一ノ瀬はじめの憂鬱   作:黒兎可

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群衆愚詠

 

 

 

 

 

 ボク自身の言葉が誰にどう影響するか、ということについて、考えないことはない。もともと伝わること自体が少ないといえば少ないのだけれど、それでも、そういった思考をやめることはできない。何か言わなきゃいけないときには、確かに考えがまとまっていなくても発言しなくちゃいけないけど。それでも自分が発した言葉については、できる限り責任を持とうと思ってる。

 努力目標であれなんであれ、だからこそ決定的な一言は、責任が重いのだ。

 軽はずみに言わないからこそ、その真実味や真剣さが相手に伝わってくるんじゃないかと思う。

 

 だから、先輩が丈さんと正面からケンカをしたと知ったときには、正直に言えば責任を感じた。直接先輩の日記を読んでいたからこそ、丈さんのくすぶりに誰よりも思うところがあったことがわかる。わかるから、GALAX内の先輩がやってるカフェで「タピオカありますか?」とか、それとなく「見ているぞ!」というのを伝えたつもりだったのだけど、どうやらそっちは失敗していたらしい。 

 

 夜の公園で。さかさまで自分とうつつちゃんを見上げてくる先輩。手をとって生命力を分け与えてるうつつちゃん。ボクはいつかのように、先輩の頬をなぜていた。

 

「気がついたッスか?」

「…………あー?」

「先輩、丈さんのタバコ奪って、こう、ぐわわーって、ぶん投げたんスよ。さすがに怒ったみたいッスねー」

「…………そりゃ、そっか」

「はい」

「でも、うん。そういう丈さんが、また見たかったんだ」

「――――先輩、なんかすっきりした顔してますよ」

 

 ああもう――だから人間っていうのは「かわいい」のだ。

 泣いているうつつちゃんには謝らないといけないだろうけど、それでも、自分の本性に従おうと。自分の考えあるべき形であろうと努力している先輩。

 

 だからこそ、それが、くすぶっている丈さんと向き合った結果、ケンカになってしまったとしても……。ボクはそれを、美しいと、受け入れなければならない。

 

「丈さんは、強いんだ」

 

 夕食のチェリーパイをみんなで食べながら、丈さんとの話を笑い話みたいにして語る。思い出にはじまり、意外とパンチが入らなかったと悔しそうに、それでも楽しそうに笑う先輩。強がっていろいろ言ってるのに、泣きながらだけどうつつちゃんも笑った。

 

「まったく。だから地球人は未熟なんだっ」

「まぁ、男の子だもの~。仕方ないわよね。

 それに、丈ちゃんはぜんぶわかってると思うわよ」

 

 丈さんだって、今のままでいいと思っているはずはない。それでも恐怖に立ち向かおうとして。それでも太刀打ちできずにくすぶってしまっている。

 

 それをよいことだ、悪いことだと断じる立場にボクはない。だから、ボクは先輩をなでてあげるくらい。

 

「だけど……。なんで、笑えるんだろう。こんな時だっていうのに。こんなことしてる場合じゃないのに」

「それが、人間ってものじゃないの?」

 

 微笑みながら、Dさんはボクたちを見る。

 

「暗いばかりじゃ、萎れちゃうじゃない。前を向こうってときは、誰だって笑うものよ。じゃなきゃやってらんないでしょ?」

 

 みんなと笑いながら、ようやっと、Dさんも、パイさんも、カッツェさんとの因縁を語ってくれた。

 

「わたしは、親友を殺された。O.Dは親が、二人とも……」

「いいえ。あれは、半分は私の力のせいでもあるわ。結局、そうしたところで、アイツを追い詰めきれなかったもの――――」

 

 どれほど体を滅ぼしても、結局今現在、何不自由なくふるまっている姿に違いはない。たぶんNOTEの力によるものなんだろうとは思うけれど、それでも、カッツェさんは言う。無駄死にだったと。ぜんぶ、お前らのせいだと。

 

「でも、くよくよしてたら、私たちが前を向かなきゃ、それこそみんな犬死だったみたいじゃない?

 私は、家族を愛していた。愛してくれたってことは、きっと、何があってもかわらない――――だから私は笑うの。いつ誰とお別れしちゃっても、その時に泣き顔とかが浮かばないように、笑えるうちに笑っておきたいの。そんな時を、愛おしいって思うからこそ」

 

 なんとなくだけれど、Dさんもまたカッツェさんと正面から戦って、一度、心を折られたんじゃないかなーと。ふと、ボクはそんなことを思った。

 

 

 

 まぁ、そういいつつも、ボクはボクで別種の問題を抱えてはいるのだけれど。

 

 その日の夕方。ついに、GALAXにてカッツェさんと遭遇した。

 GALAXにおいても、ボクはカッツェさんの姿を見ることができなかった。

 

 見えなかった、というわけじゃないと思う。アバターがそこにあるというのはなんとなくわかったし、それはなにもフキダシが出てくるからということではない。だからこそ、「見ることができなかった」という表現がきっと、しっくりくる。なんで見えないのか、そこだけがまだつかめていない。

 

「あの、ネオハンドレッド動かしてるの、カッツェさんスか?」

「え、え、なんもしらないスけど」

「あ、そうなんスか。申し訳ないッス」

 

 白だとか、黒だとか。もし――――もしカッツェさんが、ボクの考えている通りの振舞をしているのなら。カッツェさんも、良いとか、悪いとか、断じる立場にはないはず。

 CROWDSについての対策は累くんと相談して考えたので、そこ自体は問題じゃない。

 

 カッツェさんはボクらの動きを観察している。累くんの立場をのっとったのでそのこと自体は難しくもないだろう。ただ、そういうことじゃない。

 

 犯行予告とも受け取れる、J.J.の予言じみた言葉を残したカッツェさん。その答えはもう見ているから、みんなにそれとなく話もするのだけれど。

 

 

 

「ボクは……、ボクらはカッツェさんを、『愛せる』んスかねぇ」 

 

 

 

 なんとなしに、ボクは、その疑問の答えが出ない。

 

 

 

 

 

   ※

 

 

 

 

 

「~♪ おっかおー♪、おっかおー♪、けどキシ――――、あれ、カッツェさんスか?」

 

 朝食明け、歯磨きをしているとカッツェさんがGALAX、先輩のBAR前に出現。

 

 立川から地球滅亡がはじまると予告するカッツェさんは、相変わらず楽しそうだ。呼びかけても呼びかけても、やはりその場所と実態はつかめない。

 ついにはマンションまで攻撃される始末で、パイパイ大慌て。

 

 急いで1Fまで着替えて降りると、もうみんな勢ぞろいって感じッス。累くんも久々に女の子な感じで、でも化粧がちょっと薄い。ひょっとして、あれ気にしてたッスか?

 

「あっちゃー。来ちゃったッスねぇ」

「……狙いは菅山首相だ。カッツェが居場所をばらしたんだ」

「そういうことッスか」

 

 立川襲撃くらいは予想してたけど、なるほど。だから「約束の地に舞い降りる」ってことッスか。

 ってことは約束の主であるところの、あの、梅田さんだっけ? も来てるのだろうか。近頃のニュースを見る限り、とても制御できてるとは思えないけれど。

 

「みなさん、準備いいッスか?」

 

 頷く声も、うめく声も、ためらがな声も。それでも、みんな前に一歩踏み出し、駆ける。

 

「せんぱーい!」

「なんだ!」

「美しく斬ってくださいッス!」

「は、はぁ!? お前、またこんなときに……」

「これは、戦争じゃないんス! だから、コラージュっす!」

 

 意味がわからないという顔をしながらも、でも、それでも何かしら斟酌できたような先輩。

 ボクは知っている。気が付けば剣の鍛錬を欠かさない努力家な姿も。まっすぐすぎて視野狭窄に陥りがちなところも。女の子に慣れていない、ちょっと野暮ったいところも。不安を抱えながらも、それでも自分の信じるところを通そうとする頑固なところも――――。

 

「――――ああ。みんな、目を覚まさせよう!」

「そうッス、そうッス! いくッスよー!」

 

 いちはやくバードGo! する先輩は、やっぱりカッコイイ感じだった。

 

 国道付近で襲われてる総理と、ちゃっかりその場に居合わせる丈さん。まぁそっちはおいておくとして、CROWDSの扱いに困っている様子。第一段階としてアムネジアリマインドし、姿を見えるようにしてあげる必要があるようだ。

 

「あれはみんなの心ッス!」

「心?」

 

 だからこそ生け捕りまでしかできないし、ボクらはするべきではない。幸か不幸か安全装置のように、一定の衝撃を与えると活動休止状態になるらしいCROWDSちゃんたち。……どうでもいいけど、戦闘中のうつつちゃんの叫び声、すんごいことになってたッス。あやうくあのうつつちゃんが、戦おうって立ち上がったという事実そのものが消し飛ぶくらいインパクトあった。

 

 ただ、ボクらがどれほど手を尽くしても、限界はある。ボクらだってヒーローかもしれないけれど、神様じゃない。手が届かないところはどうしても出る。

 って、あ、ちょっとモノレールやめるッスよ! ボク、バイトいけなくなるじゃないッスか!

 

 みんなが、みんなが連携してる。結果的に総理が折れて、立川住民の避難という形に落ち着いた。

 どうしても戦うのはボクらだけれど。それでも、それでいいのだ。

 

 これは戦争じゃない。

 

 とか、考えてるそばから先輩の刀がCROWDSちゃんの頭貫通しかかる。

 

『って、先輩やりすぎッス! 刃物直接は禁止ッス!』

『えぇ!?』

『言ったじゃないッスか。これは戦争じゃないんス!』

 

 ハサミはいいのか、と言わんばかりの反応だけど、ボクのシザーは先輩のハヤテ(刀)ほど深くは刺さっていないということで一つ。

 うつつちゃんに回復をフォローしてもらってから、僕らは再び走る。

 

 脛のミディ・シゾー合体!

 

『ブラン・エ・ノワール!』

 

 中型のハサミで殴る。殴る。ちょっきんは危険なのでとにかく殴る。

 殴っても殴ってもきりがないけど殴る。

 

 と、誰かセクハラ目的なのがきたッスねぇ。アーマー越しとはいえ直接わきわき揉みしだきに来てるッス。

 

『グラン・シゾー! か~、ら~、の、ウイング・ドゥ・ラヴニール!』

 

 別名、ガッチャタイフーン(ボク命名)。ボクを中心にハサミを形成し、前後左右についてはその場で大回転。これ以上は襲えまいという感じだ。

 と、お? あれに見えるはパイパイじゃないッスか! 声、めっちゃ凛々しいし、とうとう覚悟決めたって感じッスかね! 菅やん(菅山首相)を避難させた後、何か契機があったんだろうか。見逃したのが惜しいと思うくらいには、その巨大なシルエットは勇ましく吠えていた。

 

 うつつちゃんがその背部に回る。右手の方の翼を展開して使っているのを見るに、やっぱり生命エネルギーをつかさどる能力ってことッスかねぇ。

 

『バーニング・ハンマァアアアア!』

『丈さん!』

 

 ああもう、先輩ったらうれしそうな声出しちゃって。NOTE越しにも、丈さんの感謝の念が伝わってくるのはわかってる。

 ようやっと。ようやっと一つの形に集まったような。そんな感じがボクにはした。

 

 

『さあ、みんなで、立川、守っちゃうッスよー!』

 

 

 問。カッツェさんがとてつもなく酷いことをはじめたらどうするか。

 問。ガッチャマンはみんなで一緒に戦ったことがあるか。

 問。ボクらは人に隠れて戦わなければならないのか。

 

 

 

『『『『『――――――ガッチャ!』』』』』

 

 

 

 

 答えは、今、ここにある。

 

 

 

 

 




「――――アタシもそろそろ、覚悟を決めないとね」
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