季節ものですが、どうぞ。
…年末年始を翌日に迎える私は準備に追われていた。
何の準備かと言うと師走の三十一日と睦月の一日にする儀式のもの。
霊夢の記憶にしかないけど、こればっかりは霊華に甘えていられない。……とは言え、よく分からない。難しい。
とりあえず大晦日はどうにかしたし、大掃除は……思い出したくないです。
なにをどうしたらああできるんだろうか。
高床式倉庫、神棚付近、神社の方の小さな倉庫。
……まあ、いいや。
とにかくある程度準備したらもう明日の夜明けにして、また明後日もしないと。
「大変そうね、霊夢。なにか手伝うわよ?」
「…っ!?きゅ、急に話しかけないでちょうだい!驚いたじゃないの!」
集中しすぎたっていうのもあるんだけどさ。
あ、なんか曖昧に笑ってる。
なるほど、集中してたのは分かってたのかな?
「ああ、悪かったわね。あなたがあまりにも真面目な顔をしていたものだからなかなか声をかけられなくって。……ところでそれは?」
えっ、門松とかを知らない!?
幻想郷にないの…?もしくは霊華の時にはなかった?それともしなかったのか…。
どちらにせよ、見たことはないみたいだね。
「儀式の準備ついでに新年でも祝おうかと思ってね。だからそういうのを用意したのよ。あとはそれ以外を少し」
「新年にそこまでしなくてもいいんじゃないかしら…?」
そういって苦笑いを浮かべる。
一年に一度しかないんだから、別にこうしたっていいと思うんだけどな。そこまで贅沢したわけじゃないんだし。
…本音を言えば祝うだけ祝いつつコタツでのんびりしたいところだけど。
「たまにはいいのよ、たまには。それに損はないわよ。多分」
「はいはい。なら、食事の方はやるわ。儀式の方にも手を出してあげたいところだけども…」
今度は困ったように笑った。
それもそうだね。いくらなんでもこの二日にかけてやる
儀式は霊夢が普段やっていたものだし、下手に手伝われた方…が…。……あっ。
「そうだわ。なら、年越しそばにおせち料理とかそういうのでお願いできないかしら。あとちょっと飾りも手伝ってほしいのよ。門松とかしかないけどもね」
「あら、それでいいの?……あとおせち料理は分かるとして、年越しそば?なんでそんなものを食べるのよ」
ええっ!?それは困ったな…。私もそこまで理解して食べてたわけじゃないしなあ。
「理由までは知らないけども、年越しをする前に食べるもの、らしいのよ。今回はちょうど儀式した後に食べることになりそうだから作ってくれないかなーって思ってね。ただのそばだからあんたでも平気でしょう?」
「ええ、それは大丈夫よ。作れるわ。因みにその食べる時間ってあるの?」
私は苦笑いを浮かべた。
一時期間違えて食べてたからちゃんとあってるかどうか分からないしなぁ…。一応教えるか。
「ええ、あるらしいわよ。大体子の一から子の二…だったはずよ」
「……これまた曖昧ね。まあ、いいけども。それだけでいいの?」
「いいわ。その後はコタツでぬくぬくするって決めてるから」
「ぬ、ぬくぬくって…。…まあ、いいわ。いつもより厚着してるぐらいなんだから、寒くてあまり外に出たくないんでしょうし。むしろ雪かきをそれなりに頑張ってたから褒めてあげたいわ」
「それは遠慮するわ。……そういうあんたは巫女装束に軽い上着みたいなものでよく寒くないわよね」
マフラーもしてないしさ。ねえ、寒くないの?
「ええ、全然寒くないわよ。なにせそれなりに鍛えてあるからね。だからあなたよりかは食べるでしょう?」
「そういえばそうだったわね…。おかげさまでおせち料理の材料を多めに買うはめになったのよ?」
準備の合間合間に私の記憶にある限りのおせち料理を作るつもりで複数回にわけて里に降り、材料を買ったんだけどさ。
…二人前じゃなくて三人前の材料なんだよね、あれ。
「そ、それは悪かったわね。私もここまで鍛えたのは今みたいにスペルカード?とやらがなくって本当に命がけだったものだから…」
ああ、なるほど。そりゃあそうなるか。
「あー…悪かったわね、お母さん」
…………。
…ん?……おお?私、霊華のことお母さんって…。
やっちゃったよ!年末年始も近いし、その時にやる儀式だってまだなのにやっちゃったよ!
ああ、ほら。霊華もなんか顔を
…いや、よく見ると震えてるのは…。
「アッハハハ!まさかあなたが私のことをお母さんと呼ぶとは思わなかったわ!」
「わ、悪かったわね!今までそういう風に感じてたからつい出ちゃったのよ!そういうことにしてちょうだい!」
頬とかそういうところが熱くなるのを感じる。本当に恥ずかしい…。
あ、更に笑われた。ぐぬぬ…!
なにか適当に理由をつけてこの場から逃げよ。
「別になんでもいいわよ、もう。とにかく私はまだいろいろな準備があるから行くわね」
そう言って歩いていくと背後から「はいはい」と笑いながら答えるのが聞こえた。
笑いすぎてお腹が痛くなったりしないのかね。
睦月の二日。一昨日と昨日は毎年行う儀式のせいでほとんどが潰れた。
それ以外は師走の三十一日は年越しそばを知らない霊華の代わりにそれを作って、偶然魔理沙も来たものだから3人分作るはめになったり、睦月の一日も魔理沙以外にアリスが来たり。
でも、来たアリスは人形も使って知らないだろうおせち料理の四人前を作るのを手伝ってくれたから凄く助かった。
んで、今日は迎春と言う名の宴会もどきをしている。
ついでに驚いたことが2つほどあって、1つは来なかった参拝客が少しは来たと言うこと、もう1つはあの図書室から出てこないような半ば引きこもりのパチュリーが外に出てきたこと。
珍しいと言ったらレミリアから『貴方の方がよっぽど珍しいわ』と言われてしまった。解せぬ。
因みにメンバーは私、霊華に加えて紅魔館からは十六夜咲夜とレミリア・スカーレットとパチュリー・ノーレッジとなんと紅美鈴とフランドール・スカーレット。
少しレミリアとフランの仲が悪そうに見えるけど、お互いがお互いを追い払わない辺りいても大丈夫そうだな。
他には伊吹萃香、橙と八雲籃、八雲紫、霧雨魔理沙、アリス・マーガトロイドがいる。
計13人で…って何気に人妖が多いな。強力なのも混ざってるし…。おお、怖い怖い。
「はーい、皆。明けましておめでとう。新春を祝うために宴会を開催したわ。せっかくだから楽しんでいってちょうだいね」
その私の一言で一気に賑やかになった。
お酒も結構飲まれていく。それと一緒におつまみも同じような早さで減っていく。
…とんでもないなぁ。
「霊夢。…霊夢。よく私を放っておいてくれるわね?」
「そういうあんたこそレミリアを相手にすらしないじゃない」
「いいのよ、あんな奴。どうでもいいわ。それより貴方の方よ。新春とやらを宴会を開いて祝ってるから珍しく感じてね」
そんなに珍しいかなぁ…?
私にはよく分からないや。
「そりゃ祝うなら大人数の方がいいでしょう?…まさかおせち料理がうけるとは思わなかったけど」
「お、おせち料理?それってあいつや咲夜とか魔理沙が食べてるもの?」
…もうつっこむまい。
「ええ、そうね。それぞれ意味があるんだけど、この際いいとして…あんたは食べないの?おせち料理だけじゃなくって他にも料理はあるのよ?」
「ちゃんと無くなる前にもらうわよ。私だってなにもなしで来たわけじゃないんだから」
「……それってなにかしら?」
私の身の近くにあったお酒を小さな赤い盃に入れて飲んだ後にそう聞いた。
お前未成年だろって我ながら思うけど、幻想郷だからなあ。
「先代の巫女がいるって話よ。まあ、それは魔理沙から聞いたんだけども、それなりに話が広がりつつあるようね」
「あら、そうなの?正月に入って早々そんなことを聞くとは思わなかったわ」
「…その割には落ち着いた顔ね。気づいていたの?」
そりゃあもう。気づく気づかない以前にその先代巫女である霊華が平然と里を歩いたりしてるんだから話が広がらないわけがない。
んでもって基本的に神社にいることが多いからって少し参拝客が増えたぐらいだし。
霊華がいることで安心感でもあるのかな…?
「大体はね。色々と出歩けばそうなっても不思議じゃ―――」
ない、と言おうとして背後から抱きつかれた。
誰だろう、と思う前にフランが驚いたのを見て…この相手は、萃香かな。
「おー、霊夢。どこにいるんだと思ったら縁側よりのとこであの吸血鬼の妹と話してたのか」
「別に誰と話してようが私の勝手でしょう?それで萃香はなによ」
そう私が言っている間にフランが「あの、とはなによ。あのとは。あれでも私のお姉様なのよ」と言ってイラついたように睨んでる。
手が出そうで怖い。やめてね、フラン。
「おっと、それはそうだ。悪かったわね。…んで、私と飲まないのか?」
「飲み比べをなしにしてくれるならいいわよ。さすがに酒じゃ勝てないもの」
「それでいいなら飲むわ」
「フランも、どう?手加減を身に付かせるいいきっかけになると思うんだけども」
「あら、私でいいの?他にもいい人がいると思うのだけども。…それに下手すると貴方を食べちゃうわよ?」
「はいはい、そういうのは冗談でいいわ。あと幽閉されてたとか性格に問題があるとかなんて、私にとってはどうでもいいの。それにあんたもあんたのお姉様とやらの言葉なんて今は忘れてしまってもいいんじゃないかしら?」
「……ふふっ、これだから貴方は飽きないわ。なら今度、お遊びに付き合ってちょうだいね」
「…分かったわよ。でも、ほどほどにしてちょうだいね?」
などという会話を最後に萃香、フランとお酒を飲み始めた私。
そのまま飲み続け、私がほろ酔いになる頃に霊華が来て、酔ってくると魔理沙が来て…。
最終的に皆で和気あいあいとお酒を飲み、正月を祝った。
―――その新春を祝うための宴会の片付けは先に軽く咲夜が、残りを次の日に私と霊華がした。
凄く咲夜には感謝してる。ありがとう。