かささぎの梯   作:いづな

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お読みいただき、誠にありがとうございます。

週明け発売の45号から、ハンターハンター連載再開!!
嬉しすぎて、急いで書き上げました(なお単行本発売には間に合わなかった模様)



第二十一話『人体収集家倶楽部②』

無事、オフ会参加をもぎ取ったイナギ。報告した所、準備があるので急ぎ戻るようにとの事だった。

そうして意気揚々と戻ってきたるは、ノストラード組の館である。

お馴染みの呼び鈴を鳴らし、老執事に従って本邸へ。通されたのは、前回とは違う部屋だった。

品の良い調度品にインテリア。事務机とパソコンがある事から、ダルツォルネの執務室か。

ちょうど打ち合わせをしていたのか、そこに護衛陣が全員揃っていた。

 

「ただいま戻りました。無事参加に」

「あぁ、ご苦労」

 

作業の手を止めて返すダルツォルネだが、何故だろう。素っ気ない返事に疲労感がにじんでいる。

よくよく見ると、隈をメイクで隠してるし、他のメンバーはもちろんさ、お付きの侍女達もどことなく元気がない。

――なんだろう、カチコミでもあったんだろうか。でも番犬は通常営業だったし。戦闘跡も特になかった気が。

違和感に想いを巡らせていると、その様子を察したメンバーの1人が明るく話しかけてきた。

 

「やぁイナギ! 首が伸び切るかと思ったよ」

 

シャッチモーノ=トチーノ。ソレアリア人特有のアモーレを感じる、もみあげが特徴のプロハンターだ。

 

「揃いも揃って疲れてるけど、何かあった? 」

「まぁね。正直立ってるのもやっとさ」

 

勘弁して欲しいよという動きを見るに、身体的な疲労ではなさそうだ。

徹夜で勉強したとか、そういう感じのやつっぽいな。

 

「実は昨日から、聞くも涙語るも涙の」

「そういうのはいいからさ、何があった? 」

「……ボスだよ」

 

なぁる、ほど。

その一言で大体分かった。分かりたくはないんだけども。

 

「ボス、オフ会決まって興奮しているのか」

「めちゃくちゃだよ。趣味の話を、マシンガンみたいにずっとだ」

「そしてそれを、誰彼構わず? 」

「その通り。昨晩からだね、僕らも弾除けのローテ入りさ」

 

――基本的にノストラード組において、ダルツォルネを除く護衛陣はボスと関わることはない。唯一の例外は外出時のみ。

つまり護衛とボスと関わる現在のシフトは、非常事態用のそれであった。

 

「流石に体力が尽きて少し前に寝たけど、それまで飯も食べやしない」

「そりゃよっぽどだな」

「あぁ。女の子と話して給料貰えるなんてとキミを羨んでた自分をブン殴りたいね」

 

コイツもコイツでハイになってるのか、僕は君を尊敬するよ!と無駄にキラキラした目で褒め称えられる。

武闘家としての評価ならともかく、そっち方面がストップ高になっても全然嬉しくない。

 

「でも寝落ちしたなら、もう問題ないか」

「いや! 起きたら絶対に第二ラウンド始まるね! 」

「なら引き続きローテで」

「だからイナギ、どうか頼んだッ 」

 

ガッと肩を掴んだトチーノ、その全身からオーラが立ち昇る。

澄んだ目の奥は燃え盛る炎があった。

 

「いや、俺も護衛計画に参加する必要が」

「ヒ、ヒヒッ。ああ、あんた程度、いい、い、いなくたって、大丈夫だ」

 

離れた席でずっと俯いていたパッソが、落ち着かない様子で会話に飛び込んでくる。

顔色は悪く、吃音も酷く、疲れた様子は一切隠せていない。お前もか。

 

「ザ、ザバン市管轄の組は、ボ、ボスの、顧客でうちにこ、好意的だ。ほほ、他にボスを狙う動きも見当たらないし、今回はまず」

「パッソ」

「だだ、だいじょ、ヒィッ!? 」

 

パッソの言葉を聞いて立ち上がったダルツォルネが、静かに近寄り間近でその顔を覗き込んだ。

そして見せつけるように、手にしたボールペンをグシャリとへし折る。

 

「なぁ、俺はお前に何度言えばいい? いいか、敵の姿を勝手に」

「ハ、ハハ、はヒィッ! 想像しません!! 」

「次はないと思え」

 

そう言ったダルツォルネは、ガクガクと首がバネ仕掛けになるパッソ一瞥し執務椅子に腰を下ろす。

部屋中の視線が集まる中、そのままキィッと座面を窓側へ回転させ、自分の肩越しにポツリと一言。

 

「だが、護衛計画の参加者に関しては、一理ある、か」

 

その言葉に、イナギの脳裏に鳴り響くレッドアラート。

あのー、確かに収集マニアと何日でも語れるくらいの知識は仕込まれましたけども。

オフ会1週間は先ですし、何より苦痛は苦痛なんですが。

 

「オフ会で実際側につくのは自分ですし。立案に参加しないなんてそんな馬鹿な事」

「実力は身を以って理解してるからこそだ」

「いやでも」

「大丈夫だ、問題ない」

 

そんな計画で大丈夫か? という提起を、ダルツォルネはぶった切る。

 

「このままでは準備が進まない。イナギ、ボスの相手を頼む」

 

その言葉に、満面の笑みを浮かべる護衛陣を尻目に。

イナギは心の中で、頭を抱えてガックリと膝をついたのだった。

 

 

 

 

かささぎの梯

第二十一話『人体収集家倶楽部②』

 

 

 

 

オフ会までは、あっという間に過ぎていった。

ネオン=ノストラードの相手をしつつ、次第に固まっていく護衛計画を読み込む日々。

その概略は以下の通りである。

 

会場はザバン市一の高級ショッピングモール。その最上階、ワンフロアぶち抜いたイベントスペースを貸し切って行われる。

入り口は2ヶ所。直通エレベーターがある、東西に分かれた専用エントランス。そのどちらかでネオンと待ち合わせ、エスコートと称して建物を出るまで護りに徹するだけの簡単なお仕事である。

服装はドレスコードあり。一般的なセミフォーマルに加え、運営が用意した仮面の着用が必須。「上流階級様は、()()()ご趣味を公にされたくないんだろうよ」とは同僚であるスクワラの弁。

また同じ理由で、電子機器類の持ち込み禁止。かつ会場内には監視カメラもないという徹底っぷりだ。

その為腕が良いハッカーハンターのパッソをしても、エントランスまでしかモニタリング不可。会場内での護衛は、イナギに一任されることとなった。

 

――そんなこんなで、ついに人体収集家倶楽部(オフ会)当日を迎えたのだった。

 

 

 

△▼

 

 

 

エスコート係の朝は早い。

昨晩は早く寝たこともあり、自然と目が覚めたイナギ。枕元の目覚まし時計は6時より15分ほど早い数字を示していた。

セキュリティで決めた1つ星ホテルだが、熱いシャワーは気持ち良いほど勢いが強い。僅かに漂う眠気を完全に洗い落とした後、イナギはルームサービスで朝食を摂る。

7時。ノストラード一家が用意したディレクターズスーツに着替え、グリースで髪をオールバックに。香水はシャルルサーチの98年春限定モデル。鮮やかでエキゾチックな木の香りを、宙に浮かせて軽く纏わせた。

そうして準備を終えたイナギは、ジュラルミンケース(古代キバ族のミイラ頭部)片手に高級ショッピングモール(オフ会会場)に到着したのだった。

 

「おはようございます、イナギくん。待たせて申し訳ない」

 

そこから待つこと10分。主催者であるティルカ=ツアミが足早にやってきた。

さすがは大陸屈指の洋装屋。艶やかな黒色のモーニングに、シルバーグレーのアスコットタイ。品良く似合っていて、完璧な出たちである。

 

「今来たとこです、ツアミさん。お久しぶりです! 」

「昨日は眠れましたか? 」

「いやぁ、楽しみでほとんど眠れませんでした! 」

 

嘘です、バッチリ9時間寝てきました。

 

「ハハハ、私もですよ」

 

今日でラスト、24時間後には解放される! と営業スマイル全開のイナギだが、返ってくるのはそれ以上の笑顔。

何故かほんの少しだけ顔を背けたくなる、多幸感溢れる満面の笑みだった。

 

「10時開始なのに、2時間も早く来てもらって申し訳ないね」

「いえ、レディのエスコートはスマートにいきたいですし。むしろツアミさんこそ、忙しいのに、 直接案内して頂いて申し訳ないです」

「主催者として、レディに楽しんで貰うこと以上に大事な仕事はありませんからね」

 

そう言って、パチリと片目ウインク。

ロマンスグレーなイケおじムーブが、これ以上なく様になっている。

 

「色々準備があるので、早速ですが案内しますね。まずここが専用エントランス。電子機器の預かりと、手荷物検査も必須です」

「かなり厳重なんですね」

「えぇ。過去に色々ありまして」

 

そんな説明を聞きながら、運営スタッフと金属探知ゲートのチェックを問題なくパスして。促され、樫材の自動扉を潜る。

――その先には、ちょっとした劇場の玄関ホールのような空間が広がっていた。

床にはシックな絨毯が敷かれ、高い高い天井の中央には豪華絢爛のシャンデリア。吹き抜けの1・2階を繋ぐサーキュラー階段と、その奥に鎮座する3台のエレベーター。

外観との落差に驚くイナギに、後ろから来たツアミが何かを手渡してきた。

 

「イナギさん、こちらを」

「……あ、これが例の」

「はい。ドレスコードにさせてもらっております」

 

そう手渡されたのは、顔上半分を覆う白色のハーフフェイスマスクだ。吸い付くような曲線の上で、泣いているような笑みが踊っている。

 

「ちょっとホラーテイスト、ですかね。雰囲気が凄い。デザインはツアミさんが? 」

「いえ、知り合いの若手デザイナーに依頼してます」

 

その方の師匠筋と顔馴染みで。褒められていたと伝えておきます、と我が事の様に喜んでいる。

ちなみにエントランスの内側で仮面を着けていないと、スタッフに咎められるし、一切のサービスを受けられないらしい。

かなり厳し目の入館証明みたいなもんだな。

 

「ちなみに他の色もあるのですが、今回は白色でお願いします」

「問題ありませんが、何か理由が? 」

「待ち合わせの目印として、先方に伝えてんです」

「なるほど、了解です。ちなみにレディの仮面も白ですか? 」

「いえ、あちらは紅色です。紅白ですね」

 

なるほどと返しつつ、渡された仮面を顔に当ててみる。

耳に固定するタイプで、程よいフィット感だ。

 

「では、こちらが会場です。足元に気を付けてついてきてくださいね」

 

恐らくエスコートのレクチャーも兼ねているのだろう。少々芝居じみたツアミに促されるまま、ゆったりとした歩調で階段を進む。

そうして上った先にある、気品漂うエレベーター。

ボタンを押して直ぐ開いた1台に、二人はスッと乗り込んだのだった。

 

 

 

△▼

 

 

 

チン、という慎ましやかな音と共に開いた扉の先にあったのは、かなり異様な空間だった。

内装は、高級ホテルのバンケットフロアそのもの。だがその規模が、大型ショッピングモールをワンフロアくり抜いているだけあり、あり得ないほど広い。

そこに鎮座する無数の人体収集品(コレクション)。エアタイトケースに収められたそれらが無秩序に配置され、一見美術館染みた雰囲気すらあった。

 

「これは……凄いですね。世界中の逸品が集まってるとしか」

「えぇ、倶楽部の皆様ご自慢の品です。これだけの物が1箇所に集まるのは、世界広しといえここだけでしょう」

 

誇らしげなツアミの顔には、文字通り満面の笑み。

そのヘドの出る欲望の一端を担う事に辟易としながらも、イナギは喜色を浮かべてジュラルミンケースを差し出した。

 

「では私も、末席を汚させてください。こちらはどこにお預けすれば」

「そうでしたそうでした。あちらの壁際です、ついてきてください」

 

先導された先は、ミイラ関連の品が集められている一角だ。

手慣れた手つきでコレクションを収めた後で、イナギは少し離れた所にあるかなり大規模な展示品に気がついた。

 

「エジプーシャ石墓埋葬品のミイラ全身! しかも棺ごと、スケールが凄いですね」

「お褒めに預かりありがとう。私のコレクションですよ」

 

そう微笑むツアミだが、少し違和感。何故ってテーラー・ツアミの地下で見せてもらった品は、全て"人の皮"に関わる物しかなかった。

――てっきりそういう嗜好だと思ったのだが。

口に出さない疑問を察したのか、ツアミは苦笑いを浮かべた。

 

「世界有数の品ですが、私の趣味ではありません。親から継いだコレクションでして」

「親御さんから」

「はい。遺言で手放す事も出来ず、困った物です」

 

本当に困っているのか、肩の力を抜いてやれやれとため息。

 

「倶楽部では皆様喜んで貰えるのですが、毎回は大変でして。せめてと言う事で、特別な時だけ運送業者に無理してもらってるんです」

 

そう、こうやって若い同志を迎えた時とかですね。そう言って、本日2度目の片目ウインク。

なんだろう、ちょっとキャラ変わってきたかな?

 

「では、私も準備があるので、案内は以上です。レディとの集合時間は9時半、それまでこの会場にいて大丈夫ですが、その時間には先ほどの西側エントランスで待っててくださいね」

「分かりました! 案内ありがとうございました! 」

「いえ、こちらこそありがとうございます」

 

お手本みたいな一礼をして見せた後、ツアミは来た方とは反対へと踵を返す。

そして歩き始めた所で、何かを思い出したようにぴたりと立ち止まった。

 

「そうそう、最後に。仮面を付けてる間、我々は1人の人体収集家です。みな同志で、そこに上下はありません。エスコートもありますが、イナギくんも倶楽部を楽しんでくださいね」

 

そして今度こそ機敏な足取りで、東側のエレベーターへと立ち去っていく。

その姿が完全に消えたのを確認して、イナギはふうっと大きく息を吐き出した。

 

「……一応、エスコートだからな。時間あるし、展示品頭に入れておくか」

 

1人の人体収集として見られている以上、終わりまでそれは貫き通さねばならぬ。

正直見たくもないが、エレベーター脇で1時間以上待ってる方が違和感ある。致し方なし。

――そんなこんなで、ネオンとの待ち合わせまでの時間は、あっという間に溶けていくのだった。

 

 

 

△▼

 

 

 

今日は、待ちに待った人体収集家倶楽部(オフ会)だ。

楽しみで全然寝付けなかった私は、朝方に寝入ってしまったらしい。

時間がギリギリな中急いで準備をして、会場に辿り着いたのは待ち合わせの3分前だった。

急いで手荷物検査を済ませ、受け取った仮面を付ける。無事ゲートを潜り抜けた所で、ダルツォルネのお小言を思い出した。

 

「そうそう。まず、イナギと合流するのよね」

 

――待ち合わせは、大きな階段を登った先にあるエレベーター脇。そこにいる、黒のディレクターズスーツの男がイナギです。目印として、ネクタイは緑と白のストライプですので、真っ先に彼と合流してください。

そんな護衛リーダーの言葉に従い、仮面の群れを抜けるように階段を登る。

次第に見えてくる2階フロア。エレベーターの脇に、その服装をした仮面の人物は……いた!

駆け寄ろうとした所で、その人はタイミングよく来たそれの中へスルッと入ってしまう。

 

「ちょっと、待って! 私も乗る! 」

 

ちょっと慌てるが、中から開けてくれているのか閉まる気配はなし。安心して、ゆっくりとした歩みで彼に続いた。

入り口でボタンを押していたイナギの横を通って、奥へ。無事合流出来たことにホッと胸を撫で下ろして、一歩近づく。

中では他人のフリをするようにと言われているが、今は2人だけだし別にいいだろう。

 

「イナギ、今日は私のわがままを聞いてくれて……あれ」

 

そこで、ネオンは気づく。

 

「あなた、一体誰なの? 」

 

その疑問に、答えるものはなく。

――ネオン=ノストラードの行方不明が発覚したのは、それから3分後のことだった。





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