狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第35話 結ばれる友情~氷精と地獄鴉~

 守矢神社の裏には、外の世界から一緒に持ってきた湖が存在する。

 普段は何もないそこには、現在巨大な木造船が着水していた。

 聖輦船と呼ばれるその船を修理するために、現在河童達が集まってあーだーこーだと議論を交わしている。

 

「だからさー、やっぱり今以上に武装を強化するべきだって!!」

「いや、その前にこの高い機動力を更に高めるために改造が必要!!」

「あい待った、まずは追加装甲を装着させて耐弾性を向上させるべき!!」

 

 自分達の趣味を押し付け合う河童達、完全に船の乗組員を無視していた。

 それを少し遠巻きに眺めつつ、半目で冷たい視線を向ける雲居一輪に、聖哉は苦笑を浮かべる。

 

「悪いな一輪、変な改造は絶対にさせないから」

 

「……それを強く願うわ。というか今更ながらに任せても大丈夫なのか不安になってきた」

 

「…………バカシカイネーノ?」

 

 聖哉の傍をふわふわと浮かびつつ、大袈裟に肩を竦めため息を吐くイリスに二人は苦笑。

 と、ヒートアップを続ける河童達を黙らせる存在が怒声を上げた。

 

「ストップストップ、みんな気持ちは判るけどまずは損傷した箇所の修理が先決だよ!!」

 

 そう言ったのは、両手に工具を持った水色の髪を持つ河童の少女、河城にとりであった。

 彼女の言葉に他の河童達も一度議論を止め、少しばかりしぶしぶといった様子で作業に取り掛かった。

 それを見届けてから、にとりは聖哉達の元へ向かい苦笑を浮かべつつ二人に軽く頭を下げた。

 

「本当にごめんよ、悪気はないんだけど……あんな凄い船を前にしてみんな凄いテンションが上がっちゃったんだ」

 

「……まあ、きちんと修理してくれるのなら別にいいのだけど」

 

「それは勿論だよ! 変な改造も絶対にしないから、けど私達が修理できるのはあくまで外観だけで飛べるようにするのは無理そうなんだけど」

 

「そうなのか?」

 

「うん、あの船は法力で動いてるんでしょ? 妖怪にとって僧が扱う法力の力は天敵みたいなものだからさ、さすがにそれをいじるのはできそうにないよ」

 

 言って、にとりは悔しそうに唇を噛み締める。

 幻想郷のエンジニアとして、完全に修復できない自分達の未熟さが悔しいのだろう。

 

「大丈夫、あの船は自動で法力を生成する力があるの。ただ封印も解けたばかりで損傷もあるからおそらく二月程度は動かせないでしょうけど」

 

「ほえー……凄い材質で作られてるんだね、見た目は単なる木造の船なのに」

 

「正確にはあの船に法力を込めた人物、聖様の弟君である命蓮(みょうれん)様のお力あってこそなのよ」

 

「命蓮……」

 

 一輪達の恩人であり師であり家族である聖白蓮の弟、僧としての力は大僧正と呼べる程の力を持つ白蓮以上だと言っていた。

 それだけの力を持った彼の法力が編まれた船は、此方の常識を覆すような摩訶不思議な能力を有しているようだ。

 

「本当に未知の結晶なんだ……よーし!!」

 

 技術屋として触発されたのか、にとりはグッと握り拳を作りやる気を出し始めた。

 そのまま一目散に聖輦船へと戻り、早速とばかりに仲間の河童達と作業に取り掛かるその姿に、一輪は少しばかり不安を覚えながらもとりあえず信用する事にした。

 山にとって自分達は単なる侵入者であり同時に山に被害を齎そうとした害悪だというのに、こうして傷が癒えるまで面倒を見てくれるだけでなく船の修繕まで引き受けてくれたのだ。

 それを疑うなど罰が当たる、白蓮が知ったらきっと怒るだろうと思い……一輪は昔を思い出し口元に笑みを浮かべた。

 

「ねえ、やっぱりこの開発したばかりのロングレンジキャノンは取り付けない?」

「うーん……採用!!」

 

「ちょっと待ちなさい!!」

 

 訂正、やっぱり河童達だけに任せたら聖輦船が単なる戦艦になってしまう。

 速攻で誓いを破ったにとり達に鬼の形相を浮かべ、一輪は雲山を連れて彼女達の元へと向かっていった。

 

「……」

「ヤッパリ、河童ニハバカシカイネーノ?」

 

 辛辣なイリスの言葉に、聖哉は何も言えなかった。

 というか、日を追うごとに口が悪くなり感情表現も豊かになっているように見えるのは気のせいなのか。

 一度アリスの元へと経過報告に行った方がいいかもしれない、聖哉がそう思っていると――彼の元に息を切らした椛が飛んできた。

 

「はっ、はっ……先輩、お疲れ様です!!」

 

「……お疲れ椛、なんで息切らしてるんだ?」

 

「哨戒任務が終わって、すぐに先輩の所に会いたかったから全速力で来ました!!」

 

 迷いもなく、けれどまだ羞恥があるのか顔をほんのりと赤く染めながら椛はそう言い放つ。

 ……どうもこの間の事があってから、椛はまた積極的に絡むようになってきた。

 恥ずかしがり屋の性分はまだ残っているものの、今のようにストレートな思いをぶつけるようになってきて、聖哉の心中はあまり穏やかではない。

 

(贅沢な悩みだ)

 

 そう、自分には贅沢過ぎるのだ。

 幼少期の頃から彼女の事を知っている、だからこそ良い面や魅力的な部分がよく判ってしまう。

 ましてや最近の彼女は本当に可愛らしい姿を見せてくるのだ、否が応でも意識してしまうのは致し方ないではないか。

 

「先輩、この後暇ですよね? もし宜しければ鍛錬に付き合ってくださいませんか? その後は……デートしてください!!」

 

「あ、お……」

 

 ……本当に、積極的になったものである。

 しかも紅潮しながら言うものだから、いつもよりも可愛らしく映り否が応でも鼓動が速まってしまう。

 小柄な少女に一方的に押される大男という珍妙な光景が広がる中……彼の元に別の少女が現れた。

 

「おにーーーーーさーーーーーーんっ!!」

「えっ――――おぼぉっ!?」

「先輩!?」

 

 視界が真っ暗になると同時に襲い掛かる衝撃によって、聖哉はそのまま地面に倒れ込んでしまう。

 息が苦しい、しかし何故か柔らかい感触が顔全体に広がっている。

 誰かが顔目掛けて抱き着いてきた、それを理解すると同時にそんな事をする子は一人だけだと聖哉はその誰かが何者なのかが判り力ずくで引きはがし少女の名を呼んだ。

 

「……お空、苦しいんだが」

 

「えへへー……おにーさん、こんにちはっ」

 

 太陽のような、という表現が似合う屈託のない純粋無垢な笑みを浮かべる長身の少女。

 背中には大きく立派な黒い翼を早し、子供のような雰囲気ながらも身に纏う力はただひたすらに強大。

 今日もその身に宿した“八咫烏”の力をコントロールする修行の為に守矢神社へと来ていたお空――霊烏路空はまたしても聖哉に抱きつこうと腕を伸ばしてきた。

 

「っ、ちょっと待てお空」

 

「うにゅ?」

 

 その手を掴み、抱きつこうとしてくるお空を阻止する聖哉。

 彼の行動の意味が理解できないのか、お空は首を傾げ……やがて寂しそうに、眉を下げる。

 

「おにーさん、私に抱きつかれるの……嫌なの?」

 

「そういうわけじゃない、だがな……女のお前が男の俺にそういう事を軽々しくやっちゃいけないんだ、わかるか?」

 

「それ温泉の時にも言ってたよね? やっぱり交尾したくなっちゃうの?」

 

「もう少し言葉を選べ馬鹿っ。……もうそれでいいから、今後抱き着くのは禁止な」

 

 聖哉の言葉にショックを受けるお空、「ガーン」と口で言っている辺り本当にショックを受けているかはよくわからないが。

 罪悪感が芽生えるが、やはりこういうのは彼女の為にはならないし何より……隣に居る椛に申し訳ないではないか。

 彼女は自分を好きだと言ってくれた、そんな彼女の想いに答えていない自分が別の女性と密着するなどあまりにも不誠実だ。

 お空には申し訳ないがこれだけは譲れない、最悪彼女に嫌われても致し方ない…………そんな決意を聖哉は胸の内に誓ったというのに。

 

「ダメじゃないですか先輩、お空さんの事ぎゅーってしてあげてくださいっ」

 

 他ならぬ椛が、耳を疑うような事を言ってきた。

 

「え、いや……えぇ?」

 

「お空さんは先輩の事が好きなんですよ? そんな純粋な気持ちを無碍にしたらダメです」

 

「いや、だって……お前、いいのか?」

 

「…………正直、妬いちゃいます。

 でも、お空さんの気持ちはよく判るんです。大好きだから触れたいって気持ち……私も、あるから」

 

 そう言って、椛は少し遠慮がちに、けれどしっかりと自分の腕を聖哉の右腕に絡め始めた。

 

「あ、椛ちゃんいいなぁっ!!」

 

「お空さんも遠慮しなくていいんですよ? 先輩はお空さんの事嫌いじゃないですし、抱きつかれるのも迷惑じゃないですから」

 

「……ホントに?」

 

「あー……」

 

 ちらりと椛を見ると、軽く睨まれてしまった。

 ……これはもう逃げられないようだ、さっきの自分の決意はなんだったんだーと言いたい気分であったが、もうそんな事はどうでもいい。

 

「お空、ごめんな? お空の事が嫌いとか迷惑とかじゃないんだ、だからお前が別に良いのなら……」

 

「わーい!!」

 

 すべて言い終わる前に、お空は再び満面の笑みを浮かべ聖哉へと抱き着いてきた。

 右側に椛、左側にお空。

 

(あぁ……視線が痛い……)

 

 此方のやりとりをいつの間にか眺めていたのか、周囲の河童達の視線が集まっている。

 それだけではなく、雲山は微笑ましそうに見つめているし一輪に至っては呆れたような視線を送ってきていた。

 もういいや、半ば自棄になった聖哉はそのまま石像のようになっていようと決め……周囲の気温が下がり始めてきたことに気が付いた。

 

「んっ?」

「あれ? なんか寒くなってきたような……」

 

 椛やお空、他の者達もそれに気づき、それと同時に。

 

「――はーはっはっは!!」

 

 湖の上空から、頭の悪そうな高笑いが聞こえてきた。

 全員が視線を上に向けると、そこに居たのは氷の羽根を持った水色の髪の幼き少女。

 妖精の中ではなかなか有名である氷精チルノと、これまた妖精の中では有名である大妖精の姿があった。

 彼女達だけではなく、いつの間にか湖の上空には沢山の妖精たちが集まっており、くすくすと悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 

「……」

 

 とりあえず、腕を組んで高笑いを繰り返しているチルノの元へと向かう聖哉。

 

「はーはっはっは……げほっ、ごほっ」

 

「……チルノ、何やってんだお前」

 

「ごほっ……あ、聖哉。何やってるって決まってるじゃない、笑ってるのよっ」

 

「それは見れば判る。そうじゃなくて何で笑ってたんだ?」

 

「だってこうすればなんかかっこいいでしょ?」

 

「……そうか」

 

 なんというか、リアクションに困る返答をされてしまった。

 ……隣に居る大妖精が彼女を見る目を冷たくしたのは、気のせいだと思いたい。

 

「まあそんな事はどうでもいいわ。それより聖哉、なんか面白いものが現れたわね」

 

「聖輦船の事か?」

 

「あの船……あたい達の新しい遊び場にピッタリだから貰っていくわよ!!」

 

 チルノの言葉に、他の妖精達も「おー」だの「もらってくぞー」だの騒ぎ出す。

 成程、数十は居るであろう妖精達が集まってきたのはそれが理由かと聖哉は納得する。

 しかし、流石に聖輦船を妖精達の遊び場なんぞにさせるわけにはいかない。

 

 かといって言葉での説得など無意味だろう、妖精達は揃いも揃って良い意味でも悪い意味でも話を聞かないから。

 要するに彼女達は“遊びたい”だけなのだ、ならばそれに付き合ってくれれば自然と聖輦船にも興味を失ってくれるだろう。

 

「…………くっくっく」

 

「お?」

 

「あの船が欲しいと言ったな? ならば、船を守護するこの白狼天狗、犬渡聖哉を倒してからにするがいい!!」

 

 わざとらしく悪人のように笑い、わざとらしいポーズをしながら身構える聖哉。

 傍から見れば大根役者もいいところの演技であったが、チルノのやる気を引き出すには充分であった。

 

「なるほどなるほど、これはあたい達に課せられた試練ってわけねっ、いくわよみんなっ!!」

 

「おー!!」

「てんぐ、やっつけるー!!」

「ごーごー!!」

 

 他の妖精達も楽しげに騒ぎ出す。

 しかし、何故か大妖精だけは皆から一歩引いた……というより、完全に離れた位置に移動していた。

 はてどうしたのかと聖哉が思った矢先。

 

「――私も混ぜてー!!」

 

 湖全体を揺らすほどの力――八咫烏の力を開放したお空が場に入ってきてしまった。

 既に彼女の周囲は高熱を発しており、戦闘態勢に移行しているのは誰の目にも明らかであった。

 

「おいお空、ちょっと」

 

「お? 誰だお前? よくわかんないけど、かかってくるなら相手になってやるぞー!!」

 

「ホントー? よーし、それじゃあ修行の成果をおにーさんに見せる時だね!!」

 

「待てお空、まさか――」

 

 修行の成果を見せる。

 それがどういう意味なのか、聖哉はすぐに理解してお空を止めようとしたが。

 

「いっくぞー、パーフェクト――」

 

「メガフレアーーーーーーッ!!」

 

 場に居る全員の視界が、真っ赤に染まる。

 お空の右腕に装着された制御棒から放たれる、超高温の熱線。

 それは真っ直ぐチルノへと向かい、自身の得意技を仕掛けようとした彼女を呆気なく呑み込んでしまった。

 

 それだけに留まらず、メガフレアの光線は周囲の妖精達もまとめて呑み込み、吹き飛ばしていく。

 妖精達は悲鳴も出せずにお空の一撃によって消滅し、そのある意味地獄絵図な光景を聖哉達は茫然と眺める事しかできず。

 

「…………やったー、見た見たおにーさん。私ちゃんと周囲に被害出さなかったでしょ?」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

 確かに、お空のメガフレアは湖や聖輦船は勿論の事、聖哉達やその他の地形を破壊したりはしなかった。

 その点は確かに凄い事だろう、そこだけを見れば素直に褒めてもいい。

 だがそれ以外……大妖精以外の妖精達が揃って彼女の熱線によって湖の上に浮かんでいる光景を見ると、褒めるに褒められない。

 まあ、熱線で跡形もなく消滅させなかった辺り、きちんと手加減はできているのは判るがそんなものは些細な事だ。

 

「とりあえず、お空」

 

「なーに?」

 

「八坂様に説教してもらうか」

 

「何で!?」

 

 

 

 

「――んまーいっ!!」

「それはよかったです、遠慮しないで食べてくださいね?」

「ありがとうございます、早苗さん」

 

 守矢神社の境内にて、チルノの「うまいうまい」という声とクッキーを齧る音が響く。

 ……あの後、気が付いた妖精達はチルノと大妖精を除いて全員逃げ出してしまった。

 それと同時期に騒ぎを聞きつけた神奈子によって聖哉達は守矢神社へと連れてこられ、現在に至る。

 早苗はチルノ達に美味しいお菓子を提供し、一方のお空と聖哉はというと……正座をさせられ神奈子の説教を受けていた。

 

「八坂様、何故私まで?」

 

「当たり前だ。お前はお空の地上での保護者のようなものなのだから、今回はお前の監督不行き届きでもあるんだぞ?」

 

(なんという理不尽な……)

 

 というかいつ自分がお空の地上における保護者になったというのか。

 色々と解せない面もあり不満そうな視線を向けるものの、軍神である神奈子に睨まれては何も言えなくなってしまうのであった。

 

「……お菓子、いいなあ」

 

「こらお空、お前は今反省すべき立場である事を忘れるなっ」

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

「……なーおばちゃん、コイツも反省してるし許してやんなよ。あたい達も一回休みにならなかったんだからさ」

 

「おば……っ!?」

 

 お空を庇おうと話に入ってきたチルノの一言を聞いて、神奈子は凍り付いてしまった。

 遠くで誰かが噴き出した音が聞こえた、おそらくこの場に居ない諏訪子だろう。

 完全に固まったまま動かなくなった神奈子にお空とチルノは首を傾げ、聖哉達は揃って苦笑を浮かべる。

 

「と、とりあえずお空さん達もこっちに来てお菓子でも食べませんか?」

 

「そ、そうですよ先輩。こっちに来て早苗さんが作ってくれたお菓子を食べましょう?」

 

「……」

 

 神奈子はまだ固まったままだ。

 なので聖哉は椛達の言う通り彼女達の元に向かう事にした。

 

「それにしてもお前すごいなー、あたい程じゃないけど」

 

「えへへ……そお?」

 

「よし、気に入った。お前とあたいは今日から友達だ! あたいはチルノっていうんだけど、お前は?」

 

「私は霊烏路空、みんなお空って呼んでるからチルノもお空って呼んでね?」

 

「うん、お空!!」

 

 ニカッと元気いっぱいに笑い合うチルノとお空。

 地獄鴉と妖精が友人になるというのは奇妙な光景ではあるが、これもまた幻想郷らしい。

 何より見ていて微笑ましい、自然と聖哉達の口元には優しい笑みが浮かんでいた。

 

「あ、そういえば大ちゃん!!」

 

 と、チルノは急に顔を静かにお菓子を食べていた大妖精へと向ける。

 

「どうしたの?」

 

「大ちゃん、さっきお空の攻撃が来る前に逃げてたでしょ?」

 

「うん、だってあのままチルノちゃんに付き合ってたら巻き込まれると思ったから」

 

「お、おぉ……? なんか大ちゃんの視線が冷たい気がするけど……?」

 

 気がする、ではなく大妖精のチルノを見る目は冷たかった。

 当たり前である、お空もやりすぎとはいえ元はと言えばチルノ達がちょっかいを出さなければあんな事にはならなかったのだ。

 というか大妖精はチルノが「大ちゃん、妖怪の山に現れたでっかい船をあたい達のものにしよう!!」と提案してきた瞬間から、オチは見えていた。

 それでも彼女に付き合ったのはまがりなりにも友人であるのと、単純にその船がどんなものなのかを見たかっただけである。

 

 大妖精は妖精の中で強い力を持ち、また知識量も並の妖精より遥かに優れている。

 だからこそ彼女は進んで危険な目には遭おうとは思わない、悪戯が好きなのは否定しないがチルノの無茶には今回のように最後まで付き合わない事もあるのだ。

 

「チルノちゃん、遊ぶのはいいけど次からはもう少し考えて遊ぼうね?」

 

「んー……? うん、わかった」

 

 全然わかってない返事を返してきたチルノに、大妖精は予想通りと思いつつも小さくため息を吐いた。

 とはいえこういった所も彼女の魅力の一つだと思っている大妖精にとって、さしたるショックはないのだが。

 

「そういえば、チルノちゃんはどうやってあのお船の事を知ったの?」

 

「んー? なんか知らないにいちゃんに教えてもらった、着物とはちょっと違う服装だったけど……そういえば誰だったのかな?」

 

「……何だと?」

 

 その言葉に、聖哉は違和感を覚えた。

 聖輦船の事はまだ外部の存在に殆ど伝えてはいない、おそらくどこぞの白黒魔法使い辺りは嗅ぎつけているが詳細は知らないだろう。

 だからこそ不可解に思えた、山の者ではないであろう存在が聖輦船の事を知っている事に。

 

「チルノ、そのにいちゃんとやらはどんな奴だったんだ?」

 

「んー……よくわかんない、けどすっごく優しそうなにいちゃんだったよ。ここに空飛ぶ不思議な船があるから手に入れるのも面白いかもよって」

 

「空飛ぶ船と、そいつは言ったのか?」

 

「うん」

 

(単なる船、ではなく空飛ぶ船と言った……つまりチルノと話した者は、聖輦船の事をよく知っている?)

 

 違和感が強くなり、同時に何か嫌な予感がした。

 前に守矢神社の中で一瞬感じた視線、そして今回チルノに聖輦船の事を話したという男。

 その二つが聖哉の第六感を刺激し、警告を発し始めていた。

 

「セーヤ?」

 

「……いや、なんでもないよイリス」

 

 頭をペシペシと叩いてくるイリスにそう答え、聖哉は椛達と共に楽しいおやつタイムに集中する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

――何かが、始まろうとしている。

 

 その予感を、胸に抱きながらも彼は今の平和を満喫する。

 近いうちにその拮抗が崩れると、当たり前のように予感しながら……。

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