狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

59 / 120
第59話 VSセレナ~蘇る聖人~

 戦斧と刀。

 異なる2つの獲物が、幾度となくぶつかり合い空気を震わす。

 

「そらぁっ!!」

「っ」

 

 裂帛の気合を込めて振るわれる戦斧の連撃。

 巨人の如し大きさのそれを軽々と振り回す小柄な少女、セレナの姿は一見すると異常に尽きる。

 しかしここは人ならざる者が生きる幻想郷、見た目と中身が違うなど別段珍しいものではない。

 

 だから聖哉は一分の油断も見せず、右手に持つ風王を操り迫る死の一撃を真っ向から防いでいく。

 それにだ、一撃を受けるごとに肩から腕ごと吹き飛ばされるかのような衝撃が走っているこの状況で油断などできるわけがない。

 

「凄いね。わたしの攻撃を真っ向から受け止められるヤツなんてそうそう居ないのに、本当に白狼天狗なの?」

 

「……」

 

「ストイックだね……せっかくの戦いなんだ、できる事ならおもいっきり楽しまないと損ってものだよぉっ!!」

 

 戦斧の速度が更に上がる。

 空気を斬り裂き、掠るだけでも相手の豆腐のように粉々にできる程の連撃はしかし、聖哉には届かない。

 攻撃の軌道は“千里眼”で読み、ただ受けるのではなく受け流すように対応している。

 互いの獲物の強度を考えれば当然の戦い方だ、まともに受ければ如何に名刀と言えどもこれだけの大きさの戦斧では湾曲する危険性がある。

 

「……」

 

 だが。

 聖哉の中では、この戦いを一刻も早く終わらせなければという焦りが生まれていた。

 獣の本能、第六感とも呼べるそれが先程から警鐘を鳴らしているのだ。

 

 とはいえ無闇に攻めへと転じれば状況は悪化しかねない。

 なので聖哉は懸命に己の焦りを抑えながら、一発逆転のチャンスを狙っていた。

 

「――重力魔法」

 

 敵が後退する。

 セレナは何かを呟きながら、左手から黒い光球を生み出し空高くに放り投げる。

 それはちょうど聖哉の真上で制止し、彼が意識を一瞬だけそちらに向けた瞬間。

 

「グラビティ・コア!!」

「っ、ぐっ……!?」

 

 セレナの叫びと共に、聖哉の身体と彼の周囲の地面に凄まじい重力が襲い掛かった。

 己の体重が数十倍にもなったかのような衝撃に、聖哉はたまらず膝を突く。

 地面が文字通り沈んでいく、歯を食いしばって全身から力を入れるが身体はぴくりとも動いてくれなかった。

 

「無駄無駄、今の君の周囲の重力はおよそ五十倍……つまり君の体重はいつもの五十倍になってるんだよ? 動けるわけないって」

 

「ぐっ……魔法使い、だったのか……」

 

「そんな仰々しいものじゃないって。これぐらいの魔法、だいたいの魔族なら朝飯前だよ。――そんじゃ、名残惜しいけど終わりにする!!」

 

 戦斧を上段に構え、聖哉の身体を両断しようとセレナが駆ける。

 

「っっっ、なめるなああああっ!!」

 

 咆哮、それと同時に聖哉の身体からマグマのように黒いオーラが吹き荒れる。

 刹那、金属が砕け散る甲高い音が響き、重力魔法の発生源となっていた光球が消滅した。

 

「げっ……!?」

 

 その光景にセレナは目を見開きながら、危険だと察し自ら後方へと跳躍した。

 ――先程とはまるで強さの質が違う。

 黒いオーラに包まれゆっくりと立ち上がる聖哉を見て、セレナは頬に冷たい汗を伝わらせながら恐怖からか身体を震わせた。

 

 踏み込めない、肉薄すればこの身は容易く両断される。

 既に彼女から余裕は消え、脳裏に“逃走”の二文字が浮かび始めていた。

 これ以上戦えば殺される、今の自分ではアレには絶対に勝てないと思い知らされる。

 

(冗談キツイよ……こんな怪物が居るなんて聞いてなかったってのに……)

 

 頭に浮かんだある人物に愚痴を零しながら、しかしセレナは口元に笑みを浮かべていた。

 それは余裕の笑みではなく、何か面白いものに出会えたかのような、子供じみた笑み。

 

「……?」

 

 セレナの笑みに気づき、僅かに眉を顰めながらも聖哉はいつでも踏み込めるように構えを崩さない。

 すると彼女は、何故か戦斧を地面に突き立て徒手空拳になってから。

 

「ねえ、君……わたし達の仲間にならない?」

 

 おもわず、構えを解いてしまうような問いかけを、彼へと投げかけた……。

 

 

 

 

「――おにーさん、大丈夫かな」

 

 人里へと続く門の前。

 寺に居た人間達を里まで連れてきた白蓮達の耳に、お空の呟きが響いた。

 

「大丈夫ですよお空さん、聖哉さんなら」

 

「うん……そうだよね」

 

 星の言葉に、お空の表情が僅かに和らぐ。

 そうだ、彼ならば大丈夫だと白蓮は己に言い聞かせる。

 

 とはいえ、彼一人に任せていいわけではない。

 既に避難は終えている、幸いにも自警団のメンバーが多く居たのでこれ以上の引率は必要ないだろう。

 すぐに戻らなくては、そう思い白蓮は星とお空に声を掛けようとして。

 

「――ちょっと待ちなさい」

 

 背後から、明確な敵意を込めた声で動きを止められてしまった。

 

「…………あなたは、霊夢?」

 

 背後へと振り向く、そこに居たのは変わった巫女服に身を包んだ少女。

 博麗の巫女である博麗霊夢と、傍らには傷を負った一輪と水蜜の姿があった。

 

「一輪!?」

 

「村紗も、どうしたのですか?」

 

 駆け寄ろうとする白蓮達。

 しかし、そんな彼女達に霊夢は右手に持つお祓い棒の切っ先を突き付けこれ以上近づくなと警告の意思を向けてきた。

 

「……何のつもりですか?」

 

 立ち止まり身構える、いつでも魔法が発動できるように白蓮は魔人経巻の準備をしながら問いかける。

 

「どうしたもこうしたもないわよ。――里で暴れただけじゃなく、止めようとしたこいつ等にまで怪我を負わせて何言ってるの?」

 

「…………えっ?」

 

 間の抜けた声が、おもわず出てしまった。

 それほどまでに霊夢の問いかけの意味が理解できず、しかし彼女から放たれる敵意と疑惑の眼差しが冗談を言っているわけではないと告げている。

 彼女の傍らに居る一輪と水蜜も、無言のまま視線で白蓮に訴えていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。いきなり何を言っているのですか?

 今の今まで聖は私とここに居るお空さんと共に命蓮寺に居たのですよ?」

 

 困惑する白蓮に代わり、星がそう言いながら命蓮寺で起きた事を霊夢へと話す。

 それを聞いて眉を顰める霊夢だったが、厳しい視線は少しも和らがず寧ろ凄みを増していく。

 

「一体里で何が起きたのですか? 聖が人を里で暴れるなど……」

 

「悪いんだけど、これ以上の問答は無意味よ。

 ――里に被害が出た以上、そして人間達に危害を加えた以上、巫女として放ってはおけないわ」

 

 霊夢の姿が消える。

 人の身では決して出せぬ神速を人の身のまま引き出し、白蓮に向かって拘束用の札を四つ投げ放つ。

 

「……」

 

 札が、音もなく燃え尽きた。

 白蓮の身体に触れる瞬間、肉眼では確認できぬ程の速度の拳圧で焼失したのだ。

 

「肉体強化の魔法……アンタの十八番だったっけ? 魔理沙から聞いたわ」

 

「お願いです。私を信じてください、星の言う通り今まで私は命蓮寺に居ました。

 命蓮寺に居た自警団の皆さんも証明してくれる筈です、ですから――」

 

「聖様……」

「聖……」

 

 一輪と水蜜の表情が曇る。

 ……霊夢の言った通り、彼女達は突如として里で暴れ始めた白蓮を止めようとして、怪我を負わされた。

 当然ながら困惑しつつも必死に何故こんな事をするのか訴えても、返ってくるのは拳や蹴りによる殺意を込めた攻撃だけだった。

 正直、里の重鎮の一人である慧音やたまたま買い物に神社から降りていた霊夢の助けが無ければ、二人はここに立っている事はなかっただろう。

 

 結局白蓮は霊夢の登場で不利と悟ったのか、何も言わず立ち去り――そして現在に至る。

 何者かが白蓮の姿になって悪事を働いていた……そう思いたかったが、あの白蓮が放った力の質は今目の前に立つ彼女と全く同じだった。

 だからこそ二人は目の前の彼女を疑わざるを得ないのだが、悲痛な表情で訴える白蓮を見て考えが揺らぎ始めていた。

 

「――たとえアンタの言葉が真実だとしても、こっちだって譲れないのよ。判る?」

 

 しかし。

 どんな言葉を並べようとも、博麗の巫女には届かない。

 もう一度お祓い棒を突き付けながら、左手に札を挟む霊夢を見て、白蓮は静かに深呼吸をして精神を集中させる。

 

「ちょっと待ってください聖、気持ちは判りますが落ち着いて!!」

 

「星、お空さんを連れて下がっていなさい」

 

 互いに一歩前に出る霊夢と聖。

 星達が呼びかけるが止まらず、睨み合うこと暫し。

 

「っ!?」

「えっ……!?」

 

 一触即発、両者のぶつかり合いはもはや止められないと誰もが思ったが。

 突如として目を見開き、驚愕の表情を浮かべながら。

 

――命蓮寺の方角から現れた、感じた事のない“力”を察知した。

 

 

 

 

「…………仲間になれ、だと?」

 

「そそっ。わたしの雇い主のジーサンは結構な無茶振りをかましてくるからさ、人手不足なんだ。

 だから協力してほしいの、強さは充分だし誠実そうだから是非にと思って」

 

「……」

 

 心底、困惑した。

 たった今まで命のやりとりをしていた相手に、目の前の存在は本気で仲間になれと勧誘しているのだ。

 困惑するのは当然であり、また同時に頷く事などできるわけがなかった。

 

「断る。お前の要求を呑む理由も意味もない、第一友人を傷つけようとした相手に協力できると思うか?」

 

「むむむ……」

 

「なにがむむむだ。第一、お前達の目的もわからないのにいきなり協力しろと言われて頷くと思うか?」

 

「……それもそうか。じゃあ教えてあげるから仲間になってくれる?」

 

「断る」

 

 即答する、しかしセレナは気にした様子もなく一方的に話を進めていった。

 

「わたしの、というよりわたしの依頼主の目的はね…………“月”にあるんだ」

 

「……月?」

 

「そ。君も妖怪なら知ってるよね? かつて八雲紫が多数の大妖怪を引き連れて月に戦いを挑んで、呆気なく敗北したって話は」

 

「……」

 

 無言で頷きを返す聖哉。

 

 その話は有名だ、というより明確な意思を持てる妖怪ならば知らぬ者など居ない……八雲紫の汚点とも呼べる出来事だ。

 妖怪が増え過ぎた古き時代の中、その領土を広げようと地上にはない未知の技術の宝庫である月に侵攻する為に、八雲紫をはじめとした古き妖怪達は一時的にとはいえ手を組んだ。

 今の幻想郷では考えられぬ軍勢はしかし、呆気なく簡単に月の軍勢に敗れ去った。

 結果、太古から生きていた大妖怪達の殆どは死に絶え、多くの妖怪の種が絶滅に瀕したという。

 

「それだけの技術、手に入れられればどうなるか……魔界はおろか、地上や月だって支配できると思わない?」

 

「支配、だと……!?」

 

「雇い主はそう考えてるみたいだよ? まるで悪いお話に出てくる魔王みたいだよね」

 

 何が楽しいのか、セレナはからからと笑い更に話を進めていく。

 それが、どうしようもなく聖哉の神経を逆撫でした。

 怒りが呼応するように、身体から溢れるオーラの勢いが増す。

 

「だけどさっきも言ったように人手不足なんだ、わたしの幼馴染は誘っても興味ないの一点張りだったから、君みたいな強いヤツが仲間になってくれると負担が減るんだけど……」

 

「ふざけるな!!」

 

 旋風が、聖哉から吹き荒れる。

 

「そんなくだらないお前達の事情に、幻想郷を巻き込むな!!」

 

「そうはいってもわたしも雇われた身だし、それにさ……君達妖怪にとってもメリットはあるんだよ?

 今の君達は外の世界の人間達に追いやられ消滅の時を待つばかり、そんな結末でいいの?」

 

「……」

 

「かつての時代のように、人間を闇の中から支配し生きる……そんな世界にしたくない?

 だってさ、そうしないといずれ近い未来に妖怪っていうのは消えてなくなるんだよ? 有名な天狗であってもそれは免れない」

 

「それ、は……」

 

 ……それは、目を逸らしたくなるような現実的な言葉であった。

 幻想郷は、決して妖怪にとっての楽園でもなければもちろん人間にとっての楽園でもない。

 外の世界での消滅を免れるための、謂わば“延命装置”のような世界だ。

 

 既に外の世界は人間の世界と化し、妖怪や妖精といった人ならざる存在を信じる者は殆ど居ない。

 完全に居なくなったわけではないとはいえ、それだけでは己を維持する事は難しい。

 緩やかな滅び、その時が一体いつ訪れるのかは誰も判らないにしろ……このままでは、その未来を回避する事は出来ないだろう。

 

「そもそもここの妖怪は自分を抑え込みすぎなんだと思うよ、人間を襲うのは謂わば本能みたいなものなのに我慢してる。

 悪魔なんて今でも時折人間を堕落する為に活動してるっていうのに、消えたくないからって生きる事だけを望むなんて……それは本当に“妖怪”って呼べるの?」

 

「……」

 

 反論を、返せない。

 セレナの言っている事は尤もであり、否定する事などできない真実だからだ。

 

「……まあそういうわけだからさ、仲間になってくれないかな? 君、さっき言った幼馴染に似てるんだよね」

 

 だから殺したくないと、それ以上は言葉ではなく視線で訴えるセレナ。

 ……成程、言い分は判ったと聖哉は心の中で納得する。

 確かに彼女の話には妖怪にとってのメリットはある、これもまた一つの道であることは間違いないだろう。

 

 ――だが、犬渡聖哉という青年にとって。

 今の話を聞いた所で、首を縦に振る事はできなかった。

 

「…………断る。お前の誘いを受けるつもりはない」

 

「――どうしてかな? 君は賢いと思ってるから、今の話を理解できないとは思えないんだけど」

 

「確かにお前の言っている事は正しいかもしれない、だがさっきも言ったように俺の友人を傷つけた相手に協力なんてできない」

 

「それはあまりにも短絡的じゃないかな?」

 

「そうかもな。妖怪という種族全体を考えれば短絡的かもしれないが……俺はかつての妖怪のように人間に危害を加えたいとは思わないし思いたくもない。俺は――人が好きなんだ」

 

 たとえ妖怪が人間の絶対的な敵だとしても、その人間を襲わなければ存在を保てなかったとしても。

 聖哉は人が好きだから、尊いと思っているからその考えには賛同できなかった。

 

「信念、なんだね。妖怪らしくないけど」

 

「好きに言ってろ。誰かに言われたくらいで簡単に揺らぐものじゃない」

 

「……まいったなあ。ますます気に入っちゃったよ、そういう所もそっくりだ」

 

「なら、退いてくれないか?」

 

「冗談」

 

 地面に突き立てていた戦斧を抜き取り、セレナは再び瞳に闘志の色を宿す。

 対話は終わりだ、互いに譲れない以上こうなるのは致し方がない。

 躊躇いは抱かないように自身に言い聞かせながら、聖哉もまた刀を構える。

 

 そして。

 両者がほぼ同時に踏み込もうとした瞬間、それは起こった。

 

「っ」

 

 空気が震える。

 同時に両足が重くなり、歯を食いしばらなければならぬプレッシャーが命蓮寺を包み込んだ。

 しかしそれは目の前のセレナから放たれているものではなく、彼女もまた聖哉と同じく驚愕の表情を浮かべている。

 

(なんだこの感覚は……何かが、目覚めた(・・・・)……?)

 

 霊力や妖力、法力とも違う力の奔流が聖哉の肌を焼く。

 敵であるセレナと対峙する事も忘れ、この事態に理解に全神経を注ぐ彼の前に――三名の少女が降り立ってきた。

 

 一人は烏帽子を被った小柄な少女、もう一人は一人目と似たような烏帽子を被っているが何よりも両足が無く幽霊のような足に変化しているのが特徴的な目つきの鋭い少女。

 そして、そんな二人の中央に佇む三人目を見て、聖哉は完全に固まってしまった。

 手には笏を持ち、腰には刀を差したその少女……否、女性から溢れる力は先程感じ取ったものと同じであった。

 

 強く、重く、それでいて眩いばかりの輝きを放つ光の力。

 自分のものとは真逆ともいえるそれは、感じ取るだけで屈服を余儀なくされる“凄み”を放っている。

 

「し――!」

 

 セレナが動く。

 突如として現れた存在を敵だと認識し、その無防備な姿を両断しようと戦斧を振り下ろし。

 

「――ふぁぁ~、危ないですね」

 

 その一撃を、女性は軽々と腰に差していた刀で受け止めてしまった。

 

「っ」

 

 それで目の前の存在の底知れなさを理解したのか、セレナは全力で後退する。

 

「太子様!!」

「太子様、大丈夫ですか!?」

「大丈夫ですよ布都(ふと)屠自古(とじこ)、まだちょっと目覚めたばかりで身体が上手く動きませんが」

 

 太子様と呼ばれた女性が二人にそう告げ、ゆっくりとセレナへと視線を向ける。

 その視線には敵意や殺意といったものはなく、しかし友好的なものでもなかった。

 だがセレナは、その視線を向けられただけで身体を強張らせ気を抜くと動けなくなるほどのプレッシャーに襲われてしまう。

 

(これは……無理だな)

 

 僅かに口元を引き攣らせながら、セレナは全力の跳躍で後方へと跳んだ。

 それは逃走、一時的撤退とは違う己の生存だけを考えたものであった。

 

「…………ふぅ」

 

 無理に追おうとはせず、風王を鞘へと戻す聖哉。

 女性も追うのは得策ではないと思ったのか、同じく刀を収め聖哉へと向き直る。

 

「……」

 

 一応の警戒心を抱きながらも、聖哉は目の前の女性が邪悪なものではないと半ば確信していた。

 ……そんな聖哉の心中を察するかのように、女性はにっこりと微笑みを見せる。

 しかしそれ以降、女性は何も言わず傍らに居る二人も無言を貫いてきたので、堪らず聖哉は口を開いた。

 

「あの、あなた方は?」

 

「これ妖怪、太子様に対してなんじゃその口の利き方は!!」

 

 小柄な方の少女がキッと聖哉を睨みつつ近づきながら怒声を放つ。

 そんな彼女を亡霊の少女が「まあまあ」と宥めつつ、聖哉に対し軽く頭を下げてきた。

 どうやらこの女性は2人にとって仕えるべき主のようだ、少々対応を間違えてしまったかもしれない。

 

「いいのですよ。気にしなくて」

 

「えっ……」

 

「失礼。君がどうやら先程の問いかけの仕方を気にしているようでしたから」

 

「……もしそうなら、謝ります」

 

「いえいえ。――君は誠実なんですね、見た所妖怪……それも天狗のようですが、珍しい事です」

 

 くすくすと、上品に笑う女性。

 そしてひとしきり笑った後、女性は聖哉に向かって軽く頭を下げてから。

 

「申し遅れました。私の名は豊聡耳神子、そしてこちらは私の部下である物部布都と蘇我屠自古。――我等は1400年前に生きていた豪族、屠自古は亡霊ですが私と布都は尸解仙と化した人ならざる者です」

 

 自らの名を明かし、友好の証とばかりに握手を求めてきた――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。