その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 書きあがりました。戦闘描写は、残念ながらありません。申し訳ありません。

 次回はアダムとの決戦にするか、それともメリュデの話にするか迷っています。アダムとの決戦は、原作そのままになってしまいそうになるから、メリュデの話を書こうかなと現時点では思っています。

 それでは、どうぞ。

2019/07/20 読者様のご指摘に従い、余計な文を削除しました。


妄執の終焉・災厄の覚醒

 立花響、および少女Vに神の力が宿ってから、48時間が超過した。

 その間に起こったことは、彼女たちの身に危険を及ぼしかねないことばかりであった。

 

 神の力が、創造したパヴァリア光明結社の制御からも離れた。このことに戦慄した各国政府は、新生した超常的な脅威に対し、国連にて緊急の安全保障理事会を開催するに至った。

 神を宿した少女たちがいる日本に対して、武力介入が検討されていた。しかも、「神」の圧倒的な脅威を目にしたがために、バルベルデの規模を凌駕するレベルでの武力介入が、である。まもなく、狭義は最終段階に入り、決議がなされようとしていた。

 暗黙の了解とされていたとはいえ、少女Vが各国の保有期間から聖遺物を強奪していたことも、この件を後押ししていたため、日本にとって状況はかなり悪いものとなっていた。特に、神の一撃にて人工衛星を撃墜された米国は、怒涛の如く武力介入を推し進めようとしていた。

 

 武力介入の際は、バルベルデの時と同様、異端技術への対抗部隊としてS.O.N.G.が先陣を切らなければならなくなることになる。さらに、あまりにも強大な神の力に対して、使ったら最後、辺り一面が消し飛ぶばかりか人体や土壌に至るまで汚染されてしまう反応兵器まで投入されることが検討されていた。

 現在の人類最大の負の遺産を使わせる。そんなことを許すつもりはなく、S.O.N.G.は武力介入が決定される前に事態を解決するために行動を開始する。そのために、立花響の親友である小日向未来に協力を頼みこみ、共闘することを提案してきたサンジェルマンの申し入れを受け入れた。

 

 「神の力」と称されるエネルギーは、依り代となるものに固着することで、兵器もしくは武器として真価を発揮する。その性質をシンフォギアと似たものと解釈したことによって、敵合計数を引き下げる「Anti_LiNKER」を用いて神の力を少女たちから引きはがす作戦が立てられた。

 ()()()()()()()、まず、サンジェルマンより提供してもらったラピス・フィロソフィカスの情報をもとに汚染除去したギアを、装者たちに身に纏ってもらう。そしてサンジェルマンとともに、神の力を宿したヒビキと少女Vの行動を監視、もし攻撃性が認められた場合には、作戦終了まで抑えてもらう。

 次に、数台の特殊車両に乗せたAnti_LiNKERを大量にヒビキの中に注入。敵合計数を下げることで、神の力が彼女たちよりはがしやすくする状況を作り、うまくいったらここで神の力を分離させる。

 小日向未来は、響に対してに限るが、この作戦の切り札として待機してもらうことになる。

 

 

 

「少女Vに関しては、不安要素が多少残りますが……」

 

「なに? 彼女も立花と同じように、神の力に取り込まれたのではないか?」

 

「それが、彼女から検知されるエネルギーは、神の力ともシンフォギアとも一致しないんです。

 アウフヴァッヘン波形に似ているようで、それよりもずっと複雑な構造をしています。シンフォギアや神の力を機械としたならば、まるで生命のようです。

 このエネルギーにAnti_LiNKERが有効かどうかは、かなり不安定な確率になってしまいます……」

 

「だが、やるしかあるまい。それが俺達のできることならな」

 

 

 

 しかし、「守るべきは人ではなく国」を信条とする風鳴訃堂は、S.O.N.G.に先んじて国を脅かす脅威を排除しようとする。

 護国災害派遣法。ノイズ以外の聖遺物や異端技術に起因する災害に対しても、自衛隊を動かす事を可能とし、場合によっては議論の余地なく対象を殺処分司令すら下すことのできる法律。

 そのかねてより強行してきた新法案を響と少女Vに適用し、彼女たちを第二種特異災害と認定し、排除することで国連による反応兵器投下を未然に阻止しようとしているのだ。

 

 弦十郎が救助手段を講じていることを伝えても一蹴され、訃堂の手の者により自衛隊の攻撃部隊がヒビキと少女Vの前に展開され、2時間後に攻撃が開始された。

 しかし、戦車の砲弾に対して蛹に亀裂が入ったことで一見有効かに見えた攻撃は、破壊神ヒビキの目覚めを速める要因にしかならなかった。

 

 蛹から飛び出した神の幼体は、まるで暴走状態の時のような唸り声を発しながら、周囲を口からはいた熱線で焼き尽くしていく。

 その熱線があはや戦車をも中の命も含めて焼いてしまうかと思った時、反動汚染が除去されたギアを纏ったマリアが、バリアで自衛隊の人々の命をなんとか守った。

 

 我々は日本政府の指揮下にあると退く意思を見せない自衛隊に対し、サンジェルマンは戦車の攻撃を封じることで強引に撤退させた。

 力を貸してくれるのかと問う防人に対し、これは自分の戦いだと返す錬金術師。今、装者と錬金術師たちはそれぞれの目的を携えて戦いに挑み、手をつなぐことを信条とした少女を助けるための「バースデイパーティ作戦」が始まった。

 

 各々の全力を尽くして、ヒビキの動きを止める装者たち。そのスキをついて、Anti_LiNKERを注入するが、神の防御機構にて、その理を逆転させられて、逆に適合係数を上昇させる結果になってしまう。

 しかし、それもまた作戦に織り込み済みだった。適合係数が類を見ないほど高まったことによって、外部から呼びかけられた未来の声が、神の力を飛び越えて響の心へと伝わる。

 そして器となっている響が自意識を取り戻したことによって、神を望まない少女から神の力が分離していく。

 

 一方、国連の協議においても、状況は好転していた。

 これまでのS.O.N.G.の功績、柴田事務次官のそばのようなコシの強い交渉、そして立花響の救出に成功した実績のおかげで、日本への武力介入を防ぐことができたのだ。

 これでようやく、この件も一安心というところになるはずだった。

 

 ところが、米国が独自の判断で、自国が保有していた反応兵器を太平洋上の原子力潜水艦から発射してしまった。

 神秘に満ちた時代より人類を解放し、新世界秩序構築のためという身勝手な理由で、日本の関東圏は焦土化と汚染の脅威にさらされようとした、まさにその時だった。

 

 

 

「私はこの瞬間のために、生きながらえてきたのかもしれないな」

 

 

 

 そう言って、自身の命をも引き換えにして、ラピス・フィロソフィカスの浄化を以て、反応兵器による破壊と汚染、それらの不浄を祓おうとする覚悟を、サンジェルマンは決めた。

 一人でできるかという不安を抱えたまま、「だとしても」こんな状況を見逃すことなどできない彼女は、自身の命を燃やし尽くす「死灯」を歌い始める。そんな彼女の隣に現れたのは……

 

「一人でだなんて」

 

「寂しいことを言ってくれるわけだ」

 

 既に死んだものと思っていたカリオストロとプレラーティだった。

 彼女たちもまた、サンジェルマンとともに反応兵器による被害を食い止めるために現れ、自身の命をエネルギーへと変換する歌を歌い始める。

 

 実は、二人は死んだふりをしていただけだった。

 自身の勘で、アダムが本当に人類のために神の力を使うつもりなのかを疑ったカリオストロは、装者たちとの戦いの中で死亡したかのように見せかけ、潜伏中に危険にさらされたプレラーティをも救ったのだ。

 救われたプレラーティは、局長を打倒するために、黄金錬成への対抗手段となる新たなラピス・フィロソフィカスを作り出していた。偶然にも、それは反応兵器を浄化するのにうってつけの武器であった。

 

 プレラーティから渡された銃弾(それ)を自身のスペルキャスターに装填し、反応兵器を積んだミサイルへとサンジェルマンは撃ち込んだ。

 着弾と同時に、起爆する反応兵器。しかし、その破壊と汚染のエネルギーは、ラピス・フィロソフィカスの輝きにより抑え込まれた。

 

『現時点で最高純度の輝き、つまりは私の最高傑作なわけだ!』

 

『呪詛の解除に始まったラピスの研究・開発が、やっと誰かのために……』

 

『本音言うと局長にブチ込みたい未練はあるけどね。

 でも驚いた、いつの間にあの子達と手を取り合ったの?』

 

「……取り合ってなどいないわ」

 

 それでも、現代の先端技術である反応兵器を抑えきるには、足りない。浄化のヴェールに包まれながらも、内部から少しずつエネルギーを膨張させていく。

 そのことを理解している錬金術師たちは、歌を歌い続け、自身の命をエネルギーへと変換し続けていく。

 

『完全なる、命の焼却も!』

 

『ラピスに通じる輝きなわけだ!』

 

 そして三人は、ラピス・フィロソフィカスもろとも自身の完全な命から抽出したエネルギーを、反応兵器を爆発を抑え込んでいるまさにその場に撃ち込んだ。

 すべては、打ち消すのに足りない不足分を、自身の命から補うために。

 

『あの子達と手を取り合ってなどいない……取り合えるものか。

 死を灯すことでしか明日を描けなかった、私にはぁーー!!

 

 三人の命のエネルギーによって反応兵器は完全に打ち消し去られ、後には残った生命エネルギーの粒子が光り輝くだけであった。

 その美しき光景の中で、三人は命を焼却しきった代償で、消え去ろうとしていた。

 

「付き合わせてしまったわね」

 

「いいものが見られたから、気にしていない訳だ」

 

「いいもの?」

 

「サンジェルマン、笑ってるわよ」

 

「ああ、死にたくないと思ったの、いつ以来だろう……」

 

(ねえ、お母さん……)

 

 そして三人は、その顔に笑みを携えて、生命エネルギーの残り香として消えていった。サンジェルマンの手からスペルキャスターが落ち、高所から落下した勢いで地面に衝突して砕け散る。

 

 敵であった錬金術師たちの手により、命と守るべき場所を救ってもらった装者たち。

 しかし、状況は未だに予断を許さない。神の力が、新たな寄りどころを見つけていたのだ。

 

 

 

「しなければねえ、君たちに感謝を」

 

 

 

 そう言って現れたのは、パヴァリア光明結社の統制局長、アダム・ヴァイスハウプト。

 彼はずっとこの空間の裏側に隠れていて、神の力を奪う好機を探っていたのだ。そして、神の力が響から分離した際に、反応兵器に意識を奪われていた面々のスキを突き、自身の左腕に神の力を付与させたのだ。

 

 第三のディバインウェポンとして完成していく、アダムの左腕。それを阻止しようとするが、破壊神ヒビキと戦っていた装者たちは、アダムの錬金術により動きを封じられてしまう。

 だが、神の力に囚われていたために一人無事だった響はアダムの左腕を狙って跳び上がり、それを妨害しようとアダムは黄金錬成を繰り出そうとする。しかし、下半身を失ったティキにとびかかられたことでバランスを崩し、神殺しを止められなくなってしまう。

 

「やめろ! 都合のいい神殺しなものか! その力は!」

 

 力づくでどうにかできない事態でアダムが取った選択は、言葉であった。藁にもすがるような思いで、響のガングニールが持つ神殺しのデメリットを語ることで、なんとか自身が求める力の消失を防ごうとする。

 

「二千年の想いが呪いと積層した哲学兵装!!

 使えば背負う! 呪いをその身にぃー!!」

 

 

「私は歌で、ぶん殴る!!」

 

 

 だが、アダムの言葉を聞くはずがなく、響は自身の歌で、今度こそ神を殺して見せたのだ。

 

 

 

 

 

 

 ――ようやく、体が出来上がった。

 

 

 

 

 

 

「失われていく……神の力が……僕が完全な支配者であることを証明するための力が……」

 

 響の拳によって砕け散った神の力に手を伸ばし続けながら、アダムは茫然と呟く。

 負けられない理由があったのは、アダムとて同じ。ただ、同じ組織にいる者すら犠牲を強いることを厭わない性格のため、彼に同情できるものは少ないだろう。現に彼は、自分の足にいつまでもまとわりつくティキを、彼女が自分への恋に盲目になるよう設計させたにもかかわらず、非常にも足で踏みつけて完全に破壊するほどの人でなしだった。

 

「……こうなったら、代用するしかない。『リュウ』の力でね」

 

 最後の最後まで自分の邪魔をしてくれたシンフォギア装者たちを睨みつけながら、アダムはノイズの少女の方に宿っている力を利用することに決めた。

 本当に欲しかったものは、無論カストディアンたちも持つ神の力だが、それは先ほど忌々しい神殺しに滅ぼされてしまった。ならば、力だけならば彼らにも匹敵し、カストディアン――アヌンナキの何人かを殺したことで「神殺し」の概念すら宿した「リュウ」の力を選ぶほかない。

 技術的な面で人類を完全に支配するうえでは不足に過ぎるが、近い将来、脅威となるであろうアヌンナキへの対抗策としては申し分ない。

 

 あの少女が入っているタマゴらしき物体を持ち帰ったのち、結社の技術者たちに調べさせることに決めたアダムは、タマゴの方に目を向ける。すると、タマゴは中が丸見えなほどに大きな割れ目があり、その中身がないことを雄弁に物語っていた。

 

 ――まさか、既に「リュウ」に力が馴染んだのか!? このゴタゴタの間に!

 

 それを見たアダムは、焦った。どうにかして早く追いかけなければ、アヌンナキへの対抗策が無くなってしまうかもしれないと思ったからだ。

 

「……いや。任せればいい、リリスに。それは彼女の仕事だからね、元々は。

 癇に障るが、彼女は僕よりも優秀だからね、錬金術師としてのセンスだけは」

 

 アダムは殺意を視線に乗せて、シンフォギア装者の方を見る。自分が追い求めていた神の力を壊された憤怒を、まずは晴らそうと考えたのだ。

 神の力も「リュウ」の少女も、リリスに任せてしまえばいいとアダムは思っている。それが、目の前で神の力が失われたショックに続く現実逃避かもしれないと考えもせずに。

 

 そして、パヴァリア光明結社の首領と、シンフォギア装者の最後の戦いが始まったのであった。

 

 

 

 

 

 

「――こんな、ことって……」

 

 一方、そのリリスは、思わず口に出してしまうほどの衝撃を受けた。

 

 ノイズの少女についてのあらゆるデータを収集した結果、彼女の仮定はほぼ確定していることが分かった。分かってしまったのだ。

 それは、決してあり得てはいけない結論。もしこの推論が当たっているなら、もはや人類がノイズの少女に勝利する確率は、限りなくゼロに近づくと言っていいだろう。

 

「『リュウ』の力を集めていたのは、この能力を知っていたから……? いや、もしそうなら、もっと早くに有効的に利用していたはず。しかし知らなかったにしては余りにも偶然が重なりすぎています……」

 

 彼女は蒼い顔をして、ふらふらと立ち上がったかと思うと、膝をついて倒れる。

 

「……このままじゃ、人類が滅びます」

 

 なんとかしなければ。そう思ったリリスは、急ぎアダムに連絡を取ろうとする。

 

『アダム! 聞こえますか!? アダム! 大変なことが分かりました!』

 

 だが、応答がない。なんらかの事情で返事ができないのか。それとも返事をする気がないのか。

 

「……ダメですか……。もしや、シンフォギアに討たれた? 可能性は低いですが、ありえますね。だとしたら、私が打つべき手は……」

 

 アダムが打倒される。結社の一員としては信じがたいようなことでも、彼女は計算に入れる。

 そして、もしそのようなことが本当に起こった場合に備えて、彼女はまずノイズの少女に関するデータを整理し始めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[レイラインのエネルギー量の推移]

 

 

 

 

 

 




 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 
 感想で指摘されてから、やっぱり原作と同じ部分は書かなかった方がいいんじゃないかと思うようになりました。違反に抵触するかもしれませんしね。
 違反に抵触するレベルだったら、教えてほしいです。非公開にしてカットする予定ですので。

2019/07/06
 読者様からのご指摘がありましたので、全部とはいきませんが、神との戦闘の描写を大幅にカットしました。必要ならば、サンジェルマン達が反応兵器を防ぐ場面もカットしようかと思っています。
 また、修正前の文も、こちらの方で保存しておりますので、「前の文章の方がいい」という方がおられましたら、戻すことも考えさせていただきたいも思います。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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