狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~ 作:カオ宮大好き
「ちぃぃぃ……っ!!」
「く、はっ――!」
紅魔館から離れ、霧の湖を超え、聖哉と睦月の戦いは里と湖の間に存在する広々とした草原で展開されていた。
爆撃めいた音が絶えず周囲を響かせ、地を割り、大気を吹き飛ばすその様は何人たりとも干渉を許さない。
「しつけえんだよテメエェェェェェェッ!!」
後方に跳躍しながら、睦月は聖哉の周りの空間を操作しスキマを開く。
その数二十七、そこから放たれるは――里の者達を襲った無数の影。
妖怪の成り損ないであるソレらは獣の姿をし、彼の喉元へ喰らい付こうと一斉に跳びかかる。
更に睦月は自身の周囲にもスキマを展開。
都合八つのスキマから、貫通力に優れたレーザー砲が撃ち放たれる。
影と一息遅れてのレーザーによる波状攻撃、回避する事は困難。
「っ」
迫る獣達と、白銀のレーザー群。
どちらかに意識を向ければやられる、そう判断した聖哉は回避する事を止めその場で身構えた。
「――かあああっ!!」
地の底から響くような雄叫び。
刹那、彼の身体を覆っていた黒いオーラが膨れ上がり、ある形を成していく。
それは手、それも巨人を思わせる巨大な手であった。
「あぁっ!?」
睦月の顔が怒りで歪む。
黒いオーラで作られた手は、一斉に動き出し――跳びかかってきた獣達全てを掴み上げた。
そのままソレらを前方に翳し、レーザー群を防ぐ盾にしてしまう。
霧散する獣達によってレーザーも威力が弱まり、聖哉の黒いオーラを突破する事なく消えていった。
「テメ――」
「し……っ!!」
睦月に肉薄する聖哉。
一息で間合いを詰め、黒き拳を相手へと叩き込む。
回避は間に合わず、両腕を交差してその拳を受ける睦月であったが。
「ぐぉ……っ!」
ミシッ、という骨が軋む音を耳に拾いながら。
拳の破壊力に耐えられず、睦月の身体は吹き飛び地面へと叩きつけられる。
それだけでは終わらず、地面を一直線に削りながら後方の岩山へと叩きつけられた。
「が、ぐ……っ」
口から多量の血を吐き出しながら、激しく咳き込む睦月。
その隙だらけの姿を前にしても、聖哉は追撃を仕掛けず地上へと降りる。
「はぁ……はぁ……」
息が乱れる、整えようと試みても一向に改善しない。
……聖哉が新たに手に入れたこの力は、彼の身体を確実に蝕んでいた。
元々彼の身体は白狼天狗、天狗の名を持っていても妖怪の中では精々中堅止まりだ。
それなのに格上の相手と戦い勝つなど、本来ならば無謀でしかない。
単純に埋まらぬ差をこの不可解な力で補っている、ならば当然対価というものが付き纏うのは当然であった。
今はまだ互角、そればかりか圧している。
しかし相手は八雲紫と伊吹萃香という幻想郷でも屈指の実力者の能力を所持している、この天秤がいつ逆転するか……。
「……チッ」
浮かびかけた弱音を舌打ちをして消し去る。
睦月を許すわけにはいかない、あの女は……多くの者を傷つけた。
このまま放っておけば犠牲者が増え続ける、だが何より許せないのは――彼にとって大切な存在を傷つけ、侮辱したという事実。
その怒りだけで、彼の力は更に増大していった。
「…………あー、クソっ」
岩盤から抜け出した睦月は、上記の呟きを零しつつますます表情を歪ませていった。
――この状況は、睦月にとって許しがたいものであった。
たかだか白狼天狗、彼女が犬畜生と蔑む存在が喰らい付いてくる。
その事実が、状況が、睦月の歪んだプライドを刺激し際限なく傷つけていた。
だから、睦月はもう加減するという事は止めにした。
先程も思ったが、聖哉の強さは前とは比べ物にならない。
それは認める、そしてこのままでは自身が敗北するという現実も受け入れる。
故に睦月は、奪った能力を完全に開放すると心に決め――勝負に出た。
「よくわからん力に目覚めたからって調子に乗りやがって……ふざけてんじゃねえぞコラァッ!!」
今までの演技じみた態度は完全に消え去り、女とは思えぬ形相と言葉を放ちながら、睦月は萃香の能力を発動する。
萃香の「密と疎を操る能力」によって生み出される、小さな睦月の分身体。
都合十八の睦月達が、歪んだ笑みを浮かべながら聖哉へと向かっていく。
「っ」
四方八方から繰り出される分身睦月達による拳や蹴りの連打。
その全てに反応しようと聖哉は“千里眼”を発動しつつ両腕を用いてそれらを捌いていく。
当然ながら全ての攻撃に対抗できる筈もなく、あらゆる角度から攻撃が叩き込まれる。
だが届かない、聖哉が纏う黒いオーラが鎧となって対応できない分身睦月達の攻撃を完全に弾いていた。
攻撃と防御を同時にこなせる事ができるこのオーラの力は、確かに強力であり足りない聖哉の力を十二分に補っていた。
「ぐ、うぅ……っ!!」
……ただ、問題があるとするならば聖哉の妖力がこのままでは尽きてしまう事か。
この黒いオーラを展開するだけでも妖力を消費する、そればかりか練度を上げ攻撃に転用したり敵から攻撃を受ける度に追加で消耗していくのだ。
全身へと攻撃を受け続けている今の状況では、際限なく妖力を消費し続けているに等しく……終わりは近い。
「そらそら、こんな程度じゃ終わらねえぞ犬ぅっ!!」
「うぉぉ……っ」
分身睦月達の隙間を縫うように、本体の睦月が放つ白銀の光線。
これは紫が放つ「飛行虫ネスト」と同じ、その威力はオリジナルと全く変わらない――!
「あ、ぐ、が…………!」
防ぎきれない。
分身睦月達による攻撃、それを掻い潜り直接撃ち込まれる飛行虫ネスト。
一斉に放たれるこの連撃に、身体がまったく追い付かない。
「どうした? さっきまでの勢いは無くなっちまったのかぁ?」
嵐のような攻撃の向こう側で、睦月の嘲笑う声が響き渡る。
それに反応する余裕など聖哉には無く、しかしこの状況を打破する策が思い付かない。
今の聖哉にできる事といえば、妖力の続く限りオーラを展開しどうにか敵の猛撃に耐えていく事だけ。
「く、そ……!」
それが無意味だと、無駄な抵抗だと理解しつつもそれ以外の選択が選べない。
「調子に乗るからそうなるんだよ、テメエがどんな力を得ようが最初からこうなるのはわかってたんだ。
それなのに妙な正義感に駆られて、身の程を知らずに戦いを挑みやがって……アタシはな、テメエみたいな馬鹿が一番気に入らねえんだ」
「はぁ……はぁ……ぐっ」
このままでは、負ける。
足りない、自身の妖力だけでは今の睦月に対抗しきれない。
せっかくの大きな力も、それを操るために必要な妖力の絶対量が、少なすぎる。
ないものねだりをしても仕方ないとはわかっている、だがこれでは……。
『おいおい、まだ勝てねえのか?』
「――――え?」
頭に響く声。
……この声を、聖哉はよく知っていた。
暴走する直前に頭の中に響いた声、自分の中に巣くう正体不明のナニカ。
「テメエが白狼天狗にしては強い事は認めてやるよ、それを誇りに思いながら――死んでいけ!!」
睦月の声が、何処か遠くから聞こえたような気がした。
それほどまでに聖哉の意識はその声に向けられており、尚も頭の中にナニカの声が響く。
『力の使い方がなっちゃいないんだよ、どうだ? オレが表に出てソイツを喰ってやろうか?』
「……何、を」
『今のお前じゃコイツには勝てねえよ、かといって
「……」
それは、きっと事実なのだろう。
当たり前のように、聖哉はそう思えた。
声の正体はきっと自分よりも遥か格上、睦月程度に遅れなどとらない強者だ。
この戦いは負けられない戦いだ、睦月を必ず葬らなければまた新たな犠牲者が出てしまう。
ならばこの声に従った方が利口ではないか、このまま戦いを続けたところで自分では睦月を止められない。
声の正体は必ず睦月を始末してくれる、そんな予感めいた何かを感じ取ったからこそ、聖哉は思考を停止させ身体を明け渡そうと――
「………………違う」
明け渡そうとして、そんな選択を選ぼうとした自分を心底恥じた。
『んん?』
「それは、ダメだ。この戦いは……俺の手で終わらせる」
勝つと誓った、負けられないと願った。
この決意は、この想いは、自分の意志で願ったものだ。
それを、こうも簡単に諦めるわけにはいかない。
睦月は言った、自分と戦うのは分不相応だと。
……その通りだと認めざるをえない、悔しいが睦月の方が妖怪としての格は遥かに上なのだから。
そんな相手と戦い勝つなどと願うのは、傲慢でしかないのかもしれない。
――だが、聖哉はどうしても睦月という存在が許せなかった。
沢山の者が傷ついた、犠牲になった人間だって居た。
あんなにも純粋なお空が道具にされ、それによってさとり達の身と心が深く深く傷ついた。
そして――椛も、傷つけられた。
目の前で血を吐き、端正な顔が痛々しく歪むその姿を思い出しただけで、心が張り裂けそうになる。
それだけの傷を負ったというのに、彼女はその身体で無様に暴走する自分を止めようとしてくれた、あの時ほど己の弱さが憎いと思ったことはなかった。
ならば、この声に従って全てを任せることなど……できる筈がない。
「俺は、俺はまだ戦える……お前の力は……借りない!!」
ちっぽけで、簡単に消えてしまいそうな強がりだけど。
この誓いを守れなかったら、きっとこれから先……誰も守ることができなくなるから。
「――お前だけは、必ず俺が倒すっ!!」
◆
「…………ああ?」
その変化を、睦月は確かに感じ取った。
あと数秒、たった数秒経てばこの勝負に決着が着き邪魔な犬畜生を葬れる。
それは決して覆らない結果、だった筈だというのに。
「っ」
圧倒的なまでに優勢だった睦月は。
死にたくないという本能に従い、自ら後退した。
「なんだ……?」
ぞわりと、全身が震える。
生物が持つ本能が、「ここから逃げろ」と訴えかけている。
……何を馬鹿な、一体何故逃げなければならないというのか。
自分が相手をしているのはとるに足らない犬畜生、不可思議な力に目覚めたとはいえ決して此方には敵わない白狼天狗風情だ。
「――」
そう、とるに足らない相手、だった筈だというのに。
だというのに何故――刹那にも満たぬ速さで、分身達が聖哉によって消し去られているのか。
それだけではない、彼に命中した筈のレーザー群も……その全てが霧散していた。
(いや、違う……)
防がれたわけでも、躱されたわけでもない。
如何なる芸当か、聖哉は自身に迫る脅威を。
――睦月の分身体とレーザー群を、文字通り
彼の身体から溢れる黒いオーラが、獰猛な獣のように呆気なくそれらを捕食する。
それだけでも奇怪だというのに、それを行った結果――彼は喰らったモノを自らの糧へと変えてしまった。
溢れ出る力、尽きかけていた聖哉の妖力が戻り、噴火のように黒いオーラが噴出する。
「……」
『どうだ? 力が戻っただろ?」
「あ、ああ……」
『枷が外れた今のお前はその眼で全てを見通し、その爪で全てを斬り裂き、そしてその口で全てを喰らい尽くす。
そして喰らったものを自らの糧とし、お前の力は際限なく大きくなる。……あの胡散臭い姉ちゃんがお前に執着する理由の一つがコレだ』
「……」
確かに、この力はあまりにも危険であり……同時に魅力的なものだ。
八雲紫という大妖怪が、白狼天狗である自分を手元に置きたかったのも、この力があるのならばと納得できる。
それに関して色々と思う所があるものの……聖哉は思考を切り替え睦月を見やる。
「おい、睦月を喰う事もできるのか?」
『んー……そいつは難しいかもな、まだ完全に力が戻ったわけじゃねえしあの女の魂はちょいと特殊だ。
どうも自分の魂を分割しているようだからな、今ここに居るアレを単純に滅ぼした所で別の場所にある魂が動き出すだけだ』
「魂の分割……そうか、八雲様が能力を用いて消滅させたというのに生きているのはそういう事だったのか……」
『そういうこったな。自らの魂を複数に分けて万が一稼働している自分が死んでも、スペアがあるのなら何度だって動ける。誰に習ったかは知らねえが随分と姑息な事をするもんだ』
感心するように、その声はそう告げる。
しかしそれでは、たとえこの場で倒したとしても別の睦月が現れるだけ……それでは意味がない。
『簡単な話だ。殺せないのなら……封じればいい』
「……簡単に言ってくれる。俺にはそんな封印術を操る力なんてない」
『んなもん必要ねえよ、なにせ取り込んじまえばいいだけだからな』
「…………なんだと?」
『あの女の魂は強力だ、対してお前の枷はまだ全て解かれていない。
この状態なら喰らっちまえばお前の中にアレを封じ込められるって寸法よ、どうも一度に動ける魂は一つだけのようだからな。殺さず喰らわず封じ込めればアレに好き勝手されないって寸法よ』
「……それは、本当か?」
『もし分けた魂を同時に動かせるのなら、一斉に動かして一気に事を済ませるだろうよ。それをやらないとなると……そう考えるのが自然じゃねえか?』
「それは、確かに……」
それならば、希望はある。
単純に倒した所でまた別の睦月が動き出すというのならば、この声の通り今の睦月を取り込み封じ込めてしまった方がいい。
問題の先送りになるものの、後は幻想郷の実力者に協力してもらい睦月の魂を捜し出せばその憂いも消えてくれる。
だが、それを試す前に聖哉には確かめなければならない事があった。
「何故、協力してくれる? それにお前は一体何者だ?」
『協力する理由はさっき言ったように
だからさっきお前に“喰らう”能力を与えてやったんだ、あとオレが何者なのかは……あの胡散臭い姉ちゃんが説明してくれるだろ?』
「……ものぐさなんだな、お前は」
『自分がしなくていい事をする主義じゃないんでね。まあ暴れられないのは残念だが……もっと面白い相手が出てくるのを待つさ』
「笑えない冗談だ」
おそらく冗談ではないのだろう、どうも自分の中に居るソレは危険な存在である事は間違いないようで。
だが結局はその危険な存在が居なければ、今頃自分はこうして睦月と戦う事すらできずに息絶えていたのも事実である。
その事には感謝しつつも、決して心を許さぬようにと自身に言い聞かせ――睦月へと肉薄する。
黒いオーラを両手に宿し、二本の長剣を作り上げる。
黒い刀身を大きく振り上げ、相手を両断する勢いで振り下ろす……!
「っ、調子に乗って……!」
「ここまでだ睦月!!」
「調子に乗るのも……いい加減にしやがれ犬ぅぅぅぅぅぅっ!!」
睦月の殺気が膨れ上がる。
だが聖哉は微塵も臆さず、一歩も退かず、黒き双剣を振るい続けた。
対する睦月は背後からスキマを用いて取り出した刀を取り出し、彼の剣戟に対抗する。
激しさを増す剣戟。
一撃ごとに火花が散り、空気を震わせ、大地を揺らした。
「っ」
「ぐぁ……っ!?」
後退する睦月、それを逃さぬと間合いに踏み込み双剣を一閃させる聖哉。
「この野郎……っ!!」
押し込まれる。
紫と萃香の能力を使う暇など与えぬ猛撃に、睦月は少しずつ追い込まれていった。
「はぁ、はぁ――はあああっ!!」
がむしゃらに剣を振るう、後先考えず余力など残さず絶え間なく攻め続ける。
そうしなければ逃げられる、既に睦月は逃げの態勢に入っている以上、間合いを離されればそのまま逃走を図るだろう。
だからこれが最後のチャンス、回復した妖力全てを使って聖哉はひたすらに前へと進む。
「何でだ……っ!? アタシはあの鬼にも、八雲紫すら出し抜いたんだぞ……! そのアタシが、こんな犬なんかに……!?」
「は、セイ――!」
剣戟が響き、何度目かの鍔迫り合いを経て――睦月の持っていた刀が粉々に砕け散る。
舞い散る破片、絶好の好機だと聖哉は最後の攻撃を放つ。
「くっそ……クソがああああああああああああっ!!」
憎々しげに聖哉を睨み、睦月は全力でこの場から離脱を開始する。
……このままでは勝てない、認めなくない事実を漸く受け入れ己が命を守るために睦月は逃走しようとして。
「――逃がすかあああああああっ!!」
渾身の一撃が、睦月の左腕を両断した。
「ぐ――っ!?」
だが致命傷ではない、間一髪で急所を避けた睦月が更に後退する。
『おい、逃げるぞ?』
「わかってる!!」
後退する睦月に向かって、右の剣を投げ放つ。
矢のように放たれたそれは、必殺の速度を以て睦月へと向かい。
「が――っ!?」
見事、彼女の右肩を貫通し動きを止めた。
――これで最後だ、聖哉は黒きオーラを膨れ上がらせる。
睦月は動かない、剣を突き刺された衝撃からまだ復帰できずそして。
「テ――」
「とった……!」
黒いオーラが、獣の口のように大きく広がる。
そしてそれは津波のように、睦月の身体を呑み込もうと動き。
『――本当に魂が腐ってんなコイツ、本体を取り込まなくて済むのは助かるぜ』
躊躇いも容赦もなく、一口で睦月の身体を喰らい。
断末魔の叫びを放つ慈悲すら与えず、この戦いを終わりへと導いた……。
◆
「はぁ……はぁ……はぁ……」
黒いオーラを消し去り、聖哉はゆっくりと地面へと降り立つ。
「っ、ぐ、あ……」
その瞬間、凄まじい倦怠感が身体を襲い、そのまま地面に大の字になって倒れ込んだ。
何度も咳き込みながら激しく呼吸を繰り返し、整えようとしても一向に改善しない。
かなりの消耗だ、指一本動かせず玉のような汗を流しながら彼はひたすらに荒い呼吸を繰り返していく。
「はー……はー……」
『まっ、よくやったんじゃねえのか? 褒めてやるよ』
「は、はー……は、ぁ……」
偉そうな声に文句の一つでも言ってやりたかったが、そんな余裕すら今の聖哉には存在していなかった。
まるで陸に打ち上げられた魚のようだ、何度空気を肺に取り込んでも息苦しさが消えてくれない。
それだけあの力が強力であり自分には分不相応な力だという事か、だが彼の中には苦しさ以上に……達成感があった。
勝てた、遥か格上の存在である睦月に勝利できた。
その事実が単純に嬉しく、また同時に我を通せた自分自身を誇りに思えた。
『動けないのなら、オレがお前の身体を動かしてやろうか?』
「……断る。俺はまだ……お前を信用したわけじゃない」
『ひっでえヤツ、まあいいさ……次はもっと遊び甲斐のある相手と戦えよな』
身勝手な言葉を吐き出してから、その声は聞こえなくなった。
自身の内で眠りに入ったのか、どちらにせよ……厄介なモノが住み着いたと聖哉はそっとため息を吐き出した。
「――倒したの?」
「…………霊夢、か」
自分のすぐ傍に降り立つ霊夢を見て、聖哉はゆっくりと身体を起き上がらせた。
身体が鉛のように重い、まるで他人の身体を動かしているかのような感覚だ。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「ああ……少しばかり、疲れただけだ」
「そう、それで睦月は……」
「少し事情があってな。封印した」
「封印?」
「詳しい話はちゃんと話す、とにかく今は……眠りたい」
気を張っていなければ、今にも意識を失ってしまいそうだ。
そう告げる聖哉に、同じく消耗していた霊夢は特に反対意見もなく頷きを返す。
「肩、貸そうか?」
「せっかくの申し出だが体格差があり過ぎるからな、大丈夫だ」
だが、もう少しこの場で休んでいった方がいいだろう。
先に戻っておいてくれ、霊夢にそう告げて聖哉は再び背中から地面に寝転んだ。
その姿を暫し見つめてから、霊夢は「ちゃんと戻りなさいよ」と告げて飛び去っていく。
それをぼんやりと姿が見えなくなるまで眺めてから、そっと目蓋を閉じた。
……戦いは、終わった。
残ってしまった問題はあるけれど、とりあえずの終わりを迎えてくれた事にただ安堵する。
――だから、今は。
死んだように眠りに就いて、暫しの休息に身を委ねよう。