かささぎの梯   作:いづな

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大変遅くなりましたが、第八話です。
楽しんで頂ければ嬉しいです。


第八話 『24時間鬼ごっこ』

二次試験官ミザイストムの説明が終わり、受験生一同は進入禁止線の外側で試験開始を待っていた。

準備運動してる者。道具を整備する者。本を読んでいる者。各々準備を整えて、後数分で試験開始である。

そして、その中でそこはかとなく殺意をばら撒いている者――言うまでもなくヒソカであった。

 

「ハンター試験、退屈だね♦︎ 」

 

この試験で唯一実用に耐え得るおもちゃだからだろうか、待機時間中ずっとイナギの側から離れてくれない。知るかってなもんであるが、中々そうも言えない状況になってきた。

初めは只飽きた暇だ言ってただけなのだが、段々と感情がマイナスに傾き、現在はメーターが振り切れて殺気をビンビンに撒き散らしている。

 

「そうか」

「あぁ、暇だね♣︎ 」

「そうかもね」

「君もそうだろう? 」

「そうでもない」

「つれないなぁ❤︎ 」

 

そしてここ5分くらいはこの繰り返しである。

2人がいるのは禁止ラインの後方。この益体も無い会話とヒソカのオーラを警戒してだろう、他の受験生はライン間際に集まっている。

 

「それにしてもハンター試験、ホントにつまんないなぁ♠︎ もっと面白い受験生いると思ってたのに♦︎ 」

「才能ある奴の青田買いでもしにきたのか?」

「それもあるね♣︎ 結局1人しか面白そうな受験生はいなかったけど❤︎ 」

 

無作為に放っていたヒソカの殺気が、一点に集中する。その矛先はイナギ。

構えそうになる身体を必死に押さえつける。

 

「やっぱりやり合おうよ♠︎ 君も飽き飽きしてるだろ? 」

「願い下げだって言ってるだろ。俺を巻き込むな」

「つれないなぁ……けど」

 

どんどん嫌なオーラが大きくなる。嫌な汗が滲む。試験開始が待ち遠しい。祈るように試験官を見つめる。

 

「あぁ、やっぱり我慢できそうにないや❤︎ 」

 

――何となく、こいつが何が言いたいかは分かる。目的が戦闘であるなら、合意の上で戦うだけが選択肢では無い。

身を守るためにやり返す。自衛も立派な戦闘だ。

 

「君がいくら嫌がっても、僕が襲ったら、やり返さざるを得ないよね♣︎ 」

 

ミザイストムの手が上がり、二次試験の開始を告げる。それと同時に、イナギは自身が出来うる最高の速度でラインを超えた。

前方に屯していた受験生を一足で飛び越える。奴が、後ろから追ってきているのが分かる。

どうやら興奮しているようで、ヒソカは障害となる受験生を斬り伏せながら追って来る。血風が舞い、悲鳴が上がった。

 

「アイツ一切の容赦なく殺しやがった」

 

イナギのように飛び越えるでもなく、立ち塞がる者皆殺しである。そして盾にもならないのか、一瞬止まった気配が凄い速度でイナギを追い始めた。

こういう試験は様子見がセオリーだが、街の中にそのまま突っ込む。何故って絶対後ろのが怖い。追いつかれたら死ぬ追いかけっこ、ホント勘弁である。

イナギは流と具足の体術で。ヒソカは念能力だろうか、一次試験で見せていた壁張り付きを利用しながら追って来る。屋根の上走ったり、ターザンしたり。

ここが更地ならともかく、障害物が多い街中である。イナギの方が分が悪く、このままいけば程なく追いつかれるに違いない。

追いつかれたら戦いになり、ヒソカが求めてるのは死合である。そしてイナギの実力の方が下であり、まず間違いなく死ぬしかなかった。

 

ヒソカが襲いかかって来てるのは、自衛されることを期待して。

――どっちにしろ殺されるんだったら、奴の思い通りになんぞしてやらない。

イナギは命を捨てて、死中に活を求めることにした。必死で動かしていた足を止め、出していた具足も消し、纏っていたオーラを引っ込める。

絶。念に対して完全な無抵抗。

ヒソカはイナギの喉にトランプを当てて、それを引くことなく立ち止まった。

 

「……襲われてるのに絶なんて、舐めてるのかい? 」

「そうじゃない。今の俺がお前に勝てないのは分かるだろ。どっちにしろ殺されるなら、嫌がらせしてやる事に決めたんだ――ただ」

 

殺されても不思議ではなかったが、ヒソカは止まった。血に飢えてはいるものの、無抵抗を一方的に殺すのが惜しいと思う程度にはイナギの事を評価してくれてるらしい。

ここでヒソカが止まらなかったらお仕舞いであった。しかしイナギはまだ生きている。生き延びるための交渉をする。

 

「ただ、俺もまだ死にたくない。だから鬼ごっこにしよう。この試験中に俺が捕まったら、戦って死んでやる。捕まらなければ、試験中に俺を殺すのは諦める。そんなゲームだ」

 

黙ったままのヒソカ。今のイナギはまな板の上の鯉で、生殺与奪はヒソカに委ねられている。

身体中から殺気を迸らせながら。おおよそ人とは思えない形相。周りから音が消えている。しかし目は背けない。熊と同じだ。逃げたら追われる。

 

「強い奴との戦いに興奮するんだろ、俺はまだまだ強くなるぞ」

「――ククク、分かったよ♠︎ 果実はしっかりと実ってから、今は我慢しておくよ♦︎ 」

 

パッと、イナギの首からトランプが外れた。首筋を撫でる。傷一つないのが無性にイナギを苛立たせた。

 

「けど、キミを捕まえたら迷わず殺しちゃいそうだ♣︎ 」

「そうかい、好きにしなよ」

 

そん時は精々足掻かせてもらうさ。そう言って、目から危ない光が薄れたのを確認してからくるりと振り返る。急ぐな、ゆっくり街の中に歩いていく。

――本当に死ぬかと思った。というかあのままだと死んでた。つまり半分くらい死んでる状態だった。

アイツはヤバ過ぎる。こうなったらこの試験中は勿論、試験後も、ヒソカが俺の存在を忘れるまで逃げ切るしかない。

将来の負担が脳裏をよぎり、しかし頭を振って切り替えた。

とりあえず大事なのは、今生き延びた事実。そして目の前の二次試験である。

 

 

 

かささぎの梯

第八話 『24時間鬼ごっこ』

 

 

 

――そんな命の危機から15分。イナギはヒソカをストーキングしていた。

試験中逃げ続けるのもありだが、まずは情報が欲しい。敵の事を知らずにいるのは怖すぎた。

現在イナギの数十メートル先で、ヒソカは虜囚の群れをトランプ一枚で軽くいなしている。ヒラリヒラリと舞う度に、命が軽く消えていく。数人を残して、服役囚は全滅だ。

その後ヒソカは残した3名の囚人を背中合わせにさせると、呻いている彼らを一まとめにしてそこらの部屋にぶち込んだ。

早速合格要因を満たしたヒソカ。後はイナギのことを探す気満々である。

 

「……これ以上追いかけるのは、危険そうだな」

 

円を広げながら歩き始めたヒソカを、その場に隠れたまま見送る。視界から消えたのを確認して、イナギは今見た情報を整理し始めた。

絶で隠れながらの観察だった為、オーラを見る事は出来ていない。しかしトランプを使って切りつけていた事、壁に張り付いていた事、最後受験生を何らかの手段で拘束した事を考えると、オーラの性質や形状を変化させているように思える。

 

「恐らく、変化系かな」

 

少なくともそちらに偏っている事は間違いなさそうである。イナギはひとまず安堵した。

変化系は、イナギの具現化系と同じくオーラの放出を苦手とする。これが放出・操作系であれば円が広く隠れるのも難しいが、よっぽど運が悪くない限り絶で行動していれば見つかる危険性も少なそうである。

そこまで考えたところで、イナギははたと一つの事実に気がついた。

 

「このまま隠れて逃げ続けることは出来ても、結局試験終了直前に気づかれるよな……」

 

何故って集合場所は試験生全員飛行船付近。しかもその時には、最低1名以上のお荷物(服役囚)のおまけつきである。

確実に気づかれるし、そしたら襲われて死ぬし。もし仮に試験官がヒソカを止めてくれたとしても、その間に服役囚に逃げられたら二次試験失格である。

 

「――これは、1人では難しいかな」

 

生き延びるにも、合格するにも。誰かしら、協力者が必要である。それも早急に。ヒソカの探索が進む前に、イナギは協力者に後を託して潜伏する必要がある。

ハンター受験が始まってから、出会った相手を思い浮かべる。その中でイナギを裏切らないだけの交渉材料を持った相手は――1人だけいた。

彼を早急に見つけなければ、自分のハンター試験はここで終わる。決意を新たにし、イナギはその場をそっと離れた。

 

 

 

▽▲

 

 

 

――二次試験が始まってから24時間が経った。

場所は集合場所である飛行船の近く。無事条件を満たした受験生が集まって来ている。その数はぱっと見試験開始時の半数を下回っていた。

そして、その中にはヒソカの姿もある。傍らには3名の虜囚。彼らを地面に座らせて、恍惚の表情を浮かべながら円を広げてイナギを探している。

そんなヒソカを受験生達は遠巻きに警戒していた。奴は二次試験開始時に受験生を20名ほど殺害しているのだ。しかも「早く来なよ♣︎ 興奮しちゃうだろ♦︎ 」とか呟いている。警戒してし過ぎることはなかった。

 

「残り1分。受験生は集まって来てくれ」

 

時間は刻々と過ぎていく。二次試験官ミザイストムの声に、受験生は彼の近くに集まっていく。

そして終了10秒前、イナギは、隠れていた建物の影から飛び出した。

 

全力で飛行船に近づく。オーラを感知して、ヒソカが気づく。イナギにむかって駆け出した。

鬼ごっこ。試験終了の宣告がなされる前に、イナギに触れればヒソカの勝ちである。

二人の距離が詰まる。距離が10メートルを切った所で、イナギは強く地面を踏みしめた。全力で具足を出し、前傾姿勢のまま体が宙を舞う。ヒソカの体勢は変わらない。

このまま頭上を通り抜ける頃には、試験が終わる。イナギは勝利を確信する――イナギの勢いが止まった。

ヒソカの左手から出たオーラが、イナギの具足に貼り付いていた。

 

「甘いよ♠︎ 」

「――知ってる」

 

この程度で、このピエロを振り切れるはずはない事は百も承知である。

イナギの足にくっついたオーラを引っ張るヒソカ。その前にイナギは具足を消す。

オーラが外れる。頭上を飛び越えた。

 

「ハンター二次試験終了! これ以上の戦闘行為は如何なる理由であれ禁止する! 合格条件を満たした受験生は服役囚を連れて来るように、確認出来た者から飛行船へ戻ってもらう!! 」

 

イナギが地面に足をつけると同時に、ミザイストムの声が響き渡った。

これで鬼ごっこはイナギの勝ちである。が、奴はそんなの無視して襲い掛かってくるかもしれない。イナギは身構えるが、ヒソカは何でもないかのようにイナギへ笑いかけてきた。

 

「今回は負けちゃったよ❤︎ 」

「……そうだな」

「そんなに警戒しないでくれよ♣︎ 約束どおり、とりあえず試験中に襲うのは止めとくよ♦︎ 」

 

だけど、とヒソカは続ける。

 

「囚人を連れて来てないから、キミ今回は失格だろ? 僕も今回は止めにして、来年キミと一緒に受けなおそうかな♠︎ 」

 

このままキミがいない試験受けるよりも、そっちの方が楽しそうだろ。今度はかくれんぼでもやろうか、なんて言うヒソカに、イナギはにやりと笑う。

 

「いやぁ、心配してもらって悪いな。だけど実は不合格じゃないんだ 」

「――イナギさん、いつ来るのかとヒヤヒヤしましたよ! 」

 

声がしたほうを振り返る。そこには2人の囚人を引き連れた少年――シュルトがいた。飛行船の中で、念能力の教授をせがまれた彼である。

 

「ああ、悪かったな。ちょっと事情があってギリギリになった」

「見てたから分かりますよ。本当にすごいですね――あ、僕は守ったんですから、ちゃんとイナギさんもお願いしますよ! 」

「分かってる。試験終了後にな」

「今回に限らず、ハンター試験に合格したら、絶対ですよ」

「あぁ、ホント助かったから、ちゃんと守るって」

 

そう言い合いながら、イナギは彼から一人の囚人を受け取る。捕まえる時に大分脅したので、刑期100年ぴったりの強面がビクついているのはご愛嬌である。

 

「そういう訳だから、ちゃんと合格規定は満たしてるんだ」

「……協力者がいたんだ♣︎ でもよく見つけられたね♦︎ 」

 

確かに、普通ハンター試験における共闘とはお互いに利を見出せる場合にするものである。また受験生同士潜在的なライバルであるため、裏切られる事も珍しくない。

そして今回のケース、協力者(シュルト)からすれば、虜囚を一人逃すだけで確実にライバルを蹴り落とせる場面である。

その状況でイナギが提示したのは――"念"。

試験合格後、彼が求めてやまない念能力をシュルトに教える事であった。

 

「まぁ、色々あってな」

「約束ですよ、約束。僕の夢なんですから! 」

「わかった、わかった」

 

合格出来たらな、とイナギは繰り返す。

――お分かりかと思うが、この取引イナギにとって損は全くない。何故なら本当の意味でハンターになることと、念を習得する事はほぼイコールであるからだ。

最悪面倒くさくなったら誰かに委ねてしまえば、それで約束は終了である。

ただ流石に投げっぱなしは酷いので、一応念が使えるようになるまで面倒を見るつもりではあるが。

予定はあくまで予定であった。

そんな話をしていると、試験官のミザイストムが近づいてくる。呆れた様子で話しかけてきた。

 

「……お前たち、仲が良いのも結構だが、合格条件を満たしているなら確認させてくれないか」

 

他の受験生の確認はもう終わっているらしい。

イナギとシュルトは傍らにいた、ヒソカは離れた所で座り込んでいた囚人を見せる。100年丁度が2人と、計100年以上が1人。無事確認が取れて合格であった。

 

「よし、3人とも合格だ。次の試験会場へ移動するから、早く飛行船に乗り込んでくれ」

 

試験官の言葉を受けて飛行船に向けて歩き出した3人。その背後から、思い出したように声がかけられる。

 

「そうだ、78番。警告だ。お前は囚人と受験生を殺し過ぎだ。これからの試験中にこれ以上犯罪行為を犯した場合、お前を失格とする」

 

これは今回の286期ハンター試験中ずっと有効だから、覚えておきたまえ。懐から黄色のカードを取り出して、ヒソカに突きつけて警告する。

一瞬ピクリと身体が動いたものの、ヒソカはそのまま振り返らなかった。

 

「はいはい、分かりましたよ❤︎ 」

「――以上だ。では三次試験も頑張ってくれ」

 

ホント申し訳ないけど、何かやらかしてこのピエロさっさと失格になってくれないかな。

イナギはそんな事を思いながら、飛行船に乗り込んだ。

 

 

第二次試験。

合格者――27名

 

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