狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~ 作:カオ宮大好き
「――くそっ、何故だ!!」
法界に、命蓮の怒りに満ちた声が木霊する。
そんな彼を、牢獄のような形で展開されている封印術の中に佇む女性、聖白蓮が哀しみを込めた視線で見つめていた。
「毘沙門天様の宝塔と聖輦船、この二つがあれば姉さんの封印を解ける筈だというのに……!」
だというのに、先程から何度試しても白蓮の封印は解けない。
……それは間違いではない、彼の言う通りこの二つがあれば白蓮を封じている術を解く事ができる。
しかし。
「……命蓮、もうお止めなさい」
「何を言っているんだ姉さん、ここまで来て……」
「毘沙門天様の宝塔は、あの御方が御自身の力を使えると認めたものだけが扱える宝具。
如何に貴方の法力とて、扱えるものではないの」
そう、故に命蓮では白蓮を救う事などできない。
その事実に愕然とし、すぐさま命蓮はその端正な顔つきを怒りによって歪ませた。
「ふざけるな! そんなの認めない、こうして目の前に姉さんが居るのに救えないなんて……!」
「命蓮、貴方と再び出会いこうして話ができる事はとても嬉しく思うわ。だけど……私の大切な人達を傷つけてまで、私を助けようとしてほしくはなかった……」
「大切な人達、だって? 人間の姉さんが妖怪を大切だと思うなんて」
「私はもう人間ではなくなってしまったわ。心が弱いばかりに……魔の道に堕ちてしまった」
だが、後悔はない。
そのおかげで大切な家族と呼べる者達と出会えた、こうして封印されてしまっているが……後悔はしていない。
そうはっきりと、真っ直ぐな視線で言い放つ白蓮を見て、命蓮は愕然とした。
「おかしい……おかしいよ姉さん、どうしてそこまでして姉さんは自分の幸せを後回しにするんだ!?」
「それは貴方だって同じだったでしょう? 己の力に溺れず、他者の助けになろうと
「違う。僕は……僕はただ姉さんに幸せになってほしかっただけだ、その為に自分の力を使っていただけだ!!」
「命蓮……」
「僕は諦めない、どんな手を使っても姉さんをここから連れ出して幸せな道を歩ませるんだ……そうだ、いつだって僕は……」
……もはや、命蓮の瞳に正常な色は存在していない。
それを、哀しみと憐れみが込められた目で白蓮は見つめる。
彼は確かに聖命蓮だ、自身の弟である最愛の家族だ。
けれど、今の狂気に満ちた彼は命蓮でありながら命蓮ではないという違和感を白蓮に抱かせる。
姿形はもちろん身に纏う法力も確かに彼のものだ、しかし白蓮にはどうしてのその違和感を拭う事ができない。
「…………そうだ。僕が使えないのなら」
「命蓮……?」
「僕が使えないのなら、使えるヤツをここに連れてくればいい……そうだよ、そんな簡単な事だったんだ……」
「命蓮、貴方何を……」
白蓮の問いかけに、命蓮は答えない。
まるでうわ言のように同じ言葉を呟き続け、姉であり救う対象である白蓮を映していない。
そんな彼を白蓮は不気味だと思わずにはいられず、ぶるりと小さく身体を震わせたのだった……。
振り下ろされる一撃。
風を斬り裂き、放たれるそれは爪による斬撃であった。
放ったのはまだ十にも満たぬ見た目の吸血鬼、レミリア・スカーレット。
自身の紅い魔力を込めたその一撃は、鉄塊すら易々と砕く破壊力を秘めている。
その爪の矛先を向けられている白狼天狗の青年、犬渡聖哉は行き着く暇も与えぬ連続攻撃を“千里眼”を用いた凄まじい動体視力で見切っていく。
上下左右、あらゆる角度あらゆる方向から繰り出されるレミリアの爪。
それを躱し、或いは両手で弾きながらも彼の身体は少しずつ後退していった。
「どうした聖哉、攻めてきたらどうだ!?」
(こんな状況でよくもまあいけしゃあしゃあと……!)
できるものなら、とっくに攻めていると聖哉は心の中で毒ついた。
攻撃は見切れている、現に聖哉はまだ致命傷はおろかまともなダメージも受けていない。
だがそれだけだ、レミリアの連撃は息つく暇もなく放たれ続けている、反撃に回る余裕など存在していなかった。
(だが、このまま押されてたまるか……!)
両足に力を込め、大きく横に跳ぶ聖哉。
レミリアの爪が空を切り、その衝撃で床と壁に三条の傷が刻まれた。
その威力にぞっとしながらも、聖哉はオーラを増大させ両手にオーラによる剣を生み出し握りしめた。
同時に地を蹴って踏み込み、上段から双剣による振り下ろしを放ち。
「甘いわね」
その一撃を、レミリアが生み出した槍によって真っ向から受け止められてしまう。
体格も腕力も聖哉が上回っているというのに、上から押さえつけられるような体勢でもレミリアは動じない。
「ぬ……く……っ」
更に力を込める聖哉、ギチギチという音を響かせるものの拮抗は崩れるどころか少しずつレミリアに軍配が下っていく。
不利である下から押し返される、そう判断した聖哉は更にオーラを強化していくが。
「っ……!?」
僅かに、視界が揺れた。
呼吸が乱れ、僅かに聖哉の力が緩んだ事を、レミリアは見逃さない。
「ふっ……!」
「ぐっ!?」
聖哉の懐に入り込み、零距離からの肘鉄を叩き込み彼の身体を吹き飛ばす。
たたらを踏む聖哉、すぐに体勢を立て直そうとしたが。
「――ハートブレイク」
既に、レミリアは詰みの一手を放った後であり。
彼の眼前には、彼女が放った紅き大槍が迫っており……。
◆
「――まだまだだな。フラン、そっちはどうだった?」
「椛ちゃんもちょっとは頑張ったかもしれないけど……まだまだだね」
「うっ……」
「むっ……」
紅魔館のテラスにて、咲夜が淹れてくれた紅茶に舌鼓を打ちながら、容赦のない言葉を同席している聖哉と椛に浴びせていくスカーレット姉妹。
しかし二人に反論する事はできず、甘んじてその言葉を受け止める事しかできなかった。
「しかし、パチェ達の準備が整うまで鍛えると約束して今日で四日目だが……もう少し成長してほしいものね」
「ホントだよ。まあまったく成長してないわけじゃないけど……椛ちゃん、本当に天狗なの?」
「ぐっはぁっ!!」
遠回しに「弱い」とフランに言われ、椛撃沈。
「仕方ないさ。聖哉も椛も天狗とはいえ最下級の白狼天狗なんだ、並の妖怪より上程度の力しかないのよ」
「ぐはっ!?」
今度は聖哉がレミリアのはっきりとした物言いに、撃沈した。
机に突っ伏し僅かに震える二人に、姉妹は暫しけらけらと嘲るように笑う。
この悪魔め、小さく呟き聖哉と椛は恨めしそうな視線を姉妹に向けるが、当然の如く効果はなかった。
「とはいえ、この四日間は実戦形式でお前達の相手をしたが……とりあえずの方針は決められたな」
「方針?」
「聖哉、少し休憩したら美鈴の所に行け。話は通してある。
それとフランはもう休んでいいわよ、椛の相手はわたしがするわ」
「はーい。椛ちゃん、お姉様はスパルタだから覚悟しておいた方がいいよ?」
「うぅ……」
なんという容赦のなさか、この四日間で椛は何度地獄を見たか判らない。
見た目は子供でも五百年近く生きた吸血鬼の力は伊達ではなかった、加減してもらっているというのにまるで歯が立たないのだから。
もう身体中が痛い、山での修練も厳しかったがフランの相手はそれ以上に大変だった。
だというのに今度は姉であるレミリアが相手になるというのだ、泣き言の一つぐらい言いたくもなる。
「聖哉を支えたいのだろう? ならば言葉ではなく力で示してみろ」
「…………わかってます!!」
叫ぶように言って、椛はかき込むように紅茶やお菓子を口に含んでいく。
(単純なヤツめ)
聖哉の名前を出すと、椛は本当に判り易い行動を見せてくれる。
愚直なまでの想いは見ていて可笑しく、同時に少しだけ眩しい。
(わたしも誰かを好きになったら、こいつのようになるのかしら?)
ちょっと想像しようとしたレミリアだったが、微塵もイメージが湧いてこなかった。
それに内心苦笑しつつ、お茶の時間が終わるまで彼女は尊いものを視るかのような視線で椛を見つめていたのだった……。
◆
「お待ちしていました、お嬢様から話は伺っています」
「よろしくお願いします」
「そんなに畏まらなくていいですよ」
お茶の時間が終わり、聖哉はレミリアの言葉通り美鈴の居る門へと赴いた。
軽く挨拶を交わした後、早速とばかりに美鈴は聖哉と正面から対峙するように移動してから、身構える。
「とりあえず聖哉さん、全力でかかってきてくれませんか?」
「ああ、わかった」
全身から黒いオーラを展開する聖哉。
対する美鈴も、虹色に輝く“気”を発現させた。
しかしその規模は小さく、全身を覆う聖哉に対しかろうじて両手を包む程度のそれを見て、聖哉はおもわず声を掛けた。
「そんな程度で大丈夫なのか? 自分で言うのも何だが火力だけはあるぞ?」
「ええ、存じております。でも今の聖哉さんに対してなら……この程度で充分ですから」
「……」
挑発ではない、ただ単純に当たり前のように美鈴は言った。
なので聖哉はすぐさまオーラを展開し、彼女に向かって踏み込んだ。
一息で間合いを詰め、右の拳を叩き込む。
片手で弾かれる、間髪入れずに彼女の脇腹に向かって左足を振り上げた。
「っ」
またも弾かれる、ならばと左手による突きを放つが……虚しく空を切るのみに終わる。
――その後も、聖哉は攻め続けた。
しかし美鈴の前にはその攻撃は躱され、いなされ、弾かれていく。
「――はい、そこまで」
「くっ……一発も当たらないか」
「冗談言わないでくださいよ。一発でも当たったらそれだけで終わりますから」
苦笑しつつ、攻撃を捌いていた両手を振る美鈴。
「成程、お嬢様が私の所に聖哉さんを向かわせた理由が判りましたよ」
「えっ?」
「聖哉さん、あなたの力は本当に凄いです。はっきり言って本来なら私なんかじゃまるで相手にならないくらいに」
たった十数手の攻防でも判る、彼の身に宿る力の大きさを。
だが同時に、今の彼が持つ無視できない欠点も美鈴は見抜いていた。
「でもその力はあまりに消耗が激しすぎます。使っているだけでも体力と妖力を消費し続けてしまうでしょう?」
「……ああ」
「何より聖哉さんはその力の使い方に無駄があり過ぎます、だからすぐにガス欠に陥ってしまいますし引き出し切れていないんです」
おそらく彼は全パワーを常に身体中から放出してしまっている。
それだけでも無駄だというのに、コントロールがなっていないから余剰に吐き出されているエネルギーがあるせいで全ての力を扱えていない。
だから先程の攻防でも美鈴の“気”による防御を超えられなかった、これでは宝の持ち腐れどころの話ではない。
「聖哉さんはまず、その力を自在にコントロールする事を考えた方がいいですね」
「自在にって……そんなに使えていないのか?」
「使用そのものなら問題ないようですけど、“使う”事と“使いこなせる”事は別問題ですからね。
お嬢様が聖哉さんを私の所に向かわせたのも、コントロールする術を身につけさせるためでしょうから」
幸いにも、彼の力は美鈴が使う“気”と性質はそこまで変わらない。
ならば彼にとって美鈴は力のコントロールを教えてもらう相手にうってつけというわけだ。
「……参った、俺は自分の思っている以上に未熟者だったってわけか」
どうやら、あの力を扱える事で傲慢になりかけていたらしい。
その事実に聖哉はため息を吐き出し、そんな彼に美鈴は首を横に振って否定の言葉を放つ。
「聖哉さんの力は突然具現化したものなんですから、扱えなくて当然ですよ。
――それに、聖哉さんはたくさん頑張って多くの人を救ったと聞きます。もっと自信を持っても罰は当たりませんって」
「……ありがとな、美鈴」
気休めではなく、本気でそう言ってくれる美鈴に聖哉は笑顔を浮かべる。
対する美鈴も、自分の言葉で沈みかけていた聖哉の心を支えられた事が嬉しかったのか、にぱっと無邪気さの残る笑みを浮かべ。
「――うんうん。青春してますねー」
そんな言葉が、二人の耳に入ってきた。
「えっ」
「っ」
聖哉と美鈴は、同時に視線を左へと向けた。
湖から紅魔館へと伸びる石畳の橋の上に、誰か立っている。
銀を基調としたふんわりとしたローブを身に纏った、ウェーブのかかった長い桃色の髪を持つ女。
二人に対してにこやかな笑みを浮かべ、一見すると邪気などまるでない童女のような姿だが。
聖哉も美鈴も、友好的な態度を見せている筈の女に言いようのない不安と不快感を抱く。
目の前の相手とは相容れない、そんな考えが当たり前のように脳裏に過ぎると同時に。
「ねえ、ここに寅丸星ちゃんって子がいるでしょ? 悪いけど、連れてきてくれる?」
女は笑みを浮かべたまま、二人の直感が正しかった事を証明する言葉を吐き出した。
「お前……っ」
「そんなに身構えないで、喧嘩をしてきたわけじゃないんだから」
「ふざけるな、星を連れてこいだと? そんな事をほざいたヤツに友好的になるつもりはない!!」
今にも飛び掛かろうとする聖哉だったが、美鈴に右手で制されすんでのところで踏みとどまる。
そんな彼に一度視線を向けてから、美鈴は再び女に視線を戻した。
「あなたは何者ですか? 星さんに一体何の目的が?」
「ワタシの名前は“ネリア”、ネリア・ネクロフィリス。
寅丸星ちゃんを連れてきてほしい理由は、命蓮ちゃんに頼まれたから」
「命蓮、だと……っ!?」
「お姉さんを助ける為にわざわざ魔界にまでやってくるなんて、いじらしいと思ったから協力してあげようと思ったの」
「……そうですか。ではお引き取りください」
冷たく言い放ち、美鈴は身構える。
既に“気”を放出し、先程と同じように両手を虹色のオーラに包み込みネリアと名乗った女に拳を向けた。
「喧嘩をするつもりはないんだけどなー」
「星さん達の事は聞いています。故にあなたをここから先に行かせるわけにはいきません」
一歩でも動けば攻撃すると瞳で訴えつつ、美鈴はあくまでも相手が去るように選択を促す。
その態度は甘く、けれど紅魔館はおろか妖怪の中でもかなりの温厚派である彼女らしいものだ。
……尤も、美鈴とてそれを聞き入れてくれるなど微塵も思っていないが。
「聖哉!!」
場に現れる少女達。
聖哉達の一歩前に着地したのは、一輪に水蜜、そしてぬえであった。
「なんだか変な気配がしたけど……大丈夫? 何かされた?」
「大丈夫だぬえ、それより……気を付けろ」
聖哉の言葉に三人は頷き、各々がいつでも攻撃できるように身構える中。
「……か」
「?」
「――可愛いっ!!!!」
突然顔を俯かせ、ネリアは暫し身体を震わせた後。
上記の言葉を言い放ちながら、子供のように瞳を輝かせていた。
「…………は?」
「ちょっと何これ、こんな可愛いメイドさんが居るなんて……この館、レベルが高いわ!!」
「……なに、コイツ」
気味の悪いものを見るような目で、ぬえは興奮した面持ちのネリアを見やる。
どうやら彼女は、三人の恰好――紅魔館で支給されているメイド服に身を包んだ彼女達に強い興味を示しているようだ。
(可愛いって言われちゃった)
困惑する一輪とぬえとは対照的に、内心少しだけ喜ぶ水蜜。
館で厄介になる代わりに、メイドとして働く。
そんな交換条件の元、慣れない姿で慣れない仕事に悪戦苦闘していた彼女達。
一輪達はメイド服に抵抗があったようだが、内心気に入っていた水蜜にとって可愛いと褒められたのはそう悪い気分ではなかった。
「あぁ、どうしよう……命蓮ちゃんには毘沙門天の代理である星ちゃんって子だけを連れてくればいいって言われてるけど、これだけ可愛くて、強いメイドさんがいるのなら……ちょっとだけ、欲張っちゃっても罰は当たらないわよね……?」
呟きを零し、ネリアは改めて一輪達に視線を向ける。
――その視線は、あまりにも恐ろしかった。
単純な眼力とは違う、ねっとりと絡みつくような捕食者の瞳。
外見の美しさも相まって、視線を逸らせない美しさと不気味さが同居するその瞳を見て、三人はおもわず身体を震わせた。
「こっちの中華服の子も美人だし、これなら“コレクション”が一気に彩り豊かになるわぁ……」
「え、えっと……あの女の人めっちゃ恐いんだけど……」
「……気持ち悪い」
不快感を露わにしながらも、誰一人として踏み込めない。
相手との間合いはそう遠くはなく、ここに居る者達ならば一息で詰められる距離だ。
それでも踏み込めないのは、相手の力量が掴めないという理由もあるが。
何よりも、それ以上にただただ不気味で不愉快な姿を見せている相手に、得体の知れない心が乱されてしまっていた。
「――珍しいな。
館の門を開かないまま跳び、ふわりと優雅に石畳の上に着地する小さな少女。
背中に蝙蝠を思わせる羽根を生やし、日傘を差しながらネリアを軽く睨むレミリアは、聞き慣れない単語を呟く。
「ネ、ネクロマンサー……?」
「死者を操り使役する魔術使いの事だ。魔術の中でも邪道なものでな……とうの昔に衰退し、その姿は完全に無くなったと思ったのだが」
「あら、吸血鬼? それもかなり可愛らしい幼女じゃない、またまた凄いコレクションが増えそうね……!」
レミリアの冷たい視線を受けても、ネリアは益々喜びの表情を見せる。
「不愉快な女だ、フランにのびてる椛の事を任せたのは正解だったな」
「……ちょっと待った。さっきこの人あたし達を見てコレクションが彩るとか言ってたけど……」
「言葉通りの意味だろうさ。ネクロマンサーは死体を愛する偏愛を持つ輩も居ると聞く、要するにわたし達はヤツのお眼鏡に掛かったというわけだ」
「全然嬉しくないっ!!」
つまり、自分達を殺し死体としてコレクションにすると言われたのだ。
嘆く水蜜は勿論の事、その意味を知った一輪とぬえは顔を歪ませ怒りを露わにさせる。
「目的は星か……ヤツはどうした?」
「ナズーと一緒に図書館に居るよ。……ナズーがね、星が狙われる可能性があるって言っていたからここには来ないと思う」
「ほぅ、あのネズミは優秀な従者なのね。咲夜には負けるけど」
「奪われた宝塔は毘沙門天様に認められた者しか扱えない、仮にあの男が本物の聖命蓮だとしても聖様の封印を解く事はできないって言っていたわ」
そしてナズーリンの予想は当たり、星を狙って命蓮が放った刺客がやってきてしまった。
絶対にここは通さない、そんな決意を瞳に込め改めて一輪達は身構える。
「だがちょうどいいな。
聖哉、この程度の女ならばお前一人で充分だろう?」
だから、目の前の相手はお前一人で相手をしろと。
レミリアは聖哉にそう言い放ち、ふわりと飛翔し高い塀に腰を降ろした。
「ちょっと、館の主が観戦モードに入るの!?」
「今日は聖哉と先程まで椛の相手をしていたから疲れたんだ。もう動きたくない」
「なにその子供じみた理由!?」
「やかましい。それにな――聖哉はその気のようだぞ?」
顎だけをくいっと動かし、聖哉に視線を向けるように促すレミリア。
それに従い一輪達が視線を動かすと、既に聖哉はゆっくりとネリアに向かって歩を進め始めていた。
「聖哉!!」
「悪い。――まずは俺一人にやらせてくれ」
「何言ってんのさ、ここは全員でボッコボコに……」
「俺がやられたらそうしてくれ」
そう言って、聖哉は意識をネリアだけに向ける。
彼の背中が話は終わりだと告げており、当然納得できない一輪達は駆け寄ろうとするが。
「まあまあ、まずは聖哉さんに任せましょうよ」
三人の前に立ち塞がった美鈴によって、阻まれてしまった。
「ちょっとどいてよ!!」
「聖哉さんも試したい事があるみたいですし、特訓の成果を試してみたいんですって」
「特訓って……こんな状況で?」
「危なくなったら助けに行けばいいですよ。それに……迂闊にあの人に近づいたら、何されるかわかりませんよ?」
美鈴の言葉に、三人は小さく呻いた。
……確かに、あのネリアという女にはできる事なら近寄りたくないと思っている。
今だって聖哉がゆっくりと近づいているというのに、彼女の視線は射抜くように一輪達に向けられているのだから、余計にだ。
「――うーん、男の死体は間に合ってるんだけどなあ」
ネリアの視線が、聖哉に向けられる。
その瞳は、先程のような無邪気さは完全に消え去り、明確な敵意が込められたものに変わっていた。
自分の邪魔をしようとしている聖哉が鬱陶しいのだろう、まるで羽虫を見るような冷たい視線を前にして、聖哉は立ち止まった。
互いの距離はおよそ三メートル程。
静かに佇む聖哉と、そんな彼に隙だらけな姿を晒すネリア。
暫し静観し合う二人だったが、やがて諦めたかのようにため息を吐きながら、ネリアが動いた。
「仕方ないですねえ、このまま無視してれば邪魔されるし……さくっと殺しますか」
「退くつもりは、ないんだな?」
「当たり前じゃないですか。それにこんなに大量なコレクション候補があるんですから……全部貰っていかないと」
「――そうか。なら、遠慮はできないな」
聖哉の姿が消える。
一息よりも速い刹那の時間で、彼はネリアの背後へと回り込む。
その右手には、オーラで生成された漆黒の剣が握り締められており。
呆気なく、一刀の元に。
聖哉の上段からの剣戟によって、ネリアの身体は真っ二つに両断された。