狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第104話 それぞれの戦い~震える幻想郷~①

――妖怪の山を駆け抜ける。

 

 温存など考えない最大速度で、椛は己の“千里眼”で視た存在の元へと向かっていく。

 そんな彼女のすぐ後ろで並行して飛ぶフランは、その表情に驚きの色を浮かべつつ椛の隣へと並行してから口を開く。

 

「凄いね椛ちゃん、前とは比べものにならないくらい速くなってるよ。強くなったんだねっ」

 

 陽の光によって弱体化しているといえ、全力で飛んでいるフランよりも僅かに速い速度で飛んでいるのだ。

 

(聖哉の支えになるために、椛ちゃんはあれからもずっとすっごい努力を続けてきたんだ……)

 

 大切な存在の為に、自らを鍛え上げ強くなる。

 それを愚直に続け実現させている、そしてこれからも彼女は更に強くなっていくのだろう。

 全ては聖哉の為に、愛する彼と共に歩むために前を向いて歩いていこうとしている椛は……フランには少し眩し過ぎた。

 

(……フランも、負けてられないな)

 

「…………っっ」

 

「え、ちょっと椛ちゃん!?」

 

 突然地面に向かって降下を始める椛に、フランは慌てて声を掛ける。

 しかし椛は背中越しから聞こえるフランの声に反応する事はせず、着地と同時に腰に差してある風王を抜き取り地を蹴って。

 

 

――白狼天狗の一隊を襲っているアンデッド達を、一刀の元に斬り伏せた。

 

 

「えっ……犬走隊長!?」

 

「? あなたは……」

 

 山の天狗では無くなった椛を隊長と呼んできたのは、まだ幼さが残る若い男の白狼天狗であった。

 顔を見て椛は思い出す、まだ自分が隊を率いていた時に部下であった天狗だと。

 ……よく見ると、他の白狼天狗達の殆どがかつての自分の部下達であった。

 

「何故ここに……?」

 

「……玄武の沢のバザーに参加していましてね、今起こっている異変の元凶の元へと向かっているところです」

 

「っ、犯人を見つけ出したのですか!? さ、さすが隊長……」

 

「今の私は隊長でも何でもありませんよ、山を追放された私に対してそのような態度では色々と面倒な事になります。控えなさい」

 

「す、すみません……ですが自分にとって、犬走隊長は今でも尊敬すべき隊長である事は変わりありませんっ」

 

「……ならば頼みがあります。今ここで私達と出会った事は誰にも話さないでもらいたいのです」

 

 ここから先は、天狗の領域。

 山を追放された身である自分が踏み込めば、侵入者として扱われる。

 かといって今回の元凶を野放しにはできない、故に無茶だとは思いつつも椛はかつての部下にそう告げたのだ。

 

「それは……」

 

「……すみません。そんな事はできませんよね、今の発言は忘れてください。ですができれば止めないでくれると助かります」

 

 風王を鞘に戻し、椛は空中で自分を待っているフランの元へ戻っていく。

 そんな彼女達を、白狼天狗の青年達は暫し見つめた後。

 

「――隊長、お気をつけて」

 

 侵入者である椛に対し敬礼を行い、その場から去っていった……。

 

(……ありがとうございます)

 

 彼等の行為は山にとって、重大な命令違反だ。

 それを理解しながらも彼等は自分の願いを優先してくれた、今回の元凶を討ってくれると信じてくれた。

 ならば、その期待に応えなければならない。

 

「フランさん、お待たせしました」

 

「んーん、大丈夫だよ。……さっきの子達、知り合いだったの?」

 

「元部下です。真面目で良い子達でした」

 

「そっか。守れてよかったね?」

 

「はいっ」

 

 嬉しそうに笑う椛に、フランも笑みを返し……けれど、2人はすぐにその笑みを消しある場所へと向かう。

 そこは山の中でも端に位置する白狼天狗達が使う訓練場の一つ。

 周囲を柵で囲ったドーム状の空間、その中では剣の的として扱う案山子達が設置されている。

 かつて利用していた椛は懐かしさに駆られるが、今はそんな場合ではないと己に言い聞かせながら地面へと降り立ち。

 

「――姿を現せ、聖命蓮」

 

 強い殺気を込めた言葉で、元凶の名を呼んだ。

 

「え、椛ちゃん……?」

 

 椛の言動に、フランは怪訝な表情を浮かべる。

 だがそれも当然だ、椛の視線の先には誰も居ないのだから。

 周囲にも人っ子一人居らず、そもそもなぜ彼女はいきなりこんな場所に降り立ったのか理解できない。

 

――だが、彼女の“眼”は誤魔化せない。

 

 

 

「――――驚いたね。完全に気配も姿も消せたと思ったんだけど」

 

 

 

 響く声は、男のもの。

 穏やかで柔らかく、聞く者を安堵させる優しさが込められた声が突如として聞こえ。

 

「っ!?」

 

 突如として、一人の青年と異形の生物が、2人の前に姿を現した。

 ほんの一瞬前までは確かに何もいなかった、気配すら感じられなかった。

 だからこそフランは驚愕し、一方の椛は無言のまま青年――聖命蓮を睨みつけていた。

 

「――――成程、そこの小娘の眼は“千里眼”というわけか」

 

 そう言い放ったのは、命蓮の隣に立つ異形――人ならざる大男であった。

 闇よりも深い漆黒の輝きを放つ全身を覆う無骨で分厚い鎧、右肩に担いでいる巨大な大剣。

 大男の体格も相まって凄まじい重圧感を醸し出しているが、何より驚くのは――その容姿。

 

「……トカゲさん?」

 

 2つの足で立ち、人型ではあるものの……大男の顔は、鱗の生えた爬虫類のものであった。

 ……よく見ると後ろには巨大な尻尾も見える、フランの呟き通り蜥蜴人間と呼んでも差し支えはない見た目だ。

 

「……“竜人(ドラゴニュート)”と呼んでほしいものだな。蝙蝠」

 

竜人(ドラゴニュート)……?」

 

「……魔界に住む魔族の一種族、名前の通り竜の血を引いている戦士の一族」

 

「ほぅ? よく知ってるな、蝙蝠」

 

「うちには博識なお姉様とそのお友達の魔法使いが居るから。――それよりもさ、さっきからフランのこと蝙蝠って呼んでるけど……もしかして挑発のつもりなのかな? トカゲさん?」

 

 口調はあくまで穏やかに、けれどその声色には明確な殺意を込めて、フランは言い放ち己の魔力を開放する。

 まだ陽が出ているとはいえその力は凄まじく、総量ならば先程のレミリアを上回っていた。

 人間はおろか並の妖怪ならばこれだけで身を凍らせ、戦意を喪失させかねない強大な力を前にしても。

 

「安い挑発に乗っているのが見え見えだぞ、蝙蝠娘」

 

 竜人の男は不動のまま、今にも襲い掛からんとするフランに対しあからさまな嘲笑を放った瞬間。

 フランの姿が場から消え、彼女は一瞬で大男の背後に回り込み展開したレーヴァテインを振り下ろして。

 

「――――」

 

 フランの身体が吹き飛ぶ。

 レーヴァテインを上段から振り下ろし、がら空きになった彼女の真横から鉄槌のようなものが叩き込まれた。

 それは大男が持っていた大剣による一撃であり、強固な肉体を持つ吸血鬼の身体を拉げさせ、血反吐を吐きながらフランは背中から柵へ強打し――けれど、その勢いは止まらず木々を破壊しながら尚も吹き飛んでいく。

 

「っ、が、ぐぅ……!?」

 

 歯を食いしばり、地平の果てまで飛んでいこうとしている自らの身体の体勢を整えように全身に力を入れるフラン。

 それと同時に意識を断裂しかねない激痛が彼女の全身に伝わり、またも口から大量の血反吐を吐きつつもどうにか耐え、フランは地面へと降り立った。

 

「ぅ、が、ぶ……っ」

 

 堪らず膝をついてしまう。

 ……凄まじいダメージだ、ただの一撃でフランの肉体はまともに立ちあがる事すらできない程に打ちのめされてしまっていた。

 吸血鬼の優れた再生能力も、今の時間帯では十全に発揮されない。

 

「フランさん!!」

 

 吹き飛ばされたフランの元へと向かおうとする椛。

 だが、すぐに思い留まりフランに一撃を加えた竜人を睨みつけ身構える。

 

「……お前は、退屈しのぎ程度にはなってくれるか?」

 

「聖命蓮、貴様の目的はなんだ? この妖怪の山で何をしようとしている?」

 

「…………ほぅ、よくもまあ我に対してそのような態度を見せられる」

 

 竜人が動く。

 大剣を右肩に担いだまま地を蹴り、椛を両断しようと己の獲物を振り上げる。

 

「ぬっ……?」

 

 金属音が、響いた。

 振り下ろされた大剣の一撃が、抜刀した風王によって弾かれ椛と竜人の間合いが元の位置に戻る。

 

「聖命蓮、貴様の目的はなんだ?」

 

 弾き飛ばした竜人を一瞥する事もなく、再び椛は問いかける。

 

「目的……少なくともこの山には特にこれといった用はないんだ。ただ有象無象に動かれるのは邪魔でしかない、ね」

 

「貴様…………!」

 

「君は目の前に蠅が集っていたら鬱陶しいだろう? それと同じことさ、それに協力してくれている魔族達にも暴れられる機会を作らないと申し訳ないじゃないか」

 

「――そうか、聞いた私が愚かだった」

 

 相手は敵、滅ぼすべき敵でしかない。

 何故アンデッド達を駆使できるのか、目的は何なのか、そんなもの斬り捨ててしまえば訊き出す必要などないのだから。

 

「っ……!?」

 

 一息で命蓮との間合いを詰め、一刀の元に斬り伏せようとした椛であったが。

 真横から割って入ってきた竜人の大剣によって、真っ向から受け止められてしまう。

 

「邪魔をするな……!」

 

「そうはいかん。――蝙蝠風情よりは愉しめそうな相手を前にして、黙っている事などできんのでなっ」

 

「ちっ……!」

 

 弾かれ、命蓮達との距離が離れてしまう。

 

(この大男を無視する事はできないか……!)

 

 ならば速攻で斬り捨て、命蓮を討つ。

 すぐさま思考を切り替える椛だったが。

 

「――それじゃあグリードくん、後は頼むよ」

 

 そう言って、命蓮は自身の足元に“陣”を展開する。

 ――術に詳しくない椛でも、展開されたものが何なのか理解できる。

 あれは――ここから移動する“転移”の術だと。

 

「くっ……!」

 

 すぐさま踏み込もうとするが――グリードと呼ばれた竜人の男がそれを阻む。

 無論無視して命蓮だけに狙いを定めれば、この男によって両断されてしまうだろう。

 故に椛には目の前に立ち塞がる存在を相手にせざるを得なくなり。

 

――その結果、聖命蓮を目の前で逃がしてしまう結果となってしまった。

 

「これで、気兼ねなく我の相手ができるな?」

 

「時間が惜しい、すぐに殺してやるからかかってこい」

 

「くははっ、犬風情が大きな口を叩きおるわっ」

 

「時間が惜しいと言った筈だぞ、蜥蜴風情がっ!!」

 

 

 

 

「――だあっ、うっとおしいっての!!」

 

 大声で悪態を吐きながら、イリスは右手に持つ大型のランスで迫るアンデッドの一体に風穴を開ける。

 腐った血や肉が自身の獲物に付着するが、今は嫌悪感を抱いている場合ではないと自分に言い聞かせつつも、彼女の表情は苦々しいものになっていた。

 

――アンデッド達を駆逐しながら、イリス達はどうにかバザーに来ていた人間達を守りつつ妖怪の山の麓まで辿り着いた。

 

 レミリアの命を受け咲夜と美鈴もまた、人間達を守る為にアンデッド達と戦ってくれている。

 更に引率に来ていた慧音や喜助達自警団の手助けもあり、今の所犠牲はおろか怪我人一人出ていない。

 アンデッド達の動きも鈍く、倒すだけならば何の問題もなかった。

 

 そう――倒すだけならば、だ。

 

(っ、倒しても倒しても数が減らない……!)

 

 既に何体……否、何十体倒したのか。

 少しずつ人里に向けて移動はできているものの、四方八方から現れるアンデッド達の影響でその速度はあまりにも遅い。

 ……このままでは押し切られる、そうなれば戦う力のない人間達は。

 

「っ、邪魔なのよホントにっ!!」

 

 ランスに込められた魔法を使おうとするイリス。

 しかし、そんな彼女に美鈴の怒声が響いた。

 

「駄目ですイリスさん、里の人達まで巻き込んじゃいます!!」

 

「っ、けどこのままじゃ押し切られちゃうじゃない!!」

 

 おもわず怒声を返してしまうイリスだったが、美鈴の言い分は至極真っ当なものであった。

 アンデッド達は人間達を囲むように展開してしまっている、ここで不要にランスに込められた魔法や美鈴の“気”などを使用してしまえば、その余波に巻き込まれる。

 だから彼女達は今近距離攻撃のみで対処している、しかしこれでは物量で押し切られてしまうだろう。

 

「……イリスおねえちゃん」

 

「っ、セーヤ……」

 

 不安そうな表情を浮かべる聖哉が視界に入り、イリスは気合を入れ直す。

 振りなのは先刻承知、それでも守らねばならないのだ。

 椛達も戦っている、今の自分のすべき事は聖哉を守り……彼が守りたいと願った人間達を守る。

 

 

 

「皆さん、その場で止まって伏せてください!!」

 

 

 

「っっっ!?!?」

 

 突如響き渡る声に、その場に居た全員がおもわず反応する。

 瞬間、周囲の気温が急激に下がっていき、吐く息が白く輝いていった。

 一体何が、イリス達がそれを理解するよりも早く。

 

「――パーフェクトフリーズ!!」

 

 空から降り注ぐ氷のつぶてが、アンデッド達を貫く光景を視界に捉えた。

 

「えっ……」

 

「ふっふっふ……しんうちとうじょうっ、ってヤツね!!」

 

 底抜けに明るい声を放ちながら、腕組みをしながら空から降り立つ幼き少女。

 その表情は悪戯に成功した子供のように無邪気で、無駄な自信に満ち溢れていた。

 

「アンタ……たしかチルノだったっけ?」

 

「ん? そーいうアンタは……だれだっけ?」

 

「ア、アタシはイリスよ。セーヤの……式神みたいなものだと思ってくれればいいわ」

 

「??? よくわかんないけど、聖哉の友達って事ね? だったらあたい達の友達ね!!」

 

「……」

 

 聖哉から、この氷精チルノの事は聞いている。

 妖精らしく無邪気で自信過剰で、けど根は優しい子だと。

 一番の親友である大妖精と呼ばれる妖精と共にいるという事も聞いていたので、彼女の隣に降り立った緑髪の妖精がその大妖精だという事もイリスはすぐに理解する。

 

「助けてくれたのは感謝するけど……どうして助けてくれたの?」

 

「そんなの決まってんじゃん、あたいが……ヒーローだからさ!!」

 

「……」

 

 ニカッと微笑み、サムズアップをするチルノに、イリス達はおもわず言葉を失った。

 ……きっと何かに影響されたのだろう、良くも悪くも妖精は色々なものに影響されるから。

 

「それに、なんかよくわかんないけど今の聖哉ってちっちゃくなってんでしょ? なら友達のあたい達が守ってやらないと!!」

 

「はい。妖精である私達にも聖哉さんは優しくしてくれました。それによく遊んでくれましたし……」

 

「…………ありがとね、本当に」

 

 チルノと大妖精の言葉に、その場に居た全員がキョトンとしている聖哉へと優しい視線を送る。

 妖精すら友として、その縁を広げていく。

 そしてその縁が力となってくれている、それは紛れもない彼の強さに他ならなかった。

 

「よっしゃ、心強い助っ人も来たんだ。おれ達も頑張ろうぜ!!」

 

 喜助の声が場に響き、人間達に力が宿る。

 妖精2人の登場により、状況が好転してくれた――誰もがそう思った瞬間。

 

 

 

 

 

「――――――見つけたぜ、聖哉」

 

 

 

 

 

「――」

 

 声が、響いた。

 方向は遥か上空、本来ならば聞こえる筈のない声が……この場に居た全員の耳に入ってきた。

 聞き慣れた声だ、一体誰のものなのかなど考える必要などない程に。

 

「咲夜さん!!」

 

 最初に反応を示したのは、美鈴と咲夜であった。

 美鈴は隣に居た咲夜を呼び、咲夜は美鈴の声を聞きながらも既に動きを見せていた。

 能力を用いて時間を止め、上空に向かって四十ものナイフを展開。

 

「――はっ!!」

 

 能力が解かれ展開されたナイフが上空に跳んでいくと同時に、美鈴もまた攻撃を仕掛けた。

 両手から生み出される虹色の気弾、生命エネルギーの塊といえるそれを美鈴は咲夜のナイフと同じ方向へと撃ち出した。

 

「みんな、走って!!」

 

「っ、喜助、総司!!」

 

「応っ、おいみんな、ちっとキツいがここから止まるなっ!!」

 

 イリス達の突然の言葉に、当然ながら人間達は驚き怪訝な表情を浮かべていく。

 しかし慧音や喜助達という存在のおかげか、すぐさま表情を引き締めこの場から駆け出してくれた。

 何が起きたのかは判らない、だがイリス達の鬼気迫る姿を見て「只事ではない事が起きようとしている」と察してくれたようだ。

 

(この分なら、すぐに山を降りられるわね……)

 

 山を降りる事ができれば、一先ずは安心だ。

 後はそのまま里に避難すれば………………それで大丈夫、なんていう都合の良い話はない。

 何故なら。

 

「――――まずはテメエからか、イリス」

 

 先程のアンデッドの集団とは比べものにならない脅威が、目の前に現れたのだから。

 全身を闇よりも深い深淵のオーラで身に纏った、黒狼の大男。

 犬渡聖哉の負の感情、そしてヴァンの闇の力によって生まれ出てしまった怪物。

 

「聖哉様……いいえ、確か闇聖哉だったかしら?」

 

「なんだその頭の悪いネーミングは、まあ好きに呼べばいいさ。――どうせ全員殺すんだからな」

 

 闇聖哉が纏っているオーラが一気に膨れ上がる。

 その重圧はただ凄まじく、対峙しているだけで戦意を根こそぎ奪われてしまいそうになる。

 

(セーヤ達は……ちゃんと逃げてくれているわね)

 

「足止めか? お前達がオレと対峙すれば聖哉達を逃がせるとか……そんな甘い事を考えてるんじゃねえだろうな?」

 

「……考えてるって言ったら、どうするの?」

 

 言いながら、イリスは右手に持つランスの切っ先を闇聖哉へと向ける。

 彼女と同じようにこの場に残った咲夜と美鈴も、いつでも攻撃を仕掛けられるように身構えていた。

 状況は三対一、戦いに邪魔なアンデッド達は幸運にも先程で打ち止めなのか新たに現れようとはしない。

 一見すれば有利、と思いたいイリス達だが……。

 

「……アンタの目的は一体何なの? 今更セーヤを殺して自分こそがセーヤになろうって考えてるわけ?」

 

「ハア? 何言ってんだお前、そんな事……どうだっていいんだよ」

 

「だったら……」

 

「オレの目的はただ一つ。――オレを否定した総ての存在を、世界を、この手で喰らい尽くす事だ。

 どうやらこの腐った世界を破壊する事は聖命蓮のヤロウも望んでいてな、好きに暴れていいと言ってくれた」

 

「っ、アンタ……仮にもセーヤから生まれた存在なのに、他ならぬアンタがこの世界を否定するっての!?」

 

「――オレを犬渡聖哉ではないと否定したテメエが、そんな戯言をほざくのか?」

 

「……」

 

 これ以上は無理か、内心舌打ちしつつも一定の効果があった事にイリスは内心安堵する。

 ……今更言葉での説得ができるなど、イリスは微塵も思っていない。

 だから今の問答は全て守るべき聖哉達をできるだけ引き離すための問答に過ぎない。

 そしてそれが終わった今――もはや語る事など何もない。

 

「咲夜、美鈴、悪いけど協力してもらうわよ」

 

「大丈夫ですよイリスさん。というより……ここで倒さないと絶対に拙いですから」

 

「美鈴、イリス、決して無茶だけはしないでね」

 

「…………さて、ねっ!!」

 

 一気に間合いを詰めるイリス。

 狙うは必殺、自身が放てる全力の一手で一気に勝負を決める。

 一歩遅れて咲夜がその場で銀のナイフを投げ、美鈴も両手に“気”を纏い踏み込んだ。

 

「…………ハッ」

 

 闇聖哉は動かない。

 向かってくるイリス達を歪んだ笑みで嘲笑しながら、ゆっくりと両の手で拳を作り上げ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――瞬間、世界が闇に閉ざされた。

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