狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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12/11 加筆修正しました。


第64話 眼の力~出現する魔人~ ※

「………………」

 

 軽く息を吐いてから、上半身を起こす。

 ……痛みは引いている、これなら大丈夫そうだ。

 

〈おはようさん。よく寝てたな〉

 

 ああ、そのおかげで回復したよ。

 軋みはするものの行動に支障はない、なら早速調査の続きをしなければ。

 それに霊夢の様子も気になる、そう思った俺はすぐに部屋を出た。

 

「――おはようございます、聖哉様」

「うおっ!?」

 

 部屋を出た瞬間、目の前ににこやかな笑顔を浮かべる咲夜と鉢合わせし、おもわず変な声が出てしまった。

 全然気配を感じられなかったから、油断した……なんか恥ずかしい。

 

「すみません。時間を止めて目の前に現れてみました」

 

「……気配を感じなかったのはそのせいか。本気で驚いたから次からはやめてくれ」

 

「驚いた聖哉様、可愛らしかったですよ」

 

「やかましいわ」

 

 このメイド長、意外と悪戯好きである。

 って、こんな事をしてる場合じゃなかった。

 

「咲夜、霊夢は――」

 

「霊夢は既に紅魔館を出ていきました。今頃里に行って聖白蓮の疑いを晴らしていると思われます。

 豊聡耳神子は仙界に引っ越しをするとかで同じく紅魔館から離れました、聖哉様にあったらよろしくと言っておりましたよ」

 

「あ、そ、そうか……それでな、世話になりっ放しになって悪いんだが」

 

「調査の続きをするのでしょう? お嬢様が「礼はいいからさっさと調べて犯人を見つけてわたしに知らせろ、退屈でたまらん」と仰られていました」

 

「……」

 

「お察しの通り、お嬢様は暇つぶしの為に今回の異変に首を突っ込みたいと思っています。かといって面倒な調査はしたくないのでそこは聖哉様に丸投げすると」

 

「清々しいな、ここまでくると」

 

 さすが幻想郷我儘ランキング(文調べ)上位の常連だ、言うことが違う。

 だが礼はいいと伝えてくる辺り、彼女なりに俺に対して気を遣ってくれているというのが判る。

 ここは彼女の厚意に甘える事にしよう、それに調査に手間取れば一体どんな無茶振りを言われるか判ったものではないし。

 

「なら我儘お嬢様の為にも、さっさと調査を進めないとな」

 

「そうしていただけると助かります。ですが聖哉様、くれぐれもご無理はなさらないでくださいね?

 ……正直に申し上げますと、聖哉様が傷だらけで戻ってきた時、寿命が縮まる思いでした」

 

「咲夜……」

 

「聖哉様が誰かの為に無理ばかりする御方なのは承知していますが、なんでもお一人で背負おうとは思わないでくださいね? 何かありましたら、私も微力ながらお手伝いしますから」

 

 ……どうやら、俺の思っていた以上に心配を掛けてしまったらしい。

 初めて見せる彼女の寂しさと悲しさを混ぜた視線を見て、俺は漸くそれを自覚できた。

 

「わかった。その時は遠慮なく頼りにさせてもらうから」

 

「ぁ……はいっ!!」

 

 華が咲いたような笑みを浮かべ、すぐに咲夜は上機嫌になってくれた。

 彼女の優しさに感謝しつつ、俺は紅魔館を後にして里へと向かう。

 

〈それで、これからどうする?〉

 

(とりあえず霊夢の様子を見ておく、心配はなさそうだけど直接見ないと安心できないっていうか……)

 

 霊夢の事だ、俺なんかが心配する必要なんかないだろう。

 ただ、なまじ目の前で彼女が殺されかけた光景を目にしたせいか、どうしてもこの目で無事を確認しないと気が済まない。

 それに白蓮さんの冤罪が証明されたかの確認もしたいし。

 

〈それは構わねえけどよ、その後はどうする? 手がかりゼロだぞ?〉

 

(それは大丈夫だ。“全てを見通す眼”を使えばすぐに見つけられるだろ?)

 

 この眼ならば“千里眼”では見つけられない奴等の事も、必ず見つけられるだろう。

 しかし、俺の発言を聞いたヴァンは予想外の反応を見せてきた。

 

〈バカ野郎、お前オレの言った事がまるで理解できてねえみたいだな〉

 

 いつもの飄々としたものとは違う、本気の怒りと呆れを含んだ声。

 それに驚き何も言えなくなった俺に、ヴァンは言葉を続けていく。

 

〈あれはあくまで“切り札”でありお前にとっての“爆弾”でもある。

 安易に使えばそれだけ早くお前は壊れる、少なくとも枷がある状態のお前の肉体じゃリスクが大きい。

 さっきメイドの嬢ちゃんに一人で背負うなって言われたくせに、お前はまた一人で何もかも解決しようとしてるんじゃねえ〉

 

(……それ、は)

 

 言い返せない。

 そんなつもりはなかったと、反論する事ができなかった。

 

〈巫女の嬢ちゃんが目の前で殺されかけて、守れなくて、そんな自分が情けなくて。

 これ以上傷つくヤツを見たくねえからお前一人が全部背負って、そんなんで守ったつもりか? 笑わせやがる〉

 

「……」

 

〈――また、椛を泣かせたいのか?〉

 

「っ」

 

 その言葉。

 俺は今度こそ、自分が如何に浅はかで焦っていたかを自覚した。

 ……こんなんじゃ駄目だ、全部俺が…なんて傲慢もいい所じゃないか。

 俺一人で出来る事なんて限られてる、だけどこの一件を放っておけないのなら他の誰かと協力しなければならない。

 

〈まあ、いくら口で言った所でお前はまた同じことをするだろうさ。もうこれは呪いに近いな。

 とにかくだ、可愛い後輩を悲しませたくないのなら何だって利用しろ。――あの自称賢者の女に仕事させろ〉

 

(……八雲様の事か?)

 

〈当たり前だ。なんでお前だけが苦労してあの女が楽をする? 言っておくがお前とあの女に立場の違いなんて無えんだ、おもいっきりこき使え〉

 

(……容赦ないな)

 

 俺からすればあまりに恐れ多い発言をするヴァンに、おもわず苦笑する。

 本当にヴァンは八雲様が気に食わないらしい、まあ気持ちは判らなくもないが。

 尚も八雲様に対する愚痴を続けるヴァンを軽く相手していると……いつの間にか里が見えてきたので地面に降りる。

 

「……アンタは、天狗様か」

 

 里に続く門の前に立つ2人の男性。

 その内の若い一人に話しかけられるが、俺を見るその目は警戒の色が色濃く映っていた。

 手に持つ槍こそ向けられないものの、一歩でも動けば容赦なく攻撃するという意志が感じられる。

 やはりダミードールの影響があるのだろう、霊夢の様子を見たいが余計な混乱を招くのは好ましくない。

 

「ここに霊夢……博麗の巫女がいると思うが、彼女の様子を知りたい。具合が悪いとかそういうのは無さそうか?」

 

「……なんで巫女様の様子を知りたいんだ?」

 

「昨日、とある妖怪を倒す際に怪我を負ったんだ、だから心配でな……」

 

 正直には話せないので、適当に誤魔化しながら理由を述べる。

 しかし、青年達の疑惑の視線は外れてくれず、余計に訝しげな表情になってしまった。

 致し方ないとはいえ、人間にこういう視線を向けられるのはなかなかに堪えるな……。

 

「とにかく、アンタが良識ある天狗様なら帰ってくれ。今の里は立て込んでいてな」

 

「……判った。出直すよ」

 

 踵を返す、不満はあるが強行突破などするわけにもいかない。

 霊夢ならきっと大丈夫だろう、それに俺自身確かめたいのだってちょっと心配し過ぎな気もするし。

 そう自分に言い聞かせ、次は八雲様の所に行こうとして。

 

――両目を、突き刺されたような痛みが走った。

 

「っ、これは……っ!?」

 

 この感覚は、前にもあった。

 文もどき――ダミードールと対峙した時だ。

 

〈無意識の内に発動したんだろうな、この眼は良くも悪くも“異常”を察知する事ができる〉

 

 痛む両目を抑えながらヴァンの声を聴き入れつつ、俺は里の中へと視線を向ける。

 ――気配は、里の中から感じられた。

 正体は白蓮さんのダミードール、それがゆっくりと……霊夢の元へと向かっている。

 

〈さてどうする? そこの愚かしい人間共はお前の誠心誠意には応えてくれそうにねえぞ? 手っ取り早く殺して里に入るか?〉

 

(冗談でも、そんな事を二度と口にするな!!)

 

 だが、悠長に説明をしている場合でもないのは確かだ。

 ……仕方ない、後の事は後で考えるっ!!

 

「――すまん」

 

 一言謝ってから、俺は一息で門番二人の背後に回り込む。

 そして手刀を叩き込み意識を失わせ、壁に寄り掛からせた。

 

〈優しいなー、こんな人間達なんぞ今のお前なら指一本で風穴開けられるだろ?〉

 

(少し黙ってろ、ヴァン)

 

 まったくコイツは、人間が嫌いなのか?

 

〈好きになれると思うか?〉

 

 本気の侮蔑を込めたヴァンの言葉を無視しつつ、俺は門を開けすぐに跳躍した。

 既に相手の場所は捉えている、だがその場所が里の中央付近だというのは非常に拙い。

 そこは尤も里の住人が集まる場所でもあるし、何より今は霊夢がダミードールの説明をしているせいか、数十ではきかない人数が集結してしまっている。

 おそらく狙いは博麗の巫女である霊夢だ、文もどきの件もあるし間違いないだろう。

 

 故に。

 彼女の元に辿り着く前に、相手を倒さなければならない。

 

〈おいテメエ、オレの忠告を早速無視するつもりか!?〉

 

 ヴァンの怒鳴り声を無視する。

 全速力で飛んでいたおかげか、俺は白蓮さん――白蓮さんのダミードールに追い付く事ができた。

 里の中心へと続く道の前に立ち塞がるように降り立ち、白蓮さんもどきを睨みつける。

 

「……」

 

 立ち止まり、俺を射殺すつもりのような鋭い視線を向けてくる白蓮もどき。

 その瞳には文もどきの時のような、オリジナルそっくりの光は存在せず、文字通り人形を思わせる。

 どうやらこのダミードールは文もどきとは違い、単純に能力だけをコピーした存在なのだろう。

 白蓮さん本人の気質や性格を考えると、こうした方がいいのは俺が思うとおかしな話だが納得できた。

 

「あ、あれは天狗様だ……」

「そ、それに白蓮様……」

 

 周囲の人間達はどよめきつつも、この場から逃げようとせず遠巻きに此方に視線を向けている。

 すぐに逃げろと叫びたかったが、一瞬でも視線を相手から逸らせば間違いなく先手を許してしまうだろう。

 そうなれば周囲の被害は避けられない、だから。

 

「っっっ」

 

 目を、閉じる。

 発動するは万能の眼、“全てを見通す眼”。

 

「……」

 

 相手が動く、目を閉じた俺に隙が生まれたと判断したのか。

 既に肉体強化魔法を施していたのか、踏み込んだ地面はそのあまりの強大さに大きく陥没し、天狗すら勝る速度で踏み込んでくる。

 およそ五メートルという距離など初めから存在していなかったかのように、相手は俺との間合いをゼロにして大きく右手を振り上げた。

 

 その手に握りしめられているのは、光の刃が飛び出す金剛杵。

 秒を待たぬ速度で振り下ろされる光の一撃、それは迷う事無く俺の身体を左右二つに斬り分ける。

 それで終わり、一刀の元に俺は両断され地面を赤く汚しながらその命を終わらせるだろう………………少なくとも、相手はそう確信していた。

 

――されど、俺には初めからそんな未来は予期できていた。

 

「――――」

 

 僅かに、相手の息を呑む音が聞こえた。

 当たり前だ、相手は一撃で終わらせようとしたのに――それを呆気なく、まるで最初から判っていたかのようなタイミングで、避けられたのだから。

 

 目を閉じたまま、抜刀する。

 白銀の刃は一瞬で漆黒に変わり、風切り音を響かせながら振り下ろされる。

 相手は避けない、否、避けられない。

 一瞬を遥かに超えた刹那の時間、そこを狙って反撃したのだ、如何な豪傑とて次の行動に移る事は不可能。

 

 ――そうして。

 俺の一撃は、相手の身体を一刀両断し。

 呆気なく、迅速に、戦いは終わりを迎えたのだった……。

 

 

 

 

「……」

 

 左右二つに分かれた白蓮さんもどきの身体が、淡い光を放ち始める。

 すると数秒もしないうちに、それは白い無機質な人形へと姿を変えた。

 

「な、なんだこれ……?」

「白蓮様が、人形に……?」

 

「……これはダミードールという魔法の道具です、あらゆる生き物の姿形は勿論の事、その記憶や力すら模倣する事ができるんです」

 

「模倣……? で、では天狗様、前に里で暴れた白蓮様は……」

 

 里の人の問いに、俺は黙って頷きを返す。

 すると周囲はどよめき立ち、その間にダミードールは灰になっていき……そのまま風の中へと消えていった。

 終わった、そう判断し安堵のため息が零れた。

 

「我々は、聖様になんという事を……」

 

「致し方ありません。アレは本来見破れるものではないという話です、白蓮さんでしたら気にしてはいませんよ」

 

 そう言ってみるが、やはり住人達の表情は晴れない。

 疑ってしまった事による罪悪感に苛まれているのだろう、でも白蓮さんの事だ、きっと。

 

「許します」

 

 その一言で、わだかまりなど簡単に解いてしまうのが容易に想像できる。

 だけどこれで白蓮さん達を命蓮寺の中で軟禁させるような真似はしなくて済む、問題は解決してないけど一安心だな……。

 

「っ、ぐ、ぅ……」

 

 視界にノイズが走り、おもわず膝を突く。

 鈍器で頭部を殴られているような鈍痛が響き、ちょっとでも気を抜くと意識を失ってしまいそうになる。

 

〈……馬鹿が。安易に使うなって言っただろうが〉

 

(返す言葉もないな……)

 

 相も変わらず反動が大きすぎる能力だ、たったあれだけの使用でこれである。

 常時発動すれば本当に死にかねない、まだ心の何処かではリスクを軽視していたのかもしれない。

 

「ちょっと聖哉、どうしたのよ?」

「聖哉、しっかりしろ!!」

 

「ん……?」

 

 痛む頭を抑えながら顔を上げる。

 そこには、俺を心配そうに見下ろす霊夢と……慧音さんの姿があった。

 おそらく騒ぎを聞きつけて慌てて来たのだろう、二人とも息を乱していた。

 

「すごい汗だ……一体何があった!?」

 

「ああ……ちょっと、白蓮さんのダミードールを始末した」

 

「ダミードールって……先程霊夢が説明した魔法の道具だったか?」

 

「アンタ、また一人でそんな無茶を……」

 

「大丈夫だ。身体にダメージは負っていないから」

 

 主にダメージを負ったのは精神面だから大丈夫だ。

 そう言おうとしたら、その前に二人に怒られ強引に立たされた。

 

「何を言っているんだ、そんな酷い顔をして大丈夫なわけあるか!!」

 

「アンタは確かに普通の白狼天狗じゃないけど、もう少し限度ってものを知りなさいよ馬鹿っ!!」

 

「…………はい、すみません」

 

 あまりの迫力につい素で謝ってしまった。

 ……そんなに酷い顔してるのか、今の俺。

 

「とにかく休ませないと……霊夢、悪いが私の家まで彼を運ぶのを手伝ってくれ」

 

「言われなくたってするわよ。コイツにはまだまだ言いたい事があるんだから!!」

 

「……」

 

 あれ? 俺、ここまで怒られるような事したかな?

 しかし反論しようにも、何か倍になって返ってきそうなので何も言えない。

 正直、この状態で説教とか勘弁してもらいたいが……悪いのは俺なので黙っておく。

 それに霊夢は純粋に俺を心配してくれている、だからこそ俺が一人でダミードールの相手をしたのが納得できないのだ。

 

 今代の博麗の巫女は、歴代の巫女に比べて妖怪にも優しい巫女である。

 まあ本人に言った所で絶対に認めないし、言ったら陰陽玉や夢想封印が飛んできそうだから口が裂けても言えないけど。

 

「……」

 

 油断を、していたのかもしれない。

 白蓮さんのダミードールを始末し、彼女の冤罪を晴らしたという事実が気の緩みを呼んだ。

 だから、俺達は誰一人として“それ”の接近には気づけなかった。

 

 

「――腕を上げたな、犬渡聖哉」

 

 

 聞くだけで身体が重くなるような、重厚な声。

 背後から聞こえたそれを耳に入れた瞬間、俺達は揃って固まってしまった。

 周囲の人間達も、声が出せないのか驚愕の表情を浮かべたまま彫刻のように固まりある一点に視線を向けている。

 

 振り向かなくても、後ろに誰が立っているのか判る。

 だが、このタイミングでどうしてアイツがここに居るのか……。

 

「……」

 

 慧音の身体が、恐怖で震えている。

 霊夢はどうにか虚勢を張っているが、表情に余裕は見られない。

 それだけの強者だと、二人はとうに認識しているのだ。

 

「……霊夢、慧音、俺から離れてすぐに周りの人達を避難させろ」

 

「えっ、聖哉?」

 

「いいから、すぐに離れろ」

 

 二人から強引に離れ、ゆっくりと振り向く。

 視界に先に立つのは――魔界であった魔人。

 鬼に匹敵する程の巨大な三つ又の角と、鍛え抜かれた褐色の肌を持つその巨人は俺を見て口元に笑みを浮かべた。

 

「久しいな、犬渡聖哉」

 

「…………ゾア」

 

 高位魔族、ゾア。

 かつて魔界で戦った強者が、目の前に立っている。

 

 しかしおかしい、何故コイツの接近に気づけなかった?

 確かに油断していた面もあるとはいえ、こいつ程の力をここまで接近されるまで感知できないとは思えない。

 まるで八雲様のスキマ移動のような、転移術の類でも使われたか……。

 

「何故お前がここに居る?」

 

「決まっているだろう?」

 

 そう言って、ゾアは両手を拳に変え身構えた。

 コイツ……こんな所で戦うつもりかっ。

 

「待てゾア、せめて場所を……」

 

「悪いが、そちらの都合に合わせる義理はない。――先程の見事な動きを見せられては、血が滾るというものだ!!」

 

「くっ……!!」

 

 ダメだ、もう止められないっ。

 すぐに戦闘態勢に入り、俺は全身を黒いオーラを展開させる。

 同時にヤツも自身の肉体に魔界の炎――魔炎を纏わせ、一直線に向かってきた。

 それを俺は、真っ向から受け止めようと腕を交差させ。

 

 

「――ゾアよ。その者との決着はまたの機会にしろ」

 

 

 聞き覚えのない声が、場に響き。

 その瞬間、俺の視界は一瞬で闇に包まれ……。

 

 

 

 

「…………えっ?」

 

 気絶してしまったのか、一瞬意識が途切れ俺は閉じていた目を開けた。

 視界を捉えるのは幻想郷の空…………ではなく、見慣れぬ白い天井。

 

「な、に……?」

 

 身体を起こそうとして、漸く気づく。

 一体何が起きたのか、俺の身体はベッドに寝かされ身じろぎ一つできない程に拘束されてしまっていた(・・・・・・・・・・・)

 たった今までゾアと対峙していたというのに……この状況に、俺は完全に混乱してしまう。

 

〈よお、起きたか?〉

 

 ヴァン、一体何が起きた?

 俺はどうして拘束されているんだ? それにこの部屋は一体何だ?

 

〈落ち着けって、まあ気持ちは判らんでもない。

 ただ一から説明すると少し長くなるから、まずは落ち着いてくれ、な?〉

 

 そ、そうだな。

 とりあえず深呼吸を数回繰り返す。

 正直拘束は鬱陶しいが、まずは状況確認だと俺はヴァンに耳を傾けた。

 しかし、次のヴァンの言葉で。

 

 

 

〈まずここは地上じゃねえ。ここはな――――“月の都”だ〉

 

 俺は再び、混乱の極みに陥る事になったのだった。

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