その少女は、災厄(ノイズ)であった   作:osero11

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 9か月ぶりの更新となってしまいました……。お待ちしていた方には、大変申し訳ないことをしてしまいました……。

 これからの展開自体は既に頭に入ってはいるのですが、いざ文章にするとなると、思った以上に文字を書く必要が出てきてしまい、思う通りに行かないことが多く、空き時間を他の方の小説を読んだり体を休めたりすることに使ううちに、ここまで遅くなってしまいました。
 また、私は場面を思い浮かべたうえで文字にして書いているのですが、頭の中の絵に合う表現にこだわってしまい、しっくりくる言葉が見つからないと行き詰ってしまうことも多くありました。ボキャブラリーを身に着ける必要があるかもしれないと感じました……。

 言い訳が長くなってしまいましたが、これからの方針としましては、とりあえず表現を気にせず自由に書いてみて、後で気になったら言葉を修正していくことで執筆を早められたらと思っております。なので、文章としての質を下げることになるかもしれませんが、お読みいただく皆様にはご了承いただければと思っております(もともと質が低い文章ではありますが……)

 大変お待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。これからも不定期更新になってしますが、ご理解いただけますと幸いです。
 今回はリリスによる現状の説明回になります。 仲間を復活させ、攻撃を仕掛けてきた米国に報復をしたメリュデのこれからの目的、そしてS.O.N.G.がどう動くのか、それについて語られることになります。

 それでは、どうぞ。


聞こえ始める雑音

 ――装者たちがアメリカで救助活動を始めてから4日。

 

 一週間前に始まったカルマノイズによる大量殺戮も、リリスによる大規模なアルカ・ノイズの行使によりだいぶ終息してきた。

 そのあいだに、錬金術師リリスの強引な手法により連れてこられた響たちとは違い、正規の手段で後れを取ることになったS.O.N.Gの縁の下の力持ちたちがこの地にやってきた。現在は、装者たちとリリスは本部である潜水艦に集まり、今回の活動の報告をおこなっていた。

 

「――以上が、今までの私たちの活動報告になります」

 

「それは分かったが……勝手に装者を連れだしたことは、本来なら厳罰ものだぞ……。

 それで犠牲者の数が増えるのを未然に防ぐことができたのなら、文句ばかり言うわけにはいかないが……」 

 

 しれっとした顔で詳細な報告をしてきたリリスに対し、弦十郎は苦言を呈する。

 協力者相手とはいえ、自分たちの戦力をまるごと持っていかれるのも、その後始末を押し付けられるのも容認しきれるものではなかった。

 

「……つーか、アタシ達って、そこまで必要だったか?」

 

「確かに……。カルマノイズの相手はせずに、ほとんど被災者の救助をしていたし……」

 

「アルカ・ノイズが来るまでの時間稼ぎとして戦うことはあったデスけど、素直に喜べない仕事デスよ……」

 

 若干テンション低めに、そんなことを喋るシンフォギア装者たち。

 今回のことで戦力としてあまり役に立たなかったことが、結構心残りらしい。その分、人々の命を多く救っているわけだが、やはり元凶を直接叩きたかったというのが本心だろう。

 

「もう少し、自分たちがしてきたことに自信を持ってください。アルカ・ノイズでは敵を倒せても、逃げ遅れた人々を助けるのは専門外なのですから。

 あなたたちがいなかったら、もっと被害は増えていたと推定されますよ」

 

 リリスは、そんな装者たちを励ますかのように語りかける。実際、彼女たちの存在が無かったら亡くなっていた人も少なくないのだから、無力感を感じる必要などないのだ。

 

 リリスの言葉に、彼女が自分たち錬金術師の技術を使ってまで装者たちを先に向かわせた意図を感じ取った弦十郎は、得心がいった顔でリリスに話す。

 

「やはり、無理やりにでも装者たちを連れだしたのは、被害を最小限に抑えるためか」

 

「それだけが目的というわけではありませんが、まあそうですね。無用なことで人が死ぬのは最小限にしておきたいですし」

 

「人死にを最小限にだと!? ふざけんな!!」

 

 リリスの返しに、怒りを抱いたクリスが、この前のように彼女に突っかかる。

 つい最近まで敵対組織に所属してた錬金術師をいまだに信用していない中での、この言葉である。激情とともに詰め寄られても仕方がないだろう。

 

「パヴァリアの連中が、今までどれだけ人を死なせてきたのか知らないアタシ達だと思ってんのか!?」

 

「確かに結社は、人命などを無視して自分の理想をかなえることに盲目な連中がうようよいましたね。しかし私としては、あまり人の命が損なわれるのは好まないんですよ。

 まあ、それでも必要ならば犠牲にすることもやむなし、という考えですが」

 

「なんだと……!?」

 

 錬金術師の語りに、さらに怒りのボルテージを高めるクリス。他の装者たちからの視線も厳しいものになっていく。

 そこに待ったをかけた者がいた。

 

「クリス君、よすんだ」

 

「おっさん!? けどよ――」

 

「君の言いたいことは十分に理解できる。だが、今の彼女は我々の協力者だ。

 思想の違いからいざこざを起こし、協力関係にひびを入れることは避けたいのだ」

 

「こいつは! 場合によっては殺しもするって言ってんだぞ! むざむざ見過ごせるかよ!」

 

「その点はご心配なく。『郷に入っては郷に従え』。あなたたちS.O.N.G.のやり方に倣い、救える命はできるだけ救いますよ。

 そのために、説明する時間も短縮して連れてきたわけですから」

 

 リリスのその言葉に、何のことだという疑問が現れた顔をする少女たち。

 しかし大人たちは、ここに来るまでの間に、彼女が用いた移動手段の存在から、その理由はだいたい推測できていた。

 

「やはり、詳しい説明を省略したのは、できるだけ早く米国に渡り、救助活動を始めるようにするためだったのですね」

 

「その通りです。秒で移動できるテレポートジェムを使う以上、説明に使う時間は誤差とは言えないですからね。

 説明は後に回せば、その分助けられる命も少しは増えるというものですよ」

 

 緒川からの確認に肯定の意を示すリリスに、装者たちもリリスの意図に思い至る。

 米国に着くまで数日かかる潜水艦なら、移動中に説明する時間を取れるから関係ないが、テレポートジェムなら説明にかかる時間をそのまま人命救助の時間として使うことができるのだ。

 

「完全に信用しろというわけではありませんが、私に協力する意思があることは、少しは理解していただけましたか?」

 

「……少しでも怪しい動きをしたら、容赦するつもりはないからな」

 

「それで結構ですよ。もともと敵だった以上、許容の範囲内です」

 

 不承不承といった感じではあるが、一応の理解を示したクリスに、リリスは満足そうに頷く。

 クリスとしても、彼女の迅速な行動の結果として救われた命があるのなら、これ以上この場で敵視しても損しか生まれないということを認識したためだ。他の装者たちの警戒心も、今のやり取りでかなり和らいでいった。

 

「さて、最初の段階で説明を省いたのは、人命救助を始める時間を早めるためでもありましたが、もう一つ、目的があります」

 

「もう一つの目的、だと?」

 

 リリスの口から語られた事実に、弦十郎が疑問を抱く。一体、ほかにどんな目的があったのか、司令達でも予測を立てることができなかった。

 

「カルマノイズという脅威の排除と人命の救助。それが国連(やといぬし)からの命令です。それを先に済ませておくことで時間を作り――襲来する敵を待ち構える」

 

「なにっ!?」

 

 彼女の言葉に、その場にいるS.O.N.G.の面々が驚愕する。ここまでの被害が出ているにもかかわらず、まさかカルマノイズのほかにも新たな敵がやってくるとは思えなかったからだ。

 

「カルマノイズだけでは報復は終わらないというのか……!?」

 

「いえ。米国への報復は、相手側にとってはカルマノイズで事足りているでしょう。それとは別の目的で、彼女は海を越えてくると予測されます」

 

「別の目的……? それはいったい何なの?」

 

 マリアの問いかけに対し、リリスはふところから取り出した赤い結晶を見せて応える。

 

「詳しい説明をしたら、すぐに向かうとしましょう」

 

 

 

 

 

 

 リュウの少女は、懐かしき第二の故郷から離れ、海を越えた大陸にいた。

 

 ソロモンの杖の力は、いまだに健在だ。その身に宿った膨大なフォニックゲインが、自身のみならず、彼女の仲間も数多く連れてくることができた。

 

 彼女は仲間たちを連れて、目的の地へと向かう。すべては、リュウとなった自身の仲間のため、そしてこの星を支配しているつもりになっているルル・アメルの根絶のため――。

 

 

 

 

 

 

「まさか敵の目的が、報復した国の南の方にあるなんてな」

 

 クリスは車に揺られながら、そうつぶやいた。彼女を含めた装者たちは、テレポートジェムで移動した先のパヴァリア光明結社支部の跡地から、米国の南に位置する大陸にある目的地へと移動している最中だった。

 

「でも、本当なのかな? あの錬金術師が言っていたことは……」

 

「嘘、というには話が大きすぎるし、あの森が急に出現したことを考えると、ありえない話ではないわね」

 

 この作戦に移る前に聞かされた説明の真偽に対する疑問を口にする調に対し、マリアは自分の考えを述べる。

 その会話を聞いていた響の頭の中に、リリスの口から語られた、リュウの少女に関する説明が蘇ってくる。

 

 

 

「まずは、これを見てください」

 

 そう言ってリリスが見せたのは、前に緒川にも見せたことがあるグラフ。ある時点からエネルギー量が急上昇したことを表す、星の記録。

 

「これは一体……」

 

「これは、特定の場所で観測された、レイラインから計測されるエネルギー量を記録したものです。

 ご覧の通り、どれもある時からエネルギーが急増、さらにその状態を維持していることが分かります。すなわち、レイライン――龍脈が活性化しているということです」

 

「レイラインの、活性化……?」

 

 マリアは、その言葉から不穏な雰囲気を感じ取った。キャロルの世界分解、パヴァリア光明結社による「神の力」の抽出。いずれもレイラインを利用した物であり、世界を脅かすほどの大惨事につながりかけたからだ。

 

「問題は、測定した場所と、活性化し始めたタイミングです。

 まず、一部とはいえ、レイラインが大幅に活性化した場所についてですが……あなたたちシンフォギア装者と、少女Vが戦闘をおこなった付近一帯です」

 

『!?』

 

 リリスからもたらされた衝撃の事実に、少女たちは驚愕する。

 まさか、レイラインの活性化という異常事態に、自分たちと少女Vが関わっているとは思っていなかったからだ。

 

「そして、活性化のタイミングですが、あなた方が少女Vと戦闘をおこなっていた時間――おそらく、あの少女がヴォカリーズを使いはじめたからですね」

 

「待ってくれ! つまりそれは、あの少女のヴォカリーズが、レイラインに影響を及ぼしたとでもいうのか!?」

 

 続けてもたらされた情報に、翼はたまらず問いかける。

 確かに、とても一筋縄ではいかない相手だと思っていたし、底知れない脅威を感じてもいたが、まさかそのようなことまでしでかしていたとは想像もつかなかったのだ。

 

「結果的に見れば、そうであると言っても過言ではないでしょう。現に、『禁忌の地』付近も同じように――いえ、比較にならないほどレイラインが励起しています。

 森林の再生と竜の復活は、その恩恵によるもの。あふれんばかりに膨れ上がった星の命が、この世から滅んだはずのものを再誕させたのです」

 

「……そんなことって……」

 

 あまりにも信じられないことを聞かされた装者たちは、マリアの口から戦慄する言葉が零れ落ちたっきり、静かになってしまった。

 

 彼女たちシンフォギア装者たちは、歌の力をよく知っているはずだった。いくつもの逆境を歌で乗り越えてきた、彼女たちだからこそ。

 しかし、これはもう次元が違う。不毛の地を緑豊かな楽園に作りかえ、あまつさえ絶滅したはずの生き物たちに生命を再び与える。まさに神の所業であった。

 

 言葉を失った装者たちを、リリスはじっと見つめる。少し前の自分もこんなふうに衝撃を受けていたのだろうと思いながら。

 少女が回収している聖遺物に、竜の力が閉じ込められていたこと。そして、彼女の歌が、レイラインのエネルギーを増幅する効果を持つものであること。この二つに気づいた時から、リリスにはこうなるシナリオが見えていたのだ。

 

 意図的にか、はたまた偶然か。竜のエネルギーを回収していった少女は、それを生まれ故郷に還し、計り知れないほどの力でもってよみがえらせた。だが、これだけで終わるとは、リリスは考えていなかった。

 

 ――まだ、眠り続けているリュウはいる。

 

「彼女が集めていた聖遺物は、竜から抽出した生命エネルギーをもとに作られた物。そのエネルギーを解放し、星の命と混じり合わせることで、まるで聖遺物のエネルギーをプロテクターとして固着させるがごとく器を創造しました。

 主として聖遺物の回収をおこなっていたことから、少女Vの目的は、最初から竜の復活であったと仮定できます。

 であるならば――彼女の次の目的は、()()()()()()()()()()()()()()と予測できます」

 

 リリスの言葉に、装者たちはさらに驚愕し、そのことについては聞かされていなかった弦十郎たちも戦慄を覚えた。

 

「竜はまだ存在していたのか!?」

 

「ええ。そもそも『禁忌の地』とは、かつて竜が住まう土地としてルル・アメルに恐れられ、入ることを禁じられた場所のこと。

 竜は地球上の様々な場所に生息し、それらすべてが『禁忌の地』として扱われていました。今回の復活は、そのうちの一か所のことでしかないのです」

 

「……もし仮に、その『禁忌の地』がすべて再生された場合、人類は……」

 

「1か月もしないうちに、滅びることになるでしょうね。圧倒的な力を持つリュウによって」

 

 リリスの口から淡々と語られた予測は、その場にいる面々からしたら到底受け入れられるものではなかったが、それを信じられないという者はいなかった。絶望的な展望をあまりにも冷静に口にするリリスの姿が、逆に真実であることを如実に表していた。

 

「米国を崩壊させたカルマノイズと、太古から蘇りしリュウたち。いずれも、人類にとって大きな脅威であることは疑いようもありません。

 そして、それらの中心にいるのが『少女V』。ヒトの身でありながらノイズを生み出す大本であり、リュウの力を持つ存在でもあります」

 

「リュウの力……? ノイズは分かりますが、リュウと同じ力を彼女自身も有していると……?」

 

 リリスの言葉に疑問を覚えた緒川が、彼女に問いかける。竜の力が籠められた聖遺物を集めていたことは分かっているが、リリスの言い方だと、まるでノイズやソロモンの杖の能力と同じく、自身の体に宿ったものとして行使できるというように聞こえたのだ。

 実際、緒川の認識は間違っていない。ただ、そこだけは理解できない部分があったため、リリスは少し困った様子を見せながら質問に答える。

 

「そうですね……。どういうメカニズムなのかは知りませんが、なんらかの理由でリュウの力は彼女自身の肉体に宿り、固着していたようです。

 元々は彼女に大きな影響を与えることはないほどの微々たるエネルギー量だったのですが、パヴァリア光明結社(われわれ)が引き起こした『神の力』に関する一件にて、『神』と定義されたエネルギーを喰らうことで爆発的に増量。その影響は彼女の肉体にも大きく表れ、ヒトから竜の物へと作りかえられていることが確認されています」

 

 そこまで聞いて、その際はS.O.N.G.の司令室から様子を見ることしかできなかった面々は気づいた。あの時、少女Vから感知されたエネルギーこそリュウの力であり、その力が彼女の肉体を怪物のようにしていたのだ。

 

「ノイズを生み出して、人類に破壊と殺戮をもたらす。

 その一方で、リュウを始めとした他の生き物たちには創造と再生をもたらす。

 そして彼女自身もまた、驚異的なスピードで進化を繰り返していく。ある意味、アヌンナキよりも厄介な相手と言っていいでしょう」

 

「そんな相手、私たちじゃどうしようも……」

 

「ですが」

 

 異常すぎるほどの少女Vの能力の数々に絶望を覚えかけた調だったが、その弱音を遮るかのように、この状況に対する唯一の突破策をリリスは口にする。

 

「逆に言ってしまえば……彼女さえ攻略することができれば、まだ逆転の可能性はあります」

 

『!!』

 

 今までは、リュウという脅威の大きさ、少女Vという存在の恐ろしさについて説明していたリリスが、人類が生き残る術を語り始めた。彼女の言葉に、意気消沈しかけていた面々の意識が集中する。

 

「ノイズの生産。ヴォカリーズによる竜たちの蘇生。そのどちらも、彼女はおこなうことができる。そして、彼女以外にこれらを為せるものはいないでしょう。

 であるならば、今回の渦の中心となっている少女Vを打倒することで、ノイズ・竜による被害を食い止めることができるはずです」

 

「! 言われてみりゃ、確かにそうだな!」

 

「つまり、『二兎を追う者は一兎をも得ず』作戦デース!」

 

「切ちゃん、それは『一石二鳥』だと思うよ……」

 

 ほぼ真逆に近い意味でことわざを間違える切歌に呆れる気持ちもあるが、その場にいた多くの面々はリリスが提示した逆転の一手に、落ちかけていた士気を上げ直していた。

 

「しかし、例え彼女一人であろうとも、そう簡単に倒せるような相手ではないと思うが……」

 

「おっしゃる通り。既に少女Vの力は、我々では到達しえないところに届きかけているでしょう。しかし、『禁忌の地』の再生にしろノイズの量産にしろ、早めに手を打たなければ窮地に追い込まれます。

 まだリュウの力が完全に覚醒していない今ならば、彼女を倒す可能性もわずかながら存在しています。だからこそ、私はあなた方S.O.N.G.と協力することを決断しました」

 

 すべては、全人類を滅ぼさんとする災厄を止めるために。そう言いくくり、リリスは言葉を止めた。

 

 リュウという極大の脅威を知り、少女Vの恐るべき能力を誰よりも先に明らかにした彼女だからこそ、人類全体を守るために今まで敵対した相手であっても共同戦線を築く必要性を察し、素早く行動を取ることができた。仮に彼女の判断がもう少し遅かったら、カルマノイズによる災害だけでも被害者はもっと増えていただろう。

 リリス・ウイッツシュナイダーは、本来ならば、確実な成功をおさめるために万全の準備を欠かさない。そんな彼女が、千年以上の歴史を有するパヴァリア光明結社の中でも最高のセンスを持つ錬金術師である彼女が、ほんの少しの可能性に賭けようとしている。そのことが、今回の戦いがいかに厳しいものであるかを物語っていた。

 

 リリスの本来の戦い方については知らないが、彼女の声色から並々ならぬ覚悟を感じ取った装者たちは、目の前にいる錬金術師もまた自分たちと同じものを守りたいと思っているということを感じた。

 

「話を戻しますが、彼女の目的が仮定通りであるならば、次の行動も既に予測がついています。地球全体の『禁忌の地』を復活させるのならば、一つ一つを巡ってヴォカリーズで土地を潤していくよりも、この星のレイラインを一気に活性化させる方が効率的です。

 であるならば、相手はこの星全体を活性化させるための準備から始めていくでしょう」

 

「! そうか! キャロルが世界分解に利用したレイラインを使えば……」

 

「全ての竜を一気に復活させることができる……」

 

 リリスの言葉から、少女Vが次に行おうとしていることに、オペレーターの二人が思い至る。

 

「その通り。チフォージュ・シャトーのような大掛かりな装置を使うわけではないので、、たった一か所からの干渉では地球全てに影響を与えることは流石に不可能でしょうが、大筋に影響を与えることができるポイントでヴォカリーズを使っていけば、この星はエネルギーに満たされることでしょう。

 そのためには、この星のエネルギーの流れに従って、順に活性化をしていく必要があります。その起点となる場所は既に割り出しているため、後はそこで待っていれば……」

 

「向こうからノコノコとやってくるってわけか」

 

 そう言うクリスの顔には、不敵な笑みが浮かんでいた。今まで一方的に攻められていた状況だったのが、今度はこちらから打って出ることができるからだろう。

 

「無論、本人の戦闘能力はもちろんのこと、彼女に同行しているだろう竜も考慮すると、彼女を止めることは決して並大抵のことでは済まないでしょう。しかし、ここで食い止めることができなければ、人類は更に厳しい状況へと追い込まれます。

 私も全力でサポートさせて頂きます。なんとしても、リュウの侵攻を阻止しましょう」

 

 

 

 その後、響たちは、リリスの持っていたテレポートジェムで南米大陸にある結社支部の跡地に転移し、そこから電車や車などを乗り継ぎながら、レイラインの起点――すなわち、リュウの少女が来るであろう場所を目指して移動していた。

 リュウがなぜ人類を滅ぼそうとするのか。元々は人間であったはずのリュウの少女が、リュウの味方になっているのはどうしてか。現状に対する疑問は残ってはいるが、これ以上人類が危険な状況に追い込まれないため、竜の復活と、それを企てる少女を止めることに集中しなければならないと彼女たちは感じていた。

 

「今回の作戦で考えられる限りの敵は、少女Vとノイズは当然として、それに竜が加えられるわね」

 

「ノイズはともかく、あの女は相変わらずの戦いにくさだろうな……。竜とやらに至っては、戦ったことが全くねえから、誰がどんなふうに対処すればいいのか、対策を立てることもできねえ」

 

「だが、ここで私たちが後れを取っては、更なる竜の復活を許し、より多くの無辜の人々の命が危険にさらされることになる。それだけは、断固阻止しなくてはならない」

 

「いざとなったら、新技をお見舞いしてやればいいデスよ!」

 

 他の装者たちが、リュウの少女を相手にした戦いに勝たんとする想いを強めていくなかで、響は一人、その少女に思うところを抱えていた。

 

(私の胸の歌には、誰かと分かりあって、手を繋ぎたいっていう想いが詰まってると私は思ってる)

 

 人間への憎しみに満ち溢れた目を持ち、人間を殺すノイズを操り、現在、人間すべてを滅ぼすためにリュウを復活させようとしている少女。

 

(戦っていて、あの子の歌は、私の歌と同じだって感じた。だったら――)

 

 それでも響は、例え敵対している相手であっても、呪い(バラルの呪詛)によって叶わぬことだとしても、みんなで笑って過ごせる未来を望む誰かと手を取り合いたいと望むこの少女は――

 

(あの子の心にも、誰かと手を繋ぎたがっている想いがあるって、私は信じたい)

 

 リュウの少女の中に、ヒトを信じたいと思っている心がまだあることを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

 大地を流れる、強大な力の流れ。その始点の近くまで来たリュウの少女の前には、新たなしもべが列をなしていた。

 

 聖遺物との融合症例から、その体に眠っていたリュウの力が覚醒したことによって、さらに上の段階へと進化を遂げた少女。その影響は、単純な身体能力の向上にとどまらず、彼女が本来持つ歌の能力にまで及んだ。

 彼女の歌はレイラインを活性化する特性を持ち、それにより増幅されたエネルギーは生命力に変換され、太古に滅んだはずの生き物を蘇らせるという奇跡すら起こしてみせた。今までは、自分の歌の性質に気づかなかったこともあって使いこなせなかったが、仲間であるリュウの復活に伴い能力を自覚したことによって、ある程度までなら生命力を操れるようになっていた。

 

 目の前のしもべたちは、その成果の一つ。通常のノイズよりも生み出すコストは格段に高いが、フォニックゲイン(いつも使うエネルギー)に加えて潤沢な生命力を注ぎ込むことで作り出した、今までのノイズとは比べ物にならないほどの有用性を誇る特別製。

 リュウのことを対等な存在(じぶんのなかま)だと見なしている少女からすれば、その下僕たちの立ち位置はリュウより低いため、戦力としては積極的に使っていくことができる存在である。しかし、その脅威は、竜の中でも上位に入る種の個体にも劣らず、今の装者たちの大きな障害になるであろうことは間違いなかった。

 

(――いけ)

 

 そんなしもべたちに対して、リュウの少女は、自分が目的を達成するまでのあいだ、人間たちに邪魔をさせないために命令を下す。

 人間を滅ぼし、この星(仲間たち)を守る。強い意志を宿した瞳を持つ少女のもと、同じ志を持った新たなノイズが動き出そうとしていた。




 お読みいただき、ありがとうございました。
 久しぶりの投稿ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

 アンケート「ログインユーザーではない方も感想を書けるようにしてもよろしいですか?」についてですが、まずは期限がほぼない状態になってしまっていたことをお詫びいたします。
 アンケート開始時は、2019年08月04日(日)時点で締め切る予定だったのですが、うっかりそのことを忘れてしまい、小説を更新するまで集計を続けている状態にしてしまいました。このことで迷惑をおかけしてしまった方に謝罪いたします。申し訳ございませんでした。
 それでは、アンケート結果をお知らせいたします。

(51) 書けるようにしても大丈夫
(57) やめた方がいいと思う
(126) どちらでもよい

 以上の結果より、「どちらでもよい」というご意見が最も多く、「やめた方がいいと思う」というご意見がその次に多かったので、現在の「ログインユーザーのみ感想が書ける」状態を継続させていただきたいと思います。
 アンケートにご協力いただいた234名の読者の皆様、ありがとうございました。

 今回のストーリーはここまでになります。次の更新がいつになるかは分かりませんが、温かい目で見てくださることをお願いいたします。どうか期待せずにお待ちください。
 最後におまけを付け加えていきたいと思います。よろしければご覧ください。
 また、あまり本編に関係ない内容ですが、アンケートを新しく実施しようと思っております。ログインユーザーの方は、気軽にお答えくだされば幸いです。期限は今のところ未定です。

 次回もよろしくお願い申し上げます。ご感想などがあれば、お書きいただきますようお願いします。



おまけ 自作用語解説(MXW)

・米国の失墜
人類の「神秘からの独立」を謳い、中東に再臨した「禁忌の地」へ
反応兵器を発射したものの、()()()()により不浄の塊は不発。
さらに、人間から向けられた害意に敏感なメリュデにより、遠慮なしの攻撃が
放たれた場所を特定されたのち、報復として増殖分裂タイプのカルマノイズを投下され、
国土の主だったところは地獄となり、国としての体裁すら保てなくなった。

国同士の争いに勝ち抜き、この数世紀で最も隆盛を誇っていたと言っていい国は、
リュウという太古から再来した生物、その仲間になった少女との生存競争に敗れたのだ。
それも、人間だけでなく環境にも消えがたいダメージを与える兵器を使ったのに対し、
人間だけを殺戮し、自然環境へのダメージはほぼない兵器を送られた結果としてである。

なお、この度の米国の失墜に対し、「執筆当時は『この扱いで良いか』とか思っていたけど、
エクシヴで重要な役割を担ってきた……どうしよう……」と
頭を悩ませることになった人間がいたとかいないとか……。

オリジナルキャラの挿絵などもあった方がよろしいでしょうか?(作者自身が描くが、画力は期待しない方がいいレベル。描くならペイントか手描きの二択)

  • 挿絵はあった方がいい(ペイント)
  • 挿絵はあった方がいい(手描き)
  • 挿絵はない方がいい
  • どちらでもよい

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