狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第24話 届く声~椛の叫び~

「えっ……!?」

「な、なんだ……!?」

 

 霊夢、魔理沙、そして咲夜の3人と、その3人をたった1人で相手をしているお空。

 里の外での死闘は終わりを見せず、両者共にダメージと消耗が激しい中――“ソレ”は起こった。

 一瞬の油断が死に繋がるこの状況でも、おもわず動きを止め人里へと視線を向けてしまう程の力を感じ取り、同時に里の中から爆撃めいた轟音と土煙が発生する。

 地面と建物を破壊しながら一直線に伸びていく土煙、やがてそれは里の壁の一部を破壊し漸く収まった。

 

(あれは……)

 

 もうもうと発ちこめる土煙の中、霊夢の視界があるものを捉える。

 それは1人の少女、しかし端正だったであろうその顔は醜くひしゃげ、もはや原形を留めてはいなかった。

 己の血によって真っ赤に染まりきったその顔は潰れたトマトのようにみっともなく、同時にどうしようもなく恐怖心を芽生えさせる。

 どれだけの一撃なら、あのような無惨な姿に変えられるのだろうかと、思わずにはいられない。

 

「…………おにーさん」

「っ」

 

 お空の呟きを耳に入れると同時に、里の方から勢いよく何かが飛び出す姿を目撃する。

 それは勢いよく跳び上がり、そのまま一直線に瀕死の重傷を負った少女――あとりへと向かって落ちていき。

 

「グガアアアッ!!」

 

 獣の咆哮を上げ、既に死に体であった彼女の身体に、漆黒のオーラに包まれた拳を叩き込んだ。

 耳をつんざくような音と、周囲の地面を削り飛ばす程の衝撃が巻き起こり、霊夢達にも突風が襲い掛かる。

 その破壊力は凄まじく、直撃を受けたであろう少女の命はもう消えたのだと見ずとも判ってしまった。

 

「一体何なの……?」

 

「……」

 

「お、おい……あれって……」

 

 土煙が晴れていき、3人は先程の攻撃を放った存在を視界に捉え……驚愕する。

 

「聖哉、様?」

 

「あいつ、なんであんな所に……それに腕と足、無くなったんじゃないのか!?」

 

 物言わぬ骸と化したあとりを静かに見下ろす聖哉の姿に、魔理沙と咲夜は驚愕を隠せない。

 橙に彼の今の状態を聞いているからこそ、何故彼が五体満足で戦いの場に現れたのか理解できなかった。

 

 一方、2人と同じく驚愕しつつもある程度冷静を保っていた霊夢は、彼の身体から溢れ出している“力”に意識を向けていた。

 目視できる程の高純度な力の塊、黒い蒸気のように彼の身体から放出されているそれは、妖力ではない。

 かといって霊力でもない、この力は……。

 

「――――立て」

 

 小さく、呟くように放たれた筈のその声は、霊夢達にも届いた。

 ……なんという冷たく重い声か、激情に任せた怒りとは違う心が凍り付くような恐ろしさが込められた呟き。

 

「――立て、立て、立て……!」

 

 繰り返し、壊れたレコーダーのように聖哉は既に死に絶えたあとりに訴える。

 その異常な光景に3人は目を見開き、彼の精神状態が普通ではないと嫌が応にも理解した。

 

「立てと……言っているだろうっ!!」

 

 鈍い打撃音、骨が砕け臓器が破壊される不快な音色が周囲に響いた。

 ……もう死んでいる、誰の目にも明らかだったというのに。

 だというのに、聖哉は尚も骸となったあとりの身体にその拳を叩き込んだ。

 なんという残虐な行いか、死者への冒涜に等しい彼の行動に霊夢達は言葉を失った。

 

「何を勝手に死んでいるんだ……椛達が受けた苦しみは、痛みは、こんなものじゃない!!

 お前達の命を何度失おうが晴らせない、この怒り、この憎しみは消えないっ!!」

 

 地面が揺れる、もはや鬼の力に匹敵する拳を何度も何度も骸へと叩きつけ、返り血で自身が赤く染まる事も構わず尚も殴り続ける。

 その異常な光景を、誰も止める事ができず全員が……お空ですら、凄まじい形相の聖哉を茫然と眺める事しかできない。

 

「っ、ガアッ!!」

 

 突然立ち上がり、虚空に向かって拳を放つ聖哉。

 瞬間、空間が裂けそこから飛び出した手が彼の拳を受け止める光景が全員の目に映る。

 

「紫……!?」

 

 この現象はスキマを開いた時のものだ、だが現れたのは八雲紫ではなかった。

 

「おーこわっ、どんな目をしてたら閉じてるスキマが視えるんだか。千里眼マジパネェ」

 

「睦月ぃぃぃぃぃぃぃ……っ!!」

 

「うはっ、求められて睦月ちゃん嬉しいですわ~」

 

 大袈裟な身振り、完全に聖哉を馬鹿にした態度は彼の憎しみを増大させる。

 放たれる拳、先程よりも威力が増したソレを睦月はスキマを閉じる事で回避すると共に、お空の元へと移動した。

 

「お空ちゃん、帰るよ~」

 

「えっ? でも、地上を灼熱地獄に変えるんじゃないの?」

 

「それはまた次の機会にしよう、お空ちゃんも疲れてるだろうしまだ完全に力を使いこなせてるわけじゃないっしょ?」

 

「はーい」

 

 開いたスキマへと入るお空。

 このまま逃げるつもりか、そうはさせないと霊夢は札を投げつける。

 飛んでいく四枚の札は、見事スキマの中へと投げ込まれようとして……霧散した。

 

「っ」

 

「テメエらの相手はまた今度してやるから安心しろって、そんな事より……アレ、殺した方がいいんじゃねえの?」

 

 また来週~、最後までふざけた調子のまま、睦月はスキマを閉じその場からお空と共に消え去ってしまう。

 もはや気配の残滓もなく、しかし霊夢達はその事をいつまでも考えている余裕など無かった。

 

「ウッ、グッ……ウオォォォォォッ!!」

 

 聖哉の様子が、より一層おかしくなっている。

 苦しみ出したと思ったと同時に咆哮を上げ、空気を奮わせた。

 そして――血走った眼で、彼は霊夢達を睨みつけてくる。

 その瞳に正気は見られず、今の彼は狂気に支配された獣そのものと化していた。

 

(っ、拙い……!?)

 

 視線を向けられた瞬間、霊夢達は彼から離れなかった事を後悔する。

 ……あの眼は、駄目だ。

 光の焦点は消え、深淵の闇を思わせる深い深い憎悪に満ちた瞳は、映る者全てを破壊する。

 

 先程睦月はこう言った、聖哉を殺した方がいいのではないかと。

 それは決して皮肉でもなんでもない、彼女は判っていたからだ。

 既に聖哉が正気を失っている事を、そしてこれ以上この場に居たら――彼に殺されるという事を。

 

「魔理沙、咲夜、あんた達はここから離れなさい!!」

 

 お祓い棒と札を構えつつ、霊夢が2人にそう告げると同時に、聖哉が動いた。

 ギチギチという音を響かせながら筋肉を膨張させ、一瞬で霊夢の眼前へと移動する。

 

「――――」

 

 身構えていた、油断をしたつもりも無かった。

 だというのに反応できない、それほどまでに聖哉の動きは速過ぎる。

 鋭く尖った爪が迫る、防御も回避もできない中であんなものを受ければ……。

 

「グガッ!?」

「っ」

 

 聖哉の爪が、霊夢の身体を引き裂こうとした瞬間。

 黄金色に輝く長方形の結界が、檻のように彼の身体を閉じ込めた。

 背後に気配、それと同時に感じた妖力を察知した霊夢は振り向きながら声を張り上げる。

 

「ちょっと紫、一体何処で油を売って――」

 

 振り向いた先に居たのは予想通り紫だったが、霊夢は彼女を見て文句を言う口を閉じる程の衝撃に襲われた。

 現れた紫はいつもとはまるで違う、余裕に満ちた胡散臭い笑みは完全に消え……今にも倒れそうな程に弱々しい顔付きだった。

 額には汗を滲ませ、呼吸は荒く、式である藍に肩を貸してもらっているその光景は、あまりにも儚い姿だ。

 

「ち、ちょっと……どうしたのよアンタ」

 

「……少し、無理をし過ぎたかも、しれません……わね」

 

「おいおい、本当に辛そうだぞ……?」

 

「一体何があったのよ?」

 

 魔理沙と咲夜も、普段とは違う紫の姿に困惑を隠せない。

 ……ガラスにヒビが入るような音が響く。

 全員が其方に視線を向けると、聖哉が唸り声を上げながら紫が展開した結界を破壊しようとしていた。

 

「ふ、ふふっ……こうも簡単に破壊されるとなると、嬉しい反面ちょっとだけ悔しい……ですわね」

 

「……紫、もしかしてアンタ……今のアイツの状態が何なのか、知ってるの?」

 

「……」

 

 霊夢のその問いに、紫は何も答えず意味深に笑みを浮かべるのみ。

 この期に及んでまだ隠し事をするのか、彼女の態度に苛立ちを隠せない霊夢であったが、今はそれどころではないと思考を切り替える。

 

「霊夢、あの子を止めて……殺しては駄目よ」

 

「どうしてよ?」

 

「あの子の力はこの幻想郷には必要なの、だから……」

 

「幻想郷の、じゃなくてアンタが必要なだけじゃないの?」

 

 何かを隠しているアンタの話なんて聞いてやらない、睨みつける瞳でそう告げる霊夢。

 他の2人も、何も言わないが霊夢と同じ考えなのか黙って紫を見つめていた。

 

(……仕方ない、か)

 

 これ以上の隠し事は自分の首を絞めるだけだ、そう判断し紫は静かにため息を吐いた。

 本来ならば、彼を自分のものにしてからにするつもりだったが致し方あるまい。

 

「これが終わったら彼の事は必ず話すわ、だから……」

 

 だからお願い、そう言い掛けた紫の意識が突如途切れる。

 

「紫!?」

 

「……霊夢、紫様はもう本来ならば“眠りの時”に入っておられる。その意味が判るな?」

 

 眠りの時、藍が放ったその言葉で霊夢は紫の不調の原因を理解する。

 八雲紫という妖怪には、長い眠りに就かなければならない期間が存在している。

 主に冬にそれを行う事から少しばかりの皮肉を込めて“冬眠”と呼んでいるその時期に差し掛かると、紫の身体は著しい弱体化に見舞われるのだ。

 

「睦月というイレギュラーが現れ、紫様は“眠りの時”が訪れても動かなければならなかった。

 ただ単に日常生活を送るだけならばさほど問題にはならない、だがこの短い期間の間に紫様はご自身の能力を多用してしまったのだ」

 

 相手の境界を操り存在そのものを消滅させる、前に睦月へと行なったその能力行使は確実に紫へと負担を掛けていた。

 既に限界は超えていた、そして先程聖哉の動きを封じる為に展開した結界によって、負荷に耐え切れず意識を失ったのだろう。

 

「私は紫様を休ませてやらねばならない、後の事はお前に押し付ける形になるが……どうか、紫様の願いを聞き入れてはくれないか?」

 

「………………わかったわよ」

 

 本当に仕方ないとばかりに、ため息混じりに承諾する。

 紫の態度は気に入らないが、このまま聖哉を退治するのは目覚めが悪い。

 彼は妖怪だ、だが地底での一件もあるし正体も気になった。

 霊夢の承諾に藍は「すまない」と一言告げ、屋敷に繋がるスキマを展開し消えていった。

 

「あんた達は付き合わなくても良いのよ?」

 

「1人じゃ無茶よ、それに聖哉様にはいずれ紅魔館に招待したいとお嬢様が仰られているから、死なれては困るの」

 

「それにこれも立派な異変だからな、異変解決のプロとして見過ごせないっての」

 

「勝手にしなさい。でもね」

 

 この相手は、殺す気で戦わないと勝てないわ。

 霊夢が、静かにそう告げた瞬間。

 

「――オォォォォォォォッ!!」

 

 

 紫が展開した結界が破壊され。

 狂気に満ちた黒き狼が、地を揺るがす咆哮を上げた。

 

「っ」

 

 弾け飛ぶ勢いで踏み込む聖哉に、霊夢が動く。

 既に右手に持つお払い棒にはありったけの霊力を込め、真っ向から巨人へと迎え撃った。

 

「――」

「……」

 

 その光景を、次いで動こうとした魔理沙と咲夜は、援護も忘れて魅入ってしまっていた。

 絶え間なく交差する2つの影、ぶつかり合う度に大気は揺れ空気が震える。

 聖哉が放つ拳や蹴りは、ただ圧倒的だった。

 一撃一撃が鉄塊を砕き、粉塵にする程の破壊力を秘めたそれを、霊夢は神懸かり的な勘の良さで受けていく。

 

 死神の鎌を連想させる死の予感に微塵も怯まず、最大の力で弾き返し反撃する霊夢。

 渾身の力で対抗しなければ、彼女の身体は容易く展開している護りごと吹き飛ばし破壊される。

 だから余力など残せず、後の事など考えずに霊夢は全身全霊の力で対抗していた。

 

 介入など、できるわけがない。

 何もかもが違い過ぎる、速度も、強さも、入り込める余地など2人には無かった。

 いつもの弾幕ごっことは違う、互いの命を削り合う文字通りの死闘。

 そんなものに介入できるわけがなく、けれど魔理沙は臆した自分を叱責しながら八卦炉を構えた。

 

「――くらえっ!!」

 

 効く事を願うように叫び、魔理沙は魔弾を撃ち放つ。

 現在、霊夢は聖哉の一撃によって弾かれ互いの距離は開いている。

 そこに撃ち込まれるのは、貫通力に特化した魔弾。

 

 彼女の得意技であるマスタースパークでは霊夢も巻き込まれる、かといって並の魔法では通用しない。

 なので魔理沙は貫通力と速度を重視した魔弾を生成、弓のように放たれたそれは見事聖哉の眉間へと命中し。

 

「な、に……」

 

 けれどそれだけ、命中した聖哉には塵芥の効果すらなかった。

 ダメージを与えるどころか注意すら逸らせない、当たった事すら認識していない様子の聖哉は再び霊夢へと肉薄する。

 

「そんな……」

 

 自分の無力さを、魔理沙は初めて痛感する。

 何もできない、目の前で霊夢が死の中で戦っているというのに何もできない。

 あまりにも無力な自分に、魔理沙は俯き悔しそうに唇を噛み締める。

 

「――魔理沙、限界まで魔力をチャージしなさい」

 

 そんな彼女に、咲夜は両手にナイフを握りしめながら指示を出す。

 

「えっ」

 

「いいから、限界まで魔力を高めておきなさい。――その時が来るまでね」

 

 視線は2人の戦いに向けながら、冷静にそう告げる咲夜に、訝しげながらも魔理沙は頷きを返し魔力を高めていく。

 彼女の意図は判らないが、このまま何もしないままではいられない。

 きっと咲夜には何か策があるのだ、ならば今はその指示に従おう。

 

「ぐっ……!?」

 

 霊夢の身体が弾け飛ぶ。

 右手に持っていたお祓い棒は無惨にも砕かれ、その衝撃が彼女の身体を宙に浮かす。

 わずか一瞬、それだけの短い間ではあるが彼女の呼吸が止まり動きが鈍る。

 本当にわずかな、しかし今の聖哉を相手にしてはあまりにも大き過ぎる隙。

 

「オォォォォオッ!!」

 

 聖哉が吼える、同時に放たれる左足による回し蹴り。

 獲物を失った霊夢は防御用の“二重結界”を展開、彼の一撃とぶつかり合い――呆気なく結界が砕け散る。

 

 身体を曲げ、直撃を受けた霊夢の動きが完全に止まった。

 すかさず聖哉は左足を振り上げる、そこから放たれる踵落としはギロチンの刃を思わせた。

 咳き込み動きを止めた霊夢に防ぐ手段は無く、しかし両者の間に咲夜が割って入り、必殺の一手を繰り出した。

 

「はああああっ!!」

「っ、ガアアッ!!」

 

 身の危険を察知し、聖哉は霊夢への攻撃を中断し意識を咲夜へと向ける。

 瞬間、彼女の目が血のように赤く染まり――残像を思わせる程の斬撃が繰り出された。

 それを拳の連打で対抗していく聖哉、その凄まじい拳打を前にしても、咲夜の斬撃は一歩も引いてはいない。

 

 否、少しずつではあるが咲夜の斬撃が聖哉を圧していく。

 ――傷魂、ソウルスカルプチュア。

 自身の能力によって自らの時を加速させ、人間では決して放てぬ連続攻撃を繰り出す文字通り咲夜の必殺技の1つ。

 その攻撃が、場の戦況を一気に終局へと導いていった。

 

「ガガッ……!?」

 

 拳による対応が間に合わず、斬撃をまともに浴びる聖哉。

 しかしダメージは小さい、常に放出している黒いオーラが鎧となって彼を守護しているからだ。

 だが、そんな事は咲夜とて理解している、この攻撃が決して致命傷にならない事もだ。

 自分の役割はあくまで聖哉の動きを止める事、後は――あの2人が何とかする。

 

「――霊夢、魔理沙!!」

 

 能力の酷使による限界が訪れ、優勢だった咲夜は自らの意志で後退する。

 彼女の声を受けて、準備を終えた霊夢と魔理沙が動いた。

 

「霊符――」

「魔砲――」

 

 霊夢の周囲に浮かぶ七色の霊弾、八つあるその一つ一つが家屋1つを軽々と吹き飛ばす霊力が圧縮されている。

 そして魔理沙が翳す八卦炉にも、霊夢の霊弾にも勝るとも劣らない魔力が生成されておりそして。

 

「――夢想封印!!」

「――ファイナルスパーク!!」

 

 まったくの同時、息を合わせた2人の一撃が放たれる――!

 極光に輝くレーザー砲と、七発の霊力弾。

 放たれると同時に最高速に達したそれは、避ける隙はおろか当たると自覚する間もない光速の一手。

 

 だと、いうのに。

 

「オオオオオォォォォォッ!!」

 

 今まで以上の噴出を見せる黒いオーラ。

 禍々しさを増したそれは、まるで盾のように聖哉の前へと明確な形を形成した。

 咲夜の攻撃によって隙を生み、その隙を突いて放った奇襲に反応する。

 まさに怪物、勝ったと決して驕りではない認識を抱いた霊夢も魔理沙も、凍りつく程の反応速度。

 

 しかし、それでも防ぎきる事などできない。

 反応できたものの、完全な防御にはならなかったのか、黒いオーラで生成された盾が一瞬で砕かれる。

 そのままファイナルスパークの光に包まれる聖哉の身体、そこへ夢想封印の光弾が加わり、周囲に目と耳を塞ぎたくなるような衝撃と爆音が響き渡った……。

 

 

 ◆

 

 

 周囲の空気が燃えている。

 2人の一手による破壊力がそれだけ凄まじいと物語っており、その証拠に聖哉が居た場所は白煙に包まれていた。

 

「…………おい、冗談だろ」

 

 魔理沙の呟きが、2人の耳にはっきりと響く。

 しかし霊夢も咲夜も、彼女が放った呟きと同じ驚愕を味わっていた。

 ……白煙が薄れていく、その中から。

 

――明確なダメージを受けながらも、しっかりと霊夢達を睨む黒き狼の姿が現れた。

 

 皮膚は焼け爛れ、全身から滴り落ちる血の量を見るに重傷なのは間違いない。

 だがほぼ全ての力を使った霊夢達と違い、彼にはまだ戦う力が残されていた。

 

(拙い、もう力が……)

 

 お空との戦闘、そして聖哉へと放った全身全霊の夢想封印。

 それにより霊夢の霊力は尽きかけており、かろうじて飛行を維持するだけで精一杯だ。

 魔理沙と咲夜も同じ状況に陥っており、彼が再び動き出せば即座に全滅するだろう。

 

「ウ、ウゥ……」

 

 痛みからか、先程のような勢いはなく弱々しい唸り声を上げる聖哉。

 しかしその眼光は些かの衰えを見せず、同時に汚濁のような殺意と狂気の中に……僅かな光が見えたような気がした。

 それも一瞬、狂気に支配された聖哉は今度こそ霊夢達の命を奪おうと動きを見せ。

 

 

「――――先輩!!」

 その声に、黒き狼は凍り付いたかのように動きを止めた。

 

 

 全員の視線が、声のした方向へと向けられる。

 そこに居たのは、今にも泣き出しそうな程に弱々しい表情を浮かべた白狼天狗、犬走椛だった。

 腕や足など素肌が見える部分には包帯が巻かれ、乱れに乱れた呼吸は彼女が重傷のままここに居る事を示している。

 

「先輩……もう、やめてください……」

 

 それでも彼女は、自身の状態など関係ないと彼に語りかける。

 瞳に溜まった涙を流し、これ以上の暴走はやめてほしいと訴える。

 あまりにも無謀、今の彼には言葉など届かず迂闊に意識を向けられれば死期を早めるだけ。

 

「……ウ、あ……」

 

 そう、言葉など届かない、筈だというのに。

 椛の声と姿を見た聖哉の様子は、明らかにおかしくなっていた。

 

 困惑、後悔、そして深い悲しみ。

 狂気に満ちた瞳の中に、様々な感情が現れ溢れそうになっている。

 

「何があったのかはわかりません、でも先輩は……私の知ってる先輩は、こんな事をするような人じゃない」

 

「あ、グ……ッ」

 

「お願いです、もう……止まって、ください……」

 

 ぐらりと、椛の身体が揺れる。

 ……元々今の彼女は自由に動ける状態ではなかった、それだけの傷を負っていたのだ。

 故に限界は簡単に訪れ、意識を失った彼女はそのまま地面へと向かって落ちて……。

 

「ア、ガ――アアアアアアッ!!」

 

 黒き狼が叫ぶ、しかしその叫びは決して破壊と殺戮を楽しむ獣のモノではなかった。

 それは抵抗の叫び、己を取り戻さんとする犬渡聖哉としての叫びであった。

 

――鈍い打撃音が、聖哉の額から響く。

 

 何を思ったのか、彼は自らの拳で自身の額を殴りつける。

 加減など微塵もせずに、頭ごと粉砕するような勢いで、殴った。

 額から流れる血、だがその無意味ともとれる行為は。

 

「――椛!!」

 彼が犬渡聖哉に戻るには、充分過ぎる効果を発揮していた。

 

 黒きオーラを両足を纏わせ、聖哉は飛んだ。

 その速度、一瞬で最高速に達したそれは鴉天狗に勝るとも劣らぬ高速。

 見事彼は地面に激突する前に椛を抱きかかえ、空へと戻る。

 

「……」

 

 椛は、完全に意識を失っていた。

 これだけの怪我を負いながらも、自分の為にここまで来てくれたのか。

 そう思うと、聖哉は己の弱さを呪いたくなった。

 

「……すまない。迷惑を、掛けた」

 

 霊夢達に向かって頭を下げる。

 こんな程度では許されない、霞がかっているものの……自分が今まで何をしていたのか、記憶には残っていた。

 命を奪いかけてただの謝罪では許されない、自分のできる限りでの贖罪をしなければ……。

 

「疲れた」

 

「えっ?」

 

「疲れたから、私達を今から永遠亭に連れて行きなさい。あ、治療費はそっち持ちでね」

 

「だな……もう煙も出せねえ」

 

「聖哉様、よろしくお願い致します」

 

「…………わかった。今回の詫びは必ず」

 

 そこまで言い掛けた聖哉の頭に、霊夢は割と全力の拳骨を叩き込む。

 続いて魔理沙と咲夜もそれに続き……全員が聖哉の石頭の前に悶絶する。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「……とにかく、そういうのは今はいいからさっさと連れてってくれる?」

 

「あ、ああ……」

 

 確かに今は消耗が激しい3人を休ませる事が先決だろう。

 そう思った聖哉はおとなしく頷き、黒いオーラで3人を抱え始めた。

 

「……ねえ、これ大丈夫?」

 

「ああ、大丈夫だ。――不思議と、使い方が判る」

 

「不思議な感覚ね、でも暖かいお湯の中に居るような……」

 

「悪くないよな。見た目はちょっと恐いけど」

 

 そうして、聖哉は霊夢達を連れて永遠亭に向かい出した。

 ……戦いは、一応の終わりを見せたものの終わったわけではない。

 更に謎も残ってしまった、先程の自分と今のこの力は一体何なのか。

 

 そして、またもお空を連れていかれてしまった。

 次は決して逃がさない、そう決意を抱き聖哉は休息の時に向かう。

 

 

 

 

『久々に遊べたぜ、次はいつ目覚めっかな?』

 脳裏に響くその声を、無視しながら。

 

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