狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第60話 情報共有~異変解決に向けて~ ※

「――俺は犬渡聖哉と申します。豊聡耳さん」

 

 若干の警戒心を抱きつつも、握手に応じる。

 女性らしい柔らかな手の感触が右手に広がり、若干緊張しながらも俺は問いかけた。

 

「それで、その“尸解仙”とやらは一体何なのですか?」

 

「神子で結構ですよ、敬語も必要ありません。

 尸解仙というのは仙人の一種だと思ってくれれば結構です、一から説明するとなると時間が掛かりますから」

 

「仙人……」

 

 その単語を聞いて、俺はおもわず全身を緊張からか強張らせてしまった。

 仙人とは人間を超えた人間、仙術という奇跡の技を使いこなす不老長寿の存在。

 この幻想郷でも殆ど存在しないとされる超人が目の前に居る、そう思えば身体も強張ってしまうというものだ。

 

「安心してください。私達は君と敵対するつもりはありません」

 

 相手の警戒を緩めるような穏やかな笑みを浮かべながら豊聡耳さん、神子は言う。

 後ろに控えている布都と屠自古と名乗った二人も、神子に同意するような視線を向けてきた。

 

「すみません。仙人というのは初めて見たものですから、緊張してしまったようです」

 

「おや? 随分とあっさり信じるのですね、私が嘘を吐いていると思わないのですか?」

 

「……そちらの蘇我さんはともかくとして、あなた達二人から感じる力は俺のような妖怪とは違う、光のような暖かな力だ。

 邪仙のような邪気を纏っていない以上、その力の質は仙人だと認識させるのに充分過ぎる」

 

「ほぅ……」

 

 神子の口元に笑みが浮かぶ。

 俺の発言が面白いと告げるような、意味深な笑みを見せてくる。

 

「お主なかなか見る目があるの。――そうか、お主も我々と同じ尸解仙なのじゃな!?」

 

「えっ?」

 

「……布都、彼は妖怪だぞ。尸解仙なわけがないだろう?」

 

「あっ……そういえばそうじゃったの」

 

「……」

 

 え、何この子。

 頓珍漢な事をドヤ顔で言ってきたインパクトで、俺は瞬時に「物部布都という少女はアホの子」認定しそうになってしまった。

 いやいやいや、この子も尸解仙なんだからそんなのあるわけない……よな?

 でも、さっき自分から俺が妖怪だって認識してたのにいきなり尸解仙だと思うなんて普通ありえないよな?

 

「……蘇我屠自古だ。好きに読んでくれて構わないし敬語も要らない、先程太子様が仰ったように私は亡霊なんだ。

 この阿呆にも畏まった態度なんかいらないぞ、寧ろそんな事をしたらこっちが申し訳なくなるから」

 

「むっ、これ屠自古。それは一体どういう意味じゃ!?」

 

「言葉通りの意味だよ阿呆。どうもお前は尸解仙になってもそういう所は治ってないみたいだな」

 

「阿呆とはなんだ阿呆とは!!」

 

 がーっ、と怒る布都を肩を竦めながらはいはいと受け流す屠自古。

 布都が小柄であるというのもあってか、傍から見ると大変微笑ましい光景であった。

 

「すみません。布都は優秀な子なのですが、今のような頓珍漢な事を言ったりしたりする面がありまして……良い子なんですよ?」

 

「いや、判ってるから。そんな必死にフォローしなくても大丈夫だから」

 

 ああ、この三人組はきっと良い人達だと自然とそう思えてしまった。

 尚もぎゃーぎゃーと言い合う布都と屠自古と、そんな二人を困り顔で宥める神子。

 きっと尸解仙になる前、かつて人間だった時代でもこんなやりとりを繰り広げていたのだろう。

 自然と口元が緩み、いつまでも眺めているのもいいなと思っていた矢先。

 

「おにーーーーさーーーーーん!!」

「聖哉ーーーーーーーーーっ!!」

 

「えっ――――ごぶっ!?」

 

 顔面に鈍痛と柔らかな感触、腹部には鈍痛のみが走る。

 名前を呼ばれたのでおもわずなんの警戒もせずに振り向いた瞬間、凄まじい勢いで何かが突っ込んできた。

 そのまま後方に吹っ飛ばされ、数メートル地面を滑ってから……漸く止まる。

 

「お、ごご……」

 

 あまりの衝撃に意識が混濁し、息が詰まる。

 一体何が起きたのか、確認しようにも視界は尚も柔らかな感触に包まれ真っ暗になってしまっていた。

 これは……誰かが顔と腹部に抱きついてるのか?

 

「ちょっと胸でかカラス、聖哉が苦しんでるからさっさと離れなさいって!!」

 

「むっ、おっぱい大きいのはおくうのせいじゃないもん!!」

 

「いいから離れろっての!!」

 

 2人とも離れんかいっ。

 ってかこの声、ぬえとお空だな……何してんだこいつら。

 先程の布都と屠自古のようにぎゃいぎゃいと騒ぐだけで一向に離れようとしないので、二人の腕を掴んで上空に投げ飛ばした。

 女の子にするような事じゃないが二人は妖怪だ、軽く悲鳴を上げるもののすぐに上空でバランスを整えた。

 

「……お空、ぬえ、何すんだ」

 

「ぬえお姉ちゃんでしょ!!」

 

「いつまで続くんだこのやりとり……」

 

「おにーさんが何かよくない力と戦ってるって霊夢と聖が……」

 

「えっ?」

 

 そこで俺はある事に気づき、視線をある方向へと向ける。

 そこには神子達と……彼女ら三人を、警戒の眼差しで見つめている命蓮寺メンバーと霊夢の姿があった。

 彼女達の周囲に漂う空気は重く、決して友好的ではないというのが見て取れる。

 

「僧でありながら魔の道に堕ちた者ですか」

 

「……」

 

「ちょっとアンタ、聖の事を馬鹿にするのなら……」

 

「お主達こそ、太子様に対して随分と無礼な態度ではないか!!」

 

「っ、やめろお前等!!」

「そうね。時間の無駄だから今はやめなさい」

 

 一触即発の空気を感じ、おもわず割って入る。

 するとほぼ同時に霊夢も動き、とりあえず不穏な空気は霧散してくれた。

 

「で、聖哉。アンタこの寺で何があったのか話してくれる? それと見慣れないこいつ等の事も。里で起きた事と関係ありそうだから」

 

「……何があったんだ?」

 

「だから、お互いに情報共有しましょうって事よ」

 

「そうだな、わかった」

 

 

――情報共有中。

 

 

「……白蓮さんが里や一輪達を襲った? 何かの冗談だろ?」

 

「残念だけど多くの目撃情報があるし、他ならぬ一輪達が自分達を襲った相手がコイツだって認めてるのよね」

 

「だけど、星の言う通り白蓮さんはさっきまでこの寺に居て、俺がセレナと名乗った魔族と戦い始めてから寺を離れたんだ。どう考えても里を襲えるような余裕はない」

 

「それが本当なら、ね」

 

「……疑うのか?」

 

 つい、苛立ちを含んだ視線を霊夢に向けてしまう。

 

「だけど目撃証言がある以上、このまま聖が無罪放免にする事なんてできないのよ。それぐらいはアンタにだって判ってるでしょ?」

 

「……」

 

 確かに、霊夢の言っている事は正しい。

 間違いなく白蓮さんは無実だ、しかし襲われた一輪達が感じた力は間違いなく白蓮さんのものだという。

 明らかな矛盾、これを解決しなければたとえ白蓮さんに罪は無くとも納得できない者達が必ず現れる。

 

「だったら、俺がなんとかする。それまで白蓮さん達には悪いけど命蓮寺から一歩も出ないようにする、それならどうだ?」

 

「聖哉さん……」

 

「……そうね。聖だけじゃなく命蓮寺の関係者全員がここから一歩も出ず、且つその調査に私も同行させるのなら譲歩できるわ」

 

「それは勿論だ。霊夢だって博麗の巫女としてこの事件を解決しなくちゃいけないだろ? なら、こっちから協力してほしいくらいだ」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。聖だけじゃなくてあたし達もダメなの!?」

 

 手を上げながらぬえが抗議の声を上げる。

 

「当たり前じゃない。アンタらの結束力は無駄に高いんだから、私からしたら全員疑わしいのよ。面倒だから全員退治して終わりにしたいくらいなんだから」

 

「え、ええ~……なにこの巫女、滅茶苦茶すぎ……」

 

 言うなぬえ、それが今代の博麗の巫女なんだ。

 しかし退治云々はともかくとして、霊夢の言い分は決して横暴なものではない。

 白蓮さんという命蓮寺を束ねる立場である存在が、里を襲ったという事実が既に確立してしまっている以上、たとえアリバイがあろうともそれだけで覆せる状況ではなくなっている。

 そうなれば当然他の関係者も疑われ、下手に動けば不利になるのは明白だ。

 だからこそ、今は白蓮さん達に耐えてもらうしかない。

 

「白蓮さん、どうか今は耐えて頂けませんか? 他のみんなも、気持ちは判るが今は迂闊な行動はしない方がいい」

 

「……そうですね。確かに聖哉さんの言う通りだと思います、貴方達に押し付ける形になってしまいますが……宜しくお願い致します」

 

 深々と頭を下げる白蓮さん。

 そんな彼女の態度を見て、他のみんなも一応の納得をしたのかそれ以上は何も言ってこなかった。

 ぬえ辺りは、露骨に不満そうな表情を浮かべているけど致し方ない。

 

「布都、屠自古、あなた達は霊廟に戻って引っ越しの準備をしておいてください」

 

「はい……太子様は何を?」

 

「私は聖哉に協力する為に同行しようと思っています、聖哉、いいですよね?」

 

「えっ?」

 

「ちょっと、いきなり割り込んで何言ってんのよアンタは」

 

「動ける人数は多い方がいい。それに君は聖哉と違ってあまり事件解決に乗り気ではないというか……正直、大丈夫なのかという不安があるんだ」

 

「はああああああ~?」

 

「やめろ霊夢、そのヤクザみたいな目つきで下から覗き込む動作はやめろ」

 

 巫女じゃなくてチンピラだよこいつ。

 なんか放っておいたらそのまま殴り掛かりそうだったので軽く押さえつつ、神子に問いかける。

 

「協力って、はっきり言って神子には一切関係ないんじゃないか?」

 

「ええ、そうですね。というよりどうしてどうでもいい仏教連中を助けないといけないんですか?」

 

 にっこりと満面の笑みで、おもいっきり白蓮さん達に喧嘩を売り出す神子。

 

「……」

 

 ああっ、白蓮さん達無言で耐えてるけどあからさまに眉をぴくぴくさせているっ。

 そういえば神子達は道教の隠れ蓑として仏教を広めたんだったか……だとしても、あまりに露骨過ぎるぞ今の物言いは。

 

「わ、わかった。協力感謝するよ神子、それじゃあ早速調査開始だ」

 

 加速度的に悪くなる空気から逃げるようにそう言って、俺は霊夢と神子を連れて命蓮寺を後にする。

 

「あ、お空は地霊殿に戻るんだ」

 

「ええー? 私もおにーさんの手伝いしたい!!」

 

「駄目だ。さとり達が心配するだろうし、地底の妖怪があちこちに動き回ると煩い連中も出てきそうなんだ。俺達の事は心配しなくていいから、な?」

 

「むー……」

 

 頬を膨らませ納得できないアピールをしてくるお空だが、こちらとて折れるわけにはいかない。

 数分間の説得の末、漸く納得してくれたお空を見送ってから、さて改めて調査開始……と言いたかったのだが。

 

「そういえば、何処に行くのか見当が付いてなかった……」

 

「……アンタ、意外と抜けてるわね」

 

「う、うるさいな。そういう霊夢だって何も考えてないだろうが」

 

「私はいつもそうだから」

 

「なんで胸を張れるんだ……?」

 

 そういえば霊夢って、異変解決の時はひたすら自分の勘で突き進むって魔理沙が言ってたな。

 その道のプロとしてどうなんだと思いながらも、手掛かりが掴めそうな場所を模索する。

 ……里での一件と命蓮寺の件、繋がってるとするなら……魔族が関わっていると見ていいだろう。

 

「魔族……魔族かぁ……」

 

「何か当てはあるのですか?」

 

「…………困った時の知識人、彼女に聞いてみるとしよう」

 

 当てではないが、魔族……“魔”に関係する彼女なら、もしかしたら知恵を貸してくれるかもしれない。

 そう思った俺は霊夢と神子と共に、ある場所へと向かう。

 向かう場所は霧の湖、その中心に位置する――赤い館だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――はぁぁ~、危なかったぁ」

 

 不毛の大地と淀んだ空気が、魔族であるセレナに安堵感を与える。

 ここは魔界、聖哉達が生きる幻想郷とは違う異界の一つであり、魔族達の生まれ故郷。

 おめおめと逃げ帰り、死にたくない一心で魔界へと帰還した彼女の前に、歴戦の戦士すら霞む程の“闘気”を宿した男が姿を現す。

 

「ん? おぉ、誰かと思ったらゾアじゃん。久しぶり~」

 

「……相変わらず、軽い女だなセレナ」

 

 男、ゾアはセレナの軽々しい態度に苦言を呈しつつ、古くからの知り合いの変わらなさに笑みを見せる。

 

「魔界に居なかったようだが……地上に赴いていたのか?」

 

「そそ。今の雇い主が動き出したからさ~、仕事に行ってたの。

 あ、そういえば前にゾアが言ってた白狼天狗と戦ったよ~」

 

「……」

 

 その瞬間、ゾアの表情が険しくなる。

 それは小さな、けれど確実な憤怒の表情であった。

 

「おっとっと、そう怒んないでよ。戦ったけど倒しちゃいないんだから」

 

「当たり前だ。お前には言ったがアイツはオレの獲物だぞ、そもそもお前では勝てはせんさ」

 

「むっ……まあ確かにその通りなんだけど、このまま仕事を続けると……絶対にまた戦う事になっちゃうな~」

 

「……」

 

「そうなったらこっちも手加減できないな~、もしかしたら殺しちゃうかもな~」

 

 わざとらしい視線を向け、上記の言葉を放つセレナにゾアはそっとため息を吐いた。

 彼女が何を言いたいのかなど今の態度で判る、要するに――聖哉の相手をしろと言いたいのだろう。

 

――ゾアは、セレナのやっている事も彼女を雇っている“あの男”の目的にも興味は無い。

 

 月に攻め込みその高い技術を奪い、地上を征服する。

 闘争の世界である魔界で生きる魔族らしい、支配欲に満ちた願い。

 同じ魔族であるゾアはそれ自体を否定するつもりはない、現に長く生きている彼は度々そういった野心を抱き行動する者達を見てきた。

 

 しかし結局は誰一人としてその野心を果たした者はおらず、魔界の覇権を狙う組織同士の小競り合いで終わったのが殆どだ。

 だから今回の件も関わるつもりはなかった……だが、それに“犬渡聖哉”が関わるというのならば話は別である。

 たった一度の戦い、それだけで未だかつてない程の魂の高鳴りを覚えたあの死闘は生粋の戦士であるゾアにとってまさに至福の時であった。

 それだけの戦いができる相手を、他の誰にも奪われたくはない。

 

「――セレナ、お前ではアイツには勝てん。絶対にだ」

 

「……」

 

「しかしだ。お前が再びあの男と相まみえる事を許容する事はできん、お前達の行動には一切の興味は無いが……」

 

「それで充分だよ、んっふっふ……既に先手は打ってあるからね。ちょっと休んだらこっちもまた動くからその時は宜しくね?」

 

「さっきも言ったが協力するつもりはない、オレの狙いはあくまでも聖哉ただ一人だ」

 

 つれないな~、そう言いながらもセレナは口元に笑みを浮かべる。

 元々戦力として数えられなかった彼が限定的とはいえ協力してくれる、それだけで今まで以上に動きやすくなるのは明白だ。

 だからセレナは笑う、くつくつと、魔族らしい屈折した笑みを浮かべる。

 そんな彼女を一瞥してから、ゾアは魔界の空を見上げ。

 

 

 

「――どうやら、再戦の時は思っていた以上に早く訪れそうだな。聖哉」

 

 自身の好敵手に対し、小さく宣戦布告を告げていた――

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