狼王戦記 ~黒き白狼天狗の軌跡~   作:カオ宮大好き

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……もう病院はこりごりだ。

遅くなり申し訳ございません、もう少し投稿スピードが速くなるように頑張ります。


第89話 無縁塚~死から逃げるモノ~ ※

――無縁塚。

 

 幻想郷屈指の危険区域、“外”との境界が曖昧になっている為、様々な“モノ”が流れてくる場所だ。

 それは外の世界の人間だったり道具だったり……中には幻想郷でも外の世界でもない、所謂“異界”から流れてくるものもあるとか。

 故に好き好んでこの場所に来る物好きは殆ど居ない、ここは人妖問わず不用意に近づけばその命を狩られる場所なのだから。

 そう、無縁塚は危険な場所、その認識は決して間違いではない…………というのに。

 

「ナズちゃん、おかえりー!」

「あぁ……今日も我らが天使は可愛いのう」

「ナズちゃん、前に使えそうなものを拾ったんだけどどうかな!?」

 

 俺の目の前に広がる光景は、危険とは真逆のほのぼのとしたものが広がっていた。

 無縁塚に到着した瞬間、突如として異形の生物達が恐ろしくも人懐っこい笑顔を浮かべ、瞬く間に彼女を取り囲んだのだ。

 そして口々にナズーリンを歓迎する言葉を並べ、中には小さな子を愛でるように彼女の頭を撫でる妖怪も居る。

 

〈年寄り連中に愛される近所のお嬢ちゃんみたいだな、コレ〉

 

(……無縁塚で暮らしている連中のようだけど、やけにフレンドリーだな)

 

 もっとこう、今の幻想郷には似つかわしくない妖怪らしい妖怪を予想していたので、この光景は完全に予想外だった。

 ただ、ナズーリンがどうして危険な無縁塚の中で暮らしつつも怪我らしい怪我を負わないのかが、何となく理解できた瞬間でもあった。

 

「…………で、誰だお前は?」

 

 と、間抜けな顔でその光景を眺めていた俺に、妖怪の一人が鋭い眼光を飛ばしてきた。

 それを皮切りに他の妖怪達も、敵意剥き出しの視線を一斉に向けてくる。

 流石危険区域に暮らしている妖怪達なだけあって、その眼光は力強く放出している妖力も並の妖怪を大きく上回っていた。

 敵愾心剥き出しではあるが、まったく恐怖を感じない。

 それは俺が強過ぎるとか相手を見下しているとかではなくて……。

 

「ナズちゃんが、男を連れてきやがった……!」

「嘘だろ、我等が天使に男が……!?」

「羨ましい、きっと人里でデートとかしてるんだそうに違いない!!」

「おのれ……パルパルパルパル……!」

 

 その視線の中に、あからさまな嫉妬心が混じっていたからであった。

 睨んでくる者達の中には涙を流し、勝手な事を言ってはおかしな妄想をして自爆するヤツも居るので、余計に恐ろしさは感じられない。

 っていうか、なんだこれ?

 

「や、やいテメエ!! ナズちゃんとはどういう関係なんだ!?」

 

 妖怪の一人が、やや上擦った声を上げながら詰め寄ってくる。

 

「大切な友達だ、今日ここに来たのは彼女からある頼み事をされたからで……」

 

「嘘を吐くなっ、あのナズちゃんがわざわざ男を連れて無縁塚に帰って来るなんて一度も無かったんだぞ!? 正直に言うんだ、一体何処までいった!?」

 

「いや、だから誤解……」

 

「Aか!? それともBか!? ま、まさかC以上…………ぐはぁっ!?」

 

「ええっ!?」

 

 いきなり吐血してぶっ倒れた!?

 俺に詰め寄ってきた妖怪はその場で倒れ込み、周りの者達が慌てて彼の元に駆け寄り声を掛ける。

 

「しっかりしろ、傷は浅いぞ!!」

「おのれ……コイツがナズちゃんの大ファンの一人だと知りながらよくも言い訳なんかを……!」

 

「……」

 

 なんだ、これ。

 とりあえず、ここに居る妖怪達は誰もがナズーリンの事を気に入っていて、そんな彼女が俺という男を連れてきたという事実が許せないというのは理解した。

 理解したんだけど……それ以外は全く理解できない。

 

〈さっきのは訂正だ、こいつ等アイドルの追っかけって言った方が正しいかもしれねえ〉

 

「……」

 

 どういう事? と、ナズーリンに視線で問いかける。

 

「……」

 

 彼女は俺に対し申し訳なさそうな表情を浮かべ、黙って頭を下げてきた。

 ああ、うん……とりあえず、ナズーリンもこの状況は望んでないわけか。

 

「嘘は言っていないし言い訳でもない、彼女は本当に大切な友達だし、そもそも俺には勿体ないくらいの優しくて美人で可愛い嫁さんが居るんだ」

 

 少々気恥ずかしいが、このままでは話が進まないのではっきりと言ってやった。

 すると多少は信じたのか、妖怪達から敵愾心が薄れていくのを感じる。

 後に残ったのは嫉妬の視線のみ、そういえば旧都には嫉妬の妖怪が居るらしいけど……彼女がこれを見たら悦ぶんだろうか?

 

「……ナズちゃん、本当かい?」

 

「本当だよ。……というより、私はこういう扱いは好みじゃないと前に言った筈なんだが?」

 

「うっ、だ、だけどさナズちゃん……」

 

 ナズーリンにジト目で睨まれ、タジタジになる無縁塚の妖怪達。

 ……こいつら、本当に幻想郷屈指の危険地帯で生きる妖怪達なんだろうか?

 

「とにかく、彼は大切な友人なのだから敵意を向けたりしないでくれっ。さあ聖哉、行くとしよう」

 

「あ、ああ……」

 

「ちょ、ちょっと待ったナズちゃん。今無縁塚の奥に行くのは危険だって!!」

 

 俺を連れて先に進もうとするナズーリンに、妖怪の一人が慌てて引き止める。

 しかし不機嫌になったナズーリンは止まろうとせず、なので俺が彼女の手を掴み足を止めた。

 

「……どういう意味だ?」

 

「あ、いや、その……」

 

「俺は彼女の依頼で居なくなった彼女の部下を捜すためにここに来た。

 だから正直今の無縁塚の状況を詳しく知ってるわけじゃない、何か知っているのなら教えてくれないか?」

 

 今の慌てようからして、今の無縁塚は“普通”ではないのだろう。

 ならばその情報は必要になる、ナズーリンにそう説明すると彼女もその結論に達したのか聞く気になってくれた。

 

「それで、何が危険なんだ?」

 

「そ、それが……妙なんだ、今の無縁塚は。いつもとは空気が」

 

「空気?」

 

「確かにここは危険地帯だ、それでもオレ達みたいな“はぐれ妖怪”でも生きていける。

 ――だけど、この数日で無縁塚の空気が一変しちまった。なんていうか……常に首に刃を当てられているような、そんな恐ろしさを感じるんだ」

 

 そう告げる妖怪の表情は、今この瞬間も己の命が狙われているような恐怖に捉われたものになっていた。

 他の妖怪達も何も言わないが同じような表情を浮かべ、無言で肯定の意を示している。

 

「――儂達の仲間も何人か、姿を見せていない」

 

「普段からこの周囲を活動している儂達じゃからこそ感じ取れる。だからこそナズちゃんには行ってほしくないんじゃよ」

 

「そ、そう言ってくれるのは嬉しいが……」

 

「……」

 

 無縁塚の奥へと、視線を向ける。

 鬱蒼と生い茂る木々のせいで、この先がどうなっているのかは見えない。

 

――“千里眼”を発動させる。

 

 その先に見えるのは不毛な大地、大小様々な生物の骨が無造作に転がっているのが見えた。

 他にはよくわからない道具のようなものに、誰かの墓のような小さな石……結界に紛れて流れ着いた犠牲者のものか。

 そして鼻に付く血の臭い、なまじ嗅覚に優れるから否が応でも嗅いでしまう。

 

 危険地帯と呼ぶに相応しい無法の土地、だけど何よりも。

 

〈――ナニカ居るな、死と穢れを身に纏ったナニカが〉

 

 ヴァンが言うナニカの気配が、俺に「近づくな」と警鐘を鳴らす。

 ……最悪の結果が、頭を過る。

 ナズーリンのこの依頼は、既に依頼として成立しない可能性が……。

 

「――聖哉、行こう」

 

「ナズーリン……」

 

「私とて馬鹿じゃない。――だが、“弔い”くらいはしてやりたいんだ」

 

「……そう、だな」

 

 彼女は俺よりも賢い、故に“覚悟”は既に抱いている。

 そんなナズーリンの意志を友として汲み取りたい、だからこそ俺はそれ以上は何も言わず彼女と共に再び歩を進め始めた。

 

「お、おいナズちゃん……」

 

「大丈夫だ。彼女は何があっても俺が守る、大切な友人だからな」

 

 そう告げるが、やはり彼女が心配なのか妖怪達の表情は納得していないと物語っていた。

 ちょっと変なのは否めないが、この妖怪達は本気でナズーリンの事を想っているのだろう。

 とはいえナズーリンの意志を優先してやりたい…………が。

 

「ナズーリン」

 

「えっ……」

 

 そのまま進み、茂みの中に入ろうとした彼女の肩を掴む。

 驚き動きを止めた彼女を強引に下がらせ、そのまま茂みから距離を離していく。

 

「聖哉、一体何を」

 

「下がってろ。――――何か来る」

 

「え……」

 

「お前達もここから離れろ!!」

 

 妖怪達に叫びながら、俺は茂みに意識を集中させつついつでも抜き取れるように背中の大太刀に手を伸ばす。

 ……先程感じた死と穢れの塊、それが凄まじい速度で近づいてきている。

 だが俺以外の誰もそれを感じ取れないのか、誰一人としてここから離れようとしてくれない。

 

〈集中しろ。……どうやら、相当厄介みたいだぜ?〉

 

 ヴァンがいつもとは違う真面目な口調で俺に警告した瞬間。

 目の前の茂みが揺れた、と同時に黒い影が俺達に向かって飛び出す……!

 

「っ」

 

 抜刀と同時に、迫る黒い影に向けて横薙ぎの一撃を放つ。

 奔る剣戟、しかしその一撃は……空しく空を斬るだけに終わる。

 

「何……!?」

 

 命中した、そう思った瞬間――影は一瞬で跳躍し俺の真上を通過してしまった。

 凄まじい反応速度だ、だがまだ俺の攻撃は終わっていない!!

 

「かあっ!!」

 

 上空に向かって口を開く。

 そこから放たれるのは灼熱の黒いブレス、超高熱のそれは影を呑み込みその身を焼いていった。

 肉の焦げる臭いを漂わせつつ、黒い影が地面に落ち。

 

「っ、なんだと……!?」

 

 影の正体を視界に捉え、俺は……否、その場に居た誰もが驚愕した。

 

「…………人?」

 

 そう、ナズーリンが呟いた通り……影の正体は、人間だった。

 背丈からして男性だろうか、俺のブレスの直撃を受けてその身を焦がしてはいるが、確かにその姿は人間だった。

 焼け残った衣服の見るにおそらくは幻想郷の者ではない、文やにとりから聞かされたり見せられたりした事がある外の世界のデザインだったからだ。

 ……俺は人間を、容赦なく攻撃したのか。

 

〈馬鹿、よく“視ろ”。アレはもう人間じゃねえ(・・・・・・)

 

(えっ………………っっっ!??)

 

 ショックで真っ白になりかけた俺の頭に、ヴァンの声が響く。

 そこで漸く俺は気付く、肉の焼ける臭いと共に漂う“腐臭”を。

 それが攻撃した人間から発せられている臭いだと理解し、今度こそ俺の思考は真白に染まる。

 

「…………まさか」

 

〈アレは人間“だった”モノに成り下がってやがる。

 お前達の言葉で言えばゾンビ、アンデッド、グール……要するに、動く死体だな〉

 

「……」

 

〈油断するなよ聖哉、あれは……単なるアンデッドじゃねえ。

 ベースは人間だが中身は別モンだ、誰が“造った”のかは知らねえが……碌でもないのが裏で動いてるのは確かだろうな〉

 

「……」

 

 ヴァンの声が、よく聞こえない。

 ……死して尚、あんな姿にされて何者かに操られているというのか?

 それも外の世界、妖怪や神々の存在を知らぬ一般人を、あんな化け物に変えたっていうのか?

 

「……アァァァァァァッ」

 

 じゅくじゅく、じゅくじゅく。

 気味の悪い音を立てながら、人だったモノ――アンデッドは己が肉体を“再生”させていく。

 俺から受けたブレスで炭化した部分は剥がれ落ち、およそ人間とは思えぬ速度で回復していく姿は……とてもおぞましく、不気味なものだった。

 

 しかしその再生は文字通りのものではなく、死肉を用いた不完全なもの。

 漂う腐臭は濃さを増し、おもわず顔をしかめ目を逸らしてしまいそうになる。

 現にナズーリンや無縁塚の妖怪達は、アンデッドに対し醜悪な視線を向けつつ手で口元を覆っていた。

 

〈楽にしてやれ。大方“外の世界”から迷い込んだ人間が、妖獣に襲われ命を落とし……あんなモンになっちまったって所か〉

 

(……討たなきゃ、ならないのか?)

 

〈判ってんだろ? ――あれはもうお前が愛する人間じゃ無くなっちまってる、だったら……楽にしてやるのがせめてものの情けだと思わねえか?〉

 

「…………」

 

 大太刀を背中に戻し、両手を拳にして構え黒いオーラを全身に展開する。

 ――覚悟を決めろ。

 ヴァンの言っている事は正しい、あれはもう……人ではないのだ。

 躊躇えばこちらがやられる、それだけではなくナズーリンや他の妖怪達にまで被害が及ぶ。

 

「アァ……アァァァ……」

 

「……今、楽にしてやるからな」

 

 許せと、心の中で謝罪をしながら俺は地を蹴った。

 傷を癒したアンデッドが起き上がるが、その瞬間に俺は相手の身体に右の拳を叩き込み、無縁塚の奥へと殴り飛ばす。

 

「ナズーリン、お前は他の妖怪達と一緒に無縁塚を離れるんだ!!」

 

「聖哉……まさか、一人で戦うつもりなのか!?」

 

「早くしろ!! ――あれは誰かが作成した死者だ、つまり……俺達の敵は他にも居るって事だろ」

 

「っ、わかった。みんな、死にたくないのならすぐにここから離れるぞ!!」

 

 言って、ナズーリンはすぐに背を向け駆け出していく。

 困惑する妖怪達だが、異常事態を察したのか一息遅れて逃げ出し始める。

 それを確認してから、俺は殴り飛ばしたアンデッドの追う為に無縁塚の奥へと向かっていった。

 

 

 

〈…………さて、変わっちまうかな(・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なー、せーが。助けにいかなくていいのかー?」

 

「……ふふっ、いいのよ芳香ちゃん」

 

 自身の部下であるキョンシー、宮古芳香の問いに青髪の邪仙――霍青娥は妖しく微笑みながらそう答えた。

 

「でもセイヤのこと、気に入ってるんじゃないのかー? しんじゃうかもしれないぞー?」

 

「その時はその時、芳香ちゃんと同じようにかわいいかわいいキョンシーにしちゃえばいいもの」

 

「そっかー……そうなったら、仲間ができるからうれしいな!!」

 

 無邪気に笑う芳香に、青娥も同意するように笑みを浮かべる。

 尤もその笑みは、見る者に不快感を与えるような邪悪なものだが。

 

「あの人間だったの、せーががつくったのか?」

 

「違うわ。でも……あれは中々の出来ね」

 

 ベースとなった人間の能力は凡庸なものでありながら、あれだけの強化が施されている。

 並大抵の実力者ではあれは造り出せない、それが判るからこそ青娥は心から称賛していた。

 

 とはいえ、今の彼女の興味はアンデッドではない。

 常に視線は聖哉だけに向けられ、彼の挙動一つ一つすら逃さぬような陰湿さが彼女の瞳から見え隠れしている。

 

(芳香ちゃんを軽々といなしたあの実力……けれどあれが彼の総てではない。だからこそ見てみたい、今の彼の限界を)

 

 そして、それが自分の想像通りもしくは想像以上だった場合は……そこまで考え、彼女は強引に漏れそうになった笑い声を閉じ込めた。

 あまり気配を出すわけにはいかない、そんな事をすれば彼に見つかってしまう。

 彼だけではない、あまり目立った動きをすれば彼の知り合いである幻想郷の実力者達にも目を付けられてしまうだろう。

 

(何より、あの太子様すら彼を気に入っている……今はじっとしておいた方がいいわね)

 

「せーが……わるいかおだなー」

 

「まあ芳香ちゃんったら、私……そんなに悪い顔になっていたかしら? ふふ、ふふふ……」

 

 可笑しそうに笑いつつも、青娥の意識は聖哉から離れない。

 

 

 

(さあ、聖哉様。貴方様の力……どうか、見せてくださいまし……ふふふっ)

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