狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~ 作:カオ宮大好き
ご了承ください。
神社の奥にある客間にて、聖哉達は尼の服に身を包んだ少女と向かい合って座る。
早苗にお茶を用意してもらった後、少女は早速自らの素性を聖哉達へと話し始めた。
「私の名は
そして彼は私のパートナーである見越し入道である
少女――雲居一輪の紹介を受け、今は頭部だけで宙に浮かぶ桃色の雲、雲山は無言のまま聖哉達に頭を下げる。
聖哉達もそれぞれ己の名を明かし、ここが妖怪の山の一角であり何故一輪達がここに居るのかを説明してあげた。
やはりというべきか、妖怪の山と聞いて一輪達の表情が僅かに強張る。
「安心してください、現在は私と八坂様があなた方の身の安全は保証致します。
――ですが此方もあなた方の目的や正体、そして何故山に落ちてきたのかの経緯を知らなければならないのです。話してはいただけますか?」
なるべく柔らかい口調を心掛けながら、聖哉は問う。
それが功を奏したのか、一輪は一度早苗に用意してもらったお茶を一口飲んでから……答えてくれた。
「私達は今からおよそ千年前に地底に封印された妖怪達、そしてあの空飛ぶ船の名は“
「法力?」
聞いた事がある、しかし概要を知らぬ単語を聞き首を傾げる早苗。
――法力とは僧侶が扱う法術を使用するために必要な力の総称である。
霊力や妖力、神力ともまた違う力であり、また僧侶であっても使える者が限られる貴重な力だ。
「地底に封印されていた、と言ったな? では何故地上に居るのだ?」
「少し前に起こった地底での事件の際に、地底世界では至る所から間欠泉が噴き出すようになりました」
(そういえば、霊夢の神社の裏手からも間欠泉が噴き出してそのまま温泉に改造したんだったな……)
「その内の一つが聖輦船の真下から噴き出し、私達は船ごと地上まで吹き飛ばされたのです」
「成程…………って八坂様、早苗、どうしたのです?」
何故か急に気まずそうに視線を逸らす二人に問いかけるが、返ってきたのは焦った口調での「なんでもない」という返事だけ。
明らかになんでもないのは明白であったが、今は別にいいかと聖哉は一輪に話の続きを促した。
「その後、私達はある目的の為にこの地、幻想郷の上空を飛び回っていました。
千年振りの地上の情報を得るためと、封印を免れた仲間を探すために」
「雲居様、あなた方の目的は一体何なのです?」
「……」
一輪の表情が曇る。
何か思い出したくないものを思い出したかのような、けれど忘れる事などできない強烈な記憶を思い返すような表情。
迂闊な質問をしてしまったかもしれないと思う聖哉だったが、やがて彼女は。
「――私達の目的は、千年前に“魔界”へと封印された恩師、“
強い決意の色を瞳に乗せ、自分達の最大の目的を話し始めた。
「その聖白蓮とは、何者だ?」
「聖様は我々にとって師であり、恩人であり、家族のような方です。
僧侶として類まれなる力を持つと同時に、大魔法使いと呼べる程の器を持つ人でした」
(家族……)
「聖様は人や妖怪、果ては神すら平等に生きる事のできる世界を願う方でした。
妖怪として暴れまわっていた私達は聖様と出会い、救われると同時にその夢を実現しようとしていました」
その夢は、決して楽な道ではなかった。
当たり前だ、種族が違う存在が共に歩める世界などそう簡単に訪れるわけがない。
同じ人間同士、妖怪同士ですら争い合うというのだから、その夢が如何に遠い道のりであるのは明白であった。
だがそれでも、聖白蓮という女性はその夢を掲げ、そんな彼女に一輪達も共感しそんな世界を望んだ。
きっと白蓮と一緒ならそんな世界を見る事ができる、そう思わせる魅力と力が彼女にはあった。
それから一輪と雲山は妖怪として人を襲う事は無くなり、今はまだ眠っている船幽霊の“
まあぬえに至っては時折人間に悪戯を仕掛けていた時もあったものの、無闇に人の命は奪わず……厳しい修行を行いながらも、平穏に生きてこれたのだ。
――しかし、その平穏は呆気なく終わりを迎える事となる。
「聖様は人間からも慕われていたのですが、我々妖怪に加担していると知ると……人間達は聖様を魔界へと封印してしまったのです」
あの時の事は、千年以上経った今でも鮮明に思い出せる。
今まで散々白蓮の優しさに甘え、頼りにしてきた人間達は一転して彼女を悪魔呼ばわりして罵詈雑言を浴びせた。
当然一輪達は抵抗しようとした、しかしそれを他ならぬ白蓮自身が望まなかった。
彼女は人も妖怪も神も仏も全てにおいて平等、そういった考えだったからこそ……最後の時まで抵抗らしい抵抗をしなかったのだ。
この事態は自分の不徳だと、悪いのは彼等人間ではなく自分の未熟さだと悲しそうに告げて、彼女は結局封印された。
そして一輪達もまた、聖輦船ごと地底へと封印され――けれどいつの日か、あの時のような平穏を取り戻す事だけを切に願った。
「神社に向かって落ちてきたのは何故だ?」
「……先程も言ったように私達は地上の情報と仲間を探していました、聖様の封印を解くにはこの聖輦船と……仲間が持つ“宝塔”が必要でしたから」
「宝塔?」
「我々の仲間の一人である“
故に、封印を解くにはその宝塔とそれを扱える彼女の力が必要になる。
彼女は毘沙門天の代理として人間からも信仰されていた、だからこそ封印を免れ今でもこ地上で生きているだろう。
そう思ったからこそ、一輪達は幻想郷の上空から彼女とその部下である妖怪ネズミである“ナズーリン”という少女を捜していたのだが。
「突如として、何者かに襲われ抵抗したのですが……」
「ふむ……抵抗したがそのまま敗れ、神社に向かって落ちてきたというわけか……」
頷く一輪。
「――聖哉、お前は今の話を信じるか?」
一輪から視線を向けたまま、神奈子は聖哉へと問う。
……聖哉としては、信じても良いと考えている。
一輪の話は辻褄が合っているし、彼女の瞳は真っ直ぐで曇りがない。
無関係である自分達に目的を話してくれた辺りも、嘘偽りを嫌う誠実さを感じられた。
何よりも、彼女は助けたいと思っている白蓮の事を“家族”だと言った。
たったそれだけ、たったそれだけではあるが……聖哉にとって、それだけで信じたいと思うには充分過ぎる。
しかしだ、聖哉個人としてはこのまま彼女達を許し目的を果たしてほしいと思うが……ここには天狗の代表として来ているのだ。
無罪放免とはいかない、一歩間違えれば神社はおろかこの山の地形の一部が変わりかねなかったのだから。
「……私は、彼女を信じたいと思います。ですが山の一員として彼女達を安易に許す事もできません」
「聖哉さん……」
「では、どうする?」
「なので我々で暫し彼女達を問題がないと判断できるまで“監視”しようと思います。
――雲居様、あなた方には暫し窮屈な思いをして戴く事になりますが……どうか聞き入れてはくれませんか?」
真っ直ぐに彼女を見ながら、聖哉は頭を下げる。
あなた方の目的の妨げになってしまう事をどうか許してほしいと告げるその姿に、一輪は感謝した。
監視すると言ったのはあくまで表面上、実際には自分達の好きにさせてくれるというのが判ったからだ。
現に聖哉の言葉を聞いて、彼の隣に座る神奈子はくっくと笑いを堪えている。
「――ありがとうございます、犬渡さん」
なので一輪も、自分達の思いを汲み取ってくれた彼に最大の感謝を。
「聖哉で結構ですよ。雲居様」
「では私の事も一輪と。――敬語も要りません」
「わかったよ一輪、これからよろしく頼む」
右手を差し出す聖哉、すぐに一輪も手を伸ばし握手を交わす。
「では神奈子様、一輪さん達は怪我が治るまでこの神社で過ごしてもらいましょうか?」
「え、ですがそれは……」
「いいんです。一輪さん達は良い妖怪さんなのは今の話でよくわかりましたから! 困っている人に人間も妖怪も関係ありませんし!!」
ふんす、と胸を張る早苗。
人間に信仰される神社に妖怪を住まわせても良いのか、そんな当たり前の疑問が一輪の頭に浮かんだが、それ以上は何も言わなかった。
消耗している今の状態では衣食住を用意してくれるこの環境は有難いものだし、何より祀られる神である神奈子が何も言わないので良いのだろう。
少々渋い顔をしているので、許可したというより早苗を説得するのを諦めたと言った方が正しいかもしれないが。
「あの船の修理は河童達に手伝ってもらう事にしよう」
「……申し訳ありません、何から何まで」
「構わないさ。河童達も未知なる技術の結晶に立ち会えるのなら喜んで協力してくれるだろう。それに此方も色々と思う所があるのでな」
少しだけひっかかる物言いをする神奈子だが、今の一輪には些細なことであった。
すぐに目的を果たせないのは歯がゆいが、今は自分達の傷を癒す事を優先させなくてはと一輪は己にそう言い聞かせる。
(待っていてください聖様、必ず私達があなたを……!)
「ところで一輪、お前達を襲った相手はどんな奴だったんだ?」
「……それが、わからないの。奇襲だったというのを差し置いても圧倒的な力で捻じ伏せられて顔も見れなかった、しかも……たった一人によ」
「…………そうか」
その言葉を聞いて、聖哉は表情を強張らせる。
……先程の攻防で一輪と雲山が並の妖怪以上の力を有しているのは判った。
おそらく彼女の仲間も同じ程度の力を持っているだろう、そんな彼女達をたった一人で倒した相手が幻想郷に居る。
(また、睦月の時のような戦いが始まるのか……?)
またしても幻想郷が揺らいでしまう、漸く今までのような平穏が戻ってきたというのにだ。
(平和はまだ、遠いのか……?)
◆
「っ、っ……!」
振るう、振るう、振るい続ける。
妖怪の山の至る所に存在する滝の裏側には、自然にできた洞穴が存在している。
その内の一つに椛は居た、手には普段自分が使う太刀ではなく聖哉が用いる大剣を持って。
「は、はぁ……っ!!」
息を乱し、滝のような汗を流しながら、彼女は一心不乱にその大剣を振るい続けていた。
体格には合わない大剣を振るう度に身体には痛みが走り、剣を持つ腕は痺れ力が入らなくなっていく。
けれど彼女はそんな事は微塵も構わずに、まるで憑りつかれたかのように剣を振るっていた。
「くぅ……は、ぁ……」
顔には焦りの色が見え、およそ鍛錬とは呼べぬただ自分の身体を痛めつけるだけの行為に没頭する。
……彼女とて、今の自分がしている事の無意味さを理解していた。
そもそも聖哉が使う大剣は彼女の身体よりも大きく、通常白狼天狗に支給される太刀よりも重厚な造りの特別製だ。
そんなものを扱うには彼女の肉体は小柄過ぎる、だが……今の彼女はそれを理解しても尚、この大剣を使いこなそうとしていた。
(先輩はどんどん強くなってる……私よりもずっと先を歩いて、離れていくばかり……)
椛の頭の中に浮かぶのは、先の空飛ぶ船――聖輦船落下時の事。
あの時、聖哉の力になったのは早苗と……聖哉にやたらと密着していたお空であり、自分は何もできなかった。
その事実が椛に焦りと嫉妬を生ませ、こうして愚行とも取れる行動を促してしまっていた。
(このままじゃ、先輩の隣に立つのは……)
無邪気な笑顔を浮かべ、聖哉に抱きつくお空の姿が脳裏に浮かぶ。
「っ」
ギリ、と歯を鳴らしより一層鬼気迫った勢いで椛は剣を振るう。
……醜い嫉妬だ、要するに自分は聖哉の助けになった彼女を嫉んでいる。
それだけではない、ああも簡単に彼に接近し密着する事ができる彼女を羨んでいた。
「っ、あっ……!?」
それで集中が途切れてしまったのか。
椛の両手から大剣がすっぽ抜け、前方の壁に突き刺さってしまう。
「……はぁ、は、はぁ……」
取りに行こうとするが、足がガクガクと震え上手く動かせない。
両手もすっかり痺れてしまっており、手の皮も剥け血が滲み始めている。
「…………私、何やってるんだろう」
普段の自分からは考えられない、癇癪を起こした子供のような行為。
情けなくて恥ずかしくて、けれどその感情を否定する事もできなかった。
だって、否定なんてできないくらい椛の聖哉を想う気持ちは……。
「椛」
「――」
背後から響く、聞き慣れた声。
振り向かなくても誰だかわかり、それでも椛はきちんと相手の顔を見たくて振り向くと。
「……先輩」
珍しく、自分に対して怒ったような表情を向ける、聖哉の姿が視界に広がった。
「何やってるんだ? 見た所鍛錬のようだが……それは、俺の剣だよな?」
「……」
「別に黙って持ち出したのは構わないんだ。今の俺がそれを使えば折っちまいかねないからな」
言いながら、聖哉は椛に向かって歩み寄る。
椛は僅かに身体を震わせ、顔を俯かせながらぎゅっとスカートを握りしめた。
「鍛錬をするのは別にいいさ、非番なんだからどう過ごそうが本人の自由だ。
けどな椛、俺の剣はお前の体格じゃ扱えないのは判ってるだろう? それなのになんでこんな事をしたんだ?」
「……強く、なりたいんです。強くならないと……先輩に、置いていかれるから」
「俺に?」
その言葉に、聖哉の中から怒りが消え困惑だけが残った。
強くなりたいから鍛錬に励むというのは判る、だが自分に置いて行かれるというのは一体どういう事なのか。
「先輩はどんどん強くなってます、あの伊吹様や八雲紫ですら倒せなかった睦月を倒して、今じゃ天魔様からも一目置かれる存在となりました」
「……買いかぶり過ぎだと、俺は思うんだけどな」
「この間の空飛ぶ船を止める時だって、先輩は本当に凄くて……私なんかじゃ、足元にも及ばない程強くなってるって改めて思い知らされました」
「あれは早苗にお空の協力があったからで、俺一人の力じゃないぞ?」
場の空気を和ませるために、少しだけおどけたように答える聖哉だが、椛は顔を上げようとはしない。
「このままじゃ、私は先輩の隣に立てません。そんなの……嫌です」
「そんな事は……」
「あります!! だって私が先輩よりずっとずっと弱かったら、共に戦う仲間じゃなくて単なるお荷物に成り下がってしまうじゃないですか!!」
そこで漸く顔を上げ、椛は声を張り上げる。
その瞳には涙が溜まり、彼女の顔を見た聖哉は掛ける言葉を失ってしまった。
「だから強くならないといけないんです、先輩の剣を扱えるくらい強くなって先輩の隣に立つに相応しくならないと。だって、だってそうしないと……あの子に、お空さんに先輩をとられちゃうから……!」
「……椛」
「お空さんだけじゃありません、他の女性に先輩の隣に立たれるのは……嫌、なんです」
――言い切ってから、椛は心の中で後悔した。
こんな醜い感情を言ってしまった、彼に知られてしまった。
なんて我儘で子供っぽい感情なのだろうか、こんな事を考えてしまっている時点で迷惑だというのに。
けれどもう止まらない、心の内に溜めていたものが椛の意思と関係なく零れ落ちていく。
「ずっと一緒に居たんです。
子供の頃から先輩に剣術を学んで、一人前の白狼天狗として哨戒任務に加わって、時には山で暴れる妖獣を一緒に退治したり、休暇の時には釣りをしたり飲みに出かけたり将棋を指したり……当たり前のように、私の隣には先輩が居て先輩の隣には私が居ました」
それなのに、その位置を奪われようとしている。
少なくともお空はそうは思っていないだろう、これが自分の被害妄想だというのも椛は理解していた。
それでも、嫌だと思ってしまう自分が居る。
「……ごめんなさい。こんな事言われても迷惑だってわかっているのに、私は」
「椛」
「え――」
聖哉の手が、椛の腕を掴む。
そして彼は慣れた手つきで懐から手拭いを取り出し、血が滲む椛の手をそれで優しく包み込んだ。
涙で滲む目で聖哉を見る椛、彼は……何故か申し訳なさそうな表情を見せていた。
「ごめんな椛、謝るのは俺の方だ」
「え、先輩……?」
意味が判らなかった。
何故彼が自分に謝らなければならないのか、悪いのは嫉妬した自分だというのに……。
「俺は、お前の気持ちを判っていなかった。お前が俺と共に居たいという想いを理解していなかったんだ」
「そ、そんな……いいんです、先輩は悪くなんか……」
「けどこれだけは言える。――お前はお荷物なんかじゃない、だってずっと前から俺を支えてくれただろう?」
「えっ……」
そう、彼女はずっと自分を支えてくれたと聖哉は断言できた。
……彼女に出会うまで、聖哉には同等の立場での理解者は居なかった。
大天狗の清十郎などは気に掛けてくれていたが、それでも上司であるが故に常に彼を見ているわけにはいかない。
だから彼は多くの時間を一人で過ごしていた、そんな中――椛と出会えたのだ。
自分を先輩だと慕い、“中途半端”だと蔑まれる自分を純粋に心配し時には本気で怒ってくれた時だってあった。
嬉しかった、本当に嬉しかったのだ。
それからも彼女は自分と共に居てくれた、たったそれだけで聖哉の心は確かに支えられていたのだ。
今では文やにとりといった理解者が居るとはいえ、それまでは椛の存在に何度も救われていた。
だから聖哉は断言できる、今の自分が居るのは椛のお陰だと。
「先輩、私……」
息を呑む音が、椛から聞こえた。
戸惑いと困惑、そして確かな嬉しさが感じられる。
「だから無茶だけはしないでくれ、強くなってくれるのは嬉しいがそのせいで椛が傷つくのは……嫌だから」
真っ直ぐに椛を見て、聖哉は告げる。
お前の想いには遠く及ばないけれど、俺だってお前を想っている。
そう伝えるように、しっかりと聖哉は椛を見つめていた。
「…………私、やっぱり子供です」
「そんな事ない。――想ってくれて本当に嬉しい、それだけは確かだ」
「はい。それは先輩の目を見れば判ります」
椛が笑う。
まだ少しだけぎこちなかったけど、その笑みはいつものように可愛らしく彼女らしい笑みだった。
「椛、俺は……」
「先輩、焦って答えを出そうとしないでください」
聖哉が何か言いかける前に、椛がそれを制止する。
自分の心中を悟ったような言葉に驚き、そんな彼に椛は言葉を続けた。
「もう大丈夫です。今回みたいな子供っぽい事はたぶん……きっと……おそらく、しませんから」
「……」
「ぅ……だ、だってしょうがないじゃないですか!! や、やきもちくらい……妬いちゃいますから」
けれど、だからって答えを急がないでほしいと椛はそう言葉を続ける。
もちろん椛とて答えはほしい、そしてできるならば自分の望む結果を得たい。
でもそれは自分の我儘、彼の気持ちなどまったく考慮しないものでしかない。
だから椛は待つ、彼が答えを得るその日まで。
……まあ、その間にもきっといっぱいやきもちを妬いてしまうだろうけど。
(……厄介な奴を好きになったな、椛)
彼女には悪いが、聖哉はそう思わずにはいられなかった。
自分でも判るほどに優柔不断で、これだけ想われている彼女に何も返せない情けない男。
そればかりか気を遣われている始末、これ以上ないってくらい恥ずかしい。
(答え、出さないとな……)
それもなるべく早く、納得のできる形で。
……それが本当にできるのか、甚だ疑問なのだが。
【簡潔なキャラ紹介】
・雲居一輪
珍しい入道使い、元人間。
雲山という入道雲と意思疎通をして共に戦う女傑、得意技は格闘戦と意外に武道派。
前の騒動の際に地上へと舞い戻り、恩人を救うために行動していた際に謎の人物に襲われ妖怪の山に落ちてきた。
現在は守矢神社にて居候中。
・雲山
一輪のパートナーである見越し入道、見た目も中身も頑固親父。
けれどまったく融通が利かないわけでもなく割と話が通じるナイスミドル。
けど根性が曲がった相手には必殺の拳骨が飛ぶので注意。