赤髪がオラリオにいるのは間違っている   作:稲荷猫

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本当に本編最終話となります。今まで読んでいただき、誠にありがとうございます。またいつかお会いしましょう。それでは皆様、今年も良いお年を。






冒険の

 

 

 

 海へ出る。

 

 赤髪のその言葉に周囲はざわめいた。口々に言葉を並べ立てながら、赤髪へと詰め寄るかのように囲いだす。何故だと問い質す言葉。行かないでと引き留める言葉。元気でやれよと門出に沿う言葉。そんな中で一際響く声が一つ。

 

 「よっしゃーッ!ほんなら最後に盛大に飲み比べやーッ!勿論逃げへんやろなシャンクスッ!」

 「はぁ……情緒もへったくれもないとはこの事だな」

 

 ロキの声だ。隣で溜息を吐くのはリヴェリアである。

 

 この二人の組み合わせも随分と長く見ている気がする。快く応じながら、赤髪は思った。

 

 ロキに連れられて向かった先には大量の酒樽が置いてある。ロキファミリアが集まっているようだが、酒の多くは一人のドワーフに消費されているようだ。

 

 「ガレス!シャンクスと飲み比べするんやけど、あんさんも参加するやろ!?」

 「ガハハハハハ!面白い!是非参加しよう!」

 「こらこら!周りで見とる者も此方きぃや!神もファミリアも関係あらへん!オラリオ最強を決める飲み比べや!!」

 

 どうやらロキファミリアの陣取る場所へ行ったのは、ただ単に酒を大量に確保していたからのようだ。言葉通りに神も人もファミリアさえも関係なく、周囲を巻き込んで飲み比べを始めてしまった。

 

 「そらそら!七杯目やぁ!」

 「おいロキ、流石にハイペース過ぎやしないか?」

 

 恐ろしいハイペースに、既に倒れるものがチラホラと現れる。それを見てリヴェリアがロキへと言葉を漏らした。

 

 「ん~?うーん……せやなぁ。確かにこのままやといつもやっとる飲み比べと一緒か~」

 

 周囲は戦慄した。お前いつもこんなハイペースな飲み比べしてんのかと。すぐに酒の味など分からなくなり、それでも飲み続け、ただ酒で相手を潰す。それはまさに、ウチが強いんちゃう、アンタが弱すぎるんや。そう言わんばかりの諸行。

 

 ただし戦慄していない者もいる。ガレスと赤髪の飲み比べ常連。そしてそれを身近でよく見ているロキファミリアメンバーと、彼等の行き付けのお店の者たち。

 

 彼等彼女等はいつもと違う飲み比べをするのかと、少しの興味を抱いて口を開いた。

 

 「じゃあさー、いつもとは違う飲み比べするの?どんなのするか教えてよー」

 

 無邪気に言ったのはロキファミリアのアマゾネス。ティオネ……いや、ティオナだったかな。取り敢えずオッパイの小さい方。双子は見分けつかないからね、しょうがないね。

 

 「ん~………。よし!なら一杯飲むごとにオモロイことやるってのはどうや!」

 

 ロキが出したのは最悪な部類であった。酔った状態で頭が既に回っていないのだろう。恐ろしい無茶振りを、すでに出来上がっている連中へブッぱなした。

 

 しかし酔いが回ると不思議なもので、普段は面白いと感じないものも何故か面白く感じてしまうのである。

 

 周囲はやんややんやと囃し立て、なぜかロキは賢者のように持ち上げられていた。

 

 「よっしゃー!じゃあはい!取り敢えず~シャンクスから!なんかやれ!」

 

 なんかやれ。最悪に最悪を上乗せする行為。ロキは多分、気付いていない。酔ったらその場の気分でフワフワッとやらかすタイプであったのか。

 

 そして赤髪も乗り気なのが救えない。

 

 「よ~し!ならベート!お前の好きなやつを当ててやろう!」

 「はぁっ!?何言ってやがる!つかなんで俺なんだよ!馬鹿かテメェ!?」

 「よっ!言ったれ言ったれ~!」

 「そうだな……。まずは金髪」

 「おい聞けよ赤髪二人ッ!!」

 

 ベートの声は聞き届けられず、これまた周囲はやいややいやと囃し立てる。

 

 ちなみにベートの思い人が誰なのか、周囲に知らぬものはいない。知らぬは本人と思われ人のみである。分かるわけがねぇ。そう思うベートの顔を冷や汗が流れているのは見間違いではないだろう。

 

 「腰に剣を帯びている」

 「おー、一体誰なんやろな!?」

 「ベートよりも身長は低い」

 「結構絞られてきたんちゃうか!?」

 

 酔いが回った赤髪とロキの悪乗りが続いていき、それと同時にベートの冷や汗も増えていく。年下の若者を弄るのが相当に楽しいらしい。それは周囲も変わらず。いつも一匹狼なベートの焦る姿は相当に見物らしい。だが悲しいかな。ロキファミリアでは日常である。

 

 「あとあれだ。一級冒険者だな」

 「あれ~?これはもう誰なんか、分かってもうたようなもんやで!」

 「じゃあ当てるぞ、ベート」

 「おいバカやめろ!つーかなんで分かったんだでテメェ!?」

 

 赤髪が真剣な表情でベートを見据えて宣言する。その表情が髪の同色なのは言わずとも知れているだろう。

 

 「お前の思い人は─────」

 

 こうなったら蹴り倒してでも止めるしかねぇ!そんなベートの考えは、立ち上がった瞬間に酔いからの立ち眩みをお越し、実行に移されることはなかった。赤髪が言葉を発する方が早かったからだ。

 

 「ロキファミリア団長のフィンだッ!」

 「………はっ?」

 「僕かい?」

 『プッ……ギャッハハハハハッ!!!!!!』

 

 赤髪の言葉に呆けるベート。自らを指差し首を傾げるフィン。そして大爆笑の周囲。流石に思い人を本人の前で暴露するような野暮なこと、赤髪がするわけもなかった。それは年を取った者ほど予測していたようで、ポカンとしているのは若者に多い。だがベート以外は徐々に意味を理解し、笑い声を上げて転げ回る。ただし若干一名は除く。

 

 「ベート、君、僕のことが好きだったのかい?」

 「………はっ!?い、いや違っ!」

 「なんだお前、実はソッチ系だったのか」

 「おいババァ!なに納得してんだ!?」

 「ガハハハハハ!ベート!頑張れよ!」

 「いや何をだよ!」

 「狂狼(ヴァナルガンド)が男色家だったぞーーーー!!!みんな尻隠せーーー!!!」

 「おいテメェまじで覚えてろよラウル」

 「いやー、そうか。いや、うん。分かるよー。女っ気がなくて新たな扉を開いちゃったんだねベート。でもね、冒険者は冒険しちゃいけないんだよ?……プッ!」

 「おいこのバカゾネス!人聞き悪いこといってんじゃねぇぞ!」

 

 ベートは男が好きらしい。そんな冗談でここまで盛り上がるロキファミリア。皆がイキイキしている。その目はベートを弄る気マンマンである。

 

 周囲の他ファミリアも笑いを抑えるどころかドンドンと広がっている。若者をホモ呼ばわりして喜ぶ冒険者と神。これは救えない。これも酒のせいにしとくのがいいだろう、うん。

 

 ただ一人。真面目に受け取る者がいたのは誤算だった。勿論このとき誤算と感じていたのは、途中から以心伝心していた赤髪とロキである。

 

 「ベートぉ……ッ!あんたが男好きかどうかなんてどうでもいいけど、よりにもよって団長が好きですってぇ!?このクソ狼がァァァァ!!!!挽き肉どころじゃすまねぇぞォォォォ!!!!!」

 「だから違うつってんだろぉが!やめろこのクソ女!テメェこの……おい、テメェどんだけ酒飲んでんだ!!?酒臭ぇにも程があんだろ!!おい止めろ!まじで止めやがグオオォォォォオオオォォォォ!!?!?!?」

 

 唐突に始まった酒の席での殴り合い。とは言えなかった。一方的にボコボコにされている。どちらがどちらをボコっているのかは御察しである。

 

 だが考えてみて欲しい。人が密集している場所で喧嘩が始まるのだ。それも人の限界を越えた者の喧嘩。

 

 「グハァァァァァァ!!?!?!」

 『グワァァァァァァ!!?!?!』

 

 当然、人が飛ぶ。というか飛んだのはベートだ。そしてベートは多くの人を巻き込んでしまう。

 

 「あっ、やべぇ。いま俺辺りどころ悪かった。なんか吐きそボロロロロロ」

 「ギャアアアアア!!!!テメェどこに吐いてんだァ!?」

 「おい!いつまで俺の上に乗ってんだ早くどけよ!」

 「いてっ!何も殴ることねぇじゃねぇかこの野郎!」

 「おい落ち着けよ。取り敢えず冷静になれ。そして俺のケツを揉んだやつは前に出ろや!」

 

 喧嘩は乱闘へと。もう、誰にも止められない。

 

 『ギャアアアアアッ!!?!?!』

 「おい誰やアイズたんに酒飲ませたんはッ!?アイズたんは酒乱っぐふぅッ!!」

 「ああっ!ロキが気絶したァ!?おい誰かあのお姫様止めろォ!!」

 

 いやもう本当に止められそうになかった。

 

 「なんだお前たち、このくらい慌てるようなことじゃないだろう────ッオォッ!!?」

 『うわぁぁぁぁ!!シャンクスもブッ飛ばされたァ!?!?!!』

 

 吹き飛ばされた赤髪の頬には一筋の切り傷が生まれていた。

 

 「おいやべぇよ。竜と戦っても擦り傷程度だったシャンクスさんに切り傷作ったぞあの剣姫ッ!」

 「やっぱ剣姫やべぇ……!」

 「いやつーかマジで誰かアイツを止めろォ!」

 「おい魔法も使い始めやがったぞグハァ!!?」

 「本人もう勘弁してくれヌハァ!!?」

 「酒ちょっと舐めさせただけなのに意識なくなるとか酒弱すぎブハァ!!?」

 『ちょっと待てぇ!!原因アイツかァ!!?』

 

 酒を浴びる程に飲んで、誰もが乱闘を始める。そうすれば必然、戦にて疲れきった体は人の限界を越えていても、もう耐えきることは出来なかった。

 

 一人、また一人。安らかな眠りの中へと誘われて行く。その眠り方は冒険者に似つかわしいかもしれない。乱暴に、賑やかに、それでも悪くない気持ちで一日を終える。命を感じながら、終えることができた。

 

 半刻も経たずに広場にいる者は全員その瞳を閉じた。宴の最後は乱闘であったが、その眠りこける顔は笑っているように見える。

 

 それはこの男も変わらず。いや。

 

 「………頭がクラクラするな。顔も痛い。こりゃアイズのやつにやられたな」

 

 どうやら起きていたようだ。頭を振りながら起き上がる。もう少し夜明けがやってくるというのに、この男が何故起き上がったのか。

 

 「……なんだ?何か聞こえるな」

 

 頬に出来た切り傷を一撫でし、耳に聞こえるその音と、フワフワとした気分に任せて足を進める。

 

 聞こえるのは声だ。足を進める程に明瞭になっていく。いきなり聞こえてきた声。一体なんだというのか。

 

 「……そうか。もう、ここでの冒険は終わりか」

 

 何かを悟ったように赤髪は足を止める。止まったのは竜から出てきた大きな魔石の前。人頭ほどの大きさを持つ魔石だ。広場の真ん中に置かれたそれから声がきこえていたらしい。

 

 明瞭になった声に耳を傾ける。

 

 『おい、お頭はどこいったんだ?』

 『分からねぇ。部屋にもいなかったぜ』

 『船自体にいねぇみてぇだ』

 『おいおい、本格的にやべぇんじゃねぇか?』

 

 この声を赤髪は知っている。

 

 「そういえば、もう随分とここで過ごしたか」

 

 広場で寝むりこける面々を視界に入れて、フワフワとした頭で思考に耽る。

 

 「随分世話になった。だがもう、行かなければならないな」

 

 もう一度だけ面々を見渡し、赤髪は少年のように口元を緩めた。

 

 「……」

 

 魔石に右手を伸ばし、触れた。その瞬間、場を嵐のように魔力が吹き荒れ、視界は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 気が付けば、自身の船の自室だった。ハンモックに横になっていたのだ。

 

 「……夢か?」

 

 ふと思う。それにしてはハッキリと覚えているな。少しだけ首を傾げながらも、自身の部屋から出て甲板へ向かう。

 

 その途中、多くの仲間たちとすれ違うが、皆一様に驚愕を露にした。

 

 「お頭、今まで一体どこにいたんだ?」

 

 要約すれば、この言葉であろう。赤髪は三日間も船から姿を消していたらしい。赤髪も驚きつつ、それ以上に上機嫌になる自分を抑えられなかった。もとより、抑えるつもりもない。

 

 甲板に出ればやはり、皆が同じような反応をする。全員に聞こえるように息を吸い、声を張った。

 

 「お前たち!今まで悪かったな!俺は少し、冒険してきた!」

 

 夢か現か。定かではない。それを確かめる術もない。だが赤髪は、そんなことはどうでもいいようだ。一つ笑いを溢しながら、頬の切り傷を一撫でし、言った。

 

 「これだから冒険は止められない」

 

 困惑する船員たちはすぐに肩を竦め、海賊にそんな感情は不要だと海に流した。

 

 「なぁお頭!どんな冒険してきたか聞かせてくれよ!!」

 「そうだな!俺たちを置いて冒険してきたんだ!どんだけスゲー冒険だったか聞かせてもらうぜ!」

 「よーし、じゃあ今日は宴だな!」

 

 快活に笑う船員たちに、同じく笑いながら赤髪は返した。

 

 「ああ!聞かせてやる!宴でな!さぁ!総員配置に着け!」

 

 赤髪は思う。冒険に呼ばれてあの世界へ渡り、海に呼ばれてこちらへ帰ってきたようだ。論理も推測もありはしない。勝手にそう思っているだけ。だが、その方がロマンがある。

 

 「行くぞお前たち!出航だァ!!!」

 

 ──────冒険は本当に、止められない。

 

 

 

 

 

 





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