そら飛べワンチャンダイブマン ~1日1回個性ガチャ~   作:AFO

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U.A.FILE.10 Class No.14
FUMIKAGE TOKOYAMI

個性
『黒影』
 その身に幼女を飼っているぞ。彼こそが18禁ヒーローを越えた発禁ヒーローである。
 普段は鳥型の闇を使役しているが、ときどき幼女として姿を顕す。浅黒い肌で、長髪、深淵と書かれたTシャツ一枚の危ない幼女だ。
 かっちゃんに従順なんだっけ? よく覚えてないなあ。
 詳しくはスピンオフの『僕のヒーローアカデミア すまっしゅ!!』を読んでね!! すっごく面白いよ!
 今日で連載終了なんだよね。実はこの日に合わせたんだ、投稿日。悲しい。コミックス全5巻発売中だからね! よろしくね!
 頑張ってください根田先生!!
 
フミカゲズアタマ
 顔面から頭の先まで全部毛。まっくろくろすけ。
フミカゲズクチバシ
 はしやスプーンは横から入れるらしい。別に正面でもよくね? 何が駄目なの?
フミカゲズチョーカー
 わざわざ説明があるってことは、これも身体の一部。チョーカーの異形。
フミカゲズウデ
 腕があれば、漫画が読める。つまり『僕のヒーローアカデミア すまっしゅ!!』が読める。みんな! 『僕のヒーローアカデミア すまっしゅ!!』をよろしくな!!
フミカゲズゼンシン
 ジャンプ+で連載中の『ヴィジランテ-僕のヒーローアカデミアILLEGALS-』もよろしくな!
 


No.11 いざ決勝

 

「さあ女子ども! (かしず)け、(ひざまず)けェ! (あが)めろ、(たた)えろォ! 準決勝出場のこの俺──峰田実サマをなァ!!」

 

 峰田実がふんぞり返って凄んだ。

 

「くっ、ここまでくると馬鹿に出来ない……!」

「実際のところ、私たち女子より勝ち残ってるわけですし……」

 

 芦戸三奈が悔しそうに拳を固め、八百万百が額を手で覆う。

 

「いや、塩崎にはセクハラ紛いに迫っての降参勝ちだし……」

 

 耳郎響香が冷めた目で言った。

 

 

 緑谷出久の次の試合、準決勝で対峙するその相手は──峰田実だった。

 

「……あれ?」

 

 緑谷出久は疑問符を浮かべた。

 峰田実は確かに、準決勝で自分と当たりうる組み合わせではあった。それはいい。

 

 ただ、峰田実の一回戦の相手は──

 

「……え? 飯田くん? あれ?」

 

 ──飯田天哉。個性『エンジン』。高い機動力と、推進力を利用した足技による攻撃力を兼ね備えた優秀な『個性』。

 トーナメントを見た限り、準決勝の相手は飯田天哉であると緑谷出久は踏んでいた。しかし予想を裏切り、準決勝に駒を進めていたのは峰田実。

 緑谷出久が対轟焦凍に気を取られていた間に、いったい何があったというのか。

 

 飯田天哉は、真っ白に燃え尽きたボクサーのような風貌で佇んでいた。

 

「緑谷君か……。俺は、踏んでしまったんだ。峰田くんの『もぎもぎ』を。盛大に転んだ俺は気を失い……笑ってくれ! 転んだだけで医務室の世話になったんだ!! すまない兄さん……俺は……あああああああ!!」

 

 哀愁を漂わせながら、自棄気味に叫んでいた。

 

 

「一度緑谷の指揮で戦って調子に乗ったオイラに、死角はないのさァ!!」

 

 悪い意味で調子に乗りに乗りまくっていた峰田実。

 天狗になる、という表現が比喩でなかったならば、峰田実の鼻は空を突き抜け大気圏を突破していたことだろう。

 

 そんな峰田実も、緑谷出久と向き合うなり、真面目な顔つきになる。

 

「負けねえからな……!」

 

 緑谷出久は、真摯に頷いた。

 

 

 準決勝までの僅かな時間。僅かなりともすぐには過ぎず、けれども決して長くはない緊迫した時間。

 早々に準決勝の作戦を立ててしまい、若干時間を持て余した緑谷出久に、ふと去来したのは轟焦凍との試合での自分の発言だった。

 

 

『僕だってこの「個性」に悩んだ。でも、それでも夢を諦めようとは思わなかった。君は、違うの? 夢見た「ヒーロー」に、憧れた「ヒーロー」に、なりたいんじゃないの? 僕は、僕のこの「個性」で「ヒーロー」を目指すんだ』

 

 ──僕のこの「個性」で「ヒーロー」を目指すんだ。

 

 ──()()()()()

 

『目指してる』ではなく。

 

『目指すんだ』。

 

 現在進行形でなく、未来形。言ってしまえば、自分に言い聞かせるような。

 

 あれだけ人に意見をしておきながら、なんて曖昧な言葉だろうか。

 

(……僕はまだ──)

 

 ──『ヒーロー』が何かを、見出せずにいる。

 

 思考から振り払うことはできる。だが、それは目を背けてはいけないものだ。

『ヒーロー』を目指す以上、何になり、何を為すかというのはきちんと決めなければならない。

 

 

 出口の無い迷宮のような思考のまま、準決勝は訪れる。

 

 競技場の上まで来て。深くは考えないようにしながらも、つい口にしてしまう。

 

「ねえ峰田くん。峰田くんは、どうしてヒーローを目指すの?」

「どうしたんだよ急に。……オイラがヒーローになりたい理由はな──

 

 ──モテたいからだよ」

 

 モテたい。

 真面目な顔の問いに、真面目な顔の返答。

 

 しかしその答えに、緑谷出久は言葉を失った。

 

『START!』

 

 試合開始のコールが告げられる。

 

「だからよ! 緑谷でも負けない! いや! ()()()()()()()()、オイラは勝つ!!」

 

 峰田実は熱り立つと、頭の『もぎもぎ』を引きちぎる。彼の頭をよく見れば、微かだが血が滲んでいた。本人にその素振りはないが、限界も近いらしい。

 

 言動こそ軽いが、意志も軽そうだが、しかし試合と目的に掛けている熱意は嘘ではない。

 

 

 緑谷出久は無言のまま──上着を脱いだ。

 

 

『緑谷、脱いだ!! おいおいここは準決勝だぞ!!? 開幕で上半身裸! 峰田といい変質者対決はやめてくれよな!!?』

 

 突発的に脱衣に出た緑谷出久。そのシュールな光景を誤魔化すべくプレゼント・マイクが笑いに転換しようとするが、競技場の二人は大真面目だった。

 

「モテたいからだよォォォオオオオ!!」

 

 呪詛のように叫びながら、峰田実は飛びかかるようにして、黒い球体を放った。

 

『もぎもぎ』を緑谷出久は──服で受け止めた。

 

 触れたら張り付く『もぎもぎ』。その手っ取り早い対策は、触れさえしなければいいという単純なもの。

 そこから間髪入れずに、『もぎもぎ』を重りにして体操服を峰田実の頭に叩きつける。

 

 するとどうだろう、頭を覆う体操服は、自身の『もぎもぎ』により接着される。

 

「……オイ緑谷」

 

 たったそれだけで──その厄介な『個性』は完封できるのだった。

 

『峰田封殺!! そんなのでいいのか!!? 緑谷そのまま峰田を抱え上げ──場外へ降ろしたぁー!!』

 

 数十秒の攻防。緑谷出久は服を脱ぎ、被せたのみで、準決勝は終わりを告げた。

 

 

 

「あんな対処でいいのか」「でも実行できるだけでもすごくね?」「やっぱ緑谷頭回るなちくしょー!」

 

 そんな賞賛の紛れる歓声の中、緑谷出久は競技場を後にする。

 

「峰田くんに勝ったのだな。おめでとう! 俺もあのくらい割り切った行動が出来ていればな……」

 

 緑谷出久を迎えたのは飯田天哉だった。飯田天哉は悔しそうに言う。

 悔しそうながらも、どこか笑みを浮かべた爽やかなものだ。

 

 飯田天哉は、兄に良い報告ができないと冗談めかした。

 プロヒーローである兄を目標に、飯田天哉はヒーローを目指しているとも、語っていた。

 

「……うん。でもこれが準決勝だっていうのもよかった。あのまま峰田くんがやけになって『もぎもぎ』を投げ続けてたらどうしようもなかったから」

 

 緑谷出久もまた、薄く笑みを浮かべて返す。

 

 この勝利は、ここまでで峰田実が『個性』を消耗させていたからこそでもあった。

 上限のある『個性』はそれこそが弱点である。『個性』の活用法だけでなく、余力調整もしていかなければならないのだ。

 

 そんなとき不意に、飯田天哉の携帯が音を立てた。すまない、と飯田天哉は背を向け、携帯を耳に当てた。

 

 そして。

 

 次に飯田天哉が口にしたのは、早退するという旨と──

 

 ──兄が敵に襲われたという、悲痛な知らせだった。

 

 

 飯田天哉の顔から、先ほどまでの明るさは消え去っていた。

 

 

   *

 

「──オイ待てや」

 

 会場内の通路。爆豪勝己は、すれ違い様、素知らぬ顔で通り過ぎていく()を呼び止めた。

 

「てめェ……何負けてんだよ」

 

 相手は轟焦凍。

『半冷半熱』という強力な『個性』の持ち主で、この体育祭で一番の壁となると思っていた人物。

 

 その轟焦凍は、第二回戦にしてまさかの敗退を決めた。

 

 敗退したのは別にいい。そこまでの相手だったというだけであり、爆豪勝己が過大評価していただけという話だ。

 

 それはいい。しかし──その相手が緑谷出久というのが問題であった。

 

「……?」

「とぼけてんじゃねェよ! なんであんなクソナードに負けたのかって聞いてンだよ!! てめェなら即凍らせて終わりだっただろうが!!

 んな舐めプのクソカスに勝って上がってくるクソと戦っても意味ねえんだよ!!」

 

 激情のまま、轟焦凍の胸ぐらを掴む。

 

 しかし轟焦凍が、平静を崩すことはなかった。

 

「あんま虚仮にすんのも大概に……」

「あいつは強いぞ」

 

 轟焦凍は、ただ静かに、そう言った。

 

「……あ?」

「緑谷に炎で戦えと持ちかけたのは俺で、俺に炎を要求したのは緑谷だ。それで納得した上で、俺は負けたんだ。見てただろ? あの炎は強い。俺の『(ひだり)』の上位互換の『個性』だ。あいつの『日替わり』は──ランダム性こそあるが、とんでもない『個性』だ」

「……!」

 

 上位互換。轟焦凍にそうとまで言わせる『個性』が、緑谷出久にはある。

 その『個性』は、長年身近にいた爆豪勝己にさえ隠されていた『個性』だ。

 

 爆豪勝己は顔を歪める。自分の下に位置づけしていたそのときから、緑谷出久は、そんな『個性』を隠し持っていたのかと──出し惜しんでいたのかと。

 

「それも『個性』だけじゃねえ。俺が炎を消したあの状況で、緑谷は蒸気を隠れ蓑に俺に近づいた。そして、俺を後退させるほどの打撃を放った。あいつは強い。あの『日替わり』を、活かす戦略を練るための知識を持ってる。実行する身体も、つくってきてる。

 おまえも甘く見てると──負けるぞ?」

 

 賞賛。自分の越えるべき壁が、緑谷出久を賞賛していた。爆豪勝己は絶句するのみで、それ以上責める言葉が出てこなかった。

 やるせなく、轟焦凍から手を放す。

 

「……ところで。緑谷と幼馴染なんだってな。あいつが『個性』に気づいたのはおまえのおかげって言ってたぞ。何をしたんだ?」

 

「……あァ?」

 

 その問いに、鎮まりかけていた気が、高ぶる。

 

「またそれか!? あのクソナードが! 前にも、俺から貰っただの、俺のおかげだの訳わかんねえことばっかいいやがって!! 周りにも言いふらしてんのか!?」

 

 去来するのは、以前緑谷出久が告げた言葉。

 

『君がいたから、僕は今日、君に挑むことが出来た!! 君のおかげで今僕はここにいる。君のおかげで──努力することが、できたんだ!!』

 

 それはつまり、爆豪勝己への反骨精神でのし上がったという宣戦布告だ。爆豪勝己は、そう思っている。

 

 それを周りにまで公言するということは──

 

(──喧嘩売ってるって、ことだよなァ……!?)

 

 高まった気が、沸点に触れる。

 

「上等だ!! クソナードが……俺が完膚なきまでにブッ潰す!!」

 

 ──完膚なきまでの一位を、取る。

 

 爆豪勝己は感情のまま、自らを鼓舞し、燃え上がらせるのだった。

 

 

 そして。ついに決勝戦が去来する。

 

『さァいよいよラスト!! 雄英1年の頂点がここで決まる!!』

 

 目の前に現れた緑谷出久をただ睨む。

 頂点をかけた舞台に現れた、道端の石ころを、睨む。

 

 しかし緑谷出久は悠長にも、問いかける。

 

「──ねえかっちゃん。『ヒーロー』って、()かな?」

 

 その顔は、どこか思い詰めた顔で。

 いつかの宣戦布告のときのような、こちらへ挑む顔ではなかった。

 

 道ばたの石ころだったときと同じような、覇気のない顔。

 

 それを認識した瞬間、爆豪勝己の感情は爆発する。

 

「いい加減にしろよクソナード──

 

 ──そんなもん、てめェが勝手に決めろや……!

 

 戦え。今は戦えよ。勝つつもりねえなら俺の前に立つな。俺と同じとこに、立つんじゃねえよ……!」

 

 緑谷出久は、一瞬怖じ気いたような顔をした。そしてすぐに、()()()()()()

 いつかの宣戦布告と、同じ顔だった。

 

「やっぱり、かっちゃんだ。ありがとう……僕は君に──勝つ!」

 

『決勝戦!! 緑谷対爆豪!! 今!!』

 

 

『START』

 

 

 爆豪勝己は、迫る。

 

 緑谷出久は、退く。

 

 緑谷出久を目掛けて『爆破』すると、彼は異様なまでに距離をとる。

 それは轟焦凍との試合のときと同じように。向こうから迫りこそしないが、大げさに距離をとる。

 

 まるで、一発でも受ければ終わりというかのように。

 

 こちらの一挙手一投足に過剰に反応し、異常な回避行動をとる。

 

 それだけこちらを危険視しているのか。そう思えば納得するものだが、爆豪勝己はたまらず激昂する。

 

「……結局それか!! あのときと同じ! 逃げ回ってばっかで──俺に勝つんじゃねーのかよ!!!」

 

 その直後。

 

 応えるように、火が上がる。

 

「……ッ!」

 

 緑谷出久は、こちらを見ていた。その顔は逃げるものではない。

 勝つという意志は、確実に宿っていた。

 

「僕は君に勝つ。手なんか抜いてない。今できること、全部で勝つ!!」

 

 轟焦凍は、その『個性』を上位互換だと言った。

 

 確かに。今、自然に炎が沸き上がった。

 そのとき緑谷出久に、特別な動きはない。ただこちらの攻撃を必死になって躱すのみだった。

 

 

 こちらが追えば、緑谷出久は距離を取った。ときどき、反撃するように炎を上げる。

 緑谷出久に、炎を発する挙動はない。ノーモ-ション、予備動作なしの『発火』だ。緑谷出久は、大粒の汗を浮かべて必死に、逃げ回るのみ。

 

 そう、必死に、逃げ回るのみ。

 

 時間が経つにつれ、爆豪勝己は疑問を抱く。

 

 緑谷出久は、言った。

 

 ──今できること、全部で勝つ!!

 

 それならば、轟焦凍相手に展開した炎の檻でも出せばいい。

 今できること全てをするならば、最大火力の炎を放つべきだ。逃げ回るなど余計なものでしかないだろう。

 考え得るのはこちらのスタミナ切れ狙いか。

 

 それもあるのかもしれない。

 

 しかし──この逃げることにさえ意味があるとすれば。

 

 轟焦凍との試合を思い返す。ほとんど同じスタンスだ。ヒットこそないが、アウェイの連続。それも、麗日お茶子がやったような低姿勢で。

 

 低姿勢。そこで、気づく。

 

 ときどき地面に手を突くほどの、低姿勢。

 

 思い、至る。

 

「デク……てめェの『個性』──『発火』じゃねぇな?」

 

 ──緑谷出久は、頷いた。

 

「……! さすがかっちゃん。そうだよ、この炎は僕の『個性』じゃない。この炎は──

 

 ──君の『個性』だ」

 

「! そういうことかよ……!!」

 

 爆豪勝己は緑谷出久から目を離し、明後日の方向に向かって爆破する。

 

 予想が正しければ、緑谷出久の『個性』は、轟焦凍の『熱』の上位互換などではない。

 

 爆豪勝己の思考を裏付けるようにして、地面から火が上がった。

 

 そこはただの地面。何の変哲もない、セメントスの『個性』によってつくられた競技場の一部。

 けれども、あえて言うなら。そこは、緑谷出久が()()()地面だ。

 

 緑谷出久は、挑戦的に口元を笑わせ、

 

 

「そう。今日の僕の『個性』は──

 

 

 ──『油汗』だよ」

 

 

   *

 

 麗日お茶子は、お金のため。

 峰田実は、モテるため。

 飯田天哉は、憧れのため。

 

 それらは皆、動機だ。

 収益も、名声も、自己実現も、『ヒーロー』になって、その活動の上で何を得るかという答えだ。

 

 だから、緑谷出久は問い方を変えた。

 

 ──『ヒーロー』って、()かな?

 

 その問いを、爆豪勝己は一言で切り捨てた。

 

 ──そんなもん、てめェが勝手に決めろや……!

 

 そして、今は戦えと。

 

 その通りだった。今は戦うときで。答えは、そのあとに見つければいい。

 

 緑谷出久の悩みを簡単に消し飛ばした爆豪勝己は、緑谷出久の本日の『個性』、その本質までも簡単に暴いた。

 

『油汗』。

 

 その名の通り、汗が油になる『個性』。

 

「……思えば予兆はあった。騎馬戦でも──いや、障害物競走だ、あのときも俺の爆速ターボが暴発した。いくらてめェに抜かれたとはいえ、俺がそんなヘマするわけねェよなァ!?」

 

 言い終わるとともに、爆豪勝己はこちらに向かって爆破する。

 

 緑谷出久は、やはり過剰に避ける。垂れた汗に引火して、火が上がる。

 それを上から爆豪勝己が爆破し、爆風で掻き消した。

 

「タネが割れりゃあなんてことねぇ。つまりデク、てめェに一撃入れればそれだけで、戦闘不能になるってことだろ……!」 

 

『油汗』。それは全身に油を纏っているに等しく、相手が火に関係する『個性』であればたった一撃で決定打になってしまう『個性』である。

 この対戦、危険という言葉でも生ぬるい。絶望的に相性が悪く、今にも中止した方がいいというのが実態だ。おそらくは、身体に火がついた時点で教師が介入し試合が終わるだろう。

 

 そんな対戦だ。

 

 爆豪勝己は容赦なく、爆速ターボで終わらせにくる。

 

 そこへ、緑谷出久は、手を大きく振り──

 

 ──油を飛ばした。

 

「!!」

 

 それはにじみ出た汗の量ではなく、『飛ばす』というよりは『噴き出す』といった方がいいだろう。

 油に対して爆豪勝己が爆破する。爆風で彼は勢いを殺し。その目の前では大きく火があがる。

 

「──僕もこの『個性』に気づいたとき、かっちゃんには勝てないと思ったよ。油は燃える。『製紙』のときといい、かっちゃんと戦うときに限って相性の悪い『個性』だ」

 

 言ってしまえば、この個性ガチャは爆死。

 爆死した末に、爆死しかねない『個性』を引くという爆死。

 

「でも相性が悪いのは──君もだろ?」

 

「てめ……!!」

 

 手から油が噴き出る。噴くと言っても水鉄砲のそれではなく、腕の振りで飛ばしているのみ。しかしそれを、爆豪勝己は爆速ターボをつかってまで、避ける。

 

 油は燃える。つまり、油がかかるということは、爆豪勝己自身も燃えるようになるということなのだ。

 

(思った通りだ、やろうとすれば、噴き出せる!)

 

 燃える汗。そういう意味では、この『個性』、爆豪勝己と同じ系統と言えるだろう。向こうは任意で発汗できるのだ、こちらも少しくらい融通が効くと踏んだのだ。──もっとも、任意で爆破できるというあちらの方が上位互換なのは明白だが。

 

 もう一つ、緑谷出久が考慮したのは、二つの違い。

『爆破』は手からニトロのような汗を分泌するのに対し、『油汗』は全身から、ということだった。

 全身から液体を分泌できる、そんな『個性』が身近にいたのだ。

 芦戸三奈。身体から『酸』を分泌する『個性』。騎馬戦のときに観察したところ、芦戸三奈は手のみに集中して噴き出すという使い方をしていた。

 ならば──この『油汗』でも可能なのではないか。

 

 結論は、可能であった。

 

 勢いこそないものの、多少であれば自分の意志で出すことができるところまでは進歩した。

 

(ただ、粘度を上げたりはできないな。どう変えればいいのか、体感した感じで……わかんない……!)

 

 それは『個性』を成長させた後の話になるのだろう。

 一朝一夕どころか、たった数時間の身では、物質の状態すら変えることすらできない。

 

(芦戸さんに謝らないとかな……成分を変えるなんて、簡単に言っちゃったけど、すぐにはできそうにないぞ……!)

 

 緑谷出久は、口元を緩めた。

 こんな戦闘中にも関わらず、『個性』を創意工夫するのは楽しい。

 

 対した爆豪勝己に、笑顔はない。

 緑谷出久は燃えやすいが、油を浴びれば爆豪勝己も燃えやすくなるのだ。迂闊な動きはできない。

 

 

 

 それから両者は牽制を繰り返し、試合は長引くばかりだった。

 時に油を直接掛けようとし、時に油で罠を張った。しかし、爆豪勝己は冷静にも、全て対処していった。

 

 だが、終わりは去来する。

 

 ──おおよそ、望まないような形で。

 

 体力の底が見えてきた緑谷出久は、勝負を仕掛けることにする。

 できる限りの油を、手に集中しておく。

 そしてこれまでより大きく踏み込むことで、爆豪勝己の攻撃を誘う。そこへ油をぶつけることで、爆風で爆豪勝己を退場させてしまおうというものだった。

 

 文字通りの自爆を狙おうというのだ。

 

 疲労していた彼が最後に思いついたのは、そんな作戦だった。

 

(これだ、今僕ができそうなのは、これに賭けるくらい……!)

 

 ──誤算があったとすれば、疲労に苛まれていた緑谷出久と違い、爆豪勝己は痺れを切らしていただけということだろう。

 

 爆豪勝己は、常に爆破することで、油を寄せ付けないという戦法を取った。それも空中から、大技を伴って。

 

 だから緑谷出久は、床に油溜まりをつくることで、そこへ爆豪勝己を誘い、自爆させる選択へ変えた。

 

「──手榴砲着弾(ハウザーインパクト)!!」

 

 迫り来る爆豪勝己。緑谷出久は、全力で後方へ油を撒き、全力で横へ逃げる。

 

(そのまま爆風で場外に出てくれれば──)

 

 そこでふと、油溜まりを見て目を疑う。全力で放った油は、思っていたよりもずっと多く、競技場の外まで飛び散っていた。そこへ爆豪勝己の大技がぶつかれば、大炎上すること間違いなかった。

 

 しかしそれは──爆豪勝己本人を呑み込み、そして観客までも危険に晒す規模になる、そんな光景が、目に浮かんだ。

 

 とっさに緑谷出久は引き返し、爆豪勝己と油の間に立ち塞がる。

 

 そこで発するべきは、『止まれ』か、『止めろ』か。

 

 口から出たのは──

 

「──こ、降参ッ!!」

 

 その瞬間、地面がせり上がり、爆豪勝己と緑谷出久を隔てた。目の前で何があったかを緑谷出久は理解することなく、気づいたときにはオールマイトが爆豪勝己を抱えていた。

 

 そして、軽はずみな行動で、決勝戦を台無しにしてしまったのではという後悔だった。

 

 緑谷出久の降参によって、爆豪勝己の勝利。

 

 こうして、雄英体育祭は幕を閉じた。

 

 表彰台の一位と二位に立つ爆豪勝己と緑谷出久。二人の顔は、決して晴れやかなものではなかった。

 

   *

 

「イズクウウウウウウウウウ!!!!」

 

 帰宅した緑谷出久を、母親は泣きながら抱きついた。

 

「二位おめでとう……!! お祝いに、今日はフィレ肉よ!」

 

 涙は喜びからくるものだった。

『無個性』だと診断され、ヒーローにはなれないとまで宣告されていた息子が、ヒーロー育成校の体育祭の上位二位に食い込むほどの躍進を遂げたのだ。喜ばないはずがないだろう。

 

 しかし当の本人、緑谷出久は、心から喜ぶことはできなかった。

 

『個性』を制御できず、暴発させての幕切れ。『個性』の暴走は、これまで何度も危惧していた。しかし今回、それが起こってしまったのだ。場合によっては多くの人を危険に晒していたかもしれない、危険な行為だった。

 

『個性』の応用に没頭していた緑谷出久には周りが見えていなかったのだ。策士策に溺れるとはこういうことかもしれない。

 

 それに──

 

(──結局、かっちゃんを裏切ってしまった)

 

 爆豪勝己は戦えと言った。緑谷出久は勝つと言った。

 

 それを中途半端に、投げ出してしまったのだ。

 

 体育祭の終幕には、不完全燃焼感だけが残っていた。あの決勝戦はどこかへ消えてしまったのだと、そう感じて止まなかった。

 

 

 

 体育祭後の二日間は振り返り休日となっている。

 

 一日目、緑谷出久の心は心残りが占め、『個性』の研究も体力つくりも手につかなかった。

 気晴らしにと、ただひたすらハンドスピナーを回していただけで一日が終わっていた。

 

 

 そして、二日目。落ち込んだ気を振り払おうとケンタッキーフライドチキンを買いに出たところで、偶然にも爆豪勝己と出会ってしまう。

 

「か、かっちゃん……」

「……」

 

 申し訳なさからか、顔を逸らす。向こうはこちらを見たままだった。

 

「ごめ……」

「なあデク」

 

 振り絞った謝罪の言葉を、爆豪勝己は遮る。そして言うのは、

 

「戦えや、ここで、今」

「なんで」

 

 思わず問い返す。

 

「あの日は『個性』の相性が悪かったから、ああなった。だから──今日のてめェの『個性』で、戦え」

「……ダメだよかっちゃん。一昨日のは、相性以前に、僕が『個性』を扱い切れずに、その上周りを鑑みなかったからこその介入で……。

 学校外で、それも私闘なんかに『個性』を使うなんてダメだ……」

「んなこと……わかってる! なら俺はどうすりゃいい!? 俺は完膚なきまでの一位にならなきゃ気が済まねえ!! デクより上だと証明できなきゃ意味はねえ!!」

 

 激昂しながら、片手を小さく爆破させる爆豪勝己を見て、緑谷出久は息を呑んだ。

 

「なんならてめェの都合に合わせる!! てめェが俺と戦える『個性』の日に俺と……」

「わかったよ」

 

 今度は、緑谷出久が爆豪勝己を遮る。そして言うのは、

 

「なら──今日やろう」

 

 肯定の言葉だった。

 

 

 

 人気(ひとけ)のない場所に移動した二人。

 

「構えろや」

「待って!!」

 

 爆速ターボの構えをとる爆豪勝己に、緑谷出久は制止の声を上げる。

 

「なんだよ! ここまで来て──」

「そうじゃない。僕の今日の『個性』、わからないんだ。もしかすれば、『無個性』と変わらないかもしれない」

 

 実際のところ、本日まだ緑谷出久は『個性』を発言していないのだった。爆豪勝己は露骨に不機嫌そうな顔をする。

 

「だから、これからやるのは『個性』禁止の、戦いだ」

「……は?」

「真っ向から、君と戦う。僕は『個性』を使わないし──作戦も立てない。ただこの拳で、

 君を殴る」

 

「……」

 

 爆豪勝己は──笑った。

 

「上等だ……!」

 

 そうして今日、緑谷出久と爆豪勝己は、正面からぶつかり合い、拳を交える。

 

 

 体育祭の決勝戦は──ここにあった。

 

 




 THE・補足

○No.11 親哀れの緑谷出久が轟焦凍の襟首を掴み──すぐに離した。

 ふと見直してみたら
「これどゆこと?さっぱりわからんかった」という感想を抱きました。
 わかりにくくて本当に申し訳ありません。
 もちろんただの誤字という訳ではなく、
 胸ぐらや。襟首ってなんやねん! 猫かい! 胸ぐらの間違いやあああああああ!! という訳では全くございません。

 このコーナーがこれで最終回となるよう、
もっと皆さんにわかりやすく、明朗快活、楽しい小説になるように鍛えます。あああああああ!!
 
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