その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 いつも読んでくださっている皆様、大変ありがとうございます。
 今回の話にて、災厄の復活編(AXZ)は最終回とさせていただきたいと思います。

 最終回にしては短いかとお思いになるかもしれませんが、どうかお許しください。
 もしかしたら後で加筆するかもしれません。

 それでは、どうぞ。


居場所を取り戻した少女。そして――

 ノイズ――いや、ノイズも未だに操れることには違いないのだが、人から「リュウ」へと段階的に進化しているから、リュウの少女と呼んだ方がいいだろう。

 リュウの少女が覚醒してから、その場所を見つけるのにかかった時間は3日だった。一体この星のどこにその場所があるのか詳しい地理を知らなかったうえに、彼女がよく知っている光景とはまるで別の光景になっていたのが理由だ。

 

 だが、ようやく見つけることができた。かすかに残るばかりの、同胞(リュウ)のエネルギーが教えてくれたのだ。

 

 そこには、もはや砂と岩ばかりが残るだけだった。

 かつて、緑と動物にあふれ、水がわき出し、自然が豊かだった土地は、もはや数千年前も前の話。ルル・アメルによって焼き尽くされ、土壌からエネルギーを奪われてしまってから長い時間が過ぎ去ったことで、手の施しようもない状態になってしまった。

 

 もう二度と、あの暖かい場所を取り戻すことはできない。そのことを痛感した少女は、悲しみを顔に浮かべたまま、異空間から聖遺物を取り出していく。

 この土地から奪いさられたエネルギー、「リュウ」の力を内部にため込んでいる。それらを。

 

 そして一つずつ、丁寧に破壊していく。リュウとなり、人間を完全に超越した力を手に入れた彼女は、異端技術によって作られた聖遺物をいとも容易く粉々にして見せた。

 バラバラになった聖遺物から動力源・保管状態にされていたエネルギーが漏れ出し、地面へと還っていく。彼女は、奪われたものを取り戻し、元の場所へと帰しているだけなのだ。

 

 やがて最後の一つを壊し、そこに囚われていた彼女の仲間も、生まれ故郷へと戻っていき、そして地面に溶けて消えていった。

 すべての仲間を取り戻し、ここに帰っていく様子を最後まで見届けても、少女に喜びはなく、虚ろな目で地面を見つめたまま動かない状態がしばらくのあいだ続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 分かってはいた。こうしたところで、何も変わらないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当は、仲間を元の場所に帰したかったからこんなことをしたのではない。彼女は、ただ居場所を取り戻したかっただけなのだ。

 

 一縷の望みを、藁をもすがるつもりで、仲間を集めていた。もしかしたら、奇跡が起こって、もう一度あの場所でみんなと過ごせるかもしれないと事実から目をそらして。

 でも、ダメだった。結局、エネルギーを取り戻して地面にしみこませたところで、死んだ生き物たちは蘇らないのだ。

 

 あの時、人を殺すことにしか目を向けていなかった時なら、まだチャンスはあったかもしれない。そう思うと、後悔があふれてきて止まらない。謝りたい気持ちが心の壁を壊しそうになる。

 

 ――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

 

 虚無の表情を浮かべながら、少女の目から涙があふれてくる。あのとき死んだ心が表情を支配し、涙だけが、今の彼女の感情を物語っていた。

 

 やがて彼女は、口を開き、そこから旋律を響かせ始める。

 今は亡き仲間たちに捧げる、言葉なくして歌によって作る安息(レクイエム・ヴォカリーズ)を。

 

 

 

 

 

 

 シンフォギア装者たちが、パヴァリア光明結社の統制局長にして人類のプロトタイプであるアダム・ヴァイスハウプトを倒し、3日が経過した。

 S.O.N.G.本部では今回の事件に関する情報をまとめ、調査部の方では首領を失ったパヴァリア光明結社の構成員の捕縛をおこなっていた。

 

『そっちはどうなっている?』

 

「各国の情報機関と連携し、パヴァリア光明結社の末端、その残党の摘発は順調に行われています」

 

 ロンドンにある結社の拠点の一つ。そこに緒川の姿があった。

 拠点にいた錬金術師たちを捕縛し、経過報告を本部にいる弦十郎に行なっていた。

 

『だが、結社という枷が無くなった分、地下に潜伏し、これまで以上に実態がつかめなくなる恐れがある』

 

「引き続き、捜査を続けます」

 

『ああ、頼んだぞ』

 

 通信が切られ、緒川は今までに得られた情報をまとめなおしてみた。

 

 一つ、結社内でアダムの真意を知る人間は今までのところいなかったこと。

 一つ、アダムの結社内での求心力はそれほどでもなかったこと。

 一つ、アルカ・ノイズやファウストローブを始めとした研究開発には、リリス・ウイッツシュナイダーという錬金術師が大きく関わっているということ。

 一つ、リリスの方が、錬金術師たちの尊敬を集めていたということ。

 一つ、そのリリスが、少し前から行方知らずになっているということ。

 

 異常の情報から、緒川は、リリス・ウイッツシュナイダーの捕縛が最も重要だと結論付けた。 結社内でも、錬金術師としてのセンスの高さから憧れを抱くものも多いという彼女を確保できれば、芋づる式に他の末端構成員たちも捕まえられる可能性が高いと踏んだからだ。

 無論、生半可な相手だとはみじんも思ってはいない。アルカ・ノイズやファウストローブの研究に携わっているというのなら、装者たちの手を借りる必要も出てくるだろう。

 だが、せめて本人に関する重要な情報は手に入れておきたいと考え、行動を開始しようとした。

 

 行動を開始しようとしたとき、暗闇の中から何者かの気配を感じとった。緒川が銃口をそちらの方に向け、それに気が付いた黒服たちが遅れて銃を構える。

 

「さすがは、異端技術への対策部として作られたS.O.N.G.の調査部……いえ、元特異災害対策機動部二課のエージェントとでも言いましょうか。

 気配だけで気づかれるとは思ってもみませんでしたよ」

 

 銃を向ける先から女の声が、そしてこちらに近づいてくる足音が聞こえてくる。

 先走った黒服の一人が発砲するが、銃弾は彼女の左手から構築された錬成陣により弾き落とされた。

 一方、緒川の方も、声の節々から感じられる余裕から相手も只者ではないことを察し、問いかける。

 

「あなたは、一体何者ですか?」

 

「これはご紹介が遅れました。私はパヴァリア光明結社の開発局長、リリス・ウイッツシュナイダーと申します。

 しがないモノづくりができるだけの女、と覚えていただきたいと思っております」

 

「! あなたが……」

 

 目的の人物との突然の邂逅に、緒川の警戒心は高まる。だが、相手が情報通りの人物なら、この場には自分に有利な状況を完璧に整えたうえで現れたはず。下手な行動を取ることなど、できることはずもなかった。

 部下である黒服に銃を下ろさせ、自身も銃をしまい、話を聞く姿勢を見せる。わざわざ奇襲もせずに姿を現したということは、相手に話があるからだと察したからだ。

 

「ふむ、こちらに攻撃の意思がないことを把握し、部下にも余計な手出しはさせないようにしましたか。この状況で血気に逸らないのは、優秀であることの証拠ですね」

 

「こちらとしても、相手が別の選択肢を用意しているにもかかわらず、無駄だと分かっている行動で血を流すのは、できるだけ避けたいですからね」

 

「なるほど、道理ですね。さて、さっそく本題についてですが……」

 

「た、助けてくれ! 同志リリスよ! 我らをこいつらから解ほ――」

 

 突然のリリスの登場に呆けていたが、我を取り戻した錬金術師が、捕縛されている状況から救ってほしいと声をあげてきた。だが、彼らの頭上に錬成陣が現れたかと思うと、言葉は途切れ、がっくりと倒れて動かなくなった。

 それを目撃した緒川は、銃こそ抜かないまでも、警戒心を最大まで高める。それこそ、彼女の一挙一動を見逃さないほどに。

 

「お気になさらず、気絶してもらっただけです。

 魂をも錬成の対象とする錬金術ならば、気を失ってもらうぐらい造作もないことです」

 

「……ノーモーションで、ですか?」

 

「開発局出身ですから、これぐらいはお手のものです」

 

 何のことでもないように、リリスは語る。しかし実際、彼女と同じことができる錬金術師が、結社内でどれだけいるというのか。

 緒川は、自身もそうだが、同僚の方がこの状況に緊張していることを肌で感じていた。彼らが先走ったことをしないように、本題を話してもらうことにした。

 

「あなたは『本題』と言っていましたが、この場に現れた目的は何ですか?」

 

「S.O.N.G.への()()ですね」

 

 その言葉に、黒服たちは困惑をあらわにする。敵対しているパヴァリア光明結社の錬金術師が、なぜ唐突に《協力》などと言い出すのか分からなかったからだ。

 しかし、緒川はそのこと自体を疑問に思ったりせず、質問を重ねていく。

 

「協力と言いますが、一体なんのために?」

 

「かかる災厄から、人類すべてを守るために、ですね」

 

「その災厄とは? ……アヌンナキのことですか?」

 

「いえ、彼らは()()ですね。災厄というのは、一人の少女のこと。あなた方もご存じのはずですよ?」

 

「……少女V」

 

 緒川の口から、最近その存在を確認された、ノイズを生み出し、操る少女の名称が呟かれた。

 独自のプロテクターを纏い、装者6人を圧倒してみせた、まさに怪物。さらにそこから進化していることを考えると、なるほど災厄という言葉がふさわしいだろう。

 

 

 

 だが、彼女の口から語られたのは、緒川の想像を超える事態だった。

 

 

 

「まずはこれをご覧ください」

 

 リリスが錬金術で作ったモニターに移したのは、三つの折れ線グラフだった。

 何のグラフかは分からないが、グラフの横軸には日付と時刻が設定されており、時間はバラバラだが、どのグラフも途中から急激に高い値を取り続けていることが分かる。

 

「これはレイラインから観測されるエネルギー量を場所ごとに分けてデータとして示したものです。

 ご覧の通り、どの地点でも()()()()を境に、感知されるエネルギーが急激に増加しています」

 

「その、()()()()とは一体……」

 

「……少女のヴォカリーズ。そして、観測した場所は、装者との戦闘場所」

 

「なっ!?」

 

 さすがに、そのことに驚愕を隠せない緒川。まさか彼女のヴォカリーズでレイラインが活性化したとでもいうのか。だとしたら彼女は――。

 戦慄する緒川の目をまっすぐに見ながら、リリスは言葉を紡ぐ。もう、()()()()()敵味方に分かれている場合じゃないと言わんばかりに。

 

 

 

 

 

「この地球を巨大な聖遺物とするなら、彼女はまさに地球の『適合者』です。

 その歌でレイラインを活性化させ、星の生命を増幅し、やがて意のままに操ることができるようになるだろう、人類の天敵です」

 

 

 

 

 

 

 ――星が、彼女の紡ぐ旋律に応えようとしている。

 

 

 

 彼女のレクイエム・ヴォカリーズは、かつて『禁忌の地』と呼ばれた地の深く、星の血流ともいえるレイラインにまで響き渡り、その一帯の《星の命》を増やしていく。

 瞬く間に血管の中を満たしていくエネルギー。やがて内に留められなくなった高密度のエネルギーは地上へとあふれ出し、枯れた土地に浸透していく。

 

 

 

 ――その時、《奇跡》が起きる。

 

 

 

 なんと、地面にしみこんだエネルギーが、様々な物質へと転化し始めたのだ。

 水となって土地を潤し、砂を土にして土壌を満たす。まるで、シンフォギアが歌によって増幅した聖遺物のエネルギーを、ギアへと変換するかのように。

 

 やがて有機的に満たされた地面から、緑が芽吹く。生まれたばかりの自然は、ヴォカリーズにより増やされた星の命を栄養源にして、驚異的なスピードで成長していく。

 リュウの少女が目をつぶって歌っている間に、生命が全く存在しなかったはずの砂漠は、今や自然あふれる森へと変貌していた。

 

 そして、すでに緑だけでなく――

 

 

 

 

 

 リュウの少女は、歌い終わった後も、少しのあいだ目を瞑って仲間を悼んでいた。

 だが、それができたのも、ほんの少し。少し湿っぽくて暖かい何かが顔にくっついてきたのを感じて、思わず目を開けた。

 

 

 

 それは、もう既に死に絶えたはずの《仲間》の鼻であった。

 

 

 

 目の前の《仲間》の存在に、茫然となる少女。その間、《仲間》――その()が、少女を慈しむように、慰めるように、優しく少女のにおいをかいでいた。

 やがて、目の前で起きていることが現実だと、少女は思い至った。

 

⁅あ……あ……⁆

 

 言葉にならない声を発しながら、目の前にオオカミのような竜へと少女は手を伸ばす。その手は確かに竜に触れ、やがて少女を思いやるように竜はその手をなめた。

 

 《仲間》が帰ってきた。そのことを認識し、目から喜びの涙を流し、飛び切りの笑顔を浮かべて抱き着く少女。竜は、そんな少女を感謝を込めた穏やかな視線で見つめた。

 そして、そんな二人にいくつもの影が近づいていくことに少女は気づいた。

 

 それは、どれもが竜。彼女の大切な《仲間》だ。

 

 特殊な菌と硬い両腕を持つ竜。

 尻尾が刀のようで、頑強な鎧で体を覆う竜。

 鋭い尻尾と猛禽類のような頭の竜。

  特殊な体液で体の表面をコーティングしている竜。

ワイバーンのような姿をした竜のつがい。

 

 そのすべての竜たちが、リュウの少女を優しく、そして感謝を込めて見つめていた。

 少女もまた、彼らが戻ってきてくれたことが心の底から嬉しく、顔がこれ以上ないほどの喜びを表していた。

 

 喜びのあまり、少女は大声で泣き始めた。しかしこの涙は、悲しみの涙ではない。胸の内からあふれ出てくるような、喜びの結晶なのだ。

 そんな少女の様子を、周りの竜たちは穏やかな視線で見守り、さらにそこに多くの竜たちが、感謝を伝えにやってくる。

 

 少女の、言葉なき歌。歌の始祖としての力。

 その真価が、星に愛されたものだからこそなせる技が、はるか昔に滅んだはずの()()()支配者たちを、この世に呼び戻したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これが、後に人類がかつてないほどの脅威にさらされ、追いつめられることになる『リュウゲキ事変』の始まりだとは、今はまだ誰も知らない。

 真の災厄は、少女が居場所を取り戻したこの瞬間から始まったのだ。

 

 

 

 




 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

 メリュデの能力で自然が復活した件に関してですが、質量保存の法則とかは問わないでいただけると助かります……。正直、装者たちのギアが大きく展開している時点で無視することに決めているので……。
 
 竜については、お察しの方が多いのではないのでしょうか。タグにもきちんと加えておこうかと思っています。
 向こうの設定とかはあまり参考にしないでいただけると助かります。あくまでイメージとして、ぐらいでお願いいたします。

 これからの展望としましては、過去編を完結させてから小説オリジナル編に突入させていただきたいと思います。原作風に言うなら、シンフォギア4.5ですね。
 仲間は取り戻した災厄の少女ですが、これからも人類の敵として存在し続けることになるので、その点はご安心を。

 これからもよろしくお願い申し上げます。 

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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