レオリオ過去編(旧アニメ版オリジナル)ですが、屈指の出来だと思うので未見の方は是非。
感想、評価頂けると喜びます。
よろしくお願いします!
ロマブを発つ目途が付いた時、イナギはすぐにビスケのホームコードへ連絡していた。約1週間前の事である。
が、それから待てど暮らせどなしのつぶて。イナギに返信が来ることはなく、出立の日を迎えてしまった。
修行場所の確保やシュルトのモチベーションアップ等を兼ねた天空闘技場行きであったが、あわよくばビスケの
その為飛行船に乗り込んですぐウィングに連絡したが、「急なハント入ったって置き手紙残して、この前出て行きましたよ」とのこと。現実は非情である。
「しゃーなし。ウィングの弟子はまだ精孔閉じてるし、しばらく地道に纏と練かな」
「そんな事よりイナギさん! 修行しながら一緒に200階目指しましょうよ!! 」
「金が尽きたら考えるよ」
なお手持ちがホント心許ないので、そんなに先ではない模様。
旅団の情報集収集を考えると先立つものはいくらでも必要であり、高額なファイトマネーは超魅力的である。
とはいえ、情報漏洩が怖すぎるんだよなぁ。
そんなこんなで予定通りパドキア共和国に入国し、そこからは電車。
ここまで一度もライセンスは利用していない為、不埒な輩の襲撃などもなし。急ぎではないので途中一泊した事もあり、至極快適な道中であった。
――そうして、やってきました天空闘技場。
二度目だが、何度見ても圧倒される規模感である。世界第4位の高層建築物は伊達ではない。
そしてこの日は週末。魅力的な試合が組まれているのか、とんでもない人出であった。
「よし、とりあえずウイングたちの部屋向かうぞ。何号室だっけ 」
「3065だった筈ですが、もう変わってるんじゃないですか」
「んー、かもな。とりあえず連絡入れてみるか」
そんな会話をしながら、人波を縫うようにしてメインエントランスホールへ。
過密さはますます増し、特に中央に設置されている大型モニター付近は団子状態。まさにこれから試合が始まるというタイミングっぽい。
ケータイでウイングへの文面を作りながら、何気なく目を向ける――そこで、イナギはピキッと固まった。
「あれ、イナギさん。どうしたんですか、イナギさーん」
「……おいシュルト。アイツの顔に見覚えないか? あの、今モニターに映ってる」
「どれです? あぁ! 確かハンター試験にいましたよね。確か名前は」
え~っと、ちょっと待ってください、今思い出します。
記憶を掘り返すシュルトの後ろで、同じくモニターを見ていた2人の男性の会話が耳に飛び込んでくる。
「ゲッ、今日死神の試合か。チケットとってねー!! 」
「誰よそいつ」
「前話しただろ? あのカストロを200階初戦でボコボコにした」
「ああ、お前がスゲーの見たって興奮してたアイツか。休みがちな死神ヒソカ 」
「そう! ヒソカですよイナギさ……イナギさーん? 」
――あぁ、俺の見間違えじゃなかった。見間違えであってほしかったけど。というか何でアイツここにいるのか。
いやよく考えればあんだけバトルジャンキーなんだからここにいても不思議じゃないけど。むしろなんで考え付かなかったのか自分!
後悔先立たずだが、幸い奴の試合は間もなく始まる所だ。
それが終わる前に、今すべきことはたった1つ!
「シュルト。直ぐにここを離れるぞ」
「え、なんですか急に。せっかく来たのに」
というかどこ行くんですかというシュルトだが、イナギの返答は決まっている。
「どこへ行くか、だと? それはな、どこでもいい!とりあえず空港、そして別の国へ移動だ!! 」
このまま此処にいてみろ、アイツは嗅ぎ付けて必ず来る!
そしたら即バトルの続き。しかも今度こそ
「事情は後だ、とにかく行くぞ! 」
「ズシ達には会わないんですか? 」
「後で連絡入れておくから」
「えー。せめてヒソカの試合だけでも」
「絶対にノウ!! 行くぞ!! 」
渋る弟子には取り合わず、足早に闘技場を出てタクシー乗り場へ。
大丈夫、今はこのイベント目掛けて人が詰めかけている。だからタクシーはすぐに捕まるはず。
ちょっぱやで空港に向かいすぐに飛行船に乗れれば、試合が終わる頃にはこの地とはおさらばだ。よし、逃げ切れる!
シュルトの「ホントに寄らないんですか!? ねぇ、イナギさん! 待ってくださいよ!」という声を背中に聴きながら、イナギは来た道を駆けていくのだった。
かささぎの梯
第十五話『ウォーフェット一家①』
飛び乗ったタクシーの運転手にライセンス見せた所、こちらが驚くくらいぶっ飛ばしてくれた。途中警官に止められるも、これまたこのライセンスが目に入らぬか! で解決である。癖になりそう。
そうして最寄りの空港に着いた訳だが、ここで「とにかく早い飛行船に飛び乗る! 」となるのは只の素人。実は飛行船のチケットは、ちょっとした操作で誰が何処へいつ行くのかが簡単に分かってしまうのである。
そこで重要なのは、チケットを複数とって目的地をバラけさせること。
ヒソカを確実にまく為に、お金と安心をトレードオフ。泣く泣くダミーを3便✖️2人分お買い上げである。
「それでイナギさん。どこへ行くんですか」
「それなんだよな。流石にロマブにとんぼ返りするわけにもなぁ」
格好がつかないというのもあるが、今回の件で薄い財布が更に薄くなった。本格的に稼がないと不味いが、ロマブでは稼げそうもない。またビスケと修行した森も、ドがつけ田舎ゆえ同じ理由で却下。
しかし、ここで唸り続けてる訳にもいかない。どこに行くかは、運命のサイコロに委ねるしかなさそうである。
何が出るかな、と始めようとしたイナギを止めたのは、何か決意を固めたようなシュルトであった。
「イナギさん、1つ提案があるんですけど」
「なんだ? 」
「――僕の実家は、どうでしょうか」
「ふぅん、場所どこだっけか」
「ソレアリア共和国の端っこ、イオリア島です。アイジエン大陸の北西部なのでちょっと遠いですけど、家でかいですし、土地も余ってるので修行ならいくらでも」
「とすると、ここから2日くらいか」
「そうです」
中々悪くない提案である。
「んー、けどなー。弟子の家に世話になるってのも、やはり格好がなー」
「……それに実家なら、イナギさんに儲かる仕事も紹介出来ると思いま」
「よしシュルト君のご実家にお邪魔させて貰おうか。すいませんイオリア島行きの飛行船あります? 30分後? じゃあそれ二席予約。現金で」
鍛え持った体捌きで人波を縫い、チケットカウンターで即購入。
おそろしく速い移動。弟子でなきゃ見逃しちゃうね。
そんなこんなで無事にチケットを買った2人は、そのままスムーズに乗船した。ダミーが利いたのか念の入れすぎだったのか、ピエロの影も形もない空の旅。
――そうして2日後。
安全なフライトを終えた2人の姿は、ソレアリア共和国はイオリア島の空港にあった。
「ここからは、タクシーで行きましょう」
シュルトの実家がある街――州都ペルレモまでは、車で30分ほどとの事。
別に走って行ってもいいんだが、と思いながらも、シュルトに誘われるがままにタクシーへと乗り込んだ。
そうして車内。
「……」
「……なぁ」
「はい」
「イオリア島もペルレモも初めてなんだけど、どんなとこなんだ? 」
「はい、かつてアイジエン大陸の玄関口と呼ばれた島です」
「……そうか」
「はい」
「……」
「……」
以降無言。ロボットか!ってくらい、会話のキャッチボールが、まっっったく、続かない! しかもこれは今に始まったことではなく、ペルレモ行きが決まった時からシュルトはずっとこの調子だった。
何かを考え込んでいて、時折何か話そうとしては、言葉を探して黙り込む。このサイクルをずっと繰り返し。
その内何か言ってくるだろうと思って放っておいたのだが……なんかもう、無理やり聞き出すしかなさそうである。
「なぁシュルトや」
「はい」
「何か悩み事でもあるのかい? 」
ハッ! とした顔でこちらを見てくるシュルト。
「どうして」
「いやそりゃずっと元気なかったら分かるだろ」
もしかして普通にしてるつもりだったのか。
だとすると大分重症である。
「で、何を思い詰めてるんだ? アドバイスくらいはしてやれるぞ」
「……心配かけたみたいですいません。実は、これから向かう僕の実家についてなんです。イナギさんに伝えておかなきゃならない事があって」
そこまで言って、顔の前で手を組んで前屈み。目を合わさないままのシュルト。この期に及んでこんなにも躊躇うとは。何だかこちらまでソワソワしてきた。
実家関連、か。何だろう、実家が殺し屋でそのターゲットが俺だったりするんだろうか。
湧いてきた不安は内に隠して、先を促す。
「実は、うちの実家の、職業というか生業がですね。ちょっと特殊というか、ファミリーというか」
ファミリーて。
何だ、身構えて完全に損した。
「あぁ。マフィアな」
「マから始まる――ってええええ!? 気づいてたんですか!? 」
逆に気付いてないと思ってたのが驚きである。
だって普通の家庭は天空闘技場に出入りさせたり、家訓に命の恩とか言わないって。正直匂わしの線を疑ってたくらいだが、それを言わないでいてあげるくらいの優しさは持ち合わせている。
いつからですか!? と騒ぐ弟子を生暖かく見守って、約1分。
次第に落ち着いて、そこからポツポツと漏れ出る安堵の声。何やら実家の家業が理由で師事を無かったことにされるんじゃないかと悩んでたらしい。
あ、運転手さん。騒がしくしてごめんなさいね。
「……まぁ、結果オーライです。改めて、十老頭直系組・ウォーフェット家の長男、シュルト=ウォーフェットです。黙っていてすいませんでした」
「お、おぉ。気にすんなよ」
ここまで揺れひとつ無かった運転と、イナギの心が少し乱れた。
――十老頭の直系? 結構な大物ですやん。しかもそこの長男ってことは、コイツ組の跡取りじゃない?
……正直、そこまでとは思っとらんかった。
胸のつっかえがとれただろう。ここ数日が嘘みたいな饒舌で話しかけてくるシュルトと、対照的に口少なげで頷くばかりのイナギ。
心なしか先ほどより丁寧になった運転は、穏やかな陽光と心地よい海風をかき分けて、2人をペルレモの街まで運んでいくのだった。
△▼
ペルレモ。
アイジエン大陸の北西部。ソレアリア共和国領はイオリア島の北部に位置する、イオリア自治州の州都である。
コバルトブルーが美しいイオリア湾と雄大なペルグレノ山に挟まれたその街は、沿岸部以外平地がほぼない傾斜都市であり。
そこに建つ全てのものは山から切り出した石材で作られており、建物から道に至るまでの一切が白で統一されていた。
海のコバルトブルーと街の白亜のコントラスト。そこに響くのは、人の営みとウミヅルの鳴き声、そして美しく澄んだ鐘の音。
その歴史から教会建築が盛んなこの街では、至る所に鐘塔が建てられている。
命の誕生に永遠の離別。昔から街の思いを乗せてきた鐘は、今日も聞く者の心を和らげている。
それはイナギとて例外ではなく、車の扉を開けた時に飛び込んできた情景に、思わず息を呑みこんだ。
「なんか月並みかもしれないが、そのまま絵になりそうな街だな」
「そう言ってもらえるのが一番嬉しいですよ。自慢の故郷ですから」
話しながら、タクシーの精算を済ませて降り立った二人。その場所はシュルトの家ではなく、ペルレモの中心部である。
『まず軽く街を回って、それから家に案内しますね。僕もちょっと落ち着いてから向かいたいですし』
そんなシュルトの言葉に軽く引っかかりつつも、イナギが頷いた結果である。
「さて、イナギさん。僕がどこでも案内しますよ! 見たいものとか、行きたい場所とかありますか? 」
「つっても何があるかも分かんないしな。まぁ、強いて言えばちょっと入れたいかなって」
「ご飯ですか? それならおススメがあるんですよ! 酒場を兼ねた大衆レストランですけど海の幸が絶品なんです」
案内しますね、こっちです!! と言って歩き始めるシュルト。……街が穏やかなのは、そこまでだった。
タクシーを降りた時から感じていた、若干のざわめき。はじめはよそ者に対する猜疑の目かと思ったが、その全てがシュルトに注がれている。
そしてシュルトが話した途端、遠巻きに見ていた路面店の店主や客、通行人に至るまでが騒めき始める。
「おい。おい母ちゃん。あそこにいるのって、シュルト坊ちゃん、じゃないか? 」
「ちょっとアンタ、見間違い何回目よ。そうだったら嬉しいけど……あらホントね。私にもそう見えるわ 」
「おい、頬つねってみてくれしっかり痛いな。とすると、あれ、夢じゃないぞ」
「という事は本物? 本物の坊ちゃん? 」
「おおおおおい、本物だ! ウォーフェットの跡取りが帰ってきた」
「無事だぞ! 良かった、五体満足だ!! 」
「シュルト坊ちゃん! おかえりなさい、おかえりなさい!! 」
まるで銀幕のスターがお忍び先で見つかったみたいな盛り上がり。余りの反応に目をパチクリさせてると、その間にも人がどんどん集まってくる。
そうして、その広場にいた人全てが突撃してきたんじゃないかと思えるくらいの人だかりが、シュルトの周りに出来上がった。
そうなると必然的に傍にいたイナギも一緒にもみくちゃにされる。足は踏まれるわ肘は入れられるわ、別にどうってことないけど、悪気がないので性質悪いなこれ。
「ちょ、ちょっと皆さん落ち着いて! はい、シュルトです、おかげさまで無事に戻ってきました!! ただ今は師匠に街案内してるとこなので、ちょっと後に、後に!! 」
ピタリと、歓声が止まる。
そこで初めてシュルトの傍にいる見慣れない青年に気がついたのか、全ての目が1人に注がれる。軽くホラーである。
イナギの真横にいた、ハンチング帽を被った老人が話しかけてきた。
「おい兄ちゃん」
「何でしょう」
「坊ちゃんの言ってる師匠ってアンタのことかい? 」
「はぁ。まぁ、そうですね」
「イナギさんです! ハンター試験で僕の命を救ってくれたんですよ。しかも戦い方まで教えてくれていて、僕の命の恩人です」
その老人から向けられていた、舐めつけるような視線。しかしそのシュルトの言葉を聞くと、そんな事なかったみたいにニッと破顔した。
「なんでぇ、坊ちゃんの命を救ってくれたのか! 」
「だとすりゃシュルトちゃんだけじゃないよ。ペルレモの恩人だわね」
「よぅし、先生だな! 先生、今日はシュルト坊ちゃんのご帰還と、新たな恩人の歓迎会ですぜ! 」
「皆、カシナーリだ! あの親父も、今日くらいは早めに開けてくれるだろうよ。行くぞ!!」
口を挟めない怒涛のムーブである。雰囲気は良くなったけど、また別の意味でちょっと怖い。
人波に囲まれたまま、押し流されるように引きずられていく二人。タイミングを見て、シュルトに顔寄せこそっと耳打ちする。
「お前の地元、色々とすごいな」
「そうですか? 」
え、何が?と言わんばかりの表情が返ってきた。
おそろしい……想像以上に世間離れしたコ。日常が坊ちゃんだったはず……。
いやまぁ、生まれた時からこんな環境で、しかもプロハンターになった上で夢も叶えた凱旋帰国である。
実家について白状してから何となく地に足が着いてない感じだし、色々重なってるのは分かるのだが。
――これ、念以外も教えにゃあかんなぁ。師として、弟子のズレを正そうと決める。
しかし何を勘違いしたのか、シュルトはポンッと手を叩いて。
「大丈夫です! カシナーリ、元々案内しようとしてたとこですよ」
「……あぁ、絶品の海鮮な。そりゃ楽しみだ」
ちげーよそうじゃない。
シュルトの満面の笑みを見て、イナギは喉元まで出かかったその言葉を飲み込んだのだった。
△▼
オステリア・カシナーリ。
街の住民が夜な夜な詰め掛ける、ペルレモ屈指の人気店である。
年季の入った外観で、気取った所は一切なし。メインの通りから1本入った場所に位置していて、日が暮れると地元の客で溢れかえる様子が目に浮かぶような佇まいである。
が、今はまだ昼過ぎ。営業は夜のみらしく、扉には"準備中"の札が揺れている。
にもかかわらず先ほどのハンチング爺さんが勢いよく乗り込んで行き、直ぐに恰幅が良い男と一緒に戻ってきた。
「カポクオーコ! 」
弾かれたようにシュルトが前に出て、飛び掛かるように全身で抱きつく。
「よう、イタズラ坊主。よく無事戻ってきたな」
「もちろん! まだまだカシナーリの料理を食べ足りないからね 」
「嬉しいこと言ってくれるじゃないか! 」
わしゃわしゃと頭を撫でられて、満更でもない様子のシュルト。
手はそのままに、その男性はイナギに向き直った。
「先生、爺から話は聞いたぜ。シュルト坊主の命を救ってくれたんだってな。心から感謝する」
「正直成り行きで助けただけだから、別にそんなに気にしなくてもいいんだけどなぁ」
「なーに言ってやがんだ。先生が思うより坊主の命は重いのさ。なぁ、そうだろ!? 」
そうだそうだ! と湧き上がる同意の声。
まぁそれは、ここまでの流れで嫌というほど思い知ったけどさ。
「それにしても先生! それをひけらかしもせず、恩にも着せないなんてほんっとうに頭が下がるぜ。俺からせめてのお返しだ! 坊主の恩人からとる金はねえからよ、今日はたらふく食べてってくれ! 」
「早く店開けるだけじゃなく奢り!? おい、明日はペルレモに雪が降るぜ!! 」
「うるせぇ、先生と坊ちゃんだけだ! 他はたっぷりふんだくってやるから覚悟しやがれ! 」
そんな殺生な! 嫌なら帰りやがれ! なんて怒鳴り合い。しかしどちらの雰囲気も悪くなく、おそらくいつものコミュニケーション何だろう。
スススッと寄ってきたシュルトに腕を引かれ、小声で話かけられる。
「みんな冗談めかしてますけど、本当にレアなんですよ。店を早く開けるのも、こうやって奢るのも。カポクオーコは仕事に誇りを持ってるから」
「そっか。じゃあ、感謝してご相伴に与るとしようか」
そんなこんなでカシナーリの扉を潜り、店はあっという間に満員御礼。
キッチンに舞い戻ったカポクオーコが見せる奮迅の働きで、卓について直ぐに全員分の先付けと飲み物が行き渡る。
まだ、昼である。昼ではあるが、食べては歌って飲んでは踊る、無礼講のどんちゃん騒ぎが始まった。
「どうだ、先生うめぇだろ!」
「控えめに言って最高だ」
「だってよカポクオーコ! 」
「あ゛ぁ!? なんだって!? 」
「先生がめっちゃ美味いってよ! 」
「そりゃ良かった! 先生、まだまだ出すから胃袋開けといてくれよ!! 」
開始早々、簡単に声が通らないほどの盛り上がり。
そんな喧騒の中、イナギは返事もおなざりにカシナーリの味を満喫していた。
舌が肥えてるであろう地元民に人気なだけあって、まず素材が良い。カポクオーコ――料理長の兄弟の1人が漁師で、朝取れた海産物の中で最高のものだけを直接仕入れてるという。
先ほど誰かが言っていたが、「カシナーリ以外の店は、混んでて入れない時に行くもんだ」という言葉も頷ける。控えめに言って最高というのは、大袈裟でもなんでもない純粋な感想だった。
堪能していると、赤ら顔の男がゆらゆらと近寄ってきた。
「先生、16は超えてるだろ。イける口かい? 」
白ワインのボトルを見せながら、空のワイングラスを差し出してくる。
そういえばイナギの地元と同じく、ソレアリア共和国も16才から飲酒OKな国だったか。
「勿論貰うさ。……シュルト、お前はダメだぞ」
「イナギざああああん! 」
「ははっ、さすが先生だ。坊ちゃん、飲まないならその方がいいかもですぜ」
脇から伸びてきた手をペシリと叩き落とす。崩れ落ちるシュルトはスルーして、グラスを受け取り注いでもらう。
軽くぶつけ合ったそれを傾けながら、シュルトは店内をグルリと見渡した。
キッチンでは、カポクオーコを筆頭に3人の料理人が息の合った連携で澱みなく動いている。
そしてホールスタッフも3人。その中核となっているのは、190cmを超える長身の青年であった。
20代半ばくらいだろうか。丸いサングラスに逆立てた髪。ボーダーのワイシャツを着込み、下は黒のソムリエエプロン。覇気が良く、指示も明快で動きも機敏。見てて気持ちが良いくらいだ。
「先生、あの店員のにーちゃんがどうかしたか? 」
そんな彼について、イナギが気になったのはその体幹である。両手にグラスやお皿を持ち、店内を足早に駆けているのに驚くくらいブレていない。
呼吸や視線の運びから同門ではなさそうだが、恐らく何か武術を修めている気がする。
「いや、いい動きだと思ってな。まぁそれだけさ」
まぁ、だからと言ってなんだと言う話である。
10秒ほどその店員をジッと見ていたイナギであるが、訝しげな視線に思考を切り上げた。
「で、先生。そろそろ聞かせて欲しいんだけどな」
「ん? 何をだ? 」
「何って、そりゃハンター試験さ!! 」
騒がしい店内に響き渡るくらいの大声。その声に、店中の意識がこちらへ向かう。
「先生もそうだが、坊ちゃんの活躍についてもぜひ聞かせてもらいてぇ! やっぱりプロハンター試験ともなると、相当過酷なんだろ? 」
「あー、そりゃまぁ、命の危険が普通にあるくらいには過酷さ。あんまり飯時に相応しい話題とも思えないが」
「いやいや、ここでお預けは酷ってもんさ。なぁみんな、聞きてぇよな! 」
一斉に頷く飲み助一同。完全に酒の肴にするつもりである。
――仕方がない。刺激が少ない部分だけを切り取って、パパッと話すことにしよう。
そう思い立ち上がろうとしたイナギの肩に、背中から大きな手が置かれる。俺の背後に立つなと言うつもりはないが、あまり友好的では無さそうな力の入れ具合だ。
まさかハンターライセンス狙いの無頼者でもいたのだろうか。
少しだけ警戒して振り返ると、そこに立っていたのは……サングラスをかけた、先ほどの店員さん?
「なぁ、すまんがプロハンターさんよ。もしアンタが本当に合格者なら、俺に一つ、ハンター試験のコツってやつをご教授してくれねぇか」
是が非でも、詳しい話を聞かせてもらうぜ。
思ってもいなかった人物の気迫に溢れるその様子に、イナギは思わず目を瞬かせたのであった。
誤字報告して下さった方、ありがとうございます!
恥ずかしながら誤字が多いので本当に助かります。
年内の投稿は以上になります。
来年もどうぞよろしくお願いします。
次話の草稿は出来ているので、体調や状況と相談しつつ原稿進めて行きます!!