先代巫女と行く幻想郷生活   作:篠崎零花

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第50話 彼女なりの決意

……言いたいことが分からないわけじゃないから悩ましい。

かと言って、世界の裏側が本当に外の世界かどうかも確認できない。

 

でも。だからと言って見逃せるはずもない。

 

「―――悪いけど、あんたを見逃せそうにないわ」

 

「……?!な、何故だ。お前は妖怪側で、世界の裏側を知る者ではなかったのか!?」

 

あぁ…。最初から誤解していたのは、この人だったのか。

なら、世界の裏側とやらが本当に外の世界かどうか分からなくても言えることはある。

それに首もハッキリと横に振れる。

 

「そう。なら、まずあんたにとって嫌なニュースよ。私の知る外の世界も妖怪なんていない。けど、代わりに外の世界では自然災害や犯罪などが目立つわ。それに―――妖怪に支配されていなくても、法律に縛られるわ。そこにもし、住んでいたらだけどもね」

 

「この妖怪が支配している世界よりはマシだろう?!」

 

……。

なるほど、外の世界について教えてあげるか。私の知るところを残りのこさず、ね。

 

「そう考えられるのはあんたが幻想郷しか知らないからよ。外の世界はここよりもっと広く、人間もたくさんいるわ。それに言葉だって日本語だけじゃ通じないこともあるわ。それは幻想郷で言う横文字がそうね。あれは外の世界じゃ英語って言われてるわ」

 

それだけじゃない。

日本以外にも場所があると言えばどうなるか、想像のつかない人ではないのならたぶん分かるはず。

 

「それ以外もあるけど、関係ないから教えないわ。んで、それに外の世界では場合にもよるけど、安心なんて出来ないわよ。…妖怪とか関係なく、ね。私は平和な場所で生きていたから詳しくないけども」

 

「それこそ関係ないだろ?まだそのお前の知る外の世界の方が「残念ね。外の世界ってそんなに優しくなんてないのよ。だって、ここ以上に“仕事”があるのだから」」

 

学生だった私には無縁だったけどね。

 

「ま、ともかく外の世界は想像以上に厳しいわよ。あんたが思っているよりも、ね。それにそもそもあんたは禁忌をおかしているわ」

 

「まるでお前も世界の裏側を知ってるかの言い方だな。…噂は本当だったのか?」

 

「知ってる…というか、見ただけじゃないもの。それに、禁忌って分かる?悪いけど、あんたは妖怪になったの。妖怪ってね、先代の巫女曰く人間を食べる生き物らしいわよ?しかも、怖れられる…。そんなあんたが、ずっとひっそり過ごすなんて厳しいわよ。それに、自然の多い幻想郷の方がまだいいことがたくさんあるわよ」

 

「なっ…。お、お前はそっち側じゃなかったのか?!」

 

首を振る。

全然違うからね。だって身の周りにいる妖怪達は1度退治したことがあったらしいことが多く、私も1度退治したことがある妖怪達や人間達…になるし。

 

「ええ、最初から違うわ。だからこそ、あんたを退治させてもらうわ。何故か?―――それはね、外の世界でも幻想郷でも一緒。人間を辞めることが一番の大罪よ。例え、どんな理由があったとしてもね」

 

そうとだけ伝えると私はお札を乱雑に投げ、逃げ場をなくしてから大幣(おおぬさ)…じゃ、ないか。

お祓い棒で後ろから易者の胴体に殴りかかり、振りきってからの上へ振り上げて、頭へと振り下ろした。

 

「――さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はそれだけ伝えると、里へ戻った。

もちろん、易者のこともあるけど、一番は…

 

「その本はとても危険な物よ。下手したら妖魔本よりも。…燃やして捨ててもらってくれないかしら?もしかしたら、大切なものになってしまってるかもしれないけど」

 

「え、ええと…本を、ですか?でも「お願い。他の本はまだいいのだけれども、それだけは捨ててもらえる?今度、外来本でもなんでも1冊持ってきてあげるから」」

 

え、いや、そんなに驚かなくっても…。

な、なんか私、小鈴ちゃんに変なこと言ったかな…。

 

「あ、すみません。なんか、霊夢さんが前より丸くなったって実感するほどのことだったのでつい…。分かりました。燃やして捨てておきますね。代わりの本はそんなに気にしなくていいですよ。やっぱり霊夢さんは本とかが大切みたいですから」

 

「そ、そう…?ありがとね。助かるわ。あとそれはどういうことよー」

 

「ふふっ、秘密です」

 

……ひ、秘密ぅ!?

な、なんで?!

 

「ちょっと!?小鈴ちゃん、それはひどいんじゃないかしら!?」

 

クスクスと楽しげに笑う小鈴ちゃん。

…まったく。小鈴ちゃんに関しても私は気にしてるって言うのにね。

っていうか妖魔本の存在を私に伝えてよかったのかな?小鈴ちゃん。

 

「ふふ、すみません。よく外来本とかそれ以外の本を借りにきては返しにくるだけあって、霊夢さんは懐が広いなあって」

 

なんだそりゃあ…。

そう思いながらも私は

「あら、案外懐は狭いかもしれないわよー?」

と冗談めかしながら笑顔で言った。

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社に帰ったのはかなり時間が経った後、なんだよね。

それのせいか、霊華がいなくて、魔理沙が境内で右往左往していた。

 

「わ、悪いわね。遅くなったわ」

 

「れ、霊夢!無事だったのか!?」

 

せ、精神的ではだいぶ削られたけど、どう見たって外見は無傷なはずなんだけど?!

 

「見た目のとおりよ。体のどこにも怪我はないわ。まあ、妖怪退治とかさっきの事とか考えることがたくさんあったけどもね」

 

「そ、そうなのか!?」

 

うん。そうなんだけど、魔理沙?

私よりそうやって慌てられると反応に困るっていうか、逆に冷静になって考える余裕がうまれるというか…。

 

「とりあえず、あんたは落ち着いて。説明はするから」

 

お茶でも淹れて落ち着かせるかな。

茶菓子も出せばもっと落ち着くかな?ほら、甘いものを食べれば落ち着くっていうし。

お茶も落ち着くしね。

 

 

 

 

 

 

 

「どう?落ち着いたかしら?」

 

「あ、あぁ…まあな。と、いうか一番焦ってるのは霊華なんだよな。あいつ、なんかお前のことをまるで自分の子供のように大事にしてるらしいし」

 

たまに過保護な気がするのは気のせいじゃ、なかったのか…。

でも、以前の修行に関しては本当に大事にしてるのかってレベルできつかったんですが。

理由はずっと聞かないつもりでいるんだけどね。

 

「だから、なのね。…でも、この神霊…なんなのかしら。春が近づいてきてるのかもしれないけど、それにしては増えては消えたりするし。中には私が対応したら消えたりする子もいたし…」

 

「だからたまにあの神霊とやらに話しかけてたりしたのか。んで、あれはたぶん人間の欲の塊…だろうな」

 

そういうのに話しかけるのも少しとかしばらくだけど、今を忘れることができるから。

んで、あとで考えてゆっくりそのことを理解していけば、ポジティブに考えれるようになるしね。

 

でも、人間の欲の塊、ねえ。

そんな具現化するほどの欲って私にはそんなにないんだよなぁ。

たまに厳しいことがあるけど、毎日見知った人達などと弾幕ごっこしたり、他愛のない会話をしたりするのが楽しいからなくなってほしくないなとかそういうぐらいだし、お賽銭(さいせん)とかをしてくれる参拝客は守矢神社の分社もあいまって前より増えてるし。

大体はお守りとかおみくじをしてくんだけど。博麗神社のも信仰してあげてー。

 

って違うか。

 

「んでも、なんであんなに増えてるんだろうな。好奇心がわかないか?」

 

「えっ?そうかしら。私は特に…」

 

ってうわぁ?!また神霊がこっちに…!?

 

「……お前、神霊に好かれてるんじゃないのか?すごく周りに来てるぞ」

 

「し、知らないわよ。ただ相手にしてるだけだもの」

 

(まあ、そうみたいだからな。ふむ…。首を横に振る辺り、心当たりもないんだろうな。相手にしてるだけ、じゃ分からんし。…それにしても霊華の奴、どこまで探しに行ったんだ?)

 

 

ん…バタバタ?

神社の中を誰が走ってるんだろう?

 

 

 

 

「魔理沙!霊夢は………って戻ってきてたのね」

 

「そんな大したことなんてしてないのに帰宅が遅くなることなんてないわよ」

 

まあ、大きなことが私の中で2つほどあったけどね。もちろん、異変は含めてないけど。

 

まず、妖怪退治。

あれでこの幻想郷の“人間は妖怪に襲われ、恐怖する。妖怪はそれで存在を得るが、同時に人間から退治される側になる”というようなことがよく分かった。

初めて退治した時は死ぬかと思ったし、精神的に辛かった。

けど、今は受け入れている。

 

何故か?

それは、今回の易者のことだ。

あの人は占いで世界の裏側とやらを知ったらしいが、本当かどうかなんてもう確認できない。

と、いうよりできなくなった。

 

一応、外の世界かもしれないとは思うんだけど、それも分からない。

でも、幻想郷はその外の世界にとっての非常識。

そこに外の世界と同じような物なんてむしろ求められないんじゃないか。

それを考えたら厳しいとよく分かった。

 

――ならいっそのこと、幻想郷を受け入れてしまえばいい。今までのように。前向きに。

時間はかかるだろうけど、今を飲み込めるようになるだろうね。……現実を、私がね?

 

「大したこと…のわりには表情がやけに変わったわね。まるで大人びた感じがするわ」

 

「そうだな。私から見てもなんか違う気がするぜ」

 

 

「あら、そう?ふふ、そんなことなんてないと思うわよ」

 

他にもまだ色々とあるだろうしね。

私が経験したのなんてその一部にしかすぎないだろうし。

 

 

あ、そうだ。ちょうどいいし、霊華にあるものでも聞くかな。

 

「ねえ、霊華。話は違うんだけども、その服って足りてるかしら?パジャm……寝間着はどうやら足りてるようだし」

 

「ん?…あ、あー…。そうね、お願いしようかしら。落ち着いたら里で買い出しにでも行こうかと考えていたところだし」

 

なるほど、なるほど……って落ち着いたら?

さっきまでそうじゃなかったと?

う、うーん。私のことを気にしてくれるのはありがたいけど、たまにはそれを自分に向けてほしいな-…なんて。

言わなきゃ伝わらないんだけどさ。

 

「んじゃ、私も行っていいか?久々に香霖と会いたいからな」

 

はいはい、と適当にこたえつつ、頷いたら驚きつつもお礼を言ってきた。

別にいいんだけどなぁ、そういうのだったら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香霖堂へ魔理沙と向かって、入るなり

「いらっしゃ―――って、霊夢かい?いらっしゃい。今日は魔理沙もいるのか」

 

「ええ、こんにちは霖之助さん。そうね、なんか用事があるみたいだから一緒に来たの」

 

なるほど、と言うと頷いた。

うん、今のでよかったのかな?

 

「っていうか私がおまけみたいなのはなんでなんだ?霊夢、なんかしたのか?」

 

「したもなにも…ねえ?」

 

「僕へのツケをどうにかして全部払ってくれたぐらいだね。それにそれ以外にも少ない売り物を買ってくれるお客様でもあるからね。対応も変えるさ」

 

(なっ…なんだって?霊夢はそこまでしていたのか?いつの間に…)

 

ん?なんかすっごい魔理沙が驚いてるんだけど、そんなに驚くようなこと、いったかな。

 

「それで、霊夢はなんの用なんだい?」

 

「私と先代の巫女…あぁ、今は霊華と名乗ってるんだけども、その巫女服を頼みたくてね。それで、霊華のは1着余分にお願いできるかしら。その分もしっかり、ね」

 

「あの文々。(ぶんぶんまる)新聞に載っていた先代の巫女は本当だったのか。分かった、君のは2着、先代の巫女のは4着作るとしよう。お代は―――」

 

 

「分かったわ。…はい、ちょうどよ」

 

懐から取り出したがま口の財布…といえばいいのか。

それからお金を取りだし、霖之助さんに見せると頷かれた。

と、いうか金銭が昔のものだから扱いにくい。

 

「へぇ、伊達に外の世界を知ってる訳じゃないんだな、霊夢」

 

「ええ、そうよ。でなきゃ霖之助さんに知っている道具の使い方とかなんて教えたりできないわ」

 

「そ、それは本当か?!香霖!」

 

「そうだね。流れ着いた物で分かるものは説明してもらっているよ」

 

代わりに私は香霖堂でお茶を飲んだりしてる。

これでも立派な物々交換…だと思いたい。

 

「とりあえず、今度また来てくれ。出来てるかどうかを教える。…あと、先代の巫女に会えるかどうか、聞いてはくれないかい?」

 

「分かったわ。ありがとね、霖之助さん。んー…一応は聞いてみるわね?」

 

「すまないね。頼んだよ」

 

と頷かれたのを見て、魔理沙を見てみたらなんかつぼかタルみたいな物に座って棚を見ていた。

え、それって座るものじゃないでしょ?

 

 

「やれやれ、魔理沙。君が座ってるそれは、商品なんだぞ?」

 

「いいじゃないか。どうせこれ、売り物じゃないんだろ?」

 

「とは言え、魔理沙。勝手に座らないでくれないかい?…というか座る場所じゃないんだぞ」

 

うん、ですよねー。

魔理沙なんて「別にいいだろー?減るもんじゃないんだしー」とか言いながら唇とがらせてるし…。いいのかな、それで。

 

 

 

「そういえば、前に倒れたことがあるけど、霊夢。大丈夫だったのかい?」

 

ん?なんかあったっけ?

 

「覚えてないのかい?」

 

「あー、たぶん前すぎて忘れてるだけだろ。って、余計に首をかしげるな?!」

 

「こりゃ失礼したわ。まあ、そうね。大丈夫、としか言えないわ。そうとしか、ね」

 

「…なるほど。これ以上はつっこまないでおくよ」

 

「霖之助さん、悪いわね。助かるわ」

 

 

 

んで、その後香霖堂をある程度見て―――途中バタバタしたけど―――私は博麗神社へ、魔理沙は森にある自宅へそれぞれ帰った。

 

霊華に霖之助さんから会えるかどうか聞いてくれ、というのを質問として聞いたらあっさり頷いてくれた。

なんかつもる話とかがたくさんありそうだなぁ。

ま、それはそれでいいか。


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