狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第16話 対峙~再び現る傀儡師~

 境内の石畳に落ちている砂や落ち葉を箒で集めていく。

 今頃ここに集まった少女達はみんな仲良く温泉に浸かっているだろう、湯気が見える神社の裏手に視線を向けつつ聖哉は1人神社の掃除を行なっていた。

 

「待ってる間は暇でしょ?」

 

 そう言って彼に箒を押し付けたのはこの神社の巫女であり博麗の巫女である霊夢。

 平然と掃除を押し付けようとするその根性に苦言を呈してやりたかったものの、彼女の機嫌を損ねて椛が温泉に入れなくなる事態だけは避けたかったので、彼はおとなしく箒を受け取り掃除をす羽目となった。

 まあ彼女の言う通り待っている間は暇であるのだから、境内の掃除ぐらいならば……まあいいだろう。

 

「――手伝いましょうか?」

 

 背後から声を掛けられ振り向く、そこにいたのは神社には似つかわしくないメイド服を着た少女であった。

 まだあどけなさを残すものの磨き上げられた宝石のような美しさを持つ銀の髪の少女は、もう一度「手伝います」と訊いてくる。

 

「……あんたは、たしか十六夜(いざよい)咲夜(さくや)だったか?」

 

「あら、私の事を知っているんですか?」

 

 不思議そうに首を傾げるメイドの少女、十六夜咲夜の態度に聖哉は内心苦笑する。

 彼女を知らぬ者などこの幻想郷には殆ど居ないだろう、何せ彼女は人間でありながらあの“吸血鬼”に仕えるメイドなのだから。

 それにしても彼女は何故博麗神社の境内に姿を現したのか、てっきり主である吸血鬼と共に温泉を満喫していると思ったのだが……。

 

「主であるお嬢様と共に入浴など畏れ多いですわ、お嬢様は構わないと仰ってくださいましたけど」

 

「成る程……できたメイドだな」

 

「メイド長ですから」

 

 むんっ、と誇らしげに胸を張る咲夜。

 その子供っぽい態度に聖哉はつい口元が緩みそうになり……周囲のある変化に表情を驚きのものへと変えた。

 ……まだ周囲には多数の落ち葉等が広がっていた筈だというのに、それら全てが一箇所に集まっている。それだけではなく、自分が持っていた筈の箒が咲夜の手に渡っているのは一体どういう事なのか。

 

「……今、何をした?」

 

「タネも仕掛けもない手品をしただけですわ」

 

 悪戯を成功させた子供のような笑みを向け曖昧な答えを返す咲夜に、聖哉は軽く睨みつける。

 そんな答えでは納得しない、そう瞳で訴えると咲夜はからかった事を謝罪しつつ自らの能力――“時間を操る能力”でこれを行った事を話した。

 

「デタラメだな」

 

「メイド長ですから」

 

「いや、それ関係ないだろ…………って、何してるんだ?」

 

「胸元を触っています。……堅い、やっぱり男の人の身体は女とは全然違うのですね」

 

 当たり前の事を呟きつつ、咲夜はぺたぺたと叩くように聖哉の胸元を触れ続ける。

 いきなりの奇行に聖哉はおもわず固まってしまい、その間にも彼女は無遠慮に胸元だけでなく二の腕や肩まで両手を伸ばしていく。

 

「まるで岩みたいに堅い……常日頃から鍛えているんですね」

 

「……なあ、何がしたいんだ?」

 

「ああ、すみません。殿方の身体に触れる機会が無いものですから、ちょうどいいと思いまして」

 

 一体何がちょうどいいのか、さっぱりわからない。

 あっけらかんと真顔で答えるものだから、本気で言っているのかからかっているのかも判断が付かず、聖哉は頭を抱えたくなった。

 

「次は……そのゆらゆら動く尻尾を触ってもよろしいでしょうか?」

 

「……訊きながら触るのはやめてくれないか?」

 

 すみません、謝りつつも咲夜は聖哉の尻尾を撫でる手を止めようとはしない。

 そればかりか尻尾を撫でる事に全神経を集中しているようにも見え、聖哉は開きかけた口を閉じおとなしくする事にした。

 幸い彼女の撫で方は乱暴なものではないし、態度を見るに気に入ってくれたようだから好きにやらせてやる事にしよう。

 それにだ、こういういまいち人の話を聞いてくれない少女はこの幻想郷では結構珍しくないので、気にするだけ無駄なのである。

 

「くんくん……もっと獣くさいと思ったのですが、無臭なのですね」

 

「躊躇いなく匂いを嗅ぐんだな……」

 

「ふわふわ、もこもこ……」

 

(なんか、想像と違ったな……)

 

 吸血鬼、レミリア・スカーレットの従者というくらいだから、もっと冷たいイメージがあったのだが実際の彼女は想像とは真逆の存在であった。

 マイペースでのんびり屋、少しばかり天然な面も見受けられる。だがそれがおかしいというわけではなく、聖哉としては寧ろとっつきやすい。

 まあ変わり者という点で言えば、今の彼女は想像通り……いや、それ以上なのだが。

 

「…………何やってるの、咲夜」

 

「くんくん……あら、お嬢様」

 

 聖哉の尻尾を堪能している咲夜に怪訝な表情で話しかけてきた、1人の少女。

 外見は幼いながらも美しい容姿と膨大な力を併せ持つ青髪の少女、彼女こそ十六夜咲夜の主である吸血鬼レミリア・スカーレットであった。

 いつも自分の傍らに居る彼女が居ないので、温泉から出た後に探し回っていたレミリアであったが……自身の目の前に広がる珍妙な光景に頭を捻ってしまう。

 大男の尻尾に顔を埋め幸せそうな表情の従者を見ればその態度も当然のものであり、一方の従者はあくまでもマイペースに主の問いに答えを返す。

 

「尻尾を触っているんです」

 

「それは見ればわかる、そうじゃなくて……何でそんな事をしているの?」

 

「? 気持ち良さそうだったからというのと、殿方の身体に興味があるからですが?」

 

「……OK、とりあえずアンタはもう少し言葉を選んで喋りなさい。傍から聞くと誤解を招くから」

 

 きょとんとしながら上記の言葉を返す従者に頭痛を覚えつつ、夜の王は日傘で日差しを遮断しつつも聖哉に向かって優雅に一礼をしつつ自らの名を告げた。

 

「はじめまして犬渡聖哉、わたしはレミリア・スカーレット。どうやらウチの従者が色々と迷惑を掛けたようだね」

 

 見た目は小さな子供ながら、その優雅な立ち振る舞いに聖哉はおもわず感嘆の息を零す。

 周囲の……というより文の評価では「500年生きているとは思えないおこちゃま」だという話だったが、やはり捏造だったようだ。

 

「いや、構わない……ところで、なんで俺の名前を知っている?」

 

「お前の後輩である白狼天狗から聞いたんだ。……おい咲夜、いい加減離れろ。いつまで尻尾に執着してるつもりだ」

 

「ですがお嬢様。聖哉様の尻尾は本当に気持ち良いんですよ? 気持ち良さで言ったら美鈴のおっぱいの感触に匹敵するほどですっ」

 

「拳を握り締めながら何を力説しているんだお前は!!」

 

 すぱんっ、と小気味良い音を響かせるほどの強さで咲夜の頭をはたくレミリア。

 さすがに効いたのか、彼女は聖哉の尻尾から離れ両手で頭を押さえながら悶絶し始めてしまった。

 

「……ホントにゴメン。こいつ時々突拍子もない事をしでかすから」

 

「あんたも大変だな」

 

 そう言うと、レミリアは「もう慣れたわ……」と、哀愁漂う表情でそう返してきた。

 どうやら今のような奇行は別段珍しいものではないらしい、それはそれで大事のような気もするが。

 

「お嬢様も触ってみればわかりますよ、さあほらほら」

 

「もうお前少し黙ってろ。……普段は仕事のできる良い子なのに、どうしてこう……」

 

「それは仕方がありませんわ。聖哉様の尻尾がそれだけ魅力的なんですから」

 

「おい、なんで俺が悪いみたいになってるんだ?」

 

 ジト目で咲夜を睨む聖哉、しかし彼女は何故自分が睨まれているのかわからないのかきょとんとするばかり。

 一方、レミリアはというと……先程の咲夜の言葉に興味が湧いたのか、視線をゆらゆらと揺れている聖哉の尻尾へと注いでいた。

 とはいえ彼女には吸血鬼としてのプライドがある、それなのに先程の咲夜のような醜態は晒したくはない。

 

「……触ってみたいのなら構わないぞ?」

 

「っ、い、いいわ……別に興味ないし」

 

 嘘である、さっきの咲夜の表情を見るに見た目では決してわからない柔らかさをあの尻尾は持っているとレミリアは理解していた。

 だからこそ触ってみたい、ふわふわもこもこの感触を味わいたい。

 しかしできない、プライドとか気恥ずかしさとか諸々の感情が、レミリアの行動を止めさせていた。

 

(触りたそうだな……まあ、吸血鬼のプライドがあるから無理か)

(お嬢様……プライドなんて捨てて愛でてしまえばいいのに)

 

 そんでもってレミリアの心中はあっさりと聖哉と咲夜に見破られていたりする。

 ただここで指摘をすれば間違いなく彼女は否定するし、最悪癇癪を起こす可能性があるので2人は無言を貫いた。

 それにだ、これも口には出せないが……尻尾に視線を向けながらも触りたそうに葛藤している彼女は、見た目も相まってたいへん可愛らしい。

 

(カメラが欲しいところですね……)

(……このメイド、また変な事考えてるな……)

 

 しかもさりげなく自分の尻尾を触ってきている、もうセクハラの域だろこれ。

 どうして自分と知り合いになる女性にはまともなのが殆ど居ないのろうか……そんな事を考えてしまう。

 

 

 

――だからだろうか、気づくのが遅れてしまったのは。

 

 

 

「――――」

 

 半ば無意識の内に、視線を境内へと向けたのが幸いした。

 第六感が自分達以外の存在を感じ取ったのか、それとも……咲夜に向けられた明確な“殺意”に気づいたのか。

 とにかく聖哉はその第三者に気づき、何かが飛んできたのをこの目で確認しながら。

 

 左腕を動かし、無防備な状態の咲夜の後頭部を庇った。

 

「えっ……」

「何……!?」

 

 聖哉の左腕に突き刺さる、短剣のような鋭い物体。

 それは深々と彼の肉を裂き、鮮血が地面と咲夜の髪を汚してしまった。

 

「……」

 

 左腕に視線を向け、突き刺さった物体を引き抜く聖哉。

 ぶしゅっ、という音を響かせながら再び鮮血が舞い、それには構わず聖哉は抜き取ったそれを投げ捨てながら視線を現れた第三者へと向け……驚愕した。

 

「…………睦月?」

 

 間の抜けた声が出てしまう。

 だが無理もなかった、彼が視界に収めたのは八雲紫が始末した筈の少女……睦月だったのだから。

 驚く聖哉が滑稽に見えたのか、睦月は小馬鹿にするようにくつくつと歪んだ笑いを零していた。

 

「せ、聖哉様……ち、血が……血が、沢山……!」

 

 突然の事態にまだ頭が追いつかないのか、咲夜は冷静さを失った表情で既に真っ赤に染まっている聖哉の左腕に視線を向けていた。

 それに「大丈夫だ」と一言告げてから、聖哉は尚も笑っている睦月を不快そうに見つめながら口を開く。

 

「どういうことだ? お前は……」

 

「八雲紫に始末された筈だ、か? はっ……あの自称賢者様でしかないババアに殺されるかよ、チート能力を持ってるからこそ詰が甘いんだよなああの大妖怪様は」

 

 肩を竦め、自分を殺し損ねた紫に対して最大限の侮辱の言葉を放つ睦月に、聖哉は表情を険しくさせた。

 あの紫に狙われ生きている事は驚きだが、かといっていつまでも呆けている場合ではない。

 生きているのなら今ここで始末する、目の前の存在はこの幻想郷にとって生かしておくわけにはいかないモノなのだから。

 

「……お前、なんか変わったな。見た目じゃなくて中身が」

 

「黙れ、それ以上囀るな。一体何の用があってここに現れたのか知りたくもないが、生きているのなら……ここで殺す」

 

「おおこわいこわい。白狼天狗風情が随分と生意気な口を叩くように――」

 

 爆音が響く。

 睦月が最後まで言葉を放つより速く、彼女の顔に真紅の大槍が炸裂した。

 

「おい、人のメイドに手を上げるとはいい度胸だな? 雑魚とはいえ度が過ぎるぞ?」

 

 真紅の大槍を放った吸血鬼、レミリア・スカーレットはその赤い瞳に憤怒の色を宿しながら、まるで地の底から響くような恐ろしさを込めた声を放っていた。

 容赦も躊躇いもない一撃である、通常ならば頭部を軽々と吹き飛ばすものだったが……。

 

「――吸血鬼様もいらっしゃったのですか、あまりに小さかったものですから気づきませんでしたよ。はい」

 

 直撃を受けたというのに、睦月にはさしたるダメージを受けた様子は見られず、そればかりか見る者を不快にさせるような笑みを浮かべながら挑発する余裕すら見せ付けてきた。

 額に青筋を浮かべるレミリア、すぐに自身の爪でズタズタに切り裂き粉微塵にしてやりたい衝動に駆られたが、自身の一撃を受けて平然としている睦月の異常さを感じ取り踏み留まる。

 

(全力ではないにしろ、ハートブレイクを受けてほぼ無傷だと……?)

 

 雑魚だとばかり思っていたが、どうやらそれは自分の認識が間違っていたとレミリアは考えを改める。

 

「ちょうど暇を持て余していた所なんだ、準備にもう少し時間が掛かるから……その間に、テメエを殺してやろうと思ってここに来てやったんだよ。犬」

 

「準備……? それはどういう……」

 

「囀るなって言ったくせに、話をさせようとするの? わんちゃんは自分の言った言葉も忘れてしまう程におバカさんなんですねー」

 

「……そうだったな。この場でお前を殺せば今の言葉の意味を問い質す必要はないわけだ」

 

 空気が変わる。

 妖力を開放し臨戦態勢へと移行した聖哉によって、周囲を纏う空気が重く冷たいものへと変化していった。

 ……その妖力の質に、聖哉以外の者達全てが僅かに驚きの表情を見せ始める。

 

(な、なんて凄い妖力……)

(白狼天狗だと聞いていたが、この力……明らかに白狼天狗のものじゃないわね……)

 

「ほーん……凄いもんじゃないか。素直に感心しちゃうよ」

 

「お前に感心される筋合いはない」

 

 地を蹴る。

 鍛え抜かれた筋力のバネを最大限に利用し、聖哉は一息で睦月との間合いを詰めた。

 

「ごっ……っ」

 

 鈍い打撃音と睦月のくぐもった悲鳴が響く。

 聖哉の右の拳による一撃は睦月の腹部へと突き刺さり、間髪入れずに彼は左の拳で彼女の顔を殴り抜いた。

 彼の攻撃はまだ終わらない、再び踏み込み間合いを詰めながらあらゆる角度から拳を放ち彼女の身体を打ち抜いていく。

 

 その一撃一撃には当然妖力によるブーストが施されており、大木すら容易く殴り倒せる破壊力が込められていた。

 聖哉の一撃が相手に入る度に鮮血が舞い、常人なら耳を塞ぎたくなるような鈍く重い打撃音が幾重にも響き渡る。

 皮膚が裂かれる、肉が軋む、骨が砕ける。

 もはや鬼の拳に匹敵する聖哉の猛撃はしかし、彼自身に勝利を手繰り寄せる感覚を与えてはいなかった。

 

(おかしい、なんだこのあっけなさは……)

 

 確かに初めて睦月と対峙した時よりも、自身の実力は上がっていると聖哉自身も自覚していた。

 だがこうも一方的に攻め立てる事が出来るほど、拮抗しているとは到底思えなかった。

 先程レミリアが放った一撃をまともに受けてもほとんど無傷だったというのに、妖怪としての位も単純な実力でも劣る自分の拳の猛攻程度でこんな状況は作り出せる筈はない。

 

 明らかな矛盾、傍から見れば圧倒的な有利な状況に対する違和感。

 それが聖哉の中で膨れ上がっていき、しかしチャンスだと相手の反撃が来る前に沈ませようと両の拳に更なる力を込めていく。

 

「っ!!??」

 

 突然、睦月の身体が消えてしまった。

 振るった拳は虚しく空を切り、すぐさま体勢を立て直し聖哉はいつの間にか離れていた睦月を視界に捉える。

 ……睦月の身体は既にボロボロの状態だった。身体の至る所はは青白く腫れ上がり左腕にいたってはあらぬ方向へと折り曲がっている。

 如何に肉体的に優れている妖怪であっても重傷と判断できるダメージだ、しかしそれでも睦月の表情は余裕の笑みに満ちていた。

 

(今のは……)

 

 一瞬、ほんの一瞬であったが睦月の気配が完全に消え去ってしまった。

 故に攻撃を空振りしたのだが、間近に居た筈の存在を見失うなど本来ならばありえない筈だ。

 睦月は何かの能力を隠し持っている、そう判断した聖哉は先程のように攻め続けるのは止め防戦に移ろうとして。

 

「っ、やめろ、椛!!」

 

 近くの茂みから飛び出し、睦月に向かって太刀を振り下ろそうとする椛に向かって叫び声を上げた。

 

「っ、くぅ……っ」

 

 奇襲しようと様子を窺っていたのだろう、そして好機と見て一気に間合いを詰めた椛の斬撃はしかし。

 

「――揃いも揃って、白狼天狗っていうのは頭が足りないのかなー?」

 

 まるで棒切れを掴むような手軽さで、あっさりと睦月の右手一本で受け止められてしまった。

 すぐに後退しようとする椛だが、刀身を指だけで掴まれているだけだというのに微塵も引き戻す事ができない。

 

「も――――」

 

 走る、睦月に攻撃する為でなく……椛を相手から引き離す為に。

 今の彼女は隙を見せてしまっている、そしてそんな状態を睦月が見逃す筈がない。

 足に今までにないほどの力を込め地面を踏み抜き、両者の間に割って入ろうとする聖哉だったが――それでも、遅すぎた。

 

「――――」

 

 足が、止まった。

 目の前に広がる光景が理解できず、聖哉は目を見開いて……。

 

「が、ぐ……」

「んー……いい感触」

 

 椛が、睦月に身体を貫かれている光景を、茫然と見つめる事しか出来なくなった。

 ……白を基調とした彼女の天狗装束が、彼女自身の血によって赤く染まっていく。

 やや幼げながらも整った彼女の顔は苦痛に満ち溢れ、口からはまるでポンプのように血を吐き続ける。

 

 その姿を、睦月は彼女の腹部を腕で貫きながら眺め、恍惚に満ちた笑みを浮かべている。

 彼女の痛みを嘲笑うように、罵るように、にたりと歪んだ笑みを刻み付ける睦月の姿は聖哉には悪魔のように映り。

 

「……せん、ぱ……」

「愛しい先輩に最期を看取ってほしいの? ならお望みどおりにしてあげるよ、睦月ちゃんの優しさに感謝してねー?」

 

 彼女の身体が宙を飛ぶ。

 腕を振るいまるでゴミのように睦月は彼女の身体を投げ捨てる。

 取り返しがつかなくなる程の血を身体から失いながら、椛の身体はぴくりとも動かぬまま飛んでいき。

 

 

 聖哉は、睦月の事など一瞬で意識の彼方へと追いやり、思考を真っ白に染め上げ何も考える事すらできなくなりながら――地面に叩きつけられそうになった彼女を、力なく抱き留めた……。

 

 

 

 

 

 




【簡潔なキャラ紹介】

・十六夜咲夜
紅魔館のメイド長、完璧で瀟洒なメイド……の筈だが、ここの彼女はマイペースで天然でちょっと変なメイドさんである。
レミリア曰く「普段は完璧」らしく、発作のように周りの空気とか状況とか諸々とか考えずに奇行に走るらしい。もう病気だろそれ。

・レミリア・スカーレット
紅魔館の主にして500年以上生きた吸血鬼。
咲夜さんが奇行に走る事があるせいか、常識人ポジションに収まった。
ただ見た目相応の子供っぽい一面もあり、吸血鬼としてのプライドも相まって見た目以上に子供に見える場合もある。
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