狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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第66話 侵入者~魔の侵攻~ ※

 空気が、重い。

 

「カカカカ、やはり豊姫のような美人に酌をされると酒がより一層旨くなるわ!!」

 

「まあ、月夜見様ったら」

 

 豪快に笑いながら、美しい金の髪が目を引く美女――月人の中でも位の高いらしい綿月豊姫(わたつきのとよひめ)さんと愉しく酒を飲む月夜見。

 一方、俺は旨い酒を飲む事もせず……針の筵状態になっていた。

 額には緊張からか嫌な汗を伝わせ、縮こまるように小さくなっている。

 というのも。

 

「……」

 

 先程から、俺をジッと睨む女性――豊姫さんの妹である綿月依姫(わたつきのよりひめ)さんが居るからである。

 両手で盃を持ったまま、俺が一歩でも動けばその場で腰に差してある刀で斬り捨ててやるという気迫を見せられては、楽しい酒盛りなどできるわけもない。

 俺は月人にとって“穢れを持つ地上の妖怪”でしかないので、この態度は致し方ないとは思っている。

 ただ……この女性の覇気も月夜見程ではないにしろ凄まじいのだ、月人の中でも高い戦闘能力を持っているのは間違いない。

 だから睨まれるだけで精神が削れるような感覚に陥り、嫌な汗が止まらないのだ。

 

「依姫、いい加減にしたら?」

 

 さすがに可哀想だと思ってくれたのか、豊姫さんが助け舟を出してくれた。

 

「この男は地上の妖怪です。何をしでかすか……」

 

「依姫。小僧は儂の客だと言った筈だぞ?」

 

「……お言葉ですが月夜見様、いきなり月の都に現れた男の言葉を信じ隔離施設から出し、こうして酒盛りを始めるなど……危機管理能力が欠如していると言わざるを得ません」

 

 正論である、俺が言うのもなんだけどぐうの音も出ない正論である。

 これには豊姫さんも困ったように笑い、しかし月夜見は動じない。

 

「お前の言い分は判る。しかし小僧は事故でここにやってきたというのは儂もサグメも認めておる、ならば客人として招いた所でおかしな事はあるまい?」

 

「客人、として扱うという点が理解できません。確かに同情できる面もあるとはいえ……何も月夜見様の屋敷に招く必要は」

 

「だって他の月人だと儂に遠慮して楽しく酒が飲めんではないか」

 

「そのような理由だったのですか!?」

 

「当たり前じゃろう!!」

 

 ぴしゃりと、無駄に気迫を込めてふざけた発言をする月夜見に、依姫さんは絶句した。

 ……この人、苦労人なんだな。

 文の無茶振りに巻き込まれていた椛を思い出す、そして同時に依姫さんのポジションもなんとなく理解してしまった。

 

「まったくお前は相変わらず真面目が服を着たような性格じゃな。それでは男が寄り付かんぞ?」

 

「そ、そのような事は月夜見様には関係ないではありませんか!?」

 

「いやいや、お前達姉妹は儂にとって可愛い娘みたいなもんじゃ。世話を焼きたくもなる」

 

 そう告げる月夜見の目は穏やかで、暖かみを感じさせるものであった。

 依姫さんもこの目を前にしては何も言えず、そんな彼女を見て月夜見はますます優しく微笑んだ。

 月夜見は本当にこの姉妹を実の娘のように想っているのだろう、この光景を見るとよく知らない俺でも理解できた。

 血縁関係ではないけれど、この姉妹と月夜見は本当の親子のようで。

 

――それが、ほんの少しだけ。

 

「どうした小僧、一体何を羨んでいる(・・・・・)?」

 

「――――」

 

 心を見透かしたような月夜見の言葉を聞き、おもわず息を呑んだ。

 

「お前は嘘が吐けんヤツじゃな。それで、今の視線は一体なんだ?」

 

「いや、別に何も……」

 

 なんだか恥ずかしくなって、赤くなっているであろう顔を隠すように視線を逸らす。

 そんな俺を、月夜見は暖かな視線を向けてくるだけで何も言ってこない。

 その優しさが余計に恥ずかしい……恥ずかしい、けど。

 

「――月夜見が父親だったら、きっと子供は幸せだろうと思っただけだ」

 

 気が付いたら、俺はすんなりと心中を口に出してしまっていた。

 

「……小僧の親は、親の責務を果たさなかったのか?」

 

「えっと……俺の親は鴉天狗と白狼天狗で、俺が住んでいた天狗社会では白狼天狗は異なる天狗同士の婚姻は認められておらず、天狗の混血児は“忌み子”として扱われていたんだ」

 

「? それは何故だ?」

 

「それは……わからない、もう数千年以上前からの掟だったらしい」

 

 そう言うと、月夜見は本気で意味がわからないといった様子で肩を竦めた。

 豊姫さんと依姫さんは、何も言わなかったものの僅かに眉を顰めていた。

 

「俺の親はそのまま追放されて山の外で死んだらしい、そして俺は“忌み子”として今まで生きてきたから……」

 

 今でも、幼年期の事は鮮明に思い出せる。

 忘れたい思い出なのに忘れられないというのは、存外に嫌なものだ。

 味方が居ないわけではなかった、だけどその時は椛は生まれていなかったし文やはたてと仲が良かったわけではなく、天魔様や大天狗の清十郎様は立場もあったから表立って助けるという事はできなかった。

 

「――くだらんな。貴様等天狗は賢い生き物かと思っていたがどうやら違うらしい」

 

「……」

 

「つまりお前は親の愛情を知らずに育ったのか…………よしっ、なら今日から儂の息子になるか?」

 

「えっ?」

 

「あの……月夜見様?」

 

「なーに、小僧の一人や二人ぐらい息子にした所で痛くも痒くもない。それに儂はこの小僧が気に入ったんだ、それで……どうだ?」

 

 月夜見が問う、その視線は……自分は本気で言っていると告げている。

 ……本当に目の前の男は破天荒だ、普通侵入者を独断で隔離施設から出して酒盛りに付き合わせた挙句、息子にするとか言うか?

 あまりにも規格外で、無茶苦茶で、どうしようもなく敵わないと思い知らされる。

 

「ありがとう、月夜見。本当にありがとう」

 

「……」

 

「だけど、その提案は受けられないんだ。俺は……地上に戻らないと」

 

 待ってくれている人が居る、心配してくれる人が居てくれる。

 だからこの提案は受け入れられない、俺としては本当に嬉しく貴重な申し出だが……。

 

「そうか……それは残念だ。本気で言ったのだがな」

 

「それはわかってる、でも」

 

「気にするな。なんとなくお前が断るのは判っていた、お前は親の愛情は知らぬようだが……それ以外の愛情は、受けているようだからな」

 

「…………ああ」

 

 何だか、無性にみんなの顔が見たくなってしまった。

 早く幻想郷に帰りたい、帰ってみんなに謝ってそれから宴会をして……いつもの日常に戻りたい。

 

「すまんがお前を戻すのは少々時間が掛かる。儂としてはさっさと戻してやりたいのだがな……月の賢者共が喧しいのだ」

 

「それは構わない。寧ろ何の処罰も無しに戻してくれるのは此方としては本当に有難いよ」

 

「お前はあくまで被害者だからな、まあ堅苦しい話はここまでにして……飲み直すぞ!!」

 

 そう言って、月夜見は鬼も顔負けといった勢いで酒を飲み始めた。

 依姫さんの苦言にまったく耳を貸さず、そればかりか「お前達も飲まんかい」と迫る始末。

 こういうの、確か外の世界では“あるはら”とか言うんだったな、前に文が話してくれた事を思い出す。

 

「おい小僧、お前も遠慮せずに飲まんか!!」

 

「はいはい……」

 

 並々に注がれた酒を、一気に飲み干す。

 月の酒はまるで鏡のように澄み切っており、それに反して味は濃くけれど決して喉に詰まるような濃さではなかった。

 本当に美味い、できれば椛達にも味わせてあげたいが……さすがに土産として持っていく事はできないだろう。

 

「?」

「すみません、少し失礼します」

 

 ピピピ……という音が依姫さんの服の中から聞こえ、彼女は上記の言葉を告げながら懐から何かを取り出す。

 それは手の平に乗る程に小さな四角い物体、はたてが持つ“携帯電話”とやらをかなり小さくしたものにも見えた。

 

「私です。……ええ、ええ、今は月夜見様の屋敷ですが…………わかりました」

 

 依姫さんの表情が一気に険しくなる。

 ……何か、嫌な予感がした。

 

「すぐに向かいますので、あなた達はすぐに出撃できるよう武装を整えておきなさい」

 

 会話が終わったのか、依姫さんが手に持っていた物体を懐にしまう。

 

「月夜見様、誠に申し訳ありませんが……私は先に失礼させていただきます」

 

「何かあったのか?」

 

「それが、たった今“玉兎”から表の月に真っ直ぐ向かってくる、謎の船を発見したとの報告が」

 

「船? 地上の人間のロケットか?」

 

「いえ、見た目は木造の宝船のような形をしているという事ですので、おそらくロケットではないかと思われますが……」

 

「宝船……?」

 

 ……待て、ちょっと待ってくれ。

 宝船って……いや、まさかそんな。

 

「場合によっては戦闘も考えられます。ですので私は玉兎を率いて出撃を」

 

「うむ……わかった、お前の事だから問題は無いとは思うが、一応注意しておけ」

 

「……」

 

 嫌な予感が、一気に俺の中で大きくなった。

 それと同時に、俺は瞬時に“千里眼”を発動させる。

 当然最大まで引き上げ、外の様子を視ようとするが……何かに阻まれそれも叶わない。

 

〈月の都を外から見えなくさせる結界に阻まれたんだよ〉

 

(だったら……!)

 

〈おい馬鹿……!!〉

 

 ヴァンの声を無視し、俺は“眼”を発動させる。

 刹那、全身に激痛と悪寒が走り、意識が混濁する。

 それに歯を食いしばって耐えながら、俺は月の外――宇宙空間と呼ばれる場所へと“眼”を向けた。

 

「っ」

 

 そこに映ったのは、依姫さんが言った通り宇宙空間を飛ぶ一隻の船だった。

 それも俺がよく知っている法力を用いて異界を飛ぶ船、聖輦船だ。

 船内には白蓮さん達命蓮寺の面々と、霊夢に魔理沙が乗っているのが見える。

 

「っ、ぎ、ぃ……っ!?」

 

 ブツン、と。

 凄まじい頭痛が俺の意識を一瞬刈り取り、そのせいか“眼”が閉じてしまった。

 ……身体が灼熱を帯びたかのように熱くなっている、いつの間にか全身からは汗が滝のように流れ、四肢には力が上手く入らなくなってしまっていた。

 相も変わらず反動が大き過ぎる力だ、しかし……収穫はあった。

 

「小僧、貴様……今、一体何を使った?」

 

「……依姫さん、その船は私の知り合いが乗っている船です」

 

「どうしてそれが判るのです?」

 

「私には特殊な“眼”が備わっています。ここから確認する事ができました」

 

 俺がそう言うと、依姫さんは信じられないといった表情を浮かべる。

 

「もしかしたら、地上の知り合いが私の居場所を突き止めたから月に向かってきているのかもしれません」

 

「根拠のない言葉ですね、それを信じるに値するものは何もないではありませんか?」

 

「……信じてほしいとしか言えません、ですが無駄な争いはしてほしくないと思っています。ですから……」

 

 ですから、どうかお願いしますと俺は依姫さんに頭を下げる。

 依姫さんは……何も言わず、暫しの沈黙が場に流れ。

 

「…………いいでしょう。此方としても無益な争いをするつもりはありませんから」

 

 小さくため息を吐いてから、俺の想いを汲み取ってくれた。

 すぐに顔を上げる、依姫さんは俺に対し呆れながらも……どこか優しげな表情を見せていた。

 俺の言葉を信じたわけではない、それでも彼女は譲歩してくれたのだ。

 

「ありがとうございます、依姫さん」

 

「お礼を言われるような事はありません、先程も言ったように此方も無益な争いをして穢れを都に持ってくるわけにはいきませんから」

 

 何故か早口でそう捲し立て、依姫さんは月夜見に一度頭を下げてから部屋を去っていってしまった。

 パタンと扉が閉まった後……何が可笑しいのか、月夜見と豊姫さんが同時に笑い出す。

 

「?」

 

「ああ、いやすまん。小僧を笑ったわけではなくてな」

 

「依姫ったら、本当に素直じゃないなぁと思って」

 

「依姫さん……?」

 

「君の真摯な姿に感心したのよ、でも自分は月人で立場もあるからってああいう態度しか見せられないの、ごめんね?」

 

「いえ、そんな事は……」

 

 寧ろ、嬉しいさえ思えた。

 月人にとって地上の生物は自分達を蝕む毒と同じ、本来ならば有無を言わさず排除するのが当然の筈だ。

 それなのに依姫さんは、いや依姫さんだけじゃない。

 月夜見も豊姫さんも、線引きをしっかりとしながらも俺をできるだけ受け入れようとしてくれている。

 それが嬉しいと思わないわけがない、ここに来たのはあくまで事故だけど……来て良かったと。

 

「っっっ」

 

 視界が、一瞬だけ断裂する。

 同時に発動を止めた筈の“眼”が再び開き、けれどすぐに閉じた。

 たかが一瞬、しかし今の現象によって……俺は確かに視る事ができた。

 

「っ、聖哉くん。あなた目から血が……」

 

「……大丈夫です。心配しないでください」

 

 少し、“眼”を使い過ぎたようだ。

 けれど意識ははっきりしているし、もう四肢にはしっかりと力を入れる事ができる。

 ……やらなければならない事ができた以上、のんびりとしている場合ではない。

 

「月夜見」

 

「何だ?」

 

 

「――月の都に、侵入者が現れた。それも……俺が地上で戦ったヤツも居る」

 

 

「えっ……!?」

「……」

 

 俺の言葉に豊姫さんは驚き、月夜見は静かに目を閉じた。

 そして再び目を開き、忌々しげに舌打ちをしつつ。

 

「小僧の言う通りのようだな、Dブロック付近に見慣れぬ集団を確認できた」

 

 俺と同じく、連中――魔族の襲来を確認した。

 月夜見の言葉に再度驚く豊姫さん、しかし月夜見はまったく動じず彼女に指示を出す。

 

「豊姫、お前は屋敷に戻りいつでも動けるよう兎達に待機指示を出せ。儂はすぐに賢者共にこの事を伝えに行く」

 

「待機、ですか?」

 

「儂と小僧が見たのは地上の魔族、悪魔と呼ばれる者達だ。

 そいつらは地上の中でも特に穢れの濃い世界で生きている魔物、月の兵器が通用せんとは思えんが穢れを防ぐ防護服を着用せねば対峙するだけで月人は穢れに侵されてしまうだろう。無闇に交戦状態になるのは自殺行為だ」

 

「で、ではどうするのですか?」

 

「決まっている。――小僧、頼めるな?」

 

 頼む、と言いながらも向けてくる視線には有無を言わさぬ圧が込められていた。

 ……これを前にして、逆らえる生物なんて殆どいるわけないってのに、意地の悪い。

 尤も、こっちは初めから断るつもりなどないのだが。

 

「月夜見様、まさか……聖哉くんに任せるのですか?」

 

「同じ地上の生物ならば穢れなど気にする必要はない、此方の準備が整うまで小僧に相手をしてもらうのが得策だ」

 

「しかし……月の問題に地上人を巻き込むなんて……」

 

「大丈夫です豊姫さん、それにこれは元々地上の問題でした……巻き込んでしまったのはこちらの方です」

 

 そうだ、だからこそこれ以上月のみんなに迷惑を掛けるわけにはいかない。

 魔族は全員ここで倒す、あいつらの思い通りになどさせるものか。

 

「よく言った小僧、さっきも言った通り通常の月人は地上の穢れに対しあまりに脆弱でな。中には対峙するだけで死に至る者も居る程だ」

 

「そこまでなのか……」

 

「長い年月を殆ど穢れに触れずに生きてきた代償だろうな、儂や綿月姉妹のようにある程度の免疫力を持つ者も居るが……」

 

「気にしなくていい、さっきも言ったが元々こっちが迷惑を掛けてしまっている。なんとか俺一人で止めてみせるさ」

 

 否、止めなくてはならない。

 被害者である月人達に、無駄な犠牲や労力を強いるわけには……。

 

「――小僧、周りなど気にせずおもいっきり暴れてしまって構わんぞ、月の都はそんな程度で壊れはしないからな。だが、全てをお前一人で背負うような真似はするなよ?」

 

「……」

 

「一人でできる事などたかが知れている、たとえどんなに力を得ようとも経験を積もうともその事実は決して変わらない。それとだ、お前は二度と見返り無き善意を振り撒くな(・・・・・・・・・・・・・)

 

 鋭い槍のような言葉が、月夜見の口から放たれた瞬間。

 俺は呼吸を忘れ、彫像のように動けなくなってしまった。

 

「お前の心中を探るような発言は許せ。しかしどうも放っておけなくてな」

 

「……月夜見、アンタは」

 

「忘れるなよ小僧。泣かせたくない者が居るのなら、儂の言葉を忘れるな」

 

「……」

 

 何も言い返せず、俺は背を向け逃げるように窓から外へと跳躍した。

 すぐに全身を黒いオーラで包み込み、強化された飛翔速度で都の上空を一気に駆け抜ける。

 

〈さすが月夜見、出会ったばかりのお前の本質を見抜くか〉

 

(……黙ってろ)

 

〈なに苛立ってんだ? 月夜見の言葉……認めざるを得ないからか? それとも……〉

 

(黙っててくれ、ヴァン)

 

 頭がごちゃごちゃする。

 今は月夜見の言葉は忘れろ、己のすべき事を考えろ。

 必死に自分に言い聞かせ乱れた精神を元に戻していく、そうして気づいた時には。

 

「…………嘘でしょ、なんでいるのさ」

「どうやら転移に巻き込まれたようだが……やはりお前とは戦う運命にあるようだな、聖哉」

 

 月の都の端に位置する場所に辿り着き。

 俺は地面に降り立ち、此方を確認して驚くセレナと……不敵な笑みを浮かべているゾアと対峙していた。

 

(セレナとゾア、それと魔族が……全部で二十八)

 

 瞬時に敵戦力の確認を終え、その一つ一つに意識を向ける。

 ここから一人とて逃がすわけにはいかない、幸いにもここは倉庫練なのか人の姿は見当たらない。

 月夜見はおもいっきりやれと言った、ならば加減などせずにフルパワーで一気にケリをつけてやる……!

 

「セレナ、お前は他の連中を連れて目的を果たせ」

 

「だ、だけどさゾア……」

 

「逃がすと思うか?」

 

「オレを前にして、同時にこいつらの相手もしようなどと……甘く見られたものだなっ!!」

 

 ゾアが叫ぶ、同時に周囲の空気が高熱を帯びていく。

 魔界の炎――魔炎を全身に纏い魔力を放出するゾアは、俺に対して臨戦態勢へと入った。

 

「お前達は俺が全員倒す、1人たりとも逃がすわけにはいかない!!」

 

「セレナ、行けっ!!」

 

「りょ、了解!!」

 

 セレナと他の魔族達は一斉に飛び立つ、逃がすものかと俺はオーラを巨大な腕に変えながら全員を握り潰そうとして。

 

「お前の相手はオレだぞ、聖哉!!」

「っ」

 

 眼前に迫るゾアに反応せざるを得ず、腕に変えたオーラを両手に集めつつ交差させ防御の構えを作る。

 腕に響く衝撃、ゾアの右の拳の一撃はオーラの防御を貫きはしなかったものの、俺の身体を後方に数メートル吹き飛ばしてしまった。

 

「くっ……!?」

 

 拙い、セレナ達をいかせるわけには……!

 

「っ、ゾア、どけっ!!」

 

「ならばオレを倒せばいい、できるものならばなっ!!」

 

「っっっ、はあああああああっ!!」

 

 ダメだ、ゾアを無視してセレナ達を止める事はできない。

 そう判断した俺は意識をヤツ一人に向け、一気に力を開放する。

 体力の消耗など気にしてはいられない、加減なしのフルパワーで一刻も早くヤツを倒してセレナ達を追わないとっ。

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