…憑依。
何故、そのことについて私が考えているか、なんて。
自問自答するのも不思議よね。
そもそもの発端はあの異変だと私は考えてる。
今思ってみると、外の世界の住民を巻き込むはめになるなんてね。
確かに“博麗大結界”でさえぎられているとはいえ、隣り合わせだけども…。未だに信じられないわ。
それよりも、一番の疑問点は…
「あの霊夢が、入れ替わっていることに気づいていながら、彼女に手を貸してくれている…ということなのよね」
私もさすがに前の代だし、知る
なのになんで知ってるかと言えば
「でも、不自然なことではないと思うわよ。先代の巫女…いえ、今は霊華と名乗っているんだったわね」
「…現代になって、余計に神出鬼没になったわね。んで、なにが不自然ではない、よ。私は独り言を呟いて以降、一言も発してないはずなんだけども?」
いつものように、半目で睨むように見つめる。
私がなにもしないことなんて、この八雲紫には言わなくても分かるでしょうし。
「あら、そうだったかしら。まあ、現代の幻想郷について調べたりしようとしている辺り、貴方も変わったわね。更正でもしたのかしら?」
ふふ、と笑うけど更正もなにもないわよ。
と、いうよりなにも悪さなんてしてないはずよ。なにを寝ぼけてるのかしら、この妖怪は。
「おっと、そうではなかったわね。あの霊夢…最近安定してきてるんだけども、本来は器に入れないと思うのよね。そも、お互いの魂が違いすぎるから。……私もまともなことぐらい、言うわよ?」
「どの口が言うんだか。…それで?紫。それってお互いの魂どころか器の話でしょう?体そのものも違うのだから。片やなんてへんてつのない外来人、片や幻想郷で博麗の巫女として生きる住人。境界をいじる貴方なら分からないはずはない。――そうでしょう?」
その言葉でクスクスと微笑むこの妖怪は分かっていた、ということね。
せんすで口周りを隠しているけど、長年の付き合いのおかげで分かる。むしろ、分からないとでも考えてるのかしら。
「ええ、そうね。では、1つ質問させていただくわね。……その外来人が霊夢に憑依した場合。元々の体とその霊夢自身の人格はどうなるでしょう?」
なにを突然聞くのかと思えば。
そういうことなら私でも分かるわ。
「そりゃあ、元々の体は精神が無いから動かなくなり、霊夢自身の人格も普通は消えるでしょうね」
当たり前、なはず。特にこの妖怪からすればことさら。
こんなことを聞いて、なにが言いたいのかしら。
「ええ。それが当たり前。常ですもの。…でも、そうとはならなかった。原因は私もまだ藍に協力させてまで調査しているのだけど、まったく分からないわ。なんのためか分からないけども、幻想郷にとっては助かる話…ということには変わらないわ」
「へぇ、貴方にも分からないことの1つや2つなんてあったもんなのね。それでもいいのかしら?元々単なる憑依で済む話だったものが、今みたいに入れ替わっている、ということになってしまっているのに」
ため息をつく紫。
…なにもおかしなことは言っていないはずだけども。
「そう、そこなのよ。確かに幻想郷に影響が出ない。それは以前ならとても喜ばしいことだったわ。私は幻想郷が1番ですもの。……こんな、入れ替わりさえ起きなければ、ね」
どういうことかしら。さっきから聞いていれば紫は1つも関与していないように話しているのよね。
…最低、どれかなにかしらに関与しているかと考えたのは間違いだったかしら。
「実を言うと外の世界では起きてしまっているのよ。知覚のブレ、とも現実の書き換え、とも言えるそんな異変がね」
「………?!な、なのにも関わらずなんの問題がないと言うのは不自然じゃないかしら?」
驚く私に対して笑うって言うのはどうかと思うのだけども。
――確かにたまに抜けてるわねって言われたけども!
「そう。不自然極まりないわ。でもね、そうあることで助かる場所や人達がいるのよ。解決するつもりなんて、ないけども原因だけは探っておきたくってね」
「――――………そう。それで、貴方はなんでこの神社に来たのよ。なんもなし…というわけではないのでしょ?」
「ええ、もちろんよ。貴方だって本来は異分子なのだから。…でも、貴方は自分の子供のようにあの霊夢を扱ってくれている。だから今後もやってほしいのよね。実はあの子が寝ている隙にどうにかして最近までの記憶を見たけども、元外来人だった頃の名残がだいぶあるようだから、ね。本当、全てを受け入れる幻想郷でさえなければ想像以上に辛いことになっていたかもしれないでしょうけど、どうかは私にはさっぱりね。ま、それ以前に先代の巫女という存在もなかったら…ね」
なるほど。
つまりあの子が幻想郷に馴染んでからその先も…というわけね。
いえ、分からないわけじゃないわ。あの様子からして、子供というわけでもなく、大人というわけでもない。
つまり、本来の霊夢よりそんなに年上じゃない子だものね。…恐らくは、でしょうけど。
「なるほどね。…それで?あなたはそれだけで来たわけじゃないでしょう?」
「ふふ、どうでしょうね」
「霊華ー、悪いわね。時間かかっt……ってなんで紫がいるのよ」
「霊夢、そんなに時間はかかってないだろ……ってホントだ。
「むしろ紫がどんな場所にいても不可思議ではないわ。私の周りに上海達がいるのと一緒よ」
「そ、それはそれで違うんじゃないかしら?!」
「アリス、それはさすがに違うと思うんだぜ!」
まさか買い出しに行かせるだけで2人も人を連れてくるとは思わなかったわ。正確には1人、そうでないようだけど。…確か魔法使いだったわね。
「やれやれ、霊夢は人気者ね。嫉妬してしまうわ」
(センスで口元を隠してるけどさ、本当に嫉妬してるのかさっぱり読めないんだよね。…スキマ妖怪だけは特に)
「むしろ無差別に妖怪退治しないもんだから、弱い妖怪にも好かれてるもんなー。まぁ、弱い強いに限らず悪さをするような妖怪は嫌いみたいだが」
「でも霊夢はしっかり本業もやってるわ。魔理沙が気にするようなことでもないわよ」
単純な巫女のように見えなくもないけどもね。
やっぱり、博麗の巫女としては新米なわけだし。だいぶマシになったとはいえ、ね。
「そういう紫は博麗神社によくいるわね。早苗もよく見るし。…私がなかなか入る隙間がなくって大変だわ?」
「アリス…といったわね?あなたも十分来てるじゃない。霊夢に何回人形劇を見せたと思ってるのよ」
そう言ったら少しイタズラに笑った。
なるほど。このアリスとかと呼ばれる彼女は魔理沙みたいに接しているのね。元外来人とかそんなの関係なく。
…安定しているのも、そのおかげかしら。
「んで、紫はなんでいるのよ。もちろんいちゃ悪いってわけじゃないんだけども、かなり気になってね」
そう聞かれた紫が私に視線…いや、顔を向けてきた。
私になにかを聞こうとしても困るわ。まさか、結構突っ込んだ話をしていたとか霊夢に教えられないもの。
今のあなたにはまだ早いから。
「―――それは霊夢達。いえ、霊夢の成長を見に来たのよ」
「あ、あんたは私の母親じゃないでしょー!?」
その言葉を皮切りに、霊夢達が紫にツッコミ、紫が多少大げさにふざける。
…紫。幻想郷が1番と言っていたあなたが今やこんな風になったのは何故かなんて、まだ私にはこれっぽっちも分からないわ。
もしかして、なにか企んでるかも知れないし、何も知らないあの子でなにかしようとしてるのかもしれない。
でも。それでも。
―――私がかつて無かった、喧騒に包まれるのも悪くはないかもしれないわね。きっと、この幻想郷なら時間をかけてでも解決策を見つけれるでしょうから。
でも。あのスキマ妖怪には言わないと。
「…紫、あのこと…言わないように、ね?」
「言わないわよ。と、いうか変なときに殺気出すのやめなさいってば。過保護な母親と勘違いされるのもそれが原因だってこと、いい加減気づきなさいよ。私ですら頭をかかえてるんだから」
「紫こそ冗談きついわね。私とした者がそこまでなるわけないじゃないの」
「…なってるから言うのよ。そうだわ。霊夢、魔理沙、アリス。少しせんだ…いえ、霊華を借りていくわね。少し気になる場所があるから」
(か、借りるって…。まあ、いいんだねどさ)
「私は構わないぜ。神社のことは任せとけ!」
「いや、1人でやるんじゃないんだから…。あぁ、大丈夫よ。万が一は魔理沙とアリスがいるし。…そもそもないと思うけど」
「ない、というかほぼないじゃない。弾幕ごっこを挑むのなんてそこの魔理沙ぐらいでしょうし」
それもそうね、と楽しそうに笑う霊夢。
だいぶ仲良くなったのね。元々外来人だったとは思えないほどに。
…まあ、気にするべき場所はそこではないのだけども。たぶん、紫は私になにか見せたいのでしょうね。
「はいはい。んじゃ、自慢のスキマで連れてってちょうだいな」
「ま、最初から分かっていたのだけども。大丈夫よ。貴方から一言があればいつでも行けるから」
伊達に幻想郷の賢者のうちの1人ってわけじゃないのね。
付き合いはじめからその片鱗は見えていたけどもね。
「んじゃ、今行きましょ」
そういうとスキマを即座に開く紫。
あぁ、獣道から来た霊夢達の方から見える場所ね、そこは…。
(相変わらず紫とやらのスキマはすんごい見た目してるな。中が目玉だらけとか普通に入りにくいわ)
(…じ、じっくり見るとえげつないなぁ。私だったら中に入るのもためらいそう。と、いうかためらうレベルだね)
アリスは…まあ、そうよね。
とりあえず入りますか。
スキマの向こうは紅魔館の門の前だった。
門番は…
「急に……ってあれ?この前の霊華じゃないですか。それに紫も。なにか用事でも?」
「ええ。貴方のとこのレミリアの妹…フランドール・スカーレットにね。いればレミリアにも会いたいわ」
「あー…お嬢様ならすぐに会えると思うわよ?館の中をうろうろすることの多い妹様よりは同じ場所にいることが多いみたいなので」
「なら紫。別に吸血鬼姉でもいいんじゃないかしら?…ええと、美鈴、だったわね?いいかしら」
そう聞くと頷いて門を開く美鈴。
紫がため息をついた気もするけど、武力もなにも使ってないのだから、別にため息なんてつかなくてもいいのに。
それに、私はまだ彼女達になにもしでかしてない。そもそも呆れられるような謂れもないけど。
「そうね、お嬢様達もあんたらのような人妖なら普通に話を聞いてくれそうだしね。咲夜も案内してくれるでしょ」
「ま、今回はその方が話も早いし、付き合わせてもらうわ。んじゃ、霊華。貴方の言う通り、そのまま入るわよ」
そうでなくとも普通に中へ入りそうだけども、ね。
この妖怪の場合、話がこじれたりするから、私からはなにも言わないけども。
と、いうより咲夜って子もすんなりレミリアとやらの前に案内してきた。
あげくのはて、連れてこられた先にその妹もいるとのこと。
ここに来る前の紫の説明通りなら、多少気が触れていて、一部例外を除いた人間などとは接触できないはずなんだけども。おかしいわね。
「ようこそ、いらっしゃい。前に“あの”霊夢が紹介した貴方が妖怪を伴って来るのは見え……こほん。想定はしていたわ。紫とはあの時以来ね」
「ええ、そうね。それで、そこの貴方は地下にこもってなくて平気なのね?」
確かに。レミリア同様、そこにいるフランドールは椅子に座ってこちらを見ているだけだし。
やけに大人しいのよね。いくら異変で霊夢達となにかしらあったとしても、狂気を薄めるきっかけにはならないでしょうし。
「これまた酷い妖怪ね。お姉様は妖怪を見る目がないのかしら。あっ、運命しか見えないんだったわね」
「…今はふざけないの、フラン。あとでやってあげるから」
「吸血鬼の姉妹ならでは、なのね。…それで、私が聞いた話じゃ、その妹さんは少し気がふれてるって聞いたけども?」
「そうよ。“以前の”霊夢や魔理沙がきて多少は人間への興味がわいてたんでしょうけど、実際はその2人へ対するものだったはず。なのに急にそんな“今の”霊夢とレミリアのように会話ができるようになるなんておかしいわ」
そこまで言われるとレミリアという方が、まるでどこから説明すればいいのか悩んでいるような、そんな表情になった。
まあ、当たり前なのかもしれないけども。
「それを本人の前で話されても困っちゃうわ。それにそこまで気が触れているとでも?もし、そんなにだったらスペルカードルールで遊ぶなんてことしないでしょ?」
「それもそうね…」
でも、なんかそれ以外にもなにかがないとおかしいわよね。
…なにかしら…。
「そうね。理解する頭もあることは承知の上よ。―――なら聞くわ。何故レミリアと違ってあの数回の遭遇で人間に対する手加減を覚えようなんか思ったの?特にあの霊夢と仲良くなろうだなんて。いくら貴方でも様子からして到底ありえない話と感じるわよ」
ああ…。私のついさっき感じた違和感というのはそれだったのね。
吸血鬼に関しては以前の幻想郷にすらいなかったし、退治する方法すら知らないのだから、これっぽっちも思いつかなかったわね。
「まあ、そこなのよね。フランには悪いのだけども、手加減を覚えたいなんて言ってきた時はとても驚いたものよ?なにせ手加減すらできないせいで、友人ができても今後を心配してしまうような貴方がどうしても、と言ってきたのだから」
「そのせいでほぼ軟禁状態だったようだけどもね。普通、いくら貴方達が姉妹でも関係を戻すには時間がいる。そうでしょう?レミリア、フラン」
さっきまでふざけていたスキマ妖怪とは思えないわね。…あえて口にはしないけども。
でも、なるほどね。確かに今まで…厳密には
なにせ妖怪の類いに双子ができない、なんて決まってないもの。
「……私でも分からないの。だからと言って理解できないわけでもないのよ。だから、ひとまずの回答をするわ。いい加減、お姉様にも言っておきたかったしね。―――それは、私自身が外にだけでなく、人にも興味がわいたからよ。今はそうとしか言えない」
そ、そうだったの…。でも、それだと情緒不安定と来る前に紫から聞いていた精神状況と食い違いが出てくるわね。
「そうとは言え、レミリアと同じかそれ以上に冷静だなんて…。前に来たときとは大違いね」
「私的には喜ばしいのだけどもね。友人が出来ても誤って壊してしまうことがないでしょうから。…それに、紅魔館の外へ出ていかないようにしなくてもよくなるし」
「そうなのよね。お姉様ったらそこを伏せて監禁してきたのよ?酷いと思わない?」
「そ、それは悪かったと言ったじゃない!もう、フランったら最近冗談言い過ぎよ!」
そう言われたフランに関しては楽しそうに笑った。
…姉妹にしか分からないことなんだろうけど、さっきまでの威厳ある姿はどうした?
「…来客が来ていても、そんな風にできるなんて。信頼されてるのかしら」
「紫も話をねじらそうとしないでちょうだい。笑ってても冗談かどうか分かりにくいんだから」
なんて言ったら、『酷いわー』と軽いノリで言ってきた。
だから分からないのよ、あなた。
まあ、どうやら。あの異変は思ったよりも違う変化もこの幻想郷にもたらしていたのかも、しれないわね。