戦国恋姫~偽・前田慶次~   作:ちょろいん

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短いです。(四千弱ほど)


あと調子に乗りましたが後悔してません。‥‥‥‥‥たぶん。
どうしてこうなったの?とか聞かないでください。こころが痛くなりますので泣


二十六話

 奇抜な衣装の男が館周辺を彷徨うように歩き回っていた。疲労感の滲む表情で縋るようにキョロキョロと辺りを見渡していた。

「りんごぉ~。ほんと見当たらねぇな‥‥‥」

「‥‥‥慶次さま」

 ひゅんと慶次の傍に現れた小波。

 手には瑞々しい光沢を放つ赤いリンゴがあった。

「うお!?‥‥‥こ、ここここれは‥…小波どこにあった?」

「すぐそこに見える木ですが‥‥‥」

 小波は慶次の背後に立つ木を指差す。幹が太くない至って普通のどこにでもある木だ。

「へ‥‥‥」

 慶次がその木を見上げれば木漏れ日が眩しいくらいに彼を照らす。

 だが彼の視線の先には赤い果実、リンゴが見える。時折、日光で反射し、まるで取ってくださいと言わんばかりに薄く光っていた。

「‥‥‥おお」

 もぎ取ったそのリンゴの感触を確かめ、香りを嗅いだり、頬擦りをした。

「あぁ、小波。助かった‥‥‥やっとリンゴを食える」

「いえ。私のような者に礼など不要です。では失礼‥‥‥」 

「まぁ待て。折角だ。小波の分もある。一緒に食わねぇか。丁度日当たりの良さそうな場所もあるしな」

 笑う慶次は館の縁側を指さした。

 日の光が当たりぽかぽかとしていそうだった。 

 

「ですが私のような身分の低いものと‥‥‥」

 小波の顔が暗く陰る。

「気にすんなよ。美少女と食う物なんて不味くなるわけねぇんだ」

 さも同然と言った形で胸を張る。

「は、はぁ。それでその美少女はどこにいらっしゃるのでしょうか?」 

「あん?俺の目の前にいんだろ」

 

「目の前、ですか……」

 きょとんとした顔を見せる。

 誰のことか理解していないのか目をパチクリとさせていた。

「?‥‥‥っ! わ、わわわ私のことですかぁ!?」 

 一呼吸間を置くとあたふたとし始めた。

「そうだ。目の前って言ったら小波しかいねぇからな」

「‥‥‥あぁ。なるほど。慶次さまは私のことをからかってらっしゃるのですね」

「おいおいおい。どうしてそうなるんだよ。ほら‥‥‥」

 半ば強引に彼女の手を握る。

 流石忍者と言うべきか手のひらの至る所には職人の証とでも言うべきタコが出来ていた。

 だがそれ以上に女性らしさを感じさせ白く柔かく、それでいて華奢な手だった。

「ッ!!」

 握り締めた小波の手を引き縁側へと強引に連れていく。

 慶次の手を握る小波はうつむき加減で着いていった。時折チラチラと上目遣いで戸惑いの視線を向ける。 

「あ、あの‥‥‥」

「なんだ?」

 二人の視線が絡み合う。

 徐々に小波の顔が赤く染まっていった。

「ぁ! い、いえなんでもございません!」

 小波は隠すように顔を俯かせた。

 

 二人は日当たりの良い縁側に腰掛けた。

「手、離すぞ」

 彼はぱっと握り締めていた小波の手を離す。

「ぁ‥‥‥」

 小波の手を握っていた慶次の手。

 離れていく彼の手を名残惜しくを見つめていた。

「うし。りんご食うか」

「はい‥‥‥」

 慶次は豪快にリンゴにかじりつく。

 

 それを見ていた小波は小さな口を開けてカプリとかじりついた。

 

 

 

 

「やっぱいい味してんな。小波はどうだ?」

「はい。とても美味しかったです」

「そうか。んじゃあ、また一緒に食おうな」

「ええ!?」 

「なんだよ。嫌なのか?」

 慶次は眉をひそめた。

「い、いえそうではありません。私のような卑しい身分の‥‥‥ッ!」

「まぁたそれか」

 小波の声は苛立ちを感じさせる不機嫌そうな声に遮られた。

「え‥‥‥あ、あのっ申し訳‥‥‥っ」

「小波。よく聞け。お前は自分が思ってる以上にみんなから必要とされてんだ。だから少しは‥‥‥まぁこう言っちゃなんだが確かに身分云々はわからなくはない」

「‥‥‥」

「だが同じ戦場を共にしたんだ。俺たちは戦友、つまり友ってやつだ」

「?」

 小波はきょとんとした顔を浮かべている。

 慶次は苦笑を漏らしながらつまりはなと続けた。

「友になった以上、俺らの間には身分何て下らねぇもんはないってことだよ」

 慶次は笑顔を浮かべながらワシャワシャと小波の髪を乱した。

「ッ‥‥‥」 

「じゃあな、小波。また美味いもん食おう」

 縁側から立ち上がり、慶次はその場を立ち去る。

 離れ行く彼の背中を小波は見つめていた。

 

 

 

 

 

>>>

 

 side 慶次

 

 京を離れた織田、徳川そして足利を含む連合軍は浅井との合流のため小谷へと軍を進めていた。

 

「織田木瓜だぁ?」

 慶次は兵からの報告に顔をしかめた。

「慶次さま、どうなさいますか」

 彼を見ていた兵がおずおずとした様子で聞く。 

 

「‥‥‥俺が行って見てくる。」

 

「了解致しました」

 

 

 

 馬に乗った慶次は遠くを見るように目を細めた。

(あーあれか。織田木瓜‥‥‥)

 道行く先にある立派な松の木。その下でぱたぱたと織田木瓜の旗が翻っていた。幾人か確認できる、刀や槍を番えた兵士が何かを守るように周囲に散らばっていた。

 一段と目を引く桜色の着物と長いポニーテール。

 慶次に気付いているのか大きく手を振っていた。

「結菜か」

 慶次は馬の腹を蹴った。

 

 

 

 

「慶次!」 

 言うや否や走り寄って来た。両の手を大きく広げた結菜はとびっきりの笑顔を浮かべていた。

「久しぶりね!」

 腕を慶次に巻き付かせると顔をうずめた。慶次は結菜に微笑んだ。

   

「元気してたか?」

 

「もっちろんよ。そうじゃなきゃここにはいないわ」

 

「そりゃそうか。‥‥‥ところでどうしてここにいんだ?」

 

「久遠に言われたの。兵と小荷駄をまとめて今浜で待っていろってね」

 結菜はふふんと得意げに胸を張った。

「ほんとうかぁ?」 

 慶次が意地の悪そうな笑みを浮かべる。

 

「あ、その顔信じてはいないって顔。大丈夫よ、書状ならここに‥‥…ここに‥‥‥あれ?」

 懐をゴソゴソといじる結菜。

 だが顔つきが途端に変わる。何度も何度も懐に手を入れては、書状がない、書状がないと呟いた。

 

「ははーん‥‥‥結菜、アレ、ないんだろう?」

 相変わらず意地の悪い笑みを見せる慶次はつんつんと結菜をつつく。

 

「あ、あるわよ!ちゃんと入れたはずよ!」

 狼狽した様子を見せながら懐に手を入れていた。忙しく懐や身に着けていた巾着袋を弄っていた。

 数分ほどその様子眺めていた慶次はふふっと軽く微笑むと白い紙を取り出した。

「結菜。アレってのはこのことかい?」

 慶次の手にある紙を見た途端に結菜は目を見開いた。

「ちょ!あなた、それ‥‥‥!?」

「ここに来る時に拾ってな。もしかしてと思ってみたが正解だった。大事なもんはきちっと手元に置いとかねえとな」

 ほらと結菜に手渡した。

「あ、ありがとう。慶次‥‥‥ってなんでもっと早く渡してくれなかったのよ」

 ほっと結菜が胸を撫でおろしたのも束の間、拗ねた顔で詰め寄ってきた。

「あん?面白そうだからにきまってんだろ」

「お、面白い!?あなたねぇ。人をなんだと‥‥‥っ」

「ははは。悪りぃ悪りぃ。久しぶりにあえたもんでな。ついやっちまったんだ」

 慶次笑いながら、軽く胸に抱き寄せた。

「‥‥‥そんなことしても私は流されないわよ」

 口を尖らせる結菜だが嬉し気に微笑を浮かべていた。

 

 

 こうして合流を果たした慶次たちは再び小谷へと向けて歩みを進めた。

 

 

 荘厳な小谷城が見える頃にはすっかりと日が落ちていた。夕日映える橙色の空は月が昇る。小谷城へと到着した連合軍はすぐさま浅井勢との軍議を執り行った。

 織田木瓜が描かれた陣幕の中で総大将の久遠は各々の将に目をやる。

 泰然とした様相の葵。強い決意が籠められた瞳を見せる眞琴。威風堂々とした一葉。そして最後に彼女たちの後ろに整列している兵達に目を眺め、うむと大きく頷き口を開いた。

 

「共々!」

 久遠の声が響いた。

「次の戦は異形の者との戦いである!この日ノ本を守るために全力を尽くせ!‥‥…今宵は無礼講を許す。英気を養え」

 兵達の歓喜の声が轟いた。

 

 それから始まったのは酒乱の宴だった。

 

 

 

>>>

 

 

「‥‥‥ぁぁ、頭痛ぇ‥…」

 淀みを含んだ声を上げた彼は重々しく身体を起こした。

「あん?朝じゃねぇのか‥‥‥まぁ、いいか。厠行こ」

 慶次は立ち上がると無造作に周囲に散らばる酒器や酔い潰れた兵達を避けて歩き出した。おぼつかない足取りで四苦八苦しながら厠へと到着した。

「ふう‥‥‥ん?」

 ふと耳に入ってきた朧気な声。

 声の高低差から男性と女性と分かる。

「‥‥‥け‥‥さ‥‥‥」

「‥…し……」 

(酒飲んでんのか?丁度いいな俺も混ぜてもらお) 

 飲みなおしだと意気込むと件の場所へと足を急がせた。

 

「気‥‥‥す」

「‥‥‥よ‥‥の」

 

 近付く度に大きくなる彼らの声。

「‥‥‥」

「ぁ‥‥」

 

 慶次の耳一杯を支配する艶めかしい声や吐息。

 時折混じる水気のある音がなぜか酷く妖艶なものに感じさせた。

「剣丞さま‥‥‥」

「詩乃‥‥‥」

 

 目に入ったのは一糸纏わぬ姿で唇を合わせる剣丞と詩乃だった。夜だと言うのに彼らの姿はよく見え、一種の芸術のような美しさも垣間見える。

 月明りが彼らの行為を助長するように照らす。二人の肌に浮かぶ玉の汗が薄く輝き、同時に詩乃が身体を震わせてその汗が地に落ちる。それを見計らってなのか、剣丞の動きが一段階、二段階とラストスパートをかけるように早いものになる。

 

(‥‥…ったく。青〇とはな‥‥…)

 慶次はやっちまったとばかりに額に手を当てると静かに回れ右をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

 兵站の準備のために久遠の元へと行った帰り道。

 

 縁側に座る件の二人を見つけた。妙に肌がつやつやとした詩乃とどこか精力欠ける表情の剣丞。

 

(あの様子じゃあ散々絞り取られたな‥‥‥)

 

 ははと苦笑を漏らした。

 だが二人は幸せそうな顔を浮かべていた。恋人のように仲睦まじく絡められた二人の手は離さないとでも言うようにしっかりと固く握られていた。

 

「詩乃もっとくっつきなよ」

「ですがその‥‥‥誰か見ているかもしれませんよ?」

「俺は別に構わない。ほかのみんなに詩乃は俺の恋人だって言えるし」

 剣丞が微笑むと詩乃はぼそぼそと何かを呟いた。

 そうしてぴたりと肩が触れ合う辺りまで近づいた。

 

(これは邪魔できねぇな。仕方ない、遠回りだがあっちから行くか)

 慶次はそそくさとその場を後にした。

 

 

 

 




けっ。こんな駄文見たくもねえやい

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