いつか聞こうと思っていた。恐ろしくて聞けなかった。

でも、もう逃げない。


運命を越えていった、すぐ後の話。

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知りたかったこと

ある日の昼下がり。

銀河マーケットは、いつものような賑わいを見せていた。リクはダンボールを運びながらお客に会釈をしていたが、その中に見知った顔を見つけた。

「あ、レイトさん!」

リクが笑顔を見せながら名前を呼ぶと、相手は彼に気付いてペコペコと頭を下げながらマユを連れてこちらへとやってきた。

「あはは、どうも…また来ちゃいました」

「いやいや、いいんですよ! ゆっくりしてってください! さ、どうぞどうぞ」

リクの隣にいた店長は、二人に冷えたラムネを差し出した。

「えぇと…」

レイトが財布を出そうとすると、店長はその手を止める。

「代金は頂きませんよ、いつもごひいきにしてもらってるお礼なんで!」

「い、いいんですか? ありがとうございます…」

驚きながらもビンを受け取り、マユの方を向く。

「マユ、お礼言おうね」

レイトの声に頷くと、彼女はお辞儀をしながら元気よく「ありがとうございます」と言った。そして、駄菓子が置いてある場所を指さす。

「パパ、お菓子選んできていい?」

「うん、いいよ。いってらっしゃい」

嬉しそうに走っていくマユを見ながら、レイトはテーブル席についた。

「全く、店長は相変わらず調子がいいんだから」

苦笑を浮かべながら、リクはレイトの隣の椅子に座る。

「でもいい人ですよね、マユもなついちゃって」

「え、そうなんですか?」

二人が笑い合っていると、リクの影から声が聞こえてくる。

「リク、聞かなくていいの?」

「あ…うん。そうだったね」

リクの声が、少し緊張したような口調になる。そんな彼に、レイトが首をかしげた。

「どうかしました?」

「あの…レイトさん。ちょっとだけ、ゼロに代わってくれませんか」

「え」

レイトがそれ以上の言葉を発する前に、彼の手がメガネを外した。目付きが鋭くなり、さっきの彼とは全くの別人のようになる。

「俺と話すなら、基地の方がいいんじゃないのか?」

眼鏡をしまいながら、彼は相手に問いかけた。

「あ、えっと…そうなんだけどさ。ここで会えたし、ちょうどいいかなって思って」

リクは大きく深呼吸をすると、相手に真剣な目を向けた。

「教えて、ほしいんだ」

「何を?」

「僕の…」

父さん、と言いかけて、リクは一瞬口をつぐんだ。

「いや…ウルトラマンべリアルについて」

 

 

 

ライハは駄菓子を棚に並べると、テーブルに座っているリクとレイトに気が付いた。

「またサボってる…」

やれやれと二人のところへ足を運ぼうとすると、彼女の影から手が出てきてその足をつかんだ。

「待って、ライハ!」

下を見ると、一人の宇宙人がひょっこりと顔を出している。彼女はキッとにらみつけた。

「ペガ、離しなさい。もしかして、私を止めろってリクに頼まれたの?」

「ち、違うよ! ペガが勝手にやってるんだ」

相手の形相にはわわ、と慌てながらブンブンと首を横に振った。

「どうして?」

「リクは今、自分のことに関わる大事なことを話してる。だから…」

「あとで話せばいいでしょ…」

「ダメ!!」

相手の言葉が終わる前に、ペガが大声で否定した。ライハが驚いた顔をすると、彼は焦りながら自分の口を押さえてうつむく。

「…ごめん、急に大声出して」

小声で謝ると、おそるおそる彼女を見上げて呟くように話し始める。

「リクは、ずっと悩んでた。クライシス・インパクトなんて恐ろしいことを引き起こしたのが父親なら、いつか自分もそういうことを起こしてしまうんじゃないかって」

「そんなこと…」

ない、と言おうとして、彼女は言葉を飲み込んだ。あまりにもそれは、無責任すぎる言葉だったからである。べリアルの遺伝子を持っていると言うことは、彼の中にその可能性が少なからず存在しているのだ。

「ゼロがいる今、父親のことをいつでも知ることが出来る。だから、いつか教えてもらおうって話してた。けど…」

「そのゼロが一度、伏井出ケイの策略で倒された。…あんなことが二度と起こらないとも限らない。それで、今さら聞いてるって訳?」

「う、うん…」

ペガはツンツンと人差し指同士をくっ付けて、頷いた。ライハはため息をつきながら、腕を組む。

「…分かった、じゃあペガがリクの代わりに仕事して。いい?」

彼女の提案に、ペガは目を輝かせた。

「うん! 分かった!」

「はい、まずはこれを運んで」

「う…お、重いね…」

ライハがダンボールを渡すと、ペガはヨロヨロと影の中へ消えていった。

 

 

 

「…強大な、力?」

「ああ。奴はそれを求めて、道を踏み外した」

ラムネをぐいっと飲み干すと、ゼロは唇をぬぐった。

「その心を悪に魅入られて、悪のウルトラマンと化した。そして、故郷である光の国に攻撃を仕掛けたり、別の銀河さえも自分の物にしようとしたんだ」

「そうなんだ…」

ようやく自分の父親の凶悪さを認知したリクは、自分の遺伝子が恐ろしいものだと改めて知った。

「他にも色々と事件を起こしたが…お前はこの話を聞いてどうするつもりだ?」

ゼロは腕を組むと、リクの顔を覗きこむ。

「いやその、えっと、エヘヘ…」

リクは、愛想笑いを浮かべながら相手から顔をそらす。

息子である自分がべリアルと同じ道を進んでしまうのではないか…という不安があったからなんて、父親の悪事を聞いた今、絶対に言える訳がない。

「おい、ごまかすな」

ぐい、と肩をつかまれてゼロの方に向かされる。彼は必死になって、頭を回転させた。

「ほ、ほら! 僕もウルトラマンな訳だし、負の歴史って言うか…そういうのを知るのも、大切かなって思って」

「…そうか」

彼は目線を下に向けると、ゆっくりとリクから手を離した。

「確かにお前は、様々なウルトラマンの力を借りている。その力の使い道を誤れば、この世界を滅ぼしかねない」

だがな、とゼロは話を続ける。

 

「お前は守るものを、しっかりと持ってる。だからきっと、道を間違えることなんてないんじゃないか?」

 

「守るもの…」

脳裏に、仲間達の顔が浮かぶ。それだけじゃなく、この地球に住んでいる人々も浮かんでくる。

ゼロは頷いて、自分の拳を見つめた。

「それさえ見失わなければ、お前はべリアルと同じになんて絶対にならないはずだ。それに…」

何かを言いかけるが、彼は何故か押し黙ってしまった。

「…ゼロ? どうしたの?」

心配になったリクが名前を呼ぶと、彼はフッと笑って相手の腕を軽くはたいた。

「痛っ!」

「だからって、負けないって訳じゃない。もっと強くなれよ、リク。お前はウルトラマンなんだろ?」

「わ、分かってるよ」

腕をさすりながら、リクも笑って答える。

「ねーえー、パパも一緒に遊ぼうよー」

店長と遊んでいたマユが、レイトを呼んだ。瞬間、ゼロはメガネをかけて体をレイトに返す。

「は…は~い、今行くよー」

彼はリクに会釈をすると、娘のところへ走っていった。リクは安心したように深く息を吐きながら、テーブルに突っ伏した。

(…守るもの、か)

ゼロから話を聞いたことによって、頭にかかっていた霧が少し晴れたような気がした。

「話、終わった?」

後ろから、威圧的な声が聞こえる。リクはハッとして起き上がると、勢いよく後ろを見た。

そこには、ライハが仁王立ちしてこちらをにらみつけている。

「ご、ごめんなさい! 今からちゃんとやるから…」

手の平を合わせて謝るが、彼女の目は鋭いままだった。

やはり、怒られるのだろうか。

ドキドキと心臓を高鳴らせてライハの顔色をうかがっていると、彼女の影からダンボールが出てきた。

「リク~、早く代わってぇ」

その下から、疲れ果てたペガの声がする。

「ペ、ペガ!? 何してるんだよ!?」

「あなたの代わりに、働いてくれてたの。早く持ち場に戻らないと、ペガが倒れちゃうかもね」

「うわ、そうだったの!?」

リクは謝りながら急いでダンボールを受け取り、走って持ち場へ戻っていく。その姿を見て、ライハは静かに笑った。

「ペガ、お疲れさま」

「…うん…」

ペガはか細い声で答えると、手を影の中へ沈めていった。

 

 

 

数時間後。

「ん~…」

遊び疲れたのか、マユが眠そうな声を上げて目を擦った。

「マユ、眠いの?」

レイトが彼女の前にしゃがみこむと、そのまま倒れこむように抱きついてきた。

「あー…すみません、そろそろ帰りますね」

マユをよいしょと抱っこすると、一礼した。

「はい! また来てくださいね!」

店長は何度も頭を下げて、そう言った。リクとライハは、相手を送り出すように手を振る。彼は娘がずりおちないようにしっかりと持ちながら、手を振り返してその場から家へ歩き始めた。

その帰り道の途中、信号待ちをしていたレイトは何かをはたと思い出して、自分の中にいる彼に話しかける。

「あ、そういえばゼロさん」

『ん? 何だ』

「さっき話してたべリアルって人、力を求めすぎて悪になっちゃったんですよね」

『ああ、そうだが』

レイトは、少し納得がいかないといったような顔をした。

「でもそれって、誰にでもある心なんじゃないんですか? 他にもそういう人がいても、おかしくないと思うんですけど」

『!』

ゼロは、息を飲んだ。自分のことを、名指しで言われている気がしたからだ。

「ただ純粋に強さが欲しかったなら、なんで悪い人になっちゃったんでしょうね」

『…使い方を、知らなかったからだよ』

「え?」

まるで自分のことのように話す相手に、違和感を覚えたレイト。しかし、ゼロはそれ以上何も言わなかった。

『いや、なんでもない。つーか、レイト』

「は、はい」

『青だぞ』

「えっ」

目の前の信号を見ると、すでに青に変わっていた。急いで渡り始めると、チカチカと点滅を始める。レイトはそれを見ると、小走りで横断歩道を駆け抜けていった。

 

 

 

 


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