そら飛べワンチャンダイブマン ~1日1回個性ガチャ~   作:AFO

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U.A.FILE.02 Class No.17
KATSUKI BAKUGOU

個性
『爆破』
 掌の汗腺が変異し、ニトロのような物質を出し爆発するぞ!
 飯田くんといい、こういうのは身体の器官なのに黒霧やオーバーホールみたいなどう見ても身体の器官と関係ない個性もとい異能がいるから考察ができないんだよね。だぞ!
 今回生徒全員の考察を本文に組み込もうと思ってたのに芦戸さんの『酸』で心が折れたよ。だぞ!
 あきらかに異能力がいるんだから飯田くんも『エンジン』みたいな無骨な器官ひっつけずに『駿足』とかで済ませればよかったのにね。ぞ!
 ともかく、頑張れよ手汗少年!

カツキズケ
 爆発的に尖っている。ささると痛い。
カツキズメ
 80度までつり上がる。今90度を目指しているところ。 専門家の中には彼が『目をつり上げる』個性も持ち合わせているのではないかとする者もいる。
カツキズウツワ
 お酒を飲むときにお猪口、使うじゃん? あのくらい。そんなバクズウツワ。
カツキズテノヒラ
 汗をかくと爆発する。デートの際に手をつなげば彼女はもれなく爆発する。どうあがいても彼女を爆破する運命にある──つまり幼い頃から何かと爆破されてきた出久くんは実質彼女である。
カツキズコシバキ
 準備はOKだぜ……?
カツキズゼンシン
 着やせしているが屈強。いい身体……。


No.3 服着よう?

 爆豪勝己は唖然としていた。

 目を剥き口を開けたまま、目の前の光景をただ呆然と眺めていた。

 

 個性が解禁となった身体測定。三者三様十人十色の各々が、各々の個性を如何に活かし如何に大きな記録を出せるか試行錯誤し悩む中。

 突如乱入した巨大ゴリラは、人間を越えた身体能力で暴れ回り高記録を叩き出していたのだ。

 

 そして全ての計測を終えるなり、全長4メートルのゴリラは2メートルにも満たない学生のサイズへと収縮し──

 

 ──全裸の緑谷出久へと姿を変えたのだ。

 

「ど、どーいうことだ、よ……」

 

 爆豪勝己にとって、緑谷出久は道端の石ころも同然の存在であった。

 だが、先ほどまで緑谷出久は石を越えて岩、道を転がる岩石。視界に入り込むどころか、視界の全てを引っ掻き回していたではないか。

 

(ついこないだまで、道端の石っコロだったろーが!!)

 

 顔を歪め内では悪態を吐くも、体が動くことはなかった。

 石ころに対して、少しでも怖じてしまったことが腹立たしかった。

 

「デク……このクソナードがあああああああ!!」

 

 明後日の方へ叫ぶのみ。緑谷出久に面と向かって言えなかった自分がとにかく腹立たしかった。

 

 

 

 ──ちなみにその日、校舎の周辺に張り裂けた体操服が見つかるのだが、まったくの余談である。

 

 

   *

 

 除籍はウソだ合理的虚偽だ。担任の撤回にクラス中が興醒めした後に、緑谷出久は服を着た。

 

 そして帰りのホームルームを終えた教室。

 

(たまたま活かせる個性でよかった……)

 

 緑谷出久は胸をなで下ろす。

 

 個性はいくらでも存在する。その中からゴリラになる個性を引き当てるのはなかなかに幸運だ。

 

 単純に身体強化という面でもそうだが、ゴリラというのがミソだ。

 これが下手に鳥だったとしたら、彼は羽ばたくことさえできなかっただろう。緑谷出久は当然、これまで普通の人間としての挙動しかとったことがない。つまり、発現する個性が異形系だった場合、身体の動かし方すらわからないのである。

 今回のゴリラでさえ、できるだけ大人しく動いたつもりだが身体がブレて仕方がなかった。

 

(ゴリラでよかった……)

 

 緑谷出久がこれまでの人生の中で一番ゴリラに感謝をしていたそのとき。

 

「全く、相澤先生にはしてやられたな」

 

 緑谷出久に声をかけたのは、飯田天哉だった。

 

「合理的虚偽とは……俺は『これが最高峰!』とか思ってしまった。

 鼓舞する為とはいえ、教師がウソをつく必要……あったのか?」

「あるでしょ!!」

 

「……。しかし君、今日のはいったいどういうことだ!? 君の個性は『血のビーム』じゃなかったのか!?」

「えっと、それは──」

 

 その疑問は、飯田天哉が実技試験で見た緑谷出久の個性に起因する。

 

「あ、私も! 気になった!」

 

 そこへ混ざってきたのは麗日お茶子。

 

「君は∞女子」

「麗日お茶子です! えっと飯田天哉くんに、緑谷……クソナードくんだよね!」

 

「クソナード!!?」

 

 静かな教室に、緑谷出久の声が反響した。

 

「え? だって爆豪って人が『デク……このクソナードがあああああああ!!』って」

 

「あの、本名は出久で、クソナードはただの悪口……」

「間違えるならデクの方じゃないのか」

「え──そうなんだ!! ごめん!!」

 

 麗日お茶子は快活に謝った。そらくクソナードの意味もよくわかっていないのだろう、悪気は感じられない。

 

「でも『クソナード』って……『頑張れ!!』って感じでなんか好きだ私」

 

「クソナードです」

 

「緑谷くん!! 考え直すんだ!!」

「考え直す必要……あるかな」

「あるでしょ!!」

 

 入学式のその日にクソナードがあだ名になりかける彼の青春も末よ。

 

「で、君の個性についてだが……」

「──お、緑谷の個性の話!? 俺らにも聞かせてくれよ!」

 

 飯田天哉の言葉を遮り、そこへ3人の生徒が話に割り込んできた。

 

「いや正直にすげえと思ったよおめー! 俺ぁ切島鋭児郎。皆、緑谷のこと噂してたんだ!」

「私、芦戸三奈! すごかったよ──! 緑くんの結果、2位! 反復横飛びの『体が収まりきらない』がなければ1位だったもんね!」

「俺、砂糖!」

 

 切島鋭児郎は赤い髪のDQN染みた男子生徒。芦戸三奈はどこか異形系の敵染みた女子生徒。砂糖こと砂糖力道はタラコ唇の大男。

 

「緑谷の『巨大ゴリラ』の個性!」

「む、『血のビーム』じゃないのか!?」

 

 説明しろ。集まった皆の顔がそう訴えていた。

 

 DQNと堅物に絡まれ、他にも集まる個性的過ぎる面々。そこでクソナードがとれる行動と言うのは、短く返事をして黙りを決め込み嵐が去るのを待つのみである。

 しかし、そこで彼は一歩踏み出す。

 

「じ、実は……僕の個性はさっきの変身能力じゃないんだ。

 僕の個性は『日替わり』。一日ごとに個性が変わる個性で、さっきのは今日限定で、多分『巨大ゴリラになる』個性」

「『日替わり』!? そんな個性ありかよ?」

「な……」

 

 緑谷出久が個性を言うと、教室内が僅かにざわついた。

 

「もっと詳しくいいか!?」

「うん。その代わりじゃないけど……みんなの個性も教えてくれると助かるんだけど……!」

 

 緑谷出久、彼は普段からおとなしい少年で、内面はクソナード。ややコミュ障である。そんな彼にとって、初対面の相手に囲まれてここまで言えたのは大きな進歩。ヒーローになるからには、コミュ障は直さなくてはいけないものなのだ。

 

 緑谷出久の話に、ある者は興味本位で近寄り、ある者は聞き耳を立て。教室中が『日替わり』というその珍妙な個性に関心を寄せていた。

 

「僕の個性『日替わり』は、一日──いや一定の周期で個性が変わる個性。発動条件を満たすと、その日限定で個性が使えるようになるんだ。身体が浮いたり、自動車並の速度で歩けるようになってたり、血を自在に操れたり、全長4メートルのゴリラになったり」

「それってかなり強い個性じゃないの!? 今言っただけでも幅がかなり広いよ! なんでも出来る万能の個性なんじゃ……」

「……いや、全然万能じゃないよ。どんな個性か選べるわけじゃないから使えない個性だったりするし、使えるようになった個性が何なのかから探っていかなくちゃいけないし、第一その使えるようになる条件自体、よくわかってないんだ」 

 

 緑谷出久は若干の虚偽を混ぜ込んだ。さすがに、ほぼ初対面の相手に、自分の個性が身投げに近いなどとは言えなかった。

 

「ふーん、お前も苦労してんだな……」

「うん……。だからさ、どんな個性が来てもいいように色んな個性を知っておきたいんだ。だから君たちの個性も教えてくれると参考になるんだけど……」

 

「ああ、そういうことならいいぜ。俺の個性は『硬化』。名前のとおり身体を硬化させる個性だ!生半可な刃物なら傷つかないし、向こうの方が勝手に折れる!」

 

 切島鋭児郎の腕が硬質化し、鋭利に尖る。

 

「硬化するだけじゃない……形状まで変わってる……すごい個性だ! 単純な防御力、それを攻撃にも使える。プロでも通用するシンプルないい個性じゃないか! 形状を変えられるなら先述にも変化が出るし、戦闘以外にも応用が効きそうだ」

「おお……ありがとよ」

 

 どこか照れたように切島鋭児郎が頬を掻く。

 

 

「では俺の番だ。君だけに語らせてだんまりなのは卑怯だからな! 俺のは『エンジン』。足にエンジンに酷似した器官があり、それを動力に使える!」

 

 飯田天哉が足を指す。ふくらはぎの部位が不自然に膨れており、それがエンジンらしい。

 

「足が速い──つまり脚力が強いってことだよね。僕も歩行限定で速くなったことがあるんだけど、これって走る力を戦闘の攻撃に応用できないかな? 足を動かす勢いだけでも威力になるだろうし」

「走行以外の応用か……中々面白い! 考えてみよう」

 

 そこから謎の流れが生まれ、集まった生徒が自己紹介を始めた。

 

 

「私はねー『酸』! 身体中から溶解液を出せるよ! 溶かせる!」

 

 芦戸三奈の手に流動体が僅かに滲んだ。

 

「酸っていうと色んな種類があるぞ……! 溶かすのは硫酸を代表する性質だね。酸は調整次第で劇物だから、気体化すれば広い範囲の制圧にも使える! 欠点は人質があるときに巻き込むことだけど……。とにかく、粘度が弄れる流動体は強いよ! 酸の性質が付随すれば尚更、戦闘に用途がある。戦闘じゃなくても、溶解以外に寄せればいくらでも道はある。いい個性だ!

 酸の定義が正直よくわかんないけど……そのまま『酸』なら、H──酸素として扱えたりしない? 体内で分子を調整できれば普通の水まで練成できそうだけど……」

「いきなり難しいのキタ! そんなの考えたことなかったなー、うん、今度試してみるね!」

 

 

「俺は糖分10gにつき3分間パワーが5倍になる! 使いすぎると脳機能に支障がでるがな……」

 

 砂糖力道、個性『シュガードープ』。

 

「5倍……5倍!? それってかなり強くないか? 5倍って……定義がわかんないけど、全身の能力が5倍に跳ね上がるとして、そこから打ち出すパンチっていうのは腕力だけじゃなく足や腰、体重移動やら全身を使って打ち出すものだよ。だからつまり、パンチの威力としては実質5倍なんか目じゃないほどの倍率になってるわけで……。砂糖君は体格もいいから元の筋力を少しあげるだけでも発動時の力はかなり膨れ上がる……パンチに限らず一挙一動が5倍以上の力になるわけだよ。これってオールマイトに匹敵する個性じゃないのか……?」

「おお、そう言われれば我ながらすごい個性に思える……」

 

 

「わ、私は!?」

 

 麗日お茶子。個性は触れたものを無重力状態にする『無重力』。

 

「それって万有引力や慣性がなくなってるてことかな……。! それって、大きい箱を無重力状態にしたときは中身も無重力になるの? だとしたら無重力空間をつくれるってことで、炎を小さくしたり電気を流れなくしたりも視野に入る……。そもそも巨大なものを無重力のまま投げて敵の頭上で落とせばそれだけで致命傷だし……何にせよ、簡単に無重力状態って言うけどそれは地球の法則を無視させる能力を『物』に付与させてるわけだから、もはや人のできることじゃないはずだよ!」

「人を越えちゃった!? 何気なく使ってるけどそういうことだもんね……」

 

 

 緑谷出久は、それぞれの個性に対し早口でまくし立てた。

 

 どれもこれも、考えるだけで可能性の広がるすごい個性だ。

 無個性の彼はまず自分の認識できる範囲、理屈に変換してしまうのだが、それだけでも可能性はいくつも浮上する。

 個性自体、解明されたものではない──ゆえに理論でできそうでも不可能であったり、理論上不可能であってもなしえるものが多い。それは『個性』の認識──本質が間違っていたり、あるいは『個性』を使う本人の自覚の有無が可能性を変えているというのもあるためだろう。

 

 できると思ってやることと、できないと思ってやることでは、個性が実現させるかも変わってくるはずだ。逆にできると思っていても個性の範囲を越えれば不可能なのにもかわりがないが、だがこうして可能性をふくらませておけばいずれどこまで出来る、出来ないの線引きがはっきりするだろう。

 

 そういう意味ではこうして『個性』を考察しておくことは、『不確定』である個性を急造していく緑谷出久の『ワン・チャン・ダイブ』のためになるはずだ。

 

 緑谷出久の探求心に火がついたとき、ふと視界に一人の少女を捉えた。

 あろうことか、話しかける。

 

「今日の身体測定で1位だった八百万さんだよね! 測定ごとに道具を創り出してたみたいだけど、どんな個性なの?」

 

「わ、私……? まあ、いいですけど。私の個性は『創造』──」

 

 八百万百が個性について語るそばから、緑谷出久はその『個性』について考察を始める。

 

「すごい個性だ! なんでも創れるなんて、名前どおりに『創造』! プロでもこんな強い個性なかなかいない! でも創り出すものの構造を完全に把握してなくちゃいけないのか……実際に個性を発動する土壇場で物の構造をちゃんとイメージする冷静さが必要だ。それをモノにしてるなんて……八百万さん自身の能力も高い……」

 

 他人の個性を聞くのは彼の想像力を膨らませた。

 

(やばい、これ、楽しいぞ!)

 

 個性について考えるのは存外楽しかった。今まで『無個性』のときもしていた妄想だが、出・来・る・か・も・し・れ・な・い・ようになった今では、その没入度は段違いだ。

 自分で選ぶことはできないものの、数多無数の個性が使える可能性にあるこの個性は彼にぴったりだったのかもしれない。

 

 興奮状態にある中、緑谷出久は彼女の顔を見て固まった。

 そして我に返る。

 

(──マズイ、さっきから何を してんだよ。僕は馬鹿か!? 初対面の相手にこんなに話し回って!)

 

 自分の興味があるときだけ雄弁になる。まさしくクソナード。典型的クソナード。

 

 話題効果で麻痺していた、コミュニケーション能力の低さが現実として去来する。

 

「ごごごごごごごっごめんなななっ、すいませんでした!」

 

 そして緑谷出久は逃げ帰るようにしてその場を去った。

 彼がクソナードからヒーローになるのはまだまだ先のようだ。

 

   *

 

 放課後、教室の端では個性談義が始まっていた。

 

『日替わり』緑谷出久。身体測定において4メートルのゴリラと化した彼を発端として、周囲の数名が自身の個性を紹介していた。そしてその個性を緑谷出久が褒め殺していた。

 

 その個性に対しても『すごい』の一点張り。まるで節操がなかった。

 

(くだらない……)

 

 などと思いつつ帰る準備をしていたのは八百万百。

 

 そしてそんな彼女にピンポイントに話しかけてきたのは緑谷出久だった。

 

「──今日の身体測定で1位だった八百万さんだよね! 測定ごとに道具を創り出してたみたいだけど、どんな個性なの?」

 

「わ、私……? まあ、いいですけど」

 

 虚を突かれたというのもあり、頷いてしまう。

 

「私の個性は『創造』です。物の構造さえわかればなんでも創り出すことが出来ますの。生物以外ですが……」

 

 そして緑谷出久という生徒は、同じ言葉を言う。

 

「すごい個性だ!」

 

 想像したとおりの反応に、八百万百は目を顰めた。

 彼女の個性はぱっと見万能、ぱっと聞き完璧。今まで多くの人間が口をそろえて便利な個性と称した。だが本人にとってはそうではない。物の構造がわかればと簡単に言うが、それは分子構造を含めて初めて完全に創り出すことができるのだ。万能であるが容易ではない。

 これまでの積み重ねた知識があってこその個性なのだ。

 

 だから、簡単にすごいなどと言う緑谷出久が癪に触れる。

 

 しかし──次に続けられた言葉は八百万百の想像していたものではなかった。

 

「──なんでも創れるなんて、名前どおりに『創造』だ! プロでもこんな強い個性なかなかいない! でも創り出すものの構造を完全に把握してなくちゃいけないのか……利便性の高いものほど構造は複雑になっていくのが普通だ。実際に個性を発動する土壇場で物の構造をちゃんとイメージする冷静さが必要だし……それをモノにしてるなんて……八百万さん自身の能力も高い……」

 

 意外だった。緑谷出久の考察は彼女の苦労を見抜く。

 

 驚く八百万百。その顔を見るなり、緑谷出久は逃げるようにしてその場を去っていった。

 

 

 先ほどまで緑谷出久と話をしていた切島鋭児郎らがあっけにとられていた。

 

「な、なんだったんだあいつ……無駄に個性に詳しかったぞ……まるで個性博士だな」

「私なんか正直、何言われてるのかわかんなかったもん!」

「俺のパワー5倍をああまで考えるとは……」

 

 一様に抱く印象は、理屈っぽいやつ。

 

「──でもさでもさ!」

 

「「「自分の個性を褒められるのって、ウレシイ!」」」

 

 残された面子が盛り上がっていた。

 

 個性というのは、生まれたときに授かるものだ。ただの異能力超能力ではなく、文字通りにその人の特徴を表すのが『個性』というもの。それを理解されて、肯定されて、嬉しくないはずがない。

 

 先まで緑谷出久を卑下していた八百万百でさえ──

 

(……)

 

 ──どこか口元が、緩んでいた。

 

   *

 

 翌日。ケンタッキーフライドチキンを咥えながら登校した緑谷出久は、教室の扉の前に立ち尽くしていた。

 

(やってしまった……)

 

 悔やんでいたのは、昨日の放課後の蛮行。

 クソナード全開。やはりあだ名がクソナードになるのは避けられないのか。

 

「……!」

 

 助けを求めるようにケンタッキーフライドチキンの骨を握り締め、扉を開けた──

 

 

「──よ、緑谷。おはよう。おいクラスメイトぉ!! 個性博士が来たぞ!」

 

 切島鋭児郎が言うと、数名の生徒が押し寄せた。

 

「昨日のさ、お前が『個性』を真面目に考えてるのが伝わってきてよかった! 俺のは『テープ』で──」

 

「──すごい! それなら地獄からの使者 蜘蛛男みたいなことができるじゃないか!」

 

 個性的な彼らは、どれも良い個性で、同時に良い奴だった──。

 

 

 

 ヒーロー育成が名物である雄英高校。ヒーロー科はもちろんヒーローの育成を目的とする科ではあるが、基本的に高校であることに変わりはなく、普通の従業が大半だ。

 その普通の授業をプロのヒーローが教えるというのはヒーロー好きの彼にとって魅力の塊も同然だった。

 

 お昼に訪れた食堂でさえプロのヒーローが勤めており、ケンタッキーフライドチキンをかじりつつも厨房を気にしてしまった。

 

 そして──時間が過ぎ、待ちに待った『ヒーロー基礎学』!

 

「──わーたーしーがー、普通にドアから来た!!!」

 

 教室に現れたその人物に、緑谷出久は驚愕した。

 

「オ、オールマイト!!?」

 

 それは彼がヒーローを夢見るようになったきっかけの人物。

 

「あああ、あのオールマイトがなんでここに……」

 

 周りを見回せば、沸き上がるクラスメイトたち。そこに緑谷出久のように驚きを押し出す者はいなかった。

 

「今年から先生するって本当だったんだ!」

 

 誰かの言葉がざわめきから漏れてきた。

 察するに、今年の新任としてオールマイトがいたらしい。

 

(知らなかった……! あまりにも自分の個性が嬉しくて……勉強や身体を鍛えるに精一杯だったせいで、去年まではともかく新任の先生は全く気にしてなかった……!)

 

 今明かされる驚愕の事実。

 画面の向こうに憧れていた、生ける伝説本人が目の前にいた!

 

 

 

 そしてオールマイトの指導の元、行われることになったのは戦闘訓練。

 緑谷出久たちは戦闘服に着替えて演習場へ向かった。

 

「緑谷、お前その格好……」

 

 コスチュームを着た緑谷出久を見て、切島鋭児郎が声を上げた。

 

「お前それ、オールマイトの色違いじゃねーか!!」

 

 緑谷出久のコスチュームは母の手製だ。それは緑谷出久の欲望を忠実に再現した、オールマイトとお揃い!

 

「お前本人の前でよくそんな格好できたな……」

「僕もオールマイトがいるなんて知ってたらこのコスチュームは持ってこなかったよ……」

「違うのは色とサイズか。リスペクトのしすぎは逆に失礼だからな! それじゃもはやパクりだし……」

「うるさい! あああああああ!」

 

 

 

 訓練の内容は、屋内での対人戦闘訓練。

 2人1組で敵とヒーローに分かれて戦闘をシミュレートするというものだ。

 

 緑谷出久は麗日お茶子とペアを組み、爆豪勝己と飯田天哉とのペアと戦闘を行うことになった。

 形式は、爆豪勝己の組が敵役で屋外に閉じこもり、それをヒーロー役の緑谷出久の組が検挙しにいくというものだ。

 

 建物への進入に成功したところで、パートナーである麗日お茶子に緑谷出久が提案する。

 

「まず僕が屋上に行って飛び降りるよ」

「なんで!?」

 

 緊張のせいか口走った。

 

「あ、いや、僕の個性の発動条件っていうか……実は、高いところから飛び降りないと僕の『日替わり』は発動しないんだ……」

 

 そう、緑谷出久は本日、個性を取得していない!

 

 無個性のまま戦闘訓練に来てしまったという危機感が現実として去来する!

 

 そこへ──爆豪勝己が姿を現した。

 すぐさまこちらへ腕を振り落とし、個性を発動させた。

 

 緑谷出久は麗日お茶子とともに爆破を辛々回避する。

 回避には成功したものの、コスチュームのマントが焼け落ちる

 

「デクこら、避けてんじゃねぇよ」

 

「麗日さん、ここは僕が引き受けるから、別行動にしよう……!」

 

 いくらかの攻防の後に麗日お茶子と別れ、緑谷出久は爆豪勝己と1対1になる。

 

 それは幼馴染との因縁の対決。

 緑谷出久は、長い間爆豪勝己を観察し続けてきたことを活かして優位に立っていく。

 

「なんで当たらねぇんだ……!」

 

「かっちゃんは……大抵、最初は右の大降りなんだ。どれだけ見てきたと思ってる……! すごいと思ったヒーローの分析は全部ノートにまとめてるんだ!

 君が爆破したノートに!」

 

「──だからか!? だから個性も使わずに逃げるのかよ!!? ムカツクなあ!! ならよ──

 

 ──避けようのない広範囲爆撃ならどうだよ!?」

 

「──え」

 

 直後、爆豪勝己の両手から巨大な爆発が起こり、建物の4分の1を破壊した。

 緑谷出久は爆発に飲まれ、ボロ雑巾のように吹き飛んだ。

 

 階数は2階。床は破壊されており、緑谷出久はなす術もなく落ちていった。

 地面と接触する直前、意識が途絶える寸前に、彼が思うことは。

 

(──君に、勝ちたい!!)

 

 そして彼は、絶命した。

 

 

 

「何寝てんだデクゥ! てめェの個性、見せてみろよ!! 『日替わり』だか知らねえが、ただのクソナードのてめーに何ができんのかよォ!!」

 

 爆豪勝己の言葉を受け、緑谷出久は起きあがる。

 

「『ただのクソナード』じゃない……! 『頑張れ!!って感じのクソナード』だ!」

 

 猛る。そして彼はコスチュームの腕の部分を捲った。

 

 爆豪勝己によって吹き飛ばされ、目覚めたときから腕に疼きを感じていた。

 その疼きは間違いなく個性! 実戦だったならば確実に窮地であるこの状況で、彼はようやく個性に目覚める!

 

 突きだした腕──その肌の表面に亀裂が入り──

 

 

 ──1枚、紙が出てきた。

 

 紙。

 

 植物の繊維を平らになるよう絡ませたもの。

 一般的に、家庭に流通している筆記が可能なタイプ。

 

 紙。ただの紙きれ。

 

 今日も彼が授業で使った、あの馴染み深い紙だ。

 

 その個性は『製紙』。紙を身体からつくりだす。

 

 

 ──緑谷出久は爆豪勝己の個性によって爆死した後、自身の個性ガチャで爆死したのだった。

 




THE・補足

○No.1 緑谷出久:アナザーのおちゃこの台詞「でも転んじゃったら演技悪いもんね」

 読者の誤字報告から
「これどゆこと?さっぱりわからんかった」という感想を頂きました。
 わかりにくくて本当に申し訳ありません。
 もちろんただの誤字という訳ではなく、
 堀越先生の過去作『戦星のバルジ』の最終巻には登場人物が全員本編のストーリーを演じる俳優、という設定のおまけ漫画が載っています。それと同じように『僕のヒーローアカデミア』も実はストーリーの脚本を登場人物が演じているだけなんです。おちゃこは出久くんが転んだら脚本が壊れ演技が失敗してしまうと思い助けたのですが、ついそれを口に出してしまったのです。

 このコーナーがこれで最終回となるよう、
 もっと皆さんにわかりやすく、明朗快活、楽しい小説になるように鍛えます。あああああああ!!



THE・補足
○No.1 緑谷出久:アナザーの「青ざめていく試験管」

 読者の誤字報告から
「これどゆこと?さっぱりわからんかった」という感想を頂きました。
 わかりにくくて本当に申し訳ありません。
 もちろん試験官のいる部屋で試験管が青くなったのではなく、
 実験中に試験管が急に青くなったのと同じような勢い・変わりようで、試験官の顔が青ざめたということです。ものの例えです。

 このコーナーがこれで最終回となるよう、
 もっと皆さんにわかりやすく、明朗快活、楽しい漫画になるように鍛えます。100000%あああああああ!!

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