異世界の片隅で君と   作:琥珀色

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自己満SSです。
あとオリ主って何?


異世界の片隅で君と

振り返ると君がいた。

 そして君は笑いながら僕をからかっている。

 あの頃の時間は、今や薄れゆくものになりつつある。

 

またいつか、あいつに会えるんだろうか

「…あの祠、まだあるのかな」

 

 僕は幼い頃、栃木の田舎の街はずれに住んでいた。

 そこそこ大きい集落でなかなか空気も美味しいところで、僕の家はちょっと古臭いところだったけど、そこで僕は育ったんだ。

 

ある日僕は山に出かけた。

 単に興味本位で遊びに行った、長い石段は疲れたけど、やっとのことで山頂まで辿り着いたところでそれをみつけた。

それはただ静かな雰囲気だったけど、その存在を主張するように佇む祠を。

 

「なんだろう、これ…向こう側が透けてるような…」

 

 祠の中には別の景色が広がっていた。向こう側に見える景色はこことは全く違う。

見たことのない黄金色の草が風で緩やかになびいている

 僕は一時向こう側の景色を眺めるだけで我慢していたが、遂に堪えきれなくなり祠の中へ片足を突っ込んだ。

 向こう側の世界?のようなところへと完全に入り気がつく。時空の切れ目のようになっていたあの祠、こちらにも同じ祠が建っていた。しかもかなり古ぼけている。

 しばらく辺りを眺めていると一人の少女、なのだろうか?

 

まるでネットで見かけるケモノ娘のような子がいた。

 

 「や、やあ君。僕あの祠から来たんだけど、ここって一体どこなの?」

 

 すると彼女は僕に話しかけられたのだと理解するや否や逃げ出してしまった。

「あ!ねぇ!まってよ!」

 僕は必死に彼女のあとを追いかける。

 しばらく追いかけていると村のようなところが見えた。

 

◇-------------------------------------------------◇

 

 「はい…という訳で追いかけました…」

 「ううむ。大体の事情は理解した。しかしよいか?この世界は君たちのいう妖怪や、怪物、異形の者が住む世界なんだ。」

 「…はい」

 「それにだね、君はここの常識、ルールといったものをまるで知らない、のは仕方ないとして。君はこの世界のことを知らなすぎる」

 「でも僕、あの子と友達になりたかったんです。それにここきれいだったし…」

 「はぁぁぁ……」

 と、あの子の父親が深いため息をついた。ちょうど同じタイミングで向こうからもうひとり大人の女の人が来た。多分お母さんだろう。

 「こらお父さんも固くなりすぎよ。」

 そしておばさんが僕の隣に座り優しく撫でてくれた。

 「…ごめんなさい、迷惑かけてしまって。僕、僕…」

 当時僕は幼かったせいか、周囲の状況も掴めず不安になってしまいには泣いてしまった。

 気まづくなったのかおじさんはすまなかったと、村の人に話を通してくると言って家を出て行った。

 

 

 「怖がらなくていいのよ?私はあなたを歓迎するわ。 村の人も私の娘も、きっとあなたのこと好きになってくれるわよ」

 そしておばさんは僕を優しく抱き寄せてくれた。

「またいつでもおいでなさいな」

 おばさんの香りは人とは全く違う匂いだったけれど、とても優しい匂いだった。

 そうして身を寄せていたぼくは、急激な眠気に襲われ目蓋を閉じた。

 

 

 

 

目が覚めるとそこは山の頂上の祠の隅にいた。

 藁の布団を被っていて風邪はひかなかった。

おばさんがかけていってくれたのだろう

 

 「…明日もまた来よう」

 

 夕暮れで薄暗い石段をひたすらに駆け下りた。

 

 そして僕は家に戻り諸々を済ませて床についた。

 

 翌日僕はまたあちらの世界に行った。

 彼の地の名は翠月。

 翠月という地名なのだそうで、右隣の領地は吾通馬、左隣は楼郷、上は鬼蛇千、下は神寧。

 

 隣と言えど、僕達でいうところの県境というのは曖昧というか、なんというか、どの県にも所属していない荒地、山々に海とかが領地間に必ずあるらしい。

 

 どの領地にも属さない地域の事を浅霧というらしい、ちなみに浅霧でも商売しているところや居住区もある。

 

 この世界には妖気という、僕達でいう魔力、魔法のたぐいの気が空気中に堆積している。妖技師は空気中の妖気を体内に集約させて妖具と呼ばれる道具を使い、家やら何やらを色々作っている、そういう人達を妖技師と呼ぶらしい。

 

 妖術師は妖技師と違い、詠唱または集約された妖気を意識させた部位に送り、体術として繰り出したり、身体能力を飛躍させたりと、様々なことが出来る人が、一部いたりするようだ。

 ただ、妖術師は領主の護衛や、暗殺部隊などに集約されている。

 

 

 人間との関係は五百年前に断絶されたらしいけど、最近になってちょくちょく僕らの世界に様子を伺いに出てくる者達がごく僅かだがいるらしい。

 

 そんな最中に僕がこの緑久という歓楽街から随分と離れたこの村に辿り着いたのだという。

 幸い、僕の存在はみんなに受け入れられて楽しい時を過ごすようになった。

 

 僕が追いかけたあの子の名前は美火、みほの母親の名は麻里、父親は鳳大という。

 僕の名前も教えた。

 

 そして毎日翠月へ通うようになった。

 美火とも仲良くなり毎日が楽しかったが、ある日都会へ引越しになり朝一で出なくてはならなく、泣く泣く集落をあとにした。

 それから数年、僕は高学生になった。

 そして春休みを使い僕は彼女に、美火に会いに行こうと決めた。

 

 

そして今に至る。

 

 

「…あった」

しかし、向こう側の景色は見えなかった。

 「……そうだよな…そりゃ何年も経てば…」

「…あの時……無理やりにでも…会いに行くべきだった…美火…」

後悔と悔しさと情けなさで涙が溢れる。

 僕は祠の前で泣き崩れた

 しかし、その刹那に信じられないようなことが起こった。

 「…!? か、体が…光って…」

 

 僕の体が光を帯び、其の光は雪のようにはらはらと祠へ向かって落ちてゆく。

 幻想的なその光に気を取られてしまった。

そしてその光は宝石のような輝きを放った後、その祠には懐かしいあの景色が広がっていた。

 

 僕は祠を潜り、記憶をたどって走った

 覚えていてくれることを願いながらただひたすら足を動かし続けた。

 

 走って走ってようやく美火の家の前に辿り着いた。

僕は深呼吸してから、大きく息を吸い、叫ぶように彼女の名を呼ぶ。

 「美火ー!いるかーー?!」

しかし返事がない。僕はあの時のことを思い出して泣きそうになっていると、後ろで物を落とす音が聞こえた。

 僕が振り返ろうとするより早く、それは僕を後ろから強く抱き締めた。

…あぁ。この温もり 、匂い…間違いない、美火だ。

僕は力が抜けてその場に座り込んでしまった。

 彼女の手は震えていて、なおも強く僕を確かめるように胸やら腹やらをさすったかと思うと、さらに強く抱き締めてきた。

 僕は言い知れない感情の濁流に呑まれて大粒の涙をボロボロと流した。

 彼女の温もりに、あの時間が幻じゃなかったことに。

 嬉しいのに胸を締め付けるような痛みが僕を襲う、あの日の後悔と共に。

 「あ…ああ…美火…ぼくは…」

 必死に言葉を紡ごうとする僕に美火も涙ながらに訴えた。

 「…なにも…言わなくていい…優樹…会いたかった…ずっとずっと…会いたかったんだから…!」

 その後も美火は僕を抱きしめ続けて、僕も美火も声を上げて泣いていた。

 麻里さんに鳳大さんも家からでて泣きじゃくる僕らを家に入れてくれて、僕らが泣き止むまで、別の部屋で待っていてくれた。

 

◇----------------------------------------------------◇

 

 

 あれから一晩。

僕が名を叫んでも出てこなかったのは寝ていたからだとか。

そして美火の両親から美火と僕とでみんなに挨拶ついでに出かけてきなさいと言われ、

「ねえ、美火」

 「何?優樹」

 「そんなにベッタリくっつかれると、気恥しいっていうか…」

 「良いじゃない、こうしていると心地いいんだもの」

 「うぅ…」

そんなこんなで一通り挨拶も済ませて帰宅。

 鳳大さんがいない。聞くと少し出かけるとか言って出てったらしい。

昨日は風呂には入ってなくて、麻里さんに風呂に入りなさいと半ば無理矢理、二人して脱衣所に押し込まれた。

 そしてなんだかんだで服を脱いだところで僕は気づいた

 美火の体がなんだかすごいことになっていることに。

 「ん?私の体になにかついてる?」

 「あ、いや…あはは…なんでもないよ、うん」

 (胸とか腰とかなんか色々育ってるねなんて言えるかああああああ!!!!!)

 あの時とは本当に見違えるほど変わっている。

 とりあえず隠れ巨乳というやつだと心の中で唱えたら気は紛れた。

 「私洗ってあげるよ、ほらここすわって?」

 「え、えぇーいいよそんなしなくたって」

 「いいからいいから、ほーらっ」

 そういうなり僕を腰掛に半ば無理やり座らせて、僕の意見なんて梅雨知らずといった風に頭を洗い出した。

 「でも、なんだか悪い気はしないかな」

 「ん~?なんの話?」

 「ほら、あの時もこうやって僕の頭洗ってくれたでしょ?」

 「ふふ、だって優くんったら泥まみれだったじゃない?泡が茶色くて、何度洗っても汚れが取れなかったりして、ふたりして笑ったよね」

たはー、と締りのなさそうな笑い声。

 「それ言うなら美火だって泥まみれだったじゃないか!」

彼女の色っぽくなった体など気にもしないほど僕らは笑いながら何年かぶりの流しっこをした。

 そして一緒に湯に浸かる。

 あの時はプールかなにかと感じてた風呂場は、狭く感じるようになった。狭く感じるとはいえ、僕の家のよりは断然広い。

 「美火?」

 「ん?」

 「美火はさ、俺がいなくなった後…ううん。なんでもない」

 「…」

 「ごめんね、なんか」

 言ってて気まずくなり、とりあえず謝る。

 「…正直私ね、嫌われちゃったのかなって思ってたの」

 「…うん」

 「でもね、こうして戻ってきてくれたじゃない?」

 「うん」

 「すごく。本当にすっごく嬉しかった」

 「…僕も後悔してたんだ」

 あの時

 「あの時さ、無理矢理にでも言いに行けばよかったって」

 「…うん」

 本当に後悔したんだ。

 「ここに来るまでにね、外の祠が閉じてたんだ。いつもはあの草原が見えてたんだけど、見えなくてさ」

 怖かった。

 「じゃあ、どうやってここに?」

僕は首を横に振りながら答える。

 「わからない。僕そこで泣いてたんだよ。繋がってなくて、もう会えないんだなって思って。」

 「うん…」

「でもね、なんか、分からないけど繋がったんだよ」

 あかないとばかり思ってた。

 「…へ?」

 「だから、僕の所の祠とこっちの祠が繋がったの。理由はわからないけどさ」

 「…ふふっ」

 なんか笑われた。

 真面目な話をしているっていうのに、美火は愉快そうに。

 「でもさ」

 「ん?」

 美火を見やると、彼女は僕の首に腕を回してきた。

 「なっ…」

 動揺する僕をよそに彼女は俯きながら続ける。

 「こうして…、こうしてさ?また抱き合えるし、話し合えるんだよ?こんなに嬉しいことはないよ。だからね、あの時、優くんを見つけた時、気がついたら優くんのこと抱きしめてたの」

 僕は、美火の腕に力がこもるのを感じながら、耳を傾ける。

 「うん」

 「だってさ、もう会えないって思ってた人がまた、私の目の前に現れてさ、これって奇跡なのかなって」

 「…僕も、祠が空いた時は奇跡だって思った。」

 「それでね、抱きしめた時、優くんの匂いが私の中に入ってきて、夢じゃないんだなって、そう思ったの」

 「そしたらなんか、涙止まらなくなっちゃった」

 そうやって話す美火の腕は微かに震えていた。

 「美火?」

 「…なに?」

 「また泣いてるでしょ」

 「うるさい、ばか優」

 丸くなる美火をかばうように、僕は優しく抱きしめた。




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