サクッと読んでいただければ。
突然だが、俺には双子の弟がいる。
何というか、よくわからない奴だ。
外には出ないし口数は多くないし、体つきも、部活でそこそこに筋肉をつけている俺とは対照的にひょろっとしたもやしみたいな物だし、肌だって俺よりずっと白い。
何を考えているのかよく分からないし、あまり言葉を交わすこともない。
昔、家族旅行に行った時だって、そういう弟との関係を気にしたらしい親が部屋を二つに分け、そのうちの一つに僕らをぶち込んだのだが、何を話したらいいのかよく分からなくって、ぎくしゃくした雰囲気のままに夕飯、風呂、就寝と時間が過ぎてしまい、旅行自体は充実したものであったが、なんとも微妙な気持ちで帰路につくこととなったのである。
そんな微妙につき合いづらい弟ではあるのだが―――別に俺はこいつが嫌いっていうことは全く無いが―――何だかんだで細かいところに気がつくし、さりげない気遣いもできる奴だし、俺の知らないこともたくさん知っている。
極まれに一緒にやるゲームでも、弟はなかなかにやり込んでいるみたいであるのに、俺に合わせてうまいこと拮抗している様に見せかける。
実際、友達に言われるまで気づかなかったのだし。これが俗に言う「せったいぷれー」ってやつなんだろう。
まぁ、そんなこともあって、旅行での一件以来、俺はその弟ともう少し仲良くなれれば、と考えていたのだが、そのチャンスは案外早くに訪れた。
誕生日だ。
1週間もすれば、弟は誕生日を迎えるのである。何故だか知らないが、弟は率先して人と関わろうとはしない。こう言うとなんだか協調性のない人間みたいに見えるが実際にはそんなことはなく、行事には普通に参加するし、話しかけられれば普通に話もする。
ただ、自分からは基本的に行動を起こさない。それが俺から見た弟の他人に対する基本的なスタンスだった。だからこそ、俺もあんまり話したことが無かった訳で……
「そんな弟と仲良くなるには、まずプレゼントを渡すことから始めればいいと思うんだ」
「ははは、それはまたすごく唐突な話だね」
秋じめりで冷えた空気の中、芦原は困ったような顔をして言葉を返した。
芦原は俺のこういう話を何でも聞いてくれる数少ない友人で、とてもいいやつだ。
いいやつで……うん、いいやつだ。
お前明らかにスポーツやってるだろって顔してる割には特に何かできるわけでもなく、勉強は中の上、別段すごい趣味とか持ってるわけでもない。けど、なんとなくそばに居てたのしい。
そんなやつだ。
「まぁ、確かにあの子はよく分かんないもんねぇ」
ちなみに、弟と俺は違う学校に通っている。あいつは勉強ができるから、中学受験をして違う学校へ行ったのだ。すれ違いが多いのもきっとそのせいだ。
「で、プレゼントを渡して、そこを起点に仲良くなっていこう、と。」
「ご明察。というわけで、何か案をくれ。高いのは無しで。」
「んー、まぁまず考えつくのは、彼の趣味に沿ったものとか、嗜好品だよね」
「……」
「僕もそんな喋ったことないし、まぁインドア派っぽい感じではあったよね…って、どうしたの?」
「分からん」
「へ?」
「アイツの好み、全然分からん」
「えぇ……兄弟なんだよね?それも双子の。」
「そう言われても、分からんもんは分からん」
そうなのだ。弟は俺が家に帰ってもたいてい出かけるかゲームしているかで…唯一分かりそうなゲームに関しても俺には知識がいまいち足りない。
ソフトを買うにも何が欲しいのか分からないし、何より高い。俺のお小遣いにゲームを余分に買うだけの余裕など、無い。
「無難なところだと、日めくりカレンダーとか、目覚まし時計とか…」
「カレンダーはあるし、アイツ早起きだからなぁ」
「そっか……まぁ必要ないなら仕方ないよね。他に思いつくのは……クッションとか?」
「クッション? クッションか……いいな、それ採用で」
「えらくあっさりしてるね」
そりゃあ、そんなに金かからんし、はずれはなさそうだし。
「まぁ確かに悪くは無いと思うよ。あって困るもんじゃないしね」
「うんうん……で、だ」
「ん?」
「クッションってどこで売ってんの?」
「え?この辺だと……あれ、どこだろ……」
「デパートとかにあんのか?」
「あるとしても、高そうだね」
「あ、そうだ、雑貨屋さんならあるだろ、何かしら。たぶんだけど。よし、帰りに寄ってこうぜ」
「え?僕も?」
「もちろん。お前の感性はあてになるからな」
「ちょっと、それは買いかぶりだよぉ」
「まぁまぁ、どうせ暇だろ? ちょっとくらいつき合ってくれよ」
「ううん、まぁ暇ではあるけど……まぁいいか」
何とか芦原を籠絡(¿)することに成功したようだ。正直俺だけだとどうなるか分からなかったので、助かった。
「俺、雑貨屋の場所とか知らないし、助かったよ」
「え?僕も知らないけど?」
「え?」
「えっ?」
えっ。
芦原が
いようがいまいが
一緒じゃん。
俺、心の一句。
***
「はぁ……見つからんなぁ」
「そうだねぇ」
あの後、時間はある訳だし折角だから雑貨屋さん探しをしよう、という結論に至った俺達は、一旦家に帰った後、荷物を置いて集合し、そのまま出かけたのだった。ちなみに、家に弟はいなかった。
自宅周辺には雑貨屋が存在しないことは分かりきっているので、今回は思い切って隣町に出かけてみたのだが…
「えっと、ここってどこだっけ……」
「んーと、一応この通り抜けたらもうこの町通過しちゃうっぽいね」
わけもわからず歩けばこのざまである。芦原がいなければ帰り道も分からなかったであろう。さっきの川柳は撤回である。芦原がいないとだめだった。
それにしてもかれこれもう3時間程は歩いている気がしているのだが、
「まだ歩きはじめて1時間とちょっとだよ」
ええい、思考を読むな!気持ち悪い!
それだけ歩いてもそれらしい店は見当たらない。
「結構な距離だねぇ。この分だと、帰りは電車の方がいい」
「かなぁ。あー、余計な金使いたくねぇな」
「でも流石に歩いて帰ると遅くなるよ」
「あー、確かに。」
現在の時刻は6時30分である。もう日はほんの少し赤みを帯びて、秋の雲がゆらゆらと漂っているというのに、これから雑貨屋を探し、歩いて帰ったのでは確実に夜の8時を回るだろう。
そうなると両親に大目玉を食らうので、それはぜひとも避けたいところだった。
「流石に、この時間じゃ鈴虫も鳴かないね」
「そりゃあ、日が暮れてからだもんな、アイツらがうるさくなるのは」
「でも、それはそれで風情があると思わない?」
「いや、全く」
「あはは、まぁ、人それぞれだよね」
俺は虫が好きじゃないし、風情だの風流だのといった物のよさは全く分からない。芦原にはそういったものの良さが分かるのだろう。
そういえば、弟はこういうの好きなのだろうか。
「何となくだけど、アイツとお前、タイプ一緒な気がするんだよなぁ」
「そう?」
「あぁ。何となく、何となくだけどな?」
「あぁー……、まぁ確かに僕もゲームとかはやるけどさ……」
「何だ?不服か?」
「いや、君の弟くんは、話を聞く限りあんまり人と接して無さそうだから」
「まぁそうだね」
「僕は君とたくさん接してるでしょう?」
「あぁ、要するに友達多いぞ―ってか」
「そういうこと」
そうですか。
「あ」
「どうした?」
「ほら、アレ」
芦原が指で示した先にあったのは、小さな……小屋?なんとも形容のしがたい、小奇麗な外装の店があった。街角の高い屋根に光を遮られて、若干暗い印象を持つそれは、一目見ただけでは雑貨屋さんには見えないだろう。
せいぜいが骨董屋である。
特にこの見るからに重厚な雰囲気を放つドアを見て「あ、これは雑貨屋さんだぞ!」なんて思う人は、滅多にいないと思う。もしいたら、腹おどりしてやったっていい。
うん、断言する、絶対にいない。
「アレ、雑貨屋?」
「うん、たぶん。ほら、そこの窓見てみなよ」
「どれどれ……おぉ」
なるほど言われてみれば、小ざっぱりした店内から暖かい光がわずかに漏れだしている窓の中には、小物やらアンティークやらお菓子やらが並べられているのが分かった。
どうやらやっと当たりを引いたらしい。
「よし、吶喊だ」
「普通に入ろうね」
ノリが悪いのはダメだぞ、芦原。
***
「クッション、クッション……あ、これなんかどうだ」
「へぇ、青いクッションかぁ。円形だね。中身は綿、と。いいんじゃないかなぁ。あの子、何色が好きなのか知らないけど」
「きっと青だぜ。俺が赤色好きだし」
「意味が分からないね」
店内に入ってみると、思ったよりも奥にスペースが広く取られている様で、品物は素人目に見てもなかなかに重充実しているようだった。少し薄暗いともとれる微妙な明かりがなんとも言えない。
「他にもホラ、前にゲームやってた時も青いキャラクター使ってたし」
「へぇ、何のゲーム?」
「……メガマン……だっけか……」
「海外版!?しかもそれ青いキャラしか使えないよ!?」
「え、そうだったのか?でもクッションってこれしか置いてないっぽいんだけど」
「そうなの?」
「あぁ、ごめんね。ホントは赤と青の二色あったんだけど、ついさっき売り切れちゃってね」
二人で弟へのプレゼントを探していると、レジ近くに居た店員さんがいつの間にかこちらの近くにまで来ていて、声をかけてきた。
「うわぁ、びっくりした。そうなんですか?」
「あぁ、ごめんごめん。何でも誕生日プレゼントらしくてね。古島町からわざわざこんなところまで来るなんて、物好きもいたもんだねぇ。」
「え?古島町?」
「うん、そうだけど」
「これは驚いた。俺らも古島町なんですよ」
「そうなんだ。奇遇だねぇ」
「まぁ、俺らは俺らでこれを買うだけだけどな!赤は俺が好きなだけだし!別に問題は無い!」
「ラッピング、お願いできますか?」
「はいはい、お安い御用」
クッションをラッピングしてもらい、購入完了。お値段なんと1800円。
良い買い物ができたと思う。
「こうやって触ると気持ちいいな」
「こらこら、贈り物なんだからあんまり触っちゃだめでしょ」
「おっとと、そうだそうだ。あー、これ俺が欲しいくらいだな…もう一個買おうか」
「お金ないでしょ」
「お金はないがワカメがあるぞ」
「無いよ」
「無いな」
何はともあれ、これで準備は整った。あとは機を待つのみである。
「へへへ、楽しみだぜ、アイツ、喜ぶかな」
「喜ぶ喜ぶ、兄弟からのプレゼントなんだし、別に仲が悪い訳じゃないんでしょ?」
「まぁな」
「じゃあ大丈夫だよ。仲良くなれるといいね」
「おう、そしたらお前にもちゃんと紹介してやるさ」
「ははは、よろしくね」
今日はそのまま電車に乗って、家に帰った。
家に帰ると弟も帰っていたが、相変わらず、言葉を交わすことはできなかったのであった。
***
「両親が弟の誕生日まで帰ってこなくなった」
「……はいぃ?」
流石の芦原もこれには驚いたらしく、箸でつかんだ卵焼きを落としてしまったことに後から気付いて、慌てて拾ったが、すでに床のゴミが付着していたらしく、泣く泣くティッシュにくるんでゴミ箱へ捨てていた。人の不幸で飯がうまい。
「これまた急な話だねぇ」
「まぁ、うちの両親だしな。でも問題はそこじゃない」
復讐と言わんばかりに俺の弁当のウィンナーをかっさらおうとする芦原の箸をかわしながら答える。そう、問題はそこではないのだ。
「あぁ、うん……まぁだいたい分かるけどさ」
ちなみに弟の誕生日の日付は10月8日。今の日付は……
「あと3日間、弟と二人なんて気まずいにも程がある」
3日、3日である。短いようで、意外と長い。
その間、家に居る間はずっと、あんな空気のままだなんて、俺には耐えられそうもない。
「んー、何とか一緒に時間つぶしはできないの?」
「俺はあんまゲーム好きじゃないし、逆に弟は跳んだり跳ねたりは好きじゃない」
「あぁー……じゃあ、一緒にどこかへ出かけるとか」
「男二人でか?冗談じゃない。だいたい行く場所も思いつかん」
「ですよねー……」
「まぁ、打開策はもう考えてあるんだ」
「へぇ、聞いてもいいのかい?」
「あぁ……。誕生日……前倒しだッ!」
「……えぇー…」
こうして、予定より2日早いお誕生祝いが行われることが決定した。
***
「おはよう」
「おはよう、兄貴。飯はもう置いてるから」
「わかった」
弟は既に朝食も終えているようである。両親がいないとはいえ、パンやカレーなどを大量に作って行ってくれたので、食料には困っていない。
「じゃ、行ってきます」
「おう、行ってらっしゃい」
弟は俺とは違う学校に通っていて、通学方法も電車だ。よって、俺よりも朝は早い。
そういうこともあって、余計に話す機会は減るのだが、今日に限っては好都合だった。
「へへへ、首を洗って待ってろよ……」
用法が違う、とツッコミを入れる人間は、ここにはいなかった。
***
「芦原、芦原。そういえばお前は何かプレゼントとか用意してるのか?」
「え?あぁ、やっぱりそういう流れだったんだ……」
「え?」
「いや、ね。特に何も言われなかったから僕は行かない方がいいのかなって。あ、もちろんプレゼントは用意したけどね。何となく必要になる気がしたから。お菓子だけど」
そう言って芦原が取り出したのは500円くらいのお菓子だった。多分昨日の帰りにデパートで買ったんだろうな。
「あれ?言ってなかったっけ」
「全く。」
「あ、なんかごめん……」
「別にいつものことだしいいよ。それに、君の弟にも久しぶりに会いたいしねぇ」
「いつものこととはなんだ……って思って思い返してみればホントにいつものことだったな」
「うん」
遊びに誘ったはいいけど場所決め忘れてたり。何するかも決めて無かったり。
野球しようぜ!って言って芦原以外誘うの忘れてたり。
ちなみに、そのいずれも芦原が助けてくれたのだが。
何気に芦原って凄くないか?勉強も運動も微妙だけど。
「とりあえず、放課後はもうそのまま家に来ればいいよ。実はもうお菓子とか俺の机に隠してあるからな」
「へぇ、僕も手伝った方がいいんだよね」
「その為に呼んだんだしな!」
「潔いね。」
「褒めるなよ」
「照れるなよ」
微妙に殺伐とした空気のまま、この休み時間は終わりを迎えた。
***
「しかし、よかったねぇ。弟くんが先に帰ってなくて。」
リビングの飾り付けを進めながら芦原は言った。今は紙で作ったリングを壁に貼っているところだ。
「あぁ、今日は帰るのが遅めなんだ。あらかじめ聞いてた」
「珍しいね、君がちゃんと下準備をするなんて……」
芦原は驚いているが、それだけ本気だということだ。弟はこの日は補講があってちょっと遅れるのだとか。
流石に誕生日2日前にフライングしてお祝いされるなんて、夢にも思うまい。
これでいいのだ。
「まぁ、当日だと被るしね」
「え?何が?」
「え?」
え?
「……まぁ、今は気にする事じゃないよ。」
「そうなのか?まぁ、今はこっちに専念だな」
「と言ってももう終わるけどね」
芦原の言ったとおり、作業は既にほぼ終了していて、あとはお菓子をセッティングして終わりである。弟が帰ってくるまでには、まだまだ時間があった。
「せっかくだし、ゲームでもしない?」
「俺あんまり知らねえぞ」
「まぁ、たぶん僕が教えてあげられる」
「そうなのか」
どうやら暇になる心配はなさそうだった。
***
「もういい……もういいんだ……」
「あはは、なんかごめんね」
俺の友達はゲーム好きだったようだ。幸い、芦原にも分かるゲームがあったらしく、何度か弟とやったこともある、某配管工だの電気ネズミだのピンクの悪魔だのがしのぎを削るオールスター対戦ゲームをプレイしたのだが……
「勝てない」
「まぁまぁ」
芦原が強すぎて話にならない。いや、俺が弱すぎるのか?とにかくホントに勝負にならない。でも素人相手に脱出不可能な投げ連とかしかけてんじゃねぇよ!
「よし、ぷよぷよだ。ぷよぷよなら負けんぞ。5連鎖までできるから」
「へぇ、面白そうだね。」
…
……
………
「何だよ……お前なんだよ……7連鎖とか知らねえよ……」
「あはは、ごめんね」
今思った。こいつはイヤな奴だ。俺を弄んで遊んでいるのだ。これだからゲームという奴は。あぁ、畜生。弟はもっと手を抜いてくれ……といっても手を抜かれるのも嫌いなので、やはり俺にゲームは向いてないんだろう。
「とりあえず、ちょっとジュース持ってくる」
「え?まだ弟くん帰ってきてないんじゃないの?」
「飲まなきゃやってられるか……!」
「そんなおっさんみたいな」
余裕のある微笑を浮かべたままの芦原を尻目に、リビングの冷蔵庫を開き、2リットルのスプライトを開ける。
別にスプライトを開けたところで、ジュースはまだまだあるのだ。
コップ一杯のスプライトを一気に飲み干す。
炭酸でむせた。痛い。
「何やってんの?」
弟がいた。帰って来たのに全く気づいてなかった。何故、どうして、と戸惑いながら時計を見ていると、短針はすでに7と8の間を指していた。
「え、えぇと…芦原ー!芦原ー!」
「えぇ?」
「呼んだ―?って……」
「……」
「……」
「お……」
「お?」
「「お誕生日おめでとーーー!!」」
「お誕生日今日じゃねぇよ」
冷えた顔でもっともなツッコミを入れずにはいられない様子の弟だった。
***
外はすっかり暗くなり、乾いた秋の涼しい風が部屋中に浸透していくのが分かった。
爽やかな秋風。快適な環境。
あぁ、世界はこんなにも優しいのである。
しかし、今の状況はどうだ。爽やかな風とねっとりとした重苦しい雰囲気を同時に感じるというなんだかよくわからない事になっている。
弟の機嫌がすこぶる悪いのだ。
「……」
「いや、だってよ?ちょっとくらいずれたっていいじゃん?なんか普通にやるのも嫌だったかし……」
「まぁ、サプライズには……ならなかった?」
先ほど事情説明を終えたのだが、どうにも弟が苦い顔を崩さない。
弟は、祝われるのが嫌だ!なんて言うようなひねくれた人間では断じてないし……
原因が分からないのだ。
「なぁ、急にやったのは悪かった……けどよ、せっかくこうやってお祝いしてんだし、ここは大人しく祝われとけって、な?」
「うんうん、僕らはただ単純に君をお祝いしたいだけなんだ」
「そう……だね、ありがとう。祝ってくれるのは本当に嬉しい。」
「じゃあなんで機嫌悪いんだ?」
「ちょ、その聴き方は無いよ」
「あぁ、いいんです芦原さん。別に機嫌悪いワケじゃないんです」
「へ?」
「あぁ……もしかして……君からも何かあったの?」
「その予定だったんですがねぇ……」
「理解したよ。ごめんね。でもホラ、そこは年長者の矜持というか、ね?」
「? ?」
完全に会話についていけない俺をほっぽって、二人は勝手に和解していい雰囲気になっている。
「おいおい、そんなことされたら、これを出さずにはいられないじゃないか」
「これは?」
「誕生日プレゼントだよ。……お誕生日おめでとう」
「僕からも、一応。あまりいいものじゃないけど」
「ふたりとも用意してくれてたんですか……なんか、ありがとうございます……」
「へへへ、まぁ開けてくれよ」
「結構大きいね……って、アレ?」
「何かあったの?」
「この包装……いや気のせいだよな流石に。何でもないです」
「早く早く!」
「云われなくても……」
弟がラッピングを解き、丸い青クッションがその姿を現す。
そして、弟は何故かそのまま硬直してしまった。
「……どうした?」
「ぷっ」
あははははは!
笑い声が部屋に響く。俺も芦原も戸惑いを隠せず、ただ弟の腹を抱えて笑っているのをしばらく眺めていた。
そして、落ち着いた弟は、
「あぁ、おかしい。兄貴、コレ買ったんだね。クッ」
未だに笑みを抑えきれず、笑っている弟。俺は当然頭に?が浮かんだままだ。
「実はね、俺からも贈り物があるんだよ」
「え?なんで?お前の誕生日だぞ?」
「え?」
「えっ?」
「まぁ、弟くん。持ってくればいい話だよ」
「え、えぇ、そうですね、そうします」
さっぱり話が見えず、さっきからずっと混乱しているのだが、二人は状況を把握しているようで、何故だか凄く悔しくなった。
「こらこら、君も祝ってもらうんだからそんな顔しない」
「はい?」
祝う?何で俺が祝われてんの?
「はい、兄貴」
そうこうしているうちに、弟がある物を抱えてやってきた。それは…なんだか見覚えのある包装だった。
ん?……んん?
「はい、ちょっと早いけど、お誕生日おめでとう、兄貴」
「お誕生日おめでとう。晴樹」
そういえば。
双子の兄弟なんだから、誕生日が違っている筈もなかった。
双子の兄、飯島(いいじま)春樹(はるき)もまた、祝われる側だったのだ。
***
「俺って馬鹿じゃん、すっげぇ馬鹿じゃん……」
「うん、流石にコレは庇いようがないね」
「馬鹿とかそういうレベルじゃないと思う」
「お前らぁ……!」
どうやら気づいていなかったのは俺だけだったようで、二人から非難の言葉を浴び。
さんざんに馬鹿にされ。
「とりあえず、コレ開けなよ。」
弟に言われるまで忘れさっていたプレゼントに目を向けると、芦原が弟に耳打ちをする。
「もしかして……」
「……そうですよ。察しがいいですね」
けらけらと笑いながら弟が答え、俺は一人状況がつかめない。何かこの流れ定着してないか。こいつら一緒にしてて大丈夫なのか、俺。
とにかく、弟と同じように、ラッピングを解き、中身をとりだす。
すると、そこには。
「ぷッ……あーっはっはっはっはっは!」
「おかしいよねホント。兄弟そろって同じ店で同じの買ってるなんて。示し合わせもしてないのにね」
赤色の、円形のクッションを持って、笑い転げた俺は、ちょっとだけ、神様っているのかなぁ、とか思ってしまったのだった。
***
「状況を整理すると、弟くんはたぶん僕らがあの雑貨屋に来るちょっと前にあのクッションを買っていたわけだね」
「そういうことになりますね。僕、結構歩くのが好きで、行動範囲はそこそこに広かったので……兄貴がもし俺に何か用意してくれた時に被らないようにって思ったんですけど……」
ひとしきり笑った後、3人であらかじめ買っておいた総菜やお菓子をつまみながら雑談していると、不意にそのことが話題に上がった。
「それにしても意外だなぁ。僕は君のお兄さんから兄弟仲は悪くない筈なのに全然喋れない、とかなんとか聞いていたんだけど」
「あはは……それは間違いではないですけどね」
「うん、でも俺、お前にはあんまり好かれてないと思ってたぞ」
「え?嘘……」
「いやいやいや、嘘も何も、お前から話しかけてくることなんてほとんどないじゃないか」
「あー……それは……その……」
「確かに、それだと好意は伝わり辛いね」
「なんか……恥ずかしくなっちゃって……」
「お前は初恋した小学生か」
これには芦原も苦笑いである。弟ってこんなやつだったっけ……?
「でも、今まで何もなかったし、今年こそは……喋れるようになろうと思って……」
「準備してたら肩すかしくらった、と」
「まぁ……そういうことになりますかね……」
「確かに、祝おうと思って準備してたら何かまだ誕生日でもないのにフライングで逆にこっちが祝われたりしたらビックリするよねぇ」
……何というか、ホントに……事実は小説よりも奇なりというか。
とりあえず、弟には嫌われてなかった、ってことで、いいのだろうか。
俺も弟も、お互いに距離をはかりかねていたみたいで。
色々とあったけれど、これが二人にとっても、一歩踏み出すきっかけとなったのは、間違いではないようだった。
そうして、双子の兄弟、飯島晴樹と飯島真樹(まさき)は、少し早めの誕生日を満喫したのだった。
***
あれから、弟と僕はそれなりに話す様になった。
一緒に遊ぶ機会も増えたし、以前のように話しかけづらい雰囲気になってしまうようなことも無くなった。
だが。
「まさかあの状況でポイズンアヌビスが突破されるとは」
「たまたまメガブーメランが来たからね。まぁ、これは運が良かっただけだよ。」
「先輩、アクアクロス軸なのにメガブーメラン入れてたんですか……」
「トマホーククロスは緊急回避に使えるから…アンチシナジーでもつい入れちゃうんだ」
芦原がいつの間にか俺の弟と物凄く仲良くなっていやがる。こうしてよくウチに来てゲームをする様になった。リビング占領である。
今も俺を蚊帳の外にして、二人でゲームしたあとなんだかよく分からない会話を繰り広げている。
何となく、弟をとられた気分である。
「俺も何か始めようかな……」
「あ、ごめんよ晴樹。」
「忘れてた」
「あはは……」
乾いた笑いとともに、うなだれつつ赤いクッションを抱きしめる。
いい加減ゲームより外でたくさん遊びたいのだ。だが、二人はインドア派のようで……
なかなかうまくはいかず、少しずつ機嫌が悪くなっていく感覚を覚えた。
「なぁ、兄貴」
「んー?」
「あのさ、たまには俺も、外で遊んでみたいな、って」
「……」
「……あ、ほ、ほら!最近つきあわせてばっかりだったから!……なんて言うか……」
「まぁ、僕も最近動いてないしねぇ」
「……よし!」
「兄貴?」
「野球だ! 野球やろうぜ!」
「3人で!?」
「いいから外行くんだ!もううずうずしてたまらん!」
弟と芦原の手を掴んで立ち上がると、二人とも、微妙な笑みを顔に浮かべて、
「野球はともかく、普通にキャッチボールするくらいから始めた方がいいんでないかな」
「兄貴、だから俺は運動とか苦手なんだって……」
「分かった!野球だな!」
「聞いてよ」
聞かない、聞けない、聞く気が無い。
今までさんざんげんなりさせてくれた分の清算を済ませなければならないのだ。
俺達は、そう言う風にできているのだし。
ここで釣りあいをとってやるのだ。
勇み足で外にでると、澄んだ秋光が、家々の隙間から漏れだして、とても爽やかだった。
いかがでしたでしょうか。
ちょっとでも時間つぶしになれば幸いです。