トウホウクエスト   作:さんにい

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「うおっ、まぶしっ……」

 

 

  長い長い階段を最後まで下りきった魔理沙が放った言葉。それは、その先が今までのダンジョンとは異なっていることを端的に表していた。

 

 

「うわあ、何ですかここ?」

「なんかわかりやすくラストダンジョンって感じになってきたわね」

 

 

  後に続いていたメンバーからも感嘆の声が漏れる。

  苦労して見つけた、暗い階段を降りた先。そこは、光で溢れていた。

 

  魔理沙たちの目前には、とても大きな空間が広がっていた。紅魔館くらいは余裕で入りそうな大きさである。最も、あそこは咲夜の能力で内部の空間が拡張されているので、紅魔館の見た感じの大きさとの比較、ではあるが。

  そして、その広場のような空間の壁には、さっきまでの水晶に代わるように、松明が至るところに灯されていた。今までのダンジョンが、魔法で光を灯さないとロクに何も見えなかったことを考えると、とても異質な光景に見えた。

  そうそれは、まるで何かを祀っているようで。

 

  しかし、

 

 

「……何よ、あのでっかいの」

 

 

  それに勝るとも劣らないものが、広場を見渡してからというもの、魔理沙たちの視線を捉えて離さなかった。

 

 

「ここから見た感じ、扉、かしら?」

「そんなの見れば分かるわよ。そうじゃなくて、何で扉があんなにでっかいの?」

「んなこた知らん」

「なるほど、どんな人でも通れるようにと。親切設計ですね!」

 

 

  ……それは、見るからに巨大な扉であった。

  まだ距離があるから正確なことはわからないが、魔理沙たちよりはるかに大きいのは見てとれる。

  その巨大な扉は、階段の出口とは広場を挟んで反対側に鎮座していた。

 

  とりあえず、ほかに道も見つからなかったので、魔理沙たちはその扉を目指して足を動かし始めた。

 

 

 

 

 

  扉に近付いてみて、わかったことがいくつかあった。

 

 

「……なあ、なんかあの扉、やけに豪華じゃないか?」

「そう言われてみればそうですね……

  今までのダンジョンの扉といったら、ボロボロのものがほとんどだったのに」

 

 

  そう。その扉は、無駄に豪華だったのである。

  扉自体は木でできているようだが、端に沿って色とりどりの宝石が散りばめられているのが遠目からでもわかった。十メールはありそうな、扉の端にそって、である。

 

 

「無駄に金かけてるなー」

「でも、なんか宝物庫への扉って感じですよね!」

 

 

  確かに、松明の炎が揺れると共にキラキラと輝く赤、緑、そして透明な宝石を見ると、宝物庫への扉というのも納得がいく。

 

  ……もしかして、紫の言っていたお宝ってのは、あの扉の先にあるのか?

 

 

「ねぇ……咲夜……、あの扉を丸ごともぎって、全部売ったら、どれくらいのお金が貰えるのかなぁ……」

「純粋な目をして欲望まみれのこと言うのはやめなさい」

 

 

  そして、もう一つ気付いたこと。

 

 

「早苗、あれってやっぱり、敵、だよな?」

「はい、私のセンサーがびびっと反応しています」

 

 

  その扉の前に、それを守るようにしている敵モンスターがいた。

 

  扉とは対照的に、そのモンスターはあまり大きくなかった。せいぜい魔理沙より少し大きい程度であろう。扉の前にいるせいで、物凄くちっこく見える。

  その毛は赤く、体格はがっちりとしていて、一目で強敵だとわかる。

  扉を背に、堂々と侵入者を迎え撃つようなその姿勢は、まるで……

 

 

「……なるほど、宝物庫の扉の“門番”ってところか。いいねぇ、ラストダンジョンにふさわしいじゃないか!」

 

 

  そう呟くと、魔理沙はミニ八卦炉を構えた。他の三人も戦闘体制を整える。

  すると、その敵がこちらに気付いた。その目が鋭く光ったのが、二十メートル程離れた魔理沙たちの所からもわかった。

 

 

 

 

 

 

「!! 来るわよ!」

 

 

  戦闘に向けて構えていると、霊夢が突如そう言い放った。魔理沙は慌ててそちらに顔を向け……

 

  目前の構えられた拳を認識した。

 

 

「……!!」

「は、速いっ!」

 

 

  二十メートル程の距離をコンマ数秒でに踏破したそいつは、人間には反応できないような速度の正拳突きを放った。

  拳を振り抜く風圧だけで、辺りの小石が吹き飛ぶ。

 

  しかし、魔理沙とて伊達にラストダンジョンまで進んだわけではない。かろうじてその一撃をかわし、即座に迎撃の体制をとった。

 

 

 

 

 霧雨魔理沙 は どうする?

  HP 395/504 MP 143/215

 

 →こうげき

  スペル

  アイテム

  にげる

 

 

「今度はこっちの番だぜ!」

 

 

 

 

 

 恋符『マスタースパーク』消費MP:60

 

 

 

 

  本日二度目となる、光の暴力。至近距離で放たれては、先ほどの機動力を活かすこともできないだろう。その閃光の圧倒的な力に、敵も呑まれていった。

  今までこの攻撃を食らって、まともに立っていられた者はいない。よって、魔理沙たちはスペルが決まると、少し緊張感を緩めていた。

 

  だが……

 

 

「……まじ、かよ。これを食らって耐えるやつがいるとは思わなかったぜ」

「なんつー頑丈さなのよ……」

 

 

  そいつは両腕を身体の前でクロスして、なんとマスタースパークに耐えていたのだ。

  服が若干焦げていたが、本体はあまり堪えてないように見える。

 

 

「……これは、長い戦いになりそうね」

 

 

  そう咲夜が呟く。

  それと同時に、互いの緊張感も再び高まっていった。

 

 

 

 

  *

 

 

 

 

 

  互いの攻撃の応酬が止むと、一時はそれぞれが後ろに下がり、距離を置く。この数分間で、何度も繰り返された光景だ。

  しかし、そんな小康状態にもすぐに終わりが告げらる。今度は、敵が先手をとり、拳を放った。

  それを、前に出た霊夢が結界で防ぐ。拳と結界の間には、バチバチと火花が散っていった。

 

  だが、それも長くは続かない。霊夢の結界に、少しずつヒビが入っていく。

  霊夢は確かにパワー特化ではない。だが、今まで霊夢の結界を貫通した攻撃の数など片手の指で足りる程だ。そんな結界を拳一つでぶち破ろうとしているそいつが、いかに異常かがよく分かる。

 

 

「霊夢、伏せて!」

 

 

  あわや結界が破られるか、という所で声が轟いた。それに反応した霊夢は、即座に結界を解除しその場でしゃがんだ。

  一方敵は、今まで押していた物がなくなったため、バランスを崩す。

 

  そこを狙って放たれたのは、何本ものナイフ。銀でできている咲夜自慢のそれは、普通の人間が食らったらひとたまりもない速度と威力を誇っている。

  しかし、こいつは先程魔理沙のマスタースパークをも耐えてしまった敵である。全身の筋肉を緊張させると、咲夜のナイフをすべて弾いてしまった。

 

  だが、ここまでの行動でそれは予想済み。咲夜の狙いは、ナイフを耐える時に生じるその間であった。

 

 

「早苗、今よ!」

「合点承知!!」

 

 

 

 

 奇跡『ミラクルフルーツ』消費MP:45

 

 

 

 

 

  早苗から発動されたスペルは、人の味覚を一時改変する奇跡の果物の名を冠したもの。その名のように、彼女の放った弾幕はこの広場いっぱいに広がり、敵の視覚を染め上げられた赤で改変する。

  そこに、さらに咲夜のナイフ投擲が続く。よく手入れされたそれは周囲の光を反射し、赤く輝いていた。

 

  早苗の視覚を奪う弾幕と、光の反射でそれに紛れる咲夜のナイフ。即興にしてはいい作戦だな、と魔理沙は思った。

 

  確かに、一つ一つの威力は小さいが、ひとたび食らって体勢を崩せば、何百もの弾幕を食らうことになる。先程のマスパが効かなかったのは向こうが耐える体勢を整えていたからであり、構えていない状態で攻撃を当てればあいつにも相応のダメージがあるのではないか。それがさっき伝えられた、咲夜の考えだった。

 

 

「……さすが咲夜だ。この短時間であいつを追い詰める術を見つけるなんて」

「そうね。これほど弾幕が展開されている状態ならば、あいつ自慢の機動力も意味がないし」

 

 

  霊夢が言うように、あいつは耐久力も高いが、機動力も半端じゃない。

  先程魔理沙はもう一度マスパを放ったのだが、あいつはそれを悠々と避けてしまった。そのおかげで、魔理沙は最後のポーションを消費することとなった。

 

  くそっ、もう無駄撃ちはできないな……

 

 

「畳み掛けるわよ!」

「っしゃ! まかせときなさい!」

 

 

 

 

 

 霊符『夢想封印』消費MP:45

 

 

 

 

  ここに来て、霊夢がさらにダメ押し。

 

  これなら、さすがのあいつも耐えられないんじゃないかな。

 

  魔理沙はそう考えながら、霊弾がそいつに迫っていくのを眺めていたのだが……

  次の瞬間、自らの目を疑うこととなる。

 

 

  そいつは、それまでは作戦通り、ナイフと弾幕のコンボに翻弄され、大きく体勢を崩していた。だが、霊夢のスペルが視界に入った瞬間、

 

  その目を大きく見開き、

 

 

「________っっっっ!!」

 

 

  体から気を放つと、

 

 

「……おいおい、そんなのアリかよ………」

「なるほど、心折設計ですね……」

 

 

  早苗の弾幕を消し去り、咲夜のナイフをすべて叩き落としてしまった。

 

  ……魔理沙は、夢想封印をなんなく避けるそいつを見ても、言葉が出てこなかった。

  他の三人も、呆然としている。

 

  くそ、まさかここまで強いとは……

  どうする? どうすればここを突破できる? ……アレを使うしかないか?でも、ただ撃っても避けられるしな……

 

  そいつは、幸いにも夢想封印を避けた後その場から動いていない。おそらく、さっきので力を大分使ってしまったのだろう、そう魔理沙たちは考え、その場で作戦をもう一度練り始めた。

 

 

「咲夜! 何か妙案はないの?!」

「そんな無茶言わないでよ! えーっと、あいつは動けないみたいだし、こっからもう一回畳み掛ける………………?!」

 

 

  その時、魔理沙たちは一つの可能性を失念していた。

 

  敵は先程から、持ち前の機動力と耐久力を活かして、常に拳を用いた接近戦を仕掛けていた。

 

  よって、忘れていたのだ。

 

 

 

 

 

 気符『地龍天龍脚』

 

 

 

 

 

 

  敵もスペルを使う可能性を。

 

  突如スペルを発動させたそいつに、魔理沙たちは動揺を隠せない。

  しかし、そんなこちらを向こうが待つはずもなかった。

 

 

「________っっ!!」

「うわっ!!! な、なんだこれ!?」

 

 

  そいつがその場に足を振り下ろすと、辺り一帯に小規模な地震が発生した。足元に、地割れが巻き起こり、壁が崩れ、天井からは岩の塊が周囲に落ちてくる。

  まさに、地龍が暴れているような状況だった。

 

  その突然の自然災害に、魔理沙たちは動くこともできない。

 

 

「な、なんという馬鹿力なんですか!?」

「ちょっとこれ、不味いわよね? 一時退却よ!」

 

 

  霊夢の言葉に、三人が体勢を立て直そうとする。だが、地面は割れ、壁は崩れ、さらには岩石が上から降ってくる。完全に向こうのペースに乗せられた。

 

  そんな中でも魔理沙は、慌てて箒を取り出して離脱を図る。

  しかし、それが許されることはなかった。

 

 

「まっ、魔理沙さん!! 前!!!」

 

 

  言葉に釣られて前を向くと、

 

 

「__________!!!!!」

「……っ!!!!!!」

 

 

  そこには “龍” がいた。

 

  魔理沙たちが混乱した隙をついて、敵が最初と同じように、超スピードで、今度は蹴りをくり出していたのだ。

  風圧によって激しくなびく赤髪は艶やかで、その体に纏った気は光輝いていた。先程の地震が “地龍” ならば、蹴りを放つこいつの姿はまさしく天を駆ける “天龍” だった。

 

 

  その間にも、そいつはぐんぐんと近づいてくる。蹴りに込められている気は今までで最も強く、食らえばひとたまりもないのは目に見えている。しかし、咄嗟に動くこともできない。魔理沙には、近づく赤髪を呆然と眺めることしかできなかった。

 

  ……万事休す、か。

 

  そして魔理沙は、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたが私を出し抜こうなんて、十年遅いのよ?」

 

 

  刹那、間近で聞こえてきた声に目を開くと、

 

 

「さっ……………咲夜!?!」

「ええ。魔理沙……………………

 

  あとは任せたわ」

 

 

  咲夜は終いまで言わない内に、魔理沙を突き飛ばした。

 

  そしてその次の瞬間、とてつもない衝撃と共に、魔理沙の真横を龍が駆け抜けていった。

 

 

「さっ、咲夜あああぁぁぁ!!!!」

 

 

  魔理沙はそいつが蹴り抜けた方に目を向ける。

  だがしばらくして、土煙の中に現れた人影は一つのみ。立っていたのは、赤髪のそいつだけだった。

 

 

「うそ、咲夜が…………」

「こ、このっ、人でなしーーっ!!」

 

 

  早苗の叫びも、虚しく響くばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 十六夜咲夜 が 脱落しました。3/5

 

 

 

 

 

 

 

  どれだけ頭を振り払おうとしても、魔理沙の頭の中は一つのことで完全に支配されていた。

 

  咲夜が倒された。

  この、私を庇って……………

  その気になれば、彼女はスペルの被害を受けなかったはずだ。

  しかし、咲夜は、私の目の前に現れ、私の身代わりになった。

 

  ……私が、ちゃんと回避が間に合っていれば、

 

  私が、最初のマスパであいつを仕留めていれば、

 

  私が、もっと強ければ、

 

  咲夜は、咲夜は………………

 

 

「くそっ、ちくしょぉぉぉ!!」

 

 

  魔理沙は叫んだ。自分の不甲斐なさに、情けなさに、弱さに。その叫びは広場の中を木霊し、また魔理沙の心に突き刺さる。

 

  弱い、弱い、弱い、弱い、私は弱い。友達を一人助けることもできない。

  いくらダンジョンをクリアしても、犠牲の上でのクリアなんて………

 

 

  ……しかし、今は戦闘の真っ只中である。敵が魔理沙の自責を待ってくれるはずもない。そいつは、呼吸を整えながら、ゆっくりと、だが確実に、魔理沙へと迫っていた。

 

  でも、今の魔理沙に攻撃を避ける気力など、残っていない。

 

  そいつが拳を振り上げても、魔理沙は動く気配も起こさず。そのまま拳は振り下ろされ……

 

 

『まったく、こんな言葉を知らないのかしら。諦めたらそこで試合終了、ってね』

 

 

  ……ることはなかった。

 

  突然魔理沙は顔を上げると、そいつの拳を寸前のところで回避した。

  しかし、魔理沙の視線は目の前の敵を捉えていない。

 

 

「い、今のは…………?」

『まったく、困ったものねぇ。

  ……っと、そろそろ “仕掛け” が発動する頃かしら。妹様、少々名前を拝借いたしますね』

 

 

 

 

 

 

 

 禁弾『過去を刻む時計』消費HP&MP:最大値の100%

 

 

 

 

 

 

 

 

  突如その場に発動したスペル。赤髪は慌てて距離をとり、次に何が起こるかを警戒していた。だが………

 

 

「_________!???」

「つ、次はなんなのよ……」

「こんなにいっぱい、ナイフが……」

 

 

  向こうだけでなく、こちらも呆気にとられることとなった。

 

  スペル発動と同時に展開されたのは……何十、いや何百では下らない数のナイフ。銀の短剣が広場一面に広がっている様子は、まさに圧巻である。

  そして、その全てが赤髪の方を向いている。それはまるで、さっきまで魔理沙たちの指揮を執っていた、瀟洒な時間操作者の得意技のようだった。

 

 

「まさか、咲夜………?!」

 

 

  その次の瞬間、ナイフたちは時間のしがらみから解放されたかのように、物凄い勢いで敵へと向かって放たれていた。

 

 

「___________っ!!!!!」

 

 

  次々と、雨のように押し寄せるナイフ。確かに、一つ一つの威力は大したことはない。しかし、視界全てに広り、銀に輝くそれには、誰もが怯み、隙を産み出すことだろう。

  それは赤髪も例外ではない。なんとか体勢を立て直そうとしているが、一つ撃ち落とすと新たに十ものナイフが訪れる状況に、明らかに動揺している。

 

  そして、この状況こそ先程から魔理沙たちが求めて止まないものだった。

 

 

「魔理沙っ、今よ!」

「っああ、わかってるぜ!」

 

 

  いくら体勢が整っていたからとはいえ、奴は私らの()()()()最高威力を耐えた。なら、出し惜しみをしてる場合じゃないぜ。

 

  ……咲夜の為にもな!!!

 

 

 

 

 霧雨魔理沙 は どうする?

  HP 233/504 MP 215/215

 

  こうげき

  スペル

 →アイテム

  にげる

 

 

「アイテムセット、『賢者の石』!

  もやしから拝借した最後の一個だ! 食らえっ、私の最大火力!スペル発動っ!!」

 

 

 

 

 

 

 魔砲『ファイナルスパーク』消費MP:100 ※属性補助必須

 

 

 

 

 

  そこに生じたのは、七色の閃光。星のように光るマスタースパークとは違い、五曜の力をまとう、魔理沙の『魔砲』は、彼女自身の操る月や星の光と合わさり、ダンジョンの奥に虹を架けていた。

 

  迫る閃光に危機を察知した赤髪だったが、時すでに遅し。マスタースパークの何倍もの威力を誇るそれが、周りの物もろとも吹き飛ばしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……敵は討ったぜ、咲夜」

 

 

  戦闘を終え、一息をついていると、魔理沙の元へ二人が駆け寄ってきた。

 

 

「さっすが魔理沙さんです! さっきの魔砲、素晴らしい威力でした!!!」

 

 

  強敵を倒した興奮からか、早苗は息巻き迫ってくる。

  それとは対照的に、霊夢はどこか腑に落ちない様子だった。

 

 

「……ねえ、魔理沙。咲夜は倒されたのよね? なのにさっき発動したスペルは、どう見ても咲夜のものにしか…」

「それは、だな、」

 

 

  霊夢の最もな疑問に、魔理沙は答えようとして、僅かな間目をそらす。

  見れば、その顔は、どこか苦しげな表情をしていた。

 

 

「……辛かったら、無理に言わなくてもいいのよ?」

「…………いや、大丈夫だ。

  きっと、咲夜もこう言うだろうからな。『これが一番手っ取り早かったわ』って」

「それは……どういうことですか?」

 

 

  早苗はより謎が深まったと言わんばかりに、魔理沙の言葉に口を挟む。霊夢は既に納得した表情をしていたため、このままでは会話が終わってしまうと判断したのだろう。

 

 

「……あいつが私を助けたのは、私を助けるためだけじゃなかった、ってことだぜ」

「へ?」

「多分だがな。ほら、あいつの最後のスペルは、使ったら自分の体力とか全部なくなるだろ?」

 

 

  魔理沙の説明にも、早苗はまだ結論が見えないようだ。

 

 

「そんな技を使ったのに、全てが防がれた! ってなったら、無駄死にもいいとこじゃないか」

「はあ、それはそうですが……」

「それに、そのためだけに自分の命を犠牲にするのも、なんかこう、勿体ないじゃない?」

「…………………は?」

 

 

  魔理沙に続いた霊夢の言葉に、いよいよ早苗は訳が分からなくなったようだ。当たり前である。命に勿体ない、という言葉を使うことなんて、普段はないだろう。

 

 

「だからな、あいつは “敵が大技を使用した” っていう、防がれにくいタイミングで、私を助ける “ついで” に、あのスペルを発動したんだ」

「………………」

 

 

  なるほど、咲夜の考えそうな、効率的な行動である。彼女の選択肢に、“いのちをだいじに” はどうやら存在しないらしい。

  それに、あの一瞬でそこまで考える咲夜に、改めて早苗は感心するのだった。

 

 

「……まったく、反則もいいとこよね」

「ああ。だが、この勝負にルールなんて存在しないからな」

「あははっ、反則まで手札に入れてるなんて、さすが咲夜さんですね」

 

 

  早苗が笑うと、釣られて二人にも笑顔が戻った。

 

  ……よかった。魔理沙さんがようやく笑いました。このまま、ゴールまでたどり着きたいですね……!

 

 

「……さあ。それじゃ」

「ええ。あとは」

「はい! 残すは……」

 

 

  三人は、視線を前に向けた。その先には、先程の『魔砲』の余波で吹き飛ばされた巨大な扉の代わりに、砂煙とその向こうの空間が広がっている。

 

 

「お宝だぜ!!」「お宝だわ!!」「宝物です!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  **

 

 

 

 

 

  時に、外の世界には、“中ボス” という概念があります。

  その多くは、雑魚敵より少し強い程度で、倒すとボスに向けてや、マップを進めるのに重要なアイテムをドロップする、といった役回りですね。

  しかし、たまに異様なほど (時にはボスよりも) 強い中ボスなんかもいます。そういった奴らは、なんとか突破しても、その次のボス戦で回復薬が切れてGAME OVER、なんてことを引き起こしたり、次のステージへと進むことを阻害したりする厄介者です。まあいわゆるエアー○ンが倒せない状態ですね。

 

  そしてそれは、幻想郷でも例外ではないようです。

 

 

「嗚呼、我ここまで苦節十数年、最期に願うのならば『わが生涯に一片の悔いなし!!』と言って散りたい……」

「何をごちゃごちゃ言ってんだ、早苗! ほら、攻撃が来てるぞ!」

 

 

  魔理沙の声に、早苗は慌てて我に返ってその場を離脱する。

  すると数瞬後、今まで早苗がいた場所に、数、質量ともに桁違いの弾幕が押し寄せた。

 

  なんとか門番を突破した魔理沙たち。そんな彼女らに最後に待ち受けていたものはしかし、過酷な現実。

  宝に向けての、更なる試練だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  砂煙の立ち込める中、三人は元門のあったところをくぐり抜けていた。

 

 

「しっかし結局、この扉はなんでこんなに大きかったのかしら?」

「そりゃあれだろ、大きいほうがラスト感がするからな」

「やっぱり魔理沙さんもそう思いますよね! 大きいの、カッコいいです!」

 

 

  二人はそう話すが、霊夢はやはり納得しない様子である。

 

 

「うーん、それだけじゃない感じがするのよね……

  なんかこう、悪い予感が……」

「おいおい、霊夢がそう言うと洒落にならないからな、止めてほしいぜ」

 

 

  話ながら歩いているうちに、砂煙もだいぶ収まってきていた。

  そこで三人は、お宝を求めて視線を前に向ける。どれ程キレイなのか、どんなに珍しいものが待っているのか、どれくらいで売れるのか。それぞれが期待に胸を膨らませていた。

 

  しかし直後、魔理沙たちの視界が捉えたのはお宝などではなかった。代わりに、五メートルはありそうな巨大な影が、ゆっくりと上下に揺れ動いていた。

 

 

「おいおい、なんなんだよあれは……」

「ほらね、だから言ったでしょ」

 

 

  魔理沙たちが見つけたそれは、正真正銘のラスボス、金色の体毛をもった獣だった。その毛は、先程の広場と同じくらいの大きさがある、扉の奥の空間に灯された火に照らされ、キラキラ輝いている。

 

 

「しかし、さっきからやけに静かなやつね」

「……あ、見てください。こいつ、寝てますよ」

 

 

  ……さっきから衝撃が響いていたはずなのに、そいつは気持ち良さそうに九本の尻尾を揺らしながら、眠っていた。なんともまあ、肝の据わった奴である。それがラスボスたるゆえんであろうか。

 

  ……あ、目覚ました。

 

 

「クワァ_______________」

「欠伸してますね」

「なんか、トロそうなやつだな。狙うなら、寝起きの今じゃないか?」

 

 

  そう言うと、魔理沙は自らのスペルを発動した。

 

 

 

 

 

 恋符『マスタースパーク』消費MP:60

 

 

 

 

 

 

 

  本日何度目になるであろうか、星の力で輝く魔理沙の『恋符』は、何者にも遮られることなく、金髪の顔面へと吸い込まれていった。

 

 

「……避けなかったわね」

「うわぁ、痛そう。というか、顔面ヒットはノーカンですよ」

「何の話かは知らんが、コレ一発で倒せるとは思ってないぜ。さっきの例もあるし。

  それよりも、結構いいダメージが入ったはずだ。赤いやつは耐える姿勢を整えていたけど、こいつはモロに食らったからな」

 

 

  金髪の方を向いた魔理沙に釣られて、二人もそいつへと目を向けた。

  するとそいつは……

 

 

「_____________クワァ」

 

 

  欠伸をした。

 

 

「……どう見ても、全然効いてないんだけど」

「お、おかしいぞ!? さすがにダメージゼロって……

  くそっ、どんだけ固いやつが多いんだよ、ここは……」

「なんかさっきもこんなやり取りした気がしますね。ああ、これがデジャヴってやつでしょうか」

 

 

  魔理沙たちは呑気に会話をしていたが、その一方で金髪は、ゆっくりとだが、動き出していた。見れば、さっきよりも目が開いている。

 

  ……不味いな。もしかして、マスパがいい目覚ましになったのか?

 

  そう魔理沙が思っていると、伸びをしていたそいつが、こちらに気付き、顔を向けてきた。

 

  その目は、ネズミを見つけた、暇をもて余すどら猫のようにギラギラとしていて。

 

 

「あ、コレ、不味いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 夢符『夢想亜空穴』消費MP:50

 

 

 

 

 

 

  霊夢がスペルを発動し、異空間へつながる穴を開く。それとほぼ同時に、雨のような弾幕が押し寄せた。

  いや、それは雨などでは事足りない。全天の星々が、一点に集中して落ちてきた、そんな勢いだ。

 

  ……霊夢が、得意の結界術を使わなかった理由はこれか。この弾幕の量では、霊夢の結界であっても長くはもたないだろう。というか、今も穴から溢れた弾幕が押し寄せている。それだけで、私達に向かって、それなりのスペカくらいの量の弾幕が襲っていた。

  ちょっと、これは桁違いが過ぎるぜ。

 

 

「そろそろスペルの効果が切れるわ。二人とも、退避!」

 

 

  そう言うと、霊夢は魔理沙と早苗が引いた頃合いを見計らい、スペルを解除。そして自分も避難する。その直後、数え切れないほどの弾幕によって、元三人がいた所が飲み込まれた。

  もしあそこに生物がいようものなら、生きて帰ってこられるのは蓬莱人くらいだろう。

 

 

「これまた、厄介過ぎる敵が出たもんだ……」

 

 

  クリアまでの道のりが易しいと、終わったときの達成感も薄れる、とはよく言ったもんだが、これはいささか厳しすぎではないか。強敵二連戦とか聞いてないぜ。

 

  そう魔理沙は愚痴をこぼす。しかし、その心から、勝利への希望はこぼれていないようだ。魔理沙は一度、ニヤッと笑顔を見せた。

  果たしてその笑顔は、勝利への余裕か、それとも恐怖を紛らわすためのものなのか。

 

 

  三人はまた、一体となって、巨大な敵へと立ち向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ……までは良かったのですが、一向に光明が見えません。

  なんですかあいつ、さすがに固すぎですよ。なんなんですか、メタルスラ○ムですか、それとも輝石ポ○ゴン2ですか。あと、攻撃力も高すぎです。攻撃と防御、どっちのステータスもマックスまで振れるなんて、どんなバグを使ったんですか。

 

 

「はい、現実逃避はお仕舞い! 早苗、ちゃんと敵を見なさい!」

 

 

  突如、声を掛けられた早苗だったが、先程ので学んだのだろうか、特に危なげもなく攻撃をかわした。

 

  しかし、早苗の心の声のとおり、三人にはもう打つ手が残っていない。戦闘が始まってから今まで、ずっと防戦一方だった。

  それもそうである。何せ、彼女らの最高威力、マスタースパークが効かないのだから、他の技が通用するはずもない。

 

  そろそろ、三人のスタミナにも限界が来ようとしていた。

 

 

「くそーっ、おら! これでも食らえ!

  アイテム、『ディープエコロジカルボム』!!」

 

 

  魔理沙は半ばヤケクソ気味に、アイテムを投げつけた。さすがの彼女も、通じないとわかっていてスペルを連打することはないようだ。

  だが、そんな攻撃が通じるはずもなく、魔理沙の投げたボムは手で払われて明後日の方向へと飛んでいく。魔理沙も予想はしていたが、やはり軽くあしらわれるのはいい気分ではないようで、少し落胆していた。

 

 

「ああもう、どうやって倒せば

『ドカーン!!』

 

 

  その言葉は最後まで紡がれなかった。

  音のする方を見ると、天井の岩が崩れ、軽い雪崩のようになって金髪の背中へと降り注いでいた。さっきの魔理沙のアイテムが、弾かれた後天井に衝突して爆発したのだと思われる。

 

  もちろん、三人のスペルにも全く動じずに、そのまま受け止めるそいつが、岩ごときでやられるはずもない。

  金髪は、降り注ぐ岩を、何気なく回避した。

 

 

「あーあ、今の雪崩で埋まってくれればよかったのに」

「ほんとねー。そろそろ疲れてきたわ」

 

 

  霊夢と早苗は不満の声をあげた。言っていることは適当だが、その言葉一つ一つに力がないため、この長期戦にて二人も相当疲弊しているのがわかる。

 

  ただ、そんな中。先程までとは様子の違う者が一人いた。

 

 

「あら、どうしたの魔理沙? さっきのアイテムが通じなかったのがそんなに悔しいの?」

「……回避?……………私たちのは…………岩………ではないな、じゃあ………背中側?……………」

 

 

  魔理沙は一人うつむいて、なにやらブツブツ言っていた。一見すると呪文の詠唱にも見えるが、彼女はここまで詠唱が必要な呪文を使ったことがない。

 

 

「なんか、らしくないわね。いつもなら、『マスパだーっ!』とか言って……」

「そうか、そういうことか!!!!」

 

 

  霊夢と早苗が物珍しげに観察していると、突如として魔理沙が大きな声を放った。

  そしてそのまま、突然の事態に驚いている二人には見向きもせず、箒を取り出す。

 

 

「っしゃ! うなれ、私のスペル!!

  加速度マックスだぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 彗星『ブレイジングスター』消費MP:50

 

 

 

 

 

 

 

  そのまま魔理沙はスペルを発動すると、ものすごいスピードで金髪の元へと向かっていった。

 

 

「ちょっ、魔理沙!? 何やってんの、自爆でもする気!?」

 

 

  むろん敵も、飛んで火に入る虫を見過ごすはずもない。手を振り上げ、まさに虫を叩き潰すように待ち構えた。

 

  だが魔理沙は、ある二つのことに気づいていた。

 

  刻一刻と迫る、巨大な腕。しかし魔理沙はそれをこれまた凄い速度で回避し、その勢いのままそいつの背中側へと回った。

 

 

「一つ、お前は遅い! 攻撃と防御が高すぎるせいで目立たないが、二人もこいつの動きには着いてこられるはずだぜ!!」

「速さが足りない!! ってやつですか」

「そしてもう一つは……」

 

 

  そう言うと魔理沙は、ブレイジングスターの余波を、そいつの尻尾目掛けて放った。

 

 

「グガァァァ!!!」

「あれ? なんかあいつ、苦しそうですよ?」

「やっぱりそうか!」

 

 

  魔理沙は箒で空中に浮いたまま、二人にむかって大きな声を掛けた。

 

 

「霊夢、早苗! こいつは、尻尾が弱点だ! さっき岩が降ったとき、そいつで尻尾が潰されないようにしてたからな!」

「なるほど、ベタですね!! どこぞの野菜人ですか!!」

「でかしたわ、魔理沙!!」

 

 

  魔理沙が発見した敵の弱点を聞いて、二人の顔は再び活力を帯びる。

  これまでずっと倒し方がわからず、光が見えていなかったためか、霊夢と早苗は、その心に、希望を溢れかえらせていた。

  魔理沙も、突破口を見つけて得意げなのか、それとも安堵しているのか、金髪の近くを浮遊していて、

 

 

 

 

  …………刹那、その姿に影が落とされる。

 

 

「っ!!! 魔理沙っ、後ろ!!」

 

 

  霊夢がいち早く気付き、声を掛けた。が、その時にはすでに魔理沙の身体は、全長でいえば八メートルは越える獣の、手の中にあった。

 

 

「「魔理沙!!!」さん!!!」

 

 

  魔理沙は必死にもがくが、自分を掴む手は微塵も動く気配がない。

  一方、そいつの目は、おもしろいものを見つけた、とでも言わんばかりにギラギラと魔理沙を見つめていた。

 

  その状況はまさしく、猫に追い詰められた鼠。違う言い方をするならば、無邪気な子どもによってつままれた、蟻であった。

 

 

「だがなっ、窮鼠猫を噛む、とも言うぜ! お前の弱みはもう握ってんだ、だからこいつで……」

 

 

  それでも、魔理沙は猛る。

 

  ここまで散々苦労して、犠牲も払って、ようやく最後のところまでたどり着いたんだっ! これくらいで、諦めてたまるかっ!!

 

  そして、魔理沙はミニ八卦炉を取り出し、スペルを唱える。

 

 

「狙うは尻尾! 九本もあるんだ、どれかには当たるだろ!!

  食らえっ、私の思い! マスタースパァァ……」

 

 

 

 

 

 

 

 恋符『マスタースパーク』消費MP:60

 ※MPが足りません※

 

  現在MP 5/215

 

 

 

 

 

 

「……マジか」

 

 

  その思いは、届かなかった。

 

  その後すぐに、弾幕を展開する金髪の姿が目に入る。彼女の視界は、一瞬にしてまばゆい星に染まった。

 

  …ああ、これはもう、駄目だな…………

 

  魔理沙にはもう、今のMPで繰り出せる技も、アイテムもない。霊夢や早苗も、この一瞬で、魔理沙がブレイジングスターを使って詰めた距離を踏破することは出来まい。

  魔理沙にただ出来ることは、迫り来る星々をぼんやり眺めることだけだった。

 

  そしてそれが目前まで来たとき、ふとあることを思い出した。

 

 

 

 

  ……咲夜、すまないな……………

 

 

  そして、そのまま、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  魔理沙は、目の前が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧雨魔理沙 が 脱落しました。 2/5

 

 

 

 

 

 

 

 

 





一部スペルの技の改変が甚だしいですが、どうかお許し下さい。

  まあ、過去を刻む時計は名前を借りてるだけで、ほぼオリジナル技ですし……
  夢想亜空穴は、元々瞬間移動してるんだから、異空間への隙間くらい開いてそうですし……


  あと、咲夜さんが最後にやった所業は、某ポ○モンで例えるならば、絶対零度を食らいながら大爆発をする、ってとこですね。
  そりゃ反則だよ。アニメ版では普通にやりそうですが。

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