狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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八雲紫から譲り受けた謎の丸薬によって、辛くも睦月を倒す事が出来た聖哉。
しかしこれはほんの序章に過ぎない事を、彼はまだ知らなかった……。


第8話 辛勝~調査開始~

「…………」

 

 見慣れぬ天井を視界に捉えながら、聖哉は目を醒ました。

 起き上がり、自分の状態を確認する。上半身と頭部全てを包むように包帯が巻かれており、下半身は下着しか履いていない。

 部屋の中を見回す、ベッドしかない簡素な部屋だ、おそらく病室なのだろう。

 

「……ああ、そうだった」

 

 自分の身に何が起きたのか思い出し、聖哉は寝かされていたベッドから降りる。

 身体の痛みはない、その事に安堵しつつ自分の服を探そうとして。

 

「…………あら」

 

「あ」

 

 ノックもせずに部屋に入ってきた銀髪の美女と椛に、下着姿のまま直面してしまった。

 予期せぬ事態ではあるが、聖哉は特に気にした様子もなく相手に声を掛ける。

 

「すまない、俺の服を知らないか?」

 

「それならそこの戸棚の中に入れてあるわ」

 

 こちらが気にしていないのが影響しているのか、銀髪の女性も特に気にした様子もなく平然と問いに答えた。それに感謝しつつ聖哉は女性が指差す戸棚の引き出しを開く、そこに畳んであった自身の服を取り出し着替え始める。

 ……どうでもいい事ではあるが、何故銀髪の女性はこちらをジッと見つめてきているのだろうか。あまりに堂々とした覗きにツッコミを入れるのに躊躇い、もういいやと気にしない事にして改めて着替えようとしたら。

 

「き、きゃああああああああっ!!」

 

 思考を停止していた椛が我に返り、耳をつんざくような悲鳴を部屋の中に響き渡らせた……。

 

 

 ◆

 

 

「まずは自己紹介でもしましょうか、わたしは八意(やごころ)永琳(えいりん)。この永遠亭で医者のような事をしている者よ」

 

「犬渡聖哉です。永遠亭やあなたの事は上司から聞いております。この度は随分と世話をかけてしまったようで……」

 

「永琳でいいわ、敬語も要らない」

 

「……では永琳と、そう呼ばせてもらう。治療の代金は後日に」

 

 払う、聖哉がそう告げる前に永琳は小さく手を横に振って「必要ない」という意志を見せた。

 

「天狗の身体を色々と見る事ができたもの、こっちとしても貴重な体験ができたわ。……だけど、あなたの白狼天狗としての耳は元に戻す事ができなかった」

 

「……そうか。だが問題ないさ、人型の耳があるからな」

 

 判っていた事だ、あれだけ派手に引き千切られればいっそ諦めがつく。

 それより色々とツッコミを入れたい発言があった事の方が気になる、とはいえ気にしたら負けなのだろう。

 というか訊いたら訊いたで後悔したくなるかもしれない、訊かない方が身のためだと聖哉はそう自己完結させた。

 身体の痛みはないしちゃんと治療してくれたのだ、それならば先程の発言など瑣末なものである。

 

「もう寝ている必要はないんだな?」

 

「あら、もう行くの?」

 

「確認しなければならない事もあるからな、世話になった。……椛、お前はいつまでそうやって蹲っているんだ?」

 

 視線を部屋の隅へと向ける聖哉、そこでは体育座りをして縮こまってる椛が小さく悶絶している光景が広がっていた。

 聖哉の裸を見たのが原因のようだが、相も変わらず生娘のような反応には苦笑してしまう。

 そもそも自分の上半身など今までの鍛錬で何度か見ているではないか……そう思ったが、そういえばその度にこんな反応だった事を思い出す。

 まあこういった初々しい面も彼女の魅力の1つなのだろうが、いざ“そういった時”が訪れたらどうするつもりなのか。

 

「……先輩の裸、前に千里眼で覗いた時よりも逞しくなってた……ゴクッ」

 

「…………」

 

 今のは聞かなかった事にしよう、彼女のためにも自分のためにもそれがいい。

 なんだか良くない世界に片足を突っ込んでいる椛の頭を軽く小突いて正気も戻してから、聖哉はもう一度永琳に礼を言って永遠亭を後にする。

 

「先輩、本当に大丈夫なんですか?」

 

「俺はさっきのお前の方が心配……もとい、大丈夫だから心配するな。そんな事より椛、俺が寝てる間の事を教えてくれるか?」

 

「あ、はい……先輩が寝ている間に一週間が経ったのですが、その間に数名の白狼天狗の行方がわからなくなっていた事が判明しました」

 

 その為、この一瞬間は天魔の命で椛達は行方知れずとなった者達の捜索に明け暮れていたが……誰一人として見つける事はおろか手掛かりすら掴めないのが現状だ。

 消えてしまった者達はあまり素行が良くないとはいえ、黙って山から消えるような者達ではなかったのだが……。

 

「伊吹様は?」

 

「先輩を永遠亭に連れて行った事を天魔様に伝えてからは、見ていません」

 

 それを聞いて、彼女は無事なのだと判断して聖哉は静かに安堵の息を零す。

 ただ、何故彼女はわざわざ自分を永遠亭に連れて行ったのかという疑問が浮かぶ。天狗の里には妖怪にもよく効く霊薬が存在している。

 それはかつて山の支配者である萃香も知っている筈だ、少なくとも今回の怪我ならば引き千切られた耳はともかくその霊薬で治療はできた。

 

「……俺と伊吹様が相手をしたヤツの事は調べたのか?」

 

 浮かんだ疑問は一度頭の隅に押しやり、聖哉は次の質問を放つ。

 すると、その問いを聞いて椛は言いにくそうに一度彼から視線を逸らしてから。

 

 

「――消えてしまいました、先輩に斬り捨てられ真っ二つになった筈の死体が」

 

 

 信じがたい言葉を、口にした。

 すぐさま聖哉は詳細を問い質す、聞いてみるとあの場で気絶した聖哉の傍で同じように眠る事にした萃香が次に目を醒ました時には、まるで初めから存在していなかったかのように睦月の死体が消えてしまっていたそうだ。

 ……そんなバカな話があるか、真っ二つに斬り捨てた死体が消えるなどありえない、かといってそこらの獣や野良妖怪が食い散らかした形跡も見つからなかったと椛は言う。

 

「伊吹様の御言葉があったので、今回の件が虚言ではないと誰もが認めているのですが……どういう事なんでしょうか?」

 

「…………」

 

 その問いに答える事は聖哉にはできず、そのまま2人は無言のまま妖怪の山へと帰還した。

 2人が山に入ると同時に小さな風が吹き、その風と共に数名の鴉天狗が姿を現す。

 

「犬渡、天魔様がお呼びだ」

 

「畏まりました」

 

 此方から出向こうと思っていたのだが、話があるのは向こうも同じらしい。

 そのまま天魔の屋敷へと赴く聖哉、椛もその後に続いた。

 

 

 ◆

 

 

「……戻ったか、犬渡」

 

「天魔様、御心配をお掛けしまして……」

 

「犬渡ー! 無事でよかったぁーっ!!」

 

 聖哉が言い終わる前に、上記の声をそれはもう馬鹿でかい声で張り上げながら、大天狗が彼の身体を力任せに抱き締め出した。

 「心配したぞぉーっ!!」と野太い声を出しつつ号泣する大天狗に、当然の如く全員がドン引きした。まあ3メートルを優に超えるおっさんが号泣すれば誰だって引く、というか鬱陶しい。

 頬を擦り寄られ聖哉の表情があからさまな嫌悪なものになる、しかし大天狗の力は強く強引に引き剥がす事もできない。

 

「離れんかいこのドアホがっ!!」

 

「あべしっ!?」

 

 結果、大天狗は顔面に天魔の怒りの蹴りを受けてぶっ飛ばされ、そのまま開いていた窓から落ちていってしまった。

 一連の流れに椛は目を丸くすることしかできず、被害者である聖哉も大天狗の末路には同情する中で。

 

「さて、本題に入るか」

 

 何事もなかったかのように話を戻す天魔を見て、聖哉は一瞬で大天狗の事を頭から消し去った。

 完全に今のを無かった事にする気満々である、とはいえいつまでも大天狗に構っていられないのもまた事実。今のは悪い夢だとその場に居た3人はそう自身に言い聞かせ、改めて本題へと入る事にした。

 

「お前が寝ている間の事は聞いたか?」

 

「はい、椛から」

 

「ならばそれについては話さなくてもよいな。……今回の件、わし達はこれ以上干渉しない事に決めた」

 

 天魔の言葉に、聖哉は眉を潜めた。干渉しない、即ちこれ以上調査はせず……行方知れずとなった天狗の事は捨て置くという事か。

 無駄な犠牲を出さない為の判断……と言えば聞こえは良いが、同時に違和感を覚えるものでもあった。

 

「死体が消えたと聞きました、今回山で好き勝手したヤツが生きているとは考えないのですか?」

 

「……生きてはいるだろうな、わしは勿論萃香もそう思っているだろう」

 

「では、何故……」

 

「あくまで我々は山の問題に対して動く。これから先、山以外でヤツが……睦月が動いたとしても、わし達には関係のない話じゃ」

 

「私達天狗が支配するこの妖怪の山を蹂躙し侮辱した相手を、放っておくと?」

 

「また山に災いを齎すというのならば容赦はせんさ、じゃがそれ以外で動けば小煩いのが余計な事を言ってきそうでな」

 

 天魔とて、もし睦月が生きているというのならばしかるべき制裁を下してやりたいと思っている。

 だが山の住人である天狗が山以外で大々的に動けば色々と面倒な事態になる、この幻想郷は思っている以上にパワーバランスが不安定だ。一大勢力である妖怪の山が動けばそれだけで他の勢力が黙ってはいない。

 それを説明され聖哉も椛も言葉を失う、2人も幻想郷の不安定さを知っているがこそであった。

 

「ただでさえ守矢という不安定な存在を受け入れたばかりなのじゃ、山の勢力が増大したと文句を言う輩達もおってな。

 とにかく犬渡、お前はまずその怪我を完全に治してから白狼天狗としての任務に戻れ。それまでは休暇を与える」

 

「…………」

 

「ああ、そうだ。今回の件でお前に何か褒美をとらせねばな……何がいい? 出来る限りの事はするぞ」

 

 今回の功績は大きなものだ、天魔にとっての旧友でありかつての山の支配者であった鬼を助けた。

 それだけで褒美をとらせるに充分過ぎる、多少無茶な要求でも叶えてやろうと天魔は考えていたが。

 

 

「では1つだけ。――今回の件、独自に動く権限を与えてはいただけませぬか?」

 

 

 彼から放たれた言葉は、まったく予期せぬものであった。

 その言葉を耳に入れ、天魔は眉を潜め椛は驚きで目を見開かせる。予想通りの反応にも気にせず、聖哉は言葉を続けた。

 

「伊吹様と共に対峙したからこそ判るのです、あの睦月という女……放っておくわけにはいかない存在だという事が」

 

「しかしな聖哉……」

 

「もちろん先程天魔様が仰った事が理解できぬわけではありません、だからこそ……独自で動こうと思ったのです」

 

 それならば、山への影響は最低限で済む。このままアレを放っておけないと思った以上こうする以外の最善策は聖哉には見つからなかった。

 一方の天魔も彼と同じくあの睦月という存在を放っておくのは危険と考えていた、あの伊吹萃香を追い詰めたという事実は決して無視できない。

 可能ならば山の天狗を総動員させて今回の元凶を捕らえてやりたいと思ってはいるものの、“組織”という存在がそれを不可能にさせている。

 現在の山の長だからこそ、他の勢力に対するわだかまりや確執というものを認識せざるをえなかった。

 

「……わかった、犬渡。お前の好きに動け」

 

 結局、天魔には聖哉の願いを聞き入れる選択を選ぶ事しかできなかった。

 

「ありがとうございます、天魔様」

 

「じゃが決して無理はするな、自分1人で手に負えぬ事態だと悟ればすぐに山に戻れ、わしからは以上じゃ」

 

「はい!!」

 

 では早速、そう思った聖哉を……椛が思いがけぬ言葉で立ち止まらせた。

 

「待ってください! 私も……私も先輩と共に行かせてください!!」

 

「椛……?」

 

「天魔様、先輩……犬渡隊長だけでは調査するのに限界があります、なので私も同行する許可をください!!」

 

 膝をつき、頭を垂れながら天魔にそう進言する椛。

 すると天魔はあっさりと「いいぞ、行ってこい」などというものだから、さすがに聖哉も黙ってはいられなかった。

 

「天魔様……」

 

「お前と椛のコンビならば調査にも幅ができよう、それにそやつだけを山に残してしまってもお前が気になって哨戒どころではなさそうだしなあ……?」

 

 意地悪そうに笑う天魔に、聖哉は反論の言葉を失い視線を椛へと移す。

 強い眼差し、絶対に役に立って見せますという気概が彼女の瞳から感じられる。生真面目な彼女らしい態度に聖哉はそっと溜め息を吐きつつ。

 

「……じゃあ、頼むな椛?」

 

「はい、任せてください!!」

 

 同行を許可し、許された椛は満面の笑みを聖哉に見せた。

 ならば早速とばかりに、聖哉達は天魔に向けて深々と頭を下げてから、部屋を後にする。

 それを軽く手を振って見送り、彼等が部屋を出た後……大きくため息を吐き出した。

 

「――天魔様、本当によろしかったのですか?」

 

 いつの間に戻ってきていたのか、ぶっ飛ばした筈の大天狗に進言され天魔は「よくないに決まっておろうに」とやや八つ当たり気味に言葉を返した。

 あの2人は白狼天狗とは思えない程の才覚を宿している、いずれは山の重鎮になるであろう2人を危険な目には合わせたくはないというのが天魔の正直な考えだ。

 しかし同時に今回の調査をあの2人以外に任せられないのもまた事実、天魔や大天狗が動けないのは勿論として、2人よりも実力も優れ場数も踏んでいる文やはたてにも任せる事はできない。

 

 上記の存在は山の中でも上位に位置する妖怪だ、それが安易に幻想郷を動き回ればほかの勢力が黙ってはいない。

 くだらぬしがらみではあるが、この土地のパワーバランスを考えれば当然の措置でもあった。

 

「あぁ~……ワシは心配です。もし犬渡や犬走に何かあったらと思うと……」

 

「完全に孫を心配する祖父のようじゃな大天狗」

 

「だってだって、あの2人は真面目な良い子だし……ワシはもう心配で心配で……」

 

 頭を抱え項垂れる大天狗をウザく思いつつ、天魔は自分専用の椅子へと座り込む。

 とにかく送り出した以上は吉報を待つしかない、今は自分のやるべき事をしようと書類整理を始めるのであった。

 

「ほれ大天狗、お主もサボっとらんで仕事せんか」

 

「は~い……」

 

 

 ◆

 

 

「……よし、こんなものか」

 

 自身の住処へと戻り、身支度を整える聖哉。後は椛が来るのを待つだけだ……と、彼の千里眼が客が来た事を知らせた。

 外へと出ると、聖哉に向けて軽く手を振りながら笑顔を見せる文と……ぺこりと頭を下げる早苗の姿があった。

 

「東風谷様、こんにちは。文様も」

 

「なんで私はついでみたいな感じなんですか……でも元気そうでよかったですよ、早苗さんも随分心配をしていたみたいですからねえ」

 

「……御心配をお掛けして申し訳ありませんでした東風谷様、ですが私は大丈夫ですので」

 

 そう言いながら早苗に視線を向けると、彼女の右手に包帯が巻かれている事に聖哉は気がついた。

 話を聞いてみると、博麗の巫女と戦って負けた際に受けた傷らしい。

 

「本当に強かったですよ、私正直この幻想郷でも充分に通用すると思っていたんですけど……上には上がいるんですね」

 

「まあ霊夢さんは色々と規格外ですからねー、先代も大概でしたけど」

 

 千の時を生きる文は、歴代の博麗の巫女の事もよく知っていた。

 今代の巫女、博麗霊夢は歴代から数えても最高峰の才能を秘めており、ここだけの話だが今の早苗では相手にならない程の実力者だ。

 彼女の友人である魔法使いの少女もなかなかだが、それでも博麗霊夢は“人間”というカテゴリーの中では間違いなく最強と呼べるだろう。

 

「じゃあ、結局博麗神社を乗っ取るのは……」

 

「やめにしました。でも博麗神社に守矢神社の分社を建ててもらえるので、とりあえずはそれで我慢する事にします」

 

「……そうですか」

 

 どこか憑き物が落ちたような早苗の表情を見て、聖哉は安堵の息を零す。

 出会った頃に見せた余裕のなさは鳴りを潜め、ようやく自然体の彼女を見れたような気がした。

 きっと博麗の巫女に敗北した事で肩の力が程よい具合に抜けたのだろう、今の彼女ならきっとこの幻想郷にも馴染んでいってくれる筈だ。

 

「そういえば、山を降りるんでしたよね?」

 

「えっ、そうなんですか!?」

 

「ええ……東風谷様達が博麗の巫女達と戦っていた際に、山に現れた者の行方を捜す事にしまして……」

 

 そろそろ椛も集合場所へと到着する頃だろう、なので聖哉はここで話を切り上げる事にした。

 

「では私はそろそろ行きます。東風谷様、守矢の信仰が集まる事を祈っております。そして射命丸様、くれぐれも東風谷様や姫海棠様の迷惑にならないようにお願い致します」

 

「……聖哉さんって、どうして私に対する風当たりが強いんでしょうかねえ」

 

 当たり前じゃないですか、間髪入れずに聖哉がそう言うと文は隅っこでいじけ出してしまった。

 しかし同情はしない、以前似たような状況の際に謝ったら調子に乗り始めて罪滅ぼしとして強引に新聞作りを手伝わされたからだ。

 なのでいじけている文は完全に無視し、聖哉は早苗と向き合い「それでは」と短い別れの言葉を口にした。

 

「聖哉さん、また帰ってきますよね?」

 

「もちろんですよ東風谷様、その時は必ず守矢神社に寄らせていただきます」

 

 「約束ですからね?」その言葉に「約束します」と笑顔で答えてから、聖哉は飛び立ち山の麓へと向かう。

 既に椛は到着しており、いつもの太刀と盾を背中に背負い足元には聖哉と同じ大きめの皮袋が置かれていた。

 

「すまない、待ったか?」

 

「いえ、大丈夫です。――先輩、なんだか強引について行く事になってしまいましたけど……私、精一杯頑張りますから!!」

 

 ぐっと拳を握り締め決意を表明する椛の生真面目な姿に、聖哉は優しく微笑み「よろしく頼む」と言葉を返した。

 

「ところで先輩、睦月……でしたよね? その者を捜すとしても何か手掛かりはあるのですか?」

 

「……いや、特にはない。だが当てが無いわけでもないさ」

 

「当て、ですか? それは一体……」

 

「正直、進んで会いたい御方ではないが……八雲様ならば、何か知っている可能性がある」

 

「…………八雲紫、ですか」

 

 眉を潜め嫌そうな表情を見せる椛、やはり八雲紫を苦手とする者は多い。

 だが彼女ならば幻想郷全体を見通せる事ができるし、知識も自分よりも遥かにある。

 何よりも、この地を誰よりも愛する彼女ならばあんな不届き者を見過ごす筈がない。

 

「確か“冥界”に八雲様の御友人がいると聞く、まずはそこに行ってみよう」

 

「はい、わかりました」

 

 彼女に聞けば睦月の事が何かわかるかもしれない、だが聖哉にはもう1つ彼女に会う理由があった。

 あの時、紫が聖哉に手渡し睦月との戦いの際に服用した丸薬のような物体。あれを服用した今の聖哉の身体は大きく成長し力が増している。

 それはいい、そのおかげで睦月を退け萃香の助けになったのだから感謝している。だが……彼女の真意を知りたかった。何故彼女は自分にあのようなものを手渡したのか、何を望んでいるのか。それを聞かなければならないと聖哉は思っていた。

 

 

 

 妖怪の山を離れ、聖哉と椛はただひたすらに上空へと登っていく。

 目指すは死者が住まう世界、冥界。

 そこではまたしても一悶着あるのだが……それが訪れるのはもう少し先の話である。

 

 

 

 

 

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