その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 7月最初の投稿になります。そして今月、いよいよXVが始まりますね! すごく楽しみです!
 完結の物語にフォニックゲインを熱く高めて、こちらも頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします!

 それでは、どうぞ。


第二章 居場所を求める少女

 旋律の少女は、居場所を失った。

 

 帰るべき集団をなくした少女は、人のぬくもりを求めて各地をさまよう。

 しかし、自分の世界から抜け出た少女が知ったのは、自分たちとは異なる人間に対する、人々の冷たさだった。

 

 

 

 

 

 

 そこは、自然と笑顔にあふれた土地だった。

 木々は実りを蓄え、子供たちは満面の笑みで駆け出し、大人たちはそれを見守る。まさに、平和そのものを体現したような村だった。

 

 だが、村の周囲には木でできた塀が存在していた。村を囲む塀が、この平和な村が外からの脅威を恐れていることを物語っていた。

 

 村を囲む塀、さらにその外側の森の中から、一人の少女が姿を現した。来ている者はかなり古ぼけていて、汚れ切っている。目はうつろで、ふらふらと歩きながら村へと近づいている。

 少女の存在に気づいた村の一人が、見知らぬ人間が村に近づいていることを他の村人たちに大声で知らせた。笑顔だったはずの村人たちの顔は、不安と警戒の色で彩られ、外との境界線である扉は閉じられた。

 

 塀の上から、村に近づいてくる余所者に対して、警戒と敵意の混じった視線が村に住む者たちから送られる。そんな視線を知ってか知らずか、少女は前へと進み続ける。

 そして、あと4.5歩というところまで村への入り口である扉に近づいた時――

 

⁅止まれ!⁆

 

 村長と思わしき老人が声を張り上げ、少女の行く手を言葉で遮ろうとする。その声に従い、少女は足を止めた。そして、自分を睨みつけてくる村人たちの方を見る。

 敵意にあふれた目だ。かつて自分たちの村で見た友好的な色は、どこにもない。自分たちの平穏を乱そうとするものは、何者であっても許さないという目だ。

 

⁅それ以上近づいたら、命を失うことになるぞ! 分かったらさっさと消えるがよい!⁆

 

 老人の警告とともに、こちらを見ていた村人たちが弓を構えて、徹底的に村に入ることを拒否する態度を取る。

 少女はそれを見ながらも、自身の命の危機を感じながらも、訴えずにはいられなかった。

 

⁅私は旅の者です。自分の村をなくし、こうして各地を彷徨う流浪の身です。

どうか一晩だけでも、この村にいさせていただけないでしょうか⁆

 

 その声は、必死ながらも、どこか諦めが混じっているように聞こえた。無駄だと知りながらも、切に願わずにはいられない、そんな声色だった。

 少女の嘆願は、老人は鼻で笑い、冷酷に突き放した。

 

⁅下らん。所詮この村に入り込み、後で仲間を連れこんですべてを奪ってしまうための方便だろう。

盗人にくれてやる場など何もない! とっとと消え去れ!⁆

 

 村長の声に追従するように、消えろ、いなくなれと声をあげる村人たち。

 その声を聞いて、最初から何も期待していなかったかもしれない少女は、ふらふらと森の中へと消えていった。

 

 後ろから、自分を受け入れてくれなかった村人たちの、安堵する声、まだ警戒している様子、そしてこちらを嘲笑う声が聞こえている。

 そのことが、少女――メリュデにとって、なによりもつらかった。

 

 

 

 

 

 

 メリュデは、家族と居場所を亡くしてから、こうやって他の村を探し、訪れ、そして拒まれることを繰り返す旅をしてきた。

 

 理由は、一人では生きることができないから――ではない。彼女の家族が教えてきたことはメリュデの中で生きており、それさえあれば、十分一人でも生きていくことができるからだ。

 だが、一人では生き物として生きていくことはできても、人としてあることはできない。今まで温かい人間関係の中にあった少女だからこそ人とのつながりを求め、それが失われた今となっては、失くしたものに代わり温かさを与えてくれるものを求めずにはいられなかったのだ。

 

 少女は、自分を仲間として受け入れてくれるコミュニティを渇望して歩き続けていた。

 しかし、バラルの呪詛により相互理解が損なわれたばかりの現在、別の人間――それも別の場所で生まれ育った、何も知らない人間のいう事を信じる村が存在するわけがなく、彼女はどこにも属すことができず、一人ぼっちのまま生きてきた。

 

 最初は、どうしてそんなにも拒否されるのかが分からず、自分の身に危険が迫ろうとも食い下がって受け入れてもらおうとした。しかし、食い下がった結果、矢を射られ、武器を片手に追いかけられ、殺されそうにもなった。

 人々から負の感情を向けられ、その身に危険が及ぶ経験を積んでいくうちに、彼女はだんだんと理解していった。人間とは、自分が知るような優しい人だけではなく、傷つけることをよしとするような人間もいるという事に。

 

 あの日から大きな影を落とした彼女の心は、少しずつ不信感という闇をも広げていっていた。

 

 

 

 

 

 

 一方、メリュデを追い返した村の中で、一人の少女が心配そうな表情を浮かべていた。

 

「あの人、とても悲しそうな表情をしていた気がする。大丈夫かな……」

 

 外からやってきた人間に対して排他的になる村にいる彼女は、心優しい少女であった。それこそ、世界がこんな状況にありながらも、見ず知らずの他人に不信感を抱くのではなく、思いやることができるほど。

 最初に彼女を見た時、助けてあげたいと思った。しかし、警戒する村の人たちに中に押しこまれ、結局顔を合わせることもできなかったのだ。

 

「……やっぱり、会いに行こう。会ってどうするかは分からないけど、まずは話してみよう」

 

 村の少女は、メリュデがいなくなったことで開いた門から、外の森へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 メリュデは、森の中で赤い木の実を取って食べていた。昔は取ることができなかったであろう高いところにある木の実だが、木登りができるようになってからは、よくこの木の実を食べるようになった。

 

 メリュデは、もう人肌恋しさに旅をすることをやめようかと考え始めていた。

 どこに行っても、自分を拒絶し、時には笑いものにしてくる()()人間ばかり。もう他の人間とは関わらないようにして生きていくのが、自分にとって一番いいんじゃないかとも思っていた。

 

 メリュデは、赤い木の実を取るために、もう一度木に登る。そして木の実を手にし、口にしようとした。

 

 

 

⁅あの……⁆

 

 

 

 だが、急にかけられた声に驚き、バランスを崩し、木の枝から落ちてしまう。地べたに、木の実と少女が落ちた。声をかけた側は、自分が声をかけたことで起きた惨事に驚きながらも、メリュデを心配して駆け寄ってきた。

 

⁅いたたた……⁆

 

⁅す、すみません! 大丈夫ですか!?⁆

 

⁅う。うん。大丈夫、大丈夫⁆

 

 イタタタ、と衝撃を受けた臀部をさすりながら立ち上がるメリュデ。そこでようやく彼女は、自分に声をかけてきた人間の存在に気づいた。

 

⁅えーと、あなたは?⁆

 

⁅あ、はい。あの、さっきあなたにひどいことをしてしまった村の……⁆

 

⁅………そっか⁆

 

 メリュデの中にあった、友好的な関係を望む期待が、無機質な色へと変わっていった。

 メリュデにとって、自分に対して拒絶的な態度を取ってきた村の人間は、いい感情を抱けるものでもなかった。

 そのまま木の実を持って、その場を立ち去ろうとするメリュデ。それを呼び止めるために、少女は声をかける。

 

⁅ま、待ってください!⁆

 

⁅え? ここにいても迷惑だから、声をかけてきたんじゃないの?⁆

 

⁅違うんです! ただ、私はお話を聞かせてほしいと思って……⁆

 

 メリュデは、思っていたのとは違う態度に、少し目を見開いた。てっきり村だけではなく周辺の森にいられても嫌だから、追い出しに来たのかと思っていたのだ。

 《悪い人間》のはずなのにどうして、と思いながら、メリュデは自分のことを話していく。

 

 

 

 自分の話を終えた時、ふとずっと話を聞いていた少女の方を見ると、なんと彼女は涙を流していた。

 それに驚いたメリュデは、思わず少女に問いかける。

 

⁅どうして、泣いているの?⁆

 

⁅だって、家族をなくしたのだって辛いはずなのに、誰からも受け入れてもらえないなんて……。

私がもし同じ目にあったらと考えると、涙があふれて止まらないんです……⁆

 

 そう答えながらも、まだ涙を流す少女。その様子を見て、メリュデはあることに気づいた。

 自分が、《悪い人間》だと思っていた人々は、自分の家族と同じく、優しい一面も持ち合わせているという事に。優しいだけの人間、悪いだけの人間が存在するわけではなく、人は善と悪の間で揺れていて、接する人によっても変化しうるという事を知った。

 

 そのことに気づいたメリュデは、目の前の優しく接してくれた少女に、なにか贈り物をしてあげたいと思った。だから彼女は、自分の家族がほめてくれた自分の声を、久しぶりに出した。

 

 どこか悲しげに、しかしそれでも美しく響き渡る旋律。その旋律を聴いた少女の涙は止まり、泣くのも忘れて、その声に聞き入る。

 やがてメリュデが歌を終えると、少女が興奮した様子で話しかけてきた。

 

⁅今の声って、なんですか!? うまく言えませんけど、心の中にあふれるものが浮かんできた、すごく良かったです!⁆

 

⁅えーと、私の村では、よくこうやって声を出していたんだ。こうすると家族も《大いなる皆様方》も喜んで、すごく嬉しかったんだ⁆

 

⁅すごいです! よければ私にも、教えてくれませんか!?⁆

 

⁅えっ!?⁆

 

 まさか教えを請われるとは思っていなかったメリュデは、驚いて少女の方を見る。少女の瞳はキラキラと期待の色に輝いていて、正直、すごく断りづらかった。

 自分の特技を褒められて嬉しかったこともあって、結局メリュデは少女に、声による旋律の奏で方を教えたのだった。

 

 

 

⁅もう、行ってしまうのですか……⁆

 

⁅うん。流石にこれ以上ここにいるわけにもいかないし。やっぱり、ともに生きてくれる人たちを見つけたいんだ⁆

 

 短い間とはいえ、メリュデとの別れに悲しそうな顔をする少女。そんな少女に、あるいは自分に言い聞かせるように言葉を紡ぐメリュデ。

 そして彼女に背を向け、メリュデは歩き出した。少女は、メリュデの背中に向かって、声を張り上げる。

 

⁅あなたからもらったもの、大事にします! これを奏でるたびに、あなたのことを思い出します!

だから、あなたも私のことを覚えていてくれますか!?⁆

 

 少女の声に対して、振り向いて笑顔を見せることで応えるメリュデ。それを見た少女もまた、笑顔で彼女を見送った。

 

 

 

 

 

 

 人々は、冷たいだけではなく、優しさも持っていることを知った少女は、自分を受け入れてくれる場所を探し続けることを決断した。

 

 無論、彼女に優しい態度を取ってくれた村は数少ないし、受け入れたとしても、短い間で終わるところだけだった。

 それでも彼女は、自分に優しくしてくれた人たちに対して、自分の特技で恩返しをした。彼女の旋律は、人々の心に響き渡り、代えがたき美しいものとして残り続けた。

 

 彼女の声を聴いた人たちは、やがてそれを真似するかのように自分の声で音楽を奏でるようになり、それを聴いて感銘を受けた人たちがまた声を奏で……というように、彼女の旋律は広がっていった。

 やがて、その声で奏でられる音楽は独自のエネルギーを生み出すことを知ったカストディアンの巫女が、その旋律を「歌」と名付け、自身の計画に役立つものとして、真理を探求する錬金術などとともに世界へ広げていった。

 

 これが、「歌」が世界へと広がっていった経緯。そして、少女が「歌の始祖」であることの所以である。

 

 

 

 




 ガバガバな設定に、独自設定も入ってましたっけ(すっとぼけ)
 今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。次回もよろしくお願い申し上げます。

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