狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第10話 人里~フラワーマスター~

 どうしてこうなった、聖哉は心の中でそんな呟きを零した。

 

「先輩先輩、見てくださいコレ。綺麗ですね~」

 

 彼の足元ではしゃぐ椛、露店の商品である様々な種類のアクセサリーを見て目を輝かせている。

 そんな彼等が現在居る場所はいつもの妖怪の山……ではなく、人里の大通り。

 白狼天狗の特徴である耳と尻尾――聖哉は尻尾だけだが――を隠し、今の彼等は人間を装っている。

 この人里には頻繁に妖怪が出入りするし妖怪用の店もあるが、それでも面倒事になりかねないが故の変化であった。

 

 それはともかくとして、何故自分達は暢気に人里を散策しているのだろうか。

 むろんその理由がわからない聖哉ではない、ちょっと現実逃避がしたかっただけである。

 

「彼氏さん、可愛い彼女に何か買ってやったらどうだい?」

 

 露店の男がからかうような笑顔でそんな事を言ってきた、さっきから見ているだけで買おうとしない聖哉達に痺れを切らしたのだろうか。

 男の言葉に椛は「彼女……そう見えるんですねうへへへ……」とよくわからない呟きを零しつつ顔を赤らめ、聖哉はそっとため息を吐き出す。

 本当にどうしてこうなった、事の始まりは一度山に戻った聖哉が天魔と大天狗に冥界での事を話した所まで遡る……。

 

「そうか。紫の友人である冥界の姫がそう言うのならば後はアヤツに任せておけば良い、じゃからお前等は人里にでも行って遊んでこい」

 

 なにがだからなのかよくわからないその提案に聖哉は驚き、その理由を追求すると天魔は「この際だから溜まっている有給を使え」と半ば強引に聖哉達を人里へと向かわせた。

 当初聖哉は有給を使えというのなら山でのんびり過ごそうと思ったのだが、当の椛が人里に行きたがっていたのでこれまた強引についていく羽目になってしまったというわけである。

 そして話は冒頭へと戻り、視線を露店の商品へと向けた。様々な装飾品が並ぶ中……聖哉は紅葉の形をした髪飾りを手に取った。

 

「ならこれを貰う、いくらだ?」

 

「えっ……先輩!?」

 

「へい、まいどありっ!!」

 

 「あの、ちょっと先輩……?」と困惑する椛を無視し、聖哉は店主から髪飾りを購入する。

 そしてそれをそのまま椛の髪に付け、うんうんと満足そうに頷いた。

 

「あ、あの……先輩、お金……」

 

「俺が自分で払ったものを、どうして椛が払う必要があるんだ?」

 

「で、でも私……こんなつもりじゃ……」

 

「別に俺はお前にねだられた覚えはない、俺がこれを見て椛に似合うと思ったから買っただけだ」

 

 そして、実際に似合っていたのだから聖哉としては買って満足する結果になってくれた。

 雪のような白い髪に鮮やかな紅葉を象った髪飾りは良く映える、こういった装飾品を付けたがらない椛にはこういったものが逆に良く合う。

 

「もちろんお前が気に入らないのなら……」

 

「そ、そんな事ありません!! も、もうこれは私のですから!!」

 

「……ならいいさ。気に入ってくれてありがとな椛」

 

 そこまで必死にならなくてもと思ったが、それだけ気に入ってくれたのだろうと都合の良い解釈をしておこう。

 それに大事そうにその髪飾りに触れている椛を見れば、その解釈も決して間違いではないと思えた。

 さて次はどこへ行こう……そう思った聖哉は、椛がある一点に視線を向けている事に気がつき彼女と同じ場所に視線を向けた。

 

(甘味処、か……)

 

 どうやら椛は次にあそこへ行きたいらしい、甘い物が好きとは女の子らしい所もあるではないか。

 そんな若干失礼な事を考えつつ、聖哉は彼女の手を取って「あそこへ行くぞ」と店の方へと歩んでいった。

 

 「いらっしゃいませー」という元気な声に出迎えられながら、聖哉達は店の中に入り空いている席に座り込む。

 さて、何にするか……そう椛に訊こうとした聖哉だったが、なにやら彼女の様子がおかしい事に気づく。顔を赤らめ俯いたままの彼女を怪訝に思い、聖哉は一度店員に注文は後にする事を伝え離れさせた。

 

「椛、どうしたんだ? 顔が赤いが……熱か?」

 

「………………その、さっき、手を」

 

「手? …………ああ」

 

 そういえば、店に入る際に彼女の手を握りしめ席に座るまでそのままだった。

 それが恥ずかしかったのだと遅まきながらに聖哉は理解し、己の軽率な行為に反省しつつ椛へと頭を下げた。

 

「すまん、軽率だった」

 

「い、いえ、別に嫌だったとかではなくてですね……ちょっぴり恥ずかしかっただけで、その……う、嬉しかったといいますか、えっと……」

 

「……よくわからんが、嫌だったわけじゃないのならいいんだ」

 

 ただ、次からは気をつけなければなるまい。彼女は異性なのだから気軽に触れるという行為は失礼だ。

 ……改めて店員を呼び、聖哉と椛はそれぞれ団子とあんみつを注文した。数分も経たずに運ばれてきたそれらを受け取り、2人は早速とばかりに口へと運ぶ。

 

「甘くて、とっても美味しいです!!」

 

「団子も美味いな、里の食べ物はどれも美味いと聞いていたが……想像以上だ」

 

 お互いにその味を楽しみたいのか、2人は黙々とそれぞれ注文したものを口に運んでいく。

 耳と尻尾を隠していなければ間違いなく忙しなく動かしていただろう、そのままあっという間に食べ終えてしまったが……物足りないと思った2人は、追加の注文を頼むことにした。

 聖哉は先程と同じく団子、椛も彼と同じものを頼み程なくして注文したものが運ばれてくる。

 

「椛、外の席で食べないか?」

 

「いいですね、いきましょう!」

 

 店員に一声掛けてから2人は店の外に設けられている席へと移動する。今日の陽気は暖かく、季節は秋ながらも過ごしやすい気候だ。

 暖かな日差しの下で食べるのもまた違った味わいがある、そう思いながら椛はまたしても黙々と団子を食べ進めていく中で……聖哉は団子を持ちながらも口に運ぼうともせず、じっと周囲の風景を眺めていた。

 

「…………」

 

 子供達が、楽しげに遊び回っている。大人達が、笑い合いながら談笑している。

 ああなんて平和な光景か、自然と顔を綻ばせながら聖哉は里に広がる風景を見つめ続けていた。

 そんな彼の様子に気がついたのか、団子を食べるのを中断し椛は彼へと声を掛ける。

 

「先輩、なんだか凄く優しい顔になってますけど……どうしたんですか?」

 

「ん、ああ、いや……ただ里の風景は昔と変わらないなと思って、嬉しくなっただけだ」

 

「? それって、どういう意味ですか?」

 

「平和で優しい空気に包まれてるって意味さ、150年くらい前とまったく変わらないんだ。

 ……実はな椛、俺がまだ今の椛よりもずっと幼かった頃なんだが、山から勝手に抜け出して人里の中を千里眼で覗き込んでいた時があったんだ」

 

 そう語る聖哉の言葉に、椛は驚きを隠せなかった。

 ……山から勝手に抜け出す事は原則禁止されている、これもまた山の掟の1つだ。それをいくら幼少の頃といっても聖哉が破っていたという事実は、充分に驚くに値するものだ。

 

「ガキの頃の俺は泣き虫で弱虫でな、剣なんかまともに振るえなかったしできる事といえば“千里眼”で遠くを見る事だけだった。

 将来性のない白狼……いや、“中途半端”な天狗の俺が同じ白狼はもちろん挌上の天狗に疎まれいじめられるのも当然だったんだ」

 

 弱い天狗、情けない天狗、役立たずな天狗と笑われ貶され……けれどその時の聖哉は反撃する事もできずにただ泣く事しかできなかった。

 いつかはきっと相手が飽きる、そんな来もしない都合の良い言い訳を頭に浮かべながら耐え続けたが、当然日に日にそれは酷くなる一方で。

 我慢に我慢を重ねていた彼もとうとう耐え切れなくなり、逃げたい一心で掟を破る事も構わず山を抜け出してしまった。

 

 だが所詮衝動的な行動、すぐに我に返った彼は自らの行いに後悔し途方に暮れた。

 如何な天狗といえども子供、山の庇護無しに生きられるほどこの世界は甘いものではない。かといって山に戻る勇気もなかった彼は当てもなく彷徨い続け……気がついたら人里の近くへと来てしまっていた。

 かつての幻想郷はまだ不安定な時期が続いており、妖怪が人里に近づくだけで巫女や退治屋が現れる事も珍しくなかった。

 

「俺はすぐに引き返した、けど実をいうと山の外がどんなものなのか興味があったからちょっとだけ千里眼で中の様子を視てみたんだ」

 

 そこに広がる光景は、箱庭のような里の中でも楽しく暮らす人間達の幸せそうな笑顔だった。

 妖怪よりも短命で、ちょっとした怪我や病気でもすぐに死んでしまう脆い種族……少なくとも、当時の聖哉の人間に対する印象はそれだった。

 それでも聖哉の視た人間達は幸せそうだった、全ての人間がそれに当て嵌まるわけではないけれど幸せそうに笑っている者達が沢山居た。

 それのなんて綺麗で尊いものだったのか……足を止め、里から離れる事も忘れ聖哉は暫し千里眼で里の中を見続けた。

 

「羨ましいと思うと同時に、見ているだけでなんだか心が暖まるような……そんな笑顔が沢山見えたんだ。

 今という時を精一杯生きているからこそ見せる笑みが、泣き虫で弱虫なだけだった俺を変えてくれた」

 

 あんな笑顔に囲まれたい、砂漠のオアシスのような安らいだ世界に自分も行きたい。

 そんな願いを抱き、そして同時に今の自分ではそこへは決して辿り着けないと理解できた。

 自分が変わらなければ周りだって変わらない、泣き虫で弱虫のままでは……何も出来ないままでは、この願いは叶わない。

 

「だからその日から俺は自分自身を鍛える事にしたんだ。剣を持って、身も心も鍛えていつかみんなが認めてくれるような存在になれば……俺があの時視た光景の中に、入れると思ったから」

 

 もちろん現実はそう甘くはない、成長は遅かったし周囲の目もそう簡単に変わらず、また泣き虫もなかなか直らなかった。

 その度に聖哉は千里眼で人里の光景を覗き込んだ、そしてその中に広がる平和を見て自らを奮い立たせた。まだまだそこへは辿り着けていないけれど、昔と違って自分を友人だと思ってくれる存在が居てくれる。

 きっとあの時の事がなければ、あの尊い光景を見なければ聖哉はきっと自分を腐らせまったく成長できずに朽ち果てていたに違いない。

 

「尤も、俺はまだまだ半人前だ。俺を蔑むヤツだって居るしきっと一生そういうのはいなくなってくれないさ、だけど、それでもいい」

 

 羨望から生まれた願いはもう別の願いに変わっている、白狼天狗として山の平和を守る為に自らを鍛え前に進んでいくという願いに。

 そこまで語り、自分の情けない過去を話したことへの羞恥からか気まずそうにする聖哉。しかし話を聞いた椛が見せる表情は、笑顔であった。

 

「椛?」

 

「……嬉しいです。先輩が昔の事を話してくれたのは、初めてだったから」

 

「そう、か? いや、そうだったか……」

 

 というより、おいそれと話せる内容ではない。これが文辺りが知ったら間違いなく色々とからかわれるのは目に見えているからだ。

 その点、椛ならばこうやって笑わずに聞いてくれる。先輩の威厳とか色々無くなるけどまあ元から無いようなものだから構わないだろう。

 

「先輩が強いのも、その時の出来事があったからなんですね」

 

「俺は強くなんかねーよ、こんな図体をしながらも独りぼっちになるのが嫌でしょうがない臆病者さ」

 

「そんな事ありません、それに誰だってひとりぼっちになるのは寂しいって思いますから!!」

 

「……ありがとな、椛」

 

 彼女の言葉に笑顔で感謝し、そんな彼に椛は笑顔を返す。

 昔から彼女はこうだ、いつだって自分の味方で居てくれる……それがどれだけ聖哉の励みになっているのか、きっと彼女は理解していないだろう。

 穏やかな空気に包まれ心も穏やかになり、このままのんびりと時が過ぎ去ってくれれば…………そう思う聖哉であったが。

 

「こんにちは、天狗さん」

 

「えっ?」

 

「……」

 

 いつの間にか自分達の前に立っていた1人の女性の登場が、聖哉のささやかな願いを霧散させる。

 顔を上げ女性の顔を確認する聖哉と椛だが、相手を見て椛は驚愕し聖哉は僅かに眉を潜めた。

 短く切り揃えた少々癖のある緑髪に赤い瞳、チェックの入った赤いロングスカートが目を引く美女。だが内側から感じる力は今にも溢れ出しそうな強大さを秘めている。

 

風見(かざみ)幽香(ゆうか)、だったか?」

 

 そう問うと、女性はにこりと微笑み肯定の意を示す。

 風見幽香、何処の組織にも属さずに幻想郷のパワーバランスの一角を担う程の力を持った大妖怪、通称『四季のフラワーマスター』と呼ばれる彼女が一体自分達に何の用なのか。

 聖哉は立ち上がり彼女と対峙する、身長の関係で見下ろすような形になるが彼女のプレッシャーがまるで見下ろされているかのような錯覚を生ませる。

 

「俺達に何か用なのか?」

 

「ええ。正確にはあなたにだけど」

 

「?」

 

 聖哉は幽香とは初対面の筈だ、一体何の用事があるというのか……そう思う聖哉に、幽香は笑みを浮かべたまま近寄り。

 

「わたしと、お手合わせ願えないかしら?」

 

 互いの顔が触れ合う寸前まで近づけて、そんな事を言ってきた。

 

「……どういう意味だ?」

 

「最近運動不足なのよ、毎日花達の手入れをしているとはいえ……たまにはおもいっきり身体を動かしたいの」

 

「それはつまり、俺に戦えというのか?」

 

 返答は返さず、ただ笑みだけを見せる幽香。

 どうやら聖哉の返答は当たりらしい、しかし聖哉は当然ながらその提案には拒否を示した。

 

「断る。そんな事をする必要性はないし、何より俺じゃあんたの相手は務まらないだろう?」

 

「あらそうかしら? 随分と自分を過小評価しているのね、あなたがそこらのわたしに喧嘩を売っては返り討ちに遭うような雑魚でしかないのなら、そもそもこんな事は言わないわ? それにね」

 

 そもそも、そっちの都合は初めから聞いていないの。

 幽香の右腕が、聖哉の首を掴む。力は入れられていないが少しでも彼女の機嫌を損ねればたちまち締め上げられてしまうだろう。

 

「先輩!!」

 

「椛、落ち着け」

 

「あら、ここまでされても拒むのかしら? 見た目と違って臆病なワンちゃんなのね」

 

 くつくつと馬鹿にするように笑う幽香だったが、その笑みは長く続かず彼女はすぐに表情を元に戻す事になる。

 ミシミシという骨と肉が軋む音を、幽香は自身の右腕から聞き拾う。見ると彼女の手首を聖哉の左腕が握り潰さんばかりの力で掴んでいるのが見えた。

 このままでは本当に握り潰される……だというのに、幽香は再び笑みを浮かべる。先程とは違う“歓喜”を込めた笑みを。

 

「やる気になってくれたのかしら?」

 

「ここは人里だ。古参のお前なら問題を起こせばどうなるかなどわかる筈だぞ」

 

 既に周囲には、2人の闘気によって緊迫した空気を感じ取り不安な表情を浮かべている人里の住人達が集まってきている。

 このままでは里の“守護者”や博麗の巫女が呼ばれる事態になりかねない。それは聖哉としては望む事態ではなかった。

 だが相手は聖哉の知る限り最も好戦的な生物だ、言葉での説得が通じるような相手ではない以上、不本意だが力ずくで……。

 

「幽香さん!!」

 

 力ずくでこの里から追い出そうと聖哉が覚悟を決めた瞬間、少女の声が場に響く。

 その声は向けられた幽香はもちろん聖哉にも聞き覚えのある声で、2人は同時に声のした方へと視線を向けた。

 

「あら……リグル」

 

「何をしているんですか、幽香さん!!」

 

 幽香に向かって怒った声を上げる少女、緑のショートカットにブラウス、頭の上にある二本の触覚が特徴的なこの少女の名は“リグル・ナイトバグ”。

 見た目からもわかる通り妖怪である彼女だが、基本的には温厚で幻想郷の中では割と人間に害を為さないタイプの妖怪である。そんな彼女に睨まれ幽香は少しだけ困ったように眉を潜めていた。

 まるで見られたくない場面を見られてしまったという顔になっている彼女に、リグルは怒った顔のまま近づき……聖哉に向かって頭を下げた。

 

「すみません、幽香さんの悪い癖が出てしまったみたいで……どうか許していただけませんか?」

 

「あ、いや……俺は別に構わないが、俺よりも周囲の……」

 

「皆さん、幽香さんがご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!!」

 

 今度は周囲の人間に対して頭を下げ謝罪するリグル、それを見て幽香は一気に表情を青ざめた。

 聖哉から腕を放し、あわあわと慌てながら「これは違うのよ……」だの「ちょっと遊び心が……」だの言い訳し始める幽香。

 しかし、そんな彼女にリグルはキッと睨み「言い訳しないで皆さんに謝ってください!!」と一喝、すると幽香はしょんぼりと肩を落とし。

 

「……申し訳ありませんでした」

 

 少々不服そうに、人間達に向かって頭を下げたのだった。

 その光景に場に居た全員が驚きを見せる、あの風見幽香が人間に謝ったのだから驚くのも当然であった。

 同時にリグルに対し、無理もないが得体の知れないモノを見るような視線を送る人間達も現れ始めてしまった。まああの風見幽香に意見して圧倒しているのだから当然ではあるが。

 

「さあ幽香さん、行きましょ?」

 

「う、うん……でもねリグル、さっきのは本当に単なる遊びみたいなもので……」

 

「人の首を絞めといて何が遊びですか、どうせいつものバトルジャンキーが表に出ただけでしょ!!」

 

「はい……すみません……」

 

 小柄な少女が、長身の女性を叱るという奇妙な光景が広がっている。聖哉達がポカンとする中、再びリグルが彼の元へと駆け寄ってきた。

 

「えっと、聖哉さんですよね? チルノから話は聞いていましたけど……会うのは初めてですね」

 

「ああ、アンタの事はこっちもチルノ達から聞いているよ」

 

「今回は本当にすみませんでした。でも幽香さんは喧嘩っ早い所もありますけど、本当はとっても優しくて花を愛する素敵な女性(ひと)なんです」

 

「ちょ、ちょっとリグル……」

 

「……良い子じゃないか。この子を大事に思うのならもう少しその一面を抑えた方がいいぞ?」

 

 少し皮肉を込めて上記の言葉を放つと、キッと幽香に睨まれてしまった。しかし僅かに顔を赤らめながらなので微塵も恐くない。

 そして睨んでいる所をリグルに咎められ、再びしょんぼりする姿はこう言ってはなんだが可愛らしいと思った。

 

「助かったよリグル、今度礼をする」

 

「いえいえ、お気になさらず。それじゃあ幽香さん、花達への肥料も買いましたし行きましょうか?」

 

「ええ、そうね。…………今回は我慢してあげるけど、やっぱりあなたと喧嘩するのは楽しそうだから次の機会にでも」

 

「ゆーうーかーさーんー?」

 

「うぐっ……ごめんなさい」

 

 大妖怪形無しである、結局そのままリグルに連れられるような形で幽香はこの場から去っていった。

 脅威が消えたと判断したのか、周りに集まっていた人間達も少しずつ散っていき、聖哉と椛はほっと安堵の息を吐く。

 なんだか疲れた、このまま山に帰りたいと聖哉は考えてしまうが……隣に居る椛を考えると、そんな事は言えなかった。

 

「先輩……大変でしたね」

 

「まあ、な」

 

「……もう帰りましょうか?」

 

「えっ、いいのか?」

 

「はい。本当はもっと先輩と一緒に見て回りたいですけど……先輩、疲れているみたいですし」

 

 出来の良い後輩の察しの良さに、感謝すると同時になんだか申し訳なくなる。

 だがこのまま椛の提案に甘えるのは先輩としてどうか、そう思った聖哉は彼女とある約束を交わす事にした。

 

「なあ椛、また機会があったら2人でどこかに出掛けないか?」

 

「えっ!? わ、私と先輩の2人だけでですか!?」

 

「ああ、今度は邪魔されないように2人でゆっくり過ごそう」

 

「……2人で、先輩と2人で……ゆっくり……」

 

 何を想像しているのか、顔を赤らめブツブツと呟き出した椛を見て失言だったと聖哉は思った。

 これではまるで逢引き――デートの誘いのようではないか、これでは彼女が恥ずかしがるのも当然だというのに……。

 

「あー……椛、やっぱり2人っていうのは……」

 

「先輩、私楽しみにしていますからね!!」

 

「お、おう……」

 

 恥ずかしがっているだけだと思ったのだが、どうやらそれは勘違いだったようだ。

 まあそれならいいだろう、改めて聖哉は椛と共に2人で出掛ける約束を交わし、食べかけだった団子を食べ終えてから山へと帰っていった。

 

 

 

「……ふふ、うふふふ……」

 

(機嫌が良いのは結構だが、その笑いは恐いぞ椛……)

 

 

 

 

 




【簡潔なキャラ紹介】

・風見幽香
フラワーマスター、幻想郷のパワーバランスを担う一角。
花を愛する優しい女性……なのだが、好戦的で自身が強いと判断した者には喧嘩を売るバトルジャンキー。
しかし時折花達の世話を手伝ってもらっているリグルには弱く、彼女に責められると一気に縮こまる。
“とある変化”を始めている聖哉に次のターゲットとして狙いを定めているようだが……?

・リグル・ナイトバグ
蛍の妖怪、Gじゃないよ?
妖怪ではあるが穏健派であるため滅多に人間は襲わず、普段は幽香の花達の世話を手伝ったりチルノ達友人と一緒に遊んだりしている心優しい少女。
大妖怪である風見幽香に真っ向から意見できる貴重な存在、その為一部の妖怪達からは一目置かれているとかなんとか。
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