウイッツシュナイダー。
完全というものを追い求める集団で、モノづくりをしているだけのしがない女です』
……ふむ、反応なしと。もしやと思ったのですが、いや、主流ではないだけでしょうか……」
ノイズを操る少女に自己紹介をする女性は、20代に見えるほどの若々しい姿をしていながら、まるでノイズに一切の恐怖を感じていないようだった。
女性――リリス・ウイッツシュナイダーに対する警戒を強めながらも、一つの疑問を覚える。彼女の発する声が、途中、大幅に様相を変えたように思えるんだ。そう、まるで言語を変えたかのように――。
「《そう警戒しないでほしいものなのですが……。私はただ、あなたに興味があるだけなのですよ。
といっても、命令に逆らうわけにもいかないので、すぐさよならしてしまうと思いますが……》
……これもダメですか。2番目に栄えた国で使われたものですが、いやはや難しいものですね」
実際、リリスは言語を変えて話しかけていたのだが、少女にそんなことが分かるはずもなく、頭に浮かんだ疑問を片隅に置き、ノイズによる攻撃を再開した。
秒間に100体近くのノイズが生産され、雨あられのように敵に襲い掛かっていく。しかし、そんな猛攻であろうとも、リリスのすぐ目の前で炭と化すばかりであった。
「【初見でここまで嫌われるのも珍しい。呪詛をかけられた直後のルル・アメルでも、初めて出会った見も知らぬ相手に恐怖を覚えこそすれ殺意を覚えることはまずないでしょうに……】
……これもダメ、と、だとするとあと残っているのは……」
いまぶつけられるだけの物量でも、涼しい顔をして凌いでいるリリスに業を煮やした少女は、装者たちにも使った増殖タイプを作り出すことに決める。
そして意識を集中させ、作り出し始めようとしたとき――
「⁅さて、いつまでも時間を無駄にするのもなんですし、そろそろお仕事を始めさせていただきましょうか⁆」
その
「やはり
あのあたりは当時の国々が突如滅亡していったため技術が全く残っていなかったはずですが……もしかしてあなたの仕業ですか?」
ハッとした時にはもう遅かった。隙を見せてしまったことに気づいたら――
「まあ――」
リリスの姿は消え、草が敷き詰められていた足元は無機質な岩になり、青かった空は星と闇に彩られ――
「
少女のしもべによく似たナニカに、周りを取り囲まれていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最後の方におまけを用意いたしましたので、よろしければご覧ください。
おまけ①もしリリスの情報が公式サイトに載ったら
・Characters
パヴァリア光明結社の開発局長。自称「もっぱらモノづくりにいそしむ女」。
組織の様々な技術の開発はいつも彼女の知識が役立たれており、アルカ・ノイズやファウストローブの開発などにも多大な貢献をしている。
結社内では、彼女のセンスの高さに憧れる者も少なくない。
ただし、保有する魔力はサンジェルマンたちのような高位の達人には及ばず、結社の一部からは「なぜ統制局長と逆なんだ」といろんな意味で嘆かれている。なお、肌をさらすのは好まない方だと思われる。
アダムと同じく実年齢は不詳とされ、実は先史文明期の人間じゃないのかと噂されている。
・Keyword
パヴァリア光明結社の一部門を束ねる立場にある開発局長。
魔力こそ中堅クラスだが、機能特化型アルカ・ノイズをはじめとした様々な技術の開発に携わっているという実績がある。
そのため組織内では、統制局長と対比して「何かを生み出すことなら最高水準の錬金術師」と呼ばれ、トップ以上に慕う者も多い。(逆にトップを揶揄しているともいえる)
おまけ②メリュデをXDに出してみたら
レアリティ(初期) :星5
属性 :怒
種族 :聖遺物
リーダースキル:怒属性の物理DEFを10%(→15%→20%)上昇
パッシブスキル:シンフォギア装者のパッシブスキルを無効にする(4ターン→6ターン→8ターン)
必殺技1:力を奪う
・3ターン(→4ターン→5ターン)の間シンフォギア装者のATKを10%(→20%→30%→50%→60%→80%)減少し、味方であるメリュデのATKを10%(→20%→30%→50%→60%→80%)上昇する
必殺技2:ソウゾウシイサツリク
・敵全体にATKの120%(→130%→140%→150%→160%→170%)の物理ダメージを与え、且つ3ターン(→4ターン→5ターン)の間自身のDEFを10%(→20%→30%→50%→60%→80%)上昇する
だいたいこんな感じだとイメージしています。ステータスは調より低そうな印象です。
→は、覚醒・限界突破で上昇していくことを表す表示です。他の細かい仕様などはご想像にお任せします
おまけは以上です。更新できるかどうか怪しい所ですが、できれば次回もお願いいたします。
オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)
-
挿絵はあった方がいい(ペイント)
-
挿絵はあった方がいい(手描き)
-
挿絵はない方がいい
-
どちらでもよい