狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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~星蓮船~
第33話 山の会議~与えられた“大役”~


 空気が、重い。

 周囲には大天狗を始めとする天狗の重役達、その一番奥には天魔の姿がある。

 ここは天魔の屋敷の中にある大会議室、普段ならば白狼天狗如きでは決して参加できぬこの場に、聖哉は何故か入室を許されていた。

 

 というのも、先日のあの空飛ぶ船――その殊遇と対策を決めるために事情を知っている彼が参加する事になったのだ。

 しかし、内心ではすぐに帰りたいと聖哉は思っている。

 ……視線が痛い、「何故貴様がここに居る」と言わんばかりの大天狗や鴉天狗達の視線が鬱陶しいことこの上ない。

 

「お気持ちはわかりますけど、嫌なのが顔に出ちゃってますよ?」

 

 周囲には聞こえないように、隣に座る文が釘を刺す。

 それを聞いて聖哉はすぐに表情を引き締め、それと同時に重苦しい空気を払拭するように天魔が口を開いた。

 

「――さて、ではあの空飛ぶ船とそれに乗っていた者達の処遇だが……どうしたものか」

 

「どうしたも何もありませぬ、即刻船は破壊し乗っていた者達は始末するべきです!!」

 

 そう言って立ち上がるのは大天狗の一人、相当物騒な発言をするものの決して彼一人の考えではない。

 周囲に居る者も賛同するように頷きを見せ、しかもそれがこの場に居る大多数なのだから驚きである。

 

(いや、至極当然の話か……)

 

 あの空飛ぶ船は、一歩間違えれば神社はおろかこの妖怪の山に甚大な被害を与える所だったのだ。

 聖哉達天狗からすればあれは侵入者ではなく、自分達に敵対した始末するべき害悪でしかない。

 だからこそこの場に居る多くの天狗達が上記の考えを示し……しかし、聖哉はその考えには賛同できなかった。

 

 理由としては簡単だ、あの空飛ぶ船が悪意があって山へと落ちてきたとは思えないからである。

 あの後、聖哉達は神奈子達と共に中を調べた結果……数人の妖怪を発見する事ができた。

 その殆どが少女であり、誰もが傷つき消耗していた所を見るに、何者かに襲撃され撃沈されたと考えるのが自然だろう。

 当然それに関しての報告もしたのだが、重役達はそれをまったく考慮してはくれないらしい。

 

(山を守るために、と言えば聞こえが良いが……)

 

 結局の所、山に生きる者以外の存在を認めていないだけだ。

 これは聖哉が生まれる遥か昔からの風習、浸透しきってしまっている排他的な考え。

 それによってもたらされた平穏も確かにあるだろう、だが……。

 

「――聖哉、お前の意見を聞かせてはくれぬか?」

 

 天魔の言葉と共に、周囲に居る全員の視線が聖哉へと集まる。

 その殆どに驚きの色が見え、中には羨望と……これは、嫉妬だろうか。

 大方白狼天狗である自分に意見が求められた事が気に食わないのであろう、なので聖哉は集まる視線にも意を介さず天魔の問いに答えを返した。

 

「……まずは、空飛ぶ船に乗っていた者達から事情を聞き、それから処遇を決めた方が良いと私は思います」

 

「何を悠長な……」

「あの船は一歩間違えれば山に大きな被害を齎しかねなかったのだぞ!?」

「犬渡、貴様には天狗としての誇りはないのか!?」

 

 脊髄反射のように幹部連中から批難が飛んでくる。

 ……わかっていた事だが、正直鬱陶しいことこの上ない。

 

(いや、そもそもどうして俺が幹部達しか出席できない筈の会議に駆り出されているのか……)

 

 今までこのような事は一度もなかったというのに、いきなり天魔に参加を強制されて今に至る。

 まあ、今回はあの空飛ぶ船を止めた当事者の一人であるからという理由もあるかもしれないが、それにしたって疑問が残った。

 天魔直々の使命という点、そして今のようにわざわざ自分に対してのみ意見を求める彼女の考えが聖哉には理解できなかった。

 

「静まらんかい。それで聖哉、そう思った理由は?」

 

「その者達は傷つき衰弱していました、そして空飛ぶ船も所々に損傷が見られます。

 それらの事を考えるに、あれらは何者かに襲撃を受けた可能性があるものと私は考えました」

 

「ふむ……つまり、あやつらも被害者にすぎぬ可能性があるから詳細を知るまでは処遇を見送るというわけじゃな?」

 

 頷く聖哉。

 周囲からは「なんと甘い」だの「子供の考えではないか」だの聞こえるが、無視。

 彼等の言い分も正しいのは聖哉とて理解しているが、その言葉の中に自分に対する嘲りの色が見える以上、説得力など感じられない。

 ただ純粋にその言葉を述べているのなら頷くが、自分が気に入らないからという理由が混ざっているものに耳を傾ける道理はなかった。

 

「しかし聖哉よ、如何なる事情があろうともあの空飛ぶ船がこの山に大きな被害を与えかねない事態を引き起こしたのは事実じゃ。お前の考えは少々甘いのではないか?」

 

「……」

 

「とはいえ即刻始末するというのも乱暴な話じゃからな…………ではこうしよう。

 今回の件は我等天狗から代表者を一人選び、その者と守矢の者とで決める事にするか。空飛ぶ船は守矢の領地に向かって落ちてきたのだから、向こうにも処遇を決める権利はあるじゃろう」

 

「それは名案ですな」

 

 天魔の案に清十郎を初めとした大天狗達は賛同するが……それを快く思わない者達もいた。

 何故守矢と……などと考えているのだろう、既に彼女達は山の同士であるというのに。

 これも排他的な考えを捨てられぬが故か、とはいえそれが間違いだけではないとは思うが。

 

「して、天魔様。その代表者とは誰に……」

 

「うむ。――――聖哉、その役はお前に任せる。神奈子と存分に話し合いお前の好きに決めろ」

 

「えっ……」

 

 その言葉に、聖哉ではなくその場にいた全員がどよめき立つ。

 

「私が、ですか?」

 

「そうだ。お前は今回の件と深く関わりを持っておる、適任だと判断したまでだ」

 

「……」

 

「お、お待ちください天魔様!! 何故犬渡なぞにそのような大役を……」

 

 大天狗の一人が立ち上がり、語気を荒げ天魔に進言する。

 他の幹部天狗からも同様の疑問が飛び交い、しかし天魔は意に介した様子もなく言葉を返した。

 

「適任だと判断したと、今言った筈だが?」

 

「ですがこやつは白狼天狗、いえそもそも何故犬渡なんぞがこの会議に出席するのか理解に苦しみます!!」

「そうですぞ天魔様、たかだか二百年程度しか生きておらぬ若造がこの大会議に居るなどと……」

「それだけではなく、今回の件をこやつの好きにさせるなど……天魔様、どうか考え直していただきたい!!」

 

 口々にそう言い放つ幹部達。

 よほど聖哉に大役が任された事が気に食わないらしい、まあこの場に居る誰もが彼の数倍は生きているので気持ちは判らないでもない。

 

「貴様等に任せた所で神奈子とひと悶着起こすのは目に見えておる。

 他にも話し合わなければならない事もあるというのに、余計な問題を増やしかねない事態を引き起こせる筈がないじゃろう?」

 

 冷ややかな視線を送りつつ、天魔はあくまでも冷静に言葉を返す。

 

「そもそも聖哉は既に一介の白狼天狗という立場を超えておる、実力主義であるこの山の掟を顧みれば充分にこの会議に加わる資格はあると思うが?」

 

「そ、それは……しかしですな」

 

「そもそも白狼天狗だなんだと言うのならば、わしとて天魔と呼ばれる前はただの鴉天狗に過ぎなかった。――これ以上言っても、理解できんか?」

 

 その言葉で。

 今度こそ、声を荒げていた者達は誰一人として何も言えなくなった。

 

「聖哉、お前はすぐに神奈子の元に向かい今の内容を伝えこの件を進めろ。

 それと射命丸、お前ははたてと椛と共に聖哉のサポートに回れ」

 

「はい、畏まりました」

 

 よっしゃ、これ以上ここに居なくて済む。

 そんな内情を隠そうともしない笑みを浮かべながら、文は聖哉を連れて足早に部屋を後にする。

 それを見送りながら……天魔は心の中でため息を吐いた。

 

(判っていたと思っていたが、想像以上に露骨なのじゃな。聖哉への態度は)

 

 こんな反応を幼少期から受けていたことを考えると、よくもまあ今の彼のような性格を形成できたと天魔は思った。

 これも彼が独りではなく、椛のような理解者が居てくれたからだろう。

 

(わしも天魔の立場を引き継いだ直後は、周りの視線が嫌なものだったなぁ……)

 

 少し昔を思い出し、なんだか懐かしくなった。

 しかし今は会議中だ、なので天魔はすぐに思考を切り替え次の議題へと移るのだった。

 

 

 

 

「――私は椛とはたてに今回の件を話してから神社に向かいますので、聖哉さんはお先に行っていてください」

 

 そう告げる文と別れ、聖哉は山の頂上にある守矢神社へと向かった。

 空飛ぶ船は境内に置かれ、中に居た乗組員達は早苗によって看病されている事だろう。

 

(目を醒ましてくれればいいんだが……)

 

 そうすれば事の経緯を聞き、この一件を進める事ができる。

 目覚めてくれている事を願いながら、聖哉は守矢神社の境内へと辿り着き……そこにある筈の空飛ぶ船が無くなっている事に気が付いた。

 

「おお、聖哉。お前が来たという事は天狗達の話し合いは終わったのか?」

 

 境内に降り立った聖哉を出迎える神奈子。

 

「はい、私が代表者となって八坂様と共に空飛ぶ船に乗っていた者達の処遇を決める事になりました」

 

「ほぅ……? それは、天魔からの指示か?」

 

 神奈子の問いに「そうです」と聖哉が答えると、彼女は面白いと言わんばかりに口角を吊り上げた。

 てっきり大天狗か天魔自らが介入してくると思っていたので、神奈子にとっては嬉しい誤算だ。

 天魔はともかく大天狗は面倒なのである、昔の威光を笠に着たいのかは判らないが、たとえ相手が誰であろうと自分が上だという思惑が透けて見える。

 神としての威厳が必要だと考える神奈子にもその気持ちは理解できるものの、行き過ぎればそんなものは単なる傲慢でしかない。

 

「八坂様、乗っていた者達は?」

 

「まだ眠っているよ、早苗が見てくれている」

 

「空飛ぶ船は?」

 

「いつまでもあんなデカいものを境内に置いておくわけにはいかないんでな。神社の裏にある湖に移動させた」

 

 なにせあの空飛ぶ船、全長は二百メートルを超え全幅も七十メートル程ある巨大なものだ。

 そんなものを境内にいつまでも置いておく事などできるわけがない、というより一時的とはいえ置いてしまった事で地面の一部が陥没してしまっていた。

 

「ところで聖哉、お前はどうするつもりだ?」

 

「……どう、とは?」

 

「とぼけなくていいさ。……空飛ぶ船に乗っていた者達の処遇、天狗達は即刻始末しろとでも言ってきたのではないか?」

 

「…………流石ですね」

 

「やれやれ……判り易い天狗共だ。だが聖哉、お前はそれを認めないだろう? そしてそんなお前の心中を理解した天魔が今回の任をお前に与えた……まあこんな所か」

 

 あの天魔が彼を買っている事は、神奈子とて知っていた。

 彼の心中、そして手柄を用意してやろうという心遣いのつもりなのだろう、組織の長としてはどうかと思うが。

 

「聖哉、お前は恵まれているのだな」

 

「……はい、私のような“中途半端”な天狗にすら沢山の人が暖かさを向けてくれています。それはとても……俺が思っている以上に尊いものなのでしょうね」

 

 だからこそ時折、ほんの少しだけではあるけど申し訳なく思う事がある。

 今回の件とてそうだ、聖哉がこの件に深く関われるようにしてくれた天魔の立場が悪くならないか、そう思えてならない。

 

 幼年期の頃はともかくとして、今の聖哉を慕う者は多い。

 しかしその殆どが末端の白狼天狗であり、その上に居る鴉天狗や大天狗のほぼ全ては昔と変わらず彼を見下している。

 仕方ない面もあると聖哉は理解していた、両親は山の掟に従わなかったのだからその息子である自分が冷遇されるのは組織に属している以上致し方ないだろう。

 それ故に、自分を慕う者や自分を買ってくれている者達に、余計な迷惑を被ることはないのかと彼は考えてしまう。

 

「その心を忘れるな聖哉、お前が皆に感謝しその上で他者の為に一生懸命に動こうとするからこそ、皆がお前の為に動こうとするのだ。

 しかしそうやって何気ない会話のように自分を卑下するのだけは控えた方がいい。お前を慕い、お前を買っている者達が一人でも居るのならな」

 

「……肝に銘じておきます。八坂様」

 

 また悪い癖が出てしまったと、聖哉は自省する。

 それを誤魔化すように苦笑いを浮かべ、自分も様子を見に行こうと思った時。

 

「――」

 

 誰かに見られているような気がして。

 聖哉は、静かに後ろへと振り向き空を見上げた。

 

「……聖哉?」

 

「……」

 

 神奈子の声にも反応せず、聖哉はそのまま“千里眼”を発動させる。

 今の彼ならば最大で幻想郷の隅から隅まで視る事ができる、そして範囲を絞れば当然視える光景もより鮮明に映る。

 視る箇所を見上げた空だけに絞り、しかし……見えるのは呑気に飛んでいる妖精達だけ。

 見慣れぬ者も、何も異常も見当たらない、いつもの幻想郷の空だけが視える。

 

(…………気のせい、か?)

 

 そう思いかけ、しかし先程の感覚を思い出す。

 ……気のせいとは、思えなかった。

 たった一瞬、瞬きよりも短く錯覚だと疑わぬ方がおかしい程の短い間だったが……確かに誰かの視線が向けられていた。

 

 正確には自分ではなく、かといって神奈子でも神社でもない。

 もっと別の、方角的には神社の裏にある湖に向けられていた、

 

(あの船を、見ていた者が居た……?)

 

 一体誰が見ていたのか、しかし“千里眼”は異常を見つける事はない。

 やはり気のせいか、それならばそれで構わないと聖哉は強張っていた身体の力を僅かに抜こうとして。

 

「セーヤ!!」

「っ!?」

 

 神社の方から、イリスの自分を呼ぶ声と襖を強引に吹き飛ばす音。

 そして、真っ直ぐ此方に向かってくる二つの気配を察知し、そちらに身体を向けつつ咄嗟に身構えた。

 

「くっ……!?」

 

 眼前に迫る拳。

 半ば無意識のうちに顔を横に移動させその一撃を躱しつつ、聖哉は数歩後退する。

 迫る気配、後退する自分に追撃を仕掛けようとするそれが大きく踏み込んだ。

 

「ちっ……!」

 

 下段からの一撃に備え、両腕を交差し防御態勢へ。

 瞬間、その防御の隙間を縫うようにすり抜けた拳の一撃が、聖哉の腹部に突き刺さる。

 

「っ、……」

 

 強い衝撃だ、聖哉がそれを自覚する前に次の一撃が叩き込まれた。

 右足、左腕、胸部、様々な部位に叩き込まれる拳の連撃。

 その一撃一撃はなかなかに重く、このまま受け続ければ間違いなく意識を刈り取られる。

 

「雲山、あなたはそっちをお願い!!」

(女の声……!?)

 

 衝撃に耐えながら、聖哉は現在自分に襲い掛かっている存在が女性――それも、空飛ぶ船に乗っていた内の一人である水色の髪を頭巾で覆い、尼のような衣服に身を包んだ少女である事に気づく。

 彼女の声を受けて、もう一つの存在が神奈子へと向かっていく。

 

 それは――桃色の雲。

 彫りの深いまさしく“頑固親父”といった風貌を持つ雲が、筋骨隆々の肉体を形成して神奈子へと襲い掛かっている。

 丸太のように太く巨人のように大きい腕を何本も作り出し、その全てを神奈子に向かって撃ち込むその攻撃は嵐の如し。

 

「……」

 

 しかし、神奈子は動じない。

 雲山と呼ばれた雲の攻撃に多少の驚きを見せつつも、その全てを身体を軽く揺らすように動かすだけで躱してしまっていた。

 凄まじいまでの動体視力と反射神経に、攻撃を仕掛けている雲山と聖哉に襲い掛かっている少女の表情が固まる。

 

「嘘でしょ……あれだけの雲山の攻撃を、こうも簡単に……」

(っ、今だ!!)

 

 少女の意識は完全に神奈子達へと向けられている。

 その隙を逃すわけにはいかないと、聖哉は反撃に出た。

 かといって命を奪うような真似はしない、あくまでも無力化させなくては話も聞けないからだ。

 

 だから聖哉は能力は用いらず己の腕力だけで抑え込もうと、両腕を伸ばし少女の腕を掴み上げる。

 そのまま地面に倒し動きを封じようとして――少女の姿が視界から消えた。

 

「っっ……!?」

 

 左脇腹に衝撃。

 続いて背中に鈍痛が走り、衝撃を殺しきれず勝手に数歩前に動いてしまう。

 たたらを踏む聖哉に、少女が彼の正面へと回り込み顎を砕かん勢いで風切り音を響かせながら蹴りを放ち。

 

「なっ……!?」

 

 とった、そう確信できた少女の表情が完全に凍り付く。

 ――受け止められた。

 完全に隙だらけの相手に放った渾身の蹴りが、右腕一本で真正面から受け止められた。

 すぐに足を引き戻そうとする少女だが、ピクリとも動かせない。

 

「――話を、聞いてはいただけないか?」

「な、何……?」

 

 自身の足を掴みながら、全身から黒いオーラを展開する聖哉の言葉に、少女の思考が現実に引き戻される。

 

「私達はあなた方の敵ではありません、この神社に落ちてきた船と共にあなた方を保護していたのです。

 信じられぬ気持ちは判りますが、どうか一度矛を収め冷静に話し合ってはいただけないでしょうか?」

 

「……」

 

 真っ直ぐに自分を見ながら、上記の言葉を口にする聖哉を見て少女の闘気が小さくなっていく。

 いきなり襲い掛かった相手にも、彼は真っ直ぐ見つめ真摯な言葉を投げかけている。

 その態度が、その姿が、少女には“ある女性”の姿に重なって見えた。

 

「………………雲山、やめましょう。どうやらこの人達は敵じゃなさそうよ」

 

 力を抜く少女の足を放す聖哉、すると少女も上記の指示を出し雲山に攻撃を止めさせた。

 拳を消し、頭部だけとなった雲山が少女の隣へと移動し、その直後――少女は聖哉達に向けて座り込み土下座をし始める。

 

「ご無礼を、お許しください」

 

「別に構わん。こちらとてできる事ならば穏便に済ませたいと思っているからな」

 

「――セーヤ、ダイジョウブー!?」

 

 心配そうな表情を見せながら此方に飛んできたイリスに、聖哉は「大丈夫」と返しながら安心させるように優しく彼女の頭を撫でる。

 と、聖哉達の元に慌てた様子で駆け寄ってくる早苗の姿が見えた。

 

「聖哉さん、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

「ちょっと早苗、私の心配は?」

 

「神奈子様がやられるわけないじゃないですか、頑丈なんですから」

 

「…………それはそうかもしれないけどさぁ」

 

 でも心配してほしかったなぁと、口には出さず視線で訴える神奈子だが、早苗は完全に無視。

 それがショックだったのか、隅っこでしゃがみ込みいじけ出してしまった。

 

「……ナサケネーノ」

 

「イリス、そういう事は口に出してはダメだ」

 

「えっと……」

 

「あ、神奈子様の事は気にしないでください。それよりまだ怪我が治ってないのに激しい運動なんかしちゃだめですよ? ほら、ちゃんと部屋に戻って休まないと」

 

「いや、激しい運動って……」

 

 どこをどう見たら、先程の攻防が“激しい運動”程度に見えるのか。

 やはりというかなんというか、東風谷早苗という少女はどうも少しばかりズレていると聖哉は思った。

 ただ彼女の言っている事は正しく、まだこの少女の怪我は完治していないのだから休ませた方がいいのは確かだ。

 しかし、目覚めてくれたというのならば此方も訊かなければならない事もあるので、聖哉は少女へと声を掛ける。

 

「休みながらで良いのですが、あなた方の事を教えてはいただけませんか?

 どのような経緯であれ、此方はあなた方が何者でどういった経緯でこの山に空飛ぶ船と共に落ちてきたのか、知らなければなりません」

 

「……わかりました」

 

「早苗、悪いが客間を貸してくれるか?」

 

「ええ、それは構いませんけど……神奈子様ー、話してくれるそうですからさっさと戻ってきてくださいよー!!」

 

「…………早苗、厳しくなったなぁ」

 

 すんすんと泣きながら立ち上がる神奈子に、聖哉はなんともいえない表情を浮かべる。

 普段はあれだけ威厳たっぷりでありその威厳に恥じぬ力を持っている軍神だというのに、今の彼女からはそれらを微塵も感じられない。

 

(まあ、親しみ易さは増したが……)

 

 そう思ったが、そんな事を言ったら間違いなくオンバシラフルコースなので口にはしない。

 それに今は別に考える事があると思考を切り替え、聖哉は早苗達と共に神社の中へと入っていった。

 

 

 

 

 

「あ!!」

 

「? 早苗、どうした?」

 

「……客室の襖、壊れちゃったの忘れてました」

 

「す、すみません……!!」

 

「……後で、直すか」

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