狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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先週の日曜日からパソコンが壊れ、昨日まで抽出したデータ等を入れ替える作業をしていたため投稿が遅れてしまいました、申し訳ありません。


第25話 反撃の一手~聖哉VS睦月~

「……今日は忙しいわね」

 

「悪かったわね」

 

 わざとらしい皮肉を口にする永琳に、霊夢は本心から悪いとは思いつつも彼女を軽く睨みつける。

 確かにいきなり大人数で押し掛けたのは事実だが、他に患者は居ないし暇そうだったのだから良いではないか。

 

「それで、あいつらの容態は?」

 

「かなり消耗しているようだけど大丈夫、八意印の滋養強壮剤を服用して今はぐっすり眠っているわ」

 

 今から二十四時間程経過すれば完治するでしょう、そう告げる永琳に聖哉と霊夢は揃って微妙な表情を彼女に向ける。

 というのもその八意印の滋養強壮剤とやら、とてつもない異臭を放っていたのだ。

 永琳曰く「手っ取り早く且つ身体に極力負担が掛からないように回復するにはうってつけ」らしいが、どう見ても劇薬です本当にありがとうございました。

 

「お前、私達にトドメを刺すつもりだろ!?」

 

 今からそれを飲まされると聞かされて放った魔理沙の発言が、その薬の危うさを物語っていた。

 当然咲夜も断固拒否、しかし永琳は構わず力ずくで二人に服用。

 ……結果、とても少女が放つとは思えない悲鳴を上げ、二人はバタンとぶっ倒れ動かなくなったのはつい先程の話である。

 

「あの薬、本当に大丈夫なの?」

 

「大丈夫に決まっているじゃないの、一体何が不安なのかしら?

 ああ、それと聖哉。あなたの後輩の白狼天狗だけどね……こっちは山での治療があったからかゆっくり休めば大丈夫だから」

 

「そうか……感謝する。ところで、椛にはあの薬は飲ませていないだろうな?」

 

「ええ、だって飲む必要はないもの。……だから、一体何が不安だというのかしら?」

 

 

 全部だよ全部、聖哉と霊夢が同時に放ったツッコミはしかし永琳には届かず、彼女に首を傾げさせるのみに終わってしまう。

 ……やめよう、本当はもう少し追及したかったが時間がないと聖哉は思考を切り替えた。

 

「霊夢、お前の体調はどうなんだ?」

 

「大丈夫よ。体力も霊力もそこの怪しいマッドサイエンティストのおかげで元に戻ってる。

 ……睦月を追うの? だけどどういうわけかアイツ紫の能力を使えるから、何処に居るのかわからないわよ?」

 

「それは問題ない。――この“眼”はあいつを捉えている」

 

「えっ……」

 

 それはどういう意味なのか、そう霊夢が問いかける前に……彼女は彼の変化に気づく。

 ――聖哉の瞳が、変化している。

 開ききった瞳はただ黒く、漆黒よりも暗い深淵の闇の如し。

 そして彼の身体から溢れ出す黒い煙のようなオーラは、あの時と同じ禍々しさを放っていた。

 

「大丈夫だ霊夢、意識ははっきりしている」

 

「……それならいいけど」

 

「あら、使いこなせるようになったの?」

 

 意外そうに、少しだけ感心するように聖哉の黒いオーラに視線を向けつつ言い放つ永琳。

 

「知っていたのか?」

 

「ええ、前にあなたを診察した時に気づいていたわ。目覚める兆候もなかったから放っておいたのだけれど」

 

「……」

 

 気づいていたのなら言ってくれてもいいではないか、そう言いたかったが永琳に非があるわけでもないので我慢する。

 黒いオーラに意識を向ける、すると彼の身体から絶えず立ち昇るオーラは念じるままに姿形を変えていった。

 剣や槍のような武器を作ったり、オーラによる巨大な腕を形作ったり……まるで粘土細工のようだ。

 これは既に自分の手足も同然、思うがままに操ることができ相手を倒す武器にも身を守る鎧にもなる生命の力。

 

 ……知らない知識が、聖哉の中に入ってくる。

 前々から知っていたかのようにすんなりと、頭の奥底まで馴染んでいく。

 この力は一体何なのか、そして自分は何者なのか……自分自身が解らないというのは、これほどまでに恐ろしく同時に不安になるものなのか……。

 

「わけわかんない気持ちになるのはわかるけど、今は一旦置いておきなさいよ。

 紫には冬眠から醒めた時に全部吐くように言っておいたから」

 

「…………そう、だな。今は自分のやらなければならない事を考えるよ」

 

 気持ちを切り替える言葉をくれた霊夢に感謝しつつ、聖哉は黒いオーラを纏わせた“千里眼”を発動する。

 ――景色が、一変した。

 普通の目では見えないモノが、空間の亀裂や綻びが彼の瞳に映っている。

 本来ならば認識できないモノや事象を認識し、理解し、捉えるという魔眼。

 それが本来の“千里眼”、彼が新たに手に入れてしまった能力の一つであった。

 

「…………視えた。スキマの中を移動していやがる」

 

 傍らにはお空の姿も確認できる、だが身に纏う力は小さくなっていた。

 どうやら霊夢達との戦いから碌に休まず行動しているらしい、弱体化している事がわかりこれはチャンスだと思い聖哉は霊夢へと進言する。

 

「妖怪の山……いや、方角的には紅魔館に向かってる。だがお空は里での消耗を引き摺ったままだ、このまま一気に勝負を決めるぞ」

 

「私達が聖哉と共倒れになったと思って、その隙に他の勢力を潰そうと考えているって所かしらね」

 

 だとするならば、聖哉の言う通りこのまま勝負を決めるのが正しい選択かもしれない。

 どちらも厄介な存在である片割れのお空の力が弱まっている今ならば、少なくとも八咫烏という神々をその身に宿したお空だけは止められる筈だ。

 それに紅魔館はこの幻想郷のパワーバランスの一角を担っている、そこが壊滅すればそれこそ別の問題が発生しかねない。

 

「いいわ。装備が少し心許ないけど準備している暇はなさそうね」

 

 手持ちの獲物はお祓い棒と十数枚の札のみ、神社に戻れば補充ができるがそれでは相手に先手を許してしまう。

 それではダメだ、散々煮え湯を飲まされたのだから今度はこっちが奇襲を仕掛けなければ割に合わない。

 

「永琳、椛の事をお願いします」

 

「ついでにあいつらの面倒もお願いするわ」

 

「ええ、任せて頂戴」

 

 外へと出る、そしてそのまま竹林の外へと飛び去ろうとする霊夢だったが。

 

「霊夢待て、お前は“これ”に乗っていけ」

 

「これって……これ?」

 

 訝しげな表情を浮かべる霊夢の視線の先には、黒いオーラで形成された巨人を思わせる巨大な腕が。

 まあ、確かに大きさからして霊夢一人くらいなら余裕で乗せられるし、手の平を真上に向けているから一応問題はない。

 

「できる限り霊力を消費しない方がいいだろう。さあ早く」

 

「わ、わかったわよ……」

 

 少々躊躇いながらも、霊夢はオーラの腕へと飛び乗った。

 足から伝わる感触は意外にも固いもので、しかしかといって地面とは違う不明瞭さがある。

 例えるなら固めた雲に乗っているかのような、正直安心感に欠ける乗り心地であった。

 

「掴まってろ、飛ばすぞ!!」

 

 聖哉のオーラが膨れ上がる。

 彼の言う通りにしないとヤバい、そう理解した霊夢はとりあえず全身で締め上げる勢いで腕へと掴まり。

 

「!!??」

 

 瞬間、視界が横にズレた。

 霊夢が速いと認識を抱いた時には、既に二人は竹林を抜けた上空を浮いていた。

 ……凄まじい速度だ、速さだけならあの幻想郷一の速度を自称する文にも負けていない。

 

(オーラを足に……成程、速度上昇の原理は文や魔理沙と同じか……)

 

 魔理沙は魔力を、文は自らの能力によって生み出した風によって推進剤を作り出す。

 聖哉の場合は両足に纏わせたこのオーラがその役割を担っているのだろう、ただし力の桁は二人の比ではない。

 

(よし、このやり方なら身体能力を補える……!)

 

 情けない話だが、自分では睦月を仕留めるどころか倒すことすらできやしないと聖哉は認識していた。

 だがこの黒いオーラがあれば、攻撃力や防御力やスピードを通常時の数倍まで高めることができるだろう。

 得体の知れない危険な力かもしれない、だが今は……この力を利用する以外に勝機は見出せない以上、使うしかない。

 あの時のような暴走は二度と起こしてはならない、そう自分に強く言い聞かせてから、聖哉は霊夢と共に紅魔館へと弾丸のように飛んで行った……。

 

 

 

 

「……ぐうぐう、すやすや……」

 

「おぉー……」

 

「見事な寝入りっぷりだな、感心してしまうくらいだ」

 

 妖怪の山の麓に存在する霧の湖の中心に建つ吸血鬼の館、紅魔館の門前にて主のレミリア・スカーレットとその妹であるフランドール・スカーレットは日傘を差しつつ門の前で寝ている館の門番である筈の紅美鈴へと視線を向けていた。

 その寝入りっぷりやレミリアが「見事」と言いたくなるほどのものだった、門に背中を預け腕組をし、それはそれは大きな鼻提灯を出し入れしている。

 女性としてあんまりといえばあんまりな姿である、時折不気味な笑い声を放つし涎も出てるし……百年の恋も冷めるほどの堕落っぷりだ。

 そもそも午後とはいえ冬の空の下で何故こうも爆睡できるのか、もはや一種の才能である。

 

「こんなに気持ちよさそうだと、起こすのがちょっぴり可哀想だね。お姉様」

 

「フランは優しいな。だがこいつは今勤務中で咲夜がいない今では臨時のメイド長でもあるんだ、このまま寝かせたままでは今晩の夕食がそれはそれは質素なものに……」

 

「美鈴、起きなさい」

「ごはぁっ!?」

 

 鈍い打撃音が、美鈴の腹部から響く。

 このままでは夕食が質素になるという姉の言葉を耳に入れた瞬間、フランドールが容赦など微塵もない腹パンを美鈴へと叩き込んだのだ。

 吸血鬼のパワーによる拳は大岩すら粉々にする、それを無防備な状態で受ければたとえ妖怪であってもただでは済まない。

 

「お、おごご……な、何をするんですか妹様……」

 

 しかし美鈴は涙目になり何度も咳き込みながらも、しっかりと反応を返し抗議すらする余裕を見せた。

 さすが紅魔館の門番である、勤務中に寝ることもあるが基本スペックは優れているのだ。

 

「美鈴、もうそろそろ小悪魔と門番の交代の時間だ。その後は館の掃除と図書館の整理の手伝いと夕食の仕込み、わかったらさっさとやる」

 

「えぇー……そんなに仕事があるんですかあ?」

 

「当たり前だ。今は咲夜が居ないんだからお前がやれ、そもそもあの子が来る前は美鈴がメイド長だったじゃないか」

 

 そりゃそうですけど……あからさまに不満そうな声を上げる美鈴。

 だが決してレミリアは甘やかさない、そもそもさっきまで寝ていた上に仕事の交代を主にわざわざ告げさせている辺り、場所が場所ならこれだけで不敬罪だ。

 昔気質の吸血鬼なら、今の美鈴の態度を見て即刻彼女の命を奪っているだろう。優しい時代になったものである。

 

「めーりん、今日はシチューが食べたいわ」

 

「えっ、でも材料が……」

 

「里で買ってくればいい…………ああそうか、今は里には入れないのよね」

 

 これではありあわせのものでなんとかしてもらうしかあるまい、レミリアがそう言うと予想通りフランから不満の声が放たれる。

 

「えー、だって今日はこれから寒くなるっていうし……」

 

「そうはいうが材料がない上に里は少々込み入っているから入れん、今日は我慢するしかないわフラン」

 

「うー……」

 

 唇を尖らせぶーたれるフランだが、さすがに無茶を言っているという自覚はあるのか、それ以上の文句は言ってこなかった。

 まだまだ子供だと思っていたが、存外に精神は成長してくれていたようだ。

 特殊な力を持って生まれ、ほんの少し前までは地下に閉じこもっていたままという特殊な生き方をしてきたフラン。

 けれどあの紅白巫女と白黒魔法使いと出会い、外に興味を持ち、いまだに引きこもり癖は無くなっていないものの順調に外へと出ようとしてくれている。

 

 それがレミリアには嬉しく、同時にほんの少しだけ不安で。

 漸く違う生き方を始めてくれた妹に、何か災いが降り注がないか……そんな不安が、いくら振り解いても消えてくれない。

 ただでさえ今の幻想郷は色々と込み入っている、杞憂を杞憂だと笑い飛ばす事ができなかった。

 

「お姉様、どうしたの?」

 

「……なんでもないわフラン、それより寒いでしょうからもう館に戻りましょ?」

 

 左手を差し出すレミリア、その手をフランは笑顔を浮かべ握りしめる。

 暖かな感触、確かに自身の妹の温もりがあると実感できるこの瞬間は、やはり何度経験しても良いものだ。

 自然とレミリアの口にも笑顔が浮かび、そんな姉妹の光景を見て美鈴は静かに頷いていた。

 

 確かな平和が、ここにはある。

 ……だからこそ、気づくのに遅れてしまった。

 

「あ」

 

 間の抜けた声が、レミリアの口から零れる。

 おそらくぽかんとしているであろう自分の顔を見て、怪訝な表情を浮かべるフランと美鈴の視線には気にせずレミリアは外へと続く橋を見やる。

 いつもと変わらぬ石造りの橋、だがその中心付近の景色が――文字通り裂けていた。

 

「フラン――」

「えっ――」

 

 とん、とフランの身体をレミリアは軽く突き飛ばした。

 その瞬間、裂けた空間の中に小さな光が見えたと思った時には。

 

――凄まじい熱線が、レミリア達に向かって放たれた。

 

「っっっ」

 

 反応が遅れる、完全なる不意打ちに思考は追いついても身体が追い付かない。

 眼前に迫る熱線は自分達を呑み込むほどに巨大であり、同時に後方にある紅魔館を消し飛ばす威力がある。

 だからレミリアは回避することを諦め、右手に持っていた日傘を投げ捨てつつ手に妖力を込めていった。

 

 時間にして一秒弱、弱体化している昼間でもそれだけの芸当ができるのは流石吸血鬼というべきか。

 赤い妖力が右手に宿り、レミリアは迫る熱線に向かって手刀を放つ。

 

「――」

 

 熱線が、明後日の方向である上空へと飛んでいく。

 レミリアの手刀により、間一髪3人と紅魔館を焼き尽くそうとした熱線の脅威は去ってくれた。

 

「お姉様!!」

「お、お嬢様!?」

 

 だが、無傷というわけにはいかなかった。

 悲痛な叫びを上げるフランと美鈴、しかし今のレミリアにはそんな二人に大丈夫という言葉を返すことができなかった。

 ――自身の妖力によって覆っていた右手が、完全に消えてなくなっている。

 先程の熱線とぶつかり合った結果だ、尤も夜の状態ならばたとえ肉片になった所で再生できる吸血鬼にとってたいした損傷ではない。

 

 しかし今はまだ昼間、陽も落ちていない状態ではその高い再生能力も発揮できない。

 それだけではない、今の熱線はただ高熱なだけではなく……吸血鬼にとって天敵と言える太陽の力が込められていた。

 それをまともに触れたレミリアは苦しそうに荒い息を繰り返しながら、膝を突いてしまう。

 

 フランと美鈴がレミリアへと駆け寄る、その姿はあまりにも無防備で。

 空間に新たな裂け目が生まれ、そこから伸びる手が意識をレミリアに向けていくフランドールへと迫り。

 

――その手を、丸太のように太い第三者の手が、掴み上げた。

 

「おぉっ!?」

 

 そのまま引っ張られ、裂けた空間から現れたのは――睦月。

 力任せに投げられた彼女は紅魔館から離れるように飛んでいき、何事もなかったかのように橋の上に着地した。

 そして空間を裂き、スキマの中からお空を取り出し自分を投げ捨てた男、聖哉と対峙する。

 

「……なんだ、お前まだ生きてたのか」

 

「ああ、霊夢達や椛に助けられてな」

 

「あのままくたばっちまえばよかったのにさー、博麗の巫女達マジ使えねえ」

 

 大袈裟に肩を竦め、馬鹿にしたような視線を霊夢に向ける睦月。

 だが霊夢はそんな視線を完全に無視し、フランと美鈴に支えられているレミリアへと意識を向けた。

 

「貸し一つよ、レミリア」

 

「フ、フフ……相も変わらずがめついな、霊夢」

 

「……いいから紅魔館に引っ込んでなさい。後は私がなんとかするから」

 

 改めて睦月に視線を向ける霊夢、その瞳には気だるげながらも確かな苛立ちの色が見え隠れしていた。

 

「睦月……決着を着けるぞ」

 

「決着ゥ? 何を言うかと思えば……お前頭湧いてんじゃね?

 テメエみたいな犬っころがアタシに勝とうと思うとか、へそで茶を沸かすっての」

 

「……」

 

「ちょっとばかし力が強くなったからって調子に乗りやがって、これだから勘違い野郎ってのはつまらないんだ」

 

「それは、お前の事じゃないか?」

 

「…………ああ?」

 

 空気が一変する、今の聖哉の言葉が引き金となって睦月の雰囲気が完全に変化した。

 彼をとるに足らない相手だと見ていた目に、明確な敵意を殺意を乗せて睦月は聖哉を睨む。

 その眼光を一身に向けながらも、聖哉はそれ以上の憤怒で許されざる敵を見据えていた。

 

「伊吹様と八雲様の力を得て調子に乗っている、まさしくお前が言った“勘違い野郎”じゃないか」

 

「テメエ……」

 

「そのくせお空を操って親玉気取りか? 所詮お前の力じゃない……お前が優れているわけじゃない。

 それなのにお前はこうして今も自分が上だと信じて疑わずに調子に乗っている、そのお前をどうして勘違い野郎と思うなというんだ?」

 

 あくまで冷静に、ただ事実を告げるかのような口調で聖哉は言い放つ。

 ……その態度が、睦月の逆鱗に触れた。

 

「――お空ぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 地の底から響くような叫び、激情に駆られた睦月の指示がお空に飛ぶ。

 

「すぐにあの身の程知らずな犬っころを消してしまえ、お前の太陽の力で……地上を灼熱地獄に変えろ!!」

 

「わかったよ、睦月様!!」

 

 背中の翼を大きく羽ばたかせ、お空は真上に飛んだ。

 右手の制御棒を構える、その先端に込められていく熱は光球となり聖哉達を呑み込もうと放たれようとして。

 

「っ、ぐっ……!?」

 

 そうはさせないと、瞬間移動で一気に間合いを詰めた霊夢の回し蹴りによって阻まれてしまった。

 

「お前、また……!」

 

「今度こそ目を覚まさせてあげるわ馬鹿カラス。――聖哉、そっちは任せるわよ!!」

 

 そう言って、霊夢はお空との戦闘を開始する。

 霊夢の言葉に頷きを返し、聖哉は改めて睦月を睨みつけた。

 

「……お前さあ、分不相応なことをすると早死にするよ? それとも、自分は大妖怪より優れてるっていう馬鹿みたいな妄想に浸っちゃってるのかな?」

 

「俺が大妖怪? 俺は所詮白狼天狗、たとえ何百年経とうとも八雲様方のような大妖怪にはなりはしない。これでも身の程は弁えているつもりだ」

 

 だが、それとこれとは話が別だった。

 目の前の存在は決して許さない、多くの者を傷つけ道具のように操り……幻想郷に災いを齎している。

 そんな輩をこれ以上のさばらせておく事など、聖哉にはできなかった。

 

「どこが弁えてるんですかねえ? 犬畜生の分際で盾突こうとしている時点で分不相応なんだよ、そういやお前の知り合いの雌犬もそんなだからやられたんだよなあ?」

 

「……」

 

「なあ、あの犬はもう死んだのか?」

 

 どこまでも聖哉を侮り、舐め腐った態度を改めない睦月。

 その態度自体に聖哉は苛立ちを感じなかった、睦月という存在は常に他者を小馬鹿にする輩だという認識を抱いていたからだ。

 ……だが、先程の言葉だけは許せない。

 

「――椛の事を、言っているのか?」

 

「あ? あの雌犬の名前なんぞどうだっていいし興味ねえよ」

 

「そうか。俺も……もうお前と話す事など何もない、だから――」

 

 聖哉の姿が消える、そう思った時には凄まじい衝撃が睦月の腹部に襲い掛かっていた。

 肺から空気を吐き出しながら睦月が視線を下に向けると、自身の腹部に右ストレートを叩き込んでいる聖哉の姿があった。

 ……反応できなかった、明らかに今までとは違う聖哉の動きに一瞬だけ思考を停止させる睦月に、更なる追撃が襲い掛かる。

 

「っ!?」

 

 まずは側頭骨に意識を刈り取りかねない威力の肘鉄、続いて右頬に右の回し蹴り、更に一度上空に飛んで勢いをつけてからの下顎目掛けて放たれる蹴り上げ。

 怒涛の三連撃、その一つ一つが鬼の剛力に匹敵する破壊力が込められていた。

 よろめく睦月の傍に着地し、彼女の身体に触れるか触れないかの近さで両手を翳す聖哉。

 そこから放たれるのは漆黒のエネルギーの塊、砲撃と呼べる程の勢いで放たれたそれは容易く睦月の身体を呑み込み吹き飛ばす。

 

「……立て、こんな程度じゃたいしたダメージにならない事ぐらいわかっているんだ」

 

 橋の上で倒れ、身体の至る所から煙を出す睦月に聖哉はそう言い放つ。

 一方の睦月はゆっくりと立ち上がりながら、その表情に隠し切れない怒りの色を滲ませていた。

 既に先程のような余裕も聖哉を侮辱するような雰囲気も消え去り、ただ彼に対する絶対的な憎しみを出し始めている。

 

「漸く一発ぶっ飛ばせたな……いや、正確には四発か」

 

「テメエ……なんなんだ、この力は」

 

 たいしたダメージにならない? 否、今の連撃だけで睦月の足はガクガクと震え始めていた。

 完全に見下していた相手の攻撃などまともに受けたところで支障はない、そんな傲慢と油断によって睦月の身体には想像以上のダメージが刻まれていた。

 

(クソッタレが……!)

 

 このままでは拙い、そう判断した睦月は萃香の能力を用いて自らの身体を霧へと変えた。

 癪だが一度後退する、その一手を選んだ睦月は次にスキマを開いてお空を回収しようとして。

 

「な――」

「――決着を着けると言った筈だ、お前はここで俺が必ず……殺す!!」

 

 霧になっている自身の身体を、聖哉が掴んでいるというありえない光景を目にした。

 ありえない、この状態ならば物理的干渉は不可能な筈、だというのに聖哉はその干渉を果たしてしまっている。

 その結果、霧と化した睦月の身体は元に戻ってしまい、聖哉は掴んでいた手を自身へと引き寄せ。

 

「ご……っ!?」

「これで、五発目!」

 

 反対の腕で、怒りを込めて睦月の顔面へと拳を叩き込む……!

 吹き飛ばされる睦月の身体、石畳の上を何度もバウンドしつつも止まらず、やがて霧の湖の周りに生い茂る森の中へと消えていった。

 すかさず追いかける聖哉、睦月の姿はすぐに見つかりまだ立ち上がれないのか顔を手で庇いつつ痛みに耐えるかのように身体を震わせていた。

 

「どうだ? 遥か格下だと思っていた犬畜生に殴られる気分は?」

 

「テメエェェェェェェ……!」

 

 今度こそ、睦月は認識を改める。

 もはや目の前の白狼天狗は犬畜生などではない、確実に自分の命を刈り取れる力がある。

 そう考えるのは本当に癪だが、見下している相手に敗北するなどあってはならない。

 故に睦月は聖哉を倒すべき相手として認識し、奪った能力を開放する。

 

「はあああっ!!」

 

 黒いオーラを全身から吹き立たせ、聖哉もまた戦闘態勢へ。

 周囲の動物達はこの只ならぬ状態に一斉に逃げ出し、そして両者は同時に動き出す。

 

 

 

 

 

「報いは受けてもらうぞ睦月!!」

「調子に乗んな犬ぅぅぅぅぅぅっ!!!!」

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