そら飛べワンチャンダイブマン ~1日1回個性ガチャ~   作:AFO

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U.A.FILE.03 Class No.04
TENYA IIDA

個性
『エンジン』
 ふくらはぎが異様なまでに膨れている。これは『機動戦士ガンダム』でいうところの『ガンダム』の『ダム』の部分であり、『ガンキャノン』でいうところの『キャノン』、『ガンタンク』でいうところの『タンク』と同じく名前にまでなるべき重要な器官だ。つまり彼は異形系、『ガンダム』の異形系なのだ。
 さあ燃え上がれふくらはぎ少年!

テンヤズアイ
 四角い。目というのは普通円形に近く、四角いはずがない。そこで思い出してほしいのが、『ガンダム』である。そう、『ガンダム』の目は五角形。角張っているのだ。専門家は彼を『ガンダム』の容姿の異形系個性と指摘せざるを得ない。
テンヤズメガネ
 四角い。おそらく彼は身につけたものも『ガンダム化』する影響型でもある。彼のコスチュ-ムも、メカメカしいだろう? あれ、『「個性」の影響を受けやすい個性』の持ち主の髪の毛で造ったタンクトップだから。
テンヤズゼンシン
 ガンダムのようにムキムキなボディ。腹部を分離して飛ばせる説がある。多分本体。メガネじゃなく腹部のコアファイターが本体だから。
テンヤズテ
 妙な動きをする。怪しい。買い物に行く度に荷物検査を受ける。電車に乗る度に駅員を呼ばれるのだが、そこで着いて行ったらどんなに言い訳をしても逃れられなくなるので注意だ。真面目な話。AFOとの約束だ。彼は持ち前の『エンジン』で逃げるから問題ない。これぞインゲの真骨頂。
テンヤズアシ
『ガンダム』の『ダム』。これにはジオン軍も困惑。ジオングを開発途中のまま出撃させるに至った。


No.4 猛れ『頑張れ!!』って感じのクソナード

 緑谷出久に発現した個性は、『製紙』だった。

 

 創り出した紙を──丸め、爆豪勝己へと投げつける。

 丸めた紙は爆豪勝己の眼前にて爆破された。

 

「──おいデクゥ……それがてめェの個性か?」

 

 爆豪勝己が、歯を剥き出しにして嗤った。

 

(マズイ、この状況でこの個性は……マズイ!)

 

 緑谷出久は爆豪勝己に背を向け走り出した。逃走。

 

「待てやクソナード!!」

 

 爆豪勝己の攻撃を何とかわしながら逃げていく。

 

(紙!? よりによって紙だって!? かっちゃんの個性は『爆破』だぞ!? これじゃすぐに燃やされるじゃないか!)

 

 逃げる──と見せかけ、曲がり角で振り返り、追尾する爆豪勝己に向かって腕を突きだした。そして個性を全力で発動する。

 すると掌から大量の紙が勢いよく吐き出された。さながら高速印刷機の排出口のごとく。

 

 逃走に見せかけた奇襲、虚を突かれたような爆豪勝己だったが、それもあっけなく爆破されてしまう。

 

(ダメだ! 割と出せるけど、紙じゃダメだ! 紙の創造だなんて──八百万さんの劣化もいいとこじゃないか!)

 

 個性『創造』、八百万百。あらゆるものを創ることができる彼女なら、紙を創るぐらい容易いことだろう。劣化も劣化、完全劣化。八百万百の八百万分一程度の性能の個性である。0.000013%スマッシュだ。

 

 圧倒的不利。しかし考えることはやめない。

 憧れのオールマイトが見ているからというのもある。だが、それよりもただ純粋に、この幼馴染に勝ちたいという思いがあった。

 

(考えろ、考えるんだ! どんな個性にも使い道がある! 状況が不利なだけで、決して弱い個性じゃない!)

 

 しかし、紙を造るのみ。造りだした紙を自在に操れるわけでもなく、ただ生み出すのみ。

 

(八百万さんはなんて言ってた!? 今の僕の上位互換の、あの個性は!?)

 

 昨日の会話を思い出す。

 八百万百の『創造』と、今の緑谷出久の『製紙』は異なる個性だ。しかし、物を生み出す点としては同じ系統。そこにヒントを求める。

 

 ──物の構造さえわかればなんでも創り出すことが──

 

「……っ!」

 

 可能性は、見えた。

 

 

 

 

「どこ行きやがったクソナードォ!!」

 

 屋内という性質を活かし、また爆豪勝己が破壊したことによる構造の変化を利用して緑谷出久は撒くことに成功する。

 彼を探す爆豪勝己の慟哭が轟いた。いる階層事自体が違うことを確認する。

 

 ここで緑谷出久は麗日お茶子と合流。

 

「飯田くん、上の階にいたよ! 私の個性対策に部屋のものを片づけてて……」

「……! そっか飯田くんも麗日さんの個性を知ってるもんね、対策はしてくるか……」

 

 爆豪勝己は対策なしに真っ直ぐ緑谷出久に向かってきたわけだが、飯田天哉は違う。見た目と印象通りに真面目な彼はこの訓練にも忠実に取り組むだろう。

 まさかとは思うが、敵という設定に従って卑劣な手段も用いるのかもしれない。

 

(その中で重要になってくるのは僕の個性。こればかりは飯田くんも対策はできていないはず……)

 

 日によって変わる個性。この訓練における一番のイレギュラーと言えるだろう。

 

 爆豪勝己が開始直後に特攻してきたことを見るに、2人の連携はとれていないと思っていい。初日にも険悪だった彼らだ、爆豪勝己が折れないのは目に見えているので、おそらくは相談なしにこちらへ直行したのだろう。

 よって、爆豪勝己の連絡で飯田天哉に個性が伝わることはないはず。

 

 思考しながら、緑谷出久は腕から紙を出し続ける。

 

「あ! それって今日の個性!?」

「え? ああ、うん。多分『紙を造り出す』個性」

「よかった、使えるようになったんだね!」

 

 紙を造り出す個性。そこへ考慮していくのは、昨日の八百万百の言葉。

 緑谷出久の腕から出るのは、極一般的な紙。A4サイズの一番流通しているコピー用紙と同等のもの。

 

(これは多分、僕の『紙』のイメージがコピー用紙だからだ。なら考え方を変えて──)

 

 次に彼の腕から出たのは、B4サイズの用紙。

 

(そうだ、やっぱり僕の『紙』に対する意識が反映してるんだ!)

 

 八百万百の物を作る条件は、構造がわかること、であった。『物を創り出す』個性を自分のイメージ──認識で制御しているのだ。この『製紙』も同様、紙限定ではあるが、サイズだけなら応用が効く。

 

(さすがに原料の『木』としては出せないか……)

「えっと……何してるの?」

 

 緑谷出久の足下に散らかる紙切れを見て麗日お茶子が首を傾げた。

 

「あ、ごめん。この個性がどこまで応用が効くか試してたんだ。でも大きさや多少の強度は弄れても、相手は『爆破』、すぐに燃やされるし……」

 

 やはり紙という材質が一番ネック。

 

(俗に『燃えない紙』というのもあったはず……でもその構造、成り立ちを考えるとあれは『紙』に薬品を擦り込んだ結果……いけるか……?)

 

 おそらくそれは無理だろう。緑谷出久は独りでに首を振った。

 薬品を投与している時点で『紙』の範疇を越えている。八百万百なら擦り込む『難燃剤』といった薬品の分子構造を理解することで創造できるのだろうが、緑谷出久には無理だった。そもそも普通の紙と不燃紙の違いが目視で区別が付かない。

 

 緑谷出久が『製紙』の個性を生まれたときから使い込んでいたならば話は別だったかもしれない。経験と『紙』への理解、追求が深まった状態ならば不燃紙を造るにも至ったのかもしれないが、一朝一夕どころか一時間にも満たない彼にそこまでの自由度はない。

 理論で挙げることができても、出来ないことがある。使い込み成長した個性でようやく出来ることがそうだ。

 

 この個性の弱点が新たに一つ。発現した個性を大きく成長させることは出来ない──。

 

(単純すぎて気付きすらしなかった!)

 

 しかし、知識を蓄えておくことは無駄ではない。備えは可能性を広げ、戦術を考えることに繋がる。

 そして彼は実技試験の教訓を元にその戦術を実行できるよう身体作りも行っている。

 

(個性を100%引き出せずとも、5%、いや8%、いやそんな税率程度じゃなくて……基礎分として50%は引き出せれば、十分戦術に組み込める!)

 

 後の半分は応用。その個性の熟練者がたどり着く境地。

 数時間でたどり着けるような生半可なものではない。

 

 麗日お茶子の『無重力』と、『製紙』のサイズと多少の強度、それを考慮して──麗日お茶子へ、作戦を伝えた。

 

   *

 

 爆豪勝己は一度上層へ戻る。

 この訓練の要である『核兵器』。それを回収することがヒーロー側である緑谷出久の勝利条件であり、避けては通れない道。

 

 結局はそこで待ちかまえるのが緑谷出久を見つける最も合理的な手段。

 

 核兵器のある手前の階層に──緑谷出久は、いた。

 

 否。待ちかまえていた。

 

「どういうつもりだデク……!」

「麗日さんが核へ向かった。僕はここで、君を止める!! そして僕は、君に勝つ!!」

 

 その目には微かに涙が滲んでいて、身体は震えているように見えた。

 しかし緑谷出久がこちらへ告げるのは、宣戦布告。

 

 歯を食いしばったその顔は、緑谷出久が『無個性』だったはずの頃から度々浮かべていた顔で──爆豪勝己は、それが無性に腹立たしかった。

 

「その面やめろやクソナード……上等ォだ、てめェが俺より下だってこと、証明してやる……!!」

 

 もう一度、特大の爆発を起こそうと構えたとき、爆豪勝己の無線に通達が入る。

 

『待つんだ爆豪少年! 悪いが次それを撃ったら強制終了で君らの負けとする。屋外での大規模攻撃が愚策というのはもちろん。そして君の行る場所を考えるんだ! 上の階のすぐそこには核があるんだぞ!?』

 

 突如差し込まれた横槍に舌を打つ。

 

『……緑谷少年チームへの肩入れのようだから忠告しておくが、()()()()に誘ったのは緑谷少年の方だ』

 

「……!!」

 

 目の前の緑谷出久を、睨みつける。

 

 爆破封じ。個性でも武力でもなく、ルールを利用した個性封じ!

 回避不能の大規模攻撃はもう使えない。

 

「クソが……あああああああ!! じゃあもう、殴り合いだ!!」

 

 ルールによる爆破封じは、大規模のもののみ。爆豪勝己は爆破の勢いを利用して飛びかかる。

 しかし先の宣戦布告とは裏腹に、緑谷出久はこちらとは逆の方向に駆けた。

 

「結局逃げんのかよ!!? ああ!?」

 

 激情のまま後を追う。

 そして曲がり角において──またもや緑谷出久は紙を多量に噴出した。

 

「またそれか! また目隠しか!! いくら紙キレを出しても無駄だっつーの!!」

 

 一度やられた戦法を、彼はまたしても難なく爆破する。爆炎の先にあったのは白──緑谷出久を覆い隠すほどの大きな紙。

 

「んなもんで隠れた気になってんじゃ──」

 

 ──違う。

 

 爆豪勝己はその類稀なるセンスで、()()()()()()()()()緑谷出久に気づいた。

 爆破という派手な攻撃と、身を隠す大きな紙によって緑谷出久の挙動から意識がそれていた。

 

 いや、目隠しに爆破を使わせることによって、意識を逸らさせたのだ。

 冷や汗を浮かべながらも、爆豪勝己はそれに気づくことができた。

 

 咄嗟にも──渾身の力を込めて腕を振るう。

 

 ──馴染んだ動きからの、()()()()()

 

 次の瞬間、爆豪勝己の視界が回転した。

 彼は床に叩きつけられた。思いがけない衝撃に息が詰まる。

 

「言ったよね──君は大抵、右の大振りなんだ」

 

「──っ!!」

 

 身体を無理矢理に勢いよく起こし、前のめりになる。すると次は背中に衝撃が走る。

 緑谷出久が馬乗りになる。

 

「てめッ……!!」

 

 怒りを口に出した瞬間、爆豪勝己の周囲に煙が吹き付けられた。そして数枚の紙が散らばる。

 

「──『個性』を使わないで!! 」

 

 緑谷出久が叫んだ。

 

「かっちゃんも、知ってるよね──粉塵爆発」

 

 即座に理解する。散布されたのは煙ではなく、粉。粉塵爆発、それは大気中の粉塵が引火し爆発を呼ぶ現象。爆豪勝己が『個性』を使うということは──当然、大規模の爆発を呼ぶということだ。

 

 それは爆豪勝己自身を飲み込むだろう。そして、上階の核までも──。

 

「……デクゥゥゥゥゥウウウウ!!!」

 

 暴れる爆豪勝己その口元に緑谷出久の手が当てられ──

 

 ──直後、爆豪勝己の口内に何かが詰められた。

 

「!!!??」

「今君の口に詰めたのは、紙。昨日、僕の個性について聞いてたよね? 『日替わり』。今日の僕の個性は『紙を造り出す』個性。今はできるだけ柔らかい紙にしたけど──全力で厚紙を造りだしたら、どうなっていたか──わかるよね……!?」

 

 爆豪勝己の身体が硬直する。

 紙を出す勢いは目隠しの時点で見ている。決して弱い勢いではない。厚紙を、その速度で流し込まれることは──すなわち死である。

 

 悪寒が走る。道端の石ころでしかなかった緑谷出久の言葉によって、確かな恐怖が現実として去来する。

 

「~~っ!!」

 

 声にならない声とともに、とにかく抵抗を試みたそのとき。

 

『爆豪少年、君の負けだ』

 

 無線にオールマイトの声が流れた。

 

『君の身体にはもう──確保テープが撒かれている!』

 

「……!!」

 

 己の敗北が現実として突きつけられる。

 

 

 そして──緑谷出久の属するヒーローチームの勝利が告げられた。

 

   *

 

「むざむざ戻ってきたか……だがしかし! 君の……お前の個性ではこの部屋においてなす術はなぁい!!」

 

 麗日お茶子が核の部屋へ戻ると、コスチュームの下では悪人面を浮かべたであろう飯田天哉は綺麗に掃除された部屋を見せつけた。

 その様はまるで学芸会の劇。思わず吹き出しそうになるのは演技が悪いもんね。

 

 しかし飯田天哉は愚策だった。核から離れない為とはいえ、彼女を一度返してしまったのは失敗。

 麗日お茶子への策は講じたものの、詰めが甘く結局は愚策である。

 

 綺麗に清掃された部屋に、ゴミが落ちる。そのゴミは、紙くず。

 

「出久くんがくれたんだ! 出久くんの──今日の個性!!」

「彼の個性!?」

 

 飯田天哉が、紙に視線を集中する。

 この訓練においての一番の不確定要素が、飯田天哉へ今断片的に明される。

 

 麗日お茶子の腕に抱えられたのは、筒上に丸められた身を覆うほどの大きな紙と、大小様々の紙。緑谷出久が呟きながら無心に出していたものだ。

 

 まず麗日お茶子は紙くずを、上へと投げる。

 

「何を──?」

 

 飯田天哉がその動きを注視する。

 数枚は彼女の個性によって滞空するのだが、大抵のものは『無重力』が適応されずに地面に落ち行く。

 麗日お茶子の個性は、五指についた肉球、五つ全てで触れなければ作用しない。

 

 飯田天哉が気を取られている隙に、大きな紙を開き、無重力状態にして投げる!

 

「なっ!? 本命はこっち──これは、目隠し!?」

 

 大きな紙にとって麗日お茶子の全身が隠れる。飯田天哉は咄嗟に左右を見る。選択しはどちらか。どちらか一方から彼女が出てくるのか、咄嗟に対応できるように意識を集中させる。

 

 

 ──しかし!

 

 麗日お茶子が選んだのはどちらでもなく、上!!

 

「自身も浮かせられるのか!!!」

 

 消耗の大きい麗日お茶子の隠し玉。見事に飯田天哉は予想を裏切られる。

 

 空中にて『個性』を解除した麗日お茶子の身体が、核に触れようとする。

 

「させるわけ──」

 

 上を見上げていた飯田天哉が振り返ると──

 

 ──その視界を紙が覆った。

 

 最初に投げた紙のうち、()()()()()()()()()()()

 麗日お茶子が身体を降ろすために個性を解除したのと同時に、最初に投げた紙も重力に従い始めたのだ。

   

「んな!!?」

 

 駆け出すのが遅れる。

 

 飯田天哉の個性は『エンジン』。走力が強化される個性だ。その走行速度であれば追いつける距離だった。

 

 本来なら、追いつけるはずだった。

 

 初めに緑谷出久の個性で思考を逸らされ、次に上に注意を引かれ、左右に意識を振られ、彼女の個性に予想を裏切られ、また上を向かされ、振り向き、視界を覆われる。

 

 それだけの動揺の上で、咄嗟に判断ができるか?

 

 十全の踏み込みができるか?

 

 万全の走行ができるか?

 

 

 ──できない。

 

 それでも飯田天哉。韋駄天のごとく核へと向かうが──タッチの差で、麗日お茶子が先に核へ触れ──

 

 ──ヒーローチームの勝利を、オールマイトが告げた。

 

 

 

 

 個性の反動で、重度の吐き気を催した麗日お茶子は保健室へ運ばれた。

 そこには彼女のパートナー、緑谷出久の姿もあった。

 

「やったね……麗日さん!」

 

 緑谷出久は全身にいくらかの擦過傷があるものの、どれも軽傷だ。しかし横たわったまま力なく笑うのみだった。

 

「出久くんの作戦のおかげだよ……!」

 

 麗日お茶子も横たわったまま、両手を固めて小さくガッツポーズをとるものの、自身の吐き気と緑谷出久への心配に顔を曇らせる。

 

 見た目はそれほど酷くない。コスチュームの欠損は激しいが、身体の傷は命に関わるようなものではないように見える。

 

 ──まさか、身体の内部、特に臓器関係に傷を負ったのではないか。

 

 案じる麗日お茶子の意に反し、リカバリーガールが告げたのは『極めて軽度の栄養失調』。

 

「……要は空腹だねぇ。フライドチキンだよ、フライドチキンをお食べ」

「フ、フライドチキン……!? それって、ケンタッキーですか!? ケンタッキーフライドチキンですか!!?」

 

「──! そうだよ」

「ありがとうございます!!」

 

 緑谷出久もまた、麗日お茶子と同じく吐き気に伏していたのだ。

 

 もっとも、彼女の場合は口に食べ物など入らない吐き気、緑谷出久の場合は喜んでケンタッキーフライドチキンを食せる吐き気なのだが。

 

   *

 

 ケンタッキーフライドチキン。それはただのフライドチキンに非ず、あのケンタッキーのフライドチキンであることが重要なのだ。

 

「……」

「あ、麗日さん! ごめんね。今日の個性のせいなんだ」

 

 言葉を失っていた麗日お茶子へ、緑谷出久は食事の手を止めた。

 

「今日の個性は『製紙』。紙を身体から出せる個性なんだけど──どうやら脂肪かなにかを紙に変換してたみたいなんだ!」

 

 爆豪勝己に確保テープを撒いた直後。張りつめていた緑谷出久の意識は緩み、力が抜けていった。

 

「どんな紙が出せるのかを試すのに個性を使い過ぎたんだ。無から何かを生み出すなんて普通ありえないのに、僕は無限に出せる気でいた。もう少し速く気付ければよかった。あるいは──八百万さんにもっと聞いておくとか」

「八百万さん? 昨日話してた──何で?」

「八百万さんは今の僕『製紙』の完全上位互換だから。もしかすればこの欠点に近いものがあったかもしれない」

 

 そう、『個性』を知ることで、こういった欠点も予測できる。

 昨日の八百万百との会話でデメリットまで聞き出していれば、気付けた範囲なのだ。

 

「本当、ギリギリだった……。僕は結局、かっちゃんに勝っていないんだ。『規則(ルール)』を盾に『個性』で誤魔化して……最後なんて虚勢に近かった」

 

 必死だったとはいえ、いささか無理のあった勝利だ。

 爆豪勝己の口に押し込む程度の柔らかい紙を造ったが最後、もう個性を使う余力はなかった。

 

 粉塵爆発にしても、実際爆発するに必要な細かさだったかも不確定だった。あれはあくまで紙を限界まで小さくして造りだしたに過ぎない。

 

 だから、虚勢。あのまま爆豪勝己が動きを止めでもしなければ、緑谷出久は簡単に振りほどかれていたかもしれない。

 ギリギリ。半ば脅しての勝利である。それも爆豪勝己があのまま構わずに爆破していれば無為に帰していたし、ちらつかせた『死』にも動じなければ、今ごろ緑谷出久には敗北が現実として去来していただろう。

 

 爆発は不確定。紙を詰め込むのも到底出来やしない机上の空論。体力的にも倫理的にも。

 あくまで妄想を垂れ流したに過ぎないのだ。

 

「結局、あのとき僕は……かっちゃんを()()()んだ。かっちゃんなら、僕が言った妄想も現実に構えると思ったから。すごい奴なんだよ。嫌な奴だけど。荒いようで、咄嗟の判断はできて──」

 

 ──緑谷出久が抱いたのは、敗北感。

 

『試合』に勝った。『勝負』でも勝った。だがそれは『試合』だったから。爆豪勝己が優秀だったからこその──付け込んだ勝利。

 

「今度は──今度こそ、堂々と、かっちゃんに勝ちたい!!」

「出久くん……」

 

 その為に必要なことがある。勝利しつつも苦い、そんな余韻そっちのけに現実として去来するのは、彼の『個性』について。

 

 彼の『日替わり』──『ワンチャンダイブ』に対する認識は、飛び降りたときに発動し、『個性』を発現させるというもの。

 

 しかし緑谷出久はこれまで──()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

   *

 

 一方で、訓練の様子を見るモニタールーム。

 

「すっげえ緑谷……! 『紙を造る』個性で『爆破』に勝っちまった……!」

 

 緑谷出久が属するヒーローチームの勝利を受けて、部屋中が沸き上がっていた。

 

 特異な個性の持ち主であることと、昨日の個性に対する熱弁もあり、緑谷出久はクラス中の注目を集めていた。

 

「さて、講評の時間だ! 良い点はたくさんあるんだが、今回のは致命的に悪かった点もいっぱいあった。わかる人!!?」

 

 オールマイトの問いかけに、八百万百が挙手。

 

「まず爆豪さん。私情丸出しの独断専行。敵も徒党を組む設定なのですから、飯田さんと少しでも話し合うべきでした。そして屋内での大規模攻撃も愚策です。

 緑谷さんも同様、爆豪さんの足止めのような立ち振る舞いでしたが、あそこで麗日さんと一緒に二人係で核回収に向かえば成功率は上げられました。待ちかまえたのは完全に彼の私情です。

 麗日さんは中盤に緩みがありました。そして核に触れた段階で動けなくなるようでは実際の現場において失敗でしかありません。

 そして飯田さんも、色んなことに気を取られすぎている様子でした。最初から核を持ったまま逃げ回れば麗日さんは触れることができなかったはずです」

 

 まくし立てる八百万百に一同が静まり帰った。

 

「さ、さすがだね、八百万少女。くぅ……!」

「常に下学上達! 一意専心に励まねばトップヒーローになど、なれませんので!」

「じゃあ今戦の良かったところをまとめてベストを決めるとすれば、誰だろうね……!?」

 

「それは、敵という役割を全うしていた飯田さん──

 

 

 ──と、不利な個性で立ち回った緑谷さんのどちらか、でしょうか」

 

 

 こうして、緑谷出久の初訓練は幕を閉じた。

 

 

   *

 

 戦闘訓練の終盤。

 爆豪勝己は、敵チームとして敗北した。いや、チームの敗北だけでなく、彼は確保テープを巻かれ個人としても敗北を喫した。

 

 他ならぬ、緑谷出久の手によって。

 

 道端の、石ころによって。

 

「認めねェ……俺は……負けてなんか……っ!」

 

 

「──かっちゃん」

 

「!?」

 

 名を呼ばれ、振り返るとそこには緑谷出久の姿があった。

 

「……なんだよ、ああ? 何だよ、俺を見下すな──」

「これだけは、言っておきたいんだ」

 

 緑谷出久は、真っ直ぐにこちらを見ていた。

 

 いつもの、下ばかり向いた緑谷出久ではなかった。

 

 ──幼い記憶に残る、頼りない顔ではなかった。

 

「かっちゃん、僕の個性は──

 

 ──君から授かった個性なんだ」

 

 何を言っているのか、わからなかった。

 

「君がいたから、僕は今日、君に挑むことが出来た!! 君のおかげで今僕はここにいる。君のおかげで──努力することが、できたんだ!!」

 

 何一つ、要領を得ない。そんな緑谷出久の告白に、爆豪勝己は何一つ理解できなかった。

 

「……僕はまだ、この個性を使いこなせていない。まだまだ、わからないことだらけだ。今日だって、ギリギリだった。君が優秀だったから──かっちゃん、君に勝てたのはかっちゃんのおかげなんだ。

 

 次は──次はもっと、胸を張って、君に勝って──君を越えるよ」

 

 そこで理解する。

 

 

 そうか。

 

 これは。

 

 宣戦布告なのだ。

 

 今まで爆豪勝己が繰り返してきた暴虐に対する、当てつけ。

 これまで緑谷出久を下に見て、虐げていたことを反骨精神にここまでのし上がってきたという、宣告。

 

 そして完全に越えてやるぞ、見返してやるぞという、宣戦布告……!

 

「……そういうことかよ──そうだ、俺は今日てめェに負けたんだ! 正真正銘、真っ向から、てめェの策略に負けたんだ! 俺を越える? クッソ!! 言いたい放題言いやがって!!」

 

 立ちこめる感情は、怒りではなく、悔しさ。

 

 巻き上がる衝動は、侮蔑ではなく、不屈の闘志。

 

「こっからだ!! 俺は……!! こっから……いいか!? 俺はもうお前には負けない! 追いつきもさせない! こっから俺はお前引き離して……ここで! 一番になってやる!!!」

 

 拳を固める。気持ちを固めるように。

 

「ここには俺より上かもしれない奴がたくさんいる!! 俺はもう、誰にも負けねえ!!

 

 ──デク! お前にもだ!!」

 

 道端の石ころが、いつの間にか、人の形になってすぐそこまで来ていた。

 

 

 爆豪勝己が抱くのは焦燥感と──対抗心だった。

 




THE・補足

○No.3 服着よう?の芦戸三奈に対する出久の解説「H──酸素として扱えたりしない?」

 真面目な話、読者の皆様から
「これどゆこと?さっぱりわからんかった」という感想を頂きました。
 わかりにくくて本当に申し訳ありません。
 普通にミスです。
『酸』──『酸素』の元素は皆様の仰るとおり『O』でして、決して『H』ではありません。『H』は『水素』です。全国の中高生の皆様、学力試験の際にはお気をつけください。これが原因で雄英受験に失敗したとしても当方は責任を負いかねます。
 ちなみに酸性を測る際に『pH』という単位を使います。これと関連する『H+』──『プロトン』あたりを『O』と取り違えた次第です。
『プロトン』については割愛しますが、『pH』くらい説明しておきますと、この値は基本的に0~14まであり、0が『酸性』、14が『アルカリ性』となり、真ん中の7が『中性』です。
『pH』は水素イオン濃度指数であり、水素イオンの濃度を表しています。読み方はそのまま『ピーエイチ』、俗には『ペーハー』があります。筆者は在学時『プーハー』とネタにしていました。もちろん『プーハー』は間違いです。学力試験の際にはお気をつけください。これが原因で雄英受験に失敗しても当方は責任を負いかねます。

 ちなみに物質を『酸性』なのか『アルカリ性』なのか調べるための薬品に酸塩基指示薬『フェノールフタレイン溶液』というのがあります。基本的に無色ですが、販売されている物の中には青いものがあります。
 この『フェノールフタレイン溶液』には『アルカリ性』のものを入れると赤くなる性質を持っています。酸性と中性に関しては変色しません。
 覚え方としましては、筆者は『「ア」ル「カ」リ性』だから『アカくなる』としていました。お役立てください。
 このとき、赤くなるのは『試験管』の中の溶液であって、決して『試験官』ではありません。学力試験の際にはお気をつけください。おまけで丸をくれる教師もいますが、減点ないしバツをつける教師もいます。これが原因で雄英受験に失敗しても当方は責任を負いかねます。

 ちなみに酸塩基指示薬にはもう一つ『リトマス試験紙』というものがあります。『リトマス試験紙』には『赤』と『青』の2種類があり、
『酸性』の液体を付けると『青』色のものが『赤』色に変色します。
『アルカリ性』の液体を付けると『赤色』のものが『青』色になります。
『中性』の場合はどちらも変化はありません。
 覚え方としましては、筆者は『「ア」ル「カ」リ性』は『アカを変える』としていました。これだと先述の『フェノールフタレイン溶液』の『アカくなる』は通用しないのでお気をつけください。『青』の『リトマス試験紙』を『赤』に変えるのは『酸性』です。筆者は見事これで間違えています。何卒反面教師に。これが原因で雄英受験に失敗しても当方は責任を負いかねます。
 また、『アルカリ性』が青ざめさせるのは『試験官』でもなければ『試験管』の中の溶液でもなく、『リトマス試験紙』です。これは致命的で、間違いなくバツがつきます。これが原因で雄英受験に失敗しても当方は責任を負いかねます。

 ついでに言いますと、芦戸三奈さんの個性『酸』は『硫酸』の間違いではないかという可能性もあります。堀越先生の中で『酸=硫酸』という図式があるのかもしれませんし、ただ『硫酸』を『酸』と略したのかもしれません。堀越先生の考えを伺うのは読者である私たちにはとても難しく、
 実際に集英社に赴いて事情を話し、怪しい者ではない証明と交渉の末に連絡先を伺うか、
 Twitterのアカウントに聞きに行く、
 の2つしかありません。 
 芦戸三奈さんの個性の真意につきましては原作で明かされ相違があり次第THE・補足あああああああ!! しますのでご了承ください。
 芦戸三奈さんの出番を心待ちにしています! 堀越先生!! 不良とブレイクダンスしたり道に迷った人に嘘を吐くとかそんな過去どうでもいいですから!! 堀越先生! これじゃ考察もできませんよあああああああ!! 堀越先生!!! 今からでも遅くないですから、今日駆けつけたリューキューが負けたところに芦戸三奈を登場させてアジトを全部溶かしてオバホ生き埋めのどんでん返しで『インターン編』を終わらせて芦戸三奈があまりの出番のなさに敵落ちする『芦戸三奈編』を始めてください!!

 このコーナーがこれで最終回となるよう、
もっと皆さんにわかりやすく、明朗快活、楽しい小説になるように鍛えます。1000000%あああああああ!!

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