かささぎの梯   作:いづな

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お読み頂き、またご感想・評価頂けたこと誠にありがとうございます!
過去15年で前話に続き筆が進んだので、投稿させて頂きます。


第二十話 『人体収集家倶楽部①』

ノストラードファミリーの本拠地は、深い木立を抜けた先に在った。

唐突に現れる広大な芝地の丘と、それをぐるりと囲う背の高い塀。そして、その中心にポツンとそびえる巨大なお屋敷。

人里離れているという点ではウォーフェットファミリーのそれと同じだが、受ける印象が全く違う。

生活感を感じない、静か過ぎる様相。何故か檻を想起させる、白亜の洋館。

イナギはそんな敷地の入り口に立ち、固く閉ざされている鉄門扉のブザーを鳴らした。

 

「はい、当家に何か御用でしょうか」

「イナギと言います。ウォーフェットファミリーからの紹介で」

「イナギ様、お待ちしておりました」

 

庭口にぬっと現れたシワだらけの執事に従い、門を潜る。唸る番犬の間を抜け、エントランスを通って屋敷の中へ。

促されるままに粛々と着いていくと、彼はある扉の前で立ち止まった。

 

「皆さまがお待ちです。どうぞお入りください」

「分かった」

 

ガチャリとノブを回して、自然体で部屋の中へ入る。するとそこは、内階段が目を引く吹き抜け構造のラウンジルームだった。

日が差し込む背の高い窓に、複数の本革ソファ。そこに掛ける形で、6人の男がイナギを待ち構えている。人種・年齢はてんでバラバラ。だが、その全員が念能力者だ。

内1人の男が立ち上がり、歩いてイナギに近づいてきた。

 

「初めまして。イナギといいます。あなたは」

「護衛団リーダーのダルツォルネだ。よろしく」

 

背丈は180程度。がっしりとした体つきで、角刈り。目の下にサメのエラのような刺青を入れている。

パッと見た感じ、そこそこの実力はありそうである。少なくとも、彼らの中では一番強いのは間違いない。

 

「早速だが、任務の内容は聞いているかね」

「人体収集家としての知識が必要になるものとだけ」

「そうか。君に当たってもらうのは、とある人物の護衛だ。つまり、相応の実力も必要になるのだが」

「なるほど」

「その点については、紹介者が絶対に問題がないと断言していてね」

 

上から下まで、じっくりとした視線。イナギが値踏みしたように、彼もイナギの程度を計っているようである。

時計の針が15ばかし時を刻み、それで満足したのか目線が戻ってきた。

 

「本来であれば、こちらで試させてもらうんだが。だがウォーフェット一家のことは」

「いやいや、それじゃ不安だろ 」

「信用して……何? 」

「俺の"練"見せようか? って言ったのさ」

 

舐められてると、この後やり辛くなるしな。そんな心の声に替えて。

イナギは自身の全力で、この空間をねじ伏せるつもりで"練"をした。

 

――"練"を見る。

ハンター用語で、意味は「鍛錬の成果を見せる」事。

つまり文字通り"練"をするだけでは、困惑されるだけである。が、これだけ彼我の差が大きければ、その限りではなかった。

イナギの"練"とほぼ同時に、敏感な2名がその場から飛び退った。花瓶が床に落ち、机が倒れる。

それ以外の面子は、その場で立ち上がるのが精々か。唾を飲む音に、荒い息差し。

そして目の前のダルツォルネはというと、彼もまたその場から動いてはいない。

だがこれは……反応出来なかったのではなく、下がろうとする身体を精神力で押さえ込んだ感じ、だな。

呼気は乱れ顔色も悪いが、恐れて後退りはしなかった、と。

――明確な実力差を察して尚、上役としての態度を崩していないなら。彼を立てるのも、やぶさかではないかな。

そう結論付けて、イナギはフッとオーラを緩めた。

 

「紹介されたからじゃなく、実力を信用して頂けると嬉しいですね」

「あ、あぁ」

「そして部下になるんですから、相応に扱ってもらって大丈夫ですよ、ダルツォルネさん」

「……分かった、そうしよう」

 

ダルツォルネを認めたという、イナギの含意を察したのだろう。

少し間を空けてから手を差し出してきたので、受け取る形でにこやかに握手する。

む、この握りと指だこの位置。獲物は片刃の直身かな。

 

「い、イヒヒッ、良かったですね。ぼ、暴力的な、や、野蛮人にしては話が分かるみたいで」

 

そんな2人に向けて、パチパチという拍手が唐突にかけられた。

そちらに目を向けると、猿のようなまだら色の長髪を後ろに流した年配の小男だ。何だか凄くビクついているが、それに似つかわしくない挑発的な台詞。

なんだろう、ちょっとテクニカルに喧嘩売られてるんだろうか。

ジッと見つめていると、節くれ立った両手を上げて、降参のポーズ。

 

「そ、そんな目で見ないでくれよ。ヒヒっ、土下座でも、さ、させる気なのかい? 」

 

答えず黙っていると、聞き取れないくらい小さい声で何かをモゴモゴ呟いている。

 

「パッソ」

「ひ、ヒヒっ、何ですかね、リーダー」

「空気読め」

 

そしてダルツォルネの一言に、すごすごと引き下がっていく。その呆れた声音から察するに、多分ナチュラルにああいう人なんだろう。

あまり関わりたくはないが、側から見てる分には面白いかもしれない。

 

――その流れで、メンバーと簡単に自己紹介。

くるくると渦を巻いたもみあげが特徴の、陽気そうな細身の青年。シャッチモーノ=トチーノ。プロハンター。

影と顔が薄い、こちらも先輩プロハンター。リンセン。

イワレンコフ。身長2mを優に越す、オールバックの巨漢。力に自信あり。ボディーガード、つまりハンターではないとのこと。

額のほくろが目を引く黒人で、癖のある髪を後ろで一つにまとめたアマチュアハンター。スクワラ。

吃音癖がある先の小男、パッソ=コーン。バックアップ担当。纏くらいしか使えなさそうだが、なにをバックアップするというのか。

ここにリーダーのダルツォルネを加えて、全6名。一部微妙な者もいるが、全員が念能力者である。

正直、個人の護衛と考えるとかなり過剰。雇い主はよっぽど慎重な性質らしい。

 

「よし、顔合わせは十分だろう。早速だが、まずはボスに会ってもらう」

「ボス? 」

「あぁ。ついて来い」

 

他は待機とだけ告げて、歩き出すダルツォルネ。彼に着いて、部屋を出た所にあるエレベーターへ。

更に馬鹿でかい廊下を進み、階段を降りて、部屋を通り抜け、角を曲がり。

あえて辿り辛くしてるにしてもやり過ぎじゃないかと思い始めた所で、ダルツォルネはピタリと足を止めた。

 

「念のため確認するが、今回の護衛先では人体収集品への知識が不可欠だ」

「なるほど」

 

雰囲気的に頷いてはみたものの、人体収集家としての知識を必要とする護衛先?

全くもって意味が分からない。

 

「そしてその事はボスもご存じだ。だから今日、趣味を同じくする君と会うのをとても楽しみにしている」

「それは光栄な事で」

「……先ほどの"練"で、君の実力はよく分かっている。が、知識に関しては別だ。もし君が期待外れだった場合、我々ではお手上げになる可能性が高い。あのウォーフェットの紹介だからそこも問題ないと思うが、もし自信がないなら、今伝えて欲しい」

「お手上げ? 誰に? 」

「ボスだ」

 

薄々感じてはいたが、ウォーフェットファミリーの評価滅茶苦茶高くない?

あと念能力者がお手上げになるボスって、どんだけヤベー奴なんだろうか。

 

「んー、そのボスがどれだけ詳しいかは知らないですが、問われるのはコレクションじゃなくて知識ですよね」

「そうだ」

「だったら大丈夫。その手の話だったら、何日も語れるくらいには仕込まれてるので」

「……分かった。そちらも信用するとしよう」

 

一先ず納得したのだろう。

話を切り上げたダルツォルネは、目の前にある扉を二度ノックする。

すると、お付きの人だろうか。1分待ってー! という高い声に了承の旨を返し、ドアから一歩離れた。

沈黙が痛いので、せっかくだからと気になっていた事を聞いてみる。

 

「ちょっと聞きたいんですけど」

「なんだ? 」

「人体に関するアングラ知識が必要な護衛先って、一体何なのか触りだけでも」

「そうだな、何と言えばいいか。所謂――そう、オフ会だな」

「オフ会!? 」

 

人体収集マニア大集合ってこと? 何その地獄みたいなイベント!?

思わず心の声が漏れ出たのと同時に、ダルツォルネが扉を開ける。

目に飛び込んでくるのは、複数のピンクアーチドレープに、純金のシャンデリア、ワイドキングサイズの天蓋付きベッド。

そしてそこに腰掛けている、薄紅色の髪をした10代後半の少女だった。

 

 

 

 

かささぎの梯

第二十話『人体収集家倶楽部①』

 

 

 

 

イナギが今回の依頼を受けたのは、金銭以外にもう一つ理由があった。それは、ノストラードファミリーの鬼札、未来を予知する念能力者の存在である。

未来は未知数。仲良くなって占ってもらえれば、もしかするとフランシール壊滅事件や幻影旅団に繋がる情報が手に入るかもしれない。

その能力者がイナギと同年代の少女だとは思いもよらなかったが、あわよくばの精神で社交性を全開にして臨んだ結果。

 

「そういえばギュドンドンド族の骨、すぐに分かった? うん、あれは簡単過ぎよね。でも、そもそも本物は持ってないの。私、女性や子どものが可愛くて好きなんだけど、ギュドンドンド族で面白いのって全員男でしょ? 女性のは普通だし、子どものはそんなに穴空いてないし」

 

入室してから1時間。

挨拶だけのつもりが、盛り上がり過ぎてイナギはまだ部屋の中にいた。

 

「その点、一角族の頭蓋骨はみんな角もあるし、ちょっと小さくて可愛いの。でも私まだ持ってなくて、アナタは見たことあるの? 」

「はい。ただ、私が見た事あるのは男性なんですよね。女性だと前頭骨が真っ直ぐ立ち上がっているので綺麗ですし、人気があって珍しいので、もし手に入ったら是非見せて頂きたく」

「へー、そうやって見分けるんだ。勿論いいよー、連絡するね」

「ありがとうございます」

 

会話を始めて直ぐに理解した事がある。

この女――ネオン=ノストラードは、無知故の純粋さと残酷さが同居している人間である。

こういうタイプは自らを害する悪意には敏感だが、それさえなければ表面的な愛情でも問題なく受け取ってくれる。

その為嫌味にならない程度に相手を褒めつつ、興味のツボさえ抑えてやれば。

 

「私、今一番欲しいのは緋の眼なの。そう、クルタ族の。写真でしか見たことないけど、とっても綺麗で可愛いの。女性や子どもなら言うことなしね! ね、もしかしてこっちも見たことある? 」

 

まぁ、こんなもんである。

 

「えぇ、世界七大美色なのも納得するくらい、寒気がする綺麗さでしたね。ただ、性別や年齢を見分けるのはかなり難しいですよ」

「どうして? 」

「眼球の大きさって、男女どちらもほぼ同じなんです。子どもでも、10歳を超えると大人とさほど変わらないですし」

「えー、じゃあ分からないの? 」

「はい。組織を採取するなら別ですけど」

「それって、緋の眼を傷つけるってこと? 」

「そうです」

「なら嫌! 緋の眼を傷つけるなんて無理!! 」

「となるとボスの直感次第ですね。それに、瞳の色に性差はないですし」

「んー、確かにそうかも 」

 

……客観的に見て、話に合わせられる自分は同じ穴の狢なんだろうなと自戒しつつ。

目の前のお嬢さん(予知能力者)から()()()気に入られることに全力を注いでいくと。

 

「うーん、やっぱり同じ趣味の人と話すのは楽しい! ね、アナタ名前はなんていうの? 」

「イナギです。ただ同じ趣味とは言っても、私は知識だけ。コレクターではないのが申し訳なく」

「んー、そうね。話すのも楽しいけど、人のコレクションも見れたらもっと楽しいかも」

 

とりあえず名前は覚えてもらえたようだし、懐かれ過ぎるのも困るので一旦線を引いておく。

あとこの論旨が通じるという事は、今まで他のコレクターとの接触はなさそうだな。基本的に人体収集癖のある輩なんて、人間的に壊れてる奴ばっかりなのだから。

だからこそ、ネオンはオフ会に過度な期待を抱いているのかもしれない。

 

「ボス。そろそろ時間が」

「あ、ダルツォルネ。いたの」

 

最初からずっといましたね。

 

「ちなみにイナギ、オフ会に参加出来そう? 」

「相応しいコレクションさえ用意して貰えれば」

「ボス、それはこちらで準備します。そしてオフ会後は、ボスのコレクションに加えて頂いても」

「あ、じゃあ、私選ぼっかなー。実は今欲しいお宝があってー」

 

ケータイ電話を手に盛り上がり始める主従。

お宝の値段が漏れ聞こえてくるんだけど、まぁ金持ってる事持ってる事。

――そんなこんなで、ネオン=ノストラードとの初顔合わせは終了したのであった。

 

 

 

△▼

 

 

 

オフ会――正式名称を、人体収集家倶楽部。

年一開催で33回目を迎えるそれは、人脈作りと承認欲求が同時に満たせるという事で、その界隈では有名な交流会らしい。

その参加資格はただ一つ、「()()()人体収集家であること」のみ。

ただ持ち寄る品が特殊な事もあり、参加出来るのは主催者による事前審査を通過した者のみ。また参加は本人のみで、随伴は一切認められない。

そして審査の結果ネオン=ノストラードは参加OKだったのだが、やはり護衛付きでは認められず。

そこで系列の組に参加者として護衛出来る人材の応援を頼み、白羽の矢が立ったのがイナギという流れだった。

 

――ネオンとの顔合わせから3日後。イナギは現在、ザバン市にいた。

最寄りのドーレ港からバスで1時間程度、休火山群を後背に持つ中堅都市であり。

過去に起きた凄惨な事件*1 のせいで世界的に悪名を馳せたりしたが、現在は穏やかな晴れ間が似合う地方都市である。

護衛任務の第一ミッションは、倶楽部への参加許可を貰うこと。それも随伴と見做される可能性を鑑み、ネオンとは無関係な形を装って。

その為に、ノストラード手配のコレクションが入ったジュラルミンケースを持って辿り着いたのが。

 

「ここ、だな」

 

アイジエン大陸でその名を轟かす、老舗の仕立て屋『テーラー・ツアミ』であった。

メイン通りから1本外れたところに位置していて、決して大きくはないのだが、創業200年という歴史の重みを感じさせる佇まい。

品が良いオーク樫の重厚な扉には「close」の看板が揺れていたが、事前に聞いていたイナギは気にせずにノッカーを三度鳴らした。

 

「はい、お待ちしていました。どうぞ」

 

深くて落ち着きのある声に導かれ、ドアを開ける。

 

「イナギさん、ですね。人体収集家倶楽部のツアミです」

「ツアミさん! ご高名はかねがね、よろしくお願いします! 」

 

そこにいたのは、高級感と落ち着きが同居したスーツを着こなす初老の紳士だった。

『テーラー・ツアミ』の7代目であり、人体収集家倶楽部の発起人にして主催者、ティルカ=ツアミその人である。

 

「想像以上にお若いですね。いや失礼、中々若い方が珍しいものでして」

「いえ、本当にそうなんです。周囲の同年代は、全く分かってくれなくて」

「分かりますよ。それこそが、33年前に私がこの会を起ち上げたきっかけですから」

 

では、こちらへどうぞ。

そう言って踵を返すツアミを追いかけ、店の一番奥にある階段から地下室へ。

降りた先で通されたのは、アンティーク調にまとめられた十畳くらいの応接部屋。

その扉を潜ったイナギは、その正面の壁に飾られている美術品を見て、思わず息を飲んで見せた。

 

「全身入墨皮の……なんて見事な! こんな逸品が存在するなんて」

「ありがとう、そう言って頂けると嬉しいですね」

 

ニッコリと邪気なく笑うツアミ。その後ろの壁に掛かっているのは、全身入墨の昇龍図である。

それも背中側だけではなく、足裏から手指、唇に瞼、頭皮に至るまで。一人の人間を構成する全ての皮膚に龍が彫られている、世界に2つとないレベルの極美品だ。

 

「しかもあっちは龍皮病患者の皮膚! 僕の手のひらより大きいですし、この棚にあるのは人皮装丁本! しかもこの皮目、条約以降の禁制品じゃないですか! 」

「ハハハ、本当にお目が高いね」

 

この室内にあるコレクションは、数こそ少ないものの超1級品ばかり。慣れている筈のイナギが内心引くくらいには、えげつない代物のオンパレードだ。

その持ち主のツアミであるが、この部屋に入ってから目つきが変わっている。コレクションへの反応も、審査の一環なのだろう。

となると、イナギは熱心な人体収集マニアになりきるしかない。心の鎧をしっかりと着込んで、時間を忘れて夢中です! という体で、ヨイショと蘊蓄を惜しみなく垂れ流す。

――そうして10分後、ようやくイナギはツアミに着席を促された。

出された紅茶を、勧めに応じて一口貰う。

喉が潤う心地よさを感じつつ、イナギは改めて居住まいを正した。

 

「ツアミさん」

「何でしょうか」

「この度は、人体収集家倶楽部に参加したいと急に押しかけてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

「それは別に構いませんよ」

「ありがとうございます」

「――ただ、何故急に参加しようとされたのか、その理由は気になりますがね」

 

そりゃそうだよなぁ、と内心溜息。

実は今年のオフ会、開催されるのは僅か2週間後なのである。

普通に考えたら来年参加になるタイミングたが、それを「是非、今回から!」 と無理やり押しかけたのだ。

理由は気にして当然である。

 

「実は昔から参加したかったのですが、納得出来る品が手に入らず。ただ数日前に望外の品が手に入ったので、居ても立っても居られず押しかけてしまいました」

「なるほど。ちなみにイナギさんは、現在お幾つですか? 」

「はい、16歳になります」

 

この若さはやっぱり気になるよなぁと思いながら、それが何かと普通に答える。

本当なら誤魔化したかったのだが、後ほど身分証明書の提出が必要になるとの事なので、ここは押し切るしかない。

 

「……分かりました。ではコレクションをお見せ頂けますでしょうか」

「はい、こちらです」

 

大事に持ってきたジュラルミンケースを膝に置き、ダイヤルを合わせてそっと開ける。

そして中から取り出した(ブツ)を、ツアミに見えるようにゆっくり机の上に置いた。

 

「これは」

「三重歯列の古代キバ族、ミイラの頭部です」

 

古代キバ族。

食物を精霊が使わした(めぐみ)と考え、それらを身の内に入れる為の口、引いては歯を誇る一族である。

その多少により精霊の寵愛が変わるという価値観から、幼少期に抜ける乳歯を彼らは無理矢理留めおく。

その為一般の古代キバ族は歯が前後に重なって生えているのだが、このミイラは何らかの理由で三重となっていた。

 

「わざわざミイラにして埋葬されていたことを考えると、相当地位が高かったか、崇拝されていたか」

「古代キバ族は土葬文化ですしね。まず残っている数が少ないですし、その上三重歯列で頭部の完品……これはなかなか」

 

なかなかどころか、世界でも有数の品である。

これを僅か数日で手に入れるとか、ノストラードは多分札束で殴ったんだろうなって。

その後、イナギの経済的な背景(株式投資で押し通した)に、収集品の入手先やツテ等のアングラ情報を話し合った所で、そろそろと時計を示された。

 

「え、もうこんな時間! すいません長々と話してしまってと」

「いえ、こちらこそ楽しかったので大丈夫ですよ」

「――それで、倶楽部への参加なんですが」

 

イナギの言葉に、ツアミはゆっくりと口を開いた。

 

「まず、前提としてですが。普通はこのタイミングなら、来年以降での参加となります。会場の手配などもありますから」

「はい」

「ですが、君のコレクションとその知識。そして収集品への愛はまさしく本物だと思います」

 

真摯に語るその様は、ジェントルそのもの。

続きを待つイナギに、彼はニッコリと笑いかけた。

 

「実は、今回からの新会員にはもう一人若い方がいましてね。当倶楽部は会場立ち入りが会員のみになるのですが、そこが不安で不参加になるかもしれなかったんです」

 

十中八九ネオンのことだ。

 

「一人を不安視……女性ですか? 」

「そうなんです。なので、当日彼女のエスコートをしてくれるなら、今回は特別に参加を認める、という事でいかがでしょうか? 」

 

これならすぐに合流して、自然な形で護衛が出来る。本当に、願ってもない形である。

 

「はい、淑女のエスコートなら任せてください。その形でぜひお願いします」

「ありがとうございます。では、2週間後の倶楽部でお会いしましょう」

 

そうして、二人はその場で固い握手。

そんなこんなで、イナギは人体収集家倶楽部に参加できることに相成ったのだった。

*1
大量殺人犯 解体(バラシ)屋ジョネスによるもの。最低でも146人が殺害された。




パッソ=コーン。
今作で一番ハンターハンターらしい名前になったんじゃないかと自賛しています。
ちなみに、一応原作に登場してる名もなきモブです。

拙作を応援して下さる方がいらっしゃれば、感想・評価頂けますと非常に喜びます。
次回以降もお読み頂けますと嬉しいです、よろしくお願いします!
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