かささぎの梯   作:いづな

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がっつり説明回です。
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第七話 『二次試験への途上』

「あ、あの!すいません!」

 

飛行船に乗りこみ、次の会場へ向かう途上である。

人が少ない場所を求めて、というか間違ってもピエロにニアミスしない場所を求めて、イナギは船尾にあるベンチに腰掛けていた。

乗船直後に流れたアナウンスによると、二次試験会場までは3時間程かかるらしい。持って来た本もつい先ほど読みきってしまったため、もう寝てしまおうかなんて考えていたイナギは、脇からの高い声にくるりと振り返った。

そこにいたのは背が低い……子ども?

 

「何か用かい」

「はい! さっきお兄さん、凄かったですね! 飛び降りて無事なんて」

 

そこにいたのは、12、3歳くらいの少年であった。背は160センチくらいで、髪は茶色。白のワイシャツに、若草色のジャケットを羽織っている。

痩せ型だが、体幹がブレていない。この年齢でハンター試験に参加しているだけあり、しっかり鍛えているようだ。

 

「そうかい、ありがとうね」

「シュルトと言います。あの、どうやったらそんなに強くなれるのか、お話を伺いたくて」

 

試験中だと断ろうとして、彼の顔を見たイナギは悟った。

人懐っこい笑みだが、目には絶対に話を聞かせてもらうという決意の光を湛えている。多分これ、簡単に退かない面倒臭い奴だ。

興味があるのは異常な身体能力だろうか。やっぱり生身でバンジーして無事だったら変に思うよな、失敗だったかな、なんて考えるイナギ。無論表情には出さない。

 

「ま、いいけど。試験中だし、手短ならね」

「ありがとうございます!」

 

そこから、少年――シュルトは食い気味で質問してくる。

普段の修行メニューは。栄養管理はどうしてるのか。何か習っているのか。何故生身で飛び降りて無事だったのか。

答えられることには素直に。隠すべきこと――念能力についてはボカして。一つ一つ丁寧に解答していく。

しかし質問が進むごとに、彼の表情は曇っていく。まるで不確かな財宝の手がかりを、ホラ話から掬おうとする探検家のように。求める答えを得られなくて、落ち込み始めている顔だ。

 

「どうして、そんなに熱心なんだ?」

 

今まで質問に応じていただけのイナギ。質問を投げかけたのは、ほんの気まぐれであった。

 

「……僕は、どうしても強くなりたいんです。夢なんです、小さい頃からの」

 

強さそのものへの憧れ、なのだろうか。改めてシュルトを正面から見つめる。

身なりもしっかりしているし、ハンター試験に参加出来るくらい修練を納めているが、悲壮感はなかった。復讐とかではなさそうだ。

では、なぜ強くなりたいのだろうか。10代前半にしてハンター本試験に参加している彼は、同年代……いや、成人と比べても、確実に「強い」分類にカテゴライズされる。

ますます分からない。どうしてそんな「普通じゃない強さ」が欲しいのだろう。

黙って続きを促していると、シュルトは伏せていた顔をキッと上げる。まるで睨みつけるみたいに、イナギから目を離さない。

 

「僕はミステリーハンター志望。小さい頃に天空闘技場で見た、ネンという不思議な力を使えるようになりたいんです」

「ネン、ねぇ」

「はい。お兄さんはネンの事をご存じなのではないでしょうか」

 

少年は、自らが求めるハントの手がかりをイナギに見つけたらしい。イナギは直感が正しかったのを悟った。

これ、やっぱり面倒臭いやつだった。

 

 

 

 

かささぎの梯

第七話 『二次試験への途上』

 

 

 

 

その後、改めて面倒臭さを悟ったイナギは直ぐに逃げようとした。具体的にはトイレだが、しかし回り込まれてしまった。中まで一緒に着いてこられてはどうしようもない。

金魚の糞みたいに着いてくる少年から、無理やり逃げ出すのは流石に不自然である。何か知っていると思われるのは避けたいが、不幸なことに、目的地到着まで時間だけはたっぷりあった。

1時間ほどかけて聞かされた話を纏めると、次のようになる。

 

シュルトが5歳の頃の事である。父親の趣味でとある場所に連れて行ってもらったらしい。

その場所とは、天空闘技場。地上251階。高さ991m。世界第4位を誇るタワー状の建築物。1日平均4000人の腕自慢が世界中から集まり、その武を競い合う「野蛮人の聖地」である。

挑戦者は抽選で決まった対戦相手と戦い、勝てば上の階へ進み、負ければ下の階へ下がる。そうして勝ち進んだ一握りの者のみが集うのが、200階以上のクラスである。ここからはあらゆる武器の使用が認められ、死ぬことも珍しくない。このクラス内で4敗する前に10勝した者だけが、21名のフロアマスターに挑戦できるのだ。

彼が父親に連れて行かれたのは、そんな天空闘技場の200階クラス。そこで彼が見たのは、不思議な力を以って戦う挑戦者達の姿であった。

床を砕くほどの拳。目にも留まらぬ瞬間移動。手から放たれる衝撃波。光り輝く複数の刃物。銃弾をものともしない体躯。

衝撃だった、らしい。そして憧れた。あの場に立って、勝ち、フロアマスターになる事が僕の夢で、その力を手に入れるためのハンター試験なんです。そう語る少年の目はキラキラと輝いていた。

 

「だったら、別にハンターにならなくてもフロアマスターは目指せるんじゃないか」

「目指せますけど、なれませんよ。あの不思議な力――ネンを会得しない限りは」

 

それだけ普通とは別次元の戦いだったらしい。

 

「その、ネンだってハンターにならなくても会得できるんじゃないか。天空闘技場の200階挑戦者全員がハンターだった訳じゃないんだろ」

「はい、ハンターじゃない人もいました。だから僕なりに調べたんです。その時戦っていた人と同じ流派を探して、教えてもらったりもしました。強くはなりましたけど、僕が求める強さではありませんでした」

「7年修行して、何の成果も得られなかったので諦めようかと思いました。ただ、探して行くとやっぱり僕が求める力を使える人は確かにいるんです。そして調べた話をまとめていくと、その力は生まれつきのものではないみたいなんです。僕がそれを身につけられるかは分かりませんけど、でも……」

 

自分がその力を使えるかは分からないけど、試せることは全て試してからでないと、諦めることも出来ない。

5歳の頃の憧れは、いつしか少年の夢に変わっていた。

 

「ハンターになれば、ハンター専用のサイトにアクセス出来ます。情報量の多さと信頼度が最高峰のそこになら、きっとネンの情報もあるはずです」

「確かにハンター専用サイトになら、そのネンの情報もあるのかもしれないな」

「お兄さんは、ネンを知らないんでしょうか」

「残念ながらな」

 

だから他を当たってくれ。暗に伝えるも、イナギの発言を疑っている少年。むしろイナギの返答で疑いを濃くしたようにすら思える。

彼は、何からその判断をしているのだろうか。会話を思い返してみるも、イナギに心当たりはなかった。

まぁ、こういう時に大事なのは言い切る勇気である。

 

「ミステリーハンター、結構じゃないか。なれるといいな、応援してるよ」

「……分かりました。試験中、突然失礼しました。お兄さんも試験頑張ってください」

「お互いにな」

「はい、ありがとうございます」

 

その会話を最後に、イナギはその場をゆるゆると離れていく。少年の視線は、イナギが角を曲がり切るまでずっと追いすがって来ていた。

諦めない姿勢、大事である。彼には是非このまま合格まで突っ走って欲しい。

何故なら、裏ハンター試験に合格するには念の取得が必須。ハンターになった瞬間に少年の目標は達成されるのである。

 

「年下だし、もしピンチに居合わせたら少し助けてあげるかなぁ」

 

そして、もしも彼がプロハンターになったら、念の手ほどきしてあげるのも面白いかもしれない。寿命も伸びたし、弟子取ることでしか至れない境地もあるってビスケ言ってたし。

そんな未来を想像しつつ、少年の必死さに何となくの懐かしさを感じながら。

イナギは空きスペースを求めて、船首へ向けて歩き去って行った。

 

 

 

 

 

 

▽▲

 

 

 

 

 

飛行船に乗り込んでからおおよそ3時間後。

トンパを見つけて追いかけてみたり(必死の形相で逃げていた)、途中トランプタワーを作っていたヒソカを見つけたので回れ右をしたりしたが(追いかけてはこなかった)、特に大きな問題はなく飛行船は予定通り目的地に到着した。

指示に従い一斉に降りた受験生の前に広がっていたのはーーおおよそ普通の人が住んでいるとは思えない、廃墟となった都市であった。

かつては人で賑わっていた事が想像されるくらいにたくさんの建物があり、しかしその全てが朽ち果てている。

そして人の姿は見当たらない。見えるのは廃墟を取り囲む無数の烏ばかり。不快な鳴き声が響くその都市の中からは、しかし人の気配が感じられた。1人2人ではない。もっとたくさんの粘つくような視線。

そんな廃墟を取り囲むように、赤色の線が地面に描かれている。1メートルほどの太さの線の中には、白塗りで「進入禁止」の文字。

現在時刻は夕方。薄暗くなり始めているにも関わらず、街の明かりは点滅を繰り返す街灯ばかり。

誰かが生唾を飲み込む音がする。不穏な雰囲気出過ぎである。

そんな都市の中から、1人の男が歩いて来る。警戒する受験生達。近づいてくるにつれて、姿が分かる。

帽子をかぶっている長身の男で、白黒の模様が全身に――牛?

 

「クライムハンターのミザイストムだ。今回二次試験を担当する。よろしく頼む」

 

よく見ると帽子にも二本角のようなものが付いている。左目の周りは円形に黒くペインティング。そして鼻輪っぽいイヤリング。何だろう、制約か何かなんだろうか。

他の受験生もざわついているが、よく観察するとベテランほど落ち着いているようだ。トンパに至っては、外観について一切反応していない。

やはりビスケを見ても分かるように、プロハンターはキャラが濃くないとなれないんだろうか。それともハンターになってからキャラが濃くなるのか。

ニワトリと卵の因果関係の如く考えてみるも、結論は出ず。兎に角この試験官が特殊なだけだと信じたかった。

 

「では早速二次試験について説明する。今諸君の目の前にある都市の名前はドロワード。かつて自動車産業で栄えていたが、15年ほど前に財政破たんした。そこを国が買い取り、現在は――巨大な留置場だ」

 

なるほど、ここがドロワードか。イナギはこの都市のことをビスケから聞いたことがあった。

かつて存在した死刑制度が廃止されてから、はや数十年。人道的な観点からの撤廃だったが、当時は犯罪者が激増。ハンター協会が最も活躍した時期の1つにあげられるくらい、大小様々な犯罪者が捕まえられた。

捕まえたからには管理する場所が必要になる。その内の一つが、ここ留置都市ドロワードであるらしい。

 

「ここには犯罪者の内、刑期100年以下の者が送り込まれる。二次試験は、この留置場にぶち込まれた犯罪者を生きたまま捕らえる捕獲ミッションだ。ここの犯罪者どもは全員自らの刑期と残期間が表示される首輪をつけている。その刑期の合計が、そうだな、100年以上になるよう犯罪者を確保出来た者だけが三次試験へ進んでもらう」

 

この留置都市が生まれた背景には、ある理由があった。犯罪者増加による国家財政の圧迫である。

死刑制度廃止に伴い、犯罪者逮捕時の殺害がやむを得ない場合を除き禁じられた結果、続々と生きて捕らえられる犯罪者が増えていった。結果急増する刑務官の雇用費用・犯罪者を生かしておく費用。これが意外とバカにならなかったらしい。

これらを抑えるため、ドロワードに刑務官は存在しない。

判決にてドロワード行きになった者は、総じて首輪を嵌められる。刑期満了前にドロワードの敷地内から出ると、爆発する首輪である。

結果、ドロワードは敷地から出られない犯罪者で溢れる。後は毎日ある程度の生活物資を送り込むだけで、基本放置。刑務費用が抑えられる巨大留置場の完成という訳だ。

 

「犯罪者を裁くのは法で、お前たちではない。殺すのは勝手だが、死人の首輪を持ってきてもカウントはしない。ただ、ここの服役囚は殺すつもりで襲ってくる。殺さず捕らえる自信がない者の棄権は何時でも受け付けるから、遠慮なく申し出てほしい」

 

ちなみにドロワードへ送り込まれる物資は、収監されている服役囚に行きわたる量ではないらしい。刑期を生き延びるためには、他人から奪うしかない。

強奪に慣れた、殺すつもりの相手を生きて捕らえる。手傷を負わずに、一方的に。力量差がなければ不可能である。二次試験は純粋な戦闘能力を測るための物であるらしかった。

 

「捕らえた犯罪者は、俺に引き渡してくれればいい。この飛行船の側にいるから、ここまで連れてきてくれ。試験期間は24時間。試験開始は30分後だ。諸君の奮闘を期待する。以上」

 

試験時間は丸一日。この犯罪者蠢く留置都市で、夜を明かさないといけないらしい。

そこらにいるのを気絶させて、この試験官との間を何往復かすれば二次試験は合格である。それはいいのだが、二次試験合格が確定しても犯罪都市の中に居続けなければならないのだろうか。

質問しようとしたイナギを遮るように、ミザイストムは付け加えた。

 

「言い忘れていたが、試験終了まで諸君もこの進入禁止ラインの外側へ出ることは禁じる。服役囚の確認も24時間経ってからだ。辞退者以外はたっぷりドロワードを堪能してくれ」

 

居続けないとダメらしい。明日のこの時間まで、100年分の服役囚を捕まえた上で、彼らを管理し、かつ守りきり、この場所まで連れて来なければならないと。

想像するだけで非常に手間だが、まぁ何とかなるとは思う――が。問題は例のピエロだった。

先ほどからオーラの粘り気が増している気がする。目もいっそ糸みたいになっていて、殺しをしたくてウズウズしてるの丸分かりである。

というかさっきからオーラですごい挑発されている。何だよ、今やり合うのは止めたんじゃなかったのかと小一時間。こいつと同じ街で24時間も過ごすのは避けたかったが、頑張って何とか逃げ切るしかない。

開幕絶で振り切れるかなぁ、なんて思いながら、イナギはそっとため息をついたのだった。

 

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