狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第105話 それぞれの戦い~震える幻想郷~②

「――どっせええいっ!!」

 

 大気が揺れる。

 玄武の沢近くにて繰り広げられているレミリアとセレナの戦いは、秒が経つ毎に激しさを増していた。

 

 セレナが振るう巨大な戦斧は見た目以上の破壊力を放ち、地面の岩は砕け、空気を切り裂き、周囲を完全に破壊していく。

 まともに当たれば即死に繋がる必殺の威力はしかし、ただの一撃もレミリアには届いていなかった。

 

「っ、ちょこまか避けないでよ。当たんないでしょうが!!」

「無茶を言うな、当たれば両断されるのが判って避けない阿呆が居るか」

 

 軽口を叩きながらも、レミリアは正確に自身を両断しようと迫る戦斧の一撃を回避する。

 回避はそう難しいものではない、鋭く重い一撃を放つセレナだがその速度は決して速過ぎるものではないからだ。

 だが――反撃には移れない。

 

(やはり、陽が出ている内は思うように身体が動かないな……)

 

 現在の時刻は昼を過ぎた辺り、まだまだ太陽の恩恵を受ける時間帯だ。

 パチュリーによる防御魔法で陽の光を直接受けても身体が焼け焦げる事態にはならないものの、弱体化までは免れない。

 今の自分は精々全開の七割程度しか出せないだろう、そう自己分析をしつつレミリアは勝利への道を模索する。

 

――横薙ぎの一撃が迫る。

 

「――サーヴァント・フライヤー」

 

 それを後ろに跳躍して躱しながら、レミリアは右手から三発の魔力弾を放つ。

 蝙蝠のような形をした赤い魔力弾は真っ直ぐセレナへと向かい――呆気なく、彼女の戦斧によって霧散した。

 

「ハート・ブレイク」

 

 続いて放つのは真紅の槍、投げ放たれたそれは速度も威力も先程の比ではない。

 

「ふ――っ!!」

「っ!?」

 

 真紅の槍がセレナに命中する瞬間、レミリアの視界から彼女の姿が消えた。

 それと同時に腹部に衝撃が走り、強引に肺の空気を吐き出されながら、レミリアは真上へと吹き飛ばされた。

 

(コイツ……!?)

 

 一体何が起きた、痛みで顔をしかめながらレミリアが真下へと視線を向けると。

 持っていた戦斧を手放し、右の拳を上空に向けているセレナの姿が視界に映った。

 

 ――ハートブレイクが自身に命中する前に、セレナは持っていた獲物を自らの意志で手放した。

 それによって身軽になった彼女は迫るレミリアの一撃を回避すると同時に踏み込み、攻撃を仕掛け隙を見せた彼女の腹部に強烈な打撃を叩き込んだのだ。

 先程から重く鋭いながらも速い攻撃を繰り返していたので、レミリアは完全にセレナの機動性を甘く見てしまいそして。

 

――その代償は、決して小さなものではなかった。

 

「――じゃあね」

 

 真上から聞こえる、セレナの声。

 上空へと殴り飛ばした自分を跳躍だけで追い抜き、追撃を仕掛けようとしている。

 すぐに顔を上げるレミリア、だがその時にはセレナは回収した戦斧を大きく振りかぶっていた。

 

「チッ――――ぐぁっ!?」

 

 回避は間に合わない、一瞬でそう判断したレミリアは両腕を前で交差させ防御の体勢に。

 そこに叩き込まれる戦斧の一撃、その破壊力をまともに受けたレミリアは。

 

「が、は……っ!!??」

 

 容易く吹き飛ばされ、近くの岩壁に沈められてしまった。

 

「ぎ、ぅ……っ」

 

 吐血する。

 ……重い、などという表現では追い付かない一撃であった。

 今出せる最大出力の魔力を両腕に這わせ防御力を向上させたというのに、何の役にも立たなかった。

 

 幸いにも両腕を両断させられる事態には陥らなかったものの、感覚が完全に無くなってしまっては同じ事だ。

 埋まった岩壁から抜け出すが、そのまま地面に落ちうつ伏せのまま倒れ込むレミリア。

 

(これは、参った……二百年程前に、“狂化”したフラン以上のパワーだ……)

 

 両腕が使い物にならなくなったので、背中の翼を羽ばたかせてどうにか立ち上がるレミリア。

 しかし、今の状況はまさしく絶望的だ。

 残っていた魔力の殆どは今の防御で消費してしまったし、両腕は使えない。

 加えて今はまだ昼間、吸血鬼の冗談じみた再生能力も半減してしまっている今、もはやレミリアにセレナを打倒する手段など――

 

「……凄いね。今まで戦ってきたどの吸血鬼よりも若いのに、今までで一番強いと思えたよ」

 

「それは、光栄と、思った方が、いいか?」

 

 上手く声が出ない、想像以上の消耗にレミリアは可笑しくもないのに笑いたくなった。

 吸血鬼こそ闇に生きる種族の頂点、最強だと自負しているというのに……この体たらくは何だと言いたくなる。

 

「あのさ、もう降参する気は……ないよね?」

 

「……ああ、言ったろ。お前はわたしの咲夜と美鈴に手を出した、許せると思うか?」

 

「…………だよね。キミは吸血鬼とは思えないくらい慈悲深いもの、だけどさ……もうチェックメイトだって理解できてる筈だよ?」

 

 だから降参しろと、セレナは言葉ではなく視線でそう訴える。

 ……調子の狂うヤツだと、レミリアは思った。

 魔族とは思えない甘さを彼女は持っている、おそらくレミリアが降参だと言えばこれ以上の危害は加えてこないだろう。

 その考え方は、自分のよく知るお人好しな妖怪と似通っているから、正直悪くはないと思っているが……。

 

 

――同時に、心底気に入らない。

 

 

「――貴様、わたしを舐めているのか?」

 

「……」

 

「チェックメイトだと? そんな事、一体誰が決めた?

 まさか本気で、このわたしに、勝てたと思っているのか?」

 

「強がりもそこまで行くと感心するよ。――その両腕、動かないんでしょ?

 それに陽だってまだまだ高い位置にある、キミの力だって十全に」

 

「――もう一度言うぞ、わたしを舐めているのか?」

 

 瞬間、レミリアの全身から赤い霧が立ち昇り始める。

 それは高密度の魔力の霧、先程とは比べものにならないそれは紛れもない彼女自身の魔力であった。

 

「……おかしいなー、吸血鬼って昼間だと弱体化するんじゃなかったの?」

 

「ああ、その認識は正しいさ。しかも友人の魔法が無ければ今頃灰になってる体たらくだよ。

 だがな、そんな無視できない弱点があると判っていて……何の対策もしていないと思っているのか?」

 

 放出されている赤い魔力が、レミリアの両手を癒していく。

 それだけではない、霧状となって展開している魔力はレミリアから陽の光を完全に遮断させ、彼女の身体のみ夜と同じ状態を作り上げていた。

 即ち今の彼女は正真正銘の全力、否、それ以上の力を有している……!

 

「妖怪の心臓と呼べる器官でもある“核”に常日頃から魔力をストックしてたってわけか……!」

 

「そういう事だ。尤もこれは所謂“虎の子”ってヤツでな、正直使いたくはなかったが」

 

「いやいやいやいや、確かに虎の子って言えるかもしれないけどさぁ……こんな芸当、普通の妖怪ができる芸当じゃないんだよ?」

 

 自身の内側、それも妖怪にとって生命線ともいえる“核”に力を蓄える。

 それ自体は確かに可能だ、何故なら“核”は妖力や魔力を生成する器官でもあるのだから。

 しかし力というのは生成したら放出しなければならない、そうしなければ内側に溜まった力は暴走を始め器である肉体を破壊する。

 それを放出せず留め続けるなど、一歩間違えれば自滅する危険な行為だ。

 

(だからこそ、妖怪はもちろん魔族だって一部を除いてそんなリスクのある行為はしないってのに……)

 

 セレナはレミリアを心の底から感嘆すると同時に、同じくらい恐怖心を抱いた。

 500年、妖怪にしてはまだ若い筈の彼女がこれだけの行為を平然とやってのける。

 ……彼女は大成する、時が経てば誰もが畏怖する大妖怪になりえる器だ。

 

「さっきの言葉をそっくりそのまま返してやるぞ。――チェックメイトだ」

 

「…………………………はぁ」

 

 手に持っていた戦斧を地面に落とすセレナ。

 その姿からは戦意をまったく感じられず、逃げる素振りすら見せようとしない。

 

「神槍――」

 

 赤い魔力を集めていく。

 作り出すのは真紅の大槍、レミリアが持つ大技の一つ。

 直撃すれば死んだ事も理解しないまま逝けるだろう、それがレミリアなりの慈悲に――

 

「っ!!??」

 

 全身が震え上がる。

 それは恐怖から来る震え、吸血鬼という“強者”であるレミリアすら抗えない、確かな恐れによるもの。

 しかもそれは、彼女にとって過去に味わった事のある決して忘れられない恐怖であった。

 

「な、ん……!?」

 

 後は撃ち出すだけの大槍を、すぐに霧散させるレミリア。

 そして視線はセレナから外され、ある方向へと向けられた。

 

「馬鹿な、どうしてこの状況で……!?」

 

「……? ねぇ、やるなら早くやってほしいんだけど……」

 

 刺すような殺気が完全に消えてしまったせいか、おもわずセレナはレミリアへと問いかけてしまう。

 しかし彼女からの返答はなく、その表情を驚愕と困惑、そして恐怖を織り交ぜたものへと変貌させていた。

 ……明らかに様子がおかしい、既にレミリアはセレナの事など眼中に無くなっている。

 

「あのさ、一体何がどうしたって――」

 

「黙れ馬鹿、今はお前なんかの相手をする暇など無くなった、逃げたければ勝手に逃げろ!!」

 

 吐き捨てるようにセレナに向かって叫び、レミリアは全速力でこの場から離脱した。

 一直線に、意識だけをそこに向けながら彼女はひたすらに願う。

 

 

 

「――フラン、何故“狂化”に至ってしまったの……!?」

 

 

 

 

「…………」

 

 目の前に広がる光景を見て、フランドール・スカーレットは全身に走る痛みも忘れ、ただ魅入ってしまった。

 周囲に広がる森の中でぶつかり合う、2つの影。

 一つは魔界の戦士である“竜人(ドラゴニュート)”、まるで山のような巨体から繰り出される大剣の乱舞は嵐の如し。

 

 それを正面から小細工無しで立ち向かうのは白狼天狗の少女、犬走椛。

 右手に持つ妖刀にて容易く自身を叩き潰せる一撃を、真っ向から弾き返している。

 倍以上の体格差など関係ないとばかりに切り結ぶ彼女の姿はただ凄まじかった。

 

 絶え間なく響き渡る剣戟の音。

 一撃毎に火花が散り、大気を揺らし、閃光が奔る。

 互いに繰り出すは相手を殺す為だけの剣、まさしく死闘だ。

 

「――――なんて」

 

 繰り返される死闘に、フランはただ息を呑んだ。

 純粋な命のやりとり、一瞬の隙がまさしく命を奪う事になる戦い。

 

――それに、魅了される。

 

 思考が、ただそれだけに惹き込まれていく。

 速く再生を終え、彼女の加勢に入らなければならない。

 頭では判っている、それなのに本能が訴えるのだ。

 

 この戦いを見届けたいと。

 死と隣り合わせのこの戦いを、終わりまで見ていたいと。

 

「は、ぁ……」

 

 自分の鼓動が、煩いくらいに鳴り響いている。

 気分は際限なく高揚を続け、呼吸は荒くなり身体が熱くなっていく。

 

――興奮、していた。

 

 目の前で繰り広げられている戦いを見て、フランは間違いなく興奮してしまっていた。

 こんな感情など異常だと判っているのに、止める事ができない。

 それだけではない、自らの異常を認識すればするほど――身体が軽くなっていく。

 ……フランはまだ気づかない、先程受けたダメージが完全に無くなっている事に。

 

「…………ははっ」

 

 知らず、笑い声が出た。

 ――血のように紅いフランの瞳が、一層赤く染まる。

 

 

 

「――へぇ、もう出られそうか」

 

 

 

「え――――あぐっ!?」

 

 誰かに押し倒される。

 すぐに起きようとするフランだが、四肢を抑えられていないというのにまるで金縛りに遭ったかのように身体が動かなくなってしまっていた。

 

「よぉ」

 

「っ、闇聖哉……!」

 

「そう睨むなよフラン、オレが今から本当のお前を開放してやる」

 

 そう言って、闇聖哉は全身から黒いオーラを展開させる。

 

「本当の、私って……!」

 

「フランドール・スカーレット、妖怪には大なり小なり“狂気”を孕んでいるのは知っているよなぁ? なにせお前はその“狂気”を人一倍大きく持って生まれてきた吸血鬼なんだから」

 

「――――」

 

 その言葉で、フランの思考は一瞬で凍り付いた。

 何故それを知っている、などという疑問など浮かばず……脳裏に浮かぶのは、とある記憶。

 

「“狂気”とはその者が抱く破壊衝動の強さを表す、妖怪の多くが好戦的で力を求めるのはそれが理由の一つだとされている。

 そんな“狂気”を稀にだが多く持って生まれる存在が居る、大抵は生まれ持った狂気の大きさに器が耐えきれず自滅するが……どうやら、お前の両親によって上手く抑えつけられているらしい」

 

「……」

 

「その影響かお前は吸血鬼という強力な妖怪とは思えぬ程に穏やかな気質を持つ事になった。

 ――だが所詮封印しなければならない程の強大な“狂気”をいつまでも抑えつける事などできるわけがねえ、そして今――それに限界が訪れただけだ」

 

 何が可笑しいのか、闇聖哉はくつくつとフランに向かって笑みを浮かべる。

 

「なんでそんな事……」

 

「知ってるのか、って? 簡単な話さフラン、もうお前は――オレに“侵食”されてるんだからよ」

 

「何を―――――っ!!??」

 

 言っているのか、そう問い掛けようとしたフランの言葉が途中で途切れる。

 ……そこで、彼女は漸く気が付いた。

 闇聖哉の放っている黒いオーラが、まるで寄生虫のように自身の身体に入り込み始めている事に。

 

「これを通じてお前の記憶を読み取ったんだよフラン、だがオレの目的は別にある。――さあ、目覚めろよ」

 

「っっっ!!?」

 

 全身が、脈打った。

 内側から、何か強大なモノが無理矢理出てくるような感覚が訪れる。

 

「ダメ、これは……っ!」

 

 目覚めさせてはならない。

 表に出してはならない。

 これは本来あってはならぬモノ、だからフランの両親は決して表に出ないように封印を――

 

 

 

 

――――邪魔だよ、弱虫フランドール。

 

 

 

 

「――ガアアアアアアッ!!」

 

 巨人が吠える。

 この一撃で決めようと振るわれた大剣は、今まで以上の破壊力が込められていた。

 

 それを椛は真っ向から刀で受け止め、受け流し切れずに後方へと弾け飛ぶ。

 ダメージはない、しかしたたらを踏み僅かに咳き込みながら竜人へと向き直る椛。

 一瞬、されどようやく見せたその隙を、竜人は見逃さなかった。

 

「とったぞ小娘っ!!」

 

 叩きつけられる大剣。

 それは椛の身体を頭から真っ二つに両断し、地面に大穴を開ける程のものだ。

 尤も、それは。

 

「――二の太刀」

 

 彼女が見せた隙が、本当に隙だったらの話だが。

 

大殺断(だいせつだん)

 

 自身を両断しようと迫る大剣に向かって、繰り出される剣戟。

 渾身の力を込めたその必殺剣は、迫る大剣と真っ向からぶつかり合い。

 

「ぐぉぉ……っ!?」

 

 呆気なく打ち勝ち、先程とは逆に竜人の身体が弾け飛んだ。

 ――それで、終わりだ。

 まさかの反撃に大男の思考は一瞬停止し、身体も大きく仰け反ってしまっている。

 その、圧倒的なまでの隙を椛は逃さず、風王の切っ先を相手の急所へと定め。

 

「一の太刀――皇牙一閃突き!!」

 

 神速の一手を以て、大男の身体を打ち貫く……!

 

「ぐ、が、ぁ……!?」

 

「……」

 

 びちゃり、という音を出しながら鮮血が地面や近くの木々を赤く染める。

 片膝をつき動けなくなった大男を冷たく見下ろしながら、椛は風王を振り上げる。

 いつまでも目の前の相手をしている場合ではない、避難しているであろう聖哉と合流しなければ。

 故に躊躇いも慈悲もなく、椛は次の一撃で相手の命を奪おうとして。

 

 

――炎の剣が、大男を呑み込んだ。

 

 

「っ」

 

 すぐさま後方へと跳躍する椛。

 ……大男は、断末魔すら上げられずに灰塵へと化していた。

 おそらく自分の身に何が起きたのかも判らないまま逝っただろう、それはある意味では幸運だったのかもしれない。

 

「――アハ、さすがだね椛チャン」

 

「そうこなくっちゃなぁ、椛?」

 

「貴様は……! 何故貴様がここに居る!? フランさんに何をした!!」

 

 竜人の大男を屠り、そして自身すら巻き込もうとしたフランの様子は、明らかに常軌を逸していた。

 身体から溢れ出している赤い魔力はただ凄まじく、陽の光を直接浴びているというのにまるで影響を及ぼしているようには見えない。

 両手で持つレーヴァテインの炎は、まるで地獄の業火のように禍々しい熱を放ち続けており、その熱は触れるだけで全てを融かし尽くすだろう。

 

 何よりも、今のフランの瞳には――冒涜的なまでの狂気が宿っているのが目に付く。

 気が触れた、などという生易しい表現ではとても追いつかない程の狂気。

 目に映るもの、その総てを壊し尽くしても尚止まらない。

 今の彼女は吸血鬼などではない、狂ってしまった破壊神と化している。

 

「フランの内に眠る“狂気”を引っ張り出しただけだよ、イリス達との戦いは不完全燃焼のまま終わっちまったからなぁ。暇つぶしの一つでもねえとつまらねえ」

 

「……貴様、イリスさん達を」

 

「死んではいねえだろうさ、まあ……無事でもねえがな」

 

「貴様ぁっ!!」

 

 地を蹴り、一直線に闇聖哉へと向けて踏み込む椛。

 瞳に絶殺の意志を込め、自分に向かって歪んだ笑みを見せる相手を両断しようとして。

 

「っ、くっ……!?」

 

 真横から迫る死の気配に、死にたくない一心で後退した。

 

「フランさん……!?」

 

「イヒ、イヒヒヒ……無視するなんてひどーいよぉ……ヒヒヒ」

 

 壊れた人形のようにケタケタと不気味な笑みを浮かべながら、フランはレーヴァテインの切っ先を椛へと向ける。

 そこに込められた殺意と狂気に、椛は戦慄する。

 ……完全に変貌してしまっている、今の彼女は誰もが知っているフランドール・スカーレットではない。

 

「存分に暴れろよフラン、今まで散々我慢してきたんだからよー」

 

「ヒハ……キャハハハハッ!!!!」

 

 その言葉で、完全にタガが外れたのか。

 フランはこの世のものとは思えない笑い声を上げながら、椛へと襲い掛かる……!

 

「フランさん、やめてください!!」

 

「キャハハハアアッ!!」

 

 椛の言葉は届かず、容赦なくフランは彼女へと攻撃を仕掛ける。

 反撃する事ができず、かといってこれだけの破壊力を秘めたレーヴァテインの一撃を真っ向から受け止める事も出来ず、椛は後退する事しかできない。

 当然フランはそんな椛を追いかけ、離れていく2人を闇聖哉は暫しの間愉しげに眺めてから。

 

「殺されるなよ椛、テメエはオレがオレ自身を殺してから……ゆっくり喰らってやるんだからな」

 

 身勝手な欲望を告げ、この場から消え去ってしまった……。


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