かささぎの梯   作:いづな

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※2022.12.22追記※
後半から大幅改定入っておりますので、ご了承くださいませ。
なお天空闘技場編は本格始動しませんでした。

天空闘技場編、本格始動です。
ちょくちょくオリジナル設定入ってますが、お目こぼし頂けると助かります。

感想、評価頂けると喜びます。
よろしくお願いします!


第十二話 『修行開始‼︎』

「あれは僕が7歳。丁度誕生日を迎え、家族での食事を終えた帰りのことでした」

 

嘘つきクソ野郎発言を受け、イナギは驚き、ビスケは笑い、ウイングは口をあんぐり開け、ズシは頭にクエスチョンマークを浮かべた後。

ビスケから事情を聞かれたウイングを制し(「お願いですからあなたは黙っててください」)、シュルトは二人の出会いを話し始めた。

 

「その日は、十数年ぶりの雪でした。生まれて初めての雪に姉と弟とはしゃいで、両親が笑ってたのを覚えています。そんな雪の中、風邪をひく前に家に帰ろうと言われ、車に乗り込んで暫く走った後の事でした」

 

とても楽しい思い出だったのだろう。シュルトは目を閉じ、優しい表情を浮かべている。

年齢を思わせぬ語り口に、口を挟むものは誰一人いない。

 

「自宅の程近く。大きな街路樹にもたれ掛かるように、1人の青年が行き倒れていました。雪の中でこのまま放置したら、死んでしまうかもしれない。僕は助けてあげるよう両親に頼み込み、彼はその晩暖かい宿を得ました。そして翌朝、目覚めた青年が名乗った名前が」

「ウイングだった、と言う訳ね」

「はい。若い頃のクソメガネその人でした」

 

ビスケの合いの手に対し、シュルトはこくりと頷く。

ちなみにここまで、ウイングの方に一切の顔を向けようとはしない。

 

「その頃の僕は、天空闘技場で見た不思議な力――念を手にしたくて必死でした。けどいくら探せど、分かったのはネンという名前だけ。目覚めた青年が武闘家だと知った僕は、一縷の望みをかけて聞きました。するとその人は「ネンを知っている」、と」

「その時の僕の気持ちが分かりますか? 一生分のプレゼントが一晩で届いてもそんなことはないってくらい狂喜して、その青年にネンの教えて欲しいと頼みました。初めは渋っていた青年も、最終的に頷いてくれて、僕はネンの修行を始めました」

 

一同の視線がウイングへと向かう。

気まずげに、けど何も言わずに頬をぽりぽり掻いている。

 

「その青年が言うに、ネンは"燃"と書くそうで。燃とは、心を燃やす"燃"、即ち意志の強さのこと。そして意志の強さを強くする過程の修行を四大行というと」

 

"点"で心を1つに集中し、自己を定め目標を定める。"舌"でその想いを言葉にする。"錬"でその意志を高め、"発"でそれを行動に移す。

門下生でないものに念能力を察知された時、心源流が説く方便そのものである。

心を鍛えることこそが、不思議な力に繋がるのだと。

 

「その中で何より大事なのは、"点"。余分な思いを消し、目的をひたすら見つめるその心の強さであると言われました。――その日から、僕は1日たりとも休まずに"点"を続けました。全てはネンを使えるようになるため、フロアマスターになるという僕の夢に繋がると思って」

「5年、5年ですよ! 正直騙されてるかもしれないと何度も思いました。ただ、僕にはそれしか手がかりがなかった。疑う心を責め、ひたすら続けました。……まぁ、騙されてた訳ですが。そして何がムカつくって、その騙されてた事なんです! 」

 

そこで一度深呼吸。

熱くなった頭を冷ますように大きく頭を振り、けど全然冷ませないまま、シュルトは続ける。

 

「我が家にはある家訓があります。命の恩は命で以って、命の仇は命で以って返すべし。あの晩僕らが通りかからなかったら、その人は死んでたかもしれません。事情があって念を教えられないならそれでいい。けど、その恩を! 僕は! 騙されてた事が、本当に我慢ならないんです!! 」

 

訴えるようなその大声。防音設備が完璧なのだろう、部屋の沈黙が痛い。

自らを語り尽くし息を継いでいるシュルト。声を発する者は誰もいない。

いや、1人いた。

 

「なるほどね、事情は分かったわさ。で、とりあえず――お前の、せいかァーッ!! 」

 

我らがビスケ、その人である。

言葉と共に振り上げられた拳。そして宙を舞うウイング。

どっかで見た光景である。

 

「あんたのせいで会長にはめられたじゃないのよ! こっちはこっちで今後の計画練ってたのに全部パーだわさ、どう責任とるのよ! なんか言いなさいよ! 」

 

襟元を掴まれ、ガクガクと前後に高速で揺すられるメガネ。返事をしたくても物理的に出来ないことを分かって欲しいという顔である。

気持ちは凄く良く分かるが、とばっちりが嫌なので何も言うまい。

 

「師範代、おいたわしいっす……」

 

シュルトが止める訳はなく、イナギも戦線離脱。そして弟子のズシは勢いに負けてただ落涙してるだけ。

つまり、ビスケを止める者は現状誰もいない。結果ひたすらシェイクされるウイング。

何というか、もう無茶苦茶であった。

 

 

 

 

かささぎの梯

第十二話 『修行開始!?』

 

 

 

 

そんなとんでも自己紹介が終わり、ビスケの師範代講習は明日から行うとのこと。

精魂尽き果てたウイングとズシが部屋に帰るのを見送った後、ビスケはパンと一つ手を叩いた。

 

「さて、じゃあ余力がある今の内に聞いておくわよさ。アンタどこで修業するつもりなの? 」

 

余力がある内にって、明日からどれだけ厳しい修行を詰め込まれるんですかね。

湧き上がる不安にそっと蓋をする。そこは明日の自分が頑張ってくれる筈である。

 

「ロマブ砂漠だ。知ってるか? 」

「もちろん。今回の一次試験があった場所でしょ」

 

流石はダブルハンター。事情通である。

 

「その時案内してもらったナビゲーターが、念習得に有用な発を持ってるっぽくてさ。力借りられれば、かなり早く開かせられる」

 

あの一族、大人から子どもまで全員纏っぽいこと出来てたし。

試験中だったから軽く流したが、内心めちゃくちゃ驚いてた。

 

「……本当だったら、そこそこ稀少な珍しい能力ね。分かったら詳しく聞かせなさいよ」

「上手くいったらな。ま、ダメだったら素直にここで修行つけるさ。纏だけなら1ヶ月くらいでモノにできそうだし」

「確かに早そうよね、あの子」

「オーラ、殆ど漏れてないしな」

 

2人が見つめる先には、部屋付きのテレビで流されていた天空闘技場の過去試合に見入るシュルト。

精孔は開いていないが、漏れ出るオーラの殆どがしっかりと留められていた。

これは、間違いなくウィングから教えられた燃を愚直に続けた故のもの。纏のコツは既に身についている。

後は瞑想を通じ、自らのオーラを知覚さえ出来れば自然と開く。それ故の1ヶ月であった。

 

「ま、私の見立てもそんなもんね。それくらいならここで修行してもいい気がするけど」

「上手くいけば半分以下に短縮出来るかもしれないからな。短く出来るならそっちの方がいいさ」

 

な、シュルト。と話を振るも、試合に集中し過ぎて聞いていなかった模様。

 

「すいません。何がですか、イナギさん」

「ロマブ砂漠に行けば念の取得が早められるかもしれないって話」

「イナギさん早く出発しましょう! 」

「お前ブレないよなホント」

 

そりゃもう1分1秒でも早い方がいいです! 僕いつでもタクシー呼べますよ! と既に携帯を取り出しているシュルト。

その熱量にはビスケも苦笑いしている。

 

「念能力は逃げないから、あと数日待ってくれ。ビスケの講習終わったらすぐに出るからさ」

「……はい、分かりました。でも出来るだけ巻いてくださいね。1分1秒でも早く」

「シュルトだっけ、断言するけど残念ながらそれは無理ね。むしろ延長がないように祈ってなさい」

「――イナギさん、死ぬ気で3日で。絶対に終わらせてくださいね」

 

死ぬ気て。とんだ言い草である。

が、シュルトの渇望を利用したのはむしろこちら側。年単位で求め続けたお宝を前に「待て」され続けていると考えれば、酷なことをしているのはイナギの方かもしれない。

うわぁ、頑張ろう――が、それはそれとして腹が減った。明日頑張るために、とりあえず今は飯に行こう。

全ての頑張りは明日以降の自分にぶん投げて、イナギは早速二人を食事に誘うのであった。

 

 

 

 

 

△▼

 

 

 

 

 

地獄のような、ではなくて。まさしく地獄の3日間だった。

何がって、とんでもない修行密度である。過去にビスケの修行を乗り切ったイナギとウイングをして、数時間で半ば屍と化すレベル。

そして文字通り指1本動かせず、オーラが枯渇した所で、容赦なく襲い掛かる"魔法美容師(マジカルエステ)"のクッキィちゃん。

ビスケの念獣による"桃色吐息(ピアノマッサージ)"により、僅か30分で体力は全快。体内に満ち溢れる活力をお供に、即修行が再開されるのだ。

ぶっ倒れる前提なので難易度ルナティック。しかも強制コンティニュー付き。

3日目が終わった瞬間、イナギはウイングと肩を抱き合って生の喜びを噛み締めたりした。

もはや2人は戦友である。今度飲みに行きましょう。

 

――そんなこんなで修行は終わり。

ビスケによる師範代お墨付きを得た翌朝、イナギとシュルトはそそくさと天空闘技場を後にする。

最寄りの空港から飛行船に乗り込んで、特に事もなく快適なフライト。

そうして2日後の朝。師弟は熱砂荒ぶ灼熱の地に降り立っていた。

ハンター本戦始まりの地エルベガ。その中心部からすこし離れたところに位置する、ロマブ砂漠唯一の空港である。

 

「いやぁ、ようやく着いたな。長かった」

「僕にはあっという間でした! 進歩を感じられるって素晴らしいですね」

 

飛行船の中でシュルトはひたすら瞑想を行なっていた。

既に何となくオーラを感じ取っているようで、早く続きを! とイナギを急かしている。

――このままいけば、あと数日あれば精孔開くかもな。

並外れた習得速度の裏にある執念に思いを馳せながら、イナギは荷物片手に通路を進む。

そのまま出口を抜け、飛行船から降りた肌を1番に襲うのは熱く乾いた空気。そして容赦なく突き刺す陽光。

数週間ぶりの砂漠の洗礼に、隣で溢れていた満面の喜色がくしゃりと歪んだ。

 

「ぼく、何度来てもこの暑さ慣れないんですよね」

「そりゃそうだ。この暑さが得意な奴は、間違いなくどっか壊れてるよ」

「それにしては、イナギさん余裕そうですね。あれ、念能力者って暑さにも強くなるんでしたっけ」

「ああ、念ってつまりは生命エネルギーだからな。暑さにも寒さにも強く」

「――イナギ、久しぶりだな」

 

イナギのセリフに被さってきたのは、風そよぐ大地のように深みのある声。

空港の到着口から出た二人を出迎えたのは、286期ハンター試験のナビゲーター。カサ族の長、ウルザナであった。

筋骨隆々の体躯に赤銅色の肌。180センチを超す偉丈夫だが、堂々たる羽根冠により更に凄みを増している。

その寡黙さも相まって周囲は自然と距離を取り、まるで巨岩が座しているかのように流れる人波はそこだけ割れていた。

 

「ああ、ウルザナ。出迎えありがとう」

 

これ約束の奴な、とそこそこ大きな手提げ袋をどさりと渡す。中身は天空闘技場で仕入れた上等な蒸留酒が十数本。

ウルザナは繊細な手付きで内から1本取り出すと、指でラベルをなぞり、笑顔に見えなくもない奇妙な表情を浮かべた。

その場で銘柄に目を通すとは流石宴好き集団の長である。

前回別れ際に約束した酒を、ロマブでは珍しいもので統一したのは正解だったらしい。

 

「うむ、これはありがたい。大切に頂こう」

「あの時しっかり会場まで届けてくれたお陰で無事に受かったからな。ホント感謝してる」

「イナギは試練を潜り抜けたカサの男だからな、気にすることはない。が、めでたい事に変わりはない。宴だな」

 

今回は遠慮しなくてもいいのだろう? と日程的なスケジュールをしっかり確認してくるウルザナ。

 

「勿論そのつもりで来ているけど、さ。それよりあの儀式は受けられそうなのか? 」

「全く問題ない。潜り抜ければ認められるし、無理だったら認められない。それだけの話だ。……あぁ、そいつが電話で話してた弟子か」

「そうそう。コイツな」

 

イナギは、シュルトの肩を掴みグイッと一歩前へ押し出す。

空気を読んだシュルトは、ぺこりと一礼。して直ぐに後ろに下がり、イナギに小声で話しかけてきた。

 

「イナギさん、イナギさん。ちょっと僕、全然話が読めないんですが」

 

儀式とか宴とか意味わかんないです、瞑想の続きがしたいんですけど……と、大好きなおもちゃを取り上げられたみたくブーたれるシュルト。

気持ちは分かるが、早く念能力を会得して欲しいのは俺も同じである。

 

「いいから俺を信じろ。このまま瞑想続けるよりも、彼らの力を借りた方が最終的に早く念を覚えられるぞ」

「……分かりました。イナギさんを信じます」

「よし」

「話はもういいか」

 

とりあえず弟子を納得させた所で、ウルザナが顔をヌッと寄せてきた。

 

「とりあえず、カサの集落へ移動だ。お前の到着を今か今かと待ってるからな 」

 

そう言って踵を返し、出口に向かってすたすたと歩いていく。

後ろから表情は見えないが、どことなく浮かれた雰囲気である。彼の軽い足の運びに合わせて歩きながら、イナギはシュルトにこっそり耳打ちした。

 

「いいか、この後彼らの集落に向かう訳だが。着いてから、最低三日はぶっ続けで酒盛りだ。無理に飲む必要はないけど、寝ずに起きとけよ」

「……は? 」

 

酒盛り? しかも丸三日? 理解が追い付かず目を白黒させているシュルトに、イナギはいや違うと訂正する。

 

「最低三日、長けりゃ1週間だ。砂漠に住む一族なんだけど全員おかしいくらい酒飲みなんだ。俺なんかハンター試験直前に飲まされすぎて、ハハハ、下手したら会場に辿り着けなかったかもな」

 

ナビゲーターだったのに狂ってるよな、なんて愉快そうに笑うイナギ。正直何が面白いのか全く分からないです。

この宴会が念能力に繋がるんだろうか。もしかして僕、師事する相手間違えたかなー。

能面のような顔と乾いた笑いをお供にして。

人生の不条理を噛みしめながら、そのままドナドナされていくシュルトであった。

 


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